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《詩經-朱熹集傳》 読み下し・訳
[西周 (公元前1046年 - 公元前771年)]





詩經-朱熹集傳
國風周南召南邶風 衛風王風鄭風 齊風魏風唐風秦風陳風檜風 曹風豳風
小雅鹿鳴之什白華之什彤弓之什祈父之什小旻之什北山之什桑扈之什都人士之什
大雅文王之什生民之什蕩之什
頌發周頌魯頌商頌) 、、 毛詩品物図攷( 1・2 艸部), (3・4 木鳥部), (5至7 獣虫魚部)
詩經のすべて 《詩經》 國風,小雅,大雅,頌    (その構成は 1.各地の民謡「風(ふう)」 2.貴族や朝廷の公事・宴席などで奏した音楽の歌詞「雅(が)」 3.朝廷の祭祀に用いた廟歌の歌詞「頌(ょう)」の3つに大別される)

詩經卷之六  朱熹集註


大雅三。說見小雅。
【読み】
大雅[たいが]三。說は小雅に見えたり。


文王之什三之一
【読み】
文王[ぶんおう]の什三の一


文王在上、於<音烏。下同>昭于天<叶鐵因反>。周雖舊邦、其命維新。有周不顯、帝命不時<叶上紙反>。文王陟降、在帝左右<叶羽已反>○賦也。於、歎辭。昭、明也。命、天命也。不顯、猶言豈不顯也。帝、上帝也。不時、猶言豈不時也。左右、旁側也。○周公追述文王之德、明周家所以受命而代商者、皆由於此、以戒成王。此章言文王旣沒、而其神在上、昭明于天。是以周邦雖自后稷始封千有餘年、而其受天命、則自今始也。夫文王在上、而昭于天、則其德顯矣。周雖舊邦、而命則新、則其命時矣。故又曰、有周豈不顯乎、帝命豈不時乎。蓋以文王之神在天、一升一降、無時不在上帝之左右。是以子孫蒙其福澤、而君有天下也。春秋傳、天王追命諸侯之詞曰、叔父陟恪在我先王之左右、以佐事上帝。語意與此正相似。或疑恪亦降字之誤。理或然也。
【読み】
文王上に在[いま]す、於[ああ]<音烏。下も同じ><叶鐵因反>に昭らかなり。周舊邦なりと雖も、其れ命維れ新たなり。有周顯らかならずや、帝命時<叶上紙反>ならずや。文王陟[のぼ]り降りて、帝の左右<叶羽已反>に在せり。○賦なり。於は、歎ずる辭。昭は、明らかなり。命は、天命なり。不顯は、猶豈顯らかならずやと言うがごとし。帝は、上帝なり。不時は、猶豈時ならずやと言うがごとし。左右は、旁側なり。○周公追って文王の德を述べて、周家の命を受けて商に代わる所以の者、皆此に由ることを明かして、以て成王を戒む。此の章言うこころは、文王旣に沒して、其の神上に在し、天に昭明なり。是を以て周の邦后稷より始めて封ぜられて千有餘年と雖も、其の天命を受くるは、則ち今より始まる。夫れ文王上に在して、天に昭らかなれば、則ち其の德顯らかなり。周舊邦なりと雖も、命は則ち新たなれば、則ち其の命時あり。故に又曰く、有周豈顯らかならずや、帝命豈時ならずや、と。蓋し文王の神天に在すを以て、一升一降、時として上帝の左右に在らざる無し。是を以て子孫其の福澤を蒙りて、君として天下を有てり。春秋傳に、天王追って諸侯に命ずるの詞に曰く、叔父陟[のぼ]り恪[つつし]みて我が先王の左右に在り、以て佐けて上帝に事る、と。語意此と正に相似れり。或ひと疑う、恪も亦降の字の誤り、と。理として或は然らん。

○亹亹<音尾>文王、令聞<音問>不已。陳錫哉周、侯文王孫子<叶奬里反>。文王孫子、本支百世。凡周之士、不顯亦世。賦也。亹亹、强勉之貌。令聞、善譽也。陳、猶敷也。哉、語辭。侯、維也。本、宗子也。支、庶子也。○文王非有所勉也。純亦不已、而人見其若有所勉耳。其德不已。故今旣沒而其令聞猶不已也。令聞不已。是以上帝敷錫于周。維文王孫子、則使之本宗百世爲天子、支庶百世爲諸侯、而又及其臣子、使凡周之士、亦世世修德與周匹休焉。
【読み】
○亹亹[びび]<音尾>たる文王、令聞<音問>已まず。周に陳[し]き錫[たま]えり、侯[こ]れ文王の孫子<叶奬里反>に。文王の孫子、本支百世。凡そ周の士も、顯らかならざらんや亦世々せり。賦なり。亹亹は、强勉する貌。令聞は、善き譽れなり。陳は、猶敷くのごとし。哉は、語の辭。侯は、維なり。本は、宗子なり。支は、庶子なり。○文王勉むる所有るに非ず。純にして亦已まずして、人其の勉むる所有るが若きを見るのみ。其の德已まず。故に今旣に沒して其の令聞猶已まず。令聞已まず。是を以て上帝周に敷き錫う。維れ文王の孫子なれば、則ち之をして本宗は百世天子と爲り、支庶は百世諸侯と爲らしめ、又其の臣子に及んでは、凡そ周の士も、亦世世德を修めて周と匹休[よ]からしむ。

○世之不顯、厥猶翼翼。思皇多士、生此王國<叶于逼反>。王國克生、維周之楨<音貞>。濟濟<上聲>多士、文王以寧。賦也。猶、謀。翼翼、勉敬也。思、語辭。皇、美。楨、榦也。濟濟、多貌。○此承上章而言。其傳世豈不顯乎。而其謀猷、皆能勉敬如此也。美哉此衆多之賢士、而生於此文王之國也。文王之國、能生此衆多之士、則足以爲國之榦、而文王亦賴以爲安矣。蓋言文王得人之盛、而宣其傳世之顯也。
【読み】
○世々之れ顯らかならずや、厥の猶[はかりごと]翼翼たり。思[そ]れ皇[よ]いかな多士、此の王國<叶于逼反>に生まるること。王國克く生めり、維れ周の楨[てい]<音貞>。濟濟<上聲>たる多士、文王以て寧[やす]んぜり。賦なり。猶は、謀。翼翼は、勉め敬むなり。思は、語の辭。皇は、美き。楨は、榦なり。濟濟は、多き貌。○此れ上章を承けて言う。其の世を傳うる、豈顯らかならざらんや。而も其の謀猷、皆能く勉め敬むこと此の如し。美いかな此の衆多の賢士、而も此の文王の國に生まるること。文王の國、能く此の衆多の士を生めば、則ち以て國の榦爲るに足りて、文王も亦賴りて以て安しとす。蓋し文王人を得るの盛んなるを言いて、其の世を傳うるの顯らかなるを宣べり。

○穆穆文王、於緝煕敬止。假<上聲>哉天命、有商孫子。商之孫子、其麗不億。上帝旣命、侯于周服<叶蒲北反>○賦也。穆穆、深遠之意。緝、續。煕、明。亦不已之意。止、語辭。假、大。麗、數也。不億、不止於億也。侯、維也。○言穆穆然文王之德、不已其敬如此。是以大命集焉。以有商孫子觀之、則可見矣。蓋商之孫子其數不止於億。然以上帝之命集於文王、而今皆維服于周矣。
【読み】
○穆穆たる文王、於緝[つ]ぎ煕[あき]らかにして敬めり。假[おお]<上聲>いなるかな天命、有商の孫子あり。商の孫子、其の麗[かず]億のみならず。上帝旣に命じて、侯れ周に服<叶蒲北反>せり。○賦なり。穆穆は、深遠なる意。緝は、續ぐ。煕は、明らか。亦已まざるの意。止は、語の辭。假は、大い。麗は、數なり。不億は、億に止まらざるなり。侯は、維れなり。○言うこころは、穆穆然たる文王の德、已まずして其れ敬むこと此の如し。是を以て大いなる命を集[な]せり。有商の孫子を以て之を觀れば、則ち見る可し。蓋し商の孫子其の數億に止まらず。然れども上帝の命文王に集せるを以て、今皆維れ周に服せり。

○侯服于周、天命靡常。殷士膚敏、祼<音灌>將于京<叶居良反>。厥作祼將、常服黼<音浦><音許>。王之藎<音盡>臣、無念爾祖。賦也。諸侯之大夫、入天子之國曰某士、則殷士者商孫子之臣屬也。膚、美。敏、疾也。祼、灌鬯也。將、行也。酌而送之也。京、周之京師也。黼、黼裳也。冔、殷冠也。蓋先代之後、統承先王修其禮物、作賓于王家。時王不敢變焉。而亦所以爲戒也。王、指成王也。藎、進也。言其忠愛之篤、進進無已也。無念、猶言豈得無念也。爾祖、文王也。○言商之孫子、而侯服于周。以天命之不可常也、故殷之士、助祭於周京、而服商之服也。於是呼王之藎臣、而告之曰、得無念爾祖文王之德乎。蓋以戒王、而不敢斥言、猶所謂敢告僕夫云爾。劉向曰、孔子論詩、至於殷士膚敏、祼將于京、喟然嘆曰、大哉天命、善不可不傳于後嗣。是以富貴無常。蓋傷微子之事周、而痛殷之亡也。
【読み】
○侯れ周に服せり、天命常靡ければなり。殷の士の膚[よ]く敏きも、京<叶居良反>に祼[かん]<音灌>將せり。厥の祼將を作[な]せる、常に黼[ほ]<音浦>冔[く]<音許>を服せり。王の藎[じん]<音盡>臣、爾の祖を念うこと無けんや。賦なり。諸侯の大夫、天子の國に入りて某士と曰うは、則ち殷の士は商の孫子の臣の屬なればなり。膚は、美き。敏は、疾きなり。祼は、鬯[ちょう]を灌ぐなり。將は、行うなり。酌んで之を送るなり。京は、周の京師なり。黼は、黼裳なり。冔は、殷の冠なり。蓋し先代の後、先王に統べ承けて其の禮物を修め、王家に賓と作れり。時の王敢えて變えず。而も亦戒めと爲す所以なり。王は、成王を指すなり。藎は、進むなり。言うこころは、其の忠愛の篤き、進み進んで已むこと無きなり。無念は、猶豈念うこと無きを得んやと言うがごとし。爾の祖は、文王なり。○言うこころは、商の孫子にして、侯れ周に服す。天命の常にす可からざるを以て、故に殷の士、祭を周の京に助けて、商の服を服すなり。是に於て王の藎[すす]める臣を呼んで、之に告げて曰く、爾の祖文王の德を念うこと無きを得んや、と。蓋し以て王を戒めて、敢えて斥[さ]して言わず、猶所謂敢えて僕夫に告げて爾か云うがごとし。劉向が曰く、孔子詩を論じて、殷の士の膚く敏きも、京に祼將せりに至りて、喟然として嘆じて曰く、大いなるかな天命、善く後嗣に傳えずんばある可からず。是を以て富貴常無し、と。蓋し微子が周に事ることを傷んで、殷の亡びしことを痛めるなり、と。

○無念爾祖、聿脩厥德。永言配命、自求多福<叶筆力反>。殷之未喪<去聲>師、克配上帝。宜鑒于殷、駿<音峻>命不易<去聲>○賦也。聿、發語辭。永、長。配、合也。命、天理也。師、衆也。上帝、天之主宰也。駿、大也。不易、言其難也。○言欲念爾祖、在於自脩其德。而又常自省察、使其所行無不合於天理、則盛大之福、自我致之、有不外求而得矣。又言殷未失天下之時、其德足以配乎上帝矣。今其子孫乃如此。宜以爲鑒而自省焉、則知天命之難保矣。大學傳曰、得衆則得國。失衆則失國。此之謂也。
【読み】
○爾の祖を念うこと無けんや、聿[そ]れ厥の德を脩めよ。永く言[ここ]に命に配[かな]えば、自ら多福<叶筆力反>を求めん。殷の未だ師を喪<去聲>わざるとき、克く上帝に配えり。宜しく殷に鑒[かんが]むべし、駿<音峻>命易<去聲>からず。○賦なり。聿は、發語の辭。永は、長き。配は、合うなり。命は、天理なり。師は、衆なり。上帝は、天の主宰なり。駿は、大いなり。易からずは、其の難きを言うなり。○言うこころは、爾の祖を念わんと欲するは、自ら其の德を脩むるに在り。而して又常に自ら省察して、其の行う所をして天理に合わざること無からしめば、則ち盛大なる福、我より之を致すこと、外に求めずして得ること有り。又言う、殷の未だ天下を失わざるの時、其の德以て上帝に配うに足れり。今其の子孫乃ち此の如し。宜しく以て鑒と爲して自ら省すべく、則ち知る、天命の保ち難きを、と。大學の傳に曰く、衆を得れば則ち國を得。衆を失えば則ち國を失う、と。此を之れ謂うなり。

○命之不易、無遏爾躬<叶姑弘反>、宣昭義問、有虞殷自天<叶鐵因反>。上天之載、無聲無臭<叶初尤反>、儀刑文王、萬邦作孚<叶房尤反>○賦也。遏、絕。宣、布。昭、明。義、善也。問、聞通。有、又通。虞、度。載、事。儀、象。刑、法。孚、信也。○言天命之不易保、故告之使無若紂之自絕于天。而布明其善譽於天下、又度殷之所以廢興者、而折之於天。然上天之事、無聲無臭、不可得而度也。惟取法於文王、則萬邦作而信之矣。子思子曰、維天之命、於穆不已、蓋曰天之所以爲天也。於乎不顯文王之純、蓋曰文王之所以爲文也。純亦不已。夫知天之所以爲天、又知文王之所以爲文、則夫與天同德者、可得而言矣。是詩首言、文王在上、於昭于天。文王陟降、在帝左右。而終之以此。其旨深矣。
【読み】
○命の易からざる、爾が躬<叶姑弘反>に遏[た]つこと無かれ、義[よ]き問[ほまれ]を宣[し]き昭らかにして、有[また]殷を虞[はか]ること天<叶鐵因反>に自[したが]え。上天の載[こと]は、聲[おと]も無く臭[か]<叶初尤反>も無し、文王に儀[かたど]り刑[のっと]らば、萬邦作[おこ]り孚<叶房尤反>とせん。○賦なり。遏は、絕つ。宣は、布く。昭は、明らか。義は、善き。問は、聞と通ず。有は、又と通ず。虞は、度る。載は、事。儀は、象る。刑は、法る。孚、信なり。○言うこころは、天命の保ち易からざる、故に之に告げて紂が自ら天を絕つが若きこと無からしむる。而して其の善譽を天下に布き明らかにして、又殷の廢興する所以の者を度りて、之を天に折[さだ]む。然れども上天の事は、聲も無く臭も無し、得て度る可からざるなり。惟法を文王に取れば、則ち萬邦作りて之を信とせん。子思子曰く、維れ天の命、於[ああ]穆として已まずとは、蓋し天の天爲る所以を曰えり。於顯らかならざらんや文王の純[もっぱ]らなるとは、蓋し文王の文爲る所以を曰えり。純らにして亦已まず、と。夫れ天の天爲る所以を知り、又文王の文爲る所以を知れば、則ち夫れ天と德を同じくする者、得て言う可し。是の詩首めに言う、文王上に在す、於天に昭らかなり。文王陟り降りて、帝の左右に在せり、と。而して之を終えるに此を以てす。其の旨深し。

文王七章章八句。東萊呂氏曰、呂氏春秋引此詩、以爲周公所作。味其詞意、信非周公不能作也。○今按、此詩一章言文王有顯德、而上帝有成命也。二章言、天命集於文王、則不唯尊榮其身、又使其子孫、百世爲天子諸侯也。三章言、命周之福、不唯及其子孫、而又及其羣臣之後嗣也。四章言、天命旣絕於商、則不唯誅罰其身、又使其子孫、亦來臣服于周也。五章言、絕商之禍、不唯及其子孫、而又及其羣臣之後嗣也。六章言、周之子孫臣庶、當以文王爲法、而以商爲監也。七章又言、當以商爲監、而以文王爲法也。其於天人之際、興亡之理、丁寧反覆至深切矣。故立之樂官、而因以爲天子諸侯朝會之樂。蓋將以戒乎後世之君臣、而又以昭先王之德於天下也。國語以爲、兩君相見之樂、特舉其一端而言耳。然此詩之首章、言文王之昭于天、而不言其所以昭。次章言其令聞不已、而不言其所以聞。至於四章、然後所以昭明而不已者、乃可得而見焉。然亦多詠嘆之言、而語其所以爲德之實、則不越乎敬之一字而已。然則後章所謂脩厥德而儀刑之者、豈可以他求哉。亦勉於此而已矣。
【読み】
文王[ぶんおう]七章章八句。東萊の呂氏が曰く、呂氏春秋に此の詩を引いて、以て周公の作る所とす。其の詞意を味わうに、信に周公に非ずんば作ること能わざるなり、と。○今按ずるに、此の詩一章には文王に顯德有りて、上帝に成命有ることを言う。二章には言う、天命文王に集りて、則ち唯り其の身を尊榮するのみならず、又其の子孫をして、百世天子諸侯とせしむ、と。三章には言う、周に命ぜるの福は、唯り其の子孫に及ぶのみならずして、又其の羣臣の後嗣に及ぶ、と。四章には言う、天命旣に商を絕てば、則ち唯り其の身を誅罰するのみならず、又其の子孫をして、亦來りて周に臣服せしむ、と。五章には言う、商を絕つの禍は、唯り其の子孫に及ぶのみならずして、又其の羣臣の後嗣に及ぶ、と。六章には言う、周の子孫臣庶、當に文王を以て法として、商を以て監とすべし、と。七章には又言う、當に商を以て監として、文王を以て法とすべし、と。其れ天人の際、興亡の理に於て、丁寧反覆すること至って深切なり。故に之が樂官を立てて、因りて以て天子諸侯朝會の樂とす。蓋し將に以て後世の君臣を戒めて、又以て先王の德を天下に昭らかにす。國語に以爲えらく、兩君相見の樂とは、特に其の一端を舉げて言うのみ。然して此の詩の首めの章には、文王の天に昭らかなるを言いて、其の昭らかなる所以を言わず。次の章には其の令聞の已まざるを言いて、其の聞の所以を言わず。四章に至りて、然して後に昭明にして已まざる所以の者、乃ち得て見る可し。然れども亦詠嘆の言多くして、其の德と爲す所以の實を語るは、則ち敬の一字に越えざるのみ。然れば則ち後の章に所謂厥の德を脩めて之に儀り刑る者、豈他を以て求むる可けんや。亦此を勉むるのみ。


明明在下、赫赫在上<叶辰羊反>。天難忱<音諶>斯、不易<去聲>維王。天位殷適<音的>、使不挾<子爕反>四方。賦也。明明、德之明也。赫赫、命之顯也。忱、信也。不易、難也。天位、天子之位也。殷適、殷之適嗣也。挾、有也。○此亦周公戒成王之詩。將陳文武受命。故先言、在下者有明明之德、則在上者有赫赫之命。達于上下去就無常。此天之所以難忱、而爲君之所以不易也。紂居天位爲殷嗣。乃使之不得挾四方而有之、蓋以此爾。
【読み】
明明たること下に在れば、赫赫たること上<叶辰羊反>に在り。天忱[まこと]<音諶>とし難し、易<去聲>からざるは維れ王。天位殷適<音的>にも、四方を挾[たも]<子爕反>たざらしむ。賦なり。明明は、德の明らかなるなり。赫赫は、命の顯らかなるなり。忱は、信なり。易からずは、難きなり。天位は、天子の位なり。殷適は、殷の適嗣なり。挾は、有つなり。○此れ亦周公の成王を戒むるの詩。將に文武命を受くるを陳べんとす。故に先ず言う、下に在る者明明たる德有れば、則ち上に在る者赫赫たる命有り、と。上下に達して去就常無し。此れ天の忱とし難き所以にして、君爲ることの易からざる所以なり。紂天位に居りて殷の嗣爲り。乃ち之をして四方を挾ちて之を有つことを得ざらしむるは、蓋し此を以てのみ。

○摯<音至>仲氏任<音壬>、自彼殷商、來嫁于周、曰嬪<音貧>于京<叶居良反>。乃及王季、維德之行<叶戶郎反>。大<音泰>任有身<叶戶羊反>、生此文王。賦也。摯、國名。仲、中女也。任、摯國姓也。殷商、商之諸侯也。嬪、婦也。京、周京也。曰嬪于京、疊言以釋上句之意。猶曰釐降二女于嬀汭、嬪于虞也。王季、文王父也。身、懷孕也。○將言文王之聖、而追本其所從來者如此。蓋曰、自其父母而已然矣。
【読み】
○摯[し]<音至>の仲氏は任[じん]<音壬>、彼の殷商より、來りて周に嫁ぎ、曰[ここ]に京<叶居良反>に嬪[よめ]<音貧>たり。乃ち王季と、維れ德を行<叶戶郎反>えり。大<音泰>任身[はら]<叶戶羊反>める有りて、此の文王を生めり。賦なり。摯は、國の名。仲は、中女なり。任は、摯國の姓なり。殷商は、商の諸侯なり。嬪は、婦なり。京は、周京なり。曰に京に嬪たりとは、疊ねて言いて以て上の句の意を釋く。猶二女を嬀汭[ぎぜい]に釐[おさ]め降して、虞に嬪とすと曰うがごとし。王季は、文王の父なり。身は、懷孕なり。○將に文王の聖なるを言わんとして、追って其の從って來る所の者に本づくこと此の如し。蓋し曰く、其の父母よりして已に然り。

○維此文王、小心翼翼。昭事上帝、聿懷多福<叶筆力反>。厥德不回、以受方國<叶越逼反>○賦也。小心翼翼、恭愼之貌。卽前編之所謂敬也。文王之德、於此爲盛。昭、明。懷、來。回、邪也。方國、四方來附之國也。
【読み】
○維れ此の文王、心を小[せ]めて翼翼たり。昭らかに上帝に事えて、聿[そ]れ多福<叶筆力反>を懷[きた]せり。厥の德回[よこしま]ならずして、以て方國<叶越逼反>を受く。○賦なり。小心翼翼とは、恭[うやま]い愼む貌。卽ち前編の所謂敬なり。文王の德、此に於て盛んなりとす。昭は、明らか。懷は、來る。回は、邪なり。方國は、四方來り附ける國なり。

○天監在下、有命旣集<叶昨合反>。文王初載、天作之合。在洽之陽、在渭之涘<音士。叶羽已反>。文王嘉止、大邦有子<叶奬禮反>○賦也。監、視。集、就。載、年。合、配也。洽、水名。本在今同州郃陽夏陽縣、今流已絕。故去水而加邑。渭水、亦逕此入河也。嘉、婚禮也。大邦、莘國也。子、大姒也。○將言武王伐商之事。故此又推其本而言。天之監照實在於下、其命旣集於周矣。故於文王之初年、而默定其配。所以洽陽渭涘、當文王將婚之期、而大邦有子也。蓋曰、非人之所能爲矣。
【読み】
○天の監みること下に在り、命有り旣に集[な]<叶昨合反>れり。文王の初めの載[とし]、天之が合[たぐい]を作せり。洽[こう]の陽[きた]に在り、渭の涘[ほとり]<音士。叶羽已反>に在り。文王嘉するときにして、大邦子<叶奬禮反>有り。○賦なり。監は、視る。集は、就す。載は、年。合は、配なり。洽は、水の名。本今の同州郃[こう]陽夏陽縣に在り、今流れ已に絕ゆ。故に水を去りて邑を加う。渭水も、亦逕[ただ]ちに此れ河に入るなり。嘉は、婚禮なり。大邦は、莘[しん]國なり。子は、大姒なり。○將に武王商を伐つ事を言わんとす。故に此に又其の本を推して言う。天の監照實に下に在り、其の命旣に周に集れり。故に文王の初めの年に於て、默して其の配を定む。所以に洽の陽渭の涘、文王將に婚せんとするの期に當たりて、大邦に子有り。蓋し曰く、人の能く爲す所に非ず、と。

○大邦有子、俔<牽遍反>天之妹。文定厥祥、親迎<去聲>于渭。造舟爲梁、不顯其光。賦也。俔、磬也。韓詩作磬。說文云、俔、譬也。孔氏曰、如今俗語譬喩物、曰磬作然也。文、禮。祥、吉也。言卜得吉、而以納幣之禮、定其祥也。造、作。梁、橋也。作船於水、比之而加版於其上、以通行者。卽今之浮橋也。傳曰、天子造舟、諸侯維舟、大夫方舟、士特舟。張子曰、造舟爲梁、文王所制、而周世遂以爲天子之禮也。
【読み】
○大邦子有り、天の妹に俔[たと]<牽遍反>う。文をもって厥の祥を定めて、親[みずか]ら渭に迎<去聲>えり。舟を造りて梁[はし]と爲す、顯らかならずや其の光。賦なり。俔[けん]は、磬[けい]なり。韓詩に磬に作る。說文に云う、俔は、譬う、と。孔氏が曰く、今俗語に物を譬喩して、磬作と曰うが如く然り。文は、禮。祥は、吉なり。言うこころは、吉を卜し得て、納幣の禮を以て、其の祥を定むるなり。造は、作る。梁は、橋なり。船を水に作り、之を比[なら]べて版を其の上に加えて、以て通行する者。卽ち今の浮橋なり。傳に曰く、天子は舟を造り、諸侯は舟を維ぎ、大夫は舟を方にし、士は舟を特にす、と。張子が曰く、舟を造りて梁と爲すは、文王の制する所にして、周の世遂に以て天子の禮とす、と。

○有命自天、命此文王、于周于京<叶居良反>。纘女維莘、長<上聲>子維行<叶戶郎反>。篤生武王、保右<音祐>命爾、爕伐大商。賦也。纘、繼也。莘、國名。長子、長女、大姒也。行、嫁。篤、厚也。言旣生文王而又生武王也。右、助。爕、和也。○言天旣命文王於周之京矣、而克纘大任之女事者、維此莘國以其長女、來嫁于我也。天又篤厚之、使生武王、保之助之命之、而使之順天命以伐商也。
【読み】
○命有り天よりして、此の文王に命じ、周に京<叶居良反>にせり。女を纘[つ]げるは維れ莘[しん]、長<上聲>子維れ行[とつ]<叶戶郎反>げり。篤くして武王を生み、保んじ右[たす]<音祐>けて爾に命じ、大商を爕[やわ]らげ伐たしめり。賦なり。纘[さん]は、繼ぐなり。莘は、國の名。長子は、長女、大姒なり。行は、嫁ぐ。篤は、厚きなり。言うこころは、旣に文王を生んで又武王を生むなり。右は、助く。爕は、和らぐなり。○言うこころは、天旣に文王を周の京に命じて、克く大任の女事を纘げる者は、維れ此れ莘國其の長女を以て、來りて我に嫁ぐなり。天又之を篤く厚くして、武王を生ましめて、之を保んじ之を助け之に命じて、之をして天命に順いて以て商を伐たしむ。

○殷商之旅、其會如林。矢于牧野、維予侯興<叶音歆>。上帝臨女<音汝>、無貳爾心。賦也。如林、言衆也。書曰、受率其旅若林。矢、陳也。牧野、在朝歌南七十里。侯、維。貳、疑也。爾、武王也。○此章言武王伐紂之時、紂衆會集如林、以拒武王、而皆陳于牧野、則維我之師、爲有興起之勢耳。然衆心猶恐、武王以衆寡之不敵、而有所疑也。故勉之曰、上帝臨女、毋貳爾心。蓋知天命之必然、而贊其決也。然武王非必有所疑也。設言以見衆心之同。非武王之得已耳。
【読み】
○殷商の旅、其の會[つど]えること林の如し。牧野に矢[つら]ねて、維れ予[そ]れ侯[こ]れ興<叶音歆>れり。上帝女<音汝>に臨めり、爾の心に貳[うたが]い無かれ。賦なり。林の如しとは、衆きを言うなり。書に曰く、受其の旅を率いること林の若し、と。矢は、陳ぬるなり。牧野は、朝歌の南七十里に在り。侯は、維れ。貳は、疑うなり。爾は、武王なり。○此の章言うこころは、武王紂を伐つ時、紂が衆の會集すること林の如く、以て武王を拒んで、皆牧野に陳ぬるは、則ち維れ我が師、興起の勢い有りとするのみ。然れども衆の心猶恐れらくは、武王衆寡の敵せざるを以て、疑う所有らんことを。故に之を勉めて曰く、上帝女に臨めり、爾の心に貳い毋かれ、と。蓋し天命の必ず然ることを知って、其の決を贊くなり。然れども武王必ずしも疑う所有るに非ず。言を設けて以て衆の心の同じきを見す。武王の已むことを得るに非ざるのみ。

○牧野洋洋、檀車煌煌、駟騵<音元>彭彭<叶鋪郎反>。維師尙父、時維鷹揚、凉<音亮>彼武王、肆伐大商、會朝淸明<叶謨郎反>○賦也。洋洋、廣大之貌。檀、堅木。宜爲車者也。煌煌、鮮明貌。駵馬白腹曰騵。彭彭、强盛貌。師尙父、太公望。爲大師、而號尙父也。鷹揚、如鷹之飛揚而將擊。言其猛也。凉、漢書作亮。佐助也。肆、縱兵也。會朝、會戰之旦也。○此章言武王師衆之盛、將師之賢、伐商以除穢濁、不崇朝、而天下淸明。所以終首章之意也。
【読み】
○牧野洋洋たり、檀車煌煌たり、駟騵[しげん]<音元>彭彭[ほうほう]<叶鋪郎反>たり。維れ師尙父、時[こ]れ維れ鷹揚し、彼の武王を凉[たす]<音亮>け、肆[ほしいまま]にして大商を伐ち、會せる朝より淸明<叶謨郎反>なり。○賦なり。洋洋は、廣大なる貌。檀は、堅き木。宜しく車に爲るべき者なり。煌煌は、鮮明なる貌。駵[りゅう]馬の白き腹を騵と曰う。彭彭は、强く盛んなる貌。師尙父は、太公望。大師と爲りて、尙父と號す。鷹揚は、鷹の飛び揚がりて將に擊たんとするが如し。其の猛きを言うなり。凉は、漢書に亮に作る。佐け助くなり。肆は、兵を縱[はな]つなり。會朝は、會戰の旦なり。○此の章言うこころは、武王の師衆の盛んなる、將師の賢なる、商を伐ちて以て穢濁を除き、朝を崇[お]えずして、天下淸明なり。首章の意を終うる所以なり。

大明八章四章章六句。四章章八句。名義見小旻篇。一章言天命無常、惟德是與。二章言王季大任之德、以及文王。三章言文王之德。四章・五章・六章言文王大姒之德、以及武王。七章言武王伐紂。八章言武王克商、以終首章之意。其章以六句八句相閒。又國語以此及下篇、皆爲兩君相見之樂。說見上篇。
【読み】
大明[たいめい]八章四章章六句。四章章八句。名義は小旻の篇に見えたり。一章には天命常無く、惟德のみ是に與るを言う。二章には王季大任の德を言いて、以て文王に及ぶ。三章には文王の德を言う。四章・五章・六章には文王大姒の德を言いて、以て武王に及ぶ。七章には武王紂を伐つことを言う。八章には武王商に克つことを言いて、以て首章の意を終う。其の章は六句八句を以て相閒[まじ]う。又國語に此れ及び下の篇を以て、皆兩君相見の樂とす。說は上の篇に見えたり。


緜緜瓜瓞<音垤>、民之初生、自土沮<音疽><音七>。古公亶父<音甫>、陶<音桃><音福>陶穴<叶戶橘反>、未有家室。比也。緜緜、不絕貌。大曰瓜、小曰瓞。瓜之近本初生者、常小。其蔓不絕、至末而後大也。民、周人也。自、從。土、地也。沮漆、二水名、在豳地。古公、號也。亶父、名也。或曰、字也。後乃追稱太王焉。陶、窰竈也。復、重窰也。穴、土室也。家、門内之通名也。豳地近西戎而苦寒。故其俗如此。○此亦周公戒成王之詩。追述大王始遷岐周、以開王業、而文王因之以受天命也。此其首章言瓜之先小後大、以比周人始生於漆沮之上、而古公之時、居於窰竈土室之中、其國甚小、至文王而後大也。
【読み】
緜緜たる瓜瓞[かてつ]<音垤>、民の初めて生れること、沮[しょ]<音疽><音七>に土[ところ]せしよりす。古公亶父[たんぽ]<音甫>、陶<音桃><音福>陶穴<叶戶橘反>にして、未だ家室有らざりき。比なり。緜緜は、絕えざる貌。大いなるを瓜と曰い、小さきを瓞と曰う。瓜の本に近く初めて生れる者は、常に小さし。其の蔓絕えず、末に至りて後に大いなり。民は、周人なり。自は、從り。土は、地なり。沮漆は、二水の名、豳の地に在り。古公は、號なり。亶父は、名なり。或ひと曰く、字、と。後乃ち追って太王と稱す。陶は、窰竈[ようそう]なり。復は、重窰なり。穴は、土室なり。家は、門内の通名なり。豳の地は西戎に近くして寒に苦しむ。故に其の俗此の如し。○此れ亦周公の成王を戒むるの詩。追って大王始めて岐周に遷りて、以て王業を開いて、文王之に因りて以て天命を受くることを述ぶる。此れ其の首めの章に瓜の先ず小さくして後に大いなるを言いて、以て周人始めて漆沮の上[ほとり]に生り、古公の時、窰竈土室の中に居りて、其の國甚だ小さく、文王に至りて而して後に大いなるに比す。

○古公亶父、來朝走馬<叶滿補反>、率西水滸<音虎>、至于岐下<叶後五反>、爰及姜女、聿來胥宇。賦也。朝、早也。走馬、避狄難也。滸、水涯也。漆沮之側也。岐下、岐山之下也。姜女、大王妃也。胥、相。宇、宅也。孟子曰、大王居邠、狄人侵之。事之以皮幣珠玉犬馬、而不得免。乃屬其耆老而告之曰、狄人之所欲者、吾土地也。吾聞之也。君子不以其所以養人者害人。二三子何患乎無君。我將去之。去邠踰梁山、邑于岐山之下居焉。邠人曰、仁人也。不可失也。從之者如歸市。
【読み】
○古公亶父、來りて朝[つと]に馬<叶滿補反>を走[は]せ、西水の滸[ほとり]<音虎>に率いて、岐の下[ふもと]<叶後五反>に至り、爰に姜女と、聿[そ]れ來りて胥[あい]宇[す]めり。賦なり。朝は、早なり。馬を走すは、狄の難を避くるなり。滸は、水涯なり。漆沮の側なり。岐の下は、岐山の下なり。姜女は、大王の妃なり。胥は、相。宇は、宅すなり。孟子に曰く、大王邠[ひん]に居り、狄人之を侵す。之に事うるに皮幣珠玉犬馬を以てすれども、免るることを得ず。乃ち其の耆老[きろう]を屬[あつ]めて之に告げて曰く、狄人の欲する所の者は、吾が土地なり。吾れ之を聞けり。君子は其の人を養う所以の者を以て人を害わず、と。二三子何ぞ君無きことを患えんや。我れ將に之を去らんとす、と。邠を去りて、梁山を踰え、岐山の下に邑して居れり。邠人曰く、仁人なり。失う可からず、と。之に從う者市に歸[おもむ]くが如し、と。

○周原膴膴<音武>、堇<音謹>荼如飴<音移>。爰始爰謀<叶謀悲反>、爰契<音器>我龜。曰止曰時、築室于茲<叶津之反>○賦也。周、地名。在岐山之南。廣平曰原。膴膴、肥美貌。堇、烏頭也。荼、苦菜。蓼屬也。飴、餳也。契、所以然火而灼龜者也。儀禮所謂楚焞是也。或曰、以刀刻龜甲、欲鑽之處也。○言周原土地之美、雖物之苦者亦甘。於是大王始與豳人之從己者謀居之、又契龜而卜之。旣得吉兆乃告其民曰、可以止於是而築室矣。或曰、時、謂土功之時也。
【読み】
○周の原膴膴[ぶぶ]<音武>たり、堇[きん]<音謹>荼[と]も飴<音移>の如し。爰に始めて爰に謀<叶謀悲反>り、爰に我が龜を契[や]<音器>けり。曰く止まれ曰く時[ここ]に、室を茲[ここ]<叶津之反>に築く、と。○賦なり。周は、地の名。岐山の南に在り。廣く平らかなるを原と曰う。膴膴は、肥えて美しき貌。堇は、烏頭なり。荼は、苦菜。蓼の屬なり。飴は、餳[あめ]なり。契は、火を然[も]やして龜を灼く所以の者なり。儀禮に所謂楚焞とは是れなり。或ひと曰く、刀を以て龜甲を刻んで、鑽[や]かんと欲するの處、と。○言うこころは、周原の土地の美しき、物の苦き者と雖も亦甘し。是に於て大王始めて豳人の己に從う者と之に居ることを謀り、又龜を契いて之を卜す。旣に吉兆を得て乃ち其の民に告げて曰く、以て是に止まりて室を築く可し、と。或ひと曰く、時は、土功の時を謂う、と。

○迺慰迺止、迺左迺右<叶羽已反>、迺疆迺理、迺宣迺畝<叶滿彼反>。自西徂東、周爰執事<叶上止反>○賦也。慰、安。止、居也。左右、東西列之也。疆、謂畫其大界。理、謂別其條理也。宣、布散而居也。或曰、導其溝洫也。畝、治其田疇也。自西徂東、自西水滸而徂東也。周、徧也。言靡事不爲也。
【読み】
○迺[すなわ]ち慰[やす]んじ迺ち止[お]き、迺ち左にし迺ち右<叶羽已反>にし、迺ち疆り迺ち理[わか]ち、迺ち宣[し]き迺ち畝<叶滿彼反>なせり。西より東に徂[ゆ]くまで、周[あまね]く爰に事<叶上止反>を執れり。○賦なり。慰は、安んず。止は、居るなり。左右は、東西に之を列ぬるなり。疆るとは、其の大界を畫するを謂う。理つとは、其の條理を別つを謂うなり。宣くとは、布散して居るなり。或ひと曰く、其の溝洫[こうきょく]を導く、と。畝なすとは、其の田疇を治むるなり。西より東に徂くまでとは、西水の滸よりして東に徂くまでなり。周は、徧きなり。言うこころは、事として爲[おさ]めざる靡し。

○乃召司空、乃召司徒、俾立室家<叶古胡反>。其繩則直、縮<音蹜>版以載<叶節力反>、作廟翼翼。賦也。司空掌營國邑。司徒、掌徒役之事。繩、所以爲直。凡營度位處、皆先以繩正之。旣正則束版而築也。縮、束也。載、上下相承也。言以索束版、投土築訖、則升下而上、以相承載也。君子將營宮室、宗廟爲先、廐庫爲次、居室爲後。翼翼、嚴正也。
【読み】
○乃ち司空を召し、乃ち司徒を召して、室家<叶古胡反>を立てしむ。其の繩則ち直し、版[いた]を縮[つか]<音蹜>ねて以て載<叶節力反>せ、廟を作ること翼翼たり。賦なり。司空は國邑を營むことを掌る。司徒は、徒役の事を掌る。繩は、直きをする所以。凡そ位處を營度するには、皆先ず繩を以て之を正す。旣に正しければ則ち版を束ねて築く。縮は、束ぬるなり。載は、上下相承くるなり。言うこころは、索[なわ]を以て版を束ねて、土を投じて築き訖[お]えれば、則ち下を升げて上にして、以て相承けて載するなり。君子將に宮室を營まんとすれば、宗廟を先とし、廐庫を次とし、居室を後とす。翼翼は、嚴正なり。

○捄<音倶>之陾陾<音仍>、度<入聲>之薨薨、築之登登、削屢馮馮<音憑>。百堵皆興、鼛<音皐>鼓弗勝。賦也。捄、盛土於器也。陾陾、衆也。度、投土於版也。薨薨、衆聲也。登登、相應聲。削屢、墻成而削治重復也。馮馮、墻堅聲。五版爲堵。興、起也。此言治宮室也。鼛鼓、長一丈二尺。以鼓役事弗勝者、言其樂事勸功、鼓不能止也。
【読み】
○捄[も]<音倶>ること陾陾[じょうじょう]<音仍>たり、度[な]<入聲>げること薨薨[こうこう]たり、築くこと登登たり、削ること屢々馮馮<音憑>たり。百堵皆興[た]てり、鼛[こう]<音皐>鼓勝えざりき。賦なり。捄[きゅう]は、土を器に盛るなり。陾陾は、衆きなり。度は、土を版に投ずるなり。薨薨は、衆き聲なり。登登は、相應ずる聲。削ること屢々とは、墻成って削り治むること重復するなり。馮馮は、墻の堅き聲。五版を堵とす。興は、起つなり。此れ宮室を治むるを言うなり。鼛鼓は、長さ一丈二尺。鼓を以て事を役して勝えずとは、言うこころは其の事を樂しみ功を勸めて、鼓止むること能わざるなり。

○迺立皐門、皐門有伉<音抗。叶苦郎反>。迺立應門、應門將將<音搶>。迺立冢土、戎醜攸行<叶戶郎反>○賦也。傳曰、王之郭門曰皐門。伉、高貌。王之正門曰應門。將將、嚴正也。大王之時、未有制度、特作二門、其名如此。及周有天下、遂尊以爲天子之門、而諸侯不得立焉。冢土、大社也。亦大王所立、而後因以爲天子之制也。戎醜、大衆也。起大事動大衆、必有事乎社而後出。謂之宜。
【読み】
○迺ち皐門を立つ、皐門伉[こう]<音抗。叶苦郎反>たる有り。迺ち應門を立つ、應門將將<音搶>たり。迺ち冢土を立つ、戎醜の行<叶戶郎反>く攸。○賦なり。傳に曰く、王の郭門を皐門と曰う。伉は、高き貌。王の正門を應門と曰う。將將は、嚴正なるなり。大王の時、未だ制度有らず、特に二門を作りて、其の名此の如し。周の天下を有つに及んで、遂に尊んで以て天子の門として、諸侯立つことを得ず。冢土は、大社なり。亦大王の立つ所にして、後に因りて以て天子の制とす。戎醜は、大衆なり。大事を起こして大衆を動かすときは、必ず社に事すること有りて後に出づ。之を宜と謂う。

○肆不殄<音佃>厥慍、亦不隕<音尹>厥問。柞<音昨><音域><音佩>矣、行道兌<叶外反>矣。混<音昆>夷駾<音隊>矣、維其喙<音諱>矣。賦也。肆、故今也。猶言遂也。承上起下之辭。殄、絕。慍、怒。隕、墜也。問、聞通。謂聲譽也。柞、櫟也。枝長葉盛、叢生有刺。棫、白桵也。小木亦叢生有刺。拔、挺拔而上、不拳曲蒙密也。兌、通也。始通道於柞棫之閒也。駾、突。喙、息也。○言大王雖不能殄絕混夷之慍怒、亦不隕墜己之聲聞。蓋雖聖賢不能必人之不怒己、但不廢其自脩之實耳。然大王始至此岐下之時、林木深阻、人物鮮少、至於其後生齒漸繁、歸附日衆、則木拔道通。混夷畏之、而奔突竄伏、維其喙息而已。言德盛而混夷自服也。蓋已爲文王之時矣。
【読み】
○肆[つい]に厥の慍りを殄[た]<音佃>たざれども、亦厥の問[ほまれ]を隕[おと]<音尹>さず。柞[さく]<音昨>棫[よく]<音域><音佩>きんで、行く道兌[とお]<叶外反>れり。混<音昆>夷駾[つきはし]<音隊>りて、維れ其れ喙[あえ]<音諱>げり。賦なり。肆は、故に今なり。猶遂にと言うがごとし。上を承けて下を起こす辭。殄[てん]は、絕つ。慍は、怒り。隕は、墜つるなり。問は、聞と通ず。聲譽を謂うなり。柞は、櫟なり。枝長く葉盛んにて、叢生して刺有り。棫は、白桵[ずい]なり。小木にして亦叢生して刺有り。拔は、挺[ぬ]き拔けて上り、拳曲蒙密ならざるなり。兌は、通るなり。始めて道を柞棫の閒に通すなり。駾[たい]は、突く。喙[かい]は、息するなり。○言うこころは、大王混夷の慍怒を殄絕すること能わずと雖も、亦己が聲聞を隕し墜さず。蓋し聖賢と雖も人の己を怒まざるを必とすること能わず、但其の自ら脩むるの實を廢てざるのみ。然れども大王始めて此の岐の下に至る時、林木深阻し、人物鮮少、其の後に至りて生齒漸く繁く、歸附すること日に衆ければ、則ち木拔きんでて道通る。混夷之を畏れて、奔突竄伏[ざんぷく]し、維れ其れ喙息するのみ。德盛んにして混夷自ら服するを言うなり。蓋し已に文王の時とす。

○虞芮質厥成、文王蹶<音媿>厥生<叶桑經反>。予曰有疏附<叶上聲>、予曰有先<上聲><上聲。叶下五反>、予曰有奔奏<音走。叶宗五反>、予曰有禦侮。賦也。虞芮、二國名。質、正。成、平也。傳曰、虞芮之君、相與爭田。久而不平。乃相與朝周入其境、則耕者讓畔、行者讓路。入其邑、男女異路、斑白者不提挈。入其朝、士讓爲大夫、大夫讓爲卿。二國之君感而相謂曰、我等小人、不可以履君子之境。乃相讓以其所爭田、爲閒田而退。天下聞之、而歸者四十餘國。蘇氏曰、虞、在陝之平陸、芮、在同之馮翊、平陸有閒原焉、則虞芮之所讓也。蹶生、未詳其義。或曰、蹶、動而疾也。生、猶起也。予、詩人自予也。率下親上曰疏附。相道前後曰先後。喩德宣譽曰奔奏。武臣折衝曰禦侮。○言混夷旣服、而虞芮來質其訟之成。於是諸侯歸周者衆、而文王由此動其興起之勢。是雖其德之盛、然亦由有此四臣之助而然。故各以予曰起之。其辭繁而不殺者、所以深嘆其得人之盛也。
【読み】
○虞[ぐ]芮[ぜい]厥の成[たい]らぎを質[ただ]し、文王厥の生[お]<叶桑經反>これることを蹶[うご]<音媿>かせり。予れ曰く疏附[しょふ]<叶上聲>有り、予れ曰く先<上聲><上聲。叶下五反>有り、予れ曰く奔奏<音走。叶宗五反>有り、予れ曰く禦侮有り。賦なり。虞芮は、二國の名。質は、正す。成は、平らぎなり。傳に曰く、虞芮の君、相與に田を爭う。久しくして平かならず。乃ち相與に周に朝して其の境に入れば、則ち耕す者畔を讓り、行く者路を讓る。其の邑に入れば、男女路を異にし、斑白の者は提挈[ていけつ]せず。其の朝に入れば、士は大夫爲るに讓り、大夫は卿爲るに讓る。二國の君感じて相謂いて曰く、我等小人なり、以て君子の境を履む可からず、と。乃ち相讓りて其の爭う所の田を以て、閒田として退く。天下之を聞いて、歸する者四十餘國、と。蘇氏が曰く、虞は、陝[せん]の平陸に在り、芮は、同の馮翊[ひょうよく]に在り、平陸に閒原有るは、則ち虞芮の讓れる所なり、と。蹶[けつ]生は、未だ其の義詳らかならず。或ひと曰く、蹶は、動いて疾きなり。生は、猶起こるなり、と。予は、詩人自ら予とするなり。下を率いて上に親しむるを疏附と曰う。相道[みちび]いて前後するを先後と曰う。德を喩して譽れを宣ぶるを奔奏と曰う。武臣衝くを折[くじ]くを禦侮と曰う。○言うこころは、混夷旣に服して、虞芮來りて其の訟の成らぎを質す。是に於て諸侯周に歸する者衆くして、文王此に由りて其の興起の勢いを動かす。是れ其の德の盛んなると雖も、然れども亦此の四臣の助け有るに由りて然り。故に各々予れ曰くを以て之を起こす。其の辭繁くして殺[はぶ]かざる者は、深く其の人を得ることの盛んなるを嘆ずる所以なり。

緜九章章六句。一章言在豳。二章言至岐。三章言定宅。四章言授田居民。五章言作宗廟。六章言治宮室。七章言作門社。八章言至文王而服混夷。九章遂言文王受命之事。餘說見上篇。
【読み】
緜[めん]九章章六句。一章には豳に在るを言う。二章には岐に至るを言う。三章には宅を定むるを言う。四章には田を授けて民を居らしむるを言う。五章には宗廟を作るを言う。六章には宮室を治むるを言う。七章には門社を作るを言う。八章には文王に至りて混夷を服するを言う。九章には遂に文王命を受くる事を言う。餘の說は上の篇に見えたり。


芃芃<音蓬><音域><音卜>、薪之槱<音酉>之。濟濟<上聲><音璧>王、左右趣<叶此苟反>之。興也。芃芃、木盛貌。樸、叢生也。言根枝迫迮相附著也。槱、積也。濟濟、容貌之美也。辟、君也。君王謂文王也。○此亦以詠歌文王之德。言芃芃棫樸、則薪之槱之矣。濟濟辟王、則左右趣之矣。蓋德盛而人心歸附趨向之也。
【読み】
芃芃[ほうほう]<音蓬>たる棫[よく]<音域>の樸[むらだ]<音卜>ち、之を薪にし之を槱[つ]<音酉>めり。濟濟<上聲>たる辟<音璧>王、左右之に趣<叶此苟反>けり。興なり。芃芃は、木の盛んなる貌。樸は、叢生なり。言うこころは、根枝迫迮[はくさく]して相附著するなり。槱[ゆう]は、積むなり。濟濟は、容貌の美しきなり。辟は、君なり。君王は文王を謂うなり。○此れ亦以て文王の德を詠歌す。言うこころは、芃芃たる棫の樸ちは、則ち之を薪にし之を槱めり。濟濟たる辟王は、則ち左右之に趣けり。蓋し德盛んにして人心之に歸附趨向するなり。

○濟濟辟王、左右奉璋。奉璋峩峩、髦士攸宜<叶牛何反>○賦也。半圭曰璋。祭祀之禮、王祼以圭瓚。諸臣助之。亞祼以璋瓚。左右奉之。其判在内、亦有趣向之意。峩峩、盛壯也。髦、俊也。
【読み】
○濟濟たる辟王、左右璋[しょう]を奉ぐ。璋を奉ること峩峩たり、髦[ぼう]士の宜<叶牛何反>しき攸。○賦なり。半圭を璋と曰う。祭祀の禮に、王祼[かん]するに圭瓚[さん]を以てす。諸臣之を助く。亞祼するに璋瓚を以てす。左右之を奉ぐ、と。其の判内に在り、亦趣き向かうの意有り。峩峩は、盛壯なるなり。髦は、俊[すぐ]れるなり。

○淠<音譬>彼涇<音經>舟、烝徒楫<音接。叶籍入反>之。周王于邁、六師及之。興也。淠、舟行貌。涇、水名。烝、衆。楫、櫂。于、往。邁、行也。六師、六軍也。○言淠彼涇舟、則舟中之人、無不楫之。周王于邁、則六師之衆、追而及之。蓋衆歸其德、不令而從也。
【読み】
○淠[へい]<音譬>たる彼の涇[けい]<音經>の舟、烝徒[じょうと]之を楫[さお]<音接。叶籍入反>さす。周王于[ゆ]き邁[ゆ]けば、六師之に及べり。興なり。淠は、舟の行く貌。涇は、水の名。烝は、衆。楫は、櫂。于は、往く。邁は、行くなり。六師は、六軍なり。○言うこころは、淠たる彼の涇の舟は、則ち舟中の人、之を楫ささざる無し。周王于き邁けば、則ち六師の衆、追って之に及ぶ。蓋し衆其の德に歸して、令せずして從うなり。

○倬<音卓>彼雲漢、爲章于天<叶鐵因反>。周王壽考、遐不作人。興也。倬、大也。雲漢、天河也。在箕斗二星之閒、其長竟天。章、文章也。文王九十七乃終。故言壽考。遐、與何同。作人、謂變化鼓舞之也。
【読み】
○倬<音卓>たる彼の雲漢、章を天<叶鐵因反>に爲せり。周王壽考なり、遐[なん]ぞ人を作[おこ]さざらん。興なり。倬は、大いなり。雲漢は、天河なり。箕斗二星の閒に在り、其の長きこと天を竟[お]う。章は、文章なり。文王九十七にして乃ち終う。故に壽考と言う。遐は、何と同じ。人を作すは、之を變化鼓舞するを謂うなり。

○追<音堆><音卓>其章、金玉其相。勉勉我王、綱紀四方。興也。追、雕也。金曰雕、玉曰琢。相、質也。勉勉、猶言不已也。凡網罟、張之爲網、理之爲紀。○追之琢之、則所以美其文者至矣。金之玉之、則所以美其質者至矣。勉勉我王、則所以綱紀乎四方者至矣。
【読み】
○追[え]<音堆>り琢[うが]<音卓>てる其の章、金玉にせる其の相[かたち]。勉勉たる我が王、四方を綱紀せり。興なり。追は、雕るなり。金を雕ると曰い、玉を琢つと曰う。相は、質なり。勉勉は、猶已まずと言うがごとし。凡そ網罟[もうこ]は、之を張るを網とし、之を理むるを紀とす。○之を追り之を琢てば、則ち以て其の文を美しくする所の者至れり。之を金にし之を玉にすれば、則ち以て其の質を美しくする所の者至れり。勉勉たる我が王は、則ち以て四方を綱紀する所の者至れり。

棫樸五章章四句。此詩前三章、言文王之德、爲人所歸。後二章、言文王之德、有以振作綱紀天下之人而人歸之。自此以下至假樂、不知何人所作。疑多出於周公也。
【読み】
棫樸[よくぼく]五章章四句。此の詩、前の三章は、文王の德、人の爲に歸せらるるを言う。後の二章は、文王の德、以て天下の人を振作綱紀して人之に歸すること有るを言う。此より以下假樂に至るまで、何人の作る所かを知らず。疑うらくは多く周公より出でん。


瞻彼旱麓<音鹿>、榛楛<音戶>濟濟<上聲>。豈弟君子、干祿豈弟。興也。旱、山名。麓、山足也。榛、似栗而小。楛、似荆而赤。濟濟、衆多也。豈弟、樂易也。君子指文王也。○此亦以詠歌文王之德。言旱山之麓、則榛楛濟濟然矣。豈弟君子、則其干祿也豈弟矣。于祿豈弟、言其于祿之有道。猶曰其爭也君子云爾。
【読み】
彼の旱の麓<音鹿>を瞻れば、榛楛[こ]<音戶>濟濟<上聲>たり。豈弟の君子、祿[さいわい]を干[もと]めて豈弟なり。興なり。旱は、山の名。麓は、山の足[ふもと]なり。榛は、栗に似て小さし。楛は、荆に似て赤し。濟濟は、衆多なり。豈弟は、樂しみ易んずるなり。君子は文王を指すなり。○此れ亦以て文王の德を詠歌す。言うこころは、旱山の麓は、則ち榛楛濟濟然たり。豈弟の君子は、則ち其の祿を干めて豈弟なり。祿を于めて豈弟なりとは、其の祿を于むるの道有るを言う。猶其の爭や君子なりと曰うがごとしと云うのみ。

○瑟彼玉瓚<才旱反>、黃流在中。豈弟君子、福祿攸降<叶呼攻反>○興也。瑟、縝密貌。玉瓚、圭瓚也。以圭爲柄、黃金爲勺、靑金爲外、而朱其中也。黃流、鬱鬯也。釀秬黍爲酒。築鬱金煮而和之、使芬芳條鬯、以瓚酌而祼之也。攸、所。降、下也。○言瑟然之玉瓚、則必有黃流在其中。豈弟之君子、則必有福祿下其躬。明寶器不薦於褻味、而黃流不注於瓦缶、則知盛德必享於祿壽、而福澤不降於淫人矣。
【読み】
○瑟[しつ]たる彼の玉瓚[ぎょくさん]<才旱反>、黃流中に在り。豈弟の君子は、福祿の降<叶呼攻反>る攸。○興なり。瑟は、縝密なる貌。玉瓚は、圭瓚なり。圭を以て柄とし、黃金を勺とし、靑金を外として、其の中を朱す。黃流は、鬱鬯[うっちょう]なり。秬黍[きょしょ]を釀して酒に爲る。鬱金を築いて煮て之を和し、芬芳條鬯して、瓚酌を以て之を祼[かん]せしむるなり。攸は、所。降は、下るなり。○言うこころは、瑟然たる玉瓚は、則ち必ず黃流有りて其の中に在り。豈弟の君子は、則ち必ず福祿其の躬に下る有り。明らかなる寶器は褻味[せつび]を薦めずして、黃流は瓦缶に注がざれば、則ち知る、盛德は必ず祿壽を享けて、福澤は淫人に降らざるを。

○鳶<音沿>飛戾天<叶鐵因反>、魚躍于淵<叶一均反>。豈弟君子、遐不作人。興也。鳶、鴟類。戾、至也。李氏曰、抱朴子曰、鳶之在下無力。及至乎上、聳身直翅而已。蓋鳶之飛、全不用力、亦如魚躍怡然自得、而不知其所以然也。遐、何也。○言鳶之飛、則戾于天矣。魚之躍、則出于淵矣。豈弟君子、而何不作人乎。言其必作人也。
【読み】
○鳶<音沿>飛んで天<叶鐵因反>に戾[いた]り、魚淵<叶一均反>に躍れり。豈弟の君子、遐[なん]ぞ人を作さざらん。興なり。鳶は、鴟[とび]の類。戾は、至るなり。李氏が曰く、抱朴子が曰く、鳶の下に在るは力無し。上に至るに及んで、身を聳やかし翅を直くするのみ。蓋し鳶の飛ぶとき、全く力を用いざるは、亦魚の躍りて怡然として自得して、其の然る所以を知らざるが如し、と。遐は、何なり。○言うこころは、鳶の飛ぶときは、則ち天に戾る。魚の躍るときは、則ち淵に出づ。豈弟の君子、而も何ぞ人を作さざらんや。言うこころは、其れ必ず人を作さん。

○淸酒旣載<叶節力反>、騂<音觪>牡旣備<叶蒲北反>、以享以祀<叶逸織反>、以介景福<叶筆力反>○賦也。載、在尊也。備、全具也。承上章言。有豈弟之德、則祭必受福也。
【読み】
○淸酒旣に載<叶節力反>せ、騂[せい]<音觪>牡旣に備<叶蒲北反>わり、以て享[たてまつ]り以て祀<叶逸織反>りて、以て景[おお]いなる福<叶筆力反>を介[おお]いにす。○賦なり。載は、尊[たる]に在るなり。備は、全く具わるなり。上の章を承けて言う。豈弟の德有れば、則ち祭必ず福を受くるなり。

○瑟彼柞棫、民所燎矣。豈弟君子、神所勞<去聲>矣。興也。瑟、茂密貌。燎、爨也。或曰、熂燎除其旁草、使木茂也。勞、慰撫也。
【読み】
○瑟たる彼の柞棫[さくよく]は、民の燎[かし]げる所。豈弟の君子は、神の勞<去聲>う所。興なり。瑟は、茂ること密なる貌。燎は、爨[かし]ぐなり。或ひと曰く、熂[や]き燎[や]いて其の旁らの草を除いて、木をして茂らしむ、と。勞は、慰撫なり。

○莫莫葛藟<音壘>、施<音異>于條枚<音梅>。豈弟君子、求福不回。興也。莫莫、盛貌。回、邪也。
【読み】
○莫莫たる葛藟[かつるい]<音壘>、條枚[じょうばい]<音梅>に施[は]<音異>えり。豈弟の君子、福を求めて回[よこしま]ならず。興なり。莫莫は、盛んなる貌。回は、邪なり。

旱麓六章章四句
【読み】
旱麓[かんろく]六章章四句


思齊<音齋>大任、文王之母、思媚周姜、京室之婦<音阜>。大姒嗣徽音、則百斯男<叶尼心反>○賦也。思、語辭。齊、莊。媚、愛也。周姜、大王之妃、大姜也。京、周也。大姒、文王之妃也。徽、美也。百男、舉成數而言其多也。○此詩亦歌文王之德、而推本言之曰、此莊敬之大任、乃文王之母、實能媚于周姜。而稱其爲周室之婦。至於大姒、又能繼其美德之音、而子孫衆多。上有聖母、所以成之者遠、内有賢妃所以助之者深也。
【読み】
思[そ]れ齊[つつし]<音齋>める大任は、文王の母、思れ周姜を媚[いつく]しむ、京室の婦<音阜>なり。大姒徽[よ]き音を嗣いで、則ち百の斯の男<叶尼心反>あり。○賦なり。思は、語の辭。齊は、莊[つつし]む。媚は、愛しむなり。周姜は、大王の妃、大姜なり。京は、周なり。大姒は、文王の妃なり。徽は、美きなり。百の男は、成數を舉げて其の多きを言うなり。○此の詩も亦文王の德を歌いて、推し本づけて之を言いて曰く、此れ莊敬なる大任は、乃ち文王の母、實に能く周姜を媚しむ、と。而して其れ周室の婦爲ることを稱す。大姒に至りて、又能く其の美德の音を繼いで、子孫衆多なり。上に聖母有りて、之を成す所以の者遠く、内に賢妃有りて之を助くる所以の者深し。

○惠于宗公、神罔時怨、神罔時恫<音通>。刑于寡妻、至于兄弟、以御<音迓>于家邦<叶下工反>○賦也。惠、順也。宗公、宗廟先公也。恫、痛也。刑、儀法也。寡妻、猶言寡小君也。御、迎也。○言文王順于先公、而鬼神歆之無怨恫者、其儀法、内施於閨門、而至于兄弟、以御于家邦也。孔子曰、家齊而後國治。孟子曰、言舉斯心加諸彼而已。張子曰、言接神人、各得其道也。
【読み】
○宗公に惠[したが]いて、神時[こ]れ怨むこと罔く、神時れ恫[いた]<音通>むこと罔し。寡妻に刑[のり]して、兄弟に至り、以て家邦<叶下工反>に御[むか]<音迓>えり。○賦なり。惠は、順うなり。宗公は、宗廟の先公なり。恫[とう]は、痛むなり。刑は、儀法なり。寡妻は、猶寡小君と言うがごとし。御は、迎うなり。○言うこころは、文王先公に順いて、鬼神之を歆[う]けて怨み恫むこと無き者は、其の儀法、内は閨門に施して、兄弟に至り、以て家邦に御えばなり。孔子曰く、家齊いて後に國治まる、と。孟子曰く、言うこころは、斯の心を舉げて諸を彼に加うるのみ、と。張子が曰く、言うこころは、神人に接[まじ]わりて、各々其の道を得、と。

○雝雝<音雍>在宮、肅肅在廟<叶音貌>。不顯亦臨、無射<音亦>亦保<叶音鮑>○賦也。雝雝、和之至也。肅肅、敬之至也。不顯、幽隱之處也。射、與斁同。厭也。保、猶守也。○言文王在閨門之内、則極其和、在宗廟之中、則極其敬。雖居幽隱、亦常若有臨之者。無厭射、亦常有所守焉。其純亦不已蓋如是。
【読み】
○雝雝[ゆうゆう]<音雍>として宮に在り、肅肅として廟<叶音貌>に在り。顯らかならざれども亦臨めるがごとく、射[いと]<音亦>うこと無けれども亦保<叶音鮑>てり。○賦なり。雝雝は、和の至りなり。肅肅は、敬の至りなり。顯らかならざるは、幽隱の處なり。射は、斁[いと]うと同じ。厭うなり。保は、猶守るのごとし。○言うこころは、文王閨門の内に在りては、則ち其の和を極め、宗廟の中に在りては、則ち其の敬を極む。幽隱に居ると雖も、亦常に之に臨む者有るが若し。厭い射うこと無けれども、亦常に守る所有り。其の純[もっぱ]らにして亦已まざること蓋し是の如し。

○肆戎疾不殄、烈假<上聲>不瑕。不聞亦式、不諫亦入。賦也。肆、故今也。戎、大也。疾、猶難也。大難、如羑里之囚、及昆夷獫狁之屬也。殄、絕。烈、光。假、大。瑕、過也。此兩句、與不殄厥慍、不隕厥問、相表裏。聞、前聞也。式、法也。○承上章言、文王之德如此。故其大難雖不殄絕、而光大亦無玷鈌。雖事之無所前聞者、而亦無不合於法度。雖無諫諍之者、而亦未嘗不入於善。傳所謂性與天合是也。
【読み】
○肆[ゆえ]に戎[おお]いなる疾[なや]み殄[た]えざれども、烈[ひかり]假[おお]<上聲>いにして瑕[か]けず。聞かざれども亦式[のり]あり、諫めざれども亦入れり。賦なり。肆は、故に今なり。戎は、大いなり。疾は、猶難みのごとし。大いなる難みとは、羑里の囚われと、昆夷獫狁[けんいん]の屬の如し。殄は、絕つ。烈は、光。假は、大い。瑕は、過なり。此の兩句は、厥の慍りを殄たざれども、亦厥の問[ほまれ]を隕[おと]さずと、相表裏す。聞は、前に聞くなり。式は、法なり。○上の章を承けて言う。文王の德此の如し。故に其の大いなる難み殄ち絕えずと雖も、而して光大いにして亦玷[か]け鈌[か]くること無し。事の前に聞く所の者無しと雖も、而して亦法度に合わざること無し。諫諍する者無しと雖も、而して亦未だ嘗て善に入らずんばあらず、と。傳に所謂性と天と合うとは是れなり。

○肆成人有德、小子有造。古之人無斁<音亦>、譽髦斯士。賦也。冠以上爲成人。小子、童子也。造、爲也。古之人、指文王也。譽、名。髦、俊也。○承上章言。文王之德見於事者如此。故一時人材、皆得其所成就。蓋由其德純而不已。故令此士皆有譽於天下、而成其俊乂之美也。
【読み】
○肆に成人は德有り、小子は造[す]ること有り。古の人斁[いと]<音亦>うこと無し、譽れ髦[ひい]でたる斯の士あり。賦なり。冠するより以上を成人とす。小子は、童子なり。造は、爲なり。古の人は、文王を指すなり。譽は、名。髦は、俊[すぐ]れるなり。○上の章を承けて言う。文王の德事に見る者此の如し。故に一時の人材、皆其の成就する所を得る、と。蓋し其の德の純らにして已まざるに由る。故に此の士をして皆天下に譽れ有らしめて、其の俊乂[しゅんがい]の美きを成すなり。

思齊五章二章章六句三章章四句
【読み】
思齊[しさい]五章二章章六句三章章四句


皇矣上帝、臨下有赫<叶黑各反>、監觀四方、求民之莫。維此二國、其政不獲<叶胡郭反>、維彼四國、爰究爰度<入聲>。上帝耆之、憎其式廓、乃眷西顧、此維與宅<叶達各反>○賦也。皇、大。臨、視也。赫、威明也。監、亦視也。莫、定也。二國、夏・商也。不獲、謂失其道也。四國、四方之國也。究、尋。度、謀也。耆憎式廓、未詳其義。或曰、耆、致也。憎、當作增。式廓、猶言規模也。此、謂岐周之地也。○此詩叙大王・大伯・王季之德、以及文王伐密伐崇之事也。此其首章先言、天之臨下甚明。但求民之安定而已。彼夏・商之政旣不得矣。故求於四方之國。苟上帝之所欲致者、則增大其疆境之規模、於是乃眷然顧視西土、以此岐周之地、與大王爲居宅也。
【読み】
皇[おお]いなるかな上帝、下を臨[み]ること赫[あき]<叶黑各反>らかなること有り、四方を監觀して、民の莫[さだ]まらんことを求む。維れ此の二國、其の政獲<叶胡郭反>ず、維れ彼の四國、爰に究[たず]ね爰に度[はか]<入聲>れり。上帝之を耆[いた]さんとして、其の式廓[しょくかく]を憎[ま]し、乃ち眷[かえり]み西に顧みて、此れ維れ與え宅[お]<叶達各反>らしむ。○賦なり。皇は、大い。臨は、視るなり。赫は、威明なり。監も、亦視るなり。莫は、定まるなり。二國は、夏・商なり。獲ずは、其の道を失うを謂うなり。四國は、四方の國なり。究は、尋ねる。度は、謀るなり。耆憎式廓は、未だ其の義詳らかならず。或ひと曰く、耆は、致す。憎は、當に增に作るべし。式廓は、猶規模と言うがごとし、と。此は、岐周の地を謂うなり。○此の詩は大王・大伯・王季の德を叙べて、以て文王の密を伐ち崇を伐つ事に及ぶなり。此れ其の首めの章に先ず言う、天の下を臨ること甚だ明らかなり。但民の安んじ定まらんことを求むるのみ。彼の夏・商の政旣に得ず。故に四方の國に求む。苟に上帝の致さんと欲する所の者、則ち其の疆境の規模を增大にし、是に於て乃ち眷[けん]然として西土を顧視して、此の岐周の地を以て、大王に與えて居宅を爲さしむ。

○作之屛<音丙>之、其菑<音緇>其翳<音意>。脩之平之、其灌其栵<音例>。啓之辟<音闢>之、其檉其椐<音居。叶紀庶反>。攘之剔之、其檿<音厭>其柘<叶都故反>。帝遷明德、串<音貫>夷載路。天立厥配、受命旣固。賦也。作、拔起也。屛、去之也。菑、木立死者也。翳、自斃者也。或曰、小木蒙密蔽翳者也。脩・平、皆治之使疏密正直得宜也。灌、叢生者也。栵、行生者也。啓・辟、芟除也。檉、河柳也。似楊赤色。生河邉。椐、也。腫節似扶老。可爲杖者也。攘・剔、謂穿剔。去其繁冗、使成長也。檿、山桑矣。與柘皆美材、可爲弓榦。又可蠶也。明德、謂明德之君。卽太王也。串夷載路、未詳。或曰、串夷、卽混夷。載路、謂滿路而去。所謂混夷駾矣者也。配、賢妃也。謂太姜。○此章言大王遷於岐周之事。蓋岐周之地、本皆山林險阴、無人之境、而近於昆夷。太王居之、人物漸盛、然後漸次開闢如此。乃上帝遷此明德之君、使居其地、而昆夷遠遁。天又爲之立賢妃以助之。是以受命堅固、而卒成王業也。
【読み】
○之を作[ぬ]き之を屛[す]<音丙>つる、其の菑[し]<音緇>其の翳[えい]<音意>。之を脩め之を平らぐ、其の灌[かん]其の栵[れい]<音例>。之を啓[ひら]き之を辟[ひら]<音闢>く、其の檉[てい]其の椐[きょ]<音居。叶紀庶反>。之を攘[はら]い之を剔[き]る、其の檿[えん]<音厭>其の柘[せき]<叶都故反>。帝明德を遷して、串[かん]<音貫>夷路に載[み]てり。天厥の配[たぐい]を立てて、命を受くること旣に固し。賦なり。作は、拔き起こすなり。屛は、之を去つるなり。菑は、木の立ちながら死[か]るる者なり。翳は、自ら斃れる者なり。或ひと曰く、小木蒙密にして蔽翳する者なり。脩・平は、皆之を治めて疏密正直の宜しきを得せしむるなり。灌は、叢だち生る者なり。栵は、行[つら]なり生る者なり。啓・辟は、芟[か]り除くなり。檉は、河柳なり。楊に似て赤色。河邉に生ず。椐は、樻[き]なり。腫節扶老に似たり。杖と爲す可き者なり。攘・剔は、穿剔を謂う。其の繁冗を去りて、成長せしむるなり。檿は、山桑なり。柘と皆美材にして、弓榦とす可し。又蠶に可なり。明德は、明德の君を謂う。卽ち太王なり。串夷載路は、未だ詳らかならず。或ひと曰く、串夷は、卽ち混夷。路に載つは、路に滿ちて去るを謂う、と。所謂混夷駾[つきはし]るという者なり。配は、賢妃なり。太姜を謂う。○此の章大王の岐周に遷る事を言う。蓋し岐周の地は、本皆山林險阴、無人の境にして、昆夷に近し。太王之に居りて、人物漸く盛んにして、然して後に漸次開闢すること此の如し。乃ち上帝此の明德の君を遷して、其の地に居らしめ、而して昆夷遠く遁る。天又之が爲に賢妃を立てて以て之を助く。是を以て命を受くること堅固にして、卒に王業を成せり。

○帝省其山、柞棫斯拔<音佩>、松柏斯兌<徒外反>。帝作邦作對、自大<音泰>伯・王季。維此王季、因心則友<叶羽已反>。則友其兄<叶虛王反>、則篤其慶<叶袪羊反>、載錫之光。受祿無喪<去聲。叶平聲>、奄有四方。賦也。拔・兌、見緜篇。此亦言其山林之閒、道路通也。對、猶當也。作對、言擇其可當此國者、以君之也。太伯、太王之長子。王季、太王之少子也。因心、非勉强也。善兄弟曰友。兄、謂大伯也。篤、厚。載、則也。奄字之義、在忽遂之閒。○言帝省其山、而見其木拔道通、則知民之歸之者益衆矣。於是旣作之邦、又與之賢君、以嗣其業。蓋自其初生大伯・王季之時而已定矣。於是大伯見王季生文王、又知天命之有在。故適吳不反。大王沒、而國傳於王季。及文王、而周道大興也。然以太伯而避王季、則王季疑於不友、故又特言王季所以友其兄者。乃因其心之自然、而無待於勉强。旣受大伯之讓、則益脩其德、以厚周家之慶、而與其兄以讓德之光。猶曰彰其知人之明、不爲徒讓耳。其德如是。故能受天祿而不失、至于文王、而奄有四方也。
【読み】
○帝其の山を省るに、柞棫[さくよく]斯れ拔<音佩>きんで、松柏斯れ兌[とお]<徒外反>れり。帝邦を作[な]し對を作すこと、大<音泰>伯・王季よりせり。維れ此の王季、心に因りて則ち友<叶羽已反>あり。則ち其兄<叶虛王反>に友あり、則ち其の慶[さいわい]<叶袪羊反>を篤くし、載[すなわ]ち之に光を錫[あた]えり。祿[さいわい]を受けて喪<去聲。叶平聲>うこと無く、奄[つい]に四方を有てり。賦なり。拔・兌は、緜の篇に見えたり。此れ亦其の山林の閒、道路の通ずるを言うなり。對は、猶當たるのごとし。對を作すとは、其の此の國に當たる可き者を擇びて、以て之を君とするを言うなり。太伯は、太王の長子。王季は、太王の少子なり。心に因るとは、勉强するに非ざるなり。兄弟に善きを友と曰う。兄は、大伯を謂うなり。篤は、厚き。載は、則ちなり。奄の字の義は、忽遂の閒に在り。○言うこころは、帝其の山を省て、其の木拔きんで道通ずるを見れば、則ち民の之に歸する者益々衆きことを知る。是に於て旣に之が邦を作し、又之を賢君に與えて、以て其の業を嗣がしむ。蓋し其の初めて大伯・王季を生せる時よりして已に定まれり。是に於て大伯、王季の文王を生せるを見て、又天命の在ること有るを知る。故に吳に適きて反らず。大王沒して、國王季に傳う。文王に及んで、周の道大いに興るなり。然れども太伯にして王季を避くるときは、則ち王季不友に疑わしきを以て、故に又特に王季の其の兄に友なる所以の者を言う。乃ち其の心の自然に因りて、勉强を待つこと無し。旣に大伯の讓るを受け、則ち益々其の德を脩め、以て周家の慶を厚くして、其の兄に與うるに德に讓るの光を以てす。猶其の人を知るの明を彰らかにし、徒に讓るとせずと曰うがごときのみ。其の德是の如し。故に能く天祿を受けて失わず、文王に至りて、奄に四方を有てり。

○維此王季、帝度<入聲>其心、貊<音麥>其德音、其德克明。克明克類、克長克君。王<如字。去聲>此大邦、克順克比<音匕>。比<去聲>于文王、其德靡悔<叶虎洧反>。旣受帝祉、施<音異>于孫子<叶獎里反>○賦也。度、能度物制義也。貊、春秋傳・樂記皆作莫。謂其莫然淸靜也。克明、能察是非也。克類、能分善惡也。克長、敎誨不倦也。克君、賞慶刑威也。言其賞不僭。故人以爲慶。刑不濫。故人以爲威也。順、慈和徧服也。比、上下相親也。比于、至于也。悔、遺恨也。○言上帝制王季之心、使有尺寸能度義。又淸靜其德音、使無非閒之言。是以王季之德能此六者。至於文王、而其德尤無遺恨。是以旣受上帝之福、而延及于子孫也。
【読み】
○維れ此の王季、帝其の心を度<入聲>らしめ、其の德音を貊[しず]<音麥>かにして、其の德克く明らかなり。克く明らかに克く類[わか]ち、克く長々[おさおさ]しく克く君たり。此の大邦に王<字の如し。去聲>として、克く順い克く比[した]<音匕>しめり。文王に比[いた]<去聲>りて、其の德悔<叶虎洧反>ゆること靡し。旣に帝の祉[さいわい]を受け、孫子<叶獎里反>に施[およ]<音異>ぼせり。○賦なり。度は、能く物を度り義を制するなり。貊[ばく]は、春秋傳・樂記に皆莫に作る。其の莫然として淸靜なるを謂うなり。克く明らかとは、能く是非を察するなり。克く類つとは、能く善惡を分かつなり。克く長々しとは、敎誨倦まざるなり。克く君たりとは、賞慶刑威あるなり。言うこころは、其の賞僭[みだ]れず。故に人以て慶びを爲す。刑濫[みだ]れず。故に人以て威ありとす。順は、慈しみ和らいで徧く服するなり。比は、上下相親しむなり。比于は、至于なり。悔は、遺恨なり。○言うこころは、上帝王季の心を制して、尺寸も能く義を度ること有らしむ。又其の德音を淸靜にして、非閒の言無からしむ。是を以て王季の德此の六つの者を能くす。文王に至りて、其の德尤も遺恨無し。是を以て旣に上帝の福を受けて、延[ひ]いて子孫に及ぼせり。

○帝謂文王、無然畔援、無然歆羨。誕先登于岸<叶魚戰反>。密人不恭、敢距大邦<叶卜攻反>、侵阮徂共<音恭>。王赫斯怒<叶暖五反>、爰整其旅、以按<音遏>徂旅、以篤于周祜<候五反>、以對于天下<叶後五反>○賦也。帝謂文王、設爲天命文王之詞。如下所言也。無然、猶言不可如此也。畔、離畔也。援、攀援也。言舍此而取彼也。歆、欲之動也。羨、愛慕也。言肆情以狥物也。岸、道之極至處也。密、密須氏也。姞姓之國、在今寧州。阮、國名。在今涇州。徂、往也。共、阮國之地名。今涇州之共池是也。其旅、周師也。按、遏也。徂旅、密師之往共者也。祜、福。對、答也。○人心有所畔援、有所歆羨、則溺於人欲之流、而不能以自濟。文王無是二者。故獨能先知先覺、以造道之極至。蓋天實命之、而非人力之所及也。是以密人不恭、敢違其命、而擅興師旅以侵阮、而往至于共、則赫怒整兵、而往遏其衆、以厚周家之福、而答天下之心。蓋亦因其可怒而怒之、初未嘗有所畔援歆羨也。此文王征伐之始也。
【読み】
○帝文王に謂[つ]ぐ、然く畔[はな]れ援[ひ]くこと無かれ、然く歆[うご]き羨[ねが]うこと無かれ。誕[おお]いに先ず岸[きわ]<叶魚戰反>まれるに登れり。密人恭しからずして、敢えて大邦<叶卜攻反>を距み、阮を侵して共<音恭>に徂けり。王赫として斯[ここ]に怒<叶暖五反>り、爰に其の旅を整え、以て徂く旅を按[とど]<音遏>め、以て周の祜[さいわい]<候五反>を篤くし、以て天下<叶後五反>に對[こた]えり。○賦なり。帝文王に謂ぐとは、設けて天の文王に命ずるの詞とす。下に言う所の如し。然く無かれとは、猶此の如くなる可からずと言うがごとし。畔は、離れ畔くなり。援は、攀[かか]り援くなり。此を舍てて彼を取るを言うなり。歆[きん]は、欲の動くなり。羨は、愛慕なり。情を肆にして以て物に狥[したが]うを言うなり。岸は、道の極至の處なり。密は、密須氏なり。姞姓の國、今の寧州に在り。阮は、國の名。今の涇州に在り。徂は、往くなり。共は、阮國の地の名。今の涇州の共池是れなり。其の旅は、周の師なり。按は、遏[とど]むるなり。徂く旅は、密の師の共に往く者なり。祜[こ]は、福。對は、答うるなり。○人心畔援する所有り、歆羨する所有れば、則ち人欲の流に溺れて、以て自ら濟[な]ること能わず。文王は是の二つの者無し。故に獨り能く先ず知り先ず覺り、以て道の極至に造る。蓋し天實に之に命じて、人力の及ぶ所に非ざるなり。是を以て密人恭しからず、敢えて其の命に違いて、擅[ほしいまま]に師旅を興して以て阮を侵して、往いて共に至れば、則ち赫として怒り兵を整えて、往いて其の衆を遏めて、以て周家の福を厚くして、天下の心に答えり。蓋し亦其の怒る可きに因りて之を怒る、初めより未だ嘗て畔援歆羨する所有らざるなり。此れ文王征伐の始めなり。

○依其在京<叶居良反>、侵自阮疆。陟我高岡、無矢我陵、我陵我阿。無飮我泉、我泉我池<叶徒何反>。度其鮮<息淺反>原、居岐之陽、在渭之將。萬邦之方、下民之王。賦也。依、安貌。京、周京也。矢、陳。鮮、喜。將、側。方、郷也。○言文王安然在周之京、而所整之兵、旣遏密人。遂從阮疆、而出以侵密。所陟之岡、卽爲我岡、而人無敢陳兵於陵、飮水於泉、以拒我也。於是相其高原、而徙都焉。所謂程邑也。其地於漢爲扶風安陵。今在京兆府咸陽縣。
【読み】
○依として其れ京<叶居良反>に在[い]まし、阮の疆より侵せり。我が高き岡に陟[のぼ]れば、我が陵に矢[つら]ぬる無し、我が陵我が阿[くま]に。我が泉に飮める無し、我が泉我が池<叶徒何反>に。其の鮮[よ]<息淺反>き原を度りて、岐の陽[みなみ]に居り、渭の將[ほとり]に在り。萬邦の方[む]かう、下民の王なり。賦なり。依は、安き貌。京は、周の京なり。矢は、陳ぬるなり。鮮は、喜き。將は、側。方は、郷かうなり。○言うこころは、文王安然として周の京に在りて、整うる所の兵、旣に密人を遏む。遂に阮の疆に從いて、出でて以て密を侵す。陟る所の岡は、卽ち我が岡と爲して、人敢えて兵を陵に陳ね、水を泉に飮んで、以て我を拒ぐ無し。是に於て其の高原を相[み]て、都を徙[うつ]せり。所謂程邑なり。其の地は漢に於て扶風安陵とす。今の京兆府咸陽縣に在り。

○帝謂文王、予懷明德、不大聲以色、不長夏以革。不識不知、順帝之則。帝謂文王、詢爾仇方、同爾兄弟、以爾鉤援<音爰>、與爾臨衝、以伐崇墉。賦也。予、設爲上帝之自稱也。懷、眷念也。明德、文王之明德也。以、猶與也。夏・革、未詳。則、法也。仇方、讐國也。兄弟、與國也。鉤援、鉤梯也。所以鉤引上城、所謂雲梯者也。臨、臨車也。在上臨下者也。衝、衝車也。從旁衝突者也。皆攻城之具也。崇、國名。在今京兆府鄠縣。墉、城也。史記崇侯虎譖西伯於紂。紂囚西伯於羑里。西伯之臣、閎夭之徒、求美女奇物善馬以獻紂。紂乃赦西伯、賜之弓矢鈇鉞、得專征伐曰、譖西伯者崇侯虎也。西伯歸三年、伐崇侯虎、而作豐邑。○言上帝眷念文王、而言其德之深微、不暴著其形迹。又能不作聦明、以循天理。故又命之以伐崇也。呂氏曰、此言文王德不形而功無迹。與天同體而已。雖興兵以伐崇、莫非順帝之則、而非我也。
【読み】
○帝文王に謂ぐ、予れ明德を懷[おも]う、聲と色とを大いにせず、夏[おお]いなると革むるとを長[ま]さず。識らず知らずして、帝の則に順えり。帝文王に謂ぐ、爾の仇方に詢[と]いて、爾の兄弟を同じくし、爾の鉤[こう]援<音爰>と、爾の臨衝と、以て崇の墉[よう]を伐て。賦なり。予は、設けて上帝の自稱をするなり。懷は、眷[かえり]みて念うなり。明德は、文王の明德なり。以は、猶與のごとし。夏・革は、未だ詳らかならず。則は、法なり。仇方は、讐國なり。兄弟は、與國なり。鉤援は、鉤梯なり。鉤[か]けて引いて城に上る所以、所謂雲梯なる者なり。臨は、臨車なり。上に在りて下を臨む者なり。衝は、衝車なり。旁らより衝き突く者なり。皆城を攻むるの具なり。崇は、國の名。今の京兆府鄠[こ]縣に在り。墉は、城なり。史記に崇侯虎西伯を紂に譖る。紂西伯を羑里に囚う。西伯の臣、閎夭[こうよう]が徒、美女奇物善馬を求めて以て紂に獻ず。紂乃ち西伯を赦して、之に弓矢鈇鉞[ふえつ]を賜いて、征伐を專[ほしいまま]にすることを得せしめて曰く、西伯を譖る者は崇侯虎なり、と。西伯歸りて三年、崇侯虎を伐ちて、豐邑を作れり、と。○言うこころは、上帝文王を眷み念いて、其の德の深く微かにして、其の形迹を暴著せざることを言う。又能く聦明を作さずして、以て天理に循う。故に又之に命じて以て崇を伐たしむ。呂氏が曰く、此れ言うこころは、文王の德形れずして功迹無し。天と體を同じくするのみ。兵を興して以て崇を伐つと雖も、帝の則に順うに非ざる莫くして、我に非ず、と。

○臨衝閑閑<叶胡員反>、崇墉言言、執訊<音信>連連、攸馘<音>安安<叶於肩反>。是類是禡<音罵>、是致是附<叶上聲>。四方以無侮。臨衝茀茀<音弗。叶文聿反>、崇墉仡仡<音屹>。是伐是肆、是絕是忽<叶虛屈反>。四方以無拂<叶分聿反>○賦也。閑閑、徐緩也。言言、高大也。連連、屬續狀。馘、割耳也。軍法、獲者不服、則殺而獻其左耳。安安、不輕暴也。類、將出師祭上帝也。禡、至所征之地、而祭始造軍法者。謂黃帝及蚩尤也。致、致其至也。附、使之來附也。茀茀、强盛貌。仡仡、堅壯貌。肆、縱兵也。忽、滅。拂、戾也。春秋傳曰、文王伐崇、三旬不降。退脩敎而復伐之。因壘而降。○言文王伐崇之初、緩攻徐戰、告祀群神、以致附來者、而四方無不畏服。及終不服、則縱兵以滅之、而四方無不順從也。夫始攻之緩、戰之徐也、非力不足也、非示之弱也。將以致附而全之也。及其終不下、而肆之也、則天誅不可以留、而罪人不可以不得故也。此所謂文王之師也。
【読み】
○臨衝閑閑<叶胡員反>たり、崇墉言言たり、訊[と]<音信>うべきを執[とら]うること連連たり、馘[みみき]<音>る攸安安<叶於肩反>たり。是れ類し是れ禡[ば]<音罵>し、是れ致し是れ附<叶上聲>く。四方以て侮ること無し。臨衝茀茀[ふつふつ]<音弗。叶文聿反>たり、崇墉仡仡[きつきつ]<音屹>たり。是れ伐ち是れ肆[はな]ち、是れ絕ち是れ忽[ほろ]<叶虛屈反>ぼせり。四方以て拂[もと]<叶分聿反>ること無し。○賦なり。閑閑は、徐[しず]かに緩やかなり。言言は、高く大いなり。連連は、屬[つ]き續く狀。馘[かく]は、耳を割くなり。軍法に、獲る者服せざれば、則ち殺して其の左の耳を獻ず、と。安安は、輕々しく暴れざるなり。類は、將に師を出さんとして上帝を祭るなり。禡は、征する所の地に至りて、始めて軍法を造る者を祭る。黃帝及び蚩尤[しゆう]を謂うなり。致すは、其の至らんことを致すなり。附くは、之をして來り附かしむるなり。茀茀は、强く盛んなる貌。仡仡は、堅く壯んなる貌。肆は、兵を縱[はな]つなり。忽は、滅ぶ。拂は、戾るなり。春秋傳に曰く、文王崇を伐ち、三旬にして降らず。退いて敎を脩めて復之を伐つ。壘に因りて降る、と。○言うこころは、文王崇を伐つの初め、緩く攻め徐かに戰い、群神に告げ祀りて、以て來る者を致し附けて、四方畏服せざる無し。終に服せざるに及んで、則ち兵を縱ちて以て之を滅ぼして、四方順い從わざる無し。夫れ始め攻むること緩く、戰いの徐かなる、力足らざるに非ず、之に弱きを示すに非ず。將に以て致し附けて之を全くせんとするなり。其の終に下らざるに及んで、之を肆つは、則ち天誅は以て留むる可からずして、人を罪するは以て得ずんばある可からざる故なり。此れ所謂文王の師なり。

皇矣八章章十二句。一章二章言天命大王、三章四章言天命王季、五章六章言天命文王伐密、七章八章言天命文王伐崇。
【読み】
皇矣[こうい]八章章十二句。一章二章は天大王に命ずるを言い、三章四章は天王季に命ずるを言い、五章六章は天文王に命じて密を伐つを言い、七章八章は天文王に命じて崇を伐つを言う。


經始靈臺<叶田飴反>、經之營之。庶民攻之、不日成之。經始勿亟<音棘>、庶民子來<叶六直反>○賦也。經、度也。靈臺、文王所作。謂之靈者、言其倐然而成、如神靈之所爲也。營、表。攻、作也。不日、不終日也。亟、急也。○國之有臺、所以望氛祲、察災祥、時觀游、節勞佚也。文王之臺、方其經度營表之際、而庶民已來作之。所以不終日而成也。雖文王心恐煩民、戒令勿亟、而民心樂之、如子趣父事、不召自來也。孟子曰、文王以民力爲臺爲沼。而民歡樂之。謂其臺曰靈臺、謂其沼曰靈沼。此之謂也。
【読み】
靈臺<叶田飴反>を經[はか]り始めて、之を經り之を營[しる]す。庶民之を攻[つく]れり、日あらずして之を成せり。經始亟[すみ]<音棘>やかにすること勿けれども、庶民子のごとく來<叶六直反>れり。○賦なり。經は、度るなり。靈臺は、文王の作る所。之を靈と謂うは、言うこころは、其れ倐[しゅく]然として成ること、神靈の爲す所の如し。營は、表す。攻は、作るなり。日あらずは、日を終えざるなり。亟は、急なり。○國の臺有るは、氛祲[ふんしん]を望み、災祥を察し、觀游を時にし、勞佚を節する所以なり。文王の臺、其の經度營表の際に方りて、庶民已に來りて之を作る。日を終えずして成る所以なり。文王の心民を煩わすを恐れて、戒めて亟やかにすること勿らしむると雖も、民の心之を樂しむこと、子の父の事に趣いて召さずして自ら來るが如し。孟子曰く、文王民力を以て臺を爲り沼を爲る。而るを民之を歡び樂しむ。其の臺を謂いて靈臺と曰い、其の沼を謂いて靈沼と曰う、と。此れ之を謂うなり。

○王在靈囿<叶音郁>、麀<音憂>鹿攸伏。麀鹿濯濯、白鳥翯翯<音鶴>。王在靈沼<叶音灼>、於牣魚躍。賦也。靈囿、臺之下有囿。所以域養禽獸也。麀、牝鹿也。伏、言安其所處、不驚擾也。濯濯、肥澤貌。翯翯、潔白貌。靈沼、囿之中有沼也。牣、滿也。魚滿而躍、言多而得其所也。
【読み】
○王靈囿[れいゆう]<叶音郁>に在[い]ませり、麀[ゆう]<音憂>鹿の伏す攸。麀鹿濯濯たり、白鳥翯翯[かくかく]<音鶴>たり。王靈沼<叶音灼>に在ませり、於[ああ]牣[み]ちて魚躍れり。賦なり。靈囿は、臺の下に囿有り。域して禽獸を養う所以なり。麀は、牝鹿なり。伏すは、言うこころは、其の處る所に安んじて、驚き擾[さわ]がざるなり。濯濯は、肥え澤[うるお]える貌。翯翯は、潔く白き貌。靈沼は、囿の中に沼有るなり。牣[じん]は、滿つる。魚滿ちて躍るとは、言うこころは、多くして其の所を得るなり。

○虡<音巨>業維樅<音匆>、賁<音焚>鼓維鏞<音庸>。於論<平聲>鼓鐘、於樂<音洛><音璧>廱。賦也。虡、植木以懸鐘磬。其橫者曰栒。業、栒上大版。刻之捷業、如鋸齒者也。樅、業上懸鐘磬處、以綠色爲崇牙。其狀樅樅然者也。賁、大鼓也。長八尺鼓四尺、中圍加三之一。鏞、大鐘也。論、倫也。言得其倫理也。辟、璧通。廱、澤也。辟廱、天子之學。大射行禮之處也。水旋丘如璧。以節觀者。故曰辟雍。
【読み】
○虡[きょ]<音巨>業維れ樅[しょう]あり<音匆>、賁<音焚>鼓維れ鏞[よう]<音庸>。於論<平聲>たり鼓鐘、於樂<音洛>しめり辟<音璧>廱[よう]。賦なり。虡は、木を植えて以て鐘磬[しょうけい]を懸くる。其の橫なる者を栒[じゅん]と曰う。業は、栒の上の大版。之を刻んで捷業として、鋸の齒の如き者なり。樅は、業の上の鐘磬を懸くる處、綠色を以て崇牙を爲す。其の狀樅樅然たる者なり。賁は、大鼓なり。長さ八尺鼓四尺、中圍三の一を加う。鏞は、大鐘なり。論は、倫[のり]なり。言うこころは、其の倫理を得るなり。辟は、璧と通ず。廱は、澤なり。辟廱は、天子の學。大射禮を行うの處なり。水丘を旋ること璧の如し。以て觀る者を節にす。故に辟雍と曰う。

○於論鼓鐘、於樂辟廱。鼉<音馱>鼓逢逢<音蓬>、矇<音蒙><音叟>奏公。賦也。鼉、似蜥蜴長丈餘、皮可冒鼓。逢逢、和也。有眸子而無見曰矇、無眸子曰瞍。古者樂師皆以瞽者爲之。以其善聽而審於音也。公、事也。聞鼉鼓之聲、而知矇瞍方奏其事也。
【読み】
○於論たり鼓鐘、於樂しめり辟廱。鼉[だ]<音馱>鼓逢逢<音蓬>たり、矇<音蒙><音叟>公[こと]を奏でり。賦なり。鼉は、蜥蜴に似て長さ丈餘、皮は鼓を冒[おお]う可し。逢逢は、和らぐなり。眸子[ぼうし]有りて見ること無きを矇と曰い、眸子無きを瞍と曰う。古は樂師は皆瞽者を以て之を爲す。其の善く聽いて音に審らかなるを以てなり。公は、事なり。鼉鼓の聲を聞いて、矇瞍の方に其の事を奏でることを知るなり。

靈臺四章二章章六句二章章四句。東萊呂氏曰、前二章樂文王有臺池鳥獸之樂也。後二章樂文王有鐘鼓之樂也。皆述民樂之詞也。
【読み】
靈臺[れいたい]四章二章章六句二章章四句。東萊の呂氏が曰く、前の二章は文王の臺池鳥獸の樂しみ有るを樂しむ。後の二章は文王の鐘鼓の樂しみ有るを樂しむ。皆民之を樂しむの詞を述ぶる、と。


下武維周、世有哲王。三后在天、王配于京<叶居良畔>○賦也。下義未詳。或曰、字當作文。言文王・武王實造周也。哲王、通言大王・王季也。三后、大王・王季・文王也。在天、旣沒而其精神上與天合也。王、武王也。配、對也。謂繼其位以對三后也。京、鎬京也。○此章美武王能纘大王・王季・文王之緒、而有天下也。
【読み】
下[ぶん]武維れ周なせり、世々哲王有り。三后天に在[いま]し、王京<叶居良畔>に配せり。○賦なり。下の義未だ詳らかならず。或ひと曰く、字を當に文に作るべし、と。言うこころは、文王・武王實に周を造せり。哲王は、通じて大王・王季を言うなり。三后は、大王・王季・文王なり。天に在すとは、旣に沒して其の精神は上天と合うなり。王は、武王なり。配は、對なり。其の位を繼いで以て三后に對するを謂う。京は、鎬京なり。○此の章は武王能く大王・王季・文王の緒を纘[つ]いで、天下を有つことを美む。

○王配于京、世德作求。永言配命、成王之孚<叶孚尤反>○賦也。言武王能繼先王之德、而長言合於天理。故能成王者之信於天下也。若暫合而遽離、暫得而遽失、則不足以成其信矣。
【読み】
○王京に配せるは、世々の德作りて求むればなり。永く言[ここ]に命に配して、王の孚<叶孚尤反>を成せり。○賦なり。言うこころは、武王能く先王の德を繼いで、長く言に天理に合う。故に能く王者の信を天下に成すなり。若し暫く合いて遽に離れ、暫く得て遽に失わば、則ち以て其の信を成すに足らざるなり。

○成王之孚、下土之式。永言孝思、孝思維則。賦也。式・則、皆法也。○言武王所以能成王者之信、而爲四方之法者、以其長言孝思而不忘、是以其孝可爲法耳。若有時而忘之、則其孝者僞耳。何足法哉。
【読み】
○王の孚を成して、下土の式[のり]なり。永く言に孝を思いて、孝思維れ則ればなり。賦なり。式・則は、皆法なり。○言うこころは、武王能く王者の信を成して、四方の法と爲る所以の者は、其の長く言に孝を思いて忘れざるを以て、是を以て其の孝法と爲る可きのみ。若し時有りて之を忘るれば、則ち其の孝なる者は僞りなるのみ。何ぞ法とするに足らんや。

○媚茲一人、應侯順德。永言孝思、昭哉嗣服<叶蒲北反>○賦也。媚、愛也。一人、謂武王。應、如丕應徯志之應。侯、維。服、事也。○言天下之人、皆愛戴武王、以爲天子。而所以應之、維以順德。是武王能長言孝思、而明哉其嗣先王之事也。
【読み】
○媚[いつく]しんで茲の一人、應ずるに侯[こ]れ順德をせり。永く言に孝を思いて、昭らかなるかな服[こと]<叶蒲北反>を嗣げること。○賦なり。媚は、愛しむなり。一人は、武王を謂う。應は、丕[おお]いに應じ志を徯[ま]つの應の如し。侯は、維れ。服は、事なり。○言うこころは、天下の人、皆武王を愛しみ戴いて、以て天子とす。而して之に應ずる所以は、維れ順德を以てなり。是れ武王能く長く言に孝を思いて、明らかなるかな其の先王の事を嗣げること。

○昭茲來許、繩其祖武、於萬斯年、受天之祜<音戶>○賦也。昭茲、承上句而言。茲・哉、聲相近。古蓋通用也。來、後世也。許、猶所也。繩、繼。武、迹也。○言武王之道昭明如此。來世能繼其迹、則久荷天祿、而不替矣。
【読み】
○昭らかなるかな來許、其の祖の武[あと]を繩[つ]がば、萬の斯の年に於て、天の祜[さいわい]<音戶>を受けん。○賦なり。昭茲は、上の句を承けて言う。茲と哉とは、聲相近し。古は蓋し通用す。來は、後世なり。許は、猶所のごとし。繩は、繼ぐ。武は、迹なり。○言うこころは、武王の道昭明なること此の如し。來世能く其の迹を繼がば、則ち久しく天祿を荷いて、替わらざるなり。

○受天之祜、四方來賀。於萬斯年、不遐有佐。賦也。賀、朝賀也。周末秦强。天子致胙、諸侯皆賀。遐、何通。佐、助也。蓋曰、豈不有助乎云爾。
【読み】
○天の祜を受けて、四方來賀せん。萬の斯の年に於て、遐[なん]ぞ佐け有らざらん。賦なり。賀は、朝賀なり。周の末は秦强し。天子胙[そ]を致し、諸侯皆賀す。遐は、何と通ず。佐は、助くなり。蓋し曰く、豈助け有らざるやと爾か云えり。

下武六章章四句。或疑、此詩有成王字、當爲康王以後之詩。然考尋文意、恐當只如舊說。且其文體亦與上下篇、血脈通貫。非有誤也。
【読み】
下武[かぶ]六章章四句。或ひと疑う、此の詩に成王の字有り、當に康王以後の詩とすべし、と。然るに文意を考え尋ぬるに、恐らくは當に只舊說の如くなるべし。且つ其の文體も亦上下の篇と、血脈通貫す。誤り有るに非ざるなり。


文王有聲、遹<音聿>駿<音峻>有聲。遹求厥寧、遹觀厥成。文王烝哉。賦也。遹義未詳。疑與聿同。發語詞。駿、大也。烝、君也。○此詩言文王遷豐、武王遷鎬之事、而首章推本之曰、文王之有聲也。甚大乎其有聲也。蓋以求天下之安寧、而觀其成功耳。文王之德如是。信乎其克君也哉。
【読み】
文王聲[な]有り、遹[そ]<音聿>れ駿[おお]<音峻>いに聲有り。遹れ厥の寧からんことを求めて、遹れ厥の成れるを觀る。文王烝[きみ]なるかな。賦なり。遹の義は未だ詳らかならず。疑うらくは聿と同じ。發語の詞。駿は、大いなり。烝は、君なり。○此の詩は文王豐に遷り、武王鎬に遷るの事を言いて、首めの章は之に推し本づけて曰く、文王聲有り。甚だ大いなるかな其の聲有るや。蓋し以て天下の安寧を求めて、其の功を成れるを觀るのみ。文王の德是の如し。信なるかな其れ克く君たるかな、と。

○文王受命、有此武功。旣伐于崇、作邑于豐。文王烝哉。賦也。伐崇事、見皇矣篇。作邑、徙都也。豐、卽崇國之地。在今鄠縣杜陵西南。
【読み】
○文王命を受けて、此の武功有り。旣に崇を伐ちて、邑を豐に作れり。文王烝なるかな。賦なり。崇を伐つの事、皇矣の篇に見えたり。邑を作るは、都を徙[うつ]すなり。豐は、卽ち崇國の地。今の鄠[こ]縣杜陵の西南に在り。

○築城伊淢<音洫>、作豐伊匹。匪棘其欲、遹追來孝<叶許六反。或呼侯反>。王后烝哉。賦也。淢、城溝也。方十里爲城。城閒有溝、深廣各八尺。匹、稱。棘、急也。王后、亦指文王也。○言文王營豐邑之城。因舊溝爲限而築之。其作邑居、亦稱其城而不侈大。皆非急成己之所欲也。特追先人之志、而來致其孝耳。
【読み】
○城を築くこと伊[こ]れ淢[みぞ]<音洫>のままにし、豐を作ること伊れ匹[かな]えり。其の欲を棘[すみ]やかにするに匪ず、遹れ追って來りて孝<叶許六反。或は呼侯反>せんとす。王后烝なるかな。賦なり。淢[きょく]は、城の溝なり。方十里を城とす。城の閒に溝有り、深さ廣さ各々八尺。匹は、稱う。棘は、急なり。王后も、亦文王を指すなり。○言うこころは、文王豐邑の城を營ず。舊溝に因りて限りを爲して之を築く。其の邑居を作るも、亦其の城に稱いて侈大ならず。皆急やかに己が欲する所を成すに非ず。特り先人の志を追って、來りて其の孝を致すのみ。

○王公伊濯、維豐之垣<音袁>。四方攸同、王后維翰<叶胡田反>。王后烝哉。賦也。公、功也。濯、著明也。○王之功所以著明者、以其能築此豐之垣故爾。四方於是來歸、而以文王爲楨榦也。
【読み】
○王の公[こと]伊れ濯[あき]らかなるは、維れ豐の垣<音袁>すればなり。四方の同じくする攸、王后維れ翰<叶胡田反>とせり。王后烝なるかな。賦なり。公は、功なり。濯は、著明なり。○王の功の著明なる所以の者は、其の能く此の豐の垣を築くを以て故のみ。四方是に於て來り歸して、文王を以て楨榦とせり。

○豐水東注、維禹之績。四方攸同、皇王維辟。皇王烝哉。賦也。豐水東北流、徑豐邑之東、入渭而注于河。績、功也。皇王、有天下之號。指武王也。辟、君也。○言豐水東注、由禹之功。故四方得以來同於此、而以武王爲君。此武王未作鎬京時也。
【読み】
○豐水東に注ぐ、維れ禹の績なり。四方の同じくする攸、皇王維れ辟[きみ]とせり。皇王烝なるかな。賦なり。豐水は東北に流れて、豐邑の東を徑、渭に入りて河に注ぐ。績は、功なり。皇王は、天下を有つの號。武王を指すなり。辟は、君なり。○言うこころは、豐水東に注ぐは、禹の功に由る。故に四方以て此に來り同じくするを得て、武王を以て君とせり。此れ武王未だ鎬京を作らざるの時なり。

○鎬京辟廱、自西自東、自南自北、無思不服<叶蒲北反>。皇王烝哉。賦也。鎬京、武王所營也。在豐水東、去豐邑二十五里。張子曰、周家自后稷居邰、公劉居豳、大王邑岐、而文王則遷于豐、至武王又居于鎬。當是時、民之歸者日衆。其地有不能容、不得不遷也。辟廱、說見前篇。張子曰、靈臺辟廱、文王之學也。鎬京辟廱、武王之學也。至此始爲天子之學矣。無思不服、心服也。孟子曰、天下不心服而王者、未之有也。○此言武王徙居鎬京、講學行禮、而天下自服也。
【読み】
○鎬京辟廱[へきよう]あり、西より東より、南より北より、思いて服<叶蒲北反>せざる無し。皇王烝なるかな。賦なり。鎬京は、武王の營ずる所なり。豐水の東に在り、豐邑を去ること二十五里。張子が曰く、周家は后稷邰[たい]に居るより、公劉は豳に居り、大王は岐に邑して、文王は則ち豐に遷り、武王に至りて又鎬に居る。是の時に當たりて、民の歸する者日々に衆し。其の地容るること能わざる有りて、遷らざるを得ざるなり、と。辟廱は、說は前の篇に見えたり。張子が曰く、靈臺の辟廱は、文王の學なり。鎬京の辟廱は、武王の學なり。此に至りて始めて天子の學と爲れり、と。思いて服せざる無しは、心服するなり。孟子曰く、天下心服せずして王たる者は、未だ之れ有らず、と。○此れ言うこころは、武王徙りて鎬京に居り、學を講じ禮を行いて、天下自ら服するなり。

○考卜維王、宅是鎬京<叶居良反>。維龜正<叶諸盈反>之、武王成之。武王烝哉。賦也。考、稽。宅、居。正、决也。成之、作邑居也。張子曰、此舉諡者、追述其事之言也。
【読み】
○卜を考うる維れ王、是の鎬京<叶居良反>に宅[お]らんことを。維れ龜之を正<叶諸盈反>め、武王之を成せり。武王烝なるかな。賦なり。考は、稽うる。宅は、居る。正は、决むるなり。之を成すは、邑居を作るなり。張子が曰く、此に諡を舉ぐるは、追って其の事を述ぶるの言なり、と。

○豐水有芑、武王豈不仕。詒厥孫謀、以燕翼子<叶奬里反>。武王烝哉。興也。芑、草名。仕、事。詒、遺。燕、安。翼、敬也。子、成王也。○鎬京猶在豐水下流。故取以起興。言豐水猶有芑、武王豈無所事乎。詒厥孫謀、以燕翼子、則武王之事也。謀及厥孫、則子可以無事矣。或曰、賦也。言豐水之傍、生物繁茂。武王豈不欲有事於此哉。但以欲遺孫謀、以安翼子。故不得而不遷耳。
【読み】
○豐水に芑[ちさ]有り、武王豈仕[こと]あらざらんや。厥の孫謀を詒[おく]りて、以て翼[つつし]める子<叶奬里反>を燕[やす]んぜり。武王烝なるかな。興なり。芑[き]は、草の名。仕は、事。詒は、遺[おく]る。燕は、安んず。翼は、敬むなり。子は、成王なり。○鎬京は猶豐水の下流に在り。故に取りて以て興を起こす。言うこころは、豐水に猶芑有り、武王豈事とする所無からんや。厥の孫謀を詒りて、以て翼める子を燕んずるは、則ち武王の事なり。謀厥の孫に及べば、則ち子は以て事とすること無かる可し。或ひと曰く、賦、と。言うこころは、豐水の傍ら、物を生ずること繁茂たり。武王豈此に事とすること有るを欲せざらんや。但以て孫謀を遺りて、以て翼める子を安んぜんと欲す。故に得て遷らずんばあらざるのみ。

文王有聲八章章五句。此詩以武功稱文王。至于武王、則言皇王維辟、無思不服而已。蓋文王旣造厥始、則武王續而終之無難也。又以見文王之文、非不足於武。而武王之有天下、非以力取之也。
【読み】
文王有聲[ぶんおうゆうせい]八章章五句。此の詩は武功を以て文王を稱せり。武王に至りて、則ち言う、皇王維れ辟とせり、思いて服せざる無きとのみ、と。蓋し文王旣に厥の始めを造れば、則ち武王續いで之を終うること難きこと無し。又以て文王の文の、武に足らざるに非ざるを見す。而れども武王の天下を有つこと、力を以て之を取るに非ず。


文王之什十篇六十六章四百一十四句。鄭譜、此以上爲文武時詩、以下爲成王周公時詩。今按文王首句、卽云文王在上、卽非文王之詩矣。又曰、無念爾祖、則非武王之詩矣。大明有聲幷言文武者非一。安得爲文武之時所作乎。蓋正雅皆成王周公以後之詩。但此什皆爲追述文武之德。故譜因此而誤耳。
【読み】
文王の什十篇六十六章四百一十四句。鄭が譜に、此より以上を文武の時の詩とし、以下を成王周公の時の詩とす、と。今按ずるに、文王の首めの句に、卽ち文王上に在すと云えば、卽ち文王の詩に非ず。又曰く、爾の祖を念うこと無けんやは、則ち武王の詩に非ず、と。大明有聲幷[もっぱ]ら文武を言う者は一に非ず。安んぞ文武の時の作る所とすることを得んや。蓋し正雅は皆成王周公以後の詩。但此の什は皆文武の德を追い述ぶることをす。故に譜は此に因りて誤れるのみ。


生民之什三之二
【読み】
生民[せいみん]の什三の二


厥初生民、時維姜嫄<音原。叶魚倫反>。生民如何、克禋<音因>克祀<叶養里反>、以弗無子<叶奬里反>。履帝武敏<叶母鄙反>歆、攸介攸止、載震載夙<叶相卽反>、載生載育<叶曰逼反>。時維后稷。賦也。民、人也。謂周人也。時、是也。姜嫄、炎帝後。姜姓有邰氏女。名嫄。爲高辛之世妃。精意以享、謂之禋祀。郊禖矣。弗之言、祓也。祓無子、求有子也。古者立郊禖。蓋祭天於郊、而以先媒配也。變媒言禖者、神之也。其禮以玄鳥至之日、用大牢祀之。天子親往、后率九嬪御。乃禮天子所御、帶以弓韣、授以弓矢、于郊禖之前也。履、踐也。帝、上帝也。武、迹。敏、拇。歆、動也。猶驚異也。介、大也。震、娠也。夙、肅也。生子者、及月辰居側室也。育、養也。○姜嫄出祀郊禖見大人迹、而履其拇。遂歆歆然如有人道之感。於是卽其所大所止之處、而震動有娠。乃周人所由以生之始也。周公制禮、尊后稷以配天。故作此詩、以推本其始生之祥、明其受命於天、固有以異於常人也。然巨跡之說、先儒或頗疑之。而張子曰、天地之始、固未嘗先有人也、則人固有化而生者矣。蓋天地之氣生之也。蘇氏亦曰、凡物之異於常物者、其取天地之氣常多。故其生也或異。麒麟之生、異於犬羊、蛟龍之生、異於魚鼈。物固有然者矣。神人之生、而有以異於人。何足怪哉。斯言得之矣。
【読み】
厥の初めて民[ひと]を生めるは、時[こ]れ維れ姜嫄<音原。叶魚倫反>。民を生めること如何、克く禋[まつ]<音因>り克く祀<叶養里反>りて、以て子<叶奬里反>無きに弗[はら]えせり。帝の武[あと]の敏[おおゆび]<叶母鄙反>を履み歆[おどろ]いて、介[おお]いなる攸止まれる攸に、載[すなわ]ち震[はら]み載ち夙[つつし]<叶相卽反>み、載ち生み載ち育[やしな]<叶曰逼反>えり。時れ維れ后稷なり。賦なり。民は、人なり。周人を謂うなり。時は、是れなり。姜嫄は、炎帝の後。姜姓有邰[ゆうたい]氏の女。名は嫄。高辛の世妃爲り。精意にして以て享る、之を禋祀[いんし]と謂う。郊禖[こうばい]なり。弗の言は、祓うなり。子無きを祓うとは、子有ることを求むるなり。古は郊禖を立つ。蓋し天を郊に祭りて、先媒を以て配す。媒を變じて禖と言うは、之を神にするなり。其の禮は玄鳥至るの日を以て、大牢を用いて之を祀る。天子親ら往き、后九嬪を率えて御す。乃ち天子の御する所を禮し、帶びるに弓韣[きゅうとく]を以てし、授くるに弓矢を以てし、郊禖の前に于てす。履は、踐むなり。帝は、上帝なり。武は、迹。敏は、拇。歆[きん]は、動くなり。猶驚異するがごとし。介は、大いなり。震は、娠むなり。夙は、肅むなり。子を生む者は、月辰に及んで側室に居る。育は、養うなり。○姜嫄出でて郊禖を祀り大人の迹を見て、其の拇を履む。遂に歆歆然として人道の感有るが如し。是に於て其の大いなる所止まる所の處に卽いて、震動して娠むこと有り。乃ち周人由って以て生まるる所の始めなり。周公禮を制し、后稷を尊んで以て天に配す。故に此の詩を作りて、以て其の始めて生まるるの祥を推し本づけて、其の命を天に受けて、固に以て常人に異なること有るを明かせり。然れども巨跡の說は、先儒或は頗る之を疑えり。而して張子が曰く、天地の始めは、固に未だ嘗て先だちて人有らず、則ち人固に化して生まるる者有らん。蓋し天地の氣之を生ず、と。蘇氏も亦曰く、凡そ物の常物に異なる者は、其れ天地の氣を取ること常に多し。故に其の生ずるや或は異なり。麒麟の生るは、犬羊に異なり、蛟龍の生るは、魚鼈に異なり。物固に然ること有る者なり。神人の生るは、而して以て人に異なること有らん。何ぞ怪しむに足らんや、と。斯の言之を得たり。

○誕彌厥月、先生如達<音門>。不坼<音拆>不副<音劈。叶孚迫反>、無菑<音災>無害<叶音曷>、以赫厥靈。上帝不寧、不康禋祀<叶養里反>、居然生子<叶奬里反>○賦也。誕、發語辭。彌、終也。終十月之期也。先生、首生也。達、小羊也。羊子、易生無留難也。坼・副、皆裂也。赫、顯也。不寧、寧也。不康、康也。居然、猶徒然也。○凡人之生、必坼副災害其母、而首生之子尤難。今姜嫄首生后稷、如羊子之易。無坼副災害之苦。是顯其靈異也。上帝豈不寧乎、豈不康我之禋祀乎。而使我無人道、而徒然生是子也。
【読み】
○誕[ああ]厥の月を彌[お]えて、先[はじ]めて生むこと達[ひつじ]<音門>の如し。坼[さ]<音拆>けず副[さ]<音劈。叶孚迫反>けず、菑[わざわい]<音災>無く害[やぶ]<叶音曷>れ無くして、以て厥の靈を赫[あらわ]せり。上帝寧んぜざらんや、禋祀[いんし]<叶養里反>を康[やす]んぜざらんや、居然として子<叶奬里反>を生めり。○賦なり。誕は、發語の辭。彌は、終えるなり。十月の期を終えるなり。先生は、首めて生むなり。達は、小羊なり。羊の子は、生まれ易くして留難無し。坼[たく]・副は、皆裂くなり。赫は、顯すなり。不寧は、寧んずるなり。不康は、康んずるなり。居然は、猶徒然のごとし。○凡そ人の生まるるや、必ず其の母を坼副災害して、首めて生む子は尤も難し。今姜嫄首めて后稷を生むこと、羊の子の易きが如し。坼副災害の苦無し。是れ其の靈異を顯すなり。上帝豈寧んぜざらんや、豈我が禋祀を康んぜざらんや。而も我をして人道無くして、徒然として是の子を生ましめんや。

○誕寘之隘巷、牛羊腓<音肥>字之。誕寘之平林、會伐平林。誕寘之寒氷、鳥覆<去聲><音異>之。鳥乃去矣、后稷呱<叶去聲>矣。實覃實訏<叶去聲>、厥聲載路。賦也。隘、狹。腓、芘。字、愛。會、値也。値人伐木而收之。覆、蓋。翼、藉也。以一翼覆之、以一翼藉之也。呱、啼聲也。覃、長。訏、大。載、滿也。滿路、言其聲之大也。○無人道而生子。或者以爲不祥。故棄之而有此異也。於是始收而養之。
【読み】
○誕之を隘巷に寘[お]けば、牛羊之を腓[おお]<音肥>い字[いつく]しめり。誕之を平林に寘けば、平林を伐るに會えり。誕之を寒氷に寘けば、鳥之を覆<去聲>い翼[し]<音異>けり。鳥乃ち去りて、后稷呱[な]<叶去聲>けり。實に覃[ひととな]り實に訏[おお]<叶去聲>いにして、厥の聲路に載[み]てり。賦なり。隘は、狹し。腓は、芘[おお]う。字は、愛しむ。會は、値うなり。人の木を伐るに値いて之を收む。覆は、蓋う。翼は、藉くなり。一翼を以て之を覆い、一翼を以て之に藉くなり。呱[こ]は、啼く聲なり。覃[たん]は、長ずる。訏[く]は、大い。載は、滿つるなり。路に滿つは、其の聲の大いなるを言うなり。○人道無くして子を生む。或者以爲えらく、不祥、と。故に之を棄てて此の異有り。是に於て始めて收めて之を養えり。

○誕實匍<音蒲>匐、克岐克嶷。以就口食、蓺之荏<音餁>菽。荏菽旆旆、禾役穟穟<音遂>、麻麥幪幪<莫孔反>、瓜瓞唪唪<音蚌>○賦也。匍匐、手足並行也。岐・嶷、峻茂之狀。就、向也。口食、自能食也。蓋六七歲時也。蓺、樹也。荏菽、大豆也。旆旆、枝旟揚起也。役、列也。穟穟、苗美好之貌也。幪幪然、茂密也。唪唪然、多實也。○言后稷能食時、已有種殖之志。蓋其天性然也。史記曰、棄爲兒時、其游戲好種殖麻麥、麻麥美。及爲成人、遂好耕農。堯舉以爲農師。
【読み】
○誕實に匍<音蒲>匐すれば、克く岐に克く嶷[ぎょく]なり。以て口食に就かんとして、之の荏<音餁>菽を蓺[う]う。荏菽旆旆[はいはい]たり、禾[いね]役[つら]なりて穟穟[すいすい]<音遂>たり、麻麥幪幪[もうもう]<莫孔反>たり、瓜瓞[かてつ]唪唪[ほうほう]<音蚌>たり。○賦なり。匍匐は、手足並[とも]に行くなり。岐・嶷は、峻[たか]く茂んなる狀。就は、向かうなり。口食は、自ら能く食するなり。蓋し六七歲の時なり。蓺は、樹えるなり。荏菽は、大豆なり。旆旆は、枝旟[あ]がり揚起するなり。役は、列なるなり。穟穟は、苗の美しく好き貌なり。幪幪然は、茂りて密[こま]やかなり。唪唪然は、實多し。○言うこころは、后稷能く食する時、已に種殖の志有り。蓋し其の天性然り。史記に曰く、棄兒爲りし時、其の游戲麻麥を種殖するを好みて、麻麥美し。成人と爲るに及んで、遂に耕農を好む。堯舉げて以て農師とす、と。

○誕后稷之穡、有相<去聲>之道<叶徒口反>。茀<音弗>厥豐草<音苟>、種<去聲>之黃茂<叶莫口反>。實方實苞<叶補苟反>、實種<上聲>實褎<叶徐久反>、實發實秀<叶久反>、實堅實好<叶許口反>、實頴實栗、卽有邰<音台>家室。賦也。相、助也。言盡人力之助也。茀、治也。種、布之也。黃茂、嘉穀也。方、房也。苞、甲而未拆也。此漬其種也。種、甲拆而可爲種也。褎、漸長也。發、盡發也。秀、始穟也。堅、其實堅也。好、形味好也。頴、實繁碩而埀末也。栗、不秕也。旣收成、見其實皆栗栗然不秕也。邰、后稷之母家也。豈其或滅或遷、而遂以其地封后稷歟。○言后稷之穡如此。故堯以其有功於民、封於邰。使卽其母家而居之、以主姜嫄之祀。故周人亦世祀姜嫄焉。
【読み】
○誕后稷の穡[なりわい]、相[たす]<去聲>くる之の道<叶徒口反>有り。厥の豐草<音苟>を茀[おさ]<音弗>めて、之の黃茂<叶莫口反>を種[し]<去聲>けり。實に方[ふさ]なり實に苞[めぐ]<叶補苟反>み、實に種[めだ]<上聲>ち實に褎[の]<叶徐久反>び、實に發[ひら]け實に秀<叶久反>でて、實に堅く實に好<叶許口反>く、實に頴[えい]じ實に栗[みの]れば、有邰[ゆうたい]<音台>に卽いて家室せしめり。賦なり。相は、助くるなり。言うこころは、人力の助けを盡くすなり。茀[ふつ]は、治むるなり。種は、之を布くなり。黃茂は、嘉穀なり。方は、房なり。苞は、甲して未だ拆けざるなり。此は其の種を漬すなり。種つとは、甲拆けて種と爲る可し。褎[ゆう]は、漸く長ずるなり。發くは、盡く發くなり。秀は、始めて穟[すい]ずるなり。堅は、其の實堅きなり。好は、形味好きなり。頴は、實繁く碩いにして末を埀るるなり。栗は、秕[しいな]あらざるなり。旣に收め成して、其の實の皆栗栗然として秕あらざるを見るなり。邰は、后稷の母の家なり。豈其れ或は滅び或は遷りて、遂に其の地を以て后稷を封ずるか。○言うこころは、后稷の穡此の如し。故に堯其の民に功有るを以て、邰に封ぜり。其の母の家に卽いて之に居らしめ、以て姜嫄の祀を主らしむ。故に周人も亦世々姜嫄を祀るなり。

○誕降嘉種、維秬<音巨>維秠<音痞>、維穈<音門>維芑<音起>。恆<音亙>之秬秠、是穫是畝<叶蒲洧反>、恆之穈芑、是任<音壬>是負<叶扶委反>、以歸肇祀<叶養里反>○賦也。降、降是種於民也。書曰、稷降播種、是也。秬、黑黍也。秠、黑黍、一稃二米者也。穈、赤梁粟也。芑、白梁粟也。恆、徧也。謂徧種之也。任、肩任也。負、背負也。旣成則穫而棲之於畝、任負而歸、以供祭祀也。秬・秠言穫・畝、穈・芑言任・負、互文耳。肇、始也。稷始受國爲祭主。故曰肇祀。
【読み】
○誕嘉き種を降せり、維れ秬[きょ]<音巨>維れ秠[ひ]<音痞>、維れ穈[もん]<音門>維れ芑[き]<音起>。之の秬秠を恆[あまね]<音亙>くして、是れ穫り是れ畝<叶蒲洧反>し、之の穈芑を恆くして、是れ任[にな]<音壬>い是れ負<叶扶委反>い、以て歸って肇めて祀<叶養里反>れり。○賦なり。降すは、是の種を民に降すなり。書に曰く、稷播種を降すとは、是れなり。秬は、黑黍なり。秠は、黑黍の、一稃[ふ]に二米なる者なり。穈は、赤梁粟なり。芑は、白梁粟なり。恆は、徧きなり。徧く之を種くを謂うなり。任は、肩に任うなり。負は、背に負うなり。旣に成りて則ち穫りて之を畝に棲[お]き、任い負いて歸り、以て祭祀に供す。秬・秠には穫・畝と言い、穈・芑には任・負と言うは、文を互いにするのみ。肇は、始めなり。稷始めて國を受けて祭主と爲る。故に肇めて祀ると曰う。

○誕我祀如何、或舂或揄<音由>、或簸<波我反>或蹂<音柔>、釋之叟叟<音捜>、烝之浮浮。載謀載惟、取蕭祭脂、取羝<音底>以軷<音鈸。叶蒲昧反>、載燔載烈<如字。叶力制反>、以興嗣歲<叶音雪。又如字>○賦也。我祀、承上章而言。后稷之祀也。揄、抒臼也。簸、揚去糠也。蹂、蹂禾取穀以繼之也。釋、淅米也。叟叟、聲也。浮浮、氣也。謀、卜日擇土也。惟、齊戒具脩也。蕭、蒿也。宗廟之祭、取蕭合膟膋爇之、使臭達墻屋也。羝、牡羊也。軷、祭行道之神也。燔、傳諸火也。烈、貫之而加于火也。四者皆祭祀之事。所以興來歲而繼往歲也。
【読み】
○誕我が祀れること如何、或は舂づき或は揄[かきと]<音由>り、或は簸[ひ]<波我反>し或は蹂[ふ]<音柔>み、之を釋[か]せば叟叟<音捜>たり、之を烝せば浮浮たり。載ち謀り載ち惟[おも]い、蕭を取りて脂を祭り、羝[ひつじ]<音底>を取りて以て軷[みちまつ]<音鈸。叶蒲昧反>り、載ち燔[や]き載ち烈[あぶ]<字の如し。叶力制反>り、以て歲<叶音雪。又字の如し>を興し嗣ぐ。○賦なり。我が祀とは、上の章を承けて言う。后稷の祀なり。揄[ゆ]は、臼より抒[さく]るなり。簸[ひ]は、糠を揚げ去るなり。蹂[じゅう]は、禾を蹂み穀を取りて以て之を繼ぐなり。釋は、米を淅[あら]うなり。叟叟は、聲なり。浮浮は、氣なり。謀るとは、日を卜い土を擇ぶなり。惟うとは、齊戒具脩なり。蕭は、蒿なり。宗廟の祭は、蕭を取り膟膋[りつりょう]に合わせて之を爇[や]き、臭を墻屋に達せしむるなり。羝は、牡の羊なり。軷[はつ]は、行道の神を祭るなり。燔は、諸を火に傳[つ]くるなり。烈は、之を貫いて火を加うるなり。四つの者は皆祭祀の事。來歲を興して往歲を繼ぐ所以なり。

○卬<音昴><音成>于豆、于豆于登。其香始升、上帝居歆。胡臭亶時<叶上止反>。后稷肇祀<叶養里反>、庶無罪悔<叶呼委反>、以迄<音肸>于今。賦也。卬、我也。木曰豆。以薦菹醢也。瓦曰登。以薦大羹也。居、安也。鬼神食氣曰歆。胡、何。臭、香。亶、誠也。時、言得其時也。庶、近。迄、至也。○此章言其尊祖配天之祭。其香始升、而上帝已安而享之、言應之疾也。此何但芳臭之薦、信得其時哉。蓋自后稷之肇祀、則庶無罪悔、而至于今矣。曾氏曰、自后稷肇祀以來前後相承、兢兢業業、惟恐一有罪悔、獲戾于天。閱數百年、而此心不易。或曰、庶無罪悔、以迄于今、言周人世世用心如此也。
【読み】
○卬[われ]<音昴>豆に盛<音成>る、豆に登に。其の香始めて升れば、上帝居[やす]んじ歆[う]けり。胡ぞ臭の亶[まこと]に時<叶上止反>なるのみならんや。后稷肇めて祀<叶養里反>れるより、罪悔<叶呼委反>無からんことを庶いて、以て今に迄[いた]<音肸>れり。賦なり。卬は、我なり。木を豆と曰う。以て菹醢[そかい]を薦むるなり。瓦を登と曰う。以て大羹を薦むるなり。居は、安んずるなり。鬼神氣を食するを歆[きん]と曰う。胡は、何ぞ。臭は、香。亶は、誠なり。時は、其の時を得るを言うなり。庶は、近し。迄は、至るなり。○此の章其の祖を尊んで天に配するの祭を言う。其の香始めて升りて、上帝已に安んじて之を享くるは、應ずるの疾やかなるを言うなり。此れ何ぞ但芳臭の薦むること、信に其の時を得るのみならんや。蓋し后稷の肇めて祀れるより、則ち罪悔無からんことを庶いて、今に至れり。曾氏が曰く、后稷肇めて祀るより以來前後相承け、兢兢業業として、惟恐れらくは一つも罪悔有りて、戾を天に獲んことを。數百年を閱[す]べて、此の心易わらず、と。或ひと曰く、罪悔無からんことを庶いて、以て今に迄るとは、言うこころは、周人の世世用心すること此の如し、と。

生民八章四章章十句四章章八句。此詩未詳所用。豈郊祀之後、亦有受釐頒胙之禮也歟。舊說第三章八句、第四章十句。今按第三章當爲十句、第四章當爲八句、則去・呱・訏・路、音韻諧協、呱聲載路、文勢通貫。而此詩八章、皆以十句八句相閒爲次。又二章以後七章以前、每章章之首、皆有誕字。
【読み】
生民[せいみん]八章四章章十句四章章八句。此の詩未だ用うる所詳らかならず。豈郊祀の後、亦釐[さいわい]を受け胙を頒つの禮有らんか。舊說に第三章は八句、第四章は十句、と。今按ずるに第三章は當に十句とすべく、第四章は當に八句とすべきときは、則ち去・呱・訏・路、音韻諧協し、呱聲載路、文勢通貫す。而も此の詩八章、皆十句八句を以て相閒てて次を爲す。又二章以後七章以前は、每章章の首めに、皆誕の字有り。


<音團>彼行葦、牛羊勿踐履。方苞方體、維葉泥泥<音禰>。戚戚兄弟、莫遠具爾。或肆之筵、或授之几。興也。敦、聚貌。勾萌之時也。行、道也。勿、戒止之詞也。苞、甲而未拆也。體、成形也。泥泥、柔澤貌。戚戚、親也。莫、猶勿也。具、倶也。爾、與邇同。肆、陳也。○疑此祭畢、而燕父兄耆老之詩。故言敦彼行葦、而牛羊勿踐履、則方苞方體、而葉泥泥矣。戚戚兄弟、而莫遠具爾、則或肆之筵、而或授之几矣。此方言其開燕設席之初、而慇懃篤厚之意、藹然已見於言語之外矣。讀者詳之。
【読み】
敦[たん]<音團>たる彼の行[みち]の葦、牛羊踐み履むこと勿かれ。方に苞[めぐ]み方に體[かたち]して、維れ葉泥泥<音禰>たり。戚戚たる兄弟、遠きこと莫くして具に爾[ちか]し。或は之が筵を肆[し]き、或は之が几を授けん。興なり。敦は、聚まれる貌。勾[まが]り萌す時なり。行は、道なり。勿は、戒め止むるの詞なり。苞は、甲ありて未だ拆けざるなり。體は、形を成すなり。泥泥は、柔らかに澤[うるお]える貌。戚戚は、親しきなり。莫は、猶勿のごとし。具は、倶なり。爾は、邇と同じ。肆は、陳[し]くなり。○疑うらくは此れ祭畢わって、父兄耆老[きろう]を燕するの詩。故に言う、敦たる彼の行の葦にして、牛羊踐み履むこと勿くば、則ち方に苞み方に體して、葉泥泥たり。戚戚たる兄弟にして、遠きこと莫くして具に爾くば、則ち或は之が筵を肆いて、或は之が几を授けん、と。此れ方に其の燕を開いて席を設くるの初めを言いて、慇懃篤厚の意、藹然[あいぜん]として已に言語の外に見るなり。讀む者之を詳らかにせよ。

○肆筵設席<叶祥勺反>、授几有緝御<叶魚駕反>。或獻或酢、洗爵奠斝<音假。叶居訝反>。醓<音嗿>醢以薦<叶卽畧反>、或燔或炙<叶陟畧反>。嘉殽脾<音琵><音劇>、或歌或咢<音岳>○賦也。設席、重席也。緝、續。御、侍也。有相續代而侍者。言不乏使也。進酒於客曰獻、客答之曰酢。主人又洗爵醻客、客受而奠之不舉也。斝、爵也。夏曰醆、殷曰斝、周曰爵。醓、醢之多汁者也。燔用肉、炙用肝。臄、口上肉也。歌者、比於琴瑟也。徒擊鼓曰咢。○言侍御獻醻、飮食歌樂之盛也。
【読み】
○筵を肆いて席<叶祥勺反>を設[かさ]ね、几を授くるに緝御<叶魚駕反>有り。或は獻[すす]め或は酢[むく]い、爵を洗い斝[さかずき]<音假。叶居訝反>を奠[お]けり。醓[たん]<音嗿>醢[かい]以て薦<叶卽畧反>む、或は燔[やきもの]或は炙[あぶりもの]<叶陟畧反>。嘉き殽[さかな]脾<音琵>臄[きゃく]<音劇>、或は歌い或は咢[つづみう]<音岳>てり。○賦なり。設席は、席を重ぬるなり。緝は、續ぐ。御は、侍るなり。相續ぎ代わりて侍る者有り。言うこころは使いに乏しからざるなり。酒を客に進むるを獻と曰い、客之に答うるを酢と曰う。主人又爵を洗いて客に醻[むく]い、客受けて之を奠いて舉げず。斝[か]も、爵なり。夏は醆[さん]と曰い、殷は斝と曰い、周は爵と曰う。醓は、醢の汁多き者なり。燔は肉を用い、炙は肝を用う。臄は、口の上の肉なり。歌は、琴瑟に比すなり。徒に鼓を擊つを咢[がく]と曰う。○侍御獻醻、飮食歌樂の盛んなるを言うなり。

○敦<音雕>弓旣堅<叶古因反>、四鍭<音侯>旣鈞。舍矢旣均、序賓以賢<叶下珍反>。敦弓旣句<音姤>、旣挾<協反>四鍭。四鍭如樹<叶上主反>、序賓以不侮。賦也。敦、雕通。畫也。天子雕弓。堅、猶勁也。鍭、翦羽也。鈞、參亭也。謂三分之一在前、二在後、三訂之而平者。前有鐵重也。舍、釋也。謂發矢也。均、皆中也。賢、射多中也。投壺曰、某賢於某若于純。奇則曰奇、均則曰左右均、是也。句、彀通。謂引滿也。射禮、搢三挾一、旣挾四鍭、則徧釋矣。如樹、如手就樹之。言貫革而堅正也。不侮、敬也。令弟子辭。所謂無憮、無敖、無偕立、無踰言者也。或曰、不以中病不中者也。射以中多爲雋。不侮爲德。○言旣燕而射以爲樂也。
【読み】
○敦[ちょう]<音雕>弓旣に堅[つよ]<叶古因反>く、四鍭[こう]<音侯>旣に鈞[ととの]えり。矢を舍[はな]つこと旣に均し、賓を序[つい]ずるに賢[まさ]<叶下珍反>れるを以てせり。敦弓旣に句[は]<音姤>り、旣に四鍭を挾<協反>めり。四鍭樹<叶上主反>てるが如し、賓を序ずるに侮らざるを以てす。賦なり。敦は、雕と通ず。畫くなり。天子は雕弓。堅は、猶勁[つよ]いのごとし。鍭は、翦羽なり。鈞は、參亭なり。三分の一は前に在り、二は後ろに在り、三を之を訂[はか]りて平らき者を謂う。前には鐵重有るなり。舍は、釋[はな]つなり。矢を發つを謂うなり。均は、皆中るなり。賢は、射て中ること多きなり。投壺に曰く、某は某に賢ること若于純、と。奇なれば則ち奇と曰い、均しければ則ち左右均しと曰うとは、是れなり。句は、彀[こう]と通ず。引き滿つるを謂うなり。射禮に、三つを搢[はさ]み一つを挾み、旣に四つの鍭を挾めば、則ち徧く釋つ、と。樹てるが如しとは、手づから就りて之を樹てるが如し。革を貫いて堅く正しきを言うなり。侮らずは、敬むなり。弟子を令するの辭。所謂憮[あなど]ること無く、敖ること無く、偕[とも]に立つこと無く、踰えて言うこと無き者なり。或ひと曰く、中れるを以て中らざる者を病ましめず。射は中ること多きを以て雋[すぐ]れりとす。侮らざるを德とす、と。○旣に燕して射て以て樂を爲すを言うなり。

○曾孫維主<叶當口反>、酒醴維醹<音乳。叶奴口反>。酌以大斗<叶腫瘐反>、以祈黃耇<叶果五反>。黃耇台背<叶必墨反>、以引以翼。壽考維祺<音其>、以介景福<叶筆力反>○賦也。曾孫、主祭者之稱。今祭畢而燕。故因而稱之也。醹、厚也。大斗、柄長三尺。祈、求也。黃耇、老人之稱。以祈黃耇、猶曰以介眉壽云耳。古器物欵識云、用蘄萬壽、用蘄眉壽、永命多福。用蘄眉壽、萬年無疆。皆此類也。台、鮐也。大老則背有鮐文。引、導。翼、輔。祺、吉也。○此頌禱之詞。欲其飮此酒而得老壽、又相引導輔翼、以享壽祺介景福也。
【読み】
○曾孫維れ主<叶當口反>たり、酒醴[れい]維れ醹[あつ]<音乳。叶奴口反>し。酌むに大斗<叶腫瘐反>を以てして、以て黃耇[こうこう]<叶果五反>を祈[もと]めり。黃耇台背<叶必墨反>にして、以て引[みちび]き以て翼[たす]く。壽考にして維れ祺[よ]<音其>く、以て景[おお]いなる福<叶筆力反>を介[おお]いにせん。○賦なり。曾孫は、祭を主る者の稱。今祭畢わりて燕す。故に因りて之を稱するなり。醹[じゅ]は、厚きなり。大斗は、柄の長さ三尺。祈は、求むるなり。黃耇は、老人の稱。以て黃耇を祈むとは、猶以て眉壽を介すと云うと曰うがごときのみ。古の器物の欵[かん]識に云う、用て萬壽を蘄[もと]め、用て眉壽を蘄め、永命多福。用て眉壽を蘄め、萬年疆り無し、と。皆此の類なり。台は、鮐[たい]なり。大老は則ち背に鮐の文有り。引は、導く。翼は、輔く。祺は、吉なり。○此れ頌禱の詞。其の此の酒を飮んで老壽を得んことを欲して、又相引導輔翼して、以て壽祺を享けて景いなる福を介いにするなり。

行葦四章章八句。毛、七章二章章六句五章章四句。鄭、八章章四句。毛首章以四句興二句。不成文理。二章又不協韻。鄭首章有起興、而無所興。皆誤。今正之如此。
【読み】
行葦[こうい]四章章八句。毛は、七章二章章六句五章章四句。鄭は、八章章四句。毛が首章は四句を以て二句を興す。文理を成さず。二章も又韻を協えず。鄭が首章は興を起こすこと有りて、興る所無し。皆誤れり。今之を正すこと此の如し。


旣醉以酒、旣飽以德。君子萬年、介爾景福<叶筆力反>○賦也。德、恩惠也。君子、謂王也。爾、亦指王也。○此父兄所以答行葦之詩。言享其飮食恩惠之厚、而願其受福如此也。
【読み】
旣に醉うに酒を以てし、旣に飽くに德を以てす。君子萬年、爾の景いなる福<叶筆力反>を介いにせん。○賦なり。德は、恩惠なり。君子は、王を謂うなり。爾も、亦王を指すなり。○此れ父兄以て行葦に答うる所の詩。言うこころは、其の飮食恩惠の厚きを享けて、其の福を受くること此の如きを願うなり。

○旣醉以酒、爾殽旣將。君子萬年、介爾昭明<叶謨郎反>○賦也。殽、俎實也。將、行也。亦奉持而進之意。昭明、猶光大也。
【読み】
○旣に醉うに酒を以てす、爾の殽[さかな]旣に將[おこな]えり。君子萬年、爾の昭明<叶謨郎反>を介いにせん。○賦なり。殽[こう]は、俎の實なり。將は、行うなり。亦奉持して之を進むるの意。昭明は、猶光大のごとし。

○昭明有融、高朗令終。令終有俶<尺六反>、公尸嘉告<叶姑沃反>○賦也。融、明之盛也。春秋傳曰、明而未融。朗、虛明也。令終、善終也。洪範所謂考終命。古器物銘、所謂令終令命、是也。俶、始也。公戶、君尸也。周稱王、而尸但曰公尸。蓋因其舊。如秦已稱皇帝。而其男女猶稱公子公主也。嘉告、以善言告之。謂嘏辭也。蓋欲善其終者、必善其始。今固未終也。而旣有其始矣。於是公尸以此告之。
【読み】
○昭明融[さか]んなること有り、高く朗らかに終わりを令[よ]くせん。終わりを令くするに俶[はじ]<尺六反>め有り、公尸嘉きことを告<叶姑沃反>げり。○賦なり。融は、明らかなることの盛んなるなり。春秋傳に曰く、明らかなれども未だ融[あき]らかならず、と。朗は、虛明なり。令終は、終わりを善くするなり。洪範に所謂考終命、と。古の器物の銘に、所謂終わりを令くし命を令くすとは、是れなり。俶は、始めなり。公戶は、君の尸なり。周は王を稱して、尸を但公尸と曰う。蓋し其の舊に因る。秦已に皇帝と稱するが如し。而も其の男女猶公子公主と稱するがごとし。嘉きことを告ぐは、善言を以て之を告ぐ。嘏辭[かじ]を謂うなり。蓋し其の終わりを善くせんと欲する者は、必ず其の始めを善くす。今固より未だ終わらず。而も旣に其の始め有り。是に於て公尸此を以て之を告げり。

○其告維何、籩豆靜嘉<叶居何反>。朋友攸攝、攝以威儀<叶牛何反>○賦也。靜嘉、淸潔而美也。朋友、指賓客助祭者。說見楚茨篇。攝、撿也。○公尸告以汝之祭祀、籩豆之薦、旣靜嘉矣。而朋友相攝佐者、又皆有威儀當神意也。自此至終篇、皆述尸告之辭。
【読み】
○其の告ぐること維れ何ぞ、籩豆靜[いさぎよ]く嘉<叶居何反>し。朋友攝[おさ]むる攸、攝むるに威儀<叶牛何反>を以てせり。○賦なり。靜嘉は、淸潔にして美きなり。朋友は、賓客の祭を助くる者を指す。說は楚茨の篇に見えたり。攝は、撿[おさ]むるなり。○公尸告ぐるに汝が祭祀、籩豆の薦、旣に靜く嘉きを以てす。而して朋友相攝佐する者、又皆威儀有りて神意に當たれり。此より終篇に至るまで、皆尸告ぐるの辭を述ぶ。

○威儀孔時<叶上止反>、君子有孝子<叶奬里反>。孝子不匱、永錫爾類。賦也。孝子、主人之嗣子也。儀禮、祭祀之終、有嗣舉奠。匱、竭。類、善也。○言汝之威儀、旣得其宜、又有孝子以舉奠。孝子之孝、誠而不竭、則宜永錫爾以善矣。東萊呂氏曰、君子旣孝、而嗣子又孝。其孝可謂源源不竭矣。
【読み】
○威儀孔[はなは]だ時<叶上止反>あり、君子孝子<叶奬里反>有り。孝子匱[つ]きず、永く爾[なんじ]に類[よ]きことを錫わん。賦なり。孝子は、主人の嗣子なり。儀禮に、祭祀の終わりに、嗣奠を舉[の]むこと有り、と。匱は、竭く。類は、善きなり。○言うこころは、汝の威儀、旣に其の宜しきを得、又孝子有りて以て奠を舉む。孝子の孝、誠にして竭きざれば、則ち宜しく永く爾に錫うに善きことを以てすべし。東萊の呂氏が曰く、君子旣に孝にして、嗣子も又孝あり。其の孝源源として竭きずと謂う可し、と。

○其類維何、室家之壼<音悃。叶苦俊反>。君子萬年、永錫祚胤<音孕>○賦也。壺、宮中之巷也。言深遠而嚴肅也。祚、福祿也。胤、子孫也。錫之以善。莫大於此。
【読み】
○其の類きこと維れ何ぞ、室家の壼[みち]<音悃。叶苦俊反>あり。君子萬年までに、永く祚胤[そいん]<音孕>を錫わん。○賦なり。壺は、宮中の巷なり。言うこころは、深遠にして嚴肅なり。祚は、福祿なり。胤は、子孫なり。之に錫うに善きことを以てす。此より大いなるは莫し。

○其胤維何、天被<音備>爾祿、君子萬年、景命有僕。賦也。僕、附也。○言將使爾有子孫者、先當使爾被天祿、而爲天命之所附屬。下章乃言子孫之事。
【読み】
○其の胤維れ何ぞ、天爾に祿を被<音備>らしめて、君子萬年までに、景命僕[つ]くこと有らしめん。賦なり。僕は、附くなり。○言うこころは、將に爾をして子孫有らしめんとする者は、先ず當に爾をして天祿を被りて、天命の附屬する所を爲さしめんとすべし。下の章は乃ち子孫の事を言えり。

○其僕維何、釐<音離>爾女士。釐爾女士、從以孫子<叶奬里反>○賦也。釐、予也。女士、女之有士行者。謂生淑媛使爲之妃也。從、隨也。謂又生賢子孫也。
【読み】
○其の僕けること維れ何ぞ、爾に女士を釐[あた]<音離>えん。爾に女士を釐えて、從うるに孫子<叶奬里反>を以てせん。○賦なり。釐[り]は、予うなり。女士は、女の士行有る者。謂う、淑媛を生して之が妃と爲さしめんとなり。從は、隨うなり。謂う、又賢子孫を生さんとなり。

旣醉八章章四句
【読み】
旣醉[きすい]八章章四句


<音扶><音醫>在涇、公尸來燕來寧。爾酒旣淸、爾殽旣馨。公尸燕飮、福祿來成。興也。鳧、水鳥。如鴨者。鷖、鷗也。涇、水名。爾、自歌工而指主人也。馨、香之遠聞也。○此祭之明日、繹而賓尸之樂。故言鳧鷖則在涇矣。公戶則來燕來寧矣。酒淸殽馨、則公尸燕飮、而福祿來成矣。
【読み】
鳧[ふ]<音扶>鷖[えい]<音醫>涇に在り、公尸來り燕し來り寧んぜり。爾の酒旣に淸く、爾の殽[さかな]旣に馨[かんば]し。公尸燕飮せり、福祿來り成さん。興なり。鳧は、水鳥。鴨の如き者。鷖は、鷗なり。涇は、水の名。爾は、歌工よりして主人を指すなり。馨[けい]は、香の遠く聞こゆるなり。○此れ祭の明日、繹して尸を賓するの樂。故に言う、鳧鷖は則ち涇に在り。公戶は則ち來り燕し來り寧んぜり。酒淸く殽馨しければ、則ち公尸燕飮して、福祿來り成さん、と。

○鳧鷖在沙<叶桑何反>、公尸來燕來宜<叶牛何反>。爾酒旣多、爾殽旣嘉<叶居何反>。公尸燕飮、福祿來爲<叶吾禾反>○興也。爲、猶助也。
【読み】
○鳧鷖沙<叶桑何反>に在り、公尸來り燕し來り宜<叶牛何反>し。爾の酒旣に多く、爾の殽旣に嘉<叶居何反>し。公尸燕飮せり、福祿來り爲[たす]<叶吾禾反>けん。○興なり。爲は、猶助くのごとし。

○鳧鷖在渚、公尸來燕來處。爾酒旣湑<上聲>、爾殽伊脯。公尸燕飮、福祿來下<叶後五反>○興也。渚、水中高地也。湑、酒之泲者也。
【読み】
○鳧鷖渚に在り、公尸來り燕し來り處れり。爾の酒旣に湑[こ]<上聲>し、爾の殽伊[こ]れ脯[ほじし]。公尸燕飮せり、福祿來り下<叶後五反>らん。○興なり。渚は、水中の高き地なり。湑は、酒の泲[した]める者なり。

○鳧鷖在潨<音叢>、公尸來燕來宗。旣燕于宗、福祿攸降<叶乎攻反>。公尸燕飮、福祿來崇。興也。潨、水會也。來宗之宗、尊也。于宗之宗、廟也。崇、積而高大也。
【読み】
○鳧鷖潨[そう]<音叢>に在り、公尸來り燕し來り宗[たっと]し。旣に宗に燕せり、福祿降<叶乎攻反>れる攸。公尸燕飮せり、福祿來り崇[つ]まん。興なり。潨は、水の會うなり。來宗の宗は、尊ぶなり。于宗の宗は、廟なり。崇は、積んで高大なり。

○鳧鷖在亹<音門>、公尸來止熏熏<叶眉貧反>。旨酒欣欣、燔炙芬芬<叶豐匀反>。公尸燕飮、無有後艱<叶居銀反>○興也。亹、水流峽中、兩岸如門也。熏熏、和說也。欣欣、樂也。芬芬、香也。
【読み】
○鳧鷖亹[ぼん]<音門>に在り、公尸來りて熏熏<叶眉貧反>たり。旨き酒欣欣たり、燔[やきもの]炙[あぶりもの]芬芬<叶豐匀反>たり。公尸燕飮せり、後艱<叶居銀反>有ること無けん。○興なり。亹は、水峽中に流れて、兩岸門の如きなり。熏熏は、和說なり。欣欣は、樂しむなり。芬芬は、香ばしきなり。

鳧鷖五章章六句
【読み】
鳧鷖[ふえい]五章章六句


<音嘉><音洛>君子<叶音則>、顯顯令德。宜民宜人、受祿于天<叶鐵飮反>。保右<音又><叶彌幷反>之、自天申之。賦也。嘉、美也。君子、指王也。民、庶民也。人、在位者也。申、重也。○言王之德旣宜民人、而受天祿矣。而天之於王、猶反覆眷顧之而不厭、旣保之右之、命之而又申重之也。疑此卽公尸之所以答鳧鷖者也。
【読み】
假[よ]<音嘉>みんじ樂<音洛>しむべき君子<叶音則>、顯顯の令德あり。民に宜しく人に宜し、祿を天<叶鐵飮反>に受けり。保んじ右[たす]<音又>け之に命<叶彌幷反>ずること、天より之を申[かさ]ぬべし。賦なり。嘉は、美きなり。君子は、王を指すなり。民は、庶民なり。人は、位に在る者なり。申は、重ぬるなり。○言うこころは、王の德旣に民人に宜しくして、天祿を受けり。而して天の王に於る、猶之を反覆眷顧して厭わず、旣に之を保んじ之を右け、之に命じて又之を申ね重ぬるなり。疑うらくは此れ卽ち公尸の以て鳧鷖[ふえい]に答うる所の者なり。

○干祿百福<叶筆力反>、子孫千億。穆穆皇皇、宜君宜王、不愆不忘、率由舊章。賦也。穆穆、敬也。皇皇、美也。君、諸侯也。王、天子也。愆、過。率、循也。舊章、先王之禮樂政刑也。○言王者干祿而得百福。故其子孫之蕃、至于千億。適爲天子、庶爲諸侯、無不穆穆皇皇、以遵先王之法者。
【読み】
○祿を干[もと]めて百の福<叶筆力反>あり、子孫千億ならん。穆穆皇皇として、君たるに宜しく王たるに宜しく、愆[あやま]らず忘れず、舊章に率い由[したが]わん。賦なり。穆穆は、敬なり。皇皇は、美なり。君は、諸侯なり。王は、天子なり。愆は、過つ。率は、循うなり。舊章は、先王の禮樂政刑なり。○言うこころは、王者祿を干めて百の福を得。故に其の子孫の蕃[さか]えて、千億に至らん。適は天子爲り、庶は諸侯爲り、穆穆皇皇として、以て先王の法に遵わざる者無し。

○威儀抑抑、德音秩秩。無怨無惡<去聲>、率由群匹。受福無疆、四方之綱。賦也。抑抑、密也。秩秩、有常也。匹、類也。○言有威儀聲譽之美、又能無私怨惡、以任衆賢。是以能受無疆之福、爲四方之綱。此與下章、皆稱願其子孫之辭也。或曰、無怨無惡、不爲人所怨惡也。
【読み】
○威儀抑抑たり、德音秩秩たり。怨み無く惡<去聲>み無く、群匹に率い由わん。福を受くること疆り無くして、四方の綱なれ。賦なり。抑抑は、密やかなり。秩秩は、常有るなり。匹は、類なり。○言うこころは、威儀聲譽の美有りて、又能く私の怨惡無く、以て衆賢に任ず。是を以て能く無疆の福を受けて、四方の綱と爲らん。此れ下の章と、皆其の子孫を稱願するの辭なり。或ひと曰く、怨み無く惡み無しとは、人の爲に怨惡せられざる、と。

○之綱之紀、燕及朋友<叶羽已反>、百辟卿士、媚于天子<叶奬里反>。不解<音懈>于位、民之攸墍<音戲>○賦也。燕、安也。朋友、亦謂諸臣也。解、惰。墍、息也。○言人君能綱紀四方、而臣下賴之以安、則百辟卿士、媚而愛之。維欲其不解于位、而爲民所安息也。東萊呂氏曰、君燕其臣、臣媚其君。此上下交而爲泰之時也。泰之時、所憂者怠荒而已。此詩所以終於不解于位、民之攸墍也。方嘉之、又規之者、蓋皐陶賡歌之意也。民之勞逸在下、而樞機在上。上逸則下勞矣。上勞則下逸矣。不解于位、乃民之所由休息也。
【読み】
○之の綱之の紀、燕[やす]きこと朋友<叶羽已反>に及べば、百辟卿士、天子<叶奬里反>を媚[いつく]しむ。位に解[おこた]<音懈>らずして、民の墍[いこ]<音戲>う攸。○賦なり。燕は、安んずるなり。朋友も、亦諸臣を謂うなり。解は、惰る。墍[き]は、息うなり。○言うこころは、人君能く四方を綱紀して、臣下之に賴りて以て安んずれば、則ち百辟卿士、媚しんで之を愛す。維れ其の位に解らずして、民の爲に安息せられんことを欲してなり。東萊の呂氏が曰く、君其の臣を燕んじ、臣其の君を媚しむ。此れ上下交わりて泰爲るの時なり。泰の時、憂うる所の者は怠荒のみ。此の詩の位に解らずして、民の墍う攸に終わる所以なり。方に之を嘉みんじ、又之を規する者は、蓋し皐陶賡[こう]歌の意ならん。民の勞逸は下に在りて、樞機は上に在り。上逸すれば則ち下勞す。上勞すれば則ち下逸す。位に解らざるは、乃ち民の由って休息する所なり、と。

假樂四章章六句
【読み】
假樂[からく]四章章六句


篤公劉、匪居匪康、迺場<音易>迺疆、迺積迺倉、迺裹<音果><音侯><音良>、于橐<音記>于囊。思輯<音集>用光。弓矢斯張、干戈戚揚、爰方啓行<叶戶郎反>○賦也。篤、厚也。公劉、后稷之曾孫也。事見豳風。居、安。康、寧也。場・疆、田畔也。積、露積也。餱、食。糧、糗也。無底曰橐、有底曰囊。輯、和。戚、斧。揚、鉞。方、始也。○舊說、召康公以成王將涖政、當戒以民事。故詠公劉之事、以告之曰、厚哉公劉之於民也、其在西戎不敢寧居、治其田疇、實其倉廩、旣富且强。於是裹其餱糧、思以輯和其民人、而光顯其國家。然後以其弓矢斧鉞之備、爰始啓行、而遷都豳焉。蓋亦不出其封内也。
【読み】
篤いかな公劉、居[やす]からず康からず、迺[すなわ]ち場[かぎ]<音易>り迺ち疆り、迺ち積み迺ち倉にし、迺ち餱[こう]<音侯><音良>を裹[つつ]<音果>む、橐[たく]<音記>に囊[のう]に。輯[やわ]<音集>らげて用て光[あき]らかにせんことを思えり。弓矢斯れ張り、干[たて]戈[ほこ]戚[おの]揚[まさかり]、爰に方[はじ]めて啓き行<叶戶郎反>く。○賦なり。篤は、厚きなり。公劉は、后稷の曾孫なり。事は豳風に見えたり。居は、安んず。康は、寧んず。場・疆は、田の畔なり。積は、露積なり。餱は、食。糧は、糗[きゅう]なり。底無きを橐と曰い、底有るを囊と曰う。輯は、和らぐ。戚は、斧。揚は、鉞。方は、始めてなり。○舊說に、召康公成王の將に政に涖[のぞ]まんとするを以て、當に戒むるに民事を以てす、と。故に公劉の事を詠じて、以て之に告げて曰く、厚いかな公劉の民に於る、其れ西戎に在りて敢えて寧んじ居らず、其の田疇を治め、其の倉廩を實たして、旣に富み且つ强し。是に於て其の餱糧を裹み、以て其の民人を輯和して、其の國家を光顯せんことを思う。然して後に其の弓矢斧鉞の備えを以て、爰に始めて啓き行きて、都を豳に遷せり。蓋し亦其の封内を出でざるなり。

○篤公劉、于胥斯原。旣庶旣繁<叶紛乾反>、旣順迺宣、而無永嘆<音灘>。陟則在巘<音讞。叶魚軒反>、復降在原。何以舟<叶之遥反>之、維玉及瑤<音遥>、鞞<必頂反><音菶>容刀<叶徙招反>○賦也。胥、相也。庶・繁、謂來居之者衆也。順、安。宣、徧也。言居之徧也。無永嘆、得其所不思舊也。巘、山頂也。舟、帶也。鞞、刀鞘也。琫、刀上飾也。容刀、容飾之刀也。或曰、容刀如言容臭。謂鞞琫之中容此刀耳。○言公劉至豳欲相土以居、而帶此劔佩、以上下於山原也。東萊呂氏曰、以如是之佩服、而親如是之勞苦。斯其所以爲厚於民也歟。
【読み】
○篤いかな公劉、于[ここ]に斯の原を胥[み]る。旣に庶[おお]く旣に繁<叶紛乾反>く、旣に順[やす]んじ迺ち宣[あまね]くして、永く嘆<音灘>く無し。陟[のぼ]りて則ち巘[みね]<音讞。叶魚軒反>に在り、復り降りて原に在り。何を以てか之を舟[お]<叶之遥反>びん、維れ玉及び瑤<音遥>、鞞[へい]<必頂反>琫[ほう]<音菶>の容[かざ]れる刀<叶徙招反>○賦なり。胥は、相[み]るなり。庶・繁は、之に來り居る者の衆きを謂うなり。順は、安んず。宣は、徧きなり。言うこころは、居ることの徧きなり。永く嘆く無しとは、其の所を得て舊を思わざるなり。巘[き]は、山頂なり。舟は、帶びるなり。鞞は、刀の鞘なり。琫は、刀の上の飾りなり。容刀は、容の飾りの刀なり。或ひと曰く、容刀は容臭と言うが如し。謂ゆる鞞琫の中に此の刀を容るるのみ、と。○言うこころは、公劉豳に至りて土を相て以て居ることを欲して、此の劔佩を帶びて、以て山原を上り下りす。東萊の呂氏が曰く、是の如きの佩服を以てして、是の如きの勞苦を親らす。斯れ其の民に厚きを爲す所以か、と。

○篤公劉、逝彼百泉、瞻彼溥<音普>原、迺陟南岡、乃覯于京<叶居良反>、京師之野<叶上與反>。于時處處、于時廬旅、于時言言、于時語語。賦也。溥、大。覯、見也。京、高丘也。師、衆也。京師、高山而衆居也。董氏曰、所謂京師者、蓋起於此、其後世因以所都、爲京師也。時、是也。處處、居室也。廬、寄也。旅、賓旅也。直言曰言、論難曰語。○此章言營度邑居也。自下觀之、則往百泉而望廣原。自上觀之、則陟南岡而覯于京。於是爲之居室、於是廬其賓旅、於是言其所言、於是語其所語。無不於斯焉。
【読み】
○篤いかな公劉、彼の百の泉に逝[ゆ]き、彼の溥[おお]<音普>いなる原を瞻、迺ち南岡に陟りて、乃ち京<叶居良反>を覯[み]るに、京師の野<叶上與反>なり。時[ここ]に處るべきに處り、時に旅を廬[やど]し、時に言うべきを言い、時に語るべきを語れり。賦なり。溥は、大い。覯は、見るなり。京は、高き丘なり。師は、衆なり。京師は、高き山にして衆居するなり。董氏が曰く、所謂京師とは、蓋し此より起こりて、其の後世々因りて都する所を以て、京師とす、と。時は、是なり。處るべきに處るとは、居室なり。廬は、寄[やど]るなり。旅は、賓旅なり。直に言うを言と曰い、論難するを語と曰う。○此の章は邑居を營度するを言う。下よりして之を觀るときは、則ち百泉に往いて廣原を望む。上よりして之を觀るときは、則ち南岡に陟りて京を覯る。是に於て之が居室を爲り、是に於て其の賓旅を廬し、是に於て其の言う所を言い、是に於て其の語る所を語る。斯に於てせざること無し。

○篤公劉、于京斯依<叶於豈反>。蹌蹌<音搶>濟濟<上聲>、俾筵俾几、旣登乃依<同上>。乃造<音糙>其曹、執豕于牢、酌之用匏<音庖>、食<音嗣>之飮之、君之宗之。賦也。依、安也。蹌蹌濟濟、群臣有威儀貌。俾、使也。使人爲之設筵几也。登、登筵也。依、依几也。曹、群牧之處也。以豕爲殽。用匏、爲爵。儉以質也。宗、尊也、主也。嫡子孫主祭祀、而族人尊之以爲主也。○此章言宮室旣成而落之。旣以飮食勞其群臣、而又爲之君、爲之宗焉。東萊呂氏曰、旣饗燕而定經制、以整屬其民。上則皆統於君、下則各統於宗。蓋古者建國立宗。其事相須。楚執戎蠻子、而致邑立宗、以誘其遺民、卽其事也。
【読み】
○篤いかな公劉、京に斯れ依[やす]<叶於豈反>んず。蹌蹌[しょうしょう]<音搶>濟濟[せいせい]<上聲>たり、筵しかしめ几せしめて、旣に登り乃ち依<上に同じ>れり。乃ち其の曹に造[いた]<音糙>りて、豕を牢に執え、之を酌むに匏[ひさご]<音庖>を用い、之に食<音嗣>ましめ之に飮ましめ、之が君たり之が宗たり。賦なり。依は、安んずるなり。蹌蹌濟濟は、群臣威儀有るの貌。俾は、使なり。人をして之が爲に筵几を設けしむるなり。登は、筵に登るなり。依は、几に依るなり。曹は、群牧の處なり。豕を以て殽[さかな]とす。匏を用うるは、爵とす。儉にして以て質なり。宗は、尊ぶなり、主るなり。嫡子孫祭祀を主りて、族人之を尊んで以て主とす。○此の章宮室旣に成って之を落するを言う。旣に飮食を以て其の群臣を勞い、而して又之が君と爲り、之が宗と爲る。東萊の呂氏が曰く、旣に饗燕して經制を定め、以て其の民を整し屬く。上は則ち皆君を統べ、下は則ち各々宗を統ぶ。蓋し古は國を建て宗を立つ。其の事相須ゆ。楚戎蠻子を執えて、邑を致し宗を立て、以て其の遺民を誘うとは、卽ち其の事なり、と。

○篤公劉、旣溥旣長。旣景迺岡、相<去聲>其陰陽、觀其流泉。其軍三單<音丹。叶多涓反>、度其隰原、徹田爲糧、度其夕陽、豳居允荒。賦也。溥、廣也。言其芟夷墾辟、土地旣廣而且長也。景、考日景、以正四方也。岡、登高以望也。相、視也。陰陽、向背寒暖之宜也。流泉、水泉灌漑之利也。三單、未詳。徹、通也。一井之田、九百畝。八家皆私百畝、同養公田。耕則通力而作、收則計畝而分也。周之徹法自此始。其後周公蓋因而脩之耳。山西曰夕陽。允、信。荒、大也。○此言辨土宜、以授所徙之民、定其軍賦與其稅法、又度山西之田以廣之。而豳人之居、於此益大矣。
【読み】
○篤いかな公劉、旣に溥[ひろ]く旣に長し。旣に景[かげ]はかり迺ち岡みして、其の陰陽を相[み]<去聲>、其の流泉を觀る。其の軍は三單<音丹。叶多涓反>、其の隰原[しゅうげん]を度りて、田を徹して糧を爲り、其の夕陽を度りて、豳の居允に荒[おお]いなり。賦なり。溥は、廣いなり。言うこころは、其の芟夷[さんい]墾辟して、土地旣に廣くして且つ長し。景は、日の景を考えて、以て四方を正すなり。岡は、高きに登りて以て望むなり。相は、視るなり。陰陽は、向背寒暖の宜なり。流泉は、水泉灌漑の利なり。三單は、未だ詳らかならず。徹は、通なり。一井の田は、九百畝。八家皆百畝を私にして、同じく公田を養う。耕すときは則ち力を通じて作り、收むるときは則ち畝を計りて分かつ。周の徹法此より始まれり。其の後周公蓋し因りて之を脩むるのみ。山の西を夕陽と曰う。允は、信。荒は、大いなり。○此れ言うこころは、土の宜しきを辨えて、以て徙[うつ]る所の民に授け、其の軍賦と其の稅法とを定め、又山西の田を度りて以て之を廣くす。而して豳人の居、此に於て益々大いなり。

○篤公劉、于豳斯館<叶古玩反>。涉渭爲亂、取厲取鍛<下亂反>。止基迺理、爰衆爰有<叶羽已反>。夾其皇澗、遡其過<平聲>澗。止旅迺密、芮鞫<音菊>之卽。賦也。館、客舍也。亂、舟之截流橫渡者也。厲、砥。鍛、鐵。止、居。基、定也。理、疆理也。衆、人多也。有、財足也。遡、郷也。皇・過、二澗名。芮、水名。出吳山西北、東入涇。周禮職方作汭。鞫、水外也。○此章又總叙其始終。言其始來未定居之時、涉渭取材、而爲舟以來往、取厲取鍛、而成宮室。旣止基於此矣、乃疆理其田野、則日益繁庶富足。其居有夾澗者、有遡澗者、其止居之衆、日以益密、乃復卽芮鞫而居之、而豳地、日以廣矣。
【読み】
○篤いかな公劉、豳に斯れ館[たち]<叶古玩反>せり。渭を涉り亂を爲して、厲を取り鍛<下亂反>を取れり。止[い]基[さだ]まりて迺ち理[おさ]め、爰に衆[おお]く爰に有[た]<叶羽已反>れり。其の皇の澗[たに]を夾[はさ]み、其の過<平聲>の澗に遡[む]かう。止[お]る旅迺ち密にして、芮[ぜい]の鞫[ほか]<音菊>まで之れ卽かしめり。賦なり。館は、客舍なり。亂は、舟の流れを截[た]ちて橫に渡る者なり。厲は、砥。鍛は、鐵。止は、居る。基は、定まるなり。理は、疆理なり。衆は、人多きなり。有は、財足れるなり。遡は、郷[む]かうなり。皇・過は、二澗の名。芮は、水の名。吳山の西北より出で、東して涇[けい]に入る。周禮の職方に汭に作る。鞫[きく]は、水の外なり。○此の章も又總べて其の始終を叙ぶ。言うこころは、其の始め來りて未だ居を定めざるの時、渭を涉り材を取りて、舟を爲りて以て來往し、厲を取り鍛を取りて、宮室を成せり。旣に此に止基まりて、乃ち其の田野を疆理して、則ち日に益々繁庶富足す。其の居澗を夾む者有り、澗に遡かう者有り、其の止居の衆き、日に以て益々密にして、乃ち復芮の鞫に卽いて之に居て、豳の地、日に以て廣まれり。

公劉六章章十句
【読み】
公劉[こうりゅう]六章章十句


<音迥>酌彼行潦<音老>、挹<音揖>彼注茲、可以餴<音分><音熾。叶昌里反>。豈弟君子、民之父母<叶滿彼反>○興也。泂、遠也。行潦、流潦也。餴、烝米一熟、而以水沃之、乃再烝也。饎、酒食也。君子、指王也。○舊說以爲、召康公戒成王。言遠酌彼行潦、挹之於彼、而注之於此、尙可以餴饎。况豈弟之君子、豈不爲民之父母乎。傳曰、豈、以强敎之。弟、以悅安之。民皆有父之尊、有母之親。又曰、民之所好好之、民之所惡惡之。此之謂民之父母。
【読み】
泂[とお]<音迥>く彼の行潦<音老>を酌み、彼に挹[く]<音揖>んで茲に注がば、以て餴[ふん]<音分>饎[し]<音熾。叶昌里反>とす可し。豈弟の君子は、民の父母<叶滿彼反>○興なり。泂は、遠きなり。行潦は、流るる潦[あまみず]なり。餴は、米を烝すに一たび熟して、水を以て之に沃[そそ]いで、乃ち再び烝すなり。饎は、酒食なり。君子は、王を指すなり。○舊說に以爲えらく、召康公成王を戒む、と。言うこころは、遠く彼の行潦を酌み、之を彼に挹んで、之を此に注がば、尙以て餴饎とす可し。况んや豈弟の君子は、豈民の父母爲らんや。傳に曰く、豈は、以て强いて之を敎う。弟は、以て之を悅び安んずるなり。民は皆父の尊有り、母の親有り、と。又曰く、民の好む所は之を好み、民の惡む所は之を惡む。此れ之を民の父母と謂う、と。

○泂酌彼行潦、挹彼注茲、可以濯罍<音雷>。豈弟君子、民之攸歸<叶古回反>○興也。濯、滌也。
【読み】
○泂く彼の行潦を酌み、彼に挹んで茲に注がば、以て罍[もたい]<音雷>を濯[あら]う可し。豈弟の君子は、民の歸[よ]<叶古回反>る攸。○興なり。濯は、滌[あら]うなり。

○泂酌彼行潦、挹彼注茲、可以濯漑<音蓋。叶古氣反>。豈弟君子、民之攸墍<音戲>○興也。漑、亦滌也。墍、息也。
【読み】
○泂く彼の行潦を酌み、彼に挹んで茲に注がば、以て濯い漑[あら]<音蓋。叶古氣反>う可し。豈弟の君子は、民の墍[いこ]<音戲>う攸。○興なり。漑[がい]も、亦滌うなり。墍[き]は、息うなり。

泂酌三章章五句
【読み】
泂酌[けいしゃく]三章章五句


有卷<音權>者阿、飄風自南<叶尼心反>。豈弟君子、來游來歌。以矢其音。賦也。卷、曲也。阿、大陵也。豈弟君子、指王也。矢、陳也。○此詩舊說亦召康公作。疑公從成王游歌於卷阿之上、因王之歌、而作此以爲戒。此章總叙以發端也。
【読み】
卷[まが]<音權>れる阿[おか]有り、飄風南<叶尼心反>よりす。豈弟の君子、來り游び來り歌えり。以て其の音を矢[の]ぶ。賦なり。卷は、曲るなり。阿は、大陵なり。豈弟の君子は、王を指すなり。矢は、陳ぶるなり。○此の詩も舊說に亦召康公の作、と。疑うらくは公成王に從いて卷阿の上に游び歌い、王の歌に因りて、此を作りて以て戒めとす。此の章總べ叙べて以て端を發せり。

○伴<音判><音喚>爾游矣、優游爾休矣。豈弟君子、俾爾彌爾性、似先公酋<音囚>矣。賦也。伴奐・優游、閑暇之意。爾・君子、皆指王也。彌、終也。性、猶命也。酋、終也。○言爾旣伴奐優游矣。又呼而告之。言使爾終其壽命、似先君善始而善終也。自此至第四章、皆極言壽考福祿之盛、以廣王心而歆動之。五章以後、乃告以所以致此之由也。
【読み】
○伴<音判><音喚>として爾[なんじ]游び、優游として爾休[いこ]えり。豈弟の君子、爾をして爾の性を彌[お]うること、先公の酋[お]<音囚>えしに似らしめん。賦なり。伴奐・優游は、閑暇の意。爾・君子は、皆王を指すなり。彌は、終えるなり。性は、猶命のごとし。酋は、終えるなり。○言うこころは、爾旣に伴奐優游す。又呼んで之に告ぐ。言う、爾をして其の壽命を終うること、先君始めを善くして終わりを善くするに似らしめん、と。此より第四章に至るまでは、皆極めて壽考福祿の盛んなるを言いて、以て王の心を廣めて之を歆[きん]動す。五章以後は、乃ち以て此を致す所以の由を告ぐ。

○爾土宇昄<符版反>章、亦孔之厚<叶狼口下主二反>矣。豈弟君子、俾爾彌爾性、百神爾主<叶當口腫庾一反>矣。賦也。昄章、大明也。或曰、昄當作版。版章、猶版圖也。○言爾土宇昄章、旣甚厚矣。又使爾終其身、常爲天地山川鬼神之主也。
【読み】
○爾が土宇昄[おお]<符版反>いに章らかなる、亦孔[はなは]だ之れ厚<叶狼口下主二反>し。豈弟の君子、爾をして爾の性を彌うるまで、百の神爾を主<叶當口腫庾一反>たらしめん。賦なり。昄章は、大いに明らかなり。或ひと曰く、昄は當に版に作るべし。版章は、猶版圖のごとし、と。○言うこころは、爾が土宇昄いに章らかにして、旣に甚だ厚し。又爾をして其の身を終うるまで、常に天地山川鬼神の主爲らしめん。

○爾受命長矣、茀<音弗>祿爾康矣。豈弟君子、俾爾彌爾性、純嘏爾常矣。賦也。茀・嘏、皆福也。常、常享之也。
【読み】
○爾命を受くること長く、茀[ふつ]<音弗>祿爾康んぜり。豈弟の君子、爾をして爾の性を彌うるまで、純[おお]いなる嘏[さいわい]爾に常ならしめん。賦なり。茀・嘏[か]、皆福なり。常は、常に之を享くるなり。

○有馮<音憑>有翼、有孝有德、以引以翼、豈弟君子、四方爲則。賦也。馮、謂可爲依者。翼、謂可爲輔者。孝、謂能事親者。德、謂得於己者。引、導其前也。翼、相其左右也。東萊呂氏曰、賢者之行非一端、必曰有孝有德、何也。蓋人主常與慈祥篤實之人處、其所以興起善端、涵養德性。鎭其躁而消其邪、日改月化、有不在言語之閒者矣。○言得賢以自輔如此、則其德日脩、而四方以爲則矣。自此章以下、乃言所以致上章福祿之由也。
【読み】
○馮[よ]<音憑>るべき有り翼[たす]くべき有り、孝ある有り德ある有り、以て引[みちび]き以て翼けば、豈弟の君子、四方則とせん。賦なり。馮は、依ることをす可き者を謂う。翼は、輔くることをす可き者を謂う。孝は、能く親に事える者を謂う。德は、己に得る者を謂う。引は、其の前に導くなり。翼は、其の左右を相[たす]くるなり。東萊の呂氏が曰く、賢者の行は一端に非ず、必ず孝有り德有りと曰うは、何ぞや。蓋し人主常に慈祥篤實の人と處るは、其の善端を興起し、德性を涵養する所以。其の躁がしきを鎭めて其の邪を消し、日々に改まり月々に化して、言語の閒に在らざる者有り、と。○言うこころは、賢を得て以て自ら輔くること此の如くなれば、則ち其の德日々脩まりて、四方以て則とせん。此の章より以下は、乃ち上の章の福祿を致す所以の由を言う。

○顒顒<魚容反>卬卬<五岡反>、如圭如璋。令聞<音問>令望<叶無方反>、豈弟君子、四方爲綱。賦也。顒顒卬卬、尊嚴也。如圭如璋、純潔也。令聞、善譽也。令望、威儀可望法也。○承上章言。得馮翼孝德之助、則能如此。而四方以爲綱矣。
【読み】
○顒顒[ぎょうぎょう]<魚容反>卬卬[ごうごう]<五岡反>たり、圭の如く璋の如し。令[よ]き聞[ほまれ]<音問>令き望<叶無方反>みありて、豈弟の君子、四方綱とせん。賦なり。顒顒卬卬は、尊く嚴かなり。圭の如く璋の如しは、純潔なり。令聞は、善き譽れなり。令望は、威儀望み法る可きなり。○上の章を承けて言う。馮翼孝德の助けを得れば、則ち能く此の如し。而して四方以て綱とせん。

○鳳凰于飛、翽翽<音諱>其羽、亦集爰止。藹藹王多吉士。維君子使、媚于天子。興也。鳳凰、靈鳥也。雄曰鳳、雌曰凰。翽翽、羽聲也。鄭氏以爲、因時鳳凰至、故以爲喩。理或然也。藹藹、衆多也。媚、順愛也。○鳳凰于飛、則翽翽其羽、而集於其止矣。藹藹王多吉士、則維王之所使、而皆媚于天子矣。旣曰君子、又曰天子、猶曰王于出征、以佐天子云爾。
【読み】
○鳳凰于[ここ]に飛んで、其の羽を翽翽[かいかい]<音諱>し、亦爰れ止まるべきに集[い]る。藹藹[あいあい]として王吉士多し。維れ君子の使えるままにして、天子を媚[いつく]しめり。興なり。鳳凰は、靈鳥なり。雄を鳳と曰い、雌を凰と曰う。翽翽は、羽の聲なり。鄭氏が以爲えらく、時に鳳凰の至れるに因りて、故に以て喩とす、と。理或は然らん。藹藹は、衆多なり。媚は、順いて愛しむなり。○鳳凰于に飛べば、則ち其の羽を翽翽して、其の止まるべきに集る。藹藹として王吉士多ければ、則ち維れ王の使う所にして、皆天子を媚しめり。旣に君子と曰い、又天子と曰うは、猶王于に出で征して、以て天子を佐くと爾か云うと曰うがごとし。

○鳳凰于飛、翽翽其羽、亦傅<音附>于天<叶鐵因反>。藹藹王多吉人。維君子命<叶彌幷反>、媚于庶人。興也。媚于庶人、順愛于民也。
【読み】
○鳳凰于に飛んで、其の羽を翽翽し、亦天<叶鐵因反>に傅[いた]<音附>れり。藹藹として王吉人多し。維れ君子の命<叶彌幷反>ずるままににして、庶人を媚しめり。興なり。庶人を媚しむとは、民を順愛するなり。

○鳳凰鳴矣、于彼高岡。梧桐生矣、于彼朝陽。菶菶<音琫>萋萋<音妻>、雝雝喈喈<叶居奚反>○比也。又以興下章之事也。山之東曰朝陽。鳳凰之性、非梧桐不棲。非竹實不食。菶菶萋萋、梧桐生之盛也。雝雝喈喈、鳳凰鳴之和也。
【読み】
○鳳凰鳴けり、彼の高岡に。梧桐[ごどう]生いたり、彼の朝陽に。菶菶[ほうほう]<音琫>萋萋[せいせい]<音妻>たり、雝雝[ようよう]喈喈[かいかい]<叶居奚反>たり。○比なり。又以て下の章の事を興すなり。山の東を朝陽と曰う。鳳凰の性、梧桐に非ざれば棲まず。竹實に非ざれば食まず。菶菶萋萋は、梧桐生ずることの盛んなるなり。雝雝喈喈は、鳳凰鳴くことの和らげるなり。

○君子之車、旣庶且多。君子之馬、旣閑且馳<叶唐何反>。矢詩不多、維以遂歌。賦也。承上章之興也。菶菶萋萋、則雝雝喈喈矣。君子之車、則旣衆多而閑習矣。其意若曰、是亦足以待天下之賢者、而不厭其多矣。遂歌、蓋繼王之聲而遂歌之。猶書所謂賡載歌也。
【読み】
○君子の車、旣に庶[おお]く且つ多し。君子の馬、旣に閑[なら]いて且つ馳<叶唐何反>せり。詩を矢[の]ぶること多からざれども、維れ以て遂に歌えり。賦なり。上の章の興せるを承く。菶菶萋萋なれば、則ち雝雝喈喈なり。君子の車、則ち旣に衆多にして閑習す。其の意若しくは曰く、是れ亦以て天下の賢者を待つに足りて、其の多きを厭わず、と。遂に歌うは、蓋し王の聲を繼いで遂に之を歌う。猶書に所謂賡[こう]載の歌のごとし。

卷阿十章六章章五句四章章六句
【読み】
卷阿[けんあ]十章六章章五句四章章六句


民亦勞止、汔<音肸>可小康。惠此中國、以綏四方。無縱詭<音鬼>隨、以謹無良、式遏寇虐、憯<音慘>不畏明<叶謨郎反>、柔遠能邇、以定我王。賦也。汔、幾也。中國、京師也。四方、諸夏也。京師、諸夏之根本也。詭隨、不顧是非、而妄隨人也。謹、束之意。憯、魯也。明、天之明命也。柔、安也。能、順習也。○序說以此爲召穆公刺厲王之詩。以今考之、乃同列相戒之詞耳。未必專爲刺王而發。然其憂時感事之意、亦可見矣。蘇氏曰、人未有無故而妄從人者。維無良之人、將悅其君而竊其權、以爲寇虐、則爲之。故無縱詭隨、則無良之人肅、而寇虐無畏之人止。然後柔遠能邇、而王室定矣。穆公、名虎。康公之後。厲王、名胡。成王七世孫也。
【読み】
民亦勞[くる]しめり、汔[ねが]<音肸>わくは小しき康んず可し。此の中國を惠[いつく]しんで、以て四方を綏[やす]んぜよ。詭[みだ]<音鬼>りに隨うを縱[ゆる]すこと無く、以て無良を謹ましめ、式[もっ]て寇虐して、憯[かつ]<音慘>て明<叶謨郎反>を畏れざるを遏[や]めば、遠きを柔[やす]んじ邇きを能[したが]え、以て我が王を定めん。賦なり。汔[きつ]は、幾うなり。中國は、京師なり。四方は、諸夏なり。京師は、諸夏の根本なり。詭りに隨うは、是非を顧みずして、妄りに人に隨うなり。謹は、斂束の意。憯[さん]は、曾てなり。明は、天の明命なり。柔は、安んずるなり。能は、順い習うなり。○序說に此を以て召の穆公厲王を刺[そし]るの詩とす。今を以て之を考うるに、乃ち同列相戒むるの詞なるのみ。未だ必ずしも專ら王を刺ると爲して發せず。然れども其の時を憂え事を感ずるの意、亦見る可し。蘇氏が曰く、人未だ故無くして妄りに人に從う者有らず。維れ無良の人、將に其の君を悅ばして其の權を竊み、以て寇虐を爲さんとして、則ち之をす。故に詭りに隨うを縱すこと無くば、則ち無良の人肅んで、寇虐無畏の人止む。然して後に遠きを柔んじ邇きを能えて、王室定まる、と。穆公は、名虎。康公の後なり。厲王は、名胡。成王七世の孫なり。

○民亦勞止、汔可小休。惠此中國、以爲民逑。無縱詭隨、以謹惛怓<音鐃。叶尼猶反>、式遏寇虐、無俾民憂。無棄爾勞、以爲王休。賦也。逑、聚也。惛怓、猶讙譁也。勞、猶功也。言無棄爾之前功也。休、美也。
【読み】
○民亦勞しめり、汔わくは小しき休[いこ]う可し。此の中國を惠しんで、以て民の逑[あつ]まることをせよ。詭りに隨うを縱すこと無く、以て惛怓[こんどう]<音鐃。叶尼猶反>を謹しましめ、式て寇虐を遏めて、民をして憂えしむること無かれ。爾の勞を棄つること無くして、以て王の休[よ]きをせよ。賦なり。逑は、聚まるなり。惛怓は、猶讙譁[かんか]のごとし。勞は、猶功のごとし。言うこころは、爾の前功を棄つること無かれとなり。休は、美きなり。

○民亦勞止、汔可小息。惠此京師、以綏四國<叶于逼反>。無縱詭隨、以謹罔極、式遏寇虐、無俾作慝。敬愼威儀、以近有德。賦也。罔極、爲惡無窮極之人也。有德、有德之人也。
【読み】
○民亦勞しめり、汔わくは小しき息う可し。此の京師を惠しんで、以て四國<叶于逼反>を綏んぜよ。詭りに隨うを縱すこと無く、以て罔極を謹ましめ、式て寇虐を遏めて、慝[あ]しきことを作さしむること無かれ。威儀を敬み愼んで、以て有德に近づけ。賦なり。罔極は、惡をすること窮まり極まり無き人なり。有德は、德有る人なり。

○民亦勞止、汔可小愒<音器>。惠此中國、俾民憂泄<音異>。無縱詭隨、以謹醜厲、式遏寇虐、無俾正敗<叶蒲寐反>。戎雖小子、而式弘大<叶特計反>○賦也。愒、息。泄、去。厲、惡也。正敗、正道敗壞也。戎、汝也。言汝雖小子、而其所爲甚廣大、不可不謹也。
【読み】
○民亦勞しめり、汔わくは小しき愒[いこ]<音器>う可し。此の中國を惠しんで、民の憂えを泄[さ]<音異>らしめよ。詭りに隨うを縱すこと無く、以て醜[もろもろ]の厲[あ]しきを謹ましめ、式て寇虐を遏めて、正しきを敗<叶蒲寐反>らしむること無かれ。戎[なんじ]小子なりと雖も、而も式て弘く大<叶特計反>いなり。○賦なり。愒[けい]は、息う。泄は、去る。厲は、惡しきなり。正敗は、正道敗壞するなり。戎は、汝なり。言うこころは汝小子なりと雖も、而れども其の爲す所甚だ廣大なり、謹まずんばある可からず。

○民亦勞止、汔可小安。惠此中國、國無有殘。無縱詭隨、以謹繾綣、式遏寇虐、無俾正反。王欲玉女、是用大諫。賦也。繾綣、小人之固結其君者也。正反、反於正也。玉、寶愛之意。言王欲以女爲玉、而寶愛之。故我用王之意、大諫正於女。蓋託爲王意以相戒也。
【読み】
○民亦勞しめり、汔わくは小しき安んず可し。此の中國を惠しんで、國殘[そこな]わしむること有る無し。詭りに隨うを縱すこと無く、以て繾綣[けんけん]を謹ましめ、式て寇虐を遏めて、正しきに反かしむること無かれ。王女を玉にせんと欲す、是を用て大いに諫む。賦なり。繾綣は、小人の固く其の君を結ぶ者なり。正反は、正しきに反くなり。玉は、寶愛の意。言うこころは、王女を以て玉と爲して、之を寶愛せんことを欲す。故に我れ王の意を用て、大いに正しきを女に諫む。蓋し王の意を託し爲して以て相戒むるなり。

民勞五章章十句
【読み】
民勞[みんろう]五章章十句


上帝板板、下民卒癉<音亶>。出話不然、爲猶不遠。靡聖管管、不實於亶。猶之未遠、是用大諫<叶音簡>○賦也。板板、反也。卒、盡。癉、病。猶、謀也。管管、無所依也。亶、誠也。○序以此爲凡伯刺厲王之詩。今考其意、亦與前篇相類。但責之益深切耳。此章首言天反其常道、而使民盡病矣。而女之出言、皆不合理、爲謀又不久遠。其心以爲無復聖人、但恣己妄行、而無所依據、又不實之於誠信。豈其謀之未遠而然乎。世亂乃人所爲、而曰上帝板板者、無所歸咎之詞耳。
【読み】
上帝板板として、下民卒[ことごと]く癉[や]<音亶>みぬ。話[こと]を出だすも然らず、猶[はかりごと]をするも遠からず。聖靡しとして管管たり、亶[まこと]に實[まこと]あらず。猶れること未だ遠からず、是を用て大いに諫<叶音簡>む。○賦なり。板板は、反くなり。卒は、盡く。癉[たん]は、病む。猶は、謀なり。管管は、依る所無きなり。亶[たん]は、誠なり。○序に此を以て凡伯厲王を刺[そし]るの詩とす。今其の意を考うるに、亦前の篇と相類す。但之を責むること益々深切なるのみ。此の章首めに天其の常道に反いて、民をして盡く病ましむるを言う。而も女の言を出だすも、皆理に合わず。謀をするも又久しく遠からず。其の心以爲えらく、復聖人を無[な]みし、但己を恣にし妄りに行いて、依り據る所無く、又之を誠信に實にせず。豈其の謀の未だ遠からずして然るや。世亂るるは乃ち人の爲す所にして、上帝板板と曰う者は、咎を歸する所無きの詞なるのみ。

○天之方難<叶泥涓反>、無然憲憲<叶虛言反>。天之方蹶<音媿>、無然泄泄<音異>。辭之輯<音集。叶祖合反>矣、民之洽矣。辭之懌<叶弋灼反>矣、民之莫矣。賦也。憲憲、欣欣也。蹶、動也。泄泄、猶沓沓也。蓋弛緩之意。孟子曰、事君無義、進退無禮、言則非先王之道者、猶沓沓也。輯、和。洽、合。懌、悅。莫、定也。辭輯而懌、則言必以先王之道矣。所以民無不合、無不定也。
【読み】
○天の方に難[なや]<叶泥涓反>ませるとき、然く憲憲<叶虛言反>たること無かれ。天の方に蹶[うご]<音媿>かせるとき、然く泄泄[えいえい]<音異>たること無かれ。辭之れ輯[やわ]<音集。叶祖合反>らがば、民之れ洽[あ]わん。辭之れ懌[よろこ]<叶弋灼反>べば、民之れ莫[さだ]まらん。賦なり。憲憲は、欣欣なり。蹶[けい]は、動くなり。泄泄は、猶沓沓のごとし。蓋し弛緩するの意。孟子曰く、君に事えて義無く、進退禮無く、言いては則ち先王の道を非る者は、猶沓沓のごとし、と。輯は、和らぐ。洽は、合う。懌は、悅ぶ。莫は、定まるなり。辭輯らいで懌ぶときは、則ち言必ず先王の道を以てす。民合わざる無く、定まらざる無き所以なり。

○我雖異事、及爾同僚。我卽爾謀、聽我囂囂<音梟>。我言維服、勿以爲笑<叶思邀反>。先民有言、詢于芻<初倶反><音饒>○賦也。異事、不同職也。同僚、同爲王臣也。春秋傳曰、同官爲僚。卽、就也。囂囂、自得不肯受言之貌。服、事也。猶曰我所言者、乃今之急事也。先民、古之賢人也。芻蕘、采薪者。古人尙詢及芻蕘。况其僚友乎。
【読み】
○我れ事を異にすと雖も、爾と僚を同じくせり。我れ爾に卽いて謀れば、我に聽くこと囂囂[きょうきょう]<音梟>たり。我が言うことは維れ服[こと]なり、以て笑<叶思邀反>いとすること勿かれ。先民言えること有り、芻[すう]<初倶反>蕘[じょう]<音饒>に詢[はか]る、と。○賦なり。事を異にすとは、職を同じくせざるなり。同僚は、同じく王臣爲るなり。春秋傳に曰く、官を同じくするを僚とす、と。卽は、就くなり。囂囂は、自得して肯えて言を受けざるの貌。服は、事なり。猶我が言う所の者、乃今の急事と曰うがごとし。先民は、古の賢人なり。芻蕘は、薪を采る者。古人詢ることを尙んで芻蕘にも及ぶ。况んや其の僚友をや。

○天之方虐、無然謔謔。老夫灌灌、小子蹻蹻<其畧反>。匪我言耄<音帽。叶毛反>、爾用憂謔。多將熇熇<叶許各反>、不可救藥。賦也。謔、戲侮也。老夫、詩人自稱。灌灌、欵欵也。蹻蹻、驕貌。耄、老而昬也。熇熇、熾盛也。○蘇氏曰、老者知其不可、而盡其欵誠以告之。少者不信而驕之。故曰、非我老耄而妄言。乃汝以憂爲戲耳。夫憂未至而救之、猶可爲也。苟俟其益多、則如火之盛、不可復救矣。
【読み】
○天の方に虐[しいた]ぐる、然く謔謔たること無し。老夫は灌灌たり、小子は蹻蹻[きょうきょう]<其畧反>たり。我が言の耄[ぼう]<音帽。叶毛反>なるに匪ず、爾憂えを用て謔[たわむ]れとせり。多きこと將に熇熇[かくかく]<叶許各反>として、救藥す可からざらん、と。賦なり。謔は、戲れ侮るなり。老夫は、詩人自ら稱せり。灌灌は、欵欵[かんかん]なり。蹻蹻は、驕る貌。耄は、老いて昬きなり。熇熇は、熾盛なり。○蘇氏が曰く、老者は其の不可なることを知りて、其の欵誠を盡くして以て之に告ぐ。少者は信ぜずして之に驕る。故に曰く、我が老耄にして妄りに言うに非ず。乃ち汝憂えを以て戲れとするのみ。夫れ憂え未だ至らずして之を救うは、猶爲す可し。苟に其の益々多きを俟つときは、則ち火の盛んにして、復救う可からざるが如し、と。

○天之方懠<音癠。叶箋西反>、無爲夸<音誇>毗。威儀卒迷、善人載尸。民之方殿屎<音犠>、則莫我敢葵。喪<去聲>亂蔑資<叶付西反>、曾莫惠我師<師霜夷反>○賦也。小人之於人、不以大言夸之、則以諛言毗之也。尸、則不言不爲、飮食而已者也。殿屎、呻吟也。葵、揆也。蔑、猶滅也。資、與咨同。嗟嘆聲也。惠、順。師、衆也。○戒小人。毋得夸毗。使威儀迷亂、而善人不得有所爲也。又言民方愁苦呻吟、而莫敢揆度。其所以然者、是以至於散亂滅亡、而卒無能惠我師者也。
【読み】
○天の方に懠[いか]<音癠。叶箋西反>れるとき、夸[か]<音誇>毗[び]をすること無かれ。威儀卒[ことごと]く迷いて、善人載ち尸のごとし。民の方に殿屎[てんき]<音犠>するとき、則ち我を敢えて葵[はか]ること莫し。喪<去聲>亂し蔑[ほろ]び資[なげ]<叶付西反>けども、曾て我が師<師霜夷反>を惠[したが]うること莫し。○賦なり。小人の人に於る、大言を以て之に夸[ほこ]らざれば、則ち諛言を以て之に毗[つ]くなり。尸は、則ち言わずせず、飮食するのみなる者なり。殿屎は、呻吟なり。葵は、揆るなり。蔑は、猶滅ぶのごとし。資は、咨と同じ。嗟嘆の聲なり。惠は、順う。師は、衆なり。○小人を戒む。夸毗を得ること毋かれ。威儀迷亂して、善人する所有るを得ざらしむ、と。又言う、民方に愁苦呻吟して、敢えて揆り度ること莫し、と。其の然る所以の者は、是れ以て散亂滅亡に至りて、卒に能く我が師を惠うること無き者なり。

○天之牖民、如壎<音塤>如篪<音池>、如璋如圭、如取如攜、攜無曰益。牖民孔易<去聲。叶夷益反>。民之多辟<音僻>、無自立辟<同上>○賦也。牖、開明也。猶言天啓其心也。壎唱而篪和。璋判而圭合。取求攜得而無所費。皆言易也。辟、邪也。○言天之開民、其易如此。以明上之化下、其易亦然。今民旣多邪辟矣。豈可又自立邪辟以道之邪。
【読み】
○天の民を牖[ひら]くこと、壎[けん]<音塤>の如く篪[ち]<音池>の如く、璋の如く圭の如く、取るが如く攜[ひさ]ぐるが如く、攜ぐれば益[ま]さんと曰うこと無し。民を牖かんこと孔[はなは]だ易<去聲。叶夷益反>し。民の辟<音僻>多き、自ら辟<上に同じ>を立つること無かれ。○賦なり。牖は、開きて明るくするなり。猶天其の心を啓くと言うがごとし。壎唱して篪和す。璋判ちて圭合う。取り求め攜げ得て費ゆる所無し。皆易きを言うなり。辟は、邪なり。○言うこころは、天の民を開くこと、其の易きこと此の如し。以て明かす、上の下を化すこと、其の易きこと亦然り。今民旣に邪辟多し。豈又自ら邪辟を立てて以て之を道く可けんや。

○价<音介>人維藩<叶分邅反>、大師維垣、大邦維屛、大宗維翰<叶胡田反>。懷德維寧、宗子維城。無俾城壞<叶胡罪胡威二反>、無獨斯畏<叶紆會於非二反>○賦也。价、大也。大德之人也。藩、籬。師、衆。垣、牆也。大邦、强國也。屛、樹也。所以爲蔽也。大宗、强族也。翰、幹也。宗子、同姓也。○言是六者、皆君之所恃以安、而德其本也。有德、則得是五者之助、不然、則親戚叛之而城壞。城壞、則藩垣屛翰、皆壞而獨居。獨居而所可畏者至矣。
【読み】
○价[かい]<音介>人は維れ藩<叶分邅反>、大師は維れ垣、大邦は維れ屛、大宗は維れ翰<叶胡田反>。德を懷[いだ]けば維れ寧し、宗子は維れ城なり。城をして壞<叶胡罪胡威二反>らしむる無かれ、獨り斯れ畏<叶紆會於非二反>るる無かれ。○賦なり。价は、大なり。大德の人なり。藩は、籬。師は、衆。垣は、牆なり。大邦は、强國なり。屛は、樹なり。蔽うことを爲す所以なり。大宗は、强族なり。翰は、幹なり。宗子は、同姓なり。○言うこころは、是の六つの者は、皆君の恃んで以て安んずる所にして、德は其の本なり。德有れば、則ち是の五つの者の助けを得、然らざれば、則ち親戚之に叛きて城壞る。城壞るれば、則ち藩垣屛翰、皆壞れて獨り居る。獨り居りて畏る可き所の者至るなり。

○敬天之怒、無敢戲豫。敬天之渝<音兪>、無敢馳驅。昊天曰明<叶謨郎反>、及爾出王<音往。叶如字>。昊天曰旦<叶得絹反>、及爾游衍<叶怡戰反>○賦也。渝、變也。王、往通。言出而有所往也。旦、亦明也。衍、寬縱之意。○言天之聦明、無所不及。不可以不敬也。板板也、難也、蹶也、虐也、懠也、其怒而變也甚矣。而不之敬也、亦知其有曰監在茲者乎。張子曰、天體物而不遺、猶仁體事而無不在也。禮儀三百威儀三千、無一事而非仁也。昊天曰明。及爾出王。昊天曰旦。及爾游衍。無一物之不體也。
【読み】
○天の怒りを敬んで、敢えて戲れ豫[やす]んずること無かれ。天の渝[か]<音兪>われるを敬んで、敢えて馳せ驅すること無かれ。昊天曰[ここ]に明<叶謨郎反>らかなり、爾と出で王[ゆ]<音往。叶字の如し>けり。昊天曰に旦[あき]<叶得絹反>らかなり、爾と游び衍[たの]<叶怡戰反>しまん。○賦なり。渝は、變わるなり。王は、往と通ず。言うこころは、出でて往く所有るなり。旦も、亦明らかなり。衍は、寬縱の意。○言うこころは、天の聦明、及ばざる所無し。以て敬せずんばある可からず。板板や、難や、蹶や、虐や、懠や、其の怒りて變ずること甚だし。而して之を敬せざれば、亦其の曰に監ること茲に在ること有る者を知るか。張子が曰く、天の物に體して遺さざるは、猶仁事に體して在らざる無きがごとし。禮儀三百威儀三千、一事として仁に非ざる無し。昊天曰に明らかなり。爾と出で王けり。昊天曰に旦らかなり。爾と游び衍しまん。一物として體せざる無し、と。

板八章章八句
【読み】
板[はん]八章章八句


生民之什十篇六十一章四百三十三句


詩經卷七  朱熹集傳


蕩之什三之三
【読み】
蕩[とう]の什三の三


蕩蕩上帝、下民之辟<音璧>。疾威上帝、其命多辟<音僻>。天生烝民、其命匪諶<音忱。或叶市隆反>、靡不有初、鮮克有終<叶諸深反>○賦也。蕩蕩、廣大貌。辟、君也。疾威、猶暴虐也。多辟、多邪辟也。烝、衆。諶、信也。○言此蕩蕩之上帝、乃下民之君也。今此暴虐之上帝、其命乃多邪辟者何哉。蓋天生衆民、其命有不可信者。蓋其降命之初、無有不善。而人少能以善道自終。是以致此大亂。使天命亦罔克終、如疾威而多辟也。蓋始爲怨天之辭、而卒自解之如此。劉康公曰、民受天地之中以生。所謂命也。能者養之以福、不能者敗以取禍。此之謂也。
【読み】
蕩蕩たる上帝、下民の辟[きみ]<音璧>なり。疾威なる上帝、其の命辟<音僻>多し。天烝民を生すに、其の命諶[まこと]<音忱。或叶市隆反>あらざるは、初め有らざること靡けれども、克く終<叶諸深反>わり有ること鮮ければなり。○賦なり。蕩蕩は、廣大なる貌。辟は、君なり。疾威は、猶暴虐のごとし。多辟は、邪辟多きなり。烝は、衆。諶[しん]は、信なり。○言うこころは、此の蕩蕩たる上帝は、乃ち下民の君なり。今此の暴虐なる上帝、其の命乃ち邪辟多き者は何ぞや。蓋し天衆民を生すに、其の命信ずる可からざる者有り。蓋し其の命を降すの初めは、不善有る無し。而して人能く善道を以て自ら終うること少なし。是を以て此の大亂を致す。天命をして亦克く終わること罔からしむること、疾威にして辟多きが如し。蓋し始め天を怨むの辭を爲して、卒に自ら之を解くこと此の如し。劉康公が曰く、民天地の中を受けて以て生る。所謂命なり。能者は之を養うに福を以てし、不能者は敗りて以て禍いを取る、と。此を之れ謂うなり。

○文王曰咨、咨女<音汝>殷商、曾是彊禦、曾是掊<音抔>克、曾是在位、曾是在服<叶蒲北反>。天降慆<音滔>德。女興是力。賦也。此設爲文王之言也。咨、嗟也。殷商、紂也。疆禦、暴虐之臣也。掊克、聚之臣也。服、事也。慆、慢。興、起也。力、如力行之力。○詩人知厲王之將亡。故爲此詩、託於文王所以嗟嘆殷紂者。言此暴虐聚之臣、在位用事、乃天降慆慢之德而害民。然非其自爲之也、乃汝興起此人、而力爲之耳。
【読み】
○文王曰く咨[ああ]、咨女<音汝>殷商、曾[すなわ]ち是れ彊禦、曾ち是れ掊[ほう]<音抔>克、曾ち是れ位に在り、曾ち是れ服[こと]<叶蒲北反>に在り。天慆[おこた]<音滔>れる德を降せり。女興して是れ力めしむ。賦なり。此れ設けて文王の言とす。咨は、嗟なり。殷商は、紂なり。疆禦は、暴虐の臣なり。掊克は、聚斂の臣なり。服は、事なり。慆は、慢るなり。興は、起こすなり。力は、力行の力の如し。○詩人厲王の將に亡びんとするを知る。故に此の詩を爲りて、文王の殷紂を嗟嘆する所以の者に託すなり。言うこころは、此の暴虐聚斂の臣、位に在り事を用い、乃ち天慆慢の德を降して民を害せり。然れども其れ自ら之を爲すに非ず、乃ち汝此の人を興起して、力めて之をせしむのみ。

○文王曰咨、咨女殷商、而秉義類、彊禦多懟<音隊>、流言以對、寇攘式内。侯作<音詛>侯祝<音呪>、靡屆靡究。賦也。而、亦女也。義、善。懟、怨也。流言、浮浪不根之言也。侯、維也。作、讀爲詛。詛呪、怨謗也。○言汝當用善類、而反任此暴虐多怨之人。使用流言以應對、則是爲寇盜攘竊、而反居内矣。是以致怨謗之無極也。
【読み】
○文王曰く咨、咨女殷商、而[なんじ]義[よ]き類[たぐい]を秉らんに、彊禦の懟[うら]<音隊>み多きをして、流言以て對えしむるは、寇攘式[もっ]て内にするなり。侯[こ]れ作[うけ]<音詛>え侯れ祝[うけ]<音呪>うること、屆[きわ]まり靡く究まり靡し。賦なり。而も、亦女なり。義は、善き。懟[つい]は、怨みなり。流言は、浮浪して根あらざるの言なり。侯は、維れなり。作は、讀んで詛とす。詛呪は、怨み謗るなり。○言うこころは、汝當に善き類を用うるべくして、反って此の暴虐多怨の人に任ず。流言を用いて以て應對せしめば、則ち是れ寇盜攘竊をして、反って内に居る。是を以て怨謗の極まり無きを致すなり。

○文王曰咨、咨女殷商、女炰<音庖><音哮>于中國<叶于逼反>怨以爲德。不明爾德、時無背<音貝>無側。爾德不明、以無陪<音培>無卿。賦也。炰烋、氣健貌。怨以爲德、多爲可怨之事、而反自以爲德也。背、後。側、傍。陪、貳也。言前後左右公卿之臣、皆不稱其官、如無人也。
【読み】
○文王曰く咨、咨女殷商、女中國<叶于逼反>に炰[ほう]<音庖>烋[こう]<音哮>として、怨みを斂めて以て德とせり。爾の德を明らかにせずして、時[こ]れ背<音貝>無く側無し。爾の德明らかならず、以て陪[はい]<音培>無く卿無し。賦なり。炰烋は、氣の健やかなる貌。怨みを斂めて以て德とすとは、多く怨む可きの事をして、反って自ら以て德とするなり。背は、後ろ。側は、傍ら。陪は、貳[そ]うなり。言うこころは、前後左右の公卿の臣、皆其の官に稱わざること、人無きが如し。

○文王曰咨、咨女殷商、天不湎<音免>爾以酒、不義從式<叶式吏反>。旣愆爾止、靡明靡晦<叶呼洧反>、式號式呼<去聲>、俾晝作夜<叶羊茹反>○賦也。湎、飮酒變色也。式、用也。言天不使爾沈湎於酒、而惟不義是從而用也。止、容止也。
【読み】
○文王曰く咨、咨女殷商、天爾を湎[よ]<音免>わしむるに酒を以てせず、義からざるをば從い式[もち]<叶式吏反>う。旣に爾の止[かたち]を愆[あやま]つ、明るきと靡く晦<叶呼洧反>きと靡く、式て號び式て呼<去聲>ばいて、晝をして夜<叶羊茹反>と作さしめり。○賦なり。湎[べん]は、酒を飮んで色が變わるなり。式は、用うなり。言うこころは、天爾をして酒に沈湎せしめずして、惟義からざるを是れ從いて用う。止は、容止なり。

○文王曰咨、咨女殷商、如蜩如螗<音唐>、如沸如羹<叶盧當反>、小大近喪<去聲。叶平聲>、人尙乎由行<叶戶郎反>、内奰<音避>于中國、覃及鬼方。賦也。蜩・螗、皆蝉也。如蝉鳴、如沸羹、皆亂意也。小者大者、幾於喪亡矣。尙且由此而行、不知變也。奰、怒。覃、延也。鬼方、遠夷之國也。言自近及遠、無不怨怒也。
【読み】
○文王曰く咨、咨女殷商、蜩の如く螗[とう]<音唐>の如く、沸くが如く羹<叶盧當反>の如く、小大喪<去聲。叶平聲>ぶに近けれども、人尙由[したが]いて行<叶戶郎反>い、内中國に奰[いか]<音避>られ、覃[ひ]いて鬼方に及べり。賦なり。蜩・螗は、皆蝉なり。蝉鳴くが如く、沸く羹の如きは、皆亂るる意なり。小者大者、喪び亡ぶに幾し。尙且つ此に由いて行い、變を知らず。奰[ひ]は、怒る。覃は、延[ひ]くなり。鬼方は、遠夷の國なり。言うこころは、近きより遠きに及んで、怨み怒らざる無し。

○文王曰咨、咨女殷商、匪上帝不時<叶上止反>、殷不用舊<叶巨已反>。雖無老成人、尙有典刑。曾是莫聽、大命以傾。賦也。老成人、舊臣也。典刑、舊法也。○言非上帝爲此不善之時。但以殷不用舊、致此禍爾。雖無老成人與圖先王舊政、然典刑尙在。可以循守。乃無聽用之者。是以大命傾覆、而不可救也。
【読み】
○文王曰く咨、咨女殷商、上帝時<叶上止反>ならざるに匪ず、殷舊<叶巨已反>きを用いざればなり。老成人無しと雖も、尙典刑有り。曾ち是れ聽くこと莫く、大命以て傾けり。賦なり。老成人は、舊き臣なり。典刑は、舊き法なり。○言うこころは、上帝此の不善の時を爲すに非ず。但殷の舊きを用いざるを以て、此の禍いを致すのみ。老成人與に先王の舊政を圖ること無しと雖も、然れども典刑尙在り。以て循い守る可し。乃ち聽き用ゆる者無し。是を以て大命傾覆して、救う可からざるなり。

○文王曰咨、咨女殷商、人亦有言、顚沛之揭<紀竭去例二反>、枝葉未有害<許曷憩二反>、本實先撥<音跋。叶方吠筆烈二反>。殷鑒不遠、在夏后之世<叶始制私列二反>○賦也。顚沛、仆拔也。揭、本根蹶起之貌。撥、猶絕也。鑒、視也。夏后、桀也。○言大木揭然將蹶、枝葉未有折傷、而其根本之實已先絕。然後此木乃相隨而顚拔爾。蘇氏曰、商周之衰、典刑未廢、諸侯未畔、四夷未起、而其君先爲不義、以自絕於天。莫可救止、正猶此爾。殷鑒在夏、蓋爲文王嘆紂之辭。然周鑒之在殷、亦可知矣。
【読み】
○文王曰く咨、咨女殷商、人亦言えること有り、顚沛の揭[あ]<紀竭去例二反>がれる、枝葉は未だ害[やぶ]<許曷憩二反>れ有らず、本實先ず撥[た]<音跋。叶方吠筆烈二反>えぬ。殷の鑒遠からず、夏后の世<叶始制私列二反>に在り。○賦なり。顚沛は、仆れ拔くるなり。揭は、本根蹶起する貌。撥は、猶絕つのごとし。鑒は、視るなり。夏后は、桀なり。○言うこころは、大木揭然として將に蹶[たお]れんとして、枝葉未だ折れ傷るること有らず、而して其の根本の實は已に先ず絕えぬ。然して後に此の木乃ち相隨いて顚[たお]れ拔くるのみ。蘇氏が曰く、商周の衰うる、典刑未だ廢れず、諸侯未だ畔かず、四夷未だ起こらずして、其の君先ず不義をして、以て自ら天に絕つ。救い止むる可きこと莫しとは、正に猶此のごときのみ、と。殷の鑒夏に在りとは、蓋し文王紂を嘆くの辭とす。然して周の鑒の殷に在るも、亦知る可し。

蕩八章章八句
【読み】
蕩[とう]八章章八句


抑抑威儀、維德之隅。人亦有言、靡哲不愚。庶人之愚、亦職維疾<叶集二反>。哲人之愚、亦維斯戾。賦也。抑抑、密也。隅、廉角也。鄭氏曰、人密審於威儀者、是其德必嚴正也。故古之賢者、道行心平。可外占而知内。如宮室之制。内有繩直、則外有廉隅也。哲、知。庶、衆。職、主。戾、反也。○衛武公作此詩、使人日誦於其側、以自警。言抑抑威儀、乃德之隅、則有哲人之德者、固必有哲人之威儀矣。而今之所謂哲者、未嘗有其威儀、則是無哲而不愚矣。夫衆人之愚、蓋其禀賦之偏、宜有是疾、不足爲怪。哲人而愚、則反戾其常矣。
【読み】
抑抑たる威儀は、維れ德の隅[かど]。人亦言えること有り、哲として愚かならざる靡し、と。庶人の愚かなるは、亦職[むね]とせる維れ疾<叶集二反>。哲人の愚かなるは、亦維れ斯れ戾[もと]れり。賦なり。抑抑は、密なり。隅は、廉角なり。鄭氏が曰く、人威儀に密審なる者は、是れ其の德必ず嚴正なり。故に古の賢者、道行いて心平らかなり。外に占いて内を知る可し。宮室の制の如し。内に繩直有れば、則ち外に廉隅有り、と。哲は、知。庶は、衆。職は、主。戾は、反くなり。○衛の武公此の詩を作りて、人をして日々に其の側に誦ましめ、以て自ら警む。言うこころは、抑抑たる威儀は、乃ち德の隅なれば、則ち哲人の德有る者、固に必ず哲人の威儀有り。而れども今の所謂哲は、未だ嘗て其の威儀有らざれば、則ち是れ哲として愚かならざる無し。夫れ衆人の愚かなるは、蓋し其の禀賦の偏、宜しく是の疾有るべく、怪しむとするに足らず。哲人にして愚かなるは、則ち反って其の常に戾れり。

○無競維人、四方其訓之。有覺德行<去聲>、四國順之。訏<音吁>謨定命、遠猶辰告<叶古得反>。敬愼威儀、維民之則。賦也。競、强也。覺、直大也。訏、大。謨、謀也。大謀、謂不爲一身之謀、而有天下之慮也。定、審定不改易也。命、號令也。猶、圖也。遠謀、謂不爲一時之計、而爲長久之規也。辰、時。告、戒也。辰告、謂以時播告也。則、法也。○言天地之性人爲貴。故能盡人道、則四方皆以爲訓。有覺德行、則四國皆順從之。故必大其謀、定其命、遠圖時告、敬其威儀、然後可以爲天下法也。
【読み】
○競[つよ]きこと無けんや維れ人、四方其れ之を訓[おしえ]とす。德行<去聲>を覺[おお]いにすること有れば、四國之に順えり。訏[おお]<音吁>いに謨[はか]りて命を定め、遠く猶[はか]りて辰[とき]に告<叶古得反>ぐ。威儀を敬み愼むは、維れ民の則なり。賦なり。競は、强きなり。覺は、直くして大いなり。訏[く]は、大き。謨は、謀るなり。大いに謀るとは、一身の謀をせずして、天下の慮り有るを謂うなり。定は、審らかに定めて改め易えざるなり。命は、號令なり。猶は、圖るなり。遠く謀るとは、一時の計をせずして、長久の規を爲すを謂うなり。辰は、時。告は、戒むなり。辰に告ぐとは、時を以て播[ほどこ]し告ぐるを謂うなり。則は、法なり。○言うこころは、天地の性人を貴しとす。故に能く人道を盡くせば、則ち四方皆以て訓とす。覺いなる德行有れば、則ち四國皆之に順い從う。故に必ず其の謀を大いにして、其の命を定め、遠きを圖り時に告げて、其の威儀を敬みて、然して後に以て天下の法と爲る可し。

○其在于今<叶音經>、興迷亂于政<叶音征>、顚覆厥德、荒湛<音耽>于酒<叶子小反>。女<音汝>雖湛樂<音洛>從、弗念厥紹。罔敷求先王、克共<音拱>明刑<叶胡光反>○賦也。今、武公自言己今日之所爲也。興、尙也。女、武公使人誦詩、而命己之詞也。後凡言女、言爾、言小子者放此。湛樂從、言惟湛樂之是從也。紹、謂所承之緒也。敷求先王、廣求先王所行之道也。共、執。刑、法也。
【読み】
○其れ今<叶音經>に在りては、政<叶音征>に迷亂するを興[たっと]び、厥の德を顚覆し、荒[すさ]みて酒<叶子小反>を湛[たの]<音耽>しめり。女<音汝>湛樂<音洛>にのみ從うと雖も、厥の紹[つ]ぐことを念わざらんや。敷[ひろ]く先王を求めて、克く明刑<叶胡光反>を共[と]<音拱>ること罔けんや。○賦なり。今は、武公自ら己が今日の爲す所を言うなり。興は、尙ぶなり。女は、武公人をして詩を誦ましめて、己に命ずるの詞なり。後凡て女と言い、爾と言い、小子と言う者は此に放え。湛樂にのみ從うとは、言うこころは、惟湛樂のみ是に從うなり。紹は、承くる所の緒を謂うなり。敷く先王を求むとは、廣く先王行う所の道を求むるなり。共は、執る。刑は、法なり。

○肆皇天弗尙<叶平聲>、如彼流泉、無淪胥以亡。夙興夜寐、洒掃庭内、維民之章。脩爾車馬、弓矢戎兵<叶晡亡反>、用戒戎作、用逷<音剔>蠻方。賦也。弗尙、厭棄之也。淪、陷。胥、相。章、表。戒、備。戎、兵。作、起。逷、遠也。○言天所不尙、則無乃淪陷相與而亡、如泉流之易乎。是以内自庭除之近、外及蠻方之遠、細而寢興洒掃之常、大而車馬戎兵之變、慮無不周、備無不飭也。上章所謂訏謨定命、遠猶辰告者、於此見矣。
【読み】
○肆[ゆえ]に皇天尙<叶平聲>びず、彼の流るる泉の如く、淪[おちい]り胥[あい]以て亡ぶこと無けんや。夙に興き夜に寐ね、庭内を洒ぎ掃うは、維れ民の章[のり]。爾の車馬、弓矢戎兵<叶晡亡反>を脩めて、用て戎作るに戒[そな]え、逷[とお]<音剔>き蠻方に用いよ。賦なり。尙びずは、之を厭い棄つるなり。淪は、陷る。胥は、相。章は、表。戒は、備うる。戎は、兵。作は、起こる。逷は、遠きなり。○言うこころは、天尙びざる所は、則ち乃ち淪陷相與して亡ぶること、泉流の易きが如きこと無けんや。是を以て内庭除の近きより、外蠻方の遠きに及んで、細にして寢興洒掃の常、大にして車馬戎兵の變、慮り周からざる無く、備え飭[ととの]わざる無し。上の章の所謂訏いに謨りて命を定め、遠く猶りて辰に告ぐ者、此に於て見るなり。

○質爾人民、謹爾侯度、用戒不虞<叶元具反>、愼爾出話、敬爾威儀<叶牛何反>、無不柔嘉<叶居何反>。白圭之玷<音點>、尙可磨也、斯言之玷、不可爲<叶吾禾反>也。賦也。質、成也、定也。侯度、諸侯所守之法度也。虞、慮。話、言。柔、安。嘉、善。玷、鈌也。○言旣治民守法、防意外之患矣。又當謹其言語。蓋玉之玷鈌、尙可磨鑢使平。言語一失、莫能救之。其戒深切矣。故南容一日三復此章。而孔子以其兄之子妻之。
【読み】
○爾の人民を質[さだ]め、爾の侯[きみ]たる度[のり]を謹み、用て虞[はか]<叶元具反>らざるに戒え、爾の話[こと]を出だすことを愼み、爾の威儀<叶牛何反>を敬んで、柔[やす]く嘉<叶居何反>からざる無し。白圭の玷[か]<音點>けたるは、尙磨く可し、斯の言の玷けたるは、爲[おさ]<叶吾禾反>む可からず。賦なり。質は、成すなり、定むるなり。侯度は、諸侯守る所の法度なり。虞は、慮る。話は、言。柔は、安し。嘉は、善き。玷は、鈌くるなり。○言うこころは、旣に民を治め法を守り、意外の患えを防ぐ。又當に其の言語を謹むべし。蓋し玉の玷鈌[てんえつ]は、尙磨鑢[まりょ]して平らならしむる可し。言語一たび失すれば、能く之を救うこと莫し。其の戒め深切なり。故に南容一日三たび此の章を復す。而して孔子其の兄の子を以て之に妻す。

○無易<去聲>由言、無曰苟矣。莫捫<音門>朕舌、言不可逝<叶音折>矣。無言不讎<叶市又反>、無德不報<叶蒲救反>。惠于朋友<叶羽已反>、庶民小子<叶奬里反>、子孫繩繩、萬民靡不承。賦也。易、輕。捫、持。逝、去。讎、答。承、奉也。○言不可輕易其言。蓋無人爲我執持其舌者。故言語由己、易致差失。常當執持、不可放去也。且天下之理、無有言而不讎、無有德而不報者。若爾能惠于朋友庶民小子、則子孫繩繩而萬民靡不承矣。皆謹言之效也。
【読み】
○易[たやす]<去聲>く由[したが]いて言うこと無かれ、苟[しばら]くせんと曰うこと無かれ。朕[わ]が舌を捫[と]<音門>ること莫し、言逝[さ]<叶音折>る可からず。言として讎[こた]<叶市又反>えざる無し、德として報<叶蒲救反>いざる無し。朋友<叶羽已反>、庶民小子<叶奬里反>を惠[いつく]しめば、子孫繩繩として、萬民承けざること靡けん。賦なり。易は、輕々。捫は、持[と]る。逝は、去る。讎は、答う。承は、奉[う]くなり。○言うこころは、其の言を輕易にす可からず。蓋し人の我が爲に其の舌を執り持つ者無し。故に言語は己より、差い失するを致し易し。常に當に執り持ちて、放ち去つ可からざるべし。且つ天下の理は、言有りて讎えざる無く、德有りて報いざる者無し。若し爾能く朋友庶民小子を惠しめば、則ち子孫繩繩として萬民承けざる靡し。皆言を謹むの效なり。

○視爾友君子、輯<音集>柔爾顏<叶魚堅反>、不遐有愆。相<去聲>在爾室、尙不愧于屋漏。無曰不顯、莫予云覯。神之格<叶剛鶴反>思、不可度<入聲>思、矧可射<音亦。叶弋灼反>思。賦也。輯、和也。遐、何通。愆、過也。尙、庶幾也。屋漏、室西北隅也。覯、見也。格、至。度。測。矧、况也。射、斁通。厭也。○言視爾友於君子之時、和柔爾之顏色。其戒懼之意、常若自省曰、豈不至於有過乎。蓋常人之情、其脩於顯者無不如此。然視爾獨居於室之時、亦當庶幾不愧于屋漏、然後可爾。無曰此非明顯之處、而莫予見也。當知鬼神之妙、無物不體。其至於是、有不可得而測者。不顯亦臨、猶懼有失。况可厭射而不敬乎。此言不但脩之於外、又當戒謹恐懼乎其所不睹不聞也。子思子曰、君子不動而敬、不言而信。又曰、夫微之顯、誠之不可揜如此。此正心誠意之極功、而武公及之、則亦聖賢之徒矣。
【読み】
○爾の君子を友とするを視るに、爾の顏<叶魚堅反>を輯[やわ]らげ<音集>柔らにして、遐[なん]ぞ愆[あやま]ち有らざらんとす。爾の室に在るを相[み]<去聲>るに、屋漏にも愧じざらんことを尙[ねが]え。曰うこと無し顯らかならずして、予を云[ここ]に覯ること莫かれ、と。神の格[いた]<叶剛鶴反>れること、度<入聲>る可からず、矧[いわ]んや射[いと]<音亦。叶弋灼反>う可けんや。賦なり。輯は、和らぐなり。遐は、何と通ず。愆は、過ちなり。尙は、庶幾なり。屋漏は、室の西北の隅なり。覯は、見るなり。格は、至る。度は。測る。矧は、况んやなり。射は、斁[えき]と通ず。厭うなり。○言うこころは、爾の君子を友とするの時を視るに、爾の顏色を和らげ柔らにす。其の戒懼の意、常に若[なんじ]自ら省みて曰く、豈過ち有るに至らざらんや、と。蓋し常人の情は、其れ顯らかなるに脩むる者此の如くならざること無し。然れども爾の獨り室に居るの時を視るに、亦當に屋漏に愧じざらんことを庶幾うべく、然して後に可なるのみ。曰うこと無し、此れ明顯の處に非ずして、予を見ること莫かれ、と。當に知るべし、鬼神の妙は、物として體せざる無し。其れ是に至りて、得て測る可からざる者有ることを。不顯も亦臨むは、猶失有ることを懼るればなり。况んや厭い射いて敬せざる可けんや。此れ言うこころは、但に之を外に脩むるのみならず、又當に其の睹ざる聞かざる所を戒謹恐懼すべし。子思子曰く、君子動かざれども敬み、言わざれども信あり、と。又曰く、夫れ微かなるが顯らかなる、誠の揜う可からざること此の如し、と。此れ正心誠意の極功にして、武公之に及ぶときは、則ち亦聖賢の徒なり。

○辟爾爲德、俾臧俾嘉<叶居何反>。淑愼爾止、不愆于儀<叶牛何反>。不僭不賊、鮮<上聲>不爲則。投我以桃、報之以李。彼童而角、實虹<音紅>小子<叶奬里反>○賦也。辟、君也。指武公也。止、容止也。僭、差。賊、害。則、法也。無角曰童。虹、潰亂也。○旣戒以脩德之事、而又言爲德而人法之、猶投桃報李之必然也。彼謂不必脩德、而可以服人者、是牛羊之童者、而求其角也。亦徒潰亂汝而已。豈可得哉。
【読み】
○辟[きみ]爾德を爲[おさ]めて、臧[よ]からしめ嘉<叶居何反>からしめよ。淑[よ]く爾の止[かたち]を愼んで、儀[のり]<叶牛何反>を愆たざれ。僭[たが]わず賊[そこな]わざるは、則とせざること鮮<上聲>けん。我に投[おく]るに桃を以てすれば、之に報ゆるに李を以てす。彼の童にして角とらんというは、實に小子<叶奬里反>を虹[みだ]<音紅>れるなり。○賦なり。辟は、君なり。武公を指すなり。止は、容止なり。僭は、差う。賊は、害う。則は、法なり。角無きを童と曰う。虹は、潰亂なり。○旣に戒むるに德を脩むるの事を以てして、又言う、德を爲めて人之に法るとは、猶桃を投じて李を報ずるの必然なるがごとし。彼の必ずしも德を脩めずして、以て人を服す可しと謂う者は、是れ牛羊の童なる者にして、其の角を求むるなり。亦徒に汝を潰亂せんのみ。豈得可けんや。

○荏<音餁>染柔木、言緡之絲<叶新夷反>。溫溫恭人、維德之基。其維哲人、告之話言、順德之行。其維愚人、覆謂我僭<叶七尋反>。民各有心。興也。荏染、柔貌。柔木、柔忍之木也。緡、綸也。被之綸以爲弓也。話言、古之善言也。覆、猶反也。僭、不信也。民各有心、言人心不同、愚智相越之遠也。
【読み】
○荏[じん]<音餁>染として柔らかなる木は、言[ここ]に緡[つるか]くるに絲<叶新夷反>をす。溫溫として恭[つつし]める人は、維れ德の基なり。其れ維れ哲人は、之に話言を告ぐれば、德に順いて之れ行う。其れ維れ愚人は、覆[かえ]って我を僭[いつわ]<叶七尋反>れりと謂う。民各々心有り。興なり。荏染は、柔らかなる貌。柔木は、柔忍の木なり。緡は、綸なり。之に綸を被らしめて以て弓とす。話言は、古の善言なり。覆は、猶反のごとし。僭は、不信なり。民各々心有りとは、言うこころは、人心同じからず、愚智相越ゆることの遠きなり。

○於<音烏><音呼>小子<叶奬里反>、未知臧否<音鄙>。匪手攜之、言示之事<叶上止反>。匪面命之、言提其耳。借曰未知、亦旣抱子<同上>。民之靡盈、誰夙知而莫<音慕>成。賦也。非徒手攜之也。而又示之以事。非徒面命之也。而又提其耳。所以喩之者、詳且切矣。假令言汝未有知識、則汝旣長大而抱子。宜知矣。人若不自盈滿、能受敎戒、則豈有旣早知、而反晩成者乎。
【読み】
○於<音烏><音呼>小子<叶奬里反>、未だ臧し否[あ]<音鄙>しを知らず。手して之を攜[ひ]くのみに匪ず、言に之に事<叶上止反>を示せり。面[むか]い之に命ずるのみに匪ず、言に其の耳を提[ひさ]げり。借[たとい]未だ知あらずと曰うとも、亦旣に子<上に同じ>を抱けり。民の盈つること靡き、誰が夙く知って莫[おそ]<音慕>く成らんや。賦なり。徒に手して之を攜くのみに非ず。而も又之に示すに事を以てす。徒に面い之に命ずるのみに非ず。而も又其の耳を提ぐ。之に喩す所以の者、詳らかにして且つ切なり。假令汝未だ知識有らずと言うとも、則ち汝旣に長大にして子を抱けり。宜しく知るべし。人若し自ら盈ち滿つとせずして、能く敎戒を受くれば、則ち豈旣に早く知って、反って晩く成る者有らんや。

○昊天孔昭<叶音灼>、我生靡樂<音洛>。視爾夢夢<音蒙>、我心慘慘<音懆。叶七各反>。誨爾諄諄<音肫>、聽我藐藐<音邈>。匪用爲敎<叶入聲>、覆用爲虐。借曰未知、亦聿旣耄<叶音莫>○賦也。夢夢、不明亂意也。慘慘、憂貌。諄諄、詳熟也。藐藐、忽畧貌。耄、老也。八十九十曰耄。左史所謂年九十有五時也。
【読み】
○昊天孔[はなは]だ昭<叶音灼>らかなり、我が生樂<音洛>しみ靡し。爾を視るに夢夢<音蒙>たり、我が心慘慘[そうそう]<音懆。叶七各反>たり。爾を誨うること諄諄[じゅんじゅん]<音肫>たり、我に聽くこと藐藐[ばくばく]<音邈>たり。用て敎<叶入聲>とするに匪ずして、覆[かえ]って用て虐[そこな]えりとす。借未だ知あらずと曰うとも、亦聿[つい]に旣に耄<叶音莫>いたり。○賦なり。夢夢は、明らかならずして亂るる意なり。慘慘は、憂うる貌。諄諄は、詳らかにして熟するなり。藐藐は、忽せにして畧[はぶ]く貌。耄は、老いるなり。八十九十を耄と曰う。左史が所謂年九十有五の時なり。

○於乎小子、告爾舊止。聽用我謀、庶無大悔<叶虎委反>。天方艱難、曰喪厥國<叶于逼反>。取譬不遠、昊天不忒。回遹<音聿>其德、俾民大棘。賦也。舊、舊章也。或曰、久也。止、語詞。庶、幸。悔、恨。忒、差。遹、僻。棘、急也。○言天運方此艱難、將喪厥國矣。我之取譬、夫豈遠哉。觀天道禍福之不差忒、則知之矣。今汝乃回遹其德、而使民至於困急、則喪厥國也必矣。
【読み】
○於乎小子、爾に舊きを告ぐ。我が謀を聽き用いば、庶わくは大いなる悔[うら]<叶虎委反>み無けん。天方に艱難なり、曰[ここ]に厥の國<叶于逼反>を喪ぼさん。取り譬うること遠からず、昊天忒[たが]わず。其の德を回げ遹[ひが]<音聿>めて、民をして大いに棘[すみ]やかならしめんや。賦なり。舊は、舊章なり。或ひと曰く、久、と。止は、語の詞。庶は、幸[こいねが]う。悔は、恨ゆ。忒[とく]は、差う。遹[いつ]は、僻む。棘は、急なり。○言うこころは、天運此の艱難に方たりて、將に厥の國を喪ぼさんとす。我が取り譬うること、夫れ豈遠からんや。天道禍福の差忒あらざるを觀れば、則ち之を知る。今汝乃ち其の德を回げ遹めて、民をして困急に至らしめば、則ち厥の國を喪ぼさんこと必せり。

抑十二章三章章八句九章章十句。楚語左史倚相曰、昔衛武公年數九十五矣、猶箴儆於國曰、自卿以下、至于師長士、苟在朝者、無謂我老耄而舍我。必恭恪於朝夕、以交戒我。在輿有旅賁之規、位宁有官師之典、倚几有誦訓之諫、居寢有御之箴、臨事有瞽史之道、宴居有師工之誦。史不失書、矇不失誦、以訓御之。於是作懿戒以自儆。及其沒也、謂之睿聖武公。韋昭曰、懿、讀爲抑。卽此篇也。董氏曰、侯包言、武公行年九十有五、猶使人日誦是詩、而不離於其側。然則序說爲刺厲王者誤矣。
【読み】
抑[よく]十二章三章章八句九章章十句。楚語に左史倚相が曰く、昔衛の武公年數九十五にして、猶國に箴[いまし]め儆[いまし]めて曰く、卿より以下、師長士に至るまで、苟も朝に在る者、我を老耄せりと謂いて我を舍つること無かれ。必ず朝夕に恭恪して、以て交々我を戒めよ、と。輿に在りては旅賁の規有り、宁[ちょ]に位しては官師の典有り、几に倚りては誦訓の諫め有り、寢に居りては御の箴め有り、事に臨んでは瞽史の道有り、宴居には師工の誦有り。史は書を失せず、矇は誦を失せず、訓を以て之を御す。是に於て懿戒を作りて以て自ら儆む。其の沒するに及んで、之を睿聖武公と謂う、と。韋昭が曰く、懿は、讀んで抑とす。卽ち此の篇なり、と。董氏が曰く、侯包が言う、武公行年九十有五、猶人をして日々に是の詩を誦ぜしめて、其の側を離れざらしむ。然れば則ち序說に厲王を刺[そし]る者とするは誤れり、と。


<音鬱>彼桑柔、其下侯旬。捋<力活反>采其劉、瘼<音莫>此下民。不殄心憂、倉<音愴><音况>塡兮。倬彼昊天<叶鐵因反>、寧不我矜。比也。菀、茂。旬、徧。劉、殘。殄、絕也。倉兄、與愴怳同。悲閔之意也。塡、未詳。舊說與陳塵同。蓋言久也。或疑與瘨字同。爲病之義。但召旻篇内二字並出、又恐未然。今姑闕之。倬、明貌。○舊說此爲芮伯刺厲王而作。春秋傳亦曰、芮良夫之詩。則其說是也。以桑爲比者、桑之爲物、其葉最盛。然及其采之也、一朝而盡。無黃落之漸。故取以比周之盛時。如葉之茂、其蔭無所不徧。至於厲王肆行暴虐、以敗其成業、王室忽焉凋弊、如桑之旣采、民失其蔭、而受其病。故君子憂之、不絕於心、悲閔之甚、而至於病、遂號天而訴之也。
【読み】
菀[うつ]<音鬱>たる彼の桑の柔らかきは、其の下侯[こ]れ旬[あまね]し。捋[と]<力活反>り采りて其れ劉[そこな]い、此の下民を瘼[や]<音莫>ましめり。殄[た]えざる心の憂え、倉<音愴><音况>として塡[や]みぬ。倬たる彼の昊天<叶鐵因反>、寧[なん]ぞ我を矜[あわ]れまざる。比なり。菀は、茂る。旬は、徧し。劉は、殘[そこな]う。殄[てん]は、絕つなり。倉兄は、愴怳と同じ。悲しみ閔うるの意なり。塡[てん]は、未だ詳らかならず。舊說に陳塵と同じ、と。蓋し久しきを言うなり。或ひと疑う、瘨[てん]の字と同じ、と。病の義とす。但召旻の篇の内に二字並び出づ。又恐らくは未だ然らず。今姑く之を闕く。倬は、明らかなる貌。○舊說に此れ芮[ぜい]伯の厲王を刺[そし]るの作とす。春秋傳にも亦曰く、芮良夫の詩、と。則ち其の說是なり。桑を以て比とする者は、桑の物爲る、其の葉最も盛んなり。然れども其の之を采るに及んでは、一朝にして盡く。黃落の漸無し。故に取りて以て周の盛んなる時に比す。葉の茂れる、其の蔭徧からざる所無きが如し。厲王の肆行暴虐に至りて、以て其の成業を敗りて、王室忽焉として凋弊すること、桑の旣に采られて、民其の蔭を失いて、其の病を受くるが如し。故に君子之を憂えて、心に絕えず、悲しみ閔れむこと甚だしくして、病に至り、遂に天を號ばいて之を訴う。

○四牡騤騤、旟旐有翩<叶批賓反>。亂生不夷、靡國不泯<叶彌鄰反>。民靡有黎、具禍以燼<叶咨辛反>。於<音烏><音呼>有哀<叶音依>、國步斯頻。賦也。夷、平。泯、滅。黎、黑。燼、灰燼也。步、猶運也。頻、急蹙也。○厲王之亂、天下征役不息。故其民見其車馬旌旗、而厭苦之。自此至第四章、皆征役者之怨辭也。
【読み】
○四牡騤騤たり、旟旐[よちょう]翩[ひるがえ]<叶批賓反>る有り。亂生りて夷[たい]らかならず、國として泯[ほろ]<叶彌鄰反>びざる靡し。民黎[くろ]きこと有る靡く、具に禍ありて以て燼[もえつ]<叶咨辛反>きぬ。於<音烏><音呼><叶音依>しみ有り、國步斯れ頻[すみ]やかなり。賦なり。夷は、平ら。泯[びん]は、滅ぶ。黎は、黑し。燼は、灰燼なり。步は、猶運のごとし。頻は、急蹙なり。○厲王の亂、天下征役息まず。故に其の民其の車馬旌旗を見て、之を厭い苦しむ。此より第四章に至るまで、皆征役する者の怨みたる辭なり。

○國步蔑資、天不我將<叶子兩反>。靡所止疑<音屹。叶如字>。云徂何往。君子實維、秉心無競<叶其兩反>。誰生厲階<叶居奚反>、至今爲梗<音鯁。叶古黨反>○賦也。蔑、滅。資、咨。將、養也。疑、讀如儀禮疑立之疑。定也。徂、亦往也。競、爭。厲、怨。梗、病也。○言國將危亡。天不我養。居無所定、徂無所往。然非君子之有爭心也。誰實爲此禍階、使至今爲病乎。蓋曰、禍有根原。其所從來也遠矣。
【読み】
○國步蔑[ほろ]びんとして資[なげ]かん、天我を將[やしな]<叶子兩反>わず。止まり疑[さだ]<音屹。叶字の如し>まる所靡し。云[ここ]に徂くも何くにか往かん。君子實に維れ、心を秉ること競[あらそ]<叶其兩反>い無し。誰か厲[うら]みの階[はし]<叶居奚反>を生して、今に至るまで梗[やまい]<音鯁。叶古黨反>と爲せる。○賦なり。蔑は、滅ぶ。資は、咨[なげ]く。將は、養うなり。疑は、讀んで儀禮の疑まり立つの疑の如し。定むるなり。徂は、亦往くなり。競は、爭う。厲は、怨み。梗は、病なり。○言うこころは、國將に危亡せんとす。天我を養わず。居るも定まる所無く、徂くも往く所無し。然れども君子は爭う心有るに非ず。誰か實に此の禍の階を爲し、今に至るまで病とせしむるや。蓋し曰く、禍に根原有り。其の從りて來る所は遠し。

○憂心慇慇、念我土宇。我生不辰、逢天僤<音亶><叶暖五反>。自西徂東<叶音丁>、靡所定處。多我覯痻<音民>、孔棘我圉。賦也。土、郷。宇、居。辰、時。僤、厚。覯、見。痻、病。棘、急。圉、邊也。或曰、禦也。多矣我之見病也、急矣我之在邊也。
【読み】
○憂うる心慇慇たり、我が土宇を念う。我が生まれしこと辰[とき]ならず、天の僤[あつ]<音亶>く怒<叶暖五反>れるに逢えり。西より東<叶音丁>に徂いて、定まり處る所靡し。多いかな我が痻[や]<音民>ましきを覯ること、孔だ棘[すみ]やかなるかな我が圉[ぎょ]たること。賦なり。土は、郷。宇は、居。辰は、時。僤[たん]は、厚し。覯は、見る。痻は、病。棘は、急。圉は、邊なり。或ひと曰く、禦、と。多いかな我が病ましきを見ること、急やかなるかな我が邊に在ること。

○爲謀爲毖<叶音必>、亂況斯削。告爾憂恤、誨爾序爵。誰能執熱、逝不以濯。其何能淑、載胥及溺<叶奴學反>○賦也。毖、愼。況、滋也。序爵、辨別賢否之道也。執熱、手執熱物也。○蘇氏曰、王豈不謀且愼哉。然而不得其道。適所以長亂而自削耳。故告之以其所當憂、而誨之以序爵。且曰、誰能執熱而不濯者。賢者之能已亂、猶濯之能解熱耳。不然則其何能善哉。相與入於陷溺而已。
【読み】
○謀をし毖[つつし]<叶音必>みをすれども、亂況[ますます]して斯れ削らる。爾に憂え恤うることを告げて、爾に爵[くらい]を序ずることを誨えん。誰か能く熱きを執りて、逝[ここ]に濯うことを以てせざらん。其れ何ぞ能く淑[よ]けん、載ち胥[あい]及[とも]に溺<叶奴學反>れなん。○賦なり。毖は、愼む。況は、滋[ますます]なり。爵を序ずとは、賢否を辨別するの道なり。熱きを執るとは、手づから熱き物を執るなり。○蘇氏が曰く、王豈謀らず且つ愼まざらんや。然れども其の道を得ず。適[まさ]に亂を長くして自ら削る所以なるのみ。故に之に告ぐるに其の當に憂うるべき所を以てして、之に誨うるに爵を序ずるを以てす。且つ曰く、誰か能く熱きを執りて濯わざる者あらん。賢者の能く亂を已むる、猶之を濯いて能く熱を解くがごときのみ。然らざれば則ち其れ何ぞ能く善からんや。相與に陷溺に入るのみ、と。

○如彼溯風<叶孚音反>、亦孔之僾<音愛>。民有肅心、荓<音烹>云不逮。好是稼穡、力民代食。稼穡維寶、代食維好。賦也。溯、郷。僾、唈。肅、進。荓、使也。○蘇氏曰、君子視厲王之亂、悶然如遡風之人唈而不能息。雖有欲進之心、皆使之曰、世亂矣、非吾所能及也。於是退而稼穡盡其筋力、與民同事、以代祿食而已。當是時也、仕進之憂、甚於稼穡之勞。故曰、稼穡維寶、代食維好。言雖勞而無患也。
【読み】
○彼の風<叶孚音反>に溯[む]かうが如し、亦孔だ之れ僾[むせ]<音愛>べり。民肅[すす]まん心有れども、逮ばずと云わしむ。是の稼穡を好みんじ、民を力めて食に代う。稼穡は維れ寶、代食は維れ好し。賦なり。溯は、郷[む]かう。僾[あい]は、唈[ゆう]。肅は、進む。荓は、使なり。○蘇氏が曰く、君子厲王の亂を視て、悶然として風に遡かう人唈[むせ]びて息する能わざるが如し。進まんと欲する心有ると雖も、皆之をして、世亂る、吾が能く及ぶ所に非ずと曰わしむ。是に於て退き稼穡し其の筋力を盡くして、民と事を同じくして、以て祿食に代うるのみ。是の時に當たりて、仕進の憂え、稼穡の勞より甚だし。故に曰く、稼穡は維れ寶、代食は維れ好し、と。言うこころは、勞しむと雖も患え無きなり。

○天降喪<去聲>亂、滅我立王。降此蟊賊、稼穡卒痒<音羊>。哀恫<音通>中國、具贅<音惴>卒荒。靡有旅力、以念穹蒼。賦也。恫、痛。具、倶也。贅、屬也。言危也。春秋傳曰、君若旒然。與此贅同。卒、盡。荒、虛也。旅、與膂同。穹蒼、天也。穹、言其形、蒼、言其色。○言天降喪亂、固已滅我所立之王矣、又降此蟊賊、則我之稼穡又病、而不得以代食矣。哀此中國、皆危盡荒。是以危困之極、無力以念天禍也。此詩之作、不知的在何時。其言滅我立王、則疑在共和之後也。
【読み】
○天喪<去聲>亂を降して、我が立てる王を滅ぼせり。此の蟊[ぼう]賊を降して、稼穡卒[ことごと]く痒[や]<音羊>めり。哀しく恫[いた]<音通>ましきかな中國、具に贅[つ]<音惴>きて卒く荒[むな]し。旅力、以て穹蒼を念うこと有ること靡し。賦なり。恫[とう]は、痛む。具は、倶なり。贅は、屬くなり。危うきを言うなり。春秋傳に曰く、君は旒[ぜいりゅう]の若く然り、と。此の贅と同じ。卒は、盡く。荒は、虛しきなり。旅は、膂[りょ]と同じ。穹蒼は、天なり。穹は、其の形を言い、蒼は、其の色を言う。○言うこころは、天喪亂を降して、固に已に我が立つ所の王を滅ぼし、又此の蟊賊を降せば、則ち我が稼穡も又病んで、以て代食するを得ず。哀しいかな此の中國、皆危うく盡く荒し。是を以て危困極まり、力めて以て天禍を念うこと無し。此の詩の作れるは、的に何れの時に在るかを知らず。其れ我が立てる王を滅ぼすと言えば、則ち疑うらくは共和の後に在らん。

○維此惠君、民人所瞻<叶側姜反>。秉心宣猶、考愼其相<去聲。叶平聲>。維彼不順、自獨俾臧、自有肺腸、俾民卒狂。賦也。惠、順也。順於義理也。宣、徧。猶、謀。相、輔。狂、惑也。○言彼順理之君、所以爲民所尊仰者、以其能秉持其心、周徧謀度考擇其輔相、必衆以爲賢、而後用之。彼不順理之君、則自以爲善、而不考衆謀、自有私見、而不通衆志。所以使民眩惑、至於狂亂也。
【読み】
○維れ此の惠[したが]える君は、民人の瞻[あお]<叶側姜反>ぐ所。心を秉りて宣[あまね]く猶[はか]り、其の相[たすけ]<去聲。叶平聲>を考え愼めり。維れ彼の順わざるは、自ら獨り臧[よ]からしめ、自ら肺腸有りて、民をして卒く狂[まど]わしむ。賦なり。惠は、順うなり。義理に順うなり。宣は、徧き。猶は、謀。相は、輔。狂は、惑うなり。○言うこころは、彼の理に順うの君の、民の爲に尊仰せらるる所以の者は、其の能く其の心を秉り持ちて、謀度を周徧して其の輔相を考え擇んで、必ず衆以て賢と爲して、後に之を用うるを以てなり。彼の理に順わざるの君は、則ち自ら以て善なりとして、衆謀を考えず、自ら私見有りて、衆志に通ぜず。民をして眩惑して、狂亂に至らしむる所以なり。

○瞻彼中林、牲牲<音莘>其鹿。朋友已譖<音僭。叶子林反>、不胥以穀。人亦有言、進退維谷。興也。牲牲、衆多並行之貌。譖、不信也。胥、相。穀、善。谷、窮也。言朋友相譖、不能相善、曾鹿之不如也。○言上無明君下有惡俗。是以進退皆窮也。
【読み】
○彼の中林を瞻れば、牲牲[しんしん]<音莘>たる其の鹿あり。朋友已に譖[いつわ]<音僭。叶子林反>り、胥[あい]以て穀[よ]みんぜず。人亦言えること有り、進退維れ谷[きわ]まれり、と。興なり。牲牲は、衆多にて並び行くの貌。譖は、不信なり。胥は、相。穀は、善き。谷は、窮まるなり。言うこころは、朋友相譖りて、相善みんずること能わず、曾て鹿にだも如からざるなり。○言うこころは、上に明君無くして下に惡俗有り。是を以て進退皆窮まれり。

○維此聖人、瞻言百里、維彼愚人、覆狂以喜。匪言不能、胡斯畏忌<叶巨已反>○賦也。聖人炳於幾先、所視而言者、無遠而不察。愚人不知禍之將至、而反狂以喜。今用事者蓋如此。我非不能言也。如此畏忌何哉。言王暴虐、人不敢諫也。
【読み】
○維れ此の聖人は、瞻て言うこと百里、維れ彼の愚人は、覆[かえ]って狂い以て喜べり。言うことの能わざるには匪ず、胡ぞや斯の畏れ忌<叶巨已反>むこと。○賦なり。聖人は幾先に炳[あき]らかにして、視て言う所の者、遠くして察せざる無し。愚人は禍の將に至らんとするを知らずして、反って狂い以て喜ぶ。今事を用うる者蓋し此の如し。我れ言うこと能わざるに非ず。此の如く畏れ忌むこと何ぞや。王の暴虐にして、人敢えて諫めざるを言うなり。

○維此良人、弗求弗迪<叶徒沃反>。維彼忍心、是顧是復<音伏>。民之貪亂、寧爲荼毒。賦也。迪、進也。忍、殘忍也。顧、念。復、重也。荼、苦菜也。味苦氣辛。能殺物。故謂之荼毒也。○言不求善人而進用之。其所顧念重復而不已者、乃忍心不仁之人。民不堪命。所以肆行貪亂、而安爲荼毒也。
【読み】
○維れ此の良人をば、求めず迪[すす]<叶徒沃反>めず。維れ彼の忍心あるを、是れ顧み是れ復[かさ]<音伏>ぬ。民の貪亂[たんらん]、寧んじ荼毒[とどく]を爲せり。賦なり。迪は、進むなり。忍は、殘忍なり。顧は、念う。復は、重ぬるなり。荼は、苦菜なり。味苦く氣辛し。能く物を殺す。故に之を荼毒と謂うなり。○言うこころは、善人を求めて之を進め用いず。其の顧念重復して已まざる所の者は、乃ち忍心不仁の人なり。民命に堪えず。肆行貪亂して、安んじて荼毒を爲せる所以なり。

○大風有隧<音遂>、有空大谷。維此良人、作爲式穀。維彼不順、征以中垢<音苟。叶居六反>○興也。隧、道。式、用。穀、善也。征以中垢、未詳其義。或曰、征、行也。中、隱暗也。垢、汙穢也。○大風之行有隧。蓋多出於空谷之中。以興下文君子小人所行、亦各有道耳。
【読み】
○大風隧[みち]<音遂>有り、空大の谷有り。維れ此の良人は、作し爲すこと穀[よ]きを式[もち]ゆ。維れ彼の順わざるは、征[おこな]うに中垢<音苟。叶居六反>を以てせり。○興なり。隧は、道。式は、用う。穀は、善きなり。征以中垢は、未だ其の義を詳らかにせず。或ひと曰く、征は、行なり。中は、隱暗なり。垢は、汙穢なり、と。○大風の行くに隧有り。蓋し多く空谷の中より出づ。以て下文の君子小人の行く所も、亦各々道有るを興すのみ。

○大風有隧、貪人敗類。聽言則對、誦言如醉。匪用其良、覆俾我悖<叶蒲寐反>○興也。敗類、猶言圮族也。王使貪人爲政、我以其或能聽我之言而對之。然亦知其不能聽也。故誦言而中心如醉。由王不用善人、而反使我至此悖眊也。厲王說榮夷公。芮良夫曰、王室其將卑乎。夫榮公好專利、而不備大難。夫利百物之所生也、天地之所載也。而或專之、其害多矣。此詩所謂貪人、其榮公也與。芮伯之憂、非一日矣。
【読み】
○大風隧有り、貪人類を敗る。言を聽いては則ち對うれども、言を誦して醉えるが如し。其の良きを用うるに匪ず、覆って我を悖[みだ]<叶蒲寐反>らしめり。○興なり。類を敗るは、猶族を圮[やぶ]ると言うがごとし。王貪人をして政を爲さしめ、我れ其の或は能く我が言を聽かんことを以て之に對う。然れども亦其の聽くこと能わざるを知る。故に言を誦して中心醉えるが如し。王の善人を用いざるに由りて、反って我をして此の悖眊に至らしむるなり。厲王榮の夷公を說ぶ。芮良夫が曰く、王室其れ將に卑[ひく]からんとす。夫れ榮公好んで利を專らにして、大難に備えず。夫れ利は百物の生る所なり、天地の載する所なり。而るを或は之を專らにすれば、其の害多し、と。此の詩の所謂貪人は、其れ榮公なるか。芮伯の憂え、一日に非ず。

○嗟爾朋友、予豈不知而作。如彼飛蟲、時亦弋獲<叶胡郭反>。旣之陰<去聲>女、反予來赫<叶黑各反>○賦也。如彼飛蟲、時亦弋獲、言己之言、或亦有中。猶曰千慮而一得也。之、往。陰、覆也。赫、威怒之貌。我以言告女。是往陰覆於女、女反來加赫然之怒於己也。張子曰、陰往密告於女、反謂我來恐動也。亦通。
【読み】
○嗟爾朋友、予れ豈知らずして作らんや。彼の飛蟲の如し、時に亦弋にし獲<叶胡郭反>。旣に之いて女を陰[おお]<去聲>えば、反って予に來り赫[いか]<叶黑各反>れり。○賦なり。彼の飛蟲の如く、時に亦弋にし獲とは、言うこころは、己が言、或は亦中ること有り。猶千慮して一得すと曰うがごとし。之は、往く。陰は、覆うなり。赫は、威怒の貌。我れ言を以て女に告ぐ。是れ往いて女を陰覆すれば、女反って來りて赫然たる怒りを己に加う。張子が曰く、陰[ひそ]かに往いて密かに女に告ぐれば、反って謂う、我れ來りて恐れ動かす、と。亦通ず。

○民之罔極、職凉善背<叶必墨反>、爲民不利、如云不克。民之回遹<音聿>、職競用力。賦也。職、專也。凉義未詳。傳曰、凉、薄也。鄭讀作諒。信也。疑鄭說爲得之。善背、工爲反覆也。克、勝也。回遹、邪僻也。○言民之所以貪亂而不知所止者、專由此人名爲直諒、而實善背。又爲民所不利之事、如恐不勝而力爲之也。又言民之所以邪僻者、亦由此輩專競用力而然也。反覆其言、所以深惡之也。
【読み】
○民の極まり罔き、職[もっぱ]ら凉[まこと]とすれども善[たくみ]に背<叶必墨反>き、民の利あらざるをすること、云[ここ]に克たざるが如し。民の回りて遹[ひが]<音聿>めるも、職ら競いて力を用うればなり。賦なり。職は、專らなり。凉の義は未だ詳らかならず。傳に曰く、凉は、薄なり。鄭讀んで諒に作る。信なり。疑うらくは鄭說之を得とす。善に背くとは、工みに反覆を爲すなり。克は、勝つなり。回遹[かいいつ]は、邪僻なり。○言うこころは、民の貪亂して止まる所を知らざる所以の者は、專ら此の人名は直諒なりとして、實は善に背くに由る。又民の利あらざる所の事をして、勝たざるを恐れて力めて之をするが如し。又言う、民の邪僻なる所以は、亦此の輩專ら競いて力を用ゆるに由りて然り。其の言を反覆するは、深く之を惡む所以なり。

○民之未戾、職盜爲寇。凉曰不可、覆背善詈<音利>、雖曰匪予、旣作爾歌。賦也。戾、定也。民之所以未定者、由有盜臣爲之寇也。蓋其爲信也、亦以小人爲不可矣、及其反背也、則又工爲惡言、以詈君子。是其色厲内荏、眞可謂穿窬之盜矣。然其人又自文飾、以爲此非我言也。則我已作爾歌矣、言得其情、且事已著明、不可揜覆也。
【読み】
○民の未だ戾[さだ]まらざる、職ら盜寇を爲せばなり。凉に不可なりと曰も、覆[かえ]り背けば善に詈[ののし]<音利>り、予に匪ずと曰うと雖も、旣に爾の歌を作れり。賦なり。戾は、定むるなり。民の未だ定まらざる所以の者は、盜臣有りて之が寇をするに由るなり。蓋し其の信とするや、亦小人を以て不可なりとすれども、其の反き背くに及んでや、則ち又工みに惡言を爲して、以て君子を詈る。是れ其れ色厲しくして内荏[やわ]らかく、眞に謂う可し、穿窬の盜、と。然れども其の人も又自ら文[かざ]り飾りて、以て此れ我が言に非ずとす。則ち我れ已に爾の歌を作れりとは、言うこころは、其の情を得て、且つ事已に著明なれば、揜い覆う可からざるなり。

桑柔十六章八章章八句八章章六句
【読み】
桑柔[そうじゅう]十六章八章章八句八章章六句


倬彼雲漢、昭回于天<叶鐵因反>。王曰於<音烏><音呼>何辜、今之人、天降喪<去聲>亂、饑饉薦<音荒>臻。靡神不舉、靡愛斯牲<叶桑經反>。圭璧旣卒、寧莫我聽<平聲>○賦也。雲漢、天河也。昭、光。回、轉也。言其光隨天而轉也。薦、荐通。重也。臻、至也。靡神不舉、所謂國有凶荒、則索鬼神而祭之也。圭璧、禮神之玉也。卒、盡。寧、猶何也。○舊說以爲宣王承厲王之烈、内有撥亂之志。遇烖而懼、側身脩行、欲消去之。天下喜於王化復行、百姓見憂。故仍叔作此詩以美之。言雲漢者夜晴則天河明。故述王仰訴於天之詞如此也。
【読み】
倬たる彼の雲漢、昭[ひかり]天<叶鐵因反>に回れり。王曰く於<音烏><音呼>何の辜[つみ]かある、今の人、天喪<去聲>亂を降して、饑饉薦[かさ]<音荒>なり臻[いた]れり。神として舉げざる靡く、斯の牲<叶桑經反>を愛しむ靡し。圭璧旣に卒[つ]きぬ、寧ぞ我を聽<平聲>くこと莫き。○賦なり。雲漢は、天河なり。昭は、光。回は、轉るなり。言うこころは、其の光天に隨いて轉るなり。薦は、荐[せん]と通ず。重なるなり。臻は、至るなり。神として舉げざる靡しは、所謂國に凶荒有れば、則ち鬼神に索めて之を祭るなり。圭璧は、神を禮するの玉なり。卒は、盡く。寧は、猶何のごとし。○舊說に以爲えらく、宣王厲王の烈しきを承けて、内に撥亂の志有り。烖[わざわ]いに遇いて懼れ、身を側[ひそ]めて行を脩め、之を消し去らんと欲す。天下王化の復行われて、百姓憂えられんことを喜ぶ。故に仍叔[じょうはく]此の詩を作りて以て之を美む。言うこころは、雲漢は夜晴れれば則ち天河明らかなり。故に王仰いで天に訴うるの詞を述ぶること此の如し。

○旱旣大<音泰>甚。蘊隆蟲蟲。不殄禋祀、自郊徂宮、上下奠瘞、靡神不宗。后稷不克、上帝不臨<叶力中反>。耗斁<音妬>下土、寧丁我躬。賦也。蘊、蓄。隆、盛也。蟲蟲、熱氣也。殄、絕也。郊、祀天地也。宮、宗廟也。上祭天下祭地、奠其禮瘞其物。宗、尊也。克、勝也。言后稷欲救此旱災、而不能勝也。臨、享也。稷以親言、帝以尊言也。斁、敗。丁、當也。何以當我之身、而有是災也。或曰、與其耗斁下土、寧使烖害當我身也。亦通。
【読み】
○旱旣に大<音泰>甚だし。蘊み隆[さか]んなること蟲蟲たり。禋祀[いんし]を殄[た]えさずして、郊より宮に徂き、上下奠[そな]え瘞[うず]め、神として宗[たっと]びざる靡し。后稷も克たず、上帝も臨[う]<叶力中反>けず。下土を耗[ついや]し斁[やぶ]<音妬>ること、寧ぞ我が躬に丁[あ]たれる。賦なり。蘊は、蓄[つ]む。隆は、盛んなり。蟲蟲は、熱氣なり。殄は、絕ゆるなり。郊は、天地を祀るなり。宮は、宗廟なり。上は天を祭り下は地を祭り、其の禮を奠え其の物を瘞む。宗は、尊ぶなり。克は、勝つなり。言うこころは、后稷此の旱災を救わんと欲して、勝つこと能わず。臨は、享くるなり。稷は親を以て言い、帝は尊きを以て言うなり。斁は、敗る。丁は、當たるなり。何を以てか我が身に當たりて、是の災い有るや。或ひと曰く、其の下土を耗し斁るよりは、寧ろ烖害をして我が身に當たらしめん、と。亦通ず。

○旱旣大甚。則不可推<叶雷反>。兢兢業業、如霆如雷。周餘黎民、靡有孑遺<叶夷回反>。昊天上帝、則不我遺。胡不相畏、先祖于摧<音崔>○賦也。推、去也。兢兢、恐也。業業、危也。如霆如雷、言畏之甚也。孑、無右臂貌。遺、餘也。言大亂之後、周之餘民、無復有半身之遺者。而上天又降旱災、使我亦不見遺。摧、滅也。言先祖之祀、將自此而滅也。
【読み】
○旱旣に大甚だし。則ち推[さ]<叶雷反>らしむ可からず。兢兢業業として、霆の如く雷の如し。周の餘の黎民、孑遺[げつい]<叶夷回反>有ること靡し。昊天上帝、則ち我を遺さず。胡ぞ相畏れざらん、先祖于[ここ]に摧[ほろ]<音崔>びなん。○賦なり。推は、去るなり。兢兢は、恐るるなり。業業は、危きなり。霆の如く雷の如しとは、言うこころは、畏るるの甚だしきなり。孑は、右の臂無き貌。遺は、餘りなり。言うこころは、大亂の後、周の餘民、復半身の遺れる者有ること無し。而して上天又旱災を降し、我をして亦遺されざらしむ。摧は、滅ぶなり。言うこころは、先祖の祀は、將に此よりして滅びんとす。

○旱旣大甚。則不可沮<上聲>。赫赫炎炎、云我無所。大命近止、靡瞻靡顧<叶果五反>。群公先正、則不我助<叶牀所反>。父母先祖、胡寧忍予<叶演女反>○賦也。沮、止也。赫赫、旱氣也。炎炎、熱氣也。無所、無所容也。大命近止、死將至也。瞻、仰。顧、望也。群公先正、月令所謂雩祀百辟卿士之有益於民者、以祈穀實者也。於群公先正、但言其不見助。至父母先祖、則以恩望之矣。所謂埀涕泣而道之也。
【読み】
○旱旣に大甚だし。則ち沮[や]<上聲>む可からず。赫赫炎炎として、云[ここ]に我れ所無し。大命近し、瞻[あお]ぐこと靡く顧[のぞ]<叶果五反>むこと靡し。群公先正、則ち我を助<叶牀所反>けず。父母先祖、胡寧[なん]ぞ予<叶演女反>を忍べる。○賦なり。沮は、止むなり。赫赫は、旱の氣なり。炎炎は、熱き氣なり。所無しは、容るる所無きなり。大命近しは、死將に至らんとするなり。瞻は、仰ぐ。顧は、望むなり。群公先正は、月令に所謂百辟卿士の民に益有る者を雩祀[うし]して、以て穀の實らんことを祈る者なり。群公先正に於ては、但其の助けられざるを言う。父母先祖に至りては、則ち恩を以て之を望む。所謂涕を埀れて泣いて之を道うなり。

○旱旣大甚。滌滌山川<叶樞倫反>。旱魃<音跋>爲虐、如惔<音談>如焚<叶符匀反>。我心憚暑、憂心如熏。群公先正、則不我聞<叶微匀反>。昊天上帝、寧俾我遯<叶徒匀反>○賦也。滌滌、言山無木、川無水、如滌而除之也。魃、旱神也。惔、燎之也。憚、勞也。畏也。熏、灼。遯、逃也。言天又不肯使我得逃遯而去也。
【読み】
○旱旣に大甚だし。山川<叶樞倫反>を滌[すす]ぎ滌げり。旱魃<音跋>虐を爲して、惔[や]<音談>くが如く焚[や]<叶符匀反>くが如し。我が心暑きを憚[おそ]れて、憂うる心熏[や]くが如し。群公先正、則ち我を聞<叶微匀反>かず。昊天上帝、寧ぞ我を遯<叶徒匀反>れしめん。○賦なり。滌滌は、山に木無く、川に水無く、滌いで之を除[はら]うが如きを言うなり。魃は、旱神なり。惔は、之を燎くなり。憚は、勞しむなり。畏るるなり。熏は、灼く。遯は、逃るるなり。言うこころは、天又肯えて我をして逃げ遯れて去ることを得せしめざるなり。

○旱旣大甚。黽勉畏去。胡寧瘨<音顚>我以旱、憯<七感反>不知其故。祈年孔夙、方社不莫<音慕>。昊天上帝、則不我虞<叶元具反>。敬恭明神、宜無悔怒。賦也。黽勉畏去、出無所之也。瘨、病。憯、曾也。祈年、孟春祈穀于上帝、孟冬祈來年于天宗。是也。方、祭四方也。社、祭土神也。虞、度。悔、恨也。言天曾不度我之心、如我之敬事明神、宜可以無恨怒也。
【読み】
○旱旣に大甚だし。黽勉[びんべん]して去らんことを畏る。胡寧ぞ我を瘨[や]<音顚>ましむるに旱を以てする、憯[かつ]<七感反>て其の故を知らず。年を祈ること孔だ夙[はや]く、方社莫[おそ]<音慕>からず。昊天上帝、則ち我を虞[はか]<叶元具反>らず。明神を敬み恭[うやま]う、宜しく悔[うら]み怒ること無かるべし。賦なり。黽勉して去らんことを畏るとは、出でて之く所無きなり。瘨は、病。憯は、曾てなり。年を祈るとは、孟春に穀を上帝に祈り、孟冬に來年を天宗に祈る、と。是れなり。方は、四方を祭るなり。社は、土神を祭るなり。虞は、度る。悔は、恨むなり。言うこころは、天曾て我が心を度らず、我が明神に敬み事えるが如き、宜しく以て恨み怒ること無かる可し。

○旱旣大甚。散無友紀。鞫哉庶正、疚哉冢宰<叶奬里反>。趣<七口反>馬師氏、膳夫左右<叶羽已反>、靡人不周、無不能止。瞻卬<音仰>昊天、云如何里。賦也。友紀、猶言綱紀也。或曰、友疑作有。鞫、窮也。庶正、衆官之長也。疚、病也。冢宰、又衆長之長也。趣馬、掌馬之官。師氏、掌以兵守王門者。膳夫、掌食之官也。歲凶年穀不登、則趣馬不秣、師氏弛其兵、馳道不除、祭事不縣、膳夫徹膳、左右布而不脩、大夫不食梁、士飮酒不樂。周、救也。無不能止、言諸臣無有一人不周救百姓者、無有自言不能、而遂止不爲也。里、憂也。與漢書無俚之俚同。聊賴之意也。
【読み】
○旱旣に大甚だし。散[あら]けて友紀無し。鞫[きわ]まれるかな庶正、疚しいかな冢宰<叶奬里反>。趣[すう]<七口反>馬師氏、膳夫左右<叶羽已反>、人として周[すく]わざる靡く、能わずとして止むこと無し。昊天を瞻卬[あお]<音仰>いで、云う如何ぞ里[うれ]えしむ、と。賦なり。友紀は、猶綱紀と言うがごとし。或ひと曰く、友は疑うらくは有に作らん、と。鞫は、窮まるなり。庶正は、衆官の長なり。疚は、病むなり。冢宰も、又衆長の長なり。趣馬は、馬を掌る官。師氏は、兵を以て王門を守ることを掌る者。膳夫は、食を掌る官なり。歲凶にして年穀登[みの]らざれば、則ち趣馬秣かわず、師氏其の兵を弛め、馳道除わず、祭事に縣けず、膳夫膳を徹し、左右布いて脩めず、大夫梁を食わず、士酒を飮んで樂せず。周は、救うなり。能わずとして止むこと無しとは、言うこころは、諸臣一人も百姓を周い救わざる者有ること無く、自ら能わずと言いて、遂に止みてせざること有ること無きなり。里は、憂えなり。漢書の俚[うれ]え無きの俚と同じ。聊賴[りょうらい]の意なり。

○瞻卬昊天、有嘒<音暳>其星。大夫君子、昭假<音格>無贏<音盈>。大命近止、無棄爾成。何求爲我、以戾庶正<叶諸盈反>。瞻卬昊天、曷惠其寧。賦也。嘒、明貌。昭、明。假、至也。○久旱而仰天以望雨、則有嘒然之明星、未有雨徵也。然群臣竭其精誠、而助王以昭假于天者、已無餘矣。雖今死亡將近、而不可以棄其前功、當益求所以昭假者而脩之。固非求爲我之一身而已。乃所以定衆正也。於是語終、又仰天而訴之曰、果何時而惠我以安寧乎。張子曰、不敢斥言雨者、畏懼之甚、且不敢必云爾。
【読み】
○昊天を瞻卬げば、嘒[けい]<音暳>たる其の星有り。大夫君子、昭らかに假[いた]<音格>ること贏[あま]<音盈>り無し。大命近くなれども、爾の成れるを棄つること無かれ。何ぞ我が爲に求めん、以て庶正<叶諸盈反>を戾[さだ]めん。昊天を瞻卬ぐ、曷[いつ]か其の寧きを惠まん。賦なり。嘒は、明らかなる貌。昭は、明らか。假は、至るなり。○久しく旱りて天を仰いで以て雨を望めば、則ち嘒然たる明星有り、未だ雨の徵有らず。然れども群臣其の精誠を竭くして、王を助けて以て昭らかに天に假る者、已に餘り無し。今死亡將に近からんとすと雖も、以て其の前功を棄つ可からず、當に益々昭らかに假る所以の者を求めて之を脩すべし。固に我が一身のみの爲に求むるに非ず。乃ち衆正を定むる所以なり。是に於て語り終えて、又天を仰いで之を訴えて曰く、果たして何れの時にして我を惠むに安寧を以てせんや、と。張子が曰く、敢えて雨を斥[さ]して言わざる者は、畏懼することの甚だしき、且つ敢えて必とせずして爾か云うなり。

雲漢八章章十句
【読み】
雲漢[うんかん]八章章十句


<音嵩>高維嶽、駿<音峻>極于天<叶鐵因反>。維嶽降神、生甫及申。維申及甫、維周之翰<叶胡于反>。四國于蕃<叶分邅反>、四方于宣。賦也。山大而高曰崧。嶽、山之尊者。東岱・南霍・西華・北恆、是也。駿、大也。甫、甫侯也。卽穆王時、作呂刑者。或曰、此是宣王時人、而作呂刑者之子孫也。申、申伯也。皆姜姓之國也。翰、幹。蕃、蔽也。○宣王之舅申伯出封于謝。而尹吉甫作詩以送之。言嶽山高大、而降其神靈和氣、以生甫侯・申伯。實能爲周之楨幹屛蔽、而宣其德澤於天下也。蓋申伯之先、神農之後、爲唐虞四嶽、總領方嶽諸侯、而奉嶽神之祭、能脩其職、嶽神享之。故此詩推本申伯之所以生、以爲嶽降神而爲之也。
【読み】
崧[すう]<音嵩>として高きは維れ嶽、駿[おお]<音峻>いにして天<叶鐵因反>に極[いた]れり。維れ嶽神を降して、甫及び申を生めり。維れ申及び甫は、維れ周の翰<叶胡于反>。四國于[ここ]に蕃[おお]<叶分邅反>い、四方于に宣べたり。賦なり。山大いにして高きを崧と曰う。嶽は、山の尊き者。東岱・南霍・西華・北恆、是れなり。駿は、大いなり。甫は、甫侯なり。卽ち穆王の時、呂刑を作る者。或ひと曰く、此れ是は宣王の時の人にして、呂刑を作る者の子孫、と。申は、申伯なり。皆姜姓の國なり。翰は、幹。蕃は、蔽うなり。○宣王の舅申伯出だして謝に封ず。而して尹吉甫詩を作りて以て之を送る。言うこころは、嶽山は高大にして、其の神靈の和氣を降して、以て甫侯・申伯を生めり。實に能く周の楨幹屛蔽として、其の德澤を天下に宣べたり。蓋し申伯の先は、神農の後にて、唐虞四嶽と爲りて、領方嶽の諸侯を總べて、嶽神の祭を奉じ、能く其の職を脩めて、嶽神之を享く。故に此の詩申伯の生まるる所以に推し本づけて、以爲えらく、嶽神を降して之を爲す、と。

○亹亹申伯、王纘之事。于邑于謝、南國是式<叶失吏反>。王命召伯<叶逋莫反>、定申伯之宅<叶達各反>、登是南邦<叶卜工反>、世執其功。賦也。亹亹、强勉之貌。纘、繼也。使之繼其先世之事也。邑、國都之處也。謝在今鄧州南陽縣。周之南土也。式、使諸侯以爲法也。召伯、召穆公虎也。登、成也。世執其功、言使申伯後世常守其功也。或曰、大封之禮、召公之世職也。
【読み】
○亹亹[びび]たる申伯、王之に事を纘[つ]がしめり。于に謝に邑して、南國是れ式[のっと]<叶失吏反>らしむ。王召伯<叶逋莫反>に命じて、申伯の宅<叶達各反>を定め、是の南邦<叶卜工反>を登[な]して、世々其の功を執[まも]らしむ。賦なり。亹亹は、强勉の貌。纘は、繼ぐなり。之をして其の先世の事を繼がしむなり。邑は、國都の處なり。謝は今の鄧州南陽縣に在り。周の南の土なり。式は、諸侯をして以て法と爲さしむるなり。召伯は、召の穆公虎なり。登は、成るなり。世々其の功を執るとは、言うこころは、申伯をして後世常に其の功を守らしむるなり。或ひと曰く、大封の禮は、召公の世職なり、と。

○王命申伯、式是南邦<叶卜功反>。因是謝人、以作爾庸。王命召伯、徹申伯土田<叶地因反>、王命傅御、遷其私人。賦也。庸、城也。言因謝邑之人而爲國也。鄭氏曰、庸、功也。爲國以起其功也。徹、定其經界、正其賦稅也。傅御、申伯家臣之長也。私人、家人遷使就國也。漢明帝送侯印、與東平王蒼諸子、而以手詔賜其國中傅。蓋古制如此。
【読み】
○王申伯に命じて、是の南邦<叶卜功反>に式[のり]せしむ。是の謝人に因りて、以て爾の庸[しろ]を作らしむ。王召伯に命じて、申伯の土田<叶地因反>を徹せしめ、王傅御に命じて、其の私人を遷さしむ。賦なり。庸は、城なり。言うこころは、謝邑の人に因りて國を爲らしむるなり。鄭氏が曰く、庸は、功なり。國を爲りて以て其の功を起こさしむ、と。徹は、其の經界を定め、其の賦稅を正すなり。傅御は、申伯の家臣の長なり。私人は、家人遷りて國に就かしむるなり。漢の明帝侯の印を送りて、東平王蒼が諸子に與えて、手詔を以て其の國中の傅に賜う。蓋し古の制此の如し。

○申伯之功、召伯是營。有俶<音蓄>其城、寢廟旣成。旣成藐藐。王錫申伯<叶逋各反>、四牡蹻蹻、鉤膺濯濯。賦也。俶、始作也。藐藐、深貌。蹻蹻、壯貌。濯濯、光明貌。
【読み】
○申伯の功、召伯是れ營めり。其の城を俶[はじ]<音蓄>むること有り、寢廟旣に成りぬ。旣に成りて藐藐[ばくばく]たり。王申伯<叶逋各反>に錫う、四牡蹻蹻たり、鉤膺[こうよう]濯濯たり。賦なり。俶[しゅく]は、始めて作すなり。藐藐は、深き貌。蹻蹻は、壯んなる貌。濯濯は、光明なる貌。

○王遣申伯、路車乘<去聲><叶滿補反>。我圖爾居、莫如南土。錫爾介圭、以作爾寶<叶音補>。往近王舅、南土是保<叶音補>○賦也。介圭、諸侯之封圭也。近、辭也。
【読み】
○王申伯を遣るに、路車乘<去聲><叶滿補反>あり。我れ爾の居を圖るに、南土に如くは莫し。爾に介圭を錫いて、以て爾の寶<叶音補>と作す。往け王舅、南土是れ保<叶音補>んぜよ。○賦なり。介圭は、諸侯の封圭なり。近は、辭なり。

○申伯信邁、王餞<音賤>于郿<音眉>。申伯還南、謝于誠歸。王命召伯、徹申伯土疆、以峙<音痔>其粻<音張>、式遄<音椽>其行<叶戶郎反>○賦也。郿、在今鳳翔府郿縣、在鎬京之西、岐周之東。而申在鎬京之東南。時王在岐周。故餞于郿也。言信邁誠歸、以見王之數留、疑於行之不果故也。峙、積。粻、糧。遄、速也。召伯之營謝也、則已其稅賦、積其餱糧、使廬市有止宿之委積。故能使申伯無留行也。
【読み】
○申伯信に邁[ゆ]く、王郿[び]<音眉>に餞[はなむけ]<音賤>せり。申伯南に還[めぐ]りて、謝に于に誠に歸[おもむ]けり。王召伯に命じて、申伯の土疆を徹せしより、以て其の粻[かて]<音張>を峙[つ]<音痔>ましめ、式[もっ]て其の行<叶戶郎反>くことを遄[すみ]<音椽>やかにせり。○賦なり。郿は、今の鳳翔府郿縣に在り、鎬京の西、岐周の東に在り。而して申は鎬京の東南に在り。時に王岐周に在り。故に郿に餞す。言うこころは、信に邁き誠に歸くは、以て王の數々留めて、行くことの果たせざるを疑わるる故なり。峙は、積む。粻[ちょう]は、糧。遄[せん]は、速やかなり。召伯の謝を營ずる、則ち已に其の稅賦を斂め、其の餱糧を積み、廬市をして止宿の委積有らしむ。故に能く申伯をして行くことを留むること無からしむ。

○申伯番番<音波。叶分邅反>、旣入于謝、徒御嘽嘽<音灘>。周邦咸喜、戎有良翰<叶胡于反>。不顯申伯、王之元舅、文武是憲<叶虛言反>○賦也。番番、武勇貌。嘽嘽、衆盛也。戎、女也。申伯旣入于謝、周人皆以爲喜而相謂曰、汝今有良翰矣。元、長。憲、法也。言文武之士、皆以申伯爲法也。或曰、申伯能以文王武王爲法也。
【読み】
○申伯番番[はは]<音波。叶分邅反>たり、旣に謝に入る、徒御嘽嘽[たんたん]<音灘>たり。周の邦咸[みな]喜び、戎[なんじ]良翰<叶胡于反>有り、と。顯らかならずや申伯、王の元舅、文武是に憲<叶虛言反>す。○賦なり。番番は、武勇ある貌。嘽嘽は、衆く盛んなり。戎は、女なり。申伯旣に謝に入り、周人皆以て喜びとして相謂いて曰く、汝今良翰有り、と。元は、長。憲は、法なり。言うこころは、文武の士、皆申伯を以て法とするなり。或ひと曰く、申伯能く文王武王を以て法とす、と。

○申伯之德、柔惠且直。揉<汝又反>此萬邦、聞<音問>于四國<叶于逼反>。吉甫作誦、其詩孔碩。其風肆好、以贈申伯。賦也。揉、治也。吉甫、尹吉甫、周之卿士。誦、工師所誦之詞也。碩、大。風、聲。肆、遂也。
【読み】
○申伯の德、柔惠にして且つ直し。此の萬邦を揉[おさ]<汝又反>めて、四國<叶于逼反>に聞<音問>こえたり。吉甫誦を作る、其の詩孔[はなは]だ碩[おお]いなり。其の風[こえ]肆[つい]に好し、以て申伯に贈れり。賦なり。揉は、治むるなり。吉甫は、尹吉甫、周の卿士。誦は、工師誦する所の詞なり。碩は、大い。風は、聲。肆は、遂になり。

崧高八章章八句
【読み】
崧高[すうこう]八章章八句


天生烝民、有物有則。民之秉彝<音夷>、好是懿德。天監有周、昭假<音>于下<叶後五反>、保茲天子、生仲山甫。賦也。烝、衆。則、法。秉、執。彝、常。懿、美。監、視。昭、明。假、至。保、祐也。仲山甫、樊侯之字也。○宣王命樊侯仲山甫、築城于齊。而尹吉甫作詩以送之。言天生衆民、有是物必有是則。蓋自百骸九竅五臟、而達之君臣父子夫婦長幼朋友、無非物也。而莫不有法焉。如視之明、聽之聦、貌之恭、言之順、君臣有義、父子有親之類、是也。是乃民所執之常性。故其情無不好此美德者。而况天之監視有周、能以昭明之德、感格于下。故保祐之、而爲之生此賢佐曰仲山甫焉。則所以鍾其秀氣、而全其美德者、又非特如凡民而已矣。昔孔子讀詩至此而贊之曰、爲此詩者、其知道乎。故有物必有則、民之秉彛也。故好是懿德。而孟子引之、以證性善之說。其旨深矣。讀者其致思焉。
【読み】
天烝民を生す、物有れば則有り。民の彝[つね]<音夷>を秉る、是の懿德を好みんぜり。天有周の、昭らかなるが下<叶後五反>に假[いた]<音>せるを監[み]て、茲の天子を保[たす]けて、仲山甫を生せり。賦なり。烝は、衆。則は、法。秉は、執る。彝は、常。懿は、美。監は、視る。昭は、明らか。假は、至る。保は、祐くなり。仲山甫は、樊侯の字なり。○宣王樊侯仲山甫に命じて、城を齊に築く。而して尹吉甫詩を作りて以て之を送る。言うこころは、天衆民を生す、是の物有れば必ず是の則有り。蓋し百骸九竅五臟よりして、之を君臣父子夫婦長幼朋友に達し、物に非ざる無し。而して法に有らざること莫し。視ることの明らかに、聽くことの聦く、貌の恭しく、言の順い、君臣義有り、父子親有るの類の如き、是れなり。是れ乃ち民の執る所の常性なり。故に其の情此の美德を好まざる者無し。而るを况んや天の有周を監視する、能く昭明の德を以て、下を感格す。故に之を保祐して、之が爲に此の賢佐を生して仲山甫と曰う。則ち其の秀氣を鍾[あつ]めて、其の美德を全くする所以の者、又特に凡民の如きのみに非ざるなり。昔孔子詩を讀んで此に至りて之を贊して曰く、此の詩を爲る者は、其れ道を知るか。故に物有れば必ず則有り、民の秉彛なり。故に是の懿德を好む、と。而して孟子之を引いて、以て性善の說を證す。其の旨深し。讀む者其れ思いを致せ。

○仲山甫之德、柔嘉維則。令儀令色、小心翼翼。古訓是式、威儀是力、天子是若、明命使賦。賦也。嘉、美。令、善也。儀、威儀也。色、顏色也。翼翼、恭敬貌。古訓、先王之遺典也。式、法。力、勉。若、順。賦、布也。○東萊呂氏曰、柔嘉維則、不過其則也。過其則、斯爲弱。不得謂之柔嘉矣。令儀令色、小心翼翼、言其表裏柔嘉也。古訓是式、威儀是力、言其學問進脩也。天子是若、明命使賦、言其發而措之事業也。此章蓋備舉仲山甫之德。
【読み】
○仲山甫の德、柔[やす]く嘉くして維れ則あり。儀を令[よ]くし色を令くし、心を小[せ]めて翼翼たり。古訓是れ式[のっと]り、威儀是れ力め、天子是れ若[したが]い、明命を賦[し]かしむ。賦なり。嘉は、美き。令は、善きなり。儀は、威儀なり。色は、顏色なり。翼翼は、恭敬の貌。古訓は、先王の遺典なり。式は、法。力は、勉む。若は、順う。賦は、布くなり。○東萊の呂氏が曰く、柔く嘉くして維れ則ありは、其の則を過ぎざるなり。其の則を過ぎる、斯を弱とす。之を柔嘉と謂うを得ざるなり、と。儀を令くし色を令くし、心を小めて翼翼たりは、言うこころは、其の表裏柔嘉なり。古訓是れ式り、威儀是れ力むとは、其の學問の進脩を言うなり。天子是れ若い、明命を賦かしむは、言うこころは、其の發して之を事業に措くなり。此の章蓋し仲山甫の德を備さに舉ぐ。

○王命仲山甫、式是百辟<音璧>、纘戎祖考、王躬是保。出納王命、王之喉舌。賦政于外、四方爰發<叶方月反>○賦也。式、法。戎、女也。王躬是保、所謂保其身體者也。然則仲山甫、蓋以冢宰兼大保、而大保抑其世官也與。出、承而布之也。納、行而復之也。喉舌、所以出言也。發、發而應之也。○東萊呂氏曰、仲山甫之職、外則總領諸侯、内則輔養君德、入則典司政本、出則經營四方。此章蓋備舉仲山甫之職。
【読み】
○王仲山甫に命じて、是の百辟<音璧>に式[のり]せしめ、戎[なんじ]の祖考を纘[つ]いで、王躬是れ保んぜしむ。王命を出だし納れて、王の喉舌となれ。政を外に賦[し]いて、四方爰に發[おこ]<叶方月反>さしむ。○賦なり。式は、法。戎は、女なり。王躬是れ保んずは、所謂其の身體を保んずる者なり。然れば則ち仲山甫は、蓋し冢宰を以て大保を兼ねて、大保は抑々其の世官なるか。出は、承けて之を布くなり。納は、行いて之を復するなり。喉舌は、言を出だす所以なり。發は、發して之に應ずるなり。○東萊の呂氏が曰く、仲山甫の職、外には則ち諸侯を總領し、内には則ち君德を輔養し、入りては則ち政本を典司し、出でては則ち四方を經營す、と。此の章蓋し備さに仲山甫の職を舉ぐ。

○肅肅王命、仲山甫將之。邦國若否<音鄙>、仲山甫明<叶謨郎反>之。旣明且哲、以保其身、夙夜匪解<音懈>、以事一人。賦也。肅肅、嚴也。將、奉行也。若、順也。順否、猶臧否也。明、謂明於理。哲、謂察於事。保身、蓋順理以守身。非趨利避害、而偸以全軀之謂也。解、怠也。一人、天子也。
【読み】
○肅肅たる王命、仲山甫之を將[おこな]えり。邦國の若[よ]し否[あ]<音鄙>しも、仲山甫之を明<叶謨郎反>らかにせり。旣に明らかに且つ哲[さと]くして、以て其の身を保ち、夙夜に解[おこた]<音懈>らずして、以て一人に事えり。賦なり。肅肅は、嚴かなり。將は、奉行なり。若は、順なり。順否は、猶臧否のごとし。明は、理に明らかなるを謂う。哲は、事を察するを謂う。身を保つとは、蓋し理に順いて以て身を守る。利に趨り害を避けて、偸[ひそ]かに以て軀を全くするの謂に非ざるなり。解は、怠るなり。一人は、天子なり。

○人亦有言、柔則茹<音汝>之、剛則吐之。維仲山甫、柔亦不茹、剛亦不吐。不侮矜<音鰥><叶果五反>、不畏彊禦。賦也。人亦有言、世俗之言也。茹、納也。○不茹柔。故不悔矜寡。不吐剛。故不畏彊禦。以此觀之、則仲山甫之柔嘉、非軟美之謂、而其保身、未嘗枉道以徇人、可知矣。
【読み】
○人亦言えること有り、柔らかなれば則ち之を茹[い]<音汝>れ、剛ければ則ち之を吐く、と。維れ仲山甫、柔らかなるをも亦茹れず、剛きをも亦吐かず。矜[かん]<音鰥><叶果五反>をも侮らず、彊禦をも畏れず。賦なり。人亦言えること有りは、世俗の言なり。茹は、納れるなり。○柔らかきを茹れず。故に矜寡を悔らず。剛きを吐かず。故に彊禦を畏れず。此を以て之を觀れば、則ち仲山甫の柔嘉は、軟美の謂に非ずして、其の身を保つこと、未だ嘗て道を枉げて以て人に徇わざること、知る可し。

○人亦有言、德輶<音酉>如毛、民鮮<上聲>克舉之。我儀圖<叶丁五反>之、維仲山甫舉之。愛莫助<叶牀五反>之。袞職有闕、維仲山甫補之。賦也。輶、輕。儀、度。圖、謀也。袞職、王職也。天子劉袞。不敢斥言王闕。故曰袞職有闕也。○言人皆言德甚輕而易舉。然人莫能舉也。我於是謀度其能舉之者、則惟仲山甫而已。是以心誠愛之、而恨其不能有以助之。蓋愛之者、秉彛好德之性也。而不能助者、能舉與否、在彼而已。固無待於人之助、而亦非人之所能助也。至於王職有闕失、亦維仲山甫獨能補之。蓋惟大人然後能格君心之非。未有不能自舉其德、而能補君之闕者也。
【読み】
○人亦言えること有り、德の輶[かろ]<音酉>きこと毛の如くなれども、民克く之を舉ぐること鮮<上聲>し、と。我れ之を儀[はか]り圖<叶丁五反>るに、維れ仲山甫之を舉げん。愛しめども之を助<叶牀五反>くること莫し。袞職闕くること有れば、維れ仲山甫之を補えり。賦なり。輶は、輕き。儀は、度る。圖は、謀るなり。袞職は、王職なり。天子は劉袞。敢えて王の闕くるを斥[さ]して言わず。故に袞職闕くること有りと曰うなり。○言うこころは、人皆言う、德甚だ輕くして舉げ易し。然れども人能く舉ぐること莫し、と。我れ是に於て其の能く之を舉ぐる者を謀り度れば、則ち惟れ仲山甫なるのみ。是を以て心誠に之を愛しめども、以て之を助くること有ること能わざるを恨む。蓋し之を愛しむ者は、秉彛好德の性なり。而して助くること能わざる者は、能く舉ぐると否とは、彼に在るのみ。固に人の助けを待つこと無くして、亦人の能く助くる所に非ず。王職に闕失有るに至りては、亦維れ仲山甫獨り能く之を補う。蓋し惟れ大人にして然して後に能く君の心の非を格す。未だ自ら其の德を舉ぐること能わずして、能く君の闕くるを補う者有らず。

○仲山甫出祖、四牡業業、征夫捷捷、每懷靡及<叶極業反>。四牡彭彭<叶鋪郎反>、八鸞鏘鏘。王命仲山甫、城彼東方。賦也。祖、行祭也。業業、健貌。捷捷、疾貌。東方、齊也。傳曰、古者諸侯之居逼隘、則王者遷其邑、而定其居。蓋去薄姑、而遷於臨菑也。孔氏曰、史記齊獻公元年、徙薄姑都治臨菑。計獻公當夷王之時、與此傳不合。豈徙於夷王之時、至是而始備其城郭之守歟。
【読み】
○仲山甫出でて祖す、四牡業業たり、征夫捷捷たり、每[つね]に懷う及<叶極業反>ぶこと靡けん、と。四牡彭彭<叶鋪郎反>たり、八鸞[らん]鏘鏘[しょうしょう]たり。王仲山甫に命じて、彼の東方に城[きず]かしむ。賦なり。祖は、行祭なり。業業は、健やかなる貌。捷捷は、疾き貌。東方は、齊なり。傳に曰く、古は諸侯の居逼隘なれば、則ち王者其の邑を遷して、其の居を定む。蓋し薄姑を去りて、臨菑[りんし]に遷るなり。孔氏が曰く、史記に齊の獻公元年、薄姑の都を徙りて臨菑に治[まつりごと]す、と。計るに獻公は夷王の時に當たり、此の傳と合わず。豈夷王の時に徙り、是に至りて始めて其の城郭の守りを備うるか、と。

○四牡騤騤<音逵>、八鸞喈喈<音皆。叶居奚反>。仲山甫徂齊、式遄其歸。吉甫作誦、穆如淸風<叶孚愔反>。仲山甫永懷、以慰其心。賦也。式遄其歸、不欲其久於外也。穆、深長也。淸風、淸微之風。化養萬物者也。以其遠行、而有所懷思。故以此詩慰其心焉。曾氏曰、賦政于外、雖仲山甫之職、然保王躬補王闕、尤其所急。城彼東方、其心永懷。蓋有所不安者。尹吉甫深知之作誦、而告以遄歸。所以安其心也。
【読み】
○四牡騤騤<音逵>たり、八鸞[らん]喈喈<音皆。叶居奚反>たり。仲山甫齊に徂く、式[もっ]て遄[すみ]やかに其れ歸れ。吉甫誦を作る、穆[ふか]きこと淸風<叶孚愔反>の如し。仲山甫永く懷えり、以て其の心を慰[やす]んず。賦なり。式て遄やかに其れ歸れとは、其の外に久しきを欲せざればなり。穆は、深く長きなり。淸風は、淸微なる風。萬物を化し養う者なり。其の遠く行くを以て、懷い思う所有り。故に此の詩を以て其の心を慰んず。曾氏が曰く、政を外に賦くは、仲山甫の職なりと雖も、然れども王躬を保んじ王の闕くるを補うは、尤も其の急にする所なり。彼の東方に城く、其の心永く懷う。蓋し安んぜざる所有る者なり。尹吉甫深く之を知り誦を作りて、告ぐるに遄やかに歸らんことを以てす。其の心を安んずる所以なり。

烝民八章章八句
【読み】
烝民[じょうみん]八章章八句


奕奕梁山、維禹甸之。有倬其道、韓侯受命。王親命之、纘戎祖考、無廢朕命。夙夜匪解<音懈。叶訖力反>、虔共爾位。朕命不易。榦<音幹>不庭方、以佐戎辟<音璧>○賦也。奕奕、大也。梁山、韓之鎭也。今在同州韓城縣。甸、治也。倬、明貌。韓、國名。侯爵、武王之後也。受命、蓋卽位除喪、以士服入見天子、而聽命也。纘、繼。戎、汝也。言王錫命之、使繼世而爲諸侯也。虔、敬。易、改。榦、正也。不庭方、不來庭之國。辟、君也。此又戒之、以脩其職業之詞也。○韓侯初立來朝、始受王命而歸。詩人作此以送之。序亦以爲尹吉甫作。今未有據。下篇云召穆公・凡伯者放此。
【読み】
奕奕たる梁山、維れ禹之を甸[おさ]めり。倬たる其の道有り、韓侯命を受く。王親ら之に命ず、戎[なんじ]の祖考を纘[つ]いで、朕[わ]が命を廢つること無かれ、と。夙夜に解[おこた]<音懈。叶訖力反>らずして、虔[つつし]んで爾の位に共[そな]えよ。朕が命易[あらた]めず。庭せざる方[くに]を榦[ただ]<音幹>して、以て戎の辟<音璧>を佐けよ。○賦なり。奕奕は、大いなり。梁山は、韓の鎭なり。今同州韓城縣に在り。甸は、治むるなり。倬は、明らかなる貌。韓は、國の名。侯は爵、武王の後なり。命を受くは、蓋し位に卽き喪を除[お]えて、士の服を以て入りて天子に見えて、命を聽くなり。纘は、繼ぐ。戎は、汝なり。言うこころは、王之に命を錫いて、世を繼いで諸侯爲らしむなり。虔は、敬む。易は、改む。榦は、正すなり。庭せざる方は、來庭せざる國。辟は、君なり。此れ又之を戒むるに、其の職業を脩するの詞を以てするなり。○韓侯初めて立ちて來朝し、始めて王命を受けて歸る。詩人此を作りて以て之を送る。序に亦以爲えらく、尹吉甫作る、と。今未だ據ること有らず。下の篇に云う召穆公・凡伯という者は此に放え。

○四牡奕奕、孔脩且張。韓侯入覲、以其介圭、入覲于王。王錫韓侯、淑旂綏章、簟茀錯衡<叶戶郎反>、玄袞赤舄、鉤膺鏤<音漏><音羊>、鞹<音廓>鞃淺幭<音覔>、鞗<音條>革金厄<叶於栗反>○賦也。脩、長。張、大也。介圭、封圭。執之爲贄、以合瑞于王也。淑、善也。交龍曰旂。綏章、染鳥羽或旄牛尾爲之、注於旂竿之首、爲表章者也。鏤、刻金也。馬眉上飾曰錫。今當盧也。鞹、去毛之革也。鞃、式中也。謂兩較之閒、橫木可憑者、以鞹持之、使牢固也。淺、虎皮也。幭、覆式也。字一作幦、又作幎。以有毛之皮、覆式上也。鞗革、轡首也。金厄、以金爲環、纏搤轡首也。
【読み】
○四牡奕奕たり、孔[はなは]だ脩[なが]く且つ張[おお]いなり。韓侯入りて覲[まみ]ゆるに、其の介圭を以てして、入りて王に覲ゆ。王韓侯に錫える、淑き旂[はた]綏[ふさ]の章[しるし]、簟[あじろ]の茀[くるま]錯[かざ]れる衡[くびき]<叶戶郎反>、玄[くろ]き袞[えぎぬ]赤き舄[くつ]、鉤[むながね]膺[むながい]鏤[ちりば]<音漏>める鍚[ひたがね]<音羊>、鞹[かわ]<音廓>まける鞃[とじきみ]淺[とら]の幭[かわおおい]<音覔>、鞗[たづな]<音條>の革[つか]に金の厄[くびり]<叶於栗反>○賦なり。脩は、長き。張は、大いなり。介圭は、封圭。之を執りて贄[にえ]とし、以て瑞を王に合わす。淑は、善きなり。交龍を旂[き]と曰う。綏章[すいしょう]は、鳥の羽或は旄牛の尾を染めて之を爲り、旂竿の首に注けて、表章とする者なり。鏤[ろう]は、金を刻むなり。馬の眉の上飾りを錫と曰う。今の當盧なり。鞹[かく]は、毛を去りたる革なり。鞃[こう]は、式中なり。謂ゆる兩較の閒、木を橫にして憑く可き者にて、鞹を以て之を持ちて、牢固ならしむるなり。淺は、虎の皮なり。幭[べつ]は、覆式なり。字一に幦に作り、又幎[べき]に作る。毛有る皮を以て、式の上を覆うなり。鞗革[じょうかく]は、轡の首なり。金厄は、金を以て環を爲りて、轡の首に纏搤[てんやく]するなり。

○韓侯出祖、出宿于屠。顯父<音甫>餞之、淸酒百壺。其殽維何、炰<音庖>鼈鮮魚。其蔌<音速>維何、維筍<音笋>及蒲。其贈維何、乘<去聲>馬路車。籩豆有且<音疽>、侯氏燕胥。賦也。旣覲而反國必祖者、尊其所往去、則如始行焉。屠、地名。或曰、卽杜也。顯父、周之卿士也。蔌、菜殽也。筍、竹萌也。蒲、浦蒻也。且、多貌。侯氏、覲禮諸侯來朝者之稱。胥、相也。或曰、語辭。
【読み】
○韓侯出でて祖し、出でて屠に宿れり。顯父<音甫>之に餞するに、淸酒百壺あり。其の殽[さかな]維れ何ぞ、炰[ほう]<音庖>鼈鮮魚。其の蔌[そく]<音速>維れ何ぞ、維れ筍<音笋>及び蒲。其の贈維れ何ぞ、乘<去聲>馬路車。籩豆且[おお]<音疽>きこと有り、侯氏燕して胥[あいとも]にせり。賦なり。旣に覲えて國に反るに必ず祖する者は、其の往き去る所を尊ぶこと、則ち始めて行くが如し。屠は、地の名。或ひと曰く、卽ち杜、と。顯父は、周の卿士なり。蔌は、菜の殽なり。筍は、竹萌なり。蒲は、浦蒻なり。且は、多き貌。侯氏は、覲禮の諸侯來朝する者の稱。胥は、相なり。或ひと曰く、語の辭、と。

○韓侯取<去聲>妻、汾<音焚>王之甥、蹶<音媿><音甫>之子<叶奬里反>。韓侯迎<去聲>止、于蹶之里。百兩<音亮。又如字>彭彭<叶鋪郎反>、八鸞鏘鏘、不顯其光。諸娣<音第>從之、祁祁如雲。韓侯顧之、爛其盈門<叶眉貧反>○賦也。此言韓侯旣覲而還、遂以親迎也。汾王、厲王也。厲王流于彘、在汾水之上。故時人以目王焉。猶言莒郊公・黎比公也。蹶父、周之卿士。姞姓也。諸娣、諸侯一娶九女、二國媵之。皆有娣姪也。祁祁、徐靚也。如雲、衆多也。
【読み】
○韓侯妻を取[めと]<去聲>れり、汾[ふん]<音焚>王の甥、蹶[けい]<音媿><音甫>が子<叶奬里反>。韓侯迎<去聲>えり、蹶が里に。百の兩[くるま]<音亮。又字の如し>彭彭<叶鋪郎反>たり、八鸞[らん]鏘鏘[しょうしょう]たり、顯らかならずや其の光。諸娣<音第>之に從う、祁祁[きき]たること雲の如し。韓侯之を顧みれば、爛[きら]らかにして其れ門<叶眉貧反>に盈てり。○賦なり。此れ韓侯旣に覲えて還り、遂に以て親迎するを言うなり。汾王は、厲王なり。厲王彘[てい]に流され、汾水の上[ほとり]に在り。故に時の人以て王に目づく。猶莒郊公・黎比公と言うがごとし。蹶父は、周の卿士。姞姓なり。諸娣は、諸侯一たび九女を娶り、二國之を媵[おく]る。皆娣姪有り。祁祁は、徐靚[じょせい]なり。雲の如しは、衆多なり。

○蹶父孔武、靡國不到。爲<去聲>韓姞<音佶><去聲>攸、莫如韓樂<音洛。叶力告反>。孔樂韓土、川澤訏訏<音許>。魴鱮甫甫、麀鹿噳噳<音語>。有熊有羆、有貓<苗茅二音>有虎。慶旣令居<叶斤御斤二反>、韓姞燕譽<叶羊如羊諸二反>○賦也。韓姞、蹶父之子、韓侯妻也。相攸、擇可嫁之所也。訏訏・甫甫、大也。噳噳、衆也。貓、似虎而淺毛。慶、喜。令、善也。喜其有此善居也。燕、安。譽、樂也。
【読み】
○蹶父孔だ武く、國として到らざる靡し。韓姞<音佶>が爲<去聲>に攸[ところ]を相[み]<去聲>るに、韓の樂<音洛。叶力告反>しきより如くは莫し。孔だ樂し韓の土、川澤訏訏[くく]<音許>たり。魴鱮[ほうしょ]甫甫たり、麀鹿[ゆうろく]噳噳[ごご]<音語>たり。熊[ゆう]有り羆[ひ]有り、貓<苗茅二音>有り虎有り。旣に令[よ]き居<叶斤御斤二反>を慶ぶ、韓姞燕んじ譽[たの]<叶羊如羊諸二反>しまん。○賦なり。韓姞は、蹶父の子、韓侯の妻なり。攸を相るは、嫁す可き所を擇ぶなり。訏訏・甫甫は、大いなり。噳噳は、衆いなり。貓は、虎に似て淺き毛。慶は、喜ぶ。令は、善きなり。其の此の善居有るを喜ぶなり。燕は、安んず。譽は、樂しむなり。

○溥彼韓城、燕<平聲>師所完。以先祖受命、因時百蠻、王錫韓侯、其追其貊<音麥>、奄受北國、因以其伯。實墉實壑、實畝實籍、獻其貔<音毗>皮、赤豹黃羆。賦也。溥、大也。燕、召公之國也。師、衆也。追・貊、夷狄之國也。墉、城。壑、池。籍、稅也。貔、猛獸名。○韓初封時、召公爲司空。王命以其衆爲築此城。如召伯營謝、山甫城齊、春秋諸侯城邢城楚丘之類也。王以韓侯之先、因是百蠻而長之。故錫之追・貊、使爲之伯、以脩其城池、治其田畝、正其稅法、而貢其所有於王也。
【読み】
○溥[おお]いなる彼の韓城、燕<平聲>師の完うせし所。先祖命を受けて、時[こ]の百蠻に因りしを以て、王韓侯に、其の追其の貊<音麥>を錫いて、奄[おお]いに北國を受けしめ、因りて以て其の伯とせり。實に墉[きず]き實に壑[ほり]なし、實に畝なし實に籍[おさ]めて、其の貔[び]<音毗>皮、赤豹黃羆[ひ]を獻らしめり。賦なり。溥は、大いなり。燕は、召公の國なり。師は、衆なり。追・貊は、夷狄の國なり。墉は、城。壑は、池。籍は、稅なり。貔は、猛獸の名。○韓初め封ぜらるる時、召公司空爲り。王命じて其の衆を以て爲に此の城を築かしむ。召伯の謝を營じ、山甫が齊に城き、春秋の諸侯邢に城き楚丘に城くの類の如し。王韓侯の先を以て、是の百蠻に因りて之に長たり。故に之に追・貊を錫いて、之が伯爲らしめ、以て其の城池を脩め、其の田畝を治め、其の稅法を正して、其の有る所を王に貢がしむるなり。

韓奕六章章十二句
【読み】
韓奕[かんえき]六章章十二句


江漢浮浮、武夫滔滔<叶他侯反>。匪安匪遊、淮夷來求。旣出我車、旣設我旟。匪安匪舒、淮夷來鋪。賦也。浮浮、水盛貌。滔滔、順流貌。淮夷、夷之在淮上者也。鋪、陳也。陳師以伐之也。○宣王命召穆公、平淮南之夷。詩人美之。此章總序其事。言行者皆莫敢安徐而曰、吾之來也、惟淮夷是求是伐耳。
【読み】
江漢浮浮たり、武夫滔滔<叶他侯反>たり。安んずるに匪ず遊ぶに匪ず、淮夷來り求めんとなり。旣に我が車を出だし、旣に我が旟[はた]を設[た]つ。安んずるに匪ず舒[の]ぶるに匪ず、淮夷來り鋪[つら]ねんとなり。賦なり。浮浮は、水の盛んなる貌。滔滔は、順い流るる貌。淮夷は、夷の淮の上[ほとり]に在る者なり。鋪は、陳ぬるなり。師を陳ねて以て之を伐つなり。○宣王召の穆公に命じて、淮南の夷を平らぐ。詩人之を美む。此の章總て其の事を序ず。言うこころは、行く者皆敢えて安徐なること莫くして曰く、吾が來るや、惟淮夷是を求め是を伐つのみ、と。

○江漢湯湯<音傷>、武夫洸洸<音光>。經營四方、告成于王。四方旣平、王國庶定<叶唐丁反>。時靡有爭<叶甾陘反>、王心載寧。賦也。洸洸、武貌。庶、幸也。○此章言旣伐而成功也。
【読み】
○江漢湯湯[しょうしょう]<音傷>たり、武夫洸洸<音光>たり。四方を經營し、成せるを王に告[もう]せり。四方旣に平らぎ、王の國庶わくは定<叶唐丁反>まらん。時に爭<叶甾陘反>い有ること靡し、王の心載[すなわ]ち寧[やす]けん。賦なり。洸洸は、武き貌。庶は、幸[こいねが]うなり。○此の章言うこころは、旣に伐ちて功を成すなり。

○江漢之滸<音虎>、王命召虎、式辟<音闢>四方、徹我疆土。匪疚匪棘、王國來極。于疆于理、至于南海<叶虎委反>○賦也。虎、召穆公名也。辟與闢同。徹、井其田也。疚、病。棘、急也。極、中之表也。居中而爲四方所取正也。○言江漢旣平、王又命召公、闢四方之侵地、而治其疆界。非以病之、非以急之也。但使其來取正於王國而已。於是遂疆理之、盡南海而止也。
【読み】
○江漢の滸[ほとり]<音虎>に、王召虎に命ず、式[もっ]て四方を辟[ひら]<音闢>き、我が疆土を徹せよ、と。疚ましめんとに匪ず棘[すみ]やかにせんとに匪ず、王國に來り極[ただ]しめんとなり。于[ここ]に疆り于に理[わか]ちて、南海<叶虎委反>に至れり。○賦なり。虎は、召の穆公の名なり。辟と闢とは同じ。徹は、其の田を井するなり。疚は、病む。棘は、急なり。極は、中の表なり。中に居りて四方の爲に正を取る所なり。○言うこころは、江漢旣に平らげ、王又召公に命じて、四方の侵地を闢いて、其の疆界を治めしむ。以て之を病ましむるに非ず、以て之を急やかにするに非ず。但其の來りて正を王國に取らしむるのみ。是に於て遂に之を疆り理ちて、南海を盡くして止む。

○王命召虎、來旬來宣。文武受命、召公維翰<叶胡千反>。無曰予小子<叶獎里反>、召公是似<叶養里反>。肇敏戎公、用錫爾祉。賦也。旬、徧。宣、布也。自江漢之滸言之、故曰來。召公、召康公奭也。翰、榦也。予小子、王自稱也。肇、開。戎、汝。公、功也。○又言王命召虎來此江漢之滸、徧治其事、以布王命、而曰、昔文武受命、惟召公爲楨榦。今女無曰以予小子故也。但自爲嗣女召公之事耳。能開敏女功、則我當錫女以祉福、如下章所云也。
【読み】
○王召虎に命じて、來り旬[あまね]くし來り宣べしむ。文武の命を受けしとき、召公維れ翰<叶胡千反>たり。予れ小子<叶獎里反>と曰うこと無かれ、召公を是れ似[つ]<叶養里反>げ。戎[なんじ]の公を肇[ひら]き敏くせば、用て爾に祉[さいわい]を錫わん。賦なり。旬は、徧し。宣は、布くなり。江漢の滸より之を言う、故に來と曰う。召公は、召の康公奭[せき]なり。翰は、榦なり。予れ小子は、王自ら稱するなり。肇は、開く。戎は、汝。公は、功なり。○又言う、王召虎に命じ此の江漢の滸に來り、徧く其の事を治めて、以て王命を布かしめ、而して曰く、昔文武の命を受けしとき、惟れ召公楨榦[ていかん]爲り。今女予れ小子の故を以てすと曰うこと無かれ。但自ら女召公の事を嗣がんとするのみ。能く女の功を開き敏くせば、則ち我れ當に女に錫うに祉福を以てすべきこと、下の章に云う所の如し、と。

○釐<音離>爾圭瓚<才旱反>、秬<音巨><音暢>一卣<音酉>。告于文人、錫山土田<叶地因反>。于周受命<叶滿幷反>、自召祖命。虎拜稽首、天子萬年<叶彌因反>○賦也。釐、賜。卣、尊也。文人、先祖之有文德者。謂文王也。周、岐周也。召祖、穆公之祖、康公也。○此序王賜召公策命之詞。言錫爾圭瓚秬鬯者、使之以祀其先祖。又告于文人、而錫之山川土田、以廣其封邑。蓋古者爵人、必於祖廟。示不敢專也。又使往受命於岐周、從其祖康公受命於文王之所、以寵異之。而召公拜稽首、以受王命之策書也。人臣受恩、無可以報謝者。但言使君壽考而已。
【読み】
○爾に圭瓚[けいさん]<才旱反>、秬[きょ]<音巨>鬯[ちょう]<音暢>一卣[ゆう]<音酉>を釐[たま]<音離>う。文人に告して、山土田<叶地因反>を錫う。周に于[ゆ]いて命<叶滿幷反>を受け、召祖の命に自[したが]わしむ。虎拜稽首す、天子萬年<叶彌因反>なれ、と。○賦なり。釐[り]は、賜う。卣は、尊[たる]なり。文人は、先祖の文德有る者。文王を謂うなり。周は、岐周なり。召祖は、穆公の祖、康公なり。○此れ王召公に策命を賜うの詞を序す。言うこころは、爾に圭瓚秬鬯を錫う者は、之をして以て其の先祖を祀らしむるなり。又文人に告して、之に山川土田を錫い、以て其の封邑を廣む。蓋し古者人に爵するに、必ず祖廟に於てす。敢えて專らにせざるを示すなり。又往いて命を岐周に受け、其の祖康公命を文王に受くる所に從わしめ、以て之を寵異す。而して召公拜稽首して、以て王命の策書を受く。人臣恩を受けて、以て報謝す可き者無し。但言う、君を壽考ならしめよとのみ。

○虎拜稽首、對揚王休<叶虛久反>、作召公考<叶去久反>。天子萬壽<叶殖酉反>。明明天子<叶獎里反>、令聞不已。矢其文德、洽此四國<叶越逼反>○賦也。對、答。揚、稱。休、美。考、成。矢、陳也。○言穆公旣受賜、遂答稱天子之美命、作康公之廟器、而勒王策命之詞、以考其成。且祝天子以萬壽也。古器物銘云、拜稽首、敢對揚天子休命、用作朕皇考龔伯尊敦。其眉壽、萬年無疆。語正相類。但彼自祝其壽、而此祝君壽耳。旣又美其君之令聞、而進之以不已、勸其君以文德、而不欲其極意於武功。古人愛君之心、於此可見矣。
【読み】
○虎拜稽首して、王の休[よ]<叶虛久反>きことを對え揚げ、召公に考[な]<叶去久反>れることを作す。天子萬壽<叶殖酉反>なれ。明明たる天子<叶獎里反>、令聞已まず。其の文德を矢[の]べて、此の四國<叶越逼反>に洽[あまね]くせん。○賦なり。對は、答え。揚は、稱[あ]げる。休は、美き。考は、成す。矢は、陳ぬるなり。○言うこころは、穆公旣に賜を受け、遂に天子の美命を答え稱げて、康公の廟器を作りて、王の策命するの詞を勒[きざ]んで、以て其の成れることを考す。且つ天子を祝するに萬壽を以てす。古器物の銘に云う、拜稽首して、敢えて天子の休き命を對え揚げ、用て朕皇考龔伯の尊敦を作す。其れ眉壽、萬年疆り無けん、と。語正に相類す。但彼は自ら其の壽を祝して、此は君の壽を祝するのみ。旣に又其の君の令聞を美めて、之を進むるに已まざるを以てし、其の君を勸むるに文德を以てして、其の意を武功に極むるを欲せず。古人君を愛するの心、此に於て見る可し。

江漢六章章八句
【読み】
江漢[こうかん]六章章八句


赫赫明明、王命卿士<叶音所>、南仲大<音泰>祖、大師皇父<音甫>、整我六師、以修我戎<叶音汝>、旣敬旣戒<叶音訖力反>、惠此南國<叶越逼反>○賦也。卿士、卽皇父之官也。南仲、見出車篇。大祖、始祖也。大師、皇父之兼官也。我、爲宣王之自我也。戎、兵器也。○宣王自將以伐淮北之夷、而命卿士之謂南仲爲大祖、兼大師、而字皇父者、整治其從行之六軍、修其戎事、以除淮夷之亂、而惠此南方之國。詩人作此以美之。必言南仲大祖者、稱其世功以美大之也。
【読み】
赫赫明明として、王卿士<叶音所>の、南仲を大<音泰>祖とする、大師皇父<音甫>に命ず、我が六師を整えて、以て我が戎<叶音汝>を修め、旣に敬み旣に戒<叶音訖力反>めて、此の南國<叶越逼反>を惠[いつく]しめ、と。○賦なり。卿士は、卽ち皇父の官なり。南仲は、出車の篇に見えたり。大祖は、始祖なり。大師は、皇父の兼官なり。我は、宣王の自ら我とするなり。戎は、兵器なり。○宣王自ら將に以て淮北の夷を伐たんとして、卿士の南仲を謂いて大祖とし、大師を兼ねて、皇父と字する者に命じて、其の從行の六軍を整え治め、其の戎事を修めて、以て淮夷の亂を除[はら]いて、此の南方の國を惠ましむ。詩人此を作りて以て之を美む。必ず南仲大祖と言うは、其の世功を稱して以て之を美大にするなり。

○王謂尹氏、命程伯休父、左右陳行<音杭>、戒我師旅、率彼淮浦、省此徐土。不留不處、三事就緒<音序>○賦也。尹氏、吉甫也。蓋爲内史、掌策命卿大夫也。程伯休父、周大夫。三事、未詳。或曰、三農之事也。○言王詔尹氏、策命程伯休父爲司馬、使之左右陳其行列、循淮浦、而省徐州之土。蓋伐淮北徐州之夷也。上章旣命皇父、而此章又命程伯休父者、蓋王親命大師、以三公治其軍事、而使内史命司馬、以六卿副之耳。
【読み】
○王尹氏に謂いて、程伯休父に命ず、左右行<音杭>を陳ね、我が師旅を戒め、彼の淮の浦[ほとり]に率い、此の徐の土を省よ。留らず處らざれば、三事緒<音序>に就かん。○賦なり。尹氏は、吉甫なり。蓋内史と爲りて、策命を掌る卿大夫なり。程伯休父は、周の大夫。三事は、未だ詳らかならず。或ひと曰く、三農の事、と。○言うこころは、王尹氏に詔して、程伯休父に策命して司馬と爲して、之をして左右に其の行列を陳ねせしめ、淮の浦に循いて、徐州の土を省せしむ。蓋し淮北徐州の夷を伐つなり。上の章旣に皇父に命じて、此の章又程伯休父に命ずるは、蓋し王親ら大師に命じて、三公を以て其の軍事を治めしめて、内史をして司馬を命じて、六卿を以て之を副[たす]けしむるのみ。

○赫赫業業<叶宜却反>、有嚴天子、王舒保作。匪紹匪遊、徐方繹騷<叶蘇侯反>。震驚徐方、如雷如霆。徐方震驚。賦也。赫赫、顯也。業業、大也。嚴、威也。天子自將。其威可畏也。王舒保作、未詳其義。或曰、舒、徐。保、安。作、行也。言王師舒徐而安行也。紹、緊也。遊、遨遊也。繹、連絡也。騷、擾動也。○夷厲以來、周室衰弱、至是而天子自將、以征不庭。其師始出、不疾不徐、而徐方之人、皆已震動、如雷霆作於其上。不遑安矣。
【読み】
○赫赫業業<叶宜却反>として、嚴かなる天子有り、王舒[しず]かに保んじ作[ゆ]く。紹[きび]しきに匪ず遊べるに匪ず、徐方繹[つら]なり騷<叶蘇侯反>げり。徐方を震い驚かすこと、雷の如く霆の如し。徐方震い驚けり。賦なり。赫赫は、顯らかなり。業業は、大いなり。嚴は、威なり。天子自ら將たり。其の威畏る可し。王舒保作は、未だ其の義を詳らかにせず。或ひと曰く、舒は、徐[しず]か。保は、安んず。作は、行く、と。言うこころは、王師舒徐にして安んじ行く。紹は、緊なり。遊は、遨遊なり。繹は、連絡なり。騷は、擾れ動くなり。○夷厲より以來、周室衰弱して、是に至りて天子自ら將として、以て不庭を征す。其の師始めて出づるに、疾からず徐かならずして、徐方の人、皆已に震動すること、雷霆の其の上に作るが如し。安んずるに遑あらず。

○王奮厥武、如震如怒<叶暖五反>。進厥虎臣、闞<音喊>如虓<音哮>虎。鋪<平聲>敦淮濆<音焚>、仍執醜虜。截彼淮浦、王師之所。賦也。進、鼓而進之也。闞、奮怒之貌。虓、虎之自怒也。鋪、布也。布其師旅也。敦、厚也。厚集其陳也。仍、就也。老子曰、攘臂而仍之。截、截然不可犯之貌。
【読み】
○王厥の武を奮うこと、震[いかずち]の如く怒<叶暖五反>れるが如し。厥の虎臣を進むれば、闞[かん]<音喊>として虓[こう]<音哮>虎の如し。淮の濆[ほとり]<音焚>に鋪[し]<平聲>き敦くして、仍[つ]いて醜[もろもろ]の虜を執らう。截[せつ]たる彼の淮の浦は、王師の所なり。賦なり。進は、鼓して之を進むるなり。闞は、奮い怒る貌。虓は、虎の自ら怒るなり。鋪は、布くなり。其の師旅を布くなり。敦は、厚きなり。厚く其の陳を集むるなり。仍は、就くなり。老子曰く、臂を攘[かか]げて之に仍く、と。截は、截然として犯す可からざる貌。

○王旅嘽嘽<音灘>、如飛如翰、如江如漢。如山之苞<叶鋪鉤反>、如川之流、緜緜翼翼。不測不克、濯征徐國<叶越逼反>○賦也。嘽嘽、衆盛貌。翰、羽。苞、本也。如飛如翰、疾也。如江如漢、衆也。如山、不可動也。如川、不可禦也。緜緜、不可絕也。翼翼、不可亂也。不測、不可知也。不克、不可勝也。濯、大也。
【読み】
○王の旅嘽嘽[たんたん]<音灘>として、飛ぶが如く翰[は]うつが如く、江の如く漢の如し。山の苞[もと]<叶鋪鉤反>なるが如く、川の流るるが如く、緜緜翼翼たり。測られず克たれず、濯[おお]いに徐國<叶越逼反>を征[う]ちぬ。○賦なり。嘽嘽は、衆く盛んなる貌。翰は、羽。苞[ほう]は、本なり。飛ぶが如く翰うつが如しは、疾きなり。江の如く漢の如しは、衆いなり。山の如しは、動く可からざるなり。川の如しは、禦ぐ可からざるなり。緜緜は、絕つ可からざるなり。翼翼は、亂す可からざるなり。測られずは、知る可からざるなり。克たれずは、勝つ可からざるなり。濯は、大いなり。

○王猶允塞、徐方旣來<叶六直反>。徐方旣同、天子之功。四方旣平、徐方來庭。徐方不回、王曰還歸<叶古回反>○賦也。猶、道。允、信。塞、實。庭、朝。回、違也。還歸、班師而歸也。○前篇召公帥師以出、歸告成功。故備載其褒賞之詞。此篇王實親行。故於卒章反復其詞、以歸功於天子。言王道甚大、而遠方懷之。非獨兵威然也。序所謂因以爲戒者是也。
【読み】
○王の猶[みち]允に塞[み]ちて、徐方旣に來<叶六直反>れり。徐方旣に同じくす、天子の功なり。四方旣に平らぎ、徐方庭に來れり。徐方回[たが]わず、王曰く還[かえ]り歸<叶古回反>らん、と。○賦なり。猶は、道。允は、信。塞は、實つ。庭は、朝。回は、違うなり。還り歸るとは、師を班[かえ]して歸るなり。○前の篇は召公師を帥いて以て出で、歸りて成功を告ぐ。故に備さに其の褒賞の詞を載す。此の篇は王實に親ら行く。故に卒章に於て其の詞を反復して、以て功を天子に歸す。言うこころは、王道甚だ大いにして、遠方も之に懷く。獨り兵威の然るのみに非ざるなり。序に所謂因りて以て戒めとすとは是れなり。

常武六章章八句
【読み】
常武[じょうぶ]六章章八句


瞻卬<音仰>昊天、則不我惠。孔塡不寧、降此大厲。邦靡有定、士民其瘵<音債。叶側例反>。蟊<音牟>賊蟊疾、靡有夷屆<音戒。叶居氣反>。罪罟不收、靡有夷瘳<音抽>○賦也。塡、久。厲、亂。瘵、病也。蟊賊、害苗之蟲也。疾、害。夷、平。屆、極。罟、網也。○此刺幽王嬖褒姒、任奄人以致亂之詩。蘇氏曰、國有定、則民受其福。國無所定、則受其病。於是有小人爲之蟊賊、刑罪爲之網罟。凡此皆民之所以病也。
【読み】
昊天を瞻卬[あお]<音仰>ぐに、則ち我を惠[いつく]しまず。孔[はなは]だ塡[ひさ]しく寧からずして、此の大いなる厲[みだ]れを降せり。邦定まること有る靡し、士民其れ瘵[や]<音債。叶側例反>みぬ。蟊[ぼう]<音牟>賊蟊[むしば]み疾[そこな]い、夷[たい]らぎ屆[きわ]<音戒。叶居氣反>まること有る靡し。罪の罟[あみ]收まらず、夷らぎ瘳[い]<音抽>ゆること有る靡し。○賦なり。塡[ちん]は、久し。厲は、亂れ。瘵[さい]は、病むなり。蟊賊は、苗を害する蟲なり。疾は、害う。夷は、平らぐ。屆は、極まる。罟[こ]は、網なり。○此れ幽王褒姒を嬖し、奄人に任じて以て亂を致すを刺る詩なり。蘇氏が曰く、國定まること有れば、則ち民其の福を受く。國定まる所無くば、則ち其の病を受く。是に於て小人之が蟊賊を爲し、刑罪之が網罟と爲る有り。凡そ此れ皆民の病める所以なり、と。

○人有土田、女<音汝>反有<酉由二音>之、人有民人、女覆奪之。此宜無罪、女反收<殖酉殖由二音>之、彼宜有罪、女覆說<音脫>之。賦也。反、覆。收、拘。說、赦也。
【読み】
○人土田有れば、女<音汝>反って之を有<酉由二音>ち、人民人有れば、女覆って之を奪えり。此の宜しく罪無かるべきを、女反って之を收[とら]<殖酉殖由二音>え、彼宜しく罪有るべきを、女覆って之を說[ゆる]<音脫>せり。賦なり。反は、覆。收は、拘う。說は、赦すなり。

○哲夫成城、哲婦傾城。懿厥哲婦、爲梟爲鴟。婦有長舌、維厲之階<叶居奚反>。亂匪降自天<叶鐵因反>、生自婦人。匪敎匪誨<叶呼位反>、時維婦寺。賦也。哲、知也。城、猶國也。哲婦、蓋指褒姒也。傾、覆。懿、美也。梟・鴟、惡聲之鳥也。長舌、能多言者也。階、梯也。寺、奄人也。○言男子正位乎外、爲國家之主。故有知則能立國。婦人以無非無儀爲善、無所事哲。哲則適以覆國而已。故此懿美之哲婦、而反爲梟鴟。蓋以其多言、而能爲禍亂之梯也。若是則亂豈眞自天降、如首章之說哉。特由此婦人而已。蓋其言雖多、而非有敎誨之益者、是惟婦人與奄人耳。豈可近哉。上文但言婦人之禍、末句兼以奄人爲言。蓋二者常相倚而爲奸、不可不幷以爲戒也。歐陽公嘗言、宦者之禍、甚於女寵。其言尤爲深切。有國家者、可不戒哉。
【読み】
○哲夫は城[くに]を成し、哲婦は城を傾く。懿[よ]き厥の哲婦、梟[きょう]と爲り鴟[し]と爲る。婦の長き舌有るは、維れ厲[みだ]れの階[はし]<叶居奚反>なり。亂れは天<叶鐵因反>より降るに匪ず、婦人より生れり。敎に匪ず誨<叶呼位反>に匪ざるは、時[こ]れ維れ婦寺。賦なり。哲は、知なり。城は、猶國のごとし。哲婦は、蓋し褒姒を指すなり。傾は、覆る。懿は、美きなり。梟・鴟は、惡聲の鳥なり。長舌は、能く多言する者なり。階は、梯なり。寺は、奄人なり。○言うこころは、男子は位を外に正して、國家の主爲り。故に知有れば則ち能く國を立つ。婦人は非無く儀無きを以て善とし、哲を事とする所無し。哲なれば則ち適に以て國を覆すのみ。故に此の懿美の哲婦にして、反って梟鴟と爲る。蓋し其の多言を以て、能く禍亂の梯を爲せばなり。是の若くなれば則ち亂豈眞に天より降ること、首章の說の如くならんや。特に此の婦人に由るのみ。蓋し其の言多しと雖も、而れども敎誨の益有る者に非ざるは、是れ惟婦人と奄人のみ。豈近づく可けんや。上文には但婦人の禍いを言い、末句には兼ねて奄人を以て言を爲す。蓋し二つの者常に相倚りて奸を爲し、幷せて以て戒めとせずんばある可からざるなり。歐陽公嘗て言う、宦者の禍いは、女寵よりも甚だし、と。其の言尤も深切とす。國家を有つ者、戒めざる可けんや。

○鞫人忮<音志>忒、譖<音僭>始竟背<音佩。叶必墨反>、豈曰不極、伊胡爲慝。如賈<音古>三倍、君子是識、婦無公事、休其蠶織。賦也。鞫、窮。忮、害。忒、變也。譖、不信也。竟、終。背、反。極、已。慝、惡也。賈、居貨者也。三倍、獲利之多也。公事、朝廷之事。蠶織、婦人之業。○言婦寺能以其智辯、窮人之言。其心忮害、而變詐無常。旣以譖妄倡始於前、而終或不驗於後、則亦不復自謂其言之放恣、無所極已、而反曰、是何足爲慝乎。夫商賈之利、非君子之所宜識。如朝廷之事、非婦人之所宜與也。今賈三倍、而君子識其所以然、婦人無朝廷之事、而舍其蠶織以圖之、則豈不爲慝哉。
【読み】
○人を鞫[きわ]めて忮[やぶ]<音志>り忒[か]われり、始めに譖[いつわ]<音僭>り竟[お]わりに背<音佩。叶必墨反>けども、豈極[や]まずと曰わんや、伊[こ]れ胡ぞ慝[あ]しとせん、と。賈<音古>の三倍するが如き、君子是を識り、婦公の事無きに、其の蠶織を休[や]めたり。賦なり。鞫[きく]は、窮む。忮は、害う。忒は、變わるなり。譖は、不信なり。竟は、終わり。背は、反く。極は、已む。慝は、惡なり。賈は、居貨者なり。三倍は、利を獲ることの多きなり。公事は、朝廷の事。蠶織は、婦人の業。○言うこころは、婦寺能く其の智辯を以て、人の言を窮む。其の心忮り害いて、變詐して常無し。旣に譖妄を以て前に倡[いざな]い始めて、終に或は後に驗あらざれば、則ち亦復自ら其の言の放恣にして、極まり已む所無きことを謂わずして、反って曰う、是れ何ぞ慝しとするに足らんや、と。夫れ商賈の利は、君子の宜しく識るべき所に非ず。朝廷の事の如きは、婦人の宜しく與るべき所に非ず。今賈三倍にして、君子其の然る所以を識り、婦人朝廷の事無くして、其の蠶織を舍てて以て之を圖れば、則ち豈慝しとせざらんや。

○天何以刺<叶音砌>、何神不富<叶方味反>。舍<音捨>爾介狄、維予胥忌。不弔不祥、威儀不類。人之云亡、邦國殄瘁。賦也。刺、責。介、大。胥、相。弔、閔也。○言天何用責王、神何用不富王哉。凡以王信用婦人之故也。是必將有夷狄之大患。今王舍之不忌、而反以我之正言不諱爲忌、何哉。夫天之降不祥、庶幾王懼而自脩。今王遇灾而不恤、又不謹其威儀、又無善人以輔之、則國之殄瘁宜矣。或曰、介狄、卽指婦寺。猶所謂女戎者也。
【読み】
○天何を以てか刺[せ]<叶音砌>むる、何ぞ神富<叶方味反>ましめざる。爾の介[おお]いなる狄を舍<音捨>てて、維れ予を胥[あい]忌めり。不祥を弔[うれ]えず、威儀類[たぐい]せず。人の云[ここ]に亡き、邦國殄[た]え瘁[や]みなん。賦なり。刺は、責む。介は、大い。胥は、相。弔は、閔うなり。○言うこころは、天何を用てか王を責め、神何を用てか王を富ましめざるや。凡て王婦人を信用するを以ての故なり。是れ必ず將に夷狄の大患有らんとす。今王之を舍てて忌まずして、反って我が正言諱まざるを以て忌むとするは、何ぞや。夫れ天の不祥を降せる、庶幾わくは王懼れて自ら脩めんことを。今王灾[わざわい]に遇いて恤えず、又其の威儀を謹まず、又善人以て之を輔くる無くば、則ち國の殄え瘁むこと宜なり。或ひと曰く、介狄は、卽ち婦寺を指す、と。猶所謂女戎なる者のごとし。

○天之降罔、維其優矣。人之云亡、心之憂矣。天之降罔、維其幾矣。人之云亡、心之悲矣。賦也。罔、罟。憂、多。幾、近也。蓋承上章之意、而重言之、以警王也。
【読み】
○天の罔を降せる、維れ其れ優[おお]し。人の云に亡き、心の憂えあり。天の罔を降せる、維れ其れ幾[ちか]し。人の云に亡き、心の悲しみあり。賦なり。罔は、罟[こ]。憂は、多き。幾は、近しなり。蓋し上の章の意を承けて、重ねて之を言い、以て王を警むるなり。

○觱<音必><音弗><胡覽反>泉、維其深矣。心之憂矣、寧自今矣。不自我先、不自我後<叶下五反>。藐藐昊天、無不克鞏<叶音古>。無忝皇祖、式救爾後。興也。觱・沸、泉涌貌。檻泉、泉正出者。藐藐、高遠貌。鞏、固也。○言泉水瀵湧、上出其源深矣。我心之憂、亦非適今日然也。然而禍亂極適當此時。蓋已無可爲者。惟天高遠、雖若無意於物、然其功用神明不測。雖危亂之極、亦無不能鞏固之者。幽王苟能改過自新、而不忝其祖、則天意可回、來者猶必可救、而子孫亦蒙其福矣。
【読み】
○觱[ひつ]<音必><音弗>として檻[わ]<胡覽反>ける泉、維れ其れ深し。心の憂え、寧ぞ今よりならん。我より先ならず、我より後<叶下五反>ならず。藐藐[ばくばく]たる昊天、鞏[かた]<叶音古>むること克[あた]わざること無けん。皇祖を忝[はずかし]むること無くば、式て爾の後を救わん。興なり。觱・沸は、泉の涌く貌。檻泉は、泉の正しく出づる者。藐藐は、高遠なる貌。鞏[きょう]は、固まるなり。○言うこころは、泉水瀵湧して、上り出づる其の源深し。我が心の憂え、亦適に今日然るに非ず。然れども禍亂の極み適に此の時に當たれり。蓋し已に爲す可き者無し。惟れ天の高遠、物に意無きが若しと雖も、然れども其の功用神明にして測られず。危亂の極みと雖も、亦鞏固すること能わざる者無し。幽王苟に能く過を改め自ら新たにして、其の祖を忝めざれば、則ち天意回る可く、來者猶必ず救わる可くして、子孫も亦其の福を蒙らん。

瞻卬七章三章章十句四章章八句
【読み】
瞻卬[せんぎょう]七章三章章十句四章章八句


旻天疾威、天篤降喪<去聲。叶桑郎反>、瘨<音顚>我饑饉、民卒流亡、我居圉<音語>卒荒。賦也。篤、厚。瘨、病。卒、盡也。居、國中也。圉、邊陲也。○此刺幽王任用小人、以致饑饉侵削之詩也。
【読み】
旻[びん]天疾威あり、天篤く喪<去聲。叶桑郎反>びを降して、我を饑饉に瘨[や]<音顚>ましめ、民卒[ことごと]く流亡して、我が居[くに]圉[ほとり]<音語>卒く荒[むな]し。賦なり。篤は、厚き。瘨は、病む。卒は、盡くなり。居は、國中なり。圉[ぎょ]は、邊陲[へんすい]なり。○此れ幽王の小人を任用して、以て饑饉侵削を致すを刺[そし]る詩なり。

○天降罪罟、蟊賊内訌<音紅>、昬椓<音卓>靡共<音恭>。潰潰回遹、實靖夷我邦<叶卜工反>○賦也。訌、潰也。昬椓、昬亂椓喪之人也。共、與恭同。一說與供同。謂共其職也。潰潰、亂也。回遹、邪僻也。靖、治。夷、平也。○言此蟊賊昬椓者、皆潰亂邪僻之人、而王乃使之治平我邦。所以致亂也。
【読み】
○天罪の罟[あみ]を降して、蟊[ぼう]賊内に訌[みだ]<音紅>り、昬椓[たく]<音卓>共[つつし]<音恭>めること靡し。潰[みだ]り潰り回[よこしま]に遹[ひが]めるをして、實に我が邦<叶卜工反>を靖[おさ]め夷[たい]らげしむ。○賦なり。訌は、潰るなり。昬椓は、昬亂椓喪の人なり。共は、恭と同じ。一說に供と同じ、と。其の職に共[そな]うるを謂うなり。潰潰は、亂るるなり。回遹は、邪僻なり。靖は、治むる。夷は、平らぐなり。○言うこころは、此の蟊賊昬椓の者、皆潰亂邪僻の人にして、王乃ち之をして我が邦を治め平らげしむ。亂を致す所以なり。

○皐皐訿訿<音紫>、曾不知其玷<音店>。兢兢業業、孔塡不寧、我位孔貶。賦也。皐皐、頑慢之意。訿訿、務爲謗毀也。玷、缺也。塡、久也。○言小人在位所爲如此。而王不知其缺。至於戒敬恐懼甚久而不寧者、其位乃更見貶黜。其顚倒錯亂之甚如此。
【読み】
○皐皐訿訿[しし]<音紫>するは、曾ち其の玷[か]<音店>けたることを知らず。兢兢業業として、孔[はなは]だ塡[ひさ]しく寧からざるは、我が位孔だ貶[おと]されぬ。賦なり。皐皐は、頑慢の意。訿訿は、務めて謗毀を爲すなり。玷[てん]は、缺[か]くなり。塡は、久しきなり。○言うこころは、小人位に在りてする所此の如し。而して王其の缺けたることを知らず。戒敬恐懼甚だ久しくして寧からざる者に至っては、其の位乃ち更に貶黜[へんちゅつ]せらる。其の顚倒錯亂の甚だしきこと此の如し。

○如彼歲旱、草不潰茂、如彼棲<音西><七如反>。我相<去聲>此邦、無不潰止。賦也。潰、遂也。棲苴、水中浮草、棲於木上者。言枯槁無潤澤也。相、視。潰、亂也。
【読み】
○彼の歲の旱に、草茂りを潰[と]げざるが如し、彼の棲[やど]<音西>れる苴[うきくさ]<七如反>の如し。我れ此の邦を相[み]<去聲>るに、潰れざるは無し。賦なり。潰は、遂ぐなり。棲れる苴は、水中の浮草の、木の上に棲れる者。言うこころは、枯槁して潤澤無きなり。相は、視る。潰は、亂るるなり。

○維昔之富、不如時。維今之疚、不如茲。彼疏斯粺<音敗>、胡不自替。職兄<音况>斯引。賦也。時、是。疚、病也。疏、糲也。粺、則精矣。替、廢也。兄、怳同。引、長也。○言昔之富、未嘗若是之疚也。而今之疚、又未嘗若此之甚也。彼小人之與君子、如疏與粺。其分審矣。而曷不自替、以避君子乎。而使我心專爲此故、至於愴怳引長而不能自已也。
【読み】
○維れ昔の富めりしは、時[かく]の如くならず。維れ今の疚しきも、茲[かく]の如くならず。彼は疏斯は粺[はい]<音敗>、胡ぞ自ら替[すた]れざる。職[もっぱ]ら兄[うれ]<音况>うること斯れ引[なが]し。賦なり。時は、是。疚は、病むなり。疏は、糲[くろごめ]なり。粺は、則ち精なり。替は、廢るなり。兄は、怳[きょう]と同じ。引は、長きなり。○言うこころは、昔の富めりしは、未だ嘗て是の若く疚しからず。而して今の疚しきも、又未だ嘗て此の若く甚だしからざるなり。彼の小人の君子に與するは、疏と粺との如し。其の分審らかなり。而るを曷ぞ自ら替れ、以て君子を避けざるや。而して我が心をして專ら此が爲の故に、愴怳引長して自ら已むこと能わざるに至らしむ。

○池之竭矣、不云自頻。泉之竭矣、不云自中<叶諸仍反>。溥斯害矣。職兄斯弘。不烖我躬<叶姑弘反>○賦也。頻、厓。溥、廣。弘、大也。○池、水之鐘也。泉、水之發也。故池之竭、由外之不入。泉之竭、由内之不出。言禍亂有所從起。而今不云然也。此其爲害亦已廣矣。是使我心專爲此故、至於愴怳日益弘大、而憂之曰是豈不烖及我躬也乎。
【読み】
○池の竭くるを、頻[ほとり]よりすと云わず。泉の竭くるを、中<叶諸仍反>よりすと云わず。溥[ひろ]く斯れ害[そこな]えり。職ら兄うること斯れ弘[おお]いなり。我が躬<叶姑弘反>に烖[わざわい]あらざらんや。○賦なり。頻は、厓[ほとり]。溥は、廣し。弘は、大いなり。○池は、水の鐘[あつ]まるなり。泉は、水の發するなり。故に池の竭くるは、外の入らざるに由る。泉の竭くるは、内の出でざるに由る。言うこころは、禍亂從りて起こる所有り。而るを今然[しか]云わず。此れ其の害を爲すこと亦已に廣し。是れ我が心をして專ら此が爲の故に、愴怳日に益々弘大にして、之を憂えて是れ豈烖我が躬に及ばざらんやと曰うに至らしめんや。

○昔先王受命、有如召公、日辟<音闢>國百里。今也日蹙<音蹴>國百里。於<音烏><音呼>哀哉、維今之人、不尙有舊<叶巨已反>○賦也。先王、文武也。召公、康公也。辟、開。蹙、促也。○文王之世、周公治内、召公治外。故周人之詩、謂之周南、諸侯之詩、謂之召南。所謂日辟國百里云者、言文王之化、自北而南、至於江漢之閒、服從之國日以益衆。及虞芮質成、而其旁諸侯、聞之相帥歸周者、四十餘國焉。今、謂幽王之時。促國、蓋大戎内侵、諸侯外畔也。又嘆息哀痛而言、今世雖亂、豈不猶有舊德可用之人哉。言有之而不用耳。
【読み】
○昔先王命を受けしとき、召公の如き有り、日々に國を辟[ひら]<音闢>けること百里。今は日々に國を蹙[ちぢ]<音蹴>むること百里。於<音烏><音呼>哀しいかな、維れ今の人、尙舊<叶巨已反>き有らざらんや。○賦なり。先王は、文武なり。召公は、康公なり。辟は、開く。蹙は、促[ちぢ]むるなり。○文王の世、周公内を治め、召公外を治む。故に周人の詩、之を周南と謂い、諸侯の詩、之を召南と謂う。所謂日々に國を辟けること百里と云うは、言うこころは、文王の化、北よりして南、江漢の閒に至り、服[つ]き從う國日々に以て益々衆し。虞芮[ぐぜい]成[たい]らぎを質すに及んで、其の旁らの諸侯、之を聞いて相帥いて周に歸する者、四十餘國なり。今は、幽王の時を謂う。國を促むとは、蓋し大戎内に侵し、諸侯外に畔[そむ]くなり。又嘆息哀痛して言う、今世亂ると雖も、豈猶舊德用ゆ可きの人有らざらんや、と。言うこころは、之れ有りて用いざるのみ。

召旻七章四章章五句三章章七句。因其首章稱旻天、卒章稱召公。故謂之召旻、以別小旻也。
【読み】
召旻[しょうびん]七章四章章五句三章章七句。其の首章に旻天と稱し、卒章に召公と稱するに因りて、故に之を召旻と謂い、以て小旻に別てり。


蕩之什十一篇九十二章七百六十九句
 

大雅(終)

(引用文献)

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江守孝三(Emori Kozo)