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5年後、10年後に「生き残る会社/消えている会社」を実名公開!




「週刊現代」2016年5月21日号より

5年後、10年後に「生き残る会社/消えている会社」を実名公開!

キーエンス、デンソー、味の素などが高評価。村田製作所、セコム、リクルートHDも期待大。一方で、石油、鉄鋼や生損保、スーパーなどは警戒ランプが点灯。多くの業界で、勢力図が一変する—。 トヨタがグーグルの軍門に下る日 昨日まで好調だった会社が、明日も好調とは限らない。激動の時代を生き抜く会社はどこか。経営に精通する識者たちの採点をもとに、347社の「通信簿」を公開する。(表は5ページ目から) まず多くの識者が指摘したのは、自動車、電機などのモノづくりで巻き起こる歴史的な地殻変動。それは「インダストリー4・0(第四次産業革命)」と呼ばれるもので、ポイントを一言で言えば、少品種・大量生産時代がいよいよ終焉する。 これからは、消費者が自動車や家電を買う際には、商品カタログから選ぶのではなく、ネット上で好みのデザインやパーツなどを選ぶ。すると、そのデータが即座に生産工場に送られ、「あなた仕様」のオリジナルな一品を買うことができる。しかも、これまでと同じような価格で—というのが当たり前になる。 そんな多品種・少量生産時代にはモノづくりの生産現場も様変わりし、消費者のスマホ端末から、完成品メーカー、部品メーカーの生産ラインはネットワークでつながる。工場では、送られてくるデータを超高性能なAI(人工知能)を組み込んだロボットが即時分析し、消費者ごとのオーダーメイド製品を次々と作り上げていく。 「おのずと製造業では壮大な合従連衡が巻き起こることになる。それもGMとフォードが組むというような旧来型の合併ではなく、GMとマイクロソフトやIBMが一緒になるような業界の垣根を越えた再編劇です。すでにドイツではボッシュやシーメンスが手を組むような動きがある一方で、日本勢は『虎の子』の技術をオープンにすることに消極的で出遅れている。トヨタや日産、ホンダでさえソフトバンクグループと組むなどしないと、手遅れになりかねない」(セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏) こうした動きと並行するように、今後は自動運転車やロボット家電が一気に普及。あらゆるモノがインターネットにつながる時代も本格化する。 「製造業に怒濤のようにITが入り込んでくるなかで、業界の主導権を握るのはITシステムの『頭脳』を開発した会社。トヨタもAIの研究開発の新会社を作るなど必死に動いています。しかし、すでに圧倒的に先行しているのはグーグルなどアメリカのIT企業。彼らに主導権を取られれば、日本勢は『下請け』としてただモノを作るだけの企業になる可能性もある」(京都大学産官学連携本部客員准教授の瀧本哲史氏) トヨタがグーグルやアマゾンの軍門に下るというのは衝撃的な未来図ではあるが、今後は多くの業界でこうした劇的な再編が起こり得る。 「家電業界は中国や韓国などの新興企業がすっかり席巻し、今後も日本勢のパイを喰っていくでしょう。東芝、富士通などかつては『日本代表』だった会社でさえ、○がひとつもつかないことが象徴的です」(流通科学研究所所長の石井淳蔵氏)
総合商社は今後も厳しい そんな家電メーカーとは打って変わって、これまで「裏方」だった電子部品メーカーは一気に存在感を強めていく。様々なモノがインターネットにつながる時代になると、自動車や家電にセンサ、スイッチ、モーターといった電子部品が大量搭載されるが、電子部品業界はすでに日本の「お家芸」と化している。 「顧客からのどんな無理難題にも応えて、スピーディーにまったく新しい部品を開発する技術力は世界に類を見ない。仮にグーグルが新しい自動運転車を作ろうとしても、日本電産、村田製作所、アルプス電気などの技術力を借りないと作れないほどと言える。パナソニックやソニーにしても、燃料電池や画像センサ事業などを強化し、部品メーカーに転換して生き残りを図ろうとしている」(ベンチャーキャピタリストの古我知史氏) インダストリー4・0の時代には、日本勢が高い技術力を持つ工作機器やロボットも大注目。 世界の工場で自動化やIT化が導入されていくなかで、海外企業からの膨大な受注が期待できるからだ。 「中国のメーカーがキャッチアップしようと必死に追いかけてきているが、ファナック、安川電機の製品は中国勢がいくら真似ようとしても真似できないほど、技術力が差別化できている。自動車や船舶、エレベーターといった製品にも対応しているナブテスコも、多品種への適応力が抜群」(ファイブスター投信投資顧問取締役運用部長の大木昌光氏) 昨日の常識が明日の非常識になるほどにビジネス環境が秒単位で激変する時代には、過去の成功体験に安穏としていればどんな大企業でも生き残れない。勝ち残りのポイントは、確固たる技術力と変化への対応力—。 「これからの日本企業にはぶれない強みと基軸を持ちながらも、時代の変化に対応する身軽さが求められます。そうした二律背反的要素の共存を実現できる経営者しか、会社を成長させられない。 いま三菱商事や三井物産など総合商社が苦しみ出したのも、彼らは身軽さはあるけれど、確固たるビジネスの軸がないのが原因です。今後も厳しい状況は続くでしょう。変化の激しい時代にあって、成長しない多くの企業はどんどん追い抜かれ、落ちこぼれていく。勝ち残れる会社はごく一部。われわれはそんな厳しい時代に突入したのです」(一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授の名和高司氏) 続けて金融業界に目を向けると、製造業と同じく、新しいテクノロジーに業界が致命的な影響を受ける。 まず、これから急激に進むのが「現金離れ」。すでに電車やスーパーでは電子マネーが当たり前になっているが、今後は飲食店やデパートなど、あらゆる場でスマホをレジにかざすだけで即時決済ができるようになり、現金を持ち歩く人は激減する。 「10年後は完全に電子ポイントで買い物をする時代になっている可能性すらある。カルチュア・コンビニエンス・クラブの『Tポイント』や、クレディセゾンの『永久不滅ポイント』が新しい通貨のようになる。銀行に預金をしておく意味はほとんどなくなるので、既存のメガバンクには大打撃。小売系のセブン銀行、イオン銀行やネット系のソニー銀行が電子マネーを取り込んで、新時代の需要を取っていく」(マイクロソフト日本法人元社長の成毛眞氏) 味の素など食品業界が大躍進 最先端のIT技術を使った金融の新興企業も続々と登場している。たとえば、融資を受けたい企業がネット上で申し込むとコンピュータが会社の信用力を自動で審査し、瞬時に融資を実行するオンライン融資。さらに、個々人の資産状況に合わせてAIが最適な資産運用をしてくれるロボットアドバイザーなど、銀行や証券会社が担ってきた仕事を、こうした新興企業が次々と侵食しているのだ。 「これらは『金融革命』と言うべきインパクトで、今後も新規参入企業が続々と既得権益を喰っていく。メガバンクは国内でシェアを奪われてグローバル化に活路を見出すしかなくなり、みずほFG、三井住友FG、三菱UFJ・FGの3メガが合併に追い込まれる可能性すらある。証券業界も野村HDや大和証券グループ本社など大手ですら安泰ではない。金融業界はまず地銀の統合を皮切りに、企業数が3分の1に激減してもおかしくはない」(前出・中野氏) 生損保にしても、生き残れる保証はない。 「今後はDNAの解析技術が飛躍的に進み、個々人の寿命や様々な病気のリスクが解明されていく。人間の『死ぬ確率』がある程度わかってしまう時代になれば、保険商品が必要なくなる可能性がある。損保にしても、自動運転時代になれば、事故のリスクは急減する。となれば、複雑な保険商品はいらなくなるかもしれない」(カルビー元社長の中田康雄氏) ここで海外に目を向けると、グローバルなビジネス環境も様変わりする。 特にはっきりしているのは、世界では歴史的な人口爆発が起きるなかで、「食糧不足が起きる可能性がある。おのずと、食品分野で技術力のある会社は存在感が高まる。アミノ酸やたんぱく質の技術開発力が高い味の素がその筆頭格」(前出・古我氏)。 前出・大木氏も言う。 「今後はインドやアフリカなどの新興国が成長していき、メイド・イン・ジャパンの安心感が評価される。日清食品HDのカップラーメン、キッコーマンのしょう油などがインドやアフリカの市場を席巻する可能性がある」 一方で、先進各国では少子高齢化が急激に進展。医療や健康の分野が成長市場になっていく。 「すでに動き出している企業が、ここから10年で果実を得ることになる。たとえば富士フィルムHDやオリンパスは自社技術をヘルスケアや医療機器へ応用して、競争力の高い製品化に成功している。明治HDは乳酸菌などを活用した健康事業へのシフトを加速中。サントリーHDも良質な水資源を確保し、今後高まる良質な水への需要に応える準備が整っている」(前出・中田氏) 日本国内ではデフレの長期化や人口減少で市場が縮み続け、企業の優勝劣敗が鮮明化する。 「特に小売業界は大きく動くでしょう。まず国内の所得格差が広がるなか、銀座、日本橋という最高のロケーションを押さえている三越伊勢丹HDが富裕層の需要を総取りする。庶民の買い物については、イオンやイトーヨーカ堂など大型スーパーはお年寄りが行くには遠いなどの問題があり、全国津々浦々に店舗を張り巡らせるコンビニにやられて総崩れになる。コンビニは鈴木敏文氏の退任劇があったが、セブン-イレブン・ジャパンの底力が圧倒的で、勝ち残り続ける」(前出・成毛氏) NEXT ▶︎ キーワードは「現金離れ」
ヤマトHDデンソーの共通項は 今回、識者につけてもらった◎、○をそれぞれ2点、1点として各企業を点数化した。 結果、1位に輝いたのは東レ。繊維という斜陽産業から業態転換に成功した「変化力」が評価された。 「東レが開発した炭素繊維はこれからは航空機から自動車のボディにまで採用されて需要増が期待できる」(前出・中田氏) 「出世すべき人が出世していて、人事システムもきちんと機能しているため、中長期的な安定感もある」(前出・瀧本氏) 2位はキーエンス。自動化工場での最新鋭センサなどを作る「知る人ぞ知る会社」である。 「キーエンスは世界的に見て同じモデルがないオリジナルな会社。様々な企業から『ここを改善したい』というポイントを集めて、それに対する解決策を提供する力が圧倒的」(前出・大木氏) 3位以下は業界・業種に関係なく、リクルートHD、デンソー、ヤマトHDなどが続いたが、共通項は「社会性」。 「リクルートHDは女性の転職、地域おこしなどの社会問題を収益の取れるビジネスにする能力が抜群。デンソーも『移動』というテーマで社会に対してなにができるかを考え、ドローンなどの新しいモビリティ事業を手がけるなど、進取の取り組みに長けている」(前出・名和氏) 「ヤマトHDは高知県のある町で人口減少により需要が減っていたところ、現場の創意工夫で見守りサービスなどを始めて地元に歓迎されている。効率ばかりを求める経営者が増えるなか、地域や社会を考えた経営をする会社が今後は伸びる可能性が高い」(前出・石井氏) 評価された会社、されなかった会社それぞれに明確な理由がある。各企業の採点と評価については表に記載しているので、じっくりご覧いただきたい。様々な会社の「これから」を眺めることで、ニッポンの未来の姿も浮かび上がってくるはずだ。 いしい・じゅんぞう/'47年生まれ。流通科学研究所所長。神戸大学大学院博士課程修了。同大学教授、学長などを経て現職。著書に『マーケティングの神話』(岩波現代文庫)等 おおき・まさみつ/'65年生まれ。ファイブスター投信投資顧問取締役運用部長。早稲田大学法学部卒。日本興業銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ドイツ証券などを経て現職 こが・さとし/'59年生まれ。ベンチャーキャピタリスト、チームクールジャパン代表。早稲田大学政治経済学部卒。モンサント、シティバンク、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て現職 たきもと・てつふみ/年齢非公表。京都大学客員准教授。東京大学法学部卒。同大学院助手、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て現職。著書に『君に友だちはいらない』(講談社) なわ・たかし/'57年生まれ。一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授。東京大学法学部卒、ハーバード大学MBA取得。三菱商事、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て現職 なかた・やすお/'43年生まれ。元カルビー社長。慶應義塾大学大学院修士号取得。宇部興産、三菱レイヨンなどを経てカルビー入社。同社で創業家以外初の代表取締役社長に就任 なかの・はるひろ/'63年生まれ。セゾン投信代表取締役社長。明治大学商学部卒。西武クレジット(現クレディセゾン)を経て現職。著書に『預金バカ』(講談社+α新書)等 なるけ・まこと/'55年生まれ。インスパイア取締役ファウンダー。中央大学卒。日本マイクロソフト代表取締役社長などを経て現職。著書に『本棚にもルールがある』(ダイヤモンド社)等 NEXT ▶︎ 結果、一位に輝いたのは…
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「週刊現代」2016年5月21日号より