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春秋左氏傳校本


 春秋《左氏傳》(昭公五、六、七)

春秋左氏傳
(隱公 桓公莊公閔公)(僖公上、中、下 )(文公上、下 )(宣公上、下 )(成公上、下 )
(襄公一、二、三) (四、五、六 )(昭公一、二、三、四) (五、六、七)(定公上、下)(哀公上、下)(序杜預略傳 ・後序)

春秋左氏傳校本第二十四

昭公 起十八年盡二十二年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

〔經〕
十有八年、春、王三月、曹伯須卒。未同盟、而赴以名。
【読み】
〔經〕十有八年、春、王の三月、曹伯須卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。

夏、五月、壬午、宋・衛・陳・鄭災。來告。故書。天火曰災。
【読み】
夏、五月、壬午[みずのえ・うま]、宋・衛・陳・鄭災あり。來り告ぐ。故に書す。天火を災と曰う。

六月、邾人入鄅。鄅國、今瑯邪開陽縣。○鄅、音禹。又音矩。
【読み】
六月、邾人[ちゅひと]鄅[う]に入る。鄅國は、今の瑯邪開陽縣。○鄅は、音禹。又音矩。

秋、葬曹平公。冬、許遷于白羽。自葉遷也。畏鄭而樂遷。故以自遷爲文。○葉、始涉反。
【読み】
秋、曹の平公を葬る。冬、許白羽に遷る。葉[しょう]より遷るなり。鄭を畏れて遷ることを樂[のぞ]む。故に自ら遷るを以て文を爲す。○葉は、始涉反。

〔傳〕十八年、春、王二月、乙卯、周毛得殺毛伯過、毛伯過、周大夫。得、過之族。○過、平聲。
【読み】
〔傳〕十八年、春、王の二月、乙卯[きのと・う]、周の毛得毛伯過を殺して、毛伯過は、周の大夫。得は、過の族。○過は、平聲。

而代之。代居其位。
【読み】
之に代われり。代わりて其の位に居る。

萇弘曰、毛得必亡。是昆吾稔之日也。侈故之以。昆吾、夏伯也。稔、熟也。侈惡積熟、以乙卯日與桀同誅。○萇、音長。
【読み】
萇弘曰く、毛得必ず亡びん。是れ昆吾が稔せし日なり。侈りの故を以てなり。昆吾は、夏の伯なり。稔は、熟すなり。侈惡積熟して、乙卯の日を以て桀と同じく誅せらる。○萇は、音長。

而毛得以濟侈於王都。不亡何待。爲二十六年、毛伯奔楚傳。
【読み】
而るに毛得以て侈りを王都に濟す。亡びずして何をか待たん、と。二十六年、毛伯楚に奔る爲の傳なり。

三月、曹平公卒。爲下會葬見原伯起本。
【読み】
三月、曹の平公卒す。下の會葬して原伯を見る爲の起本なり。

夏、五月、火始昏見。火、心星。○見、賢遍反。
【読み】
夏、五月、火始めて昏に見ゆ。火は、心星。○見は、賢遍反。

丙子、風。梓愼曰、是謂融風。火之始也。東北曰融風。融風、木也。木、火母。故曰火之始。
【読み】
丙子[ひのえ・ね]に、風ふく。梓愼曰く、是を融風と謂う。火の始めなり。東北を融風と曰う。融風は、木なり。木は、火の母。故に火の始めと曰う。

七日其火作乎。從丙子至壬午七日。壬午、水火合之日。故知當火作。
【読み】
七日に其れ火作らんか、と。丙子より壬午に至るまで七日。壬午は、水火合するの日なり。故に當に火作るべきを知る。

戊寅、風甚。壬午、大甚。宋・衛・陳・鄭皆火。梓愼登大庭氏之庫以望之、大庭氏、古國名。在魯城内。魯於其處作庫。高顯。故登以望氣。參近占以審前年之言。
【読み】
戊寅[つちのえ・とら]に、風甚だし。壬午に、大いに甚だし。宋・衛・陳・鄭皆火あり。梓愼大庭氏の庫に登りて以て之を望みて、大庭氏は、古の國の名。魯の城内に在り。魯其の處に於て庫を作る。高顯なり。故に登りて以て氣を望む。近占に參[かんが]えて以て前年の言を審らかにす。

曰、宋・衛・陳・鄭也。數日皆來告火。言經所以書。○數、所主反。
【読み】
曰く、宋・衛・陳・鄭なり、と。數日ありて皆來りて火を告ぐ。經の書す所以を言う。○數は、所主反。

裨竈曰、不用吾言、鄭又將火。前年、裨竈欲用瓘斝禳火。子產不聽。今復請用之。
【読み】
裨竈曰く、吾が言を用いずんば、鄭又將に火あらんとす、と。前年、裨竈瓘斝[かんか]を用いて火を禳わんと欲す。子產聽かず。今復之を用いんと請う。

鄭人請用之。信竈言。
【読み】
鄭人之を用いんと請う。竈が言を信ず。

子產不可。子大叔曰、寶以保民也。若有火、國幾亡。可以救亡。子何愛焉。子產曰、天道遠、人道邇。非所及也。何以知之。竈焉知天道。是亦多言矣。豈不或信。多言者或時有中。○幾、音祈。又音機。
【読み】
子產可[き]かず。子大叔が曰く、寶は以て民を保んぜんとなり。若し火有らば、國幾ど亡びん。以て亡を救う可し。子何ぞ愛める、と。子產曰く、天道は遠く、人道は邇し。及ぶ所に非ざるなり。何を以て之を知らん。竈も焉ぞ天道を知らん。是れ亦多言なり。豈信或らざらんや、と。多言なる者は或は時に中ること有り。○幾は、音祈。又音機。

遂不與。亦不復火。傳言天道難明、雖裨竈猶不足以盡知之。
【読み】
遂に與えず。亦復火あらず。傳天道明らかにし難し、裨竈と雖も猶以て盡く之を知るに足らざるを言う。

鄭之未災也、里析告子產曰、將有大祥。里析、鄭大夫。祥、變異之氣。
【読み】
鄭の未だ災あらざるや、里析子產に告げて曰く、將に大祥有らんとす。里析は、鄭の大夫。祥は、變異の氣。

民震動、國幾亡。吾身泯焉。弗良及也。言將先災死。○先、悉薦反。
【読み】
民震動し、國幾ど亡びん。吾が身も泯[ほろ]びん。良[まこと]に及ばじ。言うこころは、將に災に先だちて死なんとす。○先は、悉薦反。

國遷、其可乎。子產曰、雖可、吾不足以定遷矣。子產知天災不可逃、非遷所免。故託以知不足。
【読み】
國遷らば、其れ可ならんか、と。子產曰く、可なりと雖も、吾れ以て遷を定むるに足らず、と。子產天災の逃る可からず、遷の免るる所に非ざるを知る。故に託するに知足らざるを以てす。

及火、里析死矣。子產使輿三十人遷其柩。以其嘗與己言故。
【読み】
火に及びて、里析死す。子產輿三十人をして其の柩を遷さしめり。其の嘗て己と言いしを以ての故なり。
*漢籍國字解全書では、「里析死矣。」の後に「未葬。」がある。

火作。子產辭晉公子公孫于東門。晉人新來未入。故辭不使前也。
【読み】
火作る。子產晉の公子公孫を東門に辭す。晉人新たに來りて未だ入らず。故に辭して前[すす]ましめざるなり。

使司寇出新客、新來聘者。
【読み】
司寇をして新客を出ださしめ、新たに來聘する者。

禁舊客勿出於宮。爲其知國情、不欲令去。
【読み】
舊客を禁じて宮より出づること勿からしむ。其の國情を知るが爲に、去らしむることを欲せず。

使子寬・子上巡羣屛攝、至于大宮、二子、鄭大夫。屛攝、祭祀之位。大宮、鄭祖廟。巡行宗廟、不得使火及之。○屛、上聲。
【読み】
子寬・子上をして羣屛攝を巡り、大宮に至らしめ、二子は、鄭の大夫。屛攝は、祭祀の位。大宮は、鄭の祖廟。宗廟を巡行して、火をして之に及ばしむることを得ざらしむ。○屛は、上聲。

使公孫登徙大龜、登、開卜大夫。
【読み】
公孫登をして大龜を徙[うつ]さしめ、登は、開卜大夫。

使祝史徙主祏於周廟、告於先君、祏、廟主石函。周廟、厲王廟也。有火災。故合羣主於祖廟。易救護。○祏、音石。
【読み】
祝史をして主祏[しゅせき]を周廟に徙し、先君に告げしめ、祏は、廟主の石函。周廟は、厲王の廟なり。火災有り。故に羣主を祖廟に合わすなり。救護し易し。○祏は、音石。

使府人・庫人各儆其事。儆、備火也。
【読み】
府人・庫人をして各々其の事を儆[いまし]めしむ。儆[けい]は、火に備うるなり。

商成公儆司宮、商成公、鄭大夫。司宮、巷伯寺人之官。
【読み】
商成公司宮を儆め、商成公は、鄭大夫。司宮は、巷伯寺人の官。

出舊宮人、寘諸火所不及。舊宮人、先公宮女。
【読み】
舊宮人を出だして、諸を火の及ばざる所に寘く。舊宮人は、先公の宮女。

司馬・司寇列居火道、備非常也。
【読み】
司馬・司寇火道に列居して、非常に備うるなり。

行火所焮、焮、炙也。○焮、許靳反。
【読み】
火の焮[や]く所を行[めぐ]り、焮[きん]は、炙[や]くなり。○焮は、許靳反。

城下之人伍列登城。爲部伍登城、備姦也。
【読み】
城下の人伍列して城に登る。部伍を爲して城に登り、姦に備うるなり。

明日、使野司寇各保其徵。野司寇、縣士也。火之明日、四方乃開災。故戒保所徵役之人。
【読み】
明日、野司寇をして各々其の徵を保んぜしむ。野司寇は、縣士なり。火の明日、四方乃ち災を開く。故に徵役する所の人を戒保す。

郊人助祝史除於國北、爲祭處於國北者、就大陰禳火。
【読み】
郊人祝史を助けて國北に除して、祭處を國北に爲るは、大陰に就きて火を禳うなり。

禳火于玄冥回祿、玄冥、水神。回祿、火神。
【読み】
火を玄冥回祿に禳い、玄冥は、水神。回祿は、火神。

祈于四鄘。鄘、城也。城積土、陰氣所聚。故祈祭之、以禳火之餘災。○鄘、音容。
【読み】
四鄘に祈る。鄘は、城なり。城は積土、陰氣の聚まる所。故に之を祈祭して、以て火の餘災を禳うなり。○鄘は、音容。

書焚室而寬其征、與之材。征、賦稅也。
【読み】
焚室を書して其の征を寬[ゆる]くし、之に材を與う。征は、賦稅なり。

三日哭、國不市。示憂戚不會市。
【読み】
三日哭し、國市せず。憂戚して市に會せざるを示す。

使行人告於諸侯。宋・衛皆如是。
【読み】
行人をして諸侯に告げしむ。宋・衛も皆是の如し。

陳不救火、許不弔災。君子是以知陳・許之先亡也。不義所以亡。
【読み】
陳は火を救わず、許は災を弔わず。君子是を以て陳・許の先ず亡びんことを知れり。不義は亡ぶる所以なり。

六月、鄅人藉稻。鄅、妘姓國也。其君自出藉稻、蓋履行之。○妘、音云。
【読み】
六月、鄅人稻を藉[ふ]む。鄅は、妘[うん]姓の國なり。其の君自ら出でて稻を藉むは、蓋し之を履行するならん。○妘は、音云。

邾人襲鄅。鄅人將閉門。邾人羊羅攝其首焉、斬得閉門者頭。
【読み】
邾人鄅を襲う。鄅人將に門を閉じんとす。邾人羊羅其の首を攝[も]ち、門を閉じる者の頭を斬り得る。

遂入之、盡俘以歸。鄅子曰、余無歸矣。從帑於邾。邾莊公反鄅夫人而舍其女。爲明年、宋伐邾起。○帑、音奴。
【読み】
遂に之に入り、盡く俘にして以[い]て歸る。鄅子曰く、余歸する無し、と。帑に邾に從う。邾の莊公鄅の夫人を反して其の女を舍く。明年、宋邾を伐つ爲の起なり。○帑は、音奴。

秋、葬曹平公。
【読み】
秋、曹の平公を葬る。

往者見周原伯魯焉。原伯魯、周大夫。
【読み】
往く者周の原伯魯を見る。原伯魯は、周の大夫。

與之語。不說學。歸以語閔子馬。閔子馬曰、周其亂乎。夫必多有是說、而後及其大人。國亂俗壞、言者適多、漸以及大人。大人、在位者。○說學、音悅。
【読み】
之と語る。學を說ばず。歸りて以て閔子馬に語ぐ。閔子馬が曰く、周其れ亂れんか。夫れ必ず多く是の說有りて、而して後に其の大人に及べるならん。國亂れ俗壞れ、言う者適に多くして、漸く以て大人に及ぶ。大人は、位に在る者。○說學は、音悅。

大人患失而惑、又曰、可以無學、無學不害。患有學而失道者、以惑其意。
【読み】
大人失えるを患えて惑い、又曰わん、以て學ぶこと無かる可し、學ぶこと無きも害あらず、と。學びて道を失える者有るを患えて、以て其の意に惑う。

不害而不學、則苟而可。以爲無害、遂不學、則皆懷苟且。
【読み】
害あらずとして學びざれば、則ち苟もして可なり。以て害無しと爲して、遂に學びざれば、則ち皆苟且を懷く。

於是乎下陵上替。能無亂乎。夫學、殖也。不學將落。原氏其亡乎。殖、成長也。言學之進德如農之殖苗、日新日益。○殖、時力反。
【読み】
是に於て下陵ぎ上替[すた]る。能く亂るること無けんや。夫れ學は、殖なり。學びざれば將に落ちんとす。原氏は其れ亡びんか、と。殖は、成長なり。言うこころは、學の德に進むこと農の苗を殖して、日に新たに日に益すが如し。○殖は、時力反。

七月、鄭子產爲火故、大爲社、爲、治也。○爲火、于僞反。下將爲同。
【読み】
七月、鄭の子產火の爲の故に、大いに社を爲[おさ]め、爲は、治むるなり。○爲火は、于僞反。下の將爲も同じ。

祓禳於四方、振除火災。禮也。振、棄也。○祓、芳佛反。
【読み】
四方に祓禳して、火災を振除す。禮なり。振は、棄つるなり。○祓は、芳佛反。

乃簡兵大蒐。將爲蒐除。治兵於廟、城内地迫。故除廣之。
【読み】
乃ち兵を簡[えら]びて大蒐す。將に蒐の爲に除かんとす。廟に治兵するに、城内地迫る。故に之を除き廣む。

子大叔之廟在道南、其寢在道北。其庭小、庭、蒐塲也。
【読み】
子大叔の廟は道南に在り、其の寢は道北に在り。其の庭小にして、庭は、蒐塲なり。

過期三日、處小、不得一時畢。○處、昌慮反。
【読み】
期を過ぐること三日、處小にして、一時に畢わることを得ず。○處は、昌慮反。

使除徒陳於道南廟北、曰、子產過女而命速除、乃毀於而郷。而、女也。毀女所郷。○女、音汝。郷、許亮反。
【読み】
除徒をして道の南廟の北に陳ねしめて、曰く、子產女に過りて速やかに除けと命ぜば、乃ち而[なんじ]の郷[む]かうを毀て、と。而は、女なり。女の郷かう所を毀て。○女は、音汝。郷は、許亮反。

子產朝、朝君。
【読み】
子產朝して、君に朝す。

過而怒之。怒不毀。
【読み】
過りて之を怒る。毀たざるを怒る。

除者南毀。子產及衝、使從者止之、曰、毀於北方。言子產仁、不忍毀人廟。
【読み】
除者南を毀つ。子產衝に及び、從者をして之を止めしめて、曰く、北方を毀て、と。言うこころは、子產仁にして、人の廟を毀つに忍びず。

火之作也、子產授兵登陴。子大叔曰、晉無乃討乎。辭晉公子公孫而授兵、似若叛晉。
【読み】
火の作るや、子產兵を授け陴に登らしむ。子大叔曰く、晉乃ち討ずること無からんや、と。晉の公子公孫を辭して兵を授くるは、晉に叛くが若きに似たり。

子產曰、吾聞之、小國忘守則危。況有災乎。國之不可小、有備故也。
【読み】
子產曰く、吾れ之を聞く、小國守りを忘るるときは則ち危うし、と。況んや災有るをや。國の小とす可からざるは、備え有る故なり、と。

旣晉之邊吏讓鄭曰、鄭國有災、晉君大夫不敢寧居、卜筮走望、不愛牲玉。鄭之有災、寡君之憂也。今執事撊然授兵登陴、撊然、勁忿貌。○撊、遐板反。
【読み】
旣にして晉の邊吏鄭を讓[せ]めて曰く、鄭國災有るとき、晉の君大夫敢えて寧居せず、卜筮走望して、牲玉を愛まざりき。鄭の災有るは、寡君の憂えなり。今執事撊然[かんぜん]として兵を授け陴に登せしは、撊然は、勁忿[けいふん]の貌。○撊は、遐板反。

將以誰罪。邊人恐懼。不敢不告。子產對曰、若吾子之言。敝邑之災、君之憂也。敝邑失政、天降之災。又懼讒慝之閒謀之、以啓貪人、荐爲敝邑不利、荐、重也。○閒、去聲。
【読み】
將に誰を以て罪せんとする。邊人恐懼す。敢えて告げずんばあらず、と。子產對えて曰く、吾子の言の若し。敝邑の災は、君の憂えなり。敝邑政を失いて、天之に災を降せり。又讒慝の之を閒謀して、以て貪人を啓き、荐[しき]りに敝邑の不利を爲して、荐は、重ぬるなり。○閒は、去聲。

以重君之憂。幸而不亡、猶可說也。說、解也。
【読み】
以て君の憂えを重ねしことを懼る。幸いにして亡びざれば、猶說く可し。說は、解くなり。

不幸而亡、君雖憂之、亦無及也。鄭有他竟、望走在晉。言鄭雖與他國爲竟、每瞻望晉歸赴之。
【読み】
不幸にして亡びば、君之を憂うと雖も、亦及ぶこと無からん。鄭他の竟する有れども、望走は晉に在り。言うこころは、鄭他國と竟を爲すと雖も、每に晉を瞻望して之に歸赴す。

旣事晉矣。其敢有二心。傳言子產有備。
【読み】
旣に晉に事えり。其れ敢えて二心有あらんや、と。傳子產が備え有るを言う。

楚左尹王子勝言於楚子曰、許於鄭仇敵也。而居楚地、以不禮於鄭。十五年、平王復遷邑、許自夷還居葉。恃楚而不事鄭。
【読み】
楚の左尹王子勝楚子に言いて曰く、許の鄭に於るは仇敵なり。而るに楚の地に居りて、以て鄭に不禮なり。十五年、平王遷邑を復して、許夷より還りて葉に居る。楚を恃みて鄭に事えず。

晉・鄭方睦。鄭若伐許、而晉助之、楚喪地矣。君盍遷許。許不專於楚。自以舊國、不專心事楚。
【読み】
晉・鄭方に睦まじ。鄭若し許を伐ちて、晉之を助けば、楚地を喪わん。君盍ぞ許を遷さざる。許楚に專らならず。自ら舊國なりと以[おも]いて、專心に楚に事えず。

鄭方有令政。許曰、余舊國也。許先鄭封。
【読み】
鄭方に令政有り。許は曰く、余は舊國なり、と。許鄭に先だちて封ぜらる。

鄭曰、余俘邑也。隱十一年、鄭滅許而復存之。故曰我俘邑。
【読み】
鄭は曰く、余が俘邑なり、と。隱十一年、鄭許を滅ぼして復之を存す。故に我が俘邑なりと曰う。

葉在楚國、方城外之蔽也。爲方城外之蔽障。
【読み】
葉は楚國に在りては、方城外の蔽なり。方城外の蔽障爲り。

土不可易。易、輕也。○易、以豉反。
【読み】
土は易[かろ]んず可からず。易は、輕んずるなり。○易は、以豉反。

國不可小。謂鄭。
【読み】
國は小とす可からず。鄭を謂う。

許不可俘。讎不可啓。君其圖之。
【読み】
許は俘となす可からず。讎は啓く可からず。君其れ之を圖れ、と。

楚子說。冬、楚子使王子勝遷許於析。實白羽。於傳時白羽改爲析。
【読み】
楚子說ぶ。冬、楚子王子勝をして許を析に遷さしむ。實は白羽なり。傳の時に於て白羽改めて析とす。


〔經〕十有九年、春、宋公伐邾。爲鄅。
【読み】
〔經〕十有九年、春、宋公邾[ちゅ]を伐つ。鄅の爲なり。

夏、五月、戊辰、許世子止弑其君買。加弑者、責止不舍藥物。○舍、音捨。
【読み】
夏、五月、戊辰[つちのえ・たつ]、許の世子止其の君買を弑す。弑を加うるは、止が藥物を舍てざるを責むるなり。○舍は、音捨。

己卯、地震。無傳。
【読み】
己卯[つちのと・う]、地震す。傳無し。

秋、齊高發帥師伐莒。冬、葬許悼公。無傳。
【読み】
秋、齊の高發師を帥いて莒を伐つ。冬、許の悼公を葬る。傳無し。

〔傳〕十九年、春、楚工尹赤遷陰于下陰。陰縣、今屬南郷郡。
【読み】
〔傳〕十九年、春、楚の工尹赤陰を下陰に遷す。陰縣は、今南郷郡に屬す。

令尹子瑕城郟。叔孫昭子曰、楚不在諸侯矣。其僅自完也、以持其世而已。遷陰城郟、皆欲以自完守。
【読み】
令尹子瑕郟[こう]に城く。叔孫昭子曰く、楚は諸侯に在らず。其れ僅かに自ら完くして、以て其の世を持つのみ、と。陰を遷し郟に城くは、皆以て自ら完守せんと欲するなり。

楚子之在蔡也、蓋爲大夫時往聘蔡。
【読み】
楚子の蔡に在りしや、蓋し大夫爲りし時に往きて蔡に聘するならん。

郹陽封人之女奔之、生大子建。郹陽、蔡邑。○郹、古闃反。
【読み】
郹陽[げきよう]の封人の女之に奔り、大子建を生めり。郹陽は、蔡の邑。○郹は、古闃反。

及卽位、使伍奢爲之師、伍奢、伍舉之子、伍員之父。○員、音云。
【読み】
位に卽くに及びて、伍奢をして之が師爲らしめ、伍奢は、伍舉の子、伍員[ごうん]の父。○員は、音云。

費無極爲少師。無寵焉。欲譖諸王、曰、建可室矣。室、妻也。
【読み】
費無極を少師と爲す。寵無し。諸を王に譖せんと欲して、曰く、建室[めあわ]す可し、と。室は、妻すなり。

王爲之聘於秦。無極與逆、勸王取之。正月、楚夫人嬴氏至自秦。王自取之。故稱夫人至。爲下拜夫人起。○與、音預。嬴、音盈。
【読み】
王之が爲に秦に聘す。無極逆[むか]うるに與り、王に勸めて之を取[めと]らしむ。正月、楚の夫人嬴氏[えいし]秦より至る。王自ら之を取る。故に夫人至ると稱す。下の夫人を拜する爲の起なり。○與は、音預。嬴は、音盈。

鄅夫人、宋向戌之女也。故向寧請師。寧、向戌之子也。請於宋公伐邾。○向、傷亮反。戌、音恤。
【読み】
鄅の夫人は、宋の向戌[しょうじゅつ]の女なり。故に向寧師を請う。寧は、向戌の子なり。宋公に請いて邾を伐つ。○向は、傷亮反。戌は、音恤。

二月、宋公伐邾、圍蟲。三月取之。蟲、邾邑。不書圍取、不以告。○蟲、直中反。
【読み】
二月、宋公邾を伐ち、蟲を圍む。三月之を取る。蟲は、邾の邑。圍取を書さざるは、以て告げざればなり。○蟲は、直中反。

乃盡歸鄅俘。
【読み】
乃ち盡く鄅の俘を歸す。

夏、許悼公瘧。五月、戊辰、飮大子止之藥卒。止獨進藥不由醫。○瘧、魚略反。
【読み】
夏、許の悼公瘧[ぎゃく]す。五月、戊辰、大子止の藥を飮みて卒す。止獨藥を進めて醫に由らず。○瘧は、魚略反。

大子奔晉。
【読み】
大子晉に奔る。

書曰弑其君。君子曰、盡心力以事君。舍藥物可也。藥物有毒。當由醫。非凡人所知。譏止不舍藥物、所以加弑君之名。○舍、音捨。
【読み】
書して其の君を弑すと曰う。君子曰く、心力を盡くして以て君に事えんのみ。藥物を舍てて可なり、と。藥物は毒有り。當に醫に由るべし。凡人の知る所に非ず。止が藥物を舍てずして、弑君の名を加えらる所以を譏る。○舍は、音捨。

邾人・郳人・徐人會宋公。乙亥、同盟于蟲。終宋公伐邾事。○郳、伍兮反。
【読み】
邾人・郳人[げいひと]・徐人宋公に會す。乙亥[きのと・い]、蟲に同盟す。宋公邾を伐つ事を終わる。○郳は、伍兮反。

楚子爲舟師以伐濮。濮、南夷也。
【読み】
楚子舟師を爲りて以て濮を伐つ。濮は、南夷なり。

費無極言於楚子曰、晉之伯也、邇於諸夏。而楚辟陋。故弗能與爭。若大城城父而寘大子焉、城父、今襄城城父縣。○伯、音霸。又如字。辟、匹亦反。
【読み】
費無極楚子に言いて曰く、晉の伯たるや、諸夏に邇ければなり。而るに楚は辟陋なり。故に與に爭うこと能わず。若し大いに城父に城きて大子を寘きて、城父は、今の襄城の城父縣。○伯は、音霸。又字の如し。辟は、匹亦反。

以通北方、王收南方、是得天下也。王說、從之。故大子建居于城父。
【読み】
以て北方に通じ、王は南方を收めば、是れ天下を得ん、と。王說びて、之に從う。故に大子建城父に居れり。

令尹子瑕聘于秦、拜夫人也。爲明年、譖大子張本。改以爲夫人、遣謝秦。
【読み】
令尹子瑕秦に聘して、夫人を拜せり。明年、大子を譖づ爲の張本なり。改めて以て夫人と爲して、遣りて秦に謝せしむ。

秋、齊高發帥師伐莒。莒不事齊故。
【読み】
秋、齊の高發師を帥いて莒を伐つ。莒齊に事えざる故なり。

莒子奔紀鄣。紀鄣、莒邑也。東海贛楡縣東北有紀城。○鄣、音章。
【読み】
莒子紀鄣に奔る。紀鄣は、莒の邑なり。東海贛楡[こうゆ]縣の東北に紀城有り。○鄣は、音章。
*「贛」の読みは「かん」ではないか?

使孫書伐之。孫書、陳無宇之子、子占也。
【読み】
孫書をして之を伐たしむ。孫書は、陳無宇の子、子占なり。

初、莒有婦人、莒子殺其夫。己爲嫠婦、寡婦爲嫠。○嫠、力之反。
【読み】
初め、莒に婦人有り、莒子其の夫を殺す。己にして嫠婦[りふ]と爲り、寡婦を嫠と爲す。○嫠は、力之反。

及老、託於紀鄣、紡焉以度而去之。因紡纑、連所紡以度城而藏之、以待外攻者。欲以報讎。○紡、芳往反。度、待洛反。
【読み】
老に及びて、紀鄣に託し、紡して以て度りて之を去[おさ]む。紡纑するに因りて、紡[よ]る所を連ねて以て城を度りて之を藏め、以て外攻の者を待つ。以て讎を報いんと欲す。○紡は、芳往反。度は、待洛反。

及師至、則投諸外。投繩城外、隨之而出。
【読み】
師の至るに及びて、則ち諸を外に投ぐ。繩を城外に投げて、之に隨いて出づ。

或獻諸子占。子占使師夜縋而登。緣繩登城。
【読み】
或ひと諸を子占に獻ず。子占師をして夜縋[すが]りて登らしむ。繩に緣りて城に登る。

登者六十人、縋絕。師鼓譟。城上之人亦譟。莒共公懼、啓西門而出。七月、丙子、齊師入紀。傳言怨不在大。
【読み】
登る者六十人、縋[なわ]絕ゆ。師鼓譟す。城上の人も亦譟す。莒の共公懼れ、西門を啓きて出づ。七月、丙子[ひのえ・ね]、齊の師紀に入る。傳怨みの大に在らざるを言う。

是歲也、鄭駟偃卒。子游娶於晉大夫、生絲。弱。子游、駟偃也。弱、幼少。
【読み】
是の歲や、鄭の駟偃卒す。子游晉の大夫に娶りて、絲を生む。弱[わか]し。子游は、駟偃なり。弱は、幼少。

其父兄立子瑕。子瑕、子游叔父、駟乞。
【読み】
其の父兄子瑕を立つ。子瑕は、子游の叔父、駟乞。

子產憎其爲人也、憎子瑕。
【読み】
子產其の人と爲りを憎み、子瑕を憎む。

且以爲不順。舍子立叔、不順禮也。
【読み】
且以て不順と爲す。子を舍てて叔を立つるは、禮に順わざるなり。

弗許。亦弗止。許之爲違禮。止之爲違衆。故中立。
【読み】
許さず。亦止めず。之を許せば禮に違うと爲す。之を止むれば衆に違うと爲す。故に中立す。

駟氏聳。聳、懼也。
【読み】
駟氏聳[おそ]る。聳は、懼るるなり。

他日、絲以告其舅。冬、晉人使以幣如鄭、問駟乞之立故。駟氏懼。駟乞欲逃。子產弗遣。請龜以卜。亦弗予。
【読み】
他日、絲以て其の舅に告ぐ。冬、晉人幣を以て鄭に如きて、駟乞が立つ故を問わしむ。駟氏懼る。駟乞逃げんと欲す。子產遣らず。龜以て卜せんと請う。亦予えず。

大夫謀對。子產不待而對客曰、鄭國不天、不獲天福。
【読み】
大夫對えを謀る。子產待たずして客に對えて曰く、鄭國不天にして、天福を獲ず。

寡君之二三臣、札瘥夭昏。大死曰札、小疫曰瘥、短折曰夭、未名曰昏。
【読み】
寡君の二三臣、札瘥[さっさ]夭昏せり。大死を札と曰い、小疫を瘥と曰い、短折を夭と曰い、未だ名づけざるを昏と曰う。

今又喪我先大夫偃、其子幼弱。其一二父兄懼隊宗主、私族於謀而立長親。於私族之謀、宜立親之長者。
【読み】
今又我が先大夫偃を喪いて、其の子幼弱なり。其の一二の父兄宗主を隊[おと]さんことを懼れ、私族謀に於て長親を立てたり。私族の謀に於て、宜しく親の長ずる者を立つべし、と。

寡君與其二三老曰、抑天實剝亂是。吾何知焉。言天自欲亂駟氏。非國所知。
【読み】
寡君と其の二三老と曰えらく、抑々天實に是を剝亂す。吾れ何ぞ知らん、と。言うこころは、天自ら駟氏を亂らんと欲す。國の知る所に非ず。

諺曰、無過亂門。民有亂兵、猶憚過之。而況敢知天之所亂。今大夫將問其故。抑寡君實不敢知。其誰實知之。
【読み】
諺に曰う、亂門を過ること無かれ、と。民に亂兵有るも、猶之を過ることを憚る。而るを況んや敢えて天の亂る所を知らんや。今大夫將に其の故を問わんとす。抑々寡君だも實に敢えて知らず。其れ誰か實に之を知らん。

平丘之會、在十三年。○過、古禾反。下同。
【読み】
平丘の會に、十三年に在り。○過は、古禾反。下も同じ。

君尋舊盟曰、無或失職。若寡君之二三臣、其卽世者、晉大夫而專制其位、是晉之縣鄙也。何國之爲。
【読み】
君舊盟を尋[かさ]ねて曰く、職を失うこと或ること無かれ、と。若し寡君の二三臣にして、其の世に卽く者を、晉の大夫にして其の位を專制せば、是れ晉の縣鄙なり。何ぞ國とか之れ爲さん、と。

辭客幣而報其使。晉人舍之。遣人報晉使。○使、所吏反。
【読み】
客の幣を辭して其の使いに報ず。晉人之を舍く。人をして晉の使いに報ぜしむ。○使は、所吏反。

楚人城州來。沈尹戌曰、楚人必敗。十三年、五縣州來。今就城而取之。戌、莊王曾孫、葉公諸梁父也。○戌、音恤。葉、始涉反。
【読み】
楚人州來に城く。沈尹戌曰く、楚人必ず敗れん。十三年、五州來を縣にす。今城くに就きて之を取る。戌は、莊王の曾孫、葉公諸梁の父なり。○戌は、音恤。葉は、始涉反。

昔吳滅州來、在十三年。
【読み】
昔吳州來を滅ぼせしとき、十三年に在り。

子旗請伐之、王曰吾未撫吾民。今亦如之。而城州來以挑吳、能無敗乎。侍者曰、王施舍不倦、息民五年、可謂撫之矣。戌曰、吾聞撫民者、節用於内、而樹德於外、民樂其性、而無寇讎。今宮室無量、民人日駭、勞罷死轉、轉、遷徙也。○挑、徒了反。罷、音皮。
【読み】
子旗之を伐たんと請えば、王吾れ未だ吾が民を撫でずと曰えり。今も亦之の如し。而るを州來に城きて以て吳を挑まば、能く敗るること無からんや、と。侍者曰く、王施舍倦まず、民を息えること五年、之を撫づと謂う可し、と。戌曰く、吾れ聞く、民を撫づる者は、用を内に節して、德を外に樹て、民其の性を樂しみて、寇讎無し、と。今宮室量無く、民人日に駭[おどろ]き、勞罷死轉して、轉は、遷徙なり。○挑は、徒了反。罷は、音皮。

忘寢與食。非撫之也。傳言平王所以不能霸。
【読み】
寢と食とを忘る。之を撫づるに非ざるなり。傳平王霸たること能わざる所以を言う。

鄭大水。龍鬭于時門之外洧淵。時門、鄭城門也。洧水、出滎陽密縣、東南至潁川長平入潁。○洧、于軌反。
【読み】
鄭大水あり。龍時門の外の洧淵[いえん]に鬭う。時門は、鄭の城門なり。洧水は、滎陽密縣に出でて、東南して潁川の長平に至りて潁に入る。○洧は、于軌反。

國人請爲禜焉。子產弗許、曰、我鬭、龍不我覿也。覿、見也。○禜、爲命反。
【読み】
國人禜[えい]を爲さんことを請う。子產許さず、曰く、我れ鬭うも、龍我を覿[み]ざるなり。覿[てき]は、見るなり。○禜は、爲命反。

龍鬭、我獨何覿焉。禳之、則彼其室也。淵、龍之室。
【読み】
龍の鬭いを、我れ獨り何ぞ覿ん。之を禳わば、則ち彼は其の室なり。淵は、龍の室。

吾無求於龍、龍亦無求於我。乃止也。傳言子產之知。
【読み】
吾れ龍に求め無く、龍も亦我に求め無し、と。乃ち止む。傳子產の知を言う。

令尹子瑕言蹶由於楚子、蹶由、吳王弟。五年、靈王執以歸。○蹶、九衛反。
【読み】
令尹子瑕蹶由[けいゆう]を楚子に言いて、蹶由は、吳王の弟。五年、靈王執えて以[い]て歸る。○蹶は、九衛反。

曰、彼何罪。諺所謂室於怒、市於色者、楚之謂矣。言靈王怒吳子、而執其弟。猶人忿於室家、而作色於市人。
【読み】
曰く、彼れ何の罪ある。諺に所謂室に怒りて、市に色するとは、楚を之れ謂うなり。言うこころは、靈王吳子を怒りて、其の弟を執うる。猶人の室家に忿りて、色を市人に作すがごとし。

舍前之忿可也。乃歸蹶由。言楚子能用善言。
【読み】
前の忿りを舍てて可なり、と。乃ち蹶由を歸す。楚子が能く善言を用ゆるを言う。


〔經〕二十年、春、王正月。夏、曹公孫會自鄸出奔宋。無傳。嘗有玉帛之使來告。故書。鄸、曹邑。○鄸、莫公反。一亡增反。
【読み】
〔經〕二十年、春、王の正月。夏、曹の公孫會鄸[ぼう]より出でて宋に奔る。傳無し。嘗て玉帛の使い有りて來り告ぐ。故に書す。鄸は、曹の邑。○鄸は、莫公反。一に亡增反。

秋、盜殺衛侯之兄縶。齊豹作而不義。故書曰盜。所謂求名而不得。○縶、張立反。
【読み】
秋、盜衛侯の兄縶[ちゅう]を殺す。齊豹作して不義なり。故に書して盜と曰う。所謂名を求めて得ざるなり。○縶は、張立反。

冬、十月、宋華亥・向寧・華定出奔陳。與君爭而出、皆書名惡之。○華、戶化反。
【読み】
冬、十月、宋の華亥・向寧・華定出でて陳に奔る。君と爭いて出づるは、皆名を書して之を惡む。○華は、戶化反。

十有一月、辛卯、蔡侯廬卒。無傳。未同盟、而赴以名。○廬、力烏反。又力於反。
【読み】
十有一月、辛卯[かのと・う]、蔡侯廬卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。○廬は、力烏反。又力於反。

〔傳〕二十年、春、王二月、己丑、日南至。是歲、朔旦冬至之歲也。當言正月己丑朔、日南至。時史失閏、閏更在二月後。故經因史而書正月、傳更具於二月、記南至日、以正歷也。
【読み】
〔傳〕二十年、春、王の二月、己丑[つちのと・うし]、日南至す。是の歲は、朔旦冬至の歲なり。當に正月己丑朔、日南至すと言うべし。時史閏を失いて、閏更に二月の後に在り。故に經史に因りて正月と書し、傳更に具に二月に於て、南至の日を記して、以て歷を正すなり。

梓愼望氛、氛、氣也。時魯侯不行登臺之禮、使梓愼望氣。
【読み】
梓愼氛[ふん]を望みて、氛は、氣なり。時に魯侯登臺の禮を行わず、梓愼をして氣を望ましむ。

曰、今玆宋有亂。國幾亡。三年而後弭。蔡有大喪。爲宋華・向出奔、蔡侯卒傳。
【読み】
曰く、今玆[ことし]宋に亂有らん。國幾ど亡びんとす。三年にして而して後に弭[や]まん。蔡に大喪有らん、と。宋の華・向出奔し、蔡侯卒する爲の傳なり。

叔孫昭子曰、然則戴・桓也。戴族、華氏。桓族、向氏。
【読み】
叔孫昭子曰く、然らば則ち戴・桓ならん。戴族は、華氏。桓族は、向氏。

汏侈無禮已甚。亂所在也。傳言妖由人興。
【読み】
汏侈[たいし]にして無禮已甚だし。亂の在る所なり、と。傳妖は人に由りて興るを言う。

費無極言於楚子曰、建與伍奢、將以方城之外叛。自以爲猶宋・鄭也。齊・晉又交輔之、將以害楚。其事集矣。王信之、問伍奢。伍奢對曰、君一過多矣。一過、納建妻。
【読み】
費無極楚子に言いて曰く、建と伍奢と、將に方城の外を以[い]て叛かんとす。自ら以爲えらく、猶宋・鄭のごとし、と。齊・晉又交々之を輔け、將に以て楚を害せんとす。其の事集[な]れり、と。王之を信じ、伍奢に問う。伍奢對えて曰く、君一たび過つだも多し。一たび過つとは、建が妻を納るるなり。

何信於讒。王執伍奢、忿奢切言。
【読み】
何ぞ讒を信ずる、と。王伍奢を執え、奢が切言を忿る。

使城父司馬奮揚殺大子。未至而使遣之。知大子冤。故遣令去。
【読み】
城父の司馬奮揚をして大子を殺さしめんとす。未だ至らずして之を遣[さ]らしむ。大子の冤を知る。故に遣りて去らしむ。

三月、大子建奔宋。王召奮揚。奮揚使城父人執己以至。王曰、言出於余口、入於爾耳。誰告建也。對曰、臣告之。君王命臣曰、事建如事余。臣不佞、佞、才也。
【読み】
三月、大子建宋に奔る。王奮揚を召す。奮揚城父の人をして己を執えて以て至らしむ。王曰く、言余が口より出でて、爾が耳に入る。誰か建に告げたる、と。對えて曰く、臣之を告げたり。君王臣に命じて曰く、建に事うること余に事うるが如くせよ、と。臣不佞にして、佞は、才なり。

不能苟貳。奉初以還、奉初命以周旋。
【読み】
苟も貳あること能わず。初めを奉じて以て還り、初命を奉じて以て周旋す。

不忍後命。故遣之。旣而悔之、亦無及已。王曰、而敢來、何也。對曰、使而失命、召而不來、是再奸也。奸、犯也。○使、所吏反。又如字。
【読み】
後命に忍びず。故に之を遣れり。旣にして之を悔ゆれども、亦及ぶこと無きのみ、と。王曰く、而[なんじ]敢えて來るは、何ぞや、と。對えて曰く、使いして命を失い、召されて來らずんば、是れ再び奸すなり。奸は、犯すなり。○使は、所吏反。又字の如し。

逃無所入。王曰、歸。從政如他日。善其言、舍使還。
【読み】
逃ぐとも入る所無ければなり、と。王曰く、歸れ。政に從うこと他日の如くなれ、と。其の言を善して、舍[ゆる]して還らしむ。

無極曰、奢之子材。若在吳、必憂楚國。盍以免其父召之。彼仁。必來。不然、將爲患。王使召之曰、來、吾免而父。棠君尙謂其弟員、棠君、奢之長子、尙也。爲棠邑大夫。員、尙弟、子胥。○員、音云。
【読み】
無極曰く、奢の子材あり。若し吳に在らば、必ず楚國を憂えしめん。盍ぞ其の父を免さんというを以て之を召さざる。彼れ仁なり。必ず來らん。然らずんば、將に患えを爲さん、と。王之を召さしめて曰く、來れ、吾れ而が父を免さん、と。棠君[とうくん]尙其の弟員[うん]に謂いて、棠君は、奢の長子、尙なり。棠邑の大夫爲り。員は、尙の弟、子胥なり。○員は、音云。

曰、爾適吳。我將歸死。吾知不逮。自以知不及員。○知、音智。
【読み】
曰く、爾は吳に適け。我は將に歸り死なんとす。吾が知逮ばず。自ら以[おも]えらく、知員に及ばず、と。○知は、音智。

我能死。爾能報。聞免父之命、不可以莫之奔也。親戚爲戮、不可以莫之報也。奔死免父、孝也。度功而行、仁也。仁者貴成功。○度、待洛反。
【読み】
我は能く死なん。爾は能く報いよ。父を免すの命を聞きて、以て之に奔ること莫くんばある可からず。親戚戮と爲れるを、以て之を報ゆること莫くんばある可からず。死に奔りて父を免さるるは、孝なり。功を度りて行うは、仁なり。仁者は成功を貴ぶ。○度は、待洛反。

擇任而往、知也。員任報讎。○任、音壬。
【読み】
任を擇びて往くは、知なり。員讎を報ゆるに任ず。○任は、音壬。

知死不辟、勇也。尙爲勇。
【読み】
死を知りて辟けざるは、勇なり。尙勇を爲す。

父不可棄。倶去、爲棄父。
【読み】
父は棄つ可からず。倶に去れば、父を棄つと爲す。

名不可廢。倶死、爲廢名。
【読み】
名は廢つ可からず。倶に死するを、名を廢つと爲す。

爾其勉之。相從爲愈。愈、差也。
【読み】
爾其れ之を勉めよ。相從わんより愈れりと爲す、と。愈は、差[まさ]るなり。

伍尙歸。奢聞員不來、曰、楚君大夫其旰食乎。將有吳憂、不得早食。○旰、古旦反。
【読み】
伍尙歸る。奢員が來らざるを聞きて、曰く、楚の君大夫其れ旰食[かんしょく]せんか、と。將に吳の憂え有りて、早食することを得ざらんとす。○旰は、古旦反。

楚人皆殺之。
【読み】
楚人皆之を殺す。

員如吳、言伐楚之利於州于。州于、吳子僚。
【読み】
員吳に如き、楚を伐つの利を州于に言う。州于は、吳子僚。

公子光曰、是宗爲戮、而欲反其讎。不可從也。光、吳公子闔閭也。反、復也。
【読み】
公子光曰く、是れ宗戮と爲りて、其の讎を反[むく]いんと欲するなり。從う可からず、と。光は、吳の公子闔閭[こうりょ]なり。反は、復ゆるなり。

員曰、彼將有他志。光欲弑僚、不利員用事。故破其議而員亦知之。
【読み】
員曰く、彼れ將に他志有らんとす。光僚を弑せんと欲して、員が事を用ゆるを利とせず。故に其の議を破りて員も亦之を知れり。

余姑爲之求士、而鄙以待之。計未得用。故進勇士以求入於光、退居邊鄙。○爲、于僞反。
【読み】
余姑く之が爲に士を求めて、鄙にして以て之を待たん、と。計未だ用ゆることを得ず。故に勇士を進めて以て光に入らんことを求め、退きて邊鄙に居る。○爲は、于僞反。

乃見鱄設諸焉、鱄諸、勇士。○見、賢遍反。鱄、音專。
【読み】
乃ち鱄設諸[せんせつしょ]を見えしめて、鱄諸は、勇士。○見は、賢遍反。鱄は、音專。

而耕於鄙。爲二十七年、吳弑僚傳。
【読み】
鄙に耕す。二十七年、吳僚を弑する爲の傳なり。

宋元公無信多私而惡華・向。華定・華亥與向寧謀、曰、亡愈於死。先諸。恐元公殺己、欲先作亂。○惡、烏路反。
【読み】
宋の元公信無く私多くして華・向を惡む。華定・華亥向寧と謀りて、曰く、亡[に]ぐるは死するに愈れり。諸に先んぜんか、と。元公己を殺さんことを恐れて、先ず亂を作さんと欲す。○惡は、烏路反。

華亥僞有疾、以誘羣公子。公子問之、則執之。夏、六月、丙申、殺公子寅・公子御戎・公子朱・公子固・公孫援・公孫丁、拘向勝・向行於其廩。八子皆公黨。○御、魚呂反。又如字。
【読み】
華亥疾有りと僞りて、以て羣公子を誘く。公子之を問えば、則ち之を執う。夏、六月、丙申[ひのえ・さる]、公子寅・公子御戎・公子朱・公子固・公孫援・公孫丁を殺し、向勝・向行を其の廩に拘う。八子は皆公の黨。○御は、魚呂反。又字の如し。

公如華氏請焉。弗許。遂劫之。劫公。
【読み】
公華氏に如きて請う。許さず。遂に之を劫かす。公を劫かす。

癸卯、取大子欒與母弟辰・公子地以爲質、欒、景公也。辰及地、皆元公弟。○質、音致。案公子辰、是景公之母弟。地、是辰兄。當爲元公之子。今作元公弟、誤。
【読み】
癸卯[みずのと・う]、大子欒と母弟辰・公子地とを取りて以て質と爲し、欒は、景公なり。辰と地とは、皆元公の弟。○質は、音致。案ずるに公子辰は、是れ景公の母弟。地は、是れ辰の兄。當に元公の子爲るべし。今元公の弟と作すは、誤れり。

公亦取華亥之子無慼・向寧之子羅・華定之子啓、與華氏盟以爲質。爲此冬、華向出奔傳。
【読み】
公も亦華亥の子無慼・向寧の子羅・華定の子啓を取りて、華氏と盟いて以て質と爲せり。此の冬、華向出奔する爲の傳なり。

衛公孟縶狎齊豹、公孟、靈公兄也。齊豹、齊惡之子。爲衛司寇。狎、輕也。
【読み】
衛の公孟縶齊豹を狎[かろ]んじて、公孟は、靈公の兄なり。齊豹は、齊惡の子。衛の司寇爲り。狎は、輕んずるなり。

奪之司寇與鄄、鄄、豹邑。○鄄、音絹。
【読み】
之が司寇と鄄[けん]とを奪い、鄄は、豹の邑。○鄄は、音絹。

有役則反之、無則取之。縶足不良。故有役則以官邑還豹使行。
【読み】
役有れば則ち之を反し、無ければ則ち之を取る。縶足不良なり。故に役有れば則ち官邑を以て豹に還して行かしむ。

公孟惡北宮喜・褚師圃欲去之。喜、貞子。○惡、烏路反。褚、中呂反。
【読み】
公孟北宮喜・褚師圃を惡みて之を去らんと欲す。喜は、貞子。○惡は、烏路反。褚は、中呂反。

公子朝通于襄夫人宣姜、宣姜、靈公嫡母。○朝、如字。
【読み】
公子朝襄夫人宣姜に通じ、宣姜は、靈公の嫡母。○朝は、字の如し。

懼而欲以作亂。故齊豹・北宮喜・褚師圃・公子朝作亂。
【読み】
懼れて以て亂を作さんと欲す。故に齊豹・北宮喜・褚師圃・公子朝亂を作す。

初、齊豹見宗魯於公孟。薦達也。○見、賢遍反。
【読み】
初め、齊豹宗魯を公孟に見えしむ。薦達するなり。○見は、賢遍反。

爲驂乘焉。爲公孟驂乘。
【読み】
驂乘と爲る。公孟が驂乘と爲る。

將作亂、而謂之曰、公孟之不善、子所知也。勿與乘。吾將殺之。對曰、吾由子事公孟、子假吾名焉。故不吾遠也。言子借我以善名。故公孟親近我。○與、音預。又如字。遠、于萬反。
【読み】
將に亂を作さんとして、之に謂いて曰く、公孟が不善は、子の知れる所なり。乘に與ること勿かれ。吾れ將に之を殺さんとす、と。對えて曰く、吾れ子に由りて公孟に事え、子吾に名を假せり。故に吾を遠ざけざるなり。言うこころは、子我に借すに善名を以てす。故に公孟我を親近す。○與は、音預。又字の如し。遠は、于萬反。

雖其不善、吾亦知之、抑以利故不能去、是吾過也。今聞難而逃、是僭子也。使子言不信也。○難、乃旦反。
【読み】
其の不善は、吾も亦之を知ると雖も、抑々利を以ての故に去ること能わざりしは、是れ吾が過ちなり。今難を聞きて逃げば、是れ子を僭するなり。子が言をして不信ならしむるなり。○難は、乃旦反。

子行事乎。吾將死之。以周事子、周、猶終竟也。
【読み】
子は事を行わんか。吾は將に之に死なんとす。以て子に事うることを周[お]えて、周は、猶終竟のごとし。

而歸死於公孟、其可也。
【読み】
死を公孟に歸せんこと、其れ可ならん、と。

丙辰、衛侯在平壽。平壽、衛下邑。
【読み】
丙辰[ひのえ・たつ]、衛侯平壽に在り。平壽は、衛の下邑。

公孟有事於蓋獲之門外。有事、祭也。蓋獲、衛郭門。
【読み】
公孟蓋獲の門外に事有り。事有りとは、祭なり。蓋獲は、衛の郭門。

齊子氏帷於門外而伏甲焉、齊豹之家。
【読み】
齊子氏門外に帷して甲を伏せ、齊豹の家。

使祝鼃寘戈於車薪以當門、要其前也。○鼃、烏媧反。
【読み】
祝鼃[しゅくあ]をして戈を車薪に寘きて以て門に當たらしめ、其の前を要するなり。○鼃は、烏媧反。

使一乘從公孟以出。亦如前車、寘戈於薪、尋其後。○從、如字。又才用反。
【読み】
一乘をして公孟に從いて以て出でしむ。亦前車の如くにして、戈を薪に寘きて、其の後に尋[つづ]く。○從は、字の如し。又才用反。

使華齊御公孟、宗魯驂乘、及閎中。閎、曲門中。○華、戶化反。
【読み】
華齊をして公孟に御とならしめ、宗魯驂乘し、閎中に及ぶ。閎は、曲門の中。○華は、戶化反。

齊氏用戈擊公孟。宗魯以背蔽之。斷肱以中公孟之肩。皆殺之。
【読み】
齊氏戈を用て公孟を擊つ。宗魯背を以て之を蔽う。肱を斷ちて以て公孟の肩に中る。皆之を殺す。

公聞亂、乘驅自閱門入。慶比御公、公南楚驂乘、使華寅乘貳車。公副車。○斷、丁管反。中、丁仲反。比、如字。又毗志反。
【読み】
公亂を聞き、乘驅して閱門より入る。慶比公に御となり、公南楚驂乘し、華寅をして貳車に乘らしむ。公の副車。○斷は、丁管反。中は、丁仲反。比は、字の如し。又毗志反。

及公宮、鴻駵魋駟乘于公。鴻駵魋復就公乘。一車四人。○駵、音留。魋、音頽。
【読み】
公宮に及び、鴻駵魋[こうりゅうたい]公に駟乘す。鴻駵魋復公に就きて乘る。一車に四人。○駵は、音留。魋は、音頽。

公載寶以出。褚師子申遇公于馬路之衢、遂從。從公出。○從、才用反。
【読み】
公寶を載せて以て出づ。褚師子申公に馬路の衢に遇い、遂に從う。公に從いて出づ。○從は、才用反。

過齊氏。使華寅肉袒執蓋以當其闕。肉袒、示不敢與齊氏爭。執蓋、蔽公而去。闕、空也。以蓋當侍從空闕之處。
【読み】
齊氏を過ぐ。華寅をして肉袒して蓋を執りて以て其の闕に當たらしむ。肉袒は、敢えて齊氏と爭わざるを示すなり。蓋を執るとは、公を蔽いて去るなり。闕は、空なり。蓋を以て侍從空闕の處に當つ。

齊氏射公、中南楚之背。公遂出。寅閉郭門、不欲令追者出。○射、食亦反。
【読み】
齊氏公を射て、南楚の背に中つ。公遂に出づ。寅郭門を閉じ、追者をして出でしめんことを欲せず。○射は、食亦反。

踰而從公。踰郭出。○從、才用反。又如字。
【読み】
踰えて公に從う。郭を踰えて出づ。○從は、才用反。又字の如し。

公如死鳥。死鳥、衛地。
【読み】
公死鳥に如く。死鳥は、衛の地。

析朱鉏宵從竇出、徒行從公。朱鉏、成子。黑背孫。○竇、音豆。
【読み】
析朱鉏宵竇[とう]より出で、徒行して公に從う。朱鉏は、成子なり。黑背の孫。○竇は、音豆。

齊侯使公孫靑聘于衛。靑、頃公之孫。○頃、音傾。
【読み】
齊侯公孫靑をして衛に聘せしむ。靑は、頃公の孫。○頃は、音傾。

旣出。聞衛亂、使請所聘。公曰、猶在竟内、則衛君也。乃將事焉。將事、行聘事。○竟、音境。
【読み】
旣に出づ。衛の亂を聞き、聘せん所を請わしむ。公曰く、猶竟内に在らば、則ち衛の君なり。乃ち事を將[おこな]え、と。事を將えとは、聘事を行うなり。○竟は、音境。

遂從諸死鳥、請將事。辭曰、亡人不佞、失守社稷、越在草莽。吾子無所辱君命。賓曰、寡君命下臣於朝曰、阿下執事。阿、比也。命己使比衛臣下。
【読み】
遂に諸に死鳥に從い、事を將わんと請う。辭して曰く、亡人不佞、社稷を守ることを失い、草莽に越在す。吾子君命を辱くする所無し、と。賓曰く、寡君下臣に朝に命じて曰く、下執事に阿[なぞら]え、と。阿は、比[なぞら]うなり。己に命じて衛の臣下に比えしむ。

臣不敢貳。貳、違命也。
【読み】
臣敢えて貳せず、と。貳は、命に違うなり。

主人曰、君若惠顧先君之好、昭臨敝邑、鎭撫其社稷、則有宗祧在。言受聘、當在宗廟也。
【読み】
主人曰く、君若し先君の好を惠顧して、敝邑を昭臨し、其の社稷を鎭撫せば、則ち宗祧[そうちょう]の在る有り、と。言うこころは、聘を受くるは、當に宗廟に在るべし。

乃止。止、不行聘事。
【読み】
乃ち止む。止むとは、聘事を行わざるなり。

衛侯固請見之。欲與靑相見。
【読み】
衛侯固く之を見んことを請う。靑と相見えんと欲す。

不獲命。以其良馬見。以爲相見之禮。○馬見、賢遍反。下同。
【読み】
命を獲ず。其の良馬を以て見ゆ。以て相見の禮と爲す。○馬見は、賢遍反。下も同じ。

爲未致使故也。未致使。故不敢以客禮見。○爲、于僞反。
【読み】
未だ使いを致さざるが爲の故なり。未だ使いを致さず。故に敢えて客禮を以て見えず。○爲は、于僞反。

衛侯以爲乘馬。喜其敬己。故貴其物。○乘、繩證反。又如字。
【読み】
衛侯以て乘馬と爲す。其の己を敬するを喜ぶ。故に其の物を貴ぶ。○乘は、繩證反。又字の如し。

賓將掫。掫、行夜。○掫、側九反。又祖侯反。行、下孟反。
【読み】
賓將に掫[しゅう]せんとす。掫は、夜を行[めぐ]るなり。○掫は、側九反。又祖侯反。行は、下孟反。

主人辭曰、亡人之憂、不可以及吾子。草莽之中、不足以辱從者。敢辭。賓曰、寡君之下臣、君之牧圉也。若不獲扞外役、是不有寡君也。有、相親有。○扞、戶旦反。
【読み】
主人辭して曰く、亡人の憂えは、以て吾子に及ぼす可からず。草莽の中、以て從者を辱くするに足らず。敢えて辭す、と。賓曰く、寡君の下臣は、君の牧圉なり。若し外役を扞[まも]ることを獲ずんば、是れ寡君を有せざるなり。有すとは、相親有するなり。○扞は、戶旦反。

臣懼不免於戾。請以除死。親執鐸、終夕與於燎。設火燎以備守。○與、音預。下不與聞同。燎、力召反。又力弔反。
【読み】
臣戾[つみ]を免れざらんことを懼る。請う、以て死を除かん、と。親ら鐸を執り、終夕燎に與れり。火燎を設けて以て備守す。○與は、音預。下の不與聞も同じ。燎は、力召反。又力弔反。

齊氏之宰渠子召北宮子。北宮喜也。
【読み】
齊氏の宰渠子北宮子を召ぶ。北宮喜なり。

北宮氏之宰不與聞。謀殺渠子、遂伐齊氏滅之。丁巳、晦、公入、與北宮喜盟于彭水之上。喜本與齊氏同謀。故公先與喜盟。
【読み】
北宮氏の宰與り聞かず。謀りて渠子を殺し、遂に齊氏を伐ちて之を滅ぼす。丁巳[ひのと・み]、晦、公入りて、北宮喜と彭水の上[ほとり]に盟う。喜本齊氏と同謀す。故に公先ず喜と盟う。

秋、七月、戊午、朔、遂盟國人。八月、辛亥、公子朝・褚師圃・子玉霄・子高魴出奔晉。皆齊氏黨。
【読み】
秋、七月、戊午[つちのえ・うま]、朔、遂に國人に盟う。八月、辛亥[かのと・い]、公子朝・褚師圃・子玉霄[しぎょくしょう]・子高魴出でて晉に奔る。皆齊氏の黨。

閏月、戊辰、殺宣姜。與公子朝通謀故。
【読み】
閏月、戊辰[つちのえ・たつ]、宣姜を殺す。公子朝と謀を通ずる故なり。

衛侯賜北宮喜謚曰貞子、滅齊氏故。
【読み】
衛侯北宮喜に謚を賜いて貞子と曰い、齊氏を滅ぼす故なり。

賜析朱鉏謚曰成子。宵從公故。
【読み】
析朱鉏に謚を賜いて成子と曰う。宵公に從う故なり。

而以齊氏之墓予之。皆未死、而賜謚及墓田、傳終而言之。
【読み】
而して齊氏の墓を以て之に予う。皆未だ死せずして、謚と墓田とを賜うは、傳終えて之を言うなり。

衛侯告寧于齊、且言子石。子石、公孫靑。言其有禮。
【読み】
衛侯寧を齊に告げ、且つ子石を言う。子石は、公孫靑。其の禮有るを言う。

齊侯將飮酒、徧賜大夫曰、二三子之敎也。喜靑敬衛侯。
【読み】
齊侯將に酒を飮まんとし、徧く大夫に賜いて曰く、二三子の敎えなり、と。靑が衛侯を敬せしを喜ぶ。

苑何忌辭曰、與於靑之賞、必及于其罰。何忌、齊大夫。言靑若有罪、亦當幷受其罰。○苑、於元反。
【読み】
苑何忌辭して曰く、靑の賞に與らば、必ず其の罰に及ばん。何忌は、齊の大夫。言うこころは、靑若し罪有らば、亦當に幷せて其の罰を受くべし。○苑は、於元反。

在康誥曰、父子兄弟、罪不相及。尙書康誥。
【読み】
康誥に在りて曰く、父子兄弟、罪相及ばず、と。尙書の康誥。

況在群臣。臣敢貪君賜、以干先王。言受賜則犯康誥之義。
【読み】
況んや群臣に在りてをや。臣敢えて君の賜を貪りて、以て先王を干さんや、と。言うこころは、賜を受くれば則ち康誥の義を犯すなり。

琴張聞宗魯死、琴張、孔子弟子。字子開、名牢。
【読み】
琴張宗魯が死を聞き、琴張は、孔子の弟子。字は子開、名は牢。

將往弔之。仲尼曰、齊豹之盜、而孟縶之賊。女何弔焉。言齊豹所以爲盜、孟縶所以見賊、皆由宗魯。○女、音汝。
【読み】
將に往きて之を弔せんとす。仲尼曰く、齊豹が盜をして、孟縶が賊せらる。女何ぞ弔せん。言うこころは、齊豹が盜を爲す所以、孟縶が賊せらる所以は、皆宗魯に由れり。○女は、音汝。

君子不食姦、知公孟不善、而受其祿、是食姦也。
【読み】
君子は姦に食まず、公孟が不善を知りて、其の祿を受くるは、是れ姦に食むなり。

不受亂、許豹行事、是受亂也。
【読み】
亂を受けず、豹が事を行うを許すは、是れ亂を受くるなり。

不爲利疚於囘、疚、病。囘、邪也。以利故不能厺、是病身於邪。○爲、于僞反。
【読み】
利の爲に囘[よこしま]に疚ましめられず、疚は、病むなり。囘は、邪なり。利を以ての故に厺[さ]ること能わざるは、是れ身を邪に病ましむるなり。○爲は、于僞反。

不以囘待人、知難不告、是以邪待人。○難、乃旦反。
【読み】
囘を以て人を待たず、難を知りて告げざるは、是れ邪を以て人を待つなり。○難は、乃旦反。

不蓋不義、以周事豹、是蓋不義。
【読み】
不義を蓋わず、以て豹に事うることを周[お]わるは、是れ不義を蓋うなり。

不犯非禮。以二心事縶、是非禮。
【読み】
非禮を犯さず、と。二心を以て縶に事うるは、是れ非禮なり。

宋華・向之亂、公子城・ 平公子。
【読み】
宋の華・向の亂に、公子城・ 平公の子。

公孫忌・樂舍・ 舍、樂喜孫。
【読み】
公孫忌・樂舍・ 舍は、樂喜の孫。

司馬疆・向宜・向鄭・ 宜・鄭、皆向戌子。
【読み】
司馬疆・向宜・向鄭・ 宜・鄭は、皆向戌の子。

楚建・ 楚平王之亡大子。
【読み】
楚の建・ 楚の平王の亡大子。

郳甲、小邾穆公子。○郳、五兮反。
【読み】
郳[げい]の甲、小邾の穆公の子。○郳は、五兮反。

出奔鄭。八子、宋大夫。皆公黨。辟難出。
【読み】
出でて鄭に奔る。八子は、宋の大夫。皆公の黨。難を辟けて出づ。

其徒與華氏戰于鬼閻。八子之徒衆也。潁川長平縣西北有閻亭。○閻、似廉反。又以冉反。
【読み】
其の徒華氏と鬼閻に戰う。八子の徒衆なり。潁川長平縣の西北に閻亭有り。○閻は、似廉反。又以冉反。

敗子城。子城適晉。子城爲華氏所敗、別走至晉。爲明年、子城以晉師至起本。
【読み】
子城を敗る。子城晉に適く。子城華氏の爲に敗られ、別に走りて晉に至る。明年、子城晉の師を以て至る爲の起本なり。

華亥與其妻、必盥、而食所質公子者、而後食。公與夫人、每日、必適華氏、食公子、而後歸。華亥患之、欲歸公子。向寧曰、唯不信。故質其子。若又歸之、死無日矣。
【読み】
華亥は其の妻と、必ず盥[てあら]いて、質する所の公子の者に食らわしめて、而して後に食らう。公は夫人と、每日、必ず華氏に適きて、公子に食らわしめて、而して後に歸る。華亥之を患えて、公子を歸さんと欲す。向寧曰く、唯不信なり。故に其の子を質とせり。若し又之を歸さば、死なんこと日無けん、と。

公請於華費遂、將攻華氏。費遂、大司馬。華氏族。○盥、古緩反。而食、音嗣。下同。質、音致。
【読み】
公華費遂に請いて、將に華氏を攻めんとす。費遂は、大司馬。華氏の族。○盥は、古緩反。而食は、音嗣。下も同じ。質は、音致。

對曰、臣不敢愛死。無乃求去憂而滋長乎。恐殺大子、憂益長。○去、起呂反。長、丁丈反。
【読み】
對えて曰く、臣は敢えて死を愛まず。乃ち憂えを去らんと求めて滋々長ずること無からんや。恐れらくは大子を殺されて、憂え益々長ぜん。○去は、起呂反。長は、丁丈反。

臣是以懼。敢不聽命。公曰、子死亡有命。余不忍其訽。訽、恥也。○訽、許候反。
【読み】
臣是を以て懼るるのみ。敢えて命を聽かざらんや、と。公曰く、子の死亡は命有り。余は其の訽[はじ]に忍びず、と。訽[こう]は、恥なり。○訽は、許候反。

冬、十月、公殺華向之質而攻之。戊辰、華向奔陳、華登奔吳。登、費遂之子。黨華向者。
【読み】
冬、十月、公華向の質を殺して之を攻む。戊辰[つちのえ・たつ]、華向陳に奔り、華登吳に奔る。登は、費遂の子。華向に黨する者。

向寧欲殺大子。華亥曰、干君而出、又殺其子、其誰納我。且歸之有庸。可以爲功善。
【読み】
向寧大子を殺さんと欲す。華亥曰く、君を干して出でて、又其の子を殺さば、其れ誰か我を納れん。且之を歸さば庸有らん。以て功善と爲す可し。

使少司寇牼以歸、以三公子歸公也。牼、華亥庶兄。○牼、苦耕反。
【読み】
少司寇牼[こうこう]をして以[い]て歸さしめて、三公子を以て公に歸すなり。牼は、華亥の庶兄。○牼は、苦耕反。

曰、子之齒長矣。不能事人。以三公子爲質、必免。質、信也。送公子歸、可以自明不叛之信。○質、如字。
【読み】
曰く、子の齒長ぜり。人に事うること能わず。三公子を以て質と爲さば、必ず免れん、と。質は、信なり。公子を送りて歸さば、以て自ら叛かざるの信を明らかにす可し。○質は、字の如し。

公子旣入。華牼將自門行。從公門去。
【読み】
公子旣に入る。華牼將に門より行[さ]らんとす。公門より去る。

公遽見之。執其手曰、余知而無罪也。入復而所。而、女也。所、所居官。
【読み】
公遽[あわ]てて之を見る。其の手を執りて曰く、余而[なんじ]の罪無きを知れり。入りて而の所に復れ、と。而は、女なり。所は、居る所の官。

齊侯疥、遂痁。痁、瘧疾。○痁、失廉反。
【読み】
齊侯疥し、遂に痁[せん]す。痁は、瘧疾。○痁は、失廉反。

期而不瘳。諸侯之賓問疾者多在。多在齊。○期、音基。
【読み】
期にして瘳[い]えず。諸侯の賓の疾を問う者多く在り。多く齊に在り。○期は、音基。

梁丘據與裔款、二子、齊嬖大夫。
【読み】
梁丘據と裔款と、二子は、齊の嬖大夫。

言於公曰、吾事鬼神豐、於先君有加矣。今君疾病、爲諸侯憂、是祝史之罪也。諸侯不知、其謂我不敬。君盍誅於祝固・史嚚以辭賓。欲殺嚚・固以辭謝來問疾之賓。○嚚、魚巾反。
【読み】
公に言いて曰く、吾れ鬼神に事うること豐かに、先君より加うること有り。今君疾病にして、諸侯の憂えを爲すは、是れ祝史の罪なり。諸侯知らずして、其れ我を不敬なりと謂わん。君盍ぞ祝固・史嚚[しぎん]を誅して以て賓に辭せざる、と。嚚・固を殺して以て來りて疾を問うの賓に辭謝せんと欲す。○嚚は、魚巾反。

公說、告晏子。晏子曰、日宋之盟、日、往日也。宋盟在襄二十七年。○說、音悅。
【読み】
公說び、晏子に告ぐ。晏子曰く、日[さき]に宋の盟に、日は、往日なり。宋の盟は襄二十七年に在り。○說は、音悅。

屈建問范會之德於趙武、趙武曰、夫子之家事治。言於晉國、竭情無私。其祝史祭祀、陳信不愧、其家事無猜、其祝史不祈。家無猜疑之事。故祝史無求於鬼神。○屈、居勿反。
【読み】
屈建范會の德を趙武に問いしとき、趙武曰く、夫子の家事治まれり。晉國に言うときは、情を竭くし私無し。其の祝史の祭祀する、信を陳べて愧じず、其の家事猜[うたが]い無く、其の祝史祈[もと]めず。家に猜疑の事無し。故に祝史鬼神に求め無し。○屈は、居勿反。

建以語康王、楚王。○語、魚據反。
【読み】
建以て康王に語ぐれば、楚王。○語は、魚據反。

康王曰、神人無怨。宜夫子之光輔五君、以爲諸侯主也。五君、文・襄・靈・成・景。
【読み】
康王曰く、神人怨み無し。宜なり夫子の五君を光輔して、以て諸侯の主と爲ること、と。五君は、文・襄・靈・成・景。

公曰、據與款謂寡人能事鬼神。故欲誅于祝史。子稱是語、何故。對曰、若有德之君、外内不廢、無廢事。
【読み】
公曰く、據と款と寡人を能く鬼神に事うると謂えり。故に祝史を誅せんと欲す。子是の語を稱するは、何の故ぞ、と。對えて曰く、有德の君の若きは、外内廢らず、廢事無し。

上下無怨、動無違事、其祝史薦信、無愧心矣。君有功德、祝史陳說之、無所愧。
【読み】
上下怨み無く、動きて事に違うこと無く、其の祝史信を薦[の]べて、愧心無し。君功德有り、祝史之を陳說して、愧ずる所無し。

是以鬼神用饗、國受其福、祝史與焉。與受國福。○與、音預。
【読み】
是を以て鬼神用て饗[う]け、國其の福を受けて、祝史與れり。國の福を與り受く。○與は、音預。

其所以蕃祉老壽者、爲信君使也、其言忠信於鬼神。其適遇淫君、外内頗邪、上下怨疾、動作辟違、從欲厭私、使私情厭足。○頗、普何反。辟、匹亦反。從、子用反。下淫從同。或如字。厭、於豔反。
【読み】
其の蕃祉老壽なる所以の者は、信君の爲に使われて、其の言鬼神に忠信なればなり。其の適々淫君に遇えば、外内頗邪に、上下怨疾し、動作辟違し、欲を從[ほしいまま]にして私に厭き、私情をして厭足せしむ。○頗は、普何反。辟は、匹亦反。從は、子用反。下の淫從も同じ。或は字の如し。厭は、於豔反。

高臺深池、撞鐘舞女、斬刈民力、輸掠其聚、掠、奪取也。○掠、音亮。
【読み】
臺を高くし池を深くし、鐘を撞き女を舞わし、民力を斬刈[ざんかい]し、其の聚を輸掠して、掠は、奪取なり。○掠は、音亮。

以成其違、不恤後人、暴虐淫從、肆行非度、無所還忌、還、猶顧也。
【読み】
以て其の違えるを成して、後人を恤えず、暴虐淫從して、肆に非度を行い、還忌する所無く、還は、猶顧みるのごとし。

不思謗讟、不憚鬼神、神怒民痛、無悛於心。其祝史薦信、是言罪也。以實白神、是爲言君之罪。
【読み】
謗讟[ぼうとく]を思わず、鬼神を憚らず、神怒り民痛めども、心に悛[あらた]むること無し。其の祝史信を薦ぶれば、是れ罪を言うなり。實を以て神に白[もう]すときは、是れ君の罪を言うと爲す。

其蓋失數美、是矯誣也。蓋、掩也。○數、所主反。
【読み】
其れ失を蓋い美を數うれば、是れ矯誣するなり。蓋は、掩うなり。○數は、所主反。

進退無辭、則虛以求媚。作虛辭以求媚於神。
【読み】
進退辭無ければ、則ち虛にして以て媚を求む。虛辭を作りて以て媚を神に求む。

是以鬼神不饗、其國以禍之、祝史與焉。所以夭昏孤疾者、爲暴君使也、其言僭嫚於鬼神。
【読み】
是を以て鬼神饗けず、其の國以て禍せられ、祝史與る。夭昏孤疾する所以の者は、暴君の爲に使われて、其の言鬼神に僭嫚[せんまん]なればなり、と。

公曰、然則若之何。對曰、不可爲也。言非誅祝史所能治。
【読み】
公曰く、然らば則ち之を若何、と。對えて曰く、爲す可からざるなり。言うこころは、祝史を誅するの能く治むる所に非ず。

山林之木、衡鹿守之、澤之萑蒲、舟鮫守之、藪之薪蒸、虞候守之、海之鹽蜃、祈望守之。衡鹿・舟鮫・虞候・祈望、皆官名也。言公專守山澤之利、不與民共。○萑、音丸。蜃、市軫反。
【読み】
山林の木は、衡鹿之を守り、澤の萑蒲[かんぽ]は、舟鮫[しゅうこう]之を守り、藪の薪蒸は、虞候之を守り、海の鹽蜃は、祈望之を守る。衡鹿・舟鮫・虞候・祈望は、皆官の名なり。言うこころは、公山澤の利を專守して、民と共にせず。○萑は、音丸。蜃は、市軫反。

縣鄙之人、入從其政、偪介之關、暴征其私、介、隔也。迫近國都之關。言邊鄙旣入服政役、又爲近關、所征稅枉暴、奪其私物。○其政、如字。一音征。
【読み】
縣鄙の人、入りて其の政に從うを、偪介の關は、其の私を暴征し、介は、隔つなり。國都に迫近するの關なり。言うこころは、邊鄙旣に入りて政役に服すれば、又近關を爲り、征稅する所枉暴にして、其の私物を奪う。○其政は、字の如し。一に音征。

承嗣大夫、强易其賄、承嗣大夫、世位者。○强、其丈反。
【読み】
承嗣大夫は、强いて其の賄を易え、承嗣大夫は、位を世々にする者。○强は、其丈反。

布常無藝、藝、法制也。言布政無法制。
【読み】
常を布くこと藝[のり]無く、藝は、法制なり。言うこころは、政を布くこと法制無し。

徵斂無度、宮室日更、淫樂不違、違、去也。
【読み】
徵斂度無く、宮室日に更め、淫樂違[さ]らず、違は、去るなり。

内寵之妾、肆奪於市、肆、放也。
【読み】
内寵の妾は、肆に市に奪い、肆は、放なり。

外寵之臣、僭令於鄙、詐爲敎令於邊鄙。
【読み】
外寵の臣は、僭して鄙に令し、詐りて敎令を邊鄙に爲す。

私欲養求、不給則應。養、長也。所求不給、則應之以罪。
【読み】
私欲を養い求め、給せざれば則ち應ず。養は、長ずるなり。求むる所給せざれば、則ち之に應ずるに罪を以てす。

民人苦病、夫婦皆詛。祝有益也、詛亦有損。聊・攝以東、聊・攝、齊西界也。平原聊城縣東北有攝城。○祝、之又反。下同。
【読み】
民人苦病し、夫婦皆詛す。祝すること益有れば、詛するも亦損有り。聊[りょう]・攝[しょう]より以東、聊・攝は、齊の西界なり。平原聊城縣の東北に攝城有り。○祝は、之又反。下も同じ。

姑・尤以西、姑・尤、齊東界也。姑水・尤水、皆在城陽郡、東南入海。
【読み】
姑・尤[ゆう]より以西、姑・尤は、齊の東界なり。姑水・尤水は、皆城陽郡に在り、東南して海に入る。

其爲人也多矣。雖其善祝、豈能勝億兆人之詛。萬萬曰億、萬億曰兆。
【読み】
其の人爲ること多し。其れ善く祝すと雖も、豈能く億兆人の詛に勝たんや。萬萬を億と曰い、萬億を兆と曰う。

君若欲誅於祝史、脩德而後可。
【読み】
君若し祝史を誅せんと欲せば、德を脩めて而して後に可なり、と。

公說。使有司寬政、毀關、去禁、薄斂、已責。除逋責。○去、起呂反。斂、力驗反。責、本作債。逋、布胡反。
【読み】
公說ぶ。有司をして政を寬くし、關を毀ち、禁を去り、斂を薄くし、責を已めしむ。逋責を除く。○去は、起呂反。斂は、力驗反。責は、本債に作る。逋は、布胡反。

十二月、齊侯田于沛。言疾愈行獵。沛、澤名。○沛、音貝。
【読み】
十二月、齊侯沛に田[かり]す。疾愈[い]えて行きて獵するを言う。沛は、澤の名。○沛は、音貝。

招虞人以弓。不進。虞人、掌山澤之官。
【読み】
虞人を招くに弓を以てす。進まず。虞人は、山澤を掌るの官。

公使執之。辭曰、昔我先君之田也、旃以招大夫、弓以招士、皮冠以招虞人。臣不見皮冠。故不敢進。乃舍之。
【読み】
公之を執えしめんとす。辭して曰く、昔我が先君之田するや、旃[せん]以て大夫を招き、弓以て士を招き、皮冠以て虞人を招く。臣皮冠を見ず。故に敢えて進まず、と。乃ち之を舍[ゆる]す。

仲尼曰、守道不如守官。君招當往、道之常也。非物不進、官之制也。
【読み】
仲尼曰く、道を守るは官を守るに如かず、と。君の招當に往くべきは、道の常なり。物に非ざれば進まざるは、官の制なり。

君子韙之。韙、是也。
【読み】
君子之を韙[い]とす。韙は、是なり。

齊侯至自田。晏子侍于遄臺。子猶馳而造焉。子猶、梁丘據。○遄、市專反。造、七報反。
【読み】
齊侯田より至る。晏子遄臺[せんだい]に侍る。子猶馳せて造[いた]る。子猶は、梁丘據。○遄は、市專反。造は、七報反。

公曰、唯據與我和夫。晏子對曰、據亦同也。焉得爲和。公曰、和與同異乎。對曰、異。和如羹焉。水火醯醢鹽梅以烹魚肉、燀之以薪、燀、炊也。○夫、音扶。燀、章善反。燃也。
【読み】
公曰く、唯據と我と和するかな、と。晏子對えて曰く、據も亦同するなり。焉ぞ和とすることを得ん、と。公曰く、和と同と異なるか、と。對えて曰く、異なり。和は羹の如し。水火醯醢[けいかい]鹽梅以て魚肉を烹、之を燀[た]くに薪を以てして、燀[せん]は、炊くなり。○夫は、音扶。燀は、章善反。燃えるなり。

宰夫和之、齊之以味、濟其不及、以洩其過。濟、益也。洩、也。○齊、才細反。又如字。
【読み】
宰夫之を和し、之を齊するに味を以てし、其の及ばざるを濟[ま]して、以て其の過ぎたるを洩[へ]らす。濟は、益すなり。洩は、減らすなり。○齊、才細反。又如字。

君子食之、以平其心。
【読み】
君子之を食らいて、以て其の心を平らかにす。

君臣亦然。亦如羮。
【読み】
君臣も亦然り。亦羮の如し。

君所謂可而有否焉、否、不可也。
【読み】
君の可と謂う所にして否有れば、否は、不可なり。

臣獻其否以成其可。獻君之否、以成君可。
【読み】
臣其の否を獻じて以て其の可を成す。君の否を獻じて、以て君の可を成す。

君所謂否而有可焉、臣獻其可以去其否。是以政平而不干、民無爭心。故詩曰、亦有和羹、旣戒旣平。詩、頌殷中宗。言中宗能與賢者和齊可否、其政如羮、敬戒且平。和羮備五味。異於大羮。○和齊、竝如字。一讀上戶臥反。下才細反。
【読み】
君の否と謂う所にして可有れば、臣其の可を獻じて以て其の否を去る。是を以て政平らかにして干さず、民爭心無し。故に詩に曰く、亦和羹有り、旣に戒め旣に平らかなり。詩は、殷の中宗を頌す。言うこころは、中宗能く賢者と可否を和齊して、其の政羮の如く、敬戒して且平らかなり。和羮は五味を備う。大羮に異なり。○和齊は、竝字の如し。一に讀みて上は戶臥反。下は才細反。

鬷嘏無言、時靡有爭。鬷、總也。嘏、大也。言總大政、能使上下皆如和羮。○鬷、子工反。嘏、古雅反。
【読み】
嘏[おお]いなるを鬷[す]べて言無く、時に爭うこと有ること靡し、と。鬷[そう]は、總ぶるなり。嘏[か]は、大いなり。言うこころは、大政を總べて、能く上下をして皆和羮の如くならしむ。○鬷は、子工反。嘏は、古雅反。

先王之濟五味、濟、成也。
【読み】
先王の五味を濟し、濟は、成すなり。

和五聲也、以平其心、成其政也。
【読み】
五聲を和するや、以て其の心を平らかにして、其の政を成せるなり。

聲亦如味。一氣・ 須氣以動。
【読み】
聲も亦味の如し。一氣・ 氣を須て以て動く。

二體・ 舞者有文武。
【読み】
二體・ 舞者に文武有り。

三類・ 風・雅・頌。
【読み】
三類・ 風・雅・頌。

四物・ 雜用四方之物以成器。
【読み】
四物・ 四方の物を雜え用いて以て器を成す。

五聲・ 宮・商・角・徵・羽。
【読み】
五聲・ 宮・商・角・徵・羽。

六律・ 黃鐘・大蔟・姑洗・蕤賓・夷則・無射也。陽聲爲律、陰聲爲呂。此十二月氣。○蔟、七豆反。蕤、人誰反。射、音亦。
【読み】
六律・ 黃鐘・大蔟[たいそう]・姑洗・蕤賓[ずいひん]・夷則・無射[ぶえき]なり。陽聲を律とし、陰聲を呂とす。此れ十二月の氣なり。○蔟は、七豆反。蕤は、人誰反。射は、音亦。

七音・ 周武王伐紂、自午及子。凡七日。王因此以數合之、以聲昭之。故以七同其數、以律和其聲。謂之七音。
【読み】
七音・ 周の武王紂を伐つとき、午より子に及ぶ。凡そ七日なり。王此に因りて數を以て之を合わせ、聲を以て之を昭らかにす。故に七を以て其の數を同じくし、律を以て其の聲を和す。之を七音と謂う。

八風・ 八方之風。
【読み】
八風・ 八方の風。

九歌、九功之德、皆可歌也。六府三事、謂之九功。○六府、金・木・水・火・土・穀。三事、正德・利用・厚生也。
【読み】
九歌、九功の德、皆歌う可し。六府三事、之を九功と謂う。○六府は、金・木・水・火・土・穀。三事は、正德・利用・厚生なり。

以相成也。言此九者合、然後相成爲和樂。
【読み】
以て相成すなり。言うこころは、此の九つの者合いて、然して後に相成して和樂を爲す。

淸濁・大小・長短・疾徐・哀樂・剛柔・遲速・高下・出入・周疏、以相濟也。周、密也。
【読み】
淸濁・大小・長短・疾徐・哀樂・剛柔・遲速・高下・出入・周疏、以て相濟すなり。周は、密[こま]かなり。

君子聽之、以平其心。心平德和。故詩曰、德音不瑕。詩、豳風也。義取心平則德音無瑕闕。
【読み】
君子之を聽きて、以て其の心を平らかにす。心平らかにして德和す。故に詩に曰く、德音瑕[か]けず、と。詩は、豳風[ひんふう]なり。義心平らかなれば則ち德音瑕闕無きに取る。

今據不然。君所謂可、據亦曰可、君所謂否、據亦曰否。若以水濟水、誰能食之。若琴瑟之專壹、誰能聽之。同之不可也如是。
【読み】
今據は然らず。君可と謂う所は、據も亦可と曰い、君否と謂う所は、據も亦否と曰う。若し水を以て水に濟さば、誰か能く之を食らわん。若し琴瑟の專壹ならば、誰か能く之を聽かん。同の不可なるや是の如し、と。

飮酒樂。公曰、古而無死、其樂若何。晏子對曰、古而無死、則古之樂也。君何得焉。昔爽鳩氏始居此地、爽鳩氏、少皞氏之司寇也。
【読み】
酒を飮みて樂しむ。公曰く、古よりして死無くば、其の樂しみ若何ぞや、と。晏子對えて曰く、古よりして死無くんば、則ち古の樂しみなり。君何ぞ得ん。昔爽鳩氏始めて此の地に居りてより、爽鳩氏は、少皞氏の司寇なり。

季萴因之、季萴、虞夏諸侯。代爽鳩氏者。○萴、仕側反。
【読み】
季萴[きそく]之に因り、季萴は、虞夏の諸侯。爽鳩氏に代わる者なり。○萴は、仕側反。

有逢伯陵因之、逢伯陵、殷諸侯。姜姓。
【読み】
有逢伯陵之に因り、逢伯陵は、殷の諸侯。姜姓なり。

蒲姑氏因之、蒲姑氏、殷・周之閒。代逢公者。
【読み】
蒲姑氏之に因りて、蒲姑氏は、殷・周の閒。逢公に代わる者なり。

而後大公因之。古若無死、爽鳩氏之樂、非君所願也。齊侯甘於所樂、志於不死。晏子稱古、以節其情願。
【読み】
而して後に大公之に因れり。古より若し死無くば、爽鳩氏の樂しみにして、君の願う所に非ざるなり、と。齊侯樂しむ所に甘んじて、不死に志す。晏子古を稱して、以て其の情願を節す。

鄭子產有疾、謂子大叔曰、我死、子必爲政。唯有德者、能以寬服民。其次莫如猛。夫火烈。民望而畏之。故鮮死焉。水懦弱。民狎而翫之。狎、輕也。
【読み】
鄭の子產疾有り、子大叔に謂いて曰く、我れ死なば、子必ず政を爲さん。唯有德の者は、能く寬を以て民を服す。其の次は猛に如くは莫し。夫れ火は烈なり。民望みて之を畏る。故に死すること鮮し。水は懦弱なり。民狎れて之を翫[もてあそ]ぶ。狎は、輕んずるなり。

則多死焉。故寬難。難以治。
【読み】
則ち死すること多し。故に寬は難し、と。以て治め難し。

疾數月而卒。
【読み】
疾むこと數月にして卒す。

大叔爲政。不忍猛而寬。鄭國多盜、取人於萑苻之澤。萑苻、澤名。於澤中劫人。○萑、音丸。苻、音蒲。又如字。
【読み】
大叔政を爲す。猛に忍びずして寬にす。鄭國盜多く、人を萑苻[かんぽ]の澤に取[とら]えぬ。萑苻は、澤の名。澤中に於て人を劫かす。○萑は、音丸。苻は、音蒲。又字の如し。

大叔悔之、曰、吾早從夫子、不及此。興徒兵以攻萑苻之盜盡殺之。盜少止。
【読み】
大叔之を悔いて、曰く、吾れ早く夫子に從わば、此に及ばじ、と。徒兵を興して以て萑苻の盜を攻めて盡く之を殺す。盜少しく止む。

仲尼曰、善哉。政寬則民慢。慢則糾之以猛。糾、猶攝也。
【読み】
仲尼曰く、善いかな。政寬なれば則ち民慢る。慢れば則ち之を糾すに猛を以てす。糾は、猶攝[おさ]むるのごとし。

猛則民殘。殘則施之以寬。寬以濟猛、猛以濟寬。政是以和。詩曰、民亦勞止、汔可小康、惠此中國、以綏四方、施之以寬也。詩、大雅。汔、其也。康・綏、皆安也。周厲王暴虐、民勞於苛政。故詩人刺之。欲其施之以寬。○汔、許乙反。
【読み】
猛なれば則ち民殘[そこな]わる。殘わるれば則ち之に施すに寬を以てす。寬以て猛を濟い、猛以て寬を濟う。政是を以て和す。詩に曰く、民亦勞す、汔[そ]れ小しく康んず可し、此の中國を惠みて、以て四方を綏んぜよとは、之に施すに寬を以てするなり。詩は、大雅。汔は、其なり。康・綏は、皆安んずるなり。周の厲王暴虐、民苛政に勞す。故に詩人之を刺[そし]る。其の之に施すに寬を以てせんことを欲するなり。○汔は、許乙反。

毋從詭隨、詭人・隨人、無正心。不可從。○從、子用反。注同。
【読み】
詭隨を從[ゆる]すこと毋くして、詭人・隨人は、正心無し。從す可からず。○從は、子用反。注も同じ。

以謹無良、謹、勑愼也。
【読み】
以て無良を謹[いまし]め、謹は、勑愼なり。

式遏寇虐、慘不畏明、糾之以猛也。式、用也。遏、止也。慘、曾也。言爲寇虐、曾不畏明法者、亦當用猛政糾治之。
【読み】
式[もっ]て寇虐し、慘[かつ]て明を畏れざるを遏[とど]めよとは、之を糾すに猛を以てするなり。式は、用てなり。遏は、止むるなり。慘は、曾てなり。言うこころは、寇虐を爲し、曾て明法を畏れざる者は、亦當に猛政を用て之を糾治すべし。

柔遠能邇、以定我王、平之以和也。柔、安也。邇、近也。遠者懷附、近者各以能進、則王室定。
【読み】
遠きを柔[やす]んじ邇きを能にし、以て我が王を定めよとは、之を平らかにするに和を以てするなり。柔は、安んずるなり。邇は、近きなり。遠き者をば懷附し、近き者をば各々能を以て進むれば、則ち王室定まる。

又曰、不競不絿、不剛不柔、詩、殷頌。言湯政得中和。競、强也。絿、急也。○絿、音求。
【読み】
又曰く、競ならず絿ならず、剛ならず柔ならず、詩は、殷頌。言うこころは、湯の政中和を得るなり。競は、强きなり。絿は、急なり。○絿は、音求。

布政優優、百祿是遒、優優、和也。遒、聚也。○遒、在由反。又子由反。
【読み】
政を布くこと優優として、百祿是れ遒[あつ]まるとは、優優は、和なり。遒[しゅう]は、聚まるなり。○遒は、在由反。又子由反。

和之至也。
【読み】
和の至りなり、と。

及子產卒、仲尼聞之、出涕曰、古之遺愛也。子產見愛、有古人之遺風。
【読み】
子產が卒するに及びて、仲尼之を聞きて、涕を出だして曰く、古の遺愛なり、と。子產愛せらるること、古人の遺風有り。


〔經〕二十有一年、春、王三月、葬蔡平公。夏、晉侯使士鞅來聘。晉頃公卽位、通嗣君。
【読み】
〔經〕二十有一年、春、王の三月、蔡の平公を葬る。夏、晉侯士鞅をして來聘せしむ。晉の頃公位に卽きて、嗣君を通ずるなり。

宋華亥・向寧・華定自陳入于宋南里以叛。自外至。故曰入。披其邑。故曰叛。南里、宋城内里名。○披、普彼反。
【読み】
宋の華亥・向寧・華定陳より宋の南里に入りて以[い]て叛く。外より至る。故に入ると曰う。其の邑を披[ひら]く。故に叛くと曰う。南里は、宋の城内の里の名。○披は、普彼反。

秋、七月、壬午、朔、日有食之。八月、乙亥、叔輒卒。叔弓之子、伯張。
【読み】
秋、七月、壬午[みずのえ・うま]、朔、日之を食する有り。八月、乙亥[きのと・い]、叔輒[しゅくちょう]卒す。叔弓の子、伯張。

冬、蔡侯朱出奔楚。朱爲大子則失位、遂微弱、爲國人所逐。故以自出爲文。
【読み】
冬、蔡侯朱出でて楚に奔る。朱大子と爲りては則ち位を失い、遂に微弱にして、國人の爲に逐わるる。故に自ら出づるを以て文を爲す。

公如晉。至河乃復。晉人辭公。故還。
【読み】
公晉に如く。河に至りて乃ち復る。晉人公を辭す。故に還る。

〔傳〕二十一年、春、天王將鑄無射。周景王也。無射、鐘名。律中無射。○射、音亦。
【読み】
〔傳〕二十一年、春、天王將に無射[ぶえき]を鑄んとす。周の景王なり。無射は、鐘の名。律無射に中るなり。○射は、音亦。

泠州鳩曰、王其以心疾死乎。泠、樂官。州鳩、其名也。○泠、力丁反。
【読み】
泠州鳩[れいしゅうきゅう]曰く、王は其れ心疾を以て死なんか。泠は、樂官。州鳩は、其の名なり。○泠は、力丁反。

夫樂、天子之職也。職、所主也。
【読み】
夫れ樂は、天子の職なり。職は、主る所なり。

夫音、樂之輿也。樂、因音而行。
【読み】
夫れ音は、樂の輿なり。樂は、音に因りて行わる。

而鐘、音之器也。音、由器以發。
【読み】
而して鐘は、音の器なり。音は、器に由りて以て發す。

天子省風以作樂、省風俗、作樂以移之。
【読み】
天子風を省みて以て樂を作り、風俗を省みて、樂を作りて以て之を移す。

器以鍾之、鍾、聚也。以器聚音。
【読み】
器以て之を鍾[あつ]め、鍾は、聚むるなり。器を以て音を聚む。
*「鍾」は、漢籍國字解全書では「鐘」。

輿以行之。樂須音而行。
【読み】
輿以て之を行う。樂は音を須て行わる。

小者不窕、窕、細不滿。○窕、他彫反。
【読み】
小なる者も窕[くつろ]がず、窕[ちょう]は、細くして滿たざるなり。○窕は、他彫反。

大者不槬、槬、橫大不入。○槬、戶化反。
【読み】
大なる者も槬[しぶ]らざれば、槬[か]は、橫大にして入らざるなり。○槬は、戶化反。

則和於物。物和則嘉成。嘉樂成也。
【読み】
則ち物に和す。物和すれば則ち嘉成る。嘉樂成るなり。

故和聲入於耳、而藏於心。心億則樂。億、安也。
【読み】
故に和聲耳に入りて、心に藏む。心億[やす]んずれば則ち樂しむ。億は、安んずるなり。

窕則不咸、不充滿人心。○咸、如字。本作感。戶暗反。
【読み】
窕げば則ち咸[み]たず、人心に充滿せず。○咸は、字の如し。本感に作る。戶暗反。

槬則不容。心不堪容。
【読み】
槬れば則ち容ならず。心容るるに堪えず。

心是以感。感實生疾。今鐘槬矣。王心弗堪。其能久乎。爲明年、天子崩傳。
【読み】
心是を以て感ず。感ずれば實に疾を生ず。今鐘槬なり。王の心堪えず。其れ能く久しからんや、と。明年、天子崩ずる爲の傳なり。

三月、葬蔡平公。蔡大子朱失位、位在卑。不在適子位、以長幼齒。
【読み】
三月、蔡の平公を葬る。蔡の大子朱位を失い、位卑に在り。適子の位に在らずして、長幼を以て齒するなる。

大夫送葬者歸、見昭子。昭子問蔡故。以告。昭子歎曰、蔡其亡乎。若不亡、是君也必不終。詩曰、不解于位、民之攸墍。詩、大雅。墍、息也。○解、佳買反。墍、許器反。
【読み】
大夫の葬を送る者歸り、昭子を見る。昭子蔡の故を問う。以て告ぐ。昭子歎じて曰く、蔡は其れ亡びんか。若し亡びずんば、是の君や必ず終わらじ。詩に曰く、位に解[おこた]らざるは、民の墍[いこ]う攸なり、と。詩は、大雅。墍[き]は、息うなり。○解は、佳買反。墍は、許器反。

今蔡侯始卽位而適卑。身將從之。爲蔡侯朱出奔傳。
【読み】
今蔡侯始めて位に卽きて卑に適く。身將に之に從わんとす。蔡侯朱出奔する爲の傳なり。

夏、晉士鞅來聘。叔孫爲政。叔孫昭子以三命爲國政。
【読み】
夏、晉の士鞅來聘す。叔孫政を爲す。叔孫昭子三命を以て國政を爲す。

季孫欲惡諸晉、憎叔孫在己上位、欲使得罪於晉。○惡、烏路反。
【読み】
季孫諸を晉に惡ませんと欲し、叔孫が己が上位に在るを憎み、罪を晉に得せしめんと欲す。○惡は、烏路反。

使有司以齊鮑國歸費之禮爲士鞅。鮑國歸費、在十四年。牢禮各如其命數。魯人失禮。故爲鮑國七牢。○費、音祕。故爲、于僞反。
【読み】
有司をして齊の鮑國が費を歸すの禮を以て士鞅が爲にせしむ。鮑國費を歸すは、十四年に在り。牢禮は各々其の命數の如し。魯人禮を失う。故に鮑國が爲に七牢す。○費は、音祕。故爲は、于僞反。

士鞅怒曰、鮑國之位下、其國小。而使鞅從其牢禮、是卑敝邑也。將復諸寡君。魯人恐、加四牢焉、爲十一牢。言魯不能以禮事大國。且爲哀七年、吳徵百牢起。
【読み】
士鞅怒りて曰く、鮑國の位は下にして、其の國は小なり。而るを鞅をして其の牢禮に從わしむるは、是れ敝邑を卑しむなり。將に諸を寡君に復[もう]さんとす、と。魯人恐れ、四牢を加えて、十一牢と爲す。魯禮を以て大國に事うること能わざるを言う。且哀七年、吳百牢を徵す爲の起なり。

宋華費遂生華貙・華多僚・華登。貙爲少司馬、多僚爲御士、公御士。○貙、勑倶反。
【読み】
宋の華費遂華貙[かちゅ]・華多僚・華登を生む。貙少司馬と爲り、多僚御士と爲り、公の御士。○貙は、勑倶反。

與貙相惡。乃譖諸公曰、貙將納亡人。亡人、華亥等。○惡、如字。又烏路反。
【読み】
貙と相惡し。乃ち諸を公に譖りて曰く、貙將に亡人を納れんとす、と。亡人は、華亥等。○惡は、字の如し。又烏路反。

亟言之。公曰、司馬以吾故亡其良子。司馬、謂費遂。爲大司馬。良子、謂華登。○亟、欺冀反。
【読み】
亟[しば]々之を言う。公曰く、司馬吾が故を以て其の良子を亡えり。司馬は、費遂を謂う。大司馬爲り。良子は、華登を謂う。○亟は、欺冀反。

死亡有命。吾不可以再亡之。對曰、君若愛司馬、則如亡。君若愛大司馬、則當亡走失國。
【読み】
死亡は命有り。吾れ以て再び之を亡わす可からず、と。對えて曰く、君若し司馬を愛せば、則ち亡ぐるに如かんや。君若し大司馬を愛せば、則ち當に亡走して國を失うべし。

死如可逃、何遠之有。言亡可以逃死、勿慮其遠。以恐動公。
【読み】
死如し逃る可くんば、何を遠しとすること之れ有らん、と。言うこころは、亡げて以て死を逃る可くんば、其の遠きを慮ること勿かれ。以て公を恐[おど]し動かすなり。

公懼、使侍人召司馬之侍人宜僚、飮之酒、而使告司馬。告司馬使逐貙。○飮、於鴆反。
【読み】
公懼れ、侍人をして司馬の侍人宜僚を召さしめ、之に酒を飮ませて、司馬に告げしむ。司馬に告げて貙を逐わしむ。○飮は、於鴆反。

司馬歎曰、必多僚也。吾有讒子而弗能殺。吾又不死。抑君有命。可若何。乃與公謀逐華貙、將使田孟諸而遣之。
【読み】
司馬歎じて曰く、必ず多僚ならん。吾れ讒子有りて殺すこと能わず。吾れ又死なず。抑々君命有り。若何にす可けん、と。乃ち公と華貙を逐わんことを謀り、將に孟諸に田せしめて之を遣らんとす。

公飮之酒、厚酬之、酬、酒幣。
【読み】
公之に酒を飮ませて、厚く之に酬い、酬は、酒幣。

賜及從者。司馬亦如之。亦如公賜。○從、才用反。
【読み】
賜從者に及ぶ。司馬も亦之の如くす。亦公の賜の如くす。○從は、才用反。

張匃尤之、張匃、華貙臣。尤、怪賜之厚。
【読み】
張匃[ちょうかい]之を尤めて、張匃は、華貙の臣。尤は、賜の厚きを怪しむなり。

曰、必有故。使子皮承宜僚以劍而訊之。子皮、華貙。訊、問也。
【読み】
曰く、必ず故有らん、と。子皮をして宜僚を承くるに劍を以てして之を訊わしむ。子皮は、華貙。訊は、問うなり。

宜僚盡以告。告欲因田以遣之。
【読み】
宜僚盡く以て告ぐ。田に因りて以て之を遣らんと欲することを告ぐ。

張匃欲殺多僚。子皮曰、司馬老矣。登之謂甚。言登亡傷司馬心已甚。
【読み】
張匃多僚を殺さんと欲す。子皮曰く、司馬老いたり。登をも甚だしと謂えり。言うこころは、登亡げて司馬の心を傷つくること已に甚だし。

吾又重之、不如亡也。五月、丙申、子皮將見司馬而行、則遇多僚御司馬而朝。張匃不勝其怒、遂與子皮・臼任・鄭翩殺多僚、任・翩、亦貙家臣。○重、直用反。見、音現。勝、音升。任、音壬。
【読み】
吾れ又之を重ねんよりは、亡ぐるに如かず、と。五月、丙申[ひのえ・さる]、子皮將に司馬に見えて行[さ]らんとするに、則ち多僚が司馬に御して朝するに遇いぬ。張匃其の怒りに勝えず、遂に子皮・臼任・鄭翩と多僚を殺し、任・翩も、亦貙の家臣。○重は、直用反。見は、音現。勝は、音升。任は、音壬。

劫司馬以叛、而召亡人。壬寅、華向入。樂大心・豐愆・華牼禦諸橫。梁國睢陽縣南有橫亭。
【読み】
司馬を劫かして以て叛きて、亡人を召ぶ。壬寅[みずのえ・とら]、華向入る。樂大心・豐愆[ほうけん]・華牼[かこう]諸を橫に禦ぐ。梁國睢陽縣の南に橫亭有り。

華氏居盧門、以南里叛。盧門、宋東城南門。
【読み】
華氏盧門に居り、南里を以て叛く。盧門は、宋の東城の南門。

六月、庚午、宋城舊鄘、及桑林之門、而守之。舊鄘、故城也。桑林、城門名。
【読み】
六月、庚午[かのえ・うま]、宋舊鄘[きゅうよう]に城くこと、桑林の門に及ぶまでして、之を守る。舊鄘は、故城なり。桑林は、城門の名。

秋、七月、壬午、朔、日有食之。公問於梓愼曰、是何物也。禍福何爲。物、事也。
【読み】
秋、七月、壬午、朔、日之を食する有り。公梓愼に問いて曰く、是れ何物ぞや。禍福何爲[いかん]、と。物は、事なり。

對曰、二至二分、二至、冬至・夏至。二分、春分・秋分。
【読み】
對えて曰く、二至二分には、二至は、冬至・夏至なり。二分は、春分・秋分なり。

日有食之、不爲災。日月之行也、分同道也、至相過也。二分日夜等。故言同道。二至長短極。故相過。
【読み】
日之を食すること有るも、災いを爲さず。日月の行や、分は道を同じくし、至は相過ぐ。二分は日夜等し。故に道を同じくすと言う。二至は長短極まる。故に相過ぐ。

其他月則爲災。陽不克也。故常爲水。陰侵陽。是陽不勝陰。
【読み】
其の他の月は則ち災いを爲す。陽克たざればなり。故に常に水と爲す、と。陰陽を侵す。是れ陽陰に勝たざるなり。

於是叔輒哭日食。意在於憂災。
【読み】
是に於て叔輒日食を哭す。意災いを憂うるに在り。

昭子曰、子叔將死。非所哭也。八月、叔輒卒。
【読み】
昭子曰く、子叔將に死せんとす。哭する所に非ざるなり、と。八月、叔輒卒す。

冬、十月、華登以吳師救華氏。登、前年奔吳。
【読み】
冬、十月、華登吳の師を以て華氏を救う。登は、前年吳に奔る。

齊烏枝鳴戍宋。烏枝鳴、齊大夫。
【読み】
齊の烏枝鳴宋を戍る。烏枝鳴は、齊の大夫。

廚人濮曰、濮、宋廚邑大夫。
【読み】
廚人濮曰く、濮は、宋の廚邑の大夫。

軍志有之、先人有奪人之心、後人有待其衰。盍及其勞且未定也伐諸。若入而固、則華氏衆矣。悔無及也。從之。丙寅、齊師・宋師敗吳師于鴻口、梁国睢陽縣東有鴻口亭。○先、悉薦反。後、戶豆反。
【読み】
軍志に之れ有り、人に先だつことは人の心を奪うこと有り、人に後るることは其の衰うるを待つこと有り、と。盍ぞ其の勞して且つ未だ定まらざるに及びて諸を伐たざる。若し入りて固くば、則ち華氏衆けん。悔ゆとも及ぶこと無けん、と。之に從う。丙寅[ひのえ・とら]、齊の師・宋の師吳の師を鴻口に敗り、梁国睢陽縣の東に鴻口亭有り。○先は、悉薦反。後は、戶豆反。

獲其二帥公子苦雂・偃州員。二師、吳大夫。○雂、古含反。員、音云。亦音圓。
【読み】
其二帥公子苦雂[くかん]・偃州員を獲たり。二師は、吳の大夫。○雂は、古含反。員は、音云。亦音圓。

華登帥其餘、吳餘師。
【読み】
華登其の餘を帥いて、吳の餘師。

以敗宋師。公欲出。出奔。
【読み】
以て宋の師を敗る。公出でんと欲す。出奔するなり。

廚人濮曰、吾小人。可藉死、可借使死難。
【読み】
廚人濮曰く、吾は小人なり。藉[か]りて死なしむ可くして、借りて難に死せしむ可し。

而不能送亡。君請待之。請君待復戰決勝負。○而不能送亡君、絕句。
【読み】
亡ぐるを送ること能わず。君請う、之を待て、と。請う、君復戰いて勝負を決するを待て、と。○而不能送亡君は、絕句。
*頭注に、「陸云、君字、或上屬、或下屬、杜註不明。亦似上屬。按杜註極明。下屬無疑。陸誤矣。」とある。

乃徇曰、揚徽者、公徒也。徽、識也。○識、申志反。又昌志反。
【読み】
乃ち徇[とな]えて曰く、徽[しるし]を揚げん者は、公の徒なり、と。徽[き]は、識なり。○識は、申志反。又昌志反。

衆從之。公自揚門見之。見國人皆揚徽。睢陽正東門名揚門。
【読み】
衆之に從う。公揚門より之を見る。國人皆徽を揚ぐるを見るなり。睢陽の正東の門を揚門と名づく。

下而巡之、曰、國亡君死、二三子之恥也。豈專孤之罪也。齊烏枝鳴曰、用少、莫如齊致死。齊致死、莫如去備。備、長兵也。○去、起呂反。
【読み】
下りて之を巡りて、曰く、國亡び君死なば、二三子の恥なり。豈專ら孤が罪んらんや、と。齊の烏枝鳴曰く、少を用ゆるは、齊[ひと]しく死を致すに如くは莫し。齊しく死を致すは、備えを去るに如くは莫し。備えは、長兵なり。○去は、起呂反。

彼多兵矣。請皆用劒。從之。華氏北。復卽之。北、敗走。
【読み】
彼は多兵なり。請う、皆劒を用いよ、と。之に從う。華氏北[に]ぐ。復之に卽く。北は、敗走するなり。

廚人濮以裳裹首而荷以走、曰、得華登矣。遂敗華氏于新里。新里、華氏所取邑。○荷、何可反。又音何。
【読み】
廚人濮裳を以て首を裹[つつ]みて荷いて以て走りて、曰く、華登を得たり、と。遂に華氏を新里に敗る。新里は、華氏が取る所の邑。○荷は、何可反。又音何。

翟僂新居于新里、旣戰、說甲于公而歸。居華氏地而助公戰。○僂、力主反。說、他活反。
【読み】
翟僂新[てきるしん]新里に居り、旣に戰い、甲を公に說[ぬ]ぎて歸る。華氏の地に居りて公の戰を助くるなり。○僂は、力主反。說は、他活反。

華妵居于公里、亦如之。妵、華氏族。故助華氏。亦如僂新說甲歸。傳言古之爲軍、不呰小忿。○妵、他口反。呰、才斯反。又音紫。
【読み】
華妵[かとう]が公里に居るも、亦之の如くす。妵は、華氏の族。故に華氏を助く。亦僂新が如く甲を說ぎて歸る。傳古の軍を爲すは、小忿を呰[そし]らざるを言う。○妵は、他口反。呰は、才斯反。又音紫。

十一月、癸未、公子城以晉師至。城以前年奔晉、今還救宋。
【読み】
十一月、癸未[みずのと・ひつじ]、公子城晉の師を以て至る。城前年を以て晉に奔り、今還りて宋を救う。

曹翰胡、曹大夫。○翰、音寒。又戶旦反。
【読み】
曹の翰胡、曹の大夫。○翰は、音寒。又戶旦反。

會晉荀吳・ 中行穆子。○行、戶郎反。
【読み】
晉の荀吳・ 中行穆子。○行は、戶郎反。

齊苑何忌・ 齊大夫。
【読み】
齊の苑何忌・ 齊の大夫。

衛公子朝、前年、出奔晉。今還衛。
【読み】
衛の公子朝に會して、前年、晉に出奔す。今衛に還る。

救宋。丙戌、與華氏戰于赭丘。赭丘、宋地。○赭、音者。
【読み】
宋を救う。丙戌[ひのえ・いぬ]、華氏と赭丘[しゃきゅう]に戰わんとす。赭丘は、宋の地。○赭は、音者。

鄭翩願爲鸛、其御願爲鵞。鄭翩、華氏黨。鸛・鵞、皆陳名。○鸛、古喚反。鵞、五多反。
【読み】
鄭翩は鸛を爲さんことを願い、其の御は鵞を爲さんことを願う。鄭翩は、華氏の黨。鸛・鵞は、皆陳の名。○鸛は、古喚反。鵞は、五多反。

子祿御公子城、莊堇爲右、子祿、向宜。○堇、音謹。
【読み】
子祿公子城に御となり、莊堇[そうきん]右と爲り、子祿は、向宜。○堇は、音謹。

干犨御呂封人華豹、張匃爲右、呂封人華豹、華氏黨。○犫、尺由反。
【読み】
干犨[かんしゅう]呂の封人華豹に御となり、張匃右と爲りて、呂の封人華豹は、華氏の黨。○犫は、尺由反。

相遇。城還。華豹曰、城也。城怒而反之。怒其呼己、反還戰。
【読み】
相遇う。城還る。華豹曰く、城や、と。城怒りて之に反る。其の己を呼ぶを怒り、反り還りて戰う。

將注、豹則關矣。注、傅矢。關、引弓。○注、之樹反。關、烏環反。傅、音附。
【読み】
將に注[つ]けんとすれば、豹は則ち關[ひ]けり。注は、矢を傅[つ]くるなり。關は、弓を引くなり。○注は、之樹反。關は、烏環反。傅は、音附。

曰、平公之靈、尙輔相余。平公、公子城之父。
【読み】
曰く、平公の靈、尙わくは余を輔相せよ、と。平公は、公子城の父。

豹射。出其閒。出子城・子祿之閒。○射、食亦反。又食夜反。
【読み】
豹射る。其の閒に出づ。子城・子祿の閒に出づ。○射は、食亦反。又食夜反。

將注、則又關矣。曰、不狎鄙。狎、更也。○更、音庚。
【読み】
將に注けんとすれば、則ち又關く。曰く、狎[かわる]々せざるは鄙なり、と。狎は、更々なり。○更は、音庚。

抽矢。豹止不射。
【読み】
矢を抽[ぬ]く。豹止めて射ず。

城射之。殪。豹死。
【読み】
城之を射る。殪[たう]る。豹死す。

張匃抽殳而下。殳、長丈二。在車邊。○殳、音殊。長、直亮反。又如字。
【読み】
張匃殳[ほこ]を抽きて下る。殳[しゅ]は、長[たけ]丈二。車邊に在り。○殳は、音殊。長は、直亮反。又字の如し。

射之折股。扶伏而擊之、折軫。折城車軫。○折、之設反。扶伏、竝如字。又上音蒲。下蒲北反。或作匍匐。同。
【読み】
之を射て股を折る。扶伏して之を擊ちて、軫を折る。城が車軫を折る。○折は、之設反。扶伏は、竝字の如し。又上は音蒲。下は蒲北反。或は匍匐に作る。同じ。

又射之。死。匃死。
【読み】
又之を射る。死す。匃死す。

干犨請一矢。求死。
【読み】
干犨一矢を請う。死を求む。

城曰、余言女於君。欲活之。○女、音汝。
【読み】
城曰く、余女を君に言わん、と。之を活さんと欲す。○女は、音汝。

封曰、不死伍乘、軍之大刑也。同乘共伍、當皆死。○乘、繩證反。
【読み】
封えて曰く、伍乘に死せざるは、軍の大刑なり。乘を同じくし伍を共にするは、當に皆死すべし。○乘は、繩證反。

干刑而從子、君焉用之。子速諸。乃射之。殪。犫又死。
【読み】
刑を干して子に從わば、君焉ぞ之を用いん。子諸を速やかにせよ、と。乃ち之を射る。殪る。犫又死す。

大敗華氏、圍諸南里。
【読み】
大いに華氏を敗り、諸を南里に圍む。

華亥搏膺而呼、見華貙曰、吾爲欒氏矣。晉欒盈還入作亂而死。事在襄二十三年。○搏、音博。呼、好故反。
【読み】
華亥膺[むね]を搏[う]ちて呼び、華貙を見て曰く、吾れ欒氏と爲らん、と。晉の欒盈還り入りて亂を作して死せり。事は襄二十三年に在り。○搏は、音博。呼は、好故反。

貙曰、子無我迋。不幸而後亡。迋、恐也。○迋、求枉反。
【読み】
貙曰く、子我を迋[おど]すこと無かれ。不幸にして後に亡げん、と。迋[きょう]は、恐[おど]すなり。○迋は、求枉反。

使華登如楚乞師。華貙以車十五乘・徒七十人、犯師而出、犯公師出、送華登。
【読み】
華登をして楚に如きて師を乞わしむ。華貙車十五乘・徒七十人を以て、師を犯して出で、公の師を犯して出でて、華登を送る。

食於睢上、哭而送之、乃復入。入南里。○睢、音雖。
【読み】
睢[すい]上に食し、哭して之を送り、乃ち復入る。南里に入る。○睢は、音雖。

楚薳越帥師、將逆華氏。大宰犯諫曰、諸侯唯宋事其君、今又爭國。釋君而臣是助、無乃不可乎。王曰、而告我也後。旣許之矣。爲明年、華向出奔楚傳。○薳、于委反。
【読み】
楚の薳越[いえつ]師を帥いて、將に華氏を逆えんとす。大宰犯諫めて曰く、諸侯は唯宋のみ其の君に事えしに、今又國を爭う。君を釋[す]てて臣を是れ助けば、乃ち不可なること無からんや、と。王曰く、而[なんじ]我に告ぐること後れたり。旣に之を許せり、と。明年、華向楚に出奔する爲の傳なり。○薳は、于委反。

蔡侯朱出奔楚。
【読み】
蔡侯朱出でて楚に奔る。

費無極取貨於東國、東國、隱大子之子、平侯廬之弟、朱叔父也。
【読み】
費無極貨を東國に取りて、東國は、隱大子の子、平侯廬の弟、朱叔の父なり。

而謂蔡人曰、朱不用命於楚、君王將立東國。若不先從王欲、楚必圍蔡。蔡人懼、出朱而立東國。朱愬于楚。楚子將討蔡。無極曰、平侯與楚有盟。故封。盟于鄧、依陳・蔡人以國。
【読み】
蔡人に謂いて曰く、朱命を楚に用いざれば、君王將に東國を立てんとす。若し先ず王の欲するに從わずんば、楚必ず蔡を圍まん、と。蔡人懼れ、朱を出だして東國を立つ。朱楚に愬[うった]う。楚子將に蔡を討ぜんとす。無極曰く、平侯楚と盟有り。故に封ぜり。鄧に盟うとき、陳・蔡の人に依りて以て國せんといえり。

其子有二心。故廢之。子、謂朱也。
【読み】
其の子二心有り。故に之を廢す。子は、朱を謂うなり。

靈王殺隱大子、其子與君同惡、德君必甚。又使立之、不亦可乎。且廢置在君、蔡無他矣。言權在楚、則蔡無他心。
【読み】
靈王隱大子を殺して、其の子君と惡を同じくすれば、君を德とすること必ず甚だしからん。又之を立てしめば、亦可ならずや。且つ廢置君に在らば、蔡他無けん、と。言うこころは、權楚に在らば、則ち蔡他心無けん。

公如晉、及河。鼓叛晉。叛晉屬鮮虞。
【読み】
公晉に如き、河に及ぶ。鼓晉に叛く。晉に叛きて鮮虞に屬す。

晉將伐鮮虞。故辭公。將有軍事。無暇於待賓、且懼泄軍謀。
【読み】
晉將に鮮虞を伐たんとす。故に公を辭す。將に軍事有らんとす。賓を待つに暇無く、且つ軍謀を泄[も]らさんことを懼る。


〔經〕二十有二年、春、齊侯伐莒。宋華亥・向寧・華定自宋南里出奔楚。言自南里、別從國去。○別、彼列反。
【読み】
〔經〕二十有二年、春、齊侯莒を伐つ。宋の華亥・向寧・華定宋の南里より出でて楚に奔る。南里よりと言うは、國より去るに別つなり。○別は、彼列反。

大蒐于昌閒。無傳。○閒、如字。
【読み】
昌閒に大蒐す。傳無し。○閒は、字の如し。

夏、四月、乙丑、天王崩。六月、叔鞅如京師。葬景王。叔鞅、叔弓子。三月而葬、欒故速。○鞅、於丈反。
【読み】
夏、四月、乙丑[きのと・うし]、天王崩ず。六月、叔鞅京師に如く。景王を葬る。叔鞅は、叔弓の子。三月にして葬るは、欒の故に速きなり。○鞅は、於丈反。

王室亂。承叔鞅言而書之。未知誰是。故但曰亂。
【読み】
王室亂る。叔鞅が言を承けて之を書す。未だ誰が是なるかを知らず。故に但亂ると曰う。

劉子・單子以王猛居于皇。河南鞏縣西南有黃亭。辟子朝難出、居皇。王猛書名、未卽位。○單、音善。
【読み】
劉子・單子王猛を以[い]て皇に居る。河南鞏縣の西南に黃亭有り。子朝の難を辟けて出で、皇に居るなり。王猛名を書すは、未だ位に卽かざればなり。○單は、音善。

秋、劉子・單子以王猛入于王城。王城、郟鄏。今河南縣。晉助猛。故得還王都。
【読み】
秋、劉子・單子王猛を以て王城に入る。王城は、郟鄏[こうじょく]。今の河南縣なり。晉猛を助く。故に王都に還ることを得たり。

冬、十月、王子猛卒。未卽位。故不言崩。
【読み】
冬、十月、王子猛卒す。未だ位に卽かず。故に崩ずと言わず。

十有二月、癸酉、朔、日有食之。無傳。此月有庚戌。又以長曆推校前後、當爲癸卯朔。書癸酉誤。述曆、以是食爲閏十二月朔。似是。一說、貞享曆推之、是月癸酉朔、食在午。
【読み】
十有二月、癸酉[みずのと・とり]、朔、日之を食する有り。傳無し。此の月に庚戌有り。又長曆を以て前後を推校するに、當に癸卯朔と爲すべし。癸酉と書すは誤りなり。曆に述[したが]わば、是の食を以て閏十二月朔と爲す。是に似たり。一說に、貞享曆之を推すに、是の月の癸酉朔、食午に在り、と。

〔傳〕二十二年、春、王二月、甲子、齊北郭啓帥師伐莒。啓、齊大夫。北郭佐之後。
【読み】
〔傳〕二十二年、春、王の二月、甲子[きのえ・ね]、齊の北郭啓師を帥いて莒を伐つ。啓は、齊の大夫。北郭佐の後。

莒子將戰。苑羊牧之諫、牧之、莒大夫。○苑、於元反。
【読み】
莒子將に戰わんとす。苑羊牧之諫めて、牧之は、莒の大夫。○苑は、於元反。

曰、齊帥賤、其求不多。不如下之。大國不可怒也。弗聽。敗齊師于壽餘。莒地。○下、遐嫁反。
【読み】
曰く、齊の帥賤しければ、其の求め多からざらん。之に下らんに如かず。大國は怒らす可からず、と。聽かず。齊の師を壽餘に敗る。莒の地。○下は、遐嫁反。

齊侯伐莒。怒敗。
【読み】
齊侯莒を伐つ。敗を怒る。

莒子行成。司馬竈如莒涖盟。竈、齊大夫。
【読み】
莒子成[たい]らぎを行う。司馬竈莒に如きて涖[のぞ]みて盟う。竈は、齊の大夫。

莒子如齊涖盟、盟于稷門之外。稷門、齊城門也。
【読み】
莒子齊に如きて涖みて盟い、稷門の外に盟う。稷門は、齊の城門なり。

莒於是乎大惡其君。爲明年、莒子來奔傳。○惡、烏路反。
【読み】
莒是に於て大いに其の君を惡む。明年、莒子來奔する爲の傳なり。○惡は、烏路反。

楚薳越使告于宋曰、寡君聞君有不令之臣爲君憂。無寧以爲宗羞。無寧、寧也。言華氏爲宋宗廟之羞恥。
【読み】
楚の薳越[いえつ]宋に告げしめて曰く、寡君君不令の臣有りて君の憂えを爲すと聞く。無寧[むし]ろ以て宗の羞爲らんか。無寧は、寧ろなり。言うこころは、華氏は宋の宗廟の羞恥爲り。

寡君請受而戮之。對曰、孤不佞不能媚於父兄、華向、公族也。故稱父兄。
【読み】
寡君請う、受けて之を戮せん、と。對えて曰く、孤不佞にして父兄に媚びること能わずして、華向は、公族なり。故に父兄と稱す。

以爲君憂。拜命之辱。抑君臣曰戰、君曰、余必臣是助。亦唯命。人有言曰、唯亂門之無過。君若惠保敝邑、無亢不衷以獎亂人、孤之望也。唯君圖之。楚人患之。患宋以義距之。○過、古禾反。亢、苦浪反。衷、音忠。
【読み】
以て君の憂えを爲せり。命の辱きを拜す。抑々君臣曰々に戰うに、君曰く、余は必ず臣を是れ助けん、と。亦唯命のままなり。人言えること有り曰く、唯亂門を過ること無かれ、と。君若し敝邑を惠保して、不衷を亢[たか]くして以て亂人を獎[すす]むること無きは、孤が望みなり。唯君之を圖れ、と。楚人之を患う。宋の義を以て之を距むを患う。○過は、古禾反。亢は、苦浪反。衷は、音忠。

諸侯之戍謀曰、若華氏知困而致死、楚恥無功而疾戰、非吾利也。不如出之以爲楚功。其亦無能爲也已。言華氏不能復爲宋患。
【読み】
諸侯の戍謀りて曰く、若し華氏は困しまんことを知りて死を致し、楚は功無きを恥じて疾く戰わば、吾が利に非ざるなり。如かず、之を出だして以て楚の功と爲さんには。其れ亦能く爲すこと無からんのみ。言うこころは、華氏復宋の患えを爲すこと能わず。

救宋而除其害、又何求。乃固請出之。宋人從之。己巳、宋華亥・向寧・華定・華貙・華登・皇奄・傷省・臧士平出奔楚。華貙以下五子不書、非卿。○省、悉井反。又所景反。
【読み】
宋を救いて其の害を除かば、又何をか求めん、と。乃ち固く之を出ださんと請う。宋人之に從う。己巳[つちのと・み]、宋の華亥・向寧・華定・華貙・華登・皇奄・傷省・臧士平出でて楚に奔る。華貙より以下の五子書さざるは、卿に非ざればなり。○省は、悉井反。又所景反。

宋公使公孫忌爲大司馬、代華費遂。
【読み】
宋公公孫忌をして大司馬と爲し、華費遂に代わる。

邊卬爲大司徒、卬、平公曾孫。代華定。○卬、五郎反。
【読み】
邊卬[へんごう]を大司徒と爲し、卬は、平公の曾孫。華定に代わる。○卬は、五郎反。

樂祁爲司馬、祁、子罕孫、樂祁犂。
【読み】
樂祁[がくき]を司馬と爲し、祁は、子罕の孫、樂祁犂。

仲幾爲左師、幾、仲江孫。代向寧。○幾、音機。
【読み】
仲幾を左師と爲し、幾は、仲江の孫。向寧に代わる。○幾は、音機。

樂大心爲右師、代華亥。
【読み】
樂大心を右師と爲し、華亥に代わる。

樂輓爲大司寇、輓、子罕孫。○輓、音晩。
【読み】
樂輓[がくばん]を大司寇と爲らしめて、輓は、子罕の孫。○輓は、音晩。

以靖國人。終梓愼之言三年而後弭。
【読み】
以て國人を靖んず。梓愼の言の三年にして後に弭[や]まんといいしを終わる。

王子朝・賓起有寵於景王。子朝、景王之長庶子。賓起、子朝之傅。○朝、如字。凡人名字皆張遙反。或云、朝錯。是王子朝之後。音潮。案錯姓亦有兩音。
【読み】
王子朝・賓起景王に寵有り。子朝は、景王の長庶子。賓起は、子朝の傅。○朝は、字の如し。凡そ人の名字は皆張遙反。或ひと云う、朝錯、と。是れ王子朝の後なり。音潮。案ずるに錯が姓も亦兩音有らん。

王與賓孟說之、欲立之。孟、卽起也。王語賓孟、欲立子朝爲大子。○說、如字。又音悅。
【読み】
王賓孟と之を說き、之を立てんと欲す。孟は、卽ち起なり。王賓孟に語りて、子朝を立てて大子と爲さんと欲す。○說は、字の如し。又音悅。

劉獻公之庶子伯蚠事單穆公。獻公、劉摯。伯蚠、劉狄。穆公、單旗。○蚠、扶粉反。一扶云反。
【読み】
劉獻公の庶子伯蚠[はくふん]單穆公に事う。獻公は、劉摯。伯蚠は、劉狄。穆公は、單旗。○蚠は、扶粉反。一に扶云反。

惡賓孟之爲人也、願殺之、又惡王子朝之言以爲亂、願去之。子朝、有欲立之言。故劉蚠惡之。○惡、去聲。去、上聲。
【読み】
賓孟が人と爲りを惡みて、之を殺さんことを願い、又王子朝が言の以て亂を爲さんことを惡み、之を去らんことを願う。子朝、立たんと欲するの言有り。故に劉蚠之を惡む。○惡は、去聲。去は、上聲。

賓孟適郊、見雄雞自斷其尾、問之侍者。曰、自憚其犧也。畏其爲犧牲奉宗廟。故自殘毀。○斷、丁管反。
【読み】
賓孟郊に適き、雄雞の自ら其の尾を斷つを見て、之を侍者に問う。曰く、自ら其の犧たらんことを憚りてなり、と。其の犧牲と爲り宗廟に奉ぜられんことを畏る。故に自ら殘毀す。○斷は、丁管反。

遽歸告王、且曰、雞其憚爲人用乎。人異於是。雞犧雖見寵飾、然卒當見殺。若人見寵飾、則當貴盛。故言異於雞。
【読み】
遽に歸りて王に告げ、且つ曰く、雞は其れ人の用と爲るを憚るか。人は是に異なり。雞犧は寵飾せらると雖も、然れども卒に當に殺さるべし。若し人寵飾せらるれば、則ち當に貴盛なるべし。故に雞に異なりと言う。

犧者實用人。人犧實難。己犧何害。言設使寵人如寵犧、則不宜假人以招禍難。使犧在己、則無患害。己、喩子朝。欲使王早寵異之。
【読み】
犧とするは實に人を用ゆ。人を犧とするは實に難[なや]みあり。己を犧とすれば何の害あらん、と。言うこころは、設[も]し人を寵すること犧を寵するが如くならしめば、則ち宜しく人に假して以て禍難を招くべからず。犧をして己に在らしめば、則ち患害無し。己とは、子朝に喩う。王をして早く之を寵異せしめんと欲す。

王弗應。十五年、大子壽卒。王立子猛。後復欲立子朝而未定。賓孟感雞、盛稱子朝、王心許之。故不應。○難、去聲。
【読み】
王應えず。十五年、大子壽卒す。王子猛を立つ。後に復子朝を立てんと欲して未だ定まらず。賓孟雞に感じて、盛んに子朝を稱して、王心に之を許す。故に應えず。○難は、去聲。

夏、四月、王田北山、使公卿皆從、將殺單子・劉子。北山、洛北芒也。王知單・劉不欲立子朝、欲因田獵先殺之。○從、去聲。
【読み】
夏、四月、王北山に田[かり]し、公卿をして皆從わしめ、將に單子・劉子を殺さんとす。北山は、洛の北芒なり。王單・劉が子朝を立つることを欲せざるを知り、田獵に因りて先ず之を殺さんと欲す。○從は、去聲。

王有心疾、乙丑、崩于榮錡氏。四月十九日。河南鞏縣西有榮錡澗。○錡、魚綺反。
【読み】
王心疾有り、乙丑、榮錡氏に崩ず。四月十九日なり。河南鞏縣の西に榮錡澗有り。○錡は、魚綺反。

戊辰、劉子摯卒。二十二日。
【読み】
戊辰[つちのえ・たつ]、劉子摯卒す。二十二日。

無子。單子立劉蚠。蚠事單子故。
【読み】
子無し。單子劉蚠を立つ。蚠單子に事うる故なり。

五月、庚辰、見王。見王猛。○見、賢遍反。
【読み】
五月、庚辰[かのえ・たつ]、王に見ゆ。王猛に見ゆ。○見は、賢遍反。

遂攻賓起殺之。黨子朝故。
【読み】
遂に賓起を攻めて之を殺す。子朝に黨する故なり。

盟群王子于單氏。王子猛次正。故單・劉立之。懼諸王子或黨子朝。故盟之。
【読み】
群王子に單氏に盟う。王子猛は次正なり。故に單・劉之を立つ。諸王子の或は子朝に黨せんこと懼る。故に之に盟う。

晉之取鼓也、在十五年。
【読み】
晉の鼓を取りしや、十五年に在り。

旣獻而反鼓子焉。獻於廟。
【読み】
旣に獻じて鼓子を反す。廟に獻ずるなり。

又叛於鮮虞。叛晉屬鮮虞。
【読み】
又鮮虞に叛く。晉に叛きて鮮虞に屬す。

六月、荀吳畧東陽、略、行也。東陽、晉之山東邑。魏郡廣平以北。○行、下孟反。
【読み】
六月、荀吳東陽を畧[めぐ]り、略は、行[めぐ]るなり。東陽は、晉の山東の邑。魏郡廣平より以北なり。○行は、下孟反。

使師僞糴者、負甲以息於昔陽之門外、昔陽、故肥子所都。○糴、音狄。
【読み】
師をして糴者[てきしゃ]と僞りて、甲を負いて以て昔陽の門外に息わしめ、昔陽は、故の肥子の都する所。○糴は、音狄。

遂襲鼓滅之、以鼓子鳶鞮歸、使涉佗守之。守鼓之地。涉佗、晉大夫。○鳶、悅全反。鞮、丁兮反。佗、徒多反。
【読み】
遂に鼓を襲いて之を滅ぼし、鼓子鳶鞮[えんてい]を以[い]て歸り、涉佗をして之を守らしむ。鼓の地を守るなり。涉佗は、晉の大夫。○鳶は、悅全反。鞮は、丁兮反。佗は、徒多反。

丁巳、葬景王。王子朝因舊官百工之喪職秩者、與靈・景之族、以作亂、百工、百官也。靈王・景王之子孫。○喪、息浪反。
【読み】
丁巳[ひのと・み]、景王を葬る。王子朝舊官百工の職秩を喪う者と、靈・景の族とに因りて、以て亂を作し、百工は、百官なり。靈王・景王の子孫。○喪は、息浪反。

帥郊・要・餞之甲、三邑、周地。○要、一遙反。餞、賤淺反。
【読み】
郊・要・餞の甲を帥いて、三邑は、周の地。○要は、一遙反。餞は、賤淺反。

以逐劉子。逐伯蚠。
【読み】
以て劉子を逐う。伯蚠を逐う。

壬戌、劉子奔揚。揚、周邑。
【読み】
壬戌[みずのえ・いぬ]、劉子揚に奔る。揚は、周の邑。

單子逆悼王于莊宮以歸。悼王、子猛也。
【読み】
單子悼王を莊宮に逆えて以て歸る。悼王は、子猛なり。

王子還夜取王以如莊宮。王子還、子朝黨也。不欲使單子得王猛。故取之。
【読み】
王子還夜王を取りて以て莊宮に如く。王子還は、子朝の黨なり。單子をして王猛を得せしめんことを欲せず。故に之を取る。

癸亥、單子出。失王。故出奔。
【読み】
癸亥[みずのと・い]、單子出づ。王を失う。故に出奔す。

王子還與召莊公謀、莊公、召伯奐。子朝黨也。○召、上照反。
【読み】
王子還召莊公と謀りて、莊公は、召伯奐。子朝の黨なり。○召は、上照反。

曰、不殺單旗不捷。旗、單子也。
【読み】
曰く、單旗を殺さずんば捷[か]たじ。旗は、單子なり。

與之重盟、必來。背盟而克者多矣。從之。從還謀也。○背、音佩。
【読み】
之と重盟せば、必ず來らん。盟に背きて克てる者多し、と。之に從う。還が謀に從うなり。○背は、音佩。

樊頃子曰、非言也。必不克。頃子、樊齊。單劉黨。○頃、音傾。
【読み】
樊頃子[はんけいし]曰く、言に非ざるなり。必ず克たじ、と。頃子は、樊齊。單劉の黨。○頃は、音傾。

遂奉王以追單子、王子還奉王。
【読み】
遂に王を奉じて以て單子を追い、王子還王を奉ずるなり。

及領、大盟而復、領、周地。欲重盟、令單子・劉子復歸。
【読み】
領に及びて、大いに盟いて復り、領は、周の地。重盟して、單子・劉子をして復歸せしめんと欲す。

殺摯荒以說。委罪於荒。○說、如字。又音悅。
【読み】
摯荒を殺して以て說く。罪を荒に委ぬ。○說は、字の如し。又音悅。

劉子如劉。歸其采邑。
【読み】
劉子劉に如く。其の采邑に歸る。

單子亡、乙丑、奔于平畤。平畤、周地。知王子還欲背盟。故亡走。○畤、音止。又音市。
【読み】
單子亡げ、乙丑、平畤[へいし]に奔る。平畤は、周の地。王子還が盟に背かんと欲するを知る。故に亡走す。○畤は、音止。又音市。

羣王子追之。單子殺還・姑・發・弱・鬷・延・定・稠。八子、靈・景之族。因戰而殺之。
【読み】
羣王子之を追う。單子還・姑・發・弱・鬷[そう]・延・定・稠を殺す。八子は、靈・景の族。戰に因りて之を殺す。

子朝奔京。其黨死故。
【読み】
子朝京に奔る。其の黨死する故なり。

丙寅、伐之。單子伐京。
【読み】
丙寅[ひのえ・とら]、之を伐つ。單子京を伐つ。

京人奔山。劉子入于王城。子朝奔京。故得入。
【読み】
京人山に奔る。劉子王城に入る。子朝京に奔る。故に入ることを得たり。

辛未、鞏簡公敗績于京。乙亥、甘平公亦敗焉。甘・鞏二公、周卿士。皆爲子朝所敗。
【読み】
辛未[かのと・ひつじ]、鞏簡公京に敗績す。乙亥[きのと・い]、甘平公も亦敗らる。甘・鞏の二公は、周の卿士。皆子朝の爲に敗らる。

叔鞅至自京師、葬景王還。
【読み】
叔鞅京師より至り、景王を葬りて還る。

言王室之亂也。經所以書。
【読み】
王室の亂を言う。經に書す所以なり。

閔馬父曰、子朝必不克。其所與者、天所廢也。閔馬父、閔子馬。魯大夫。天所廢、謂群喪職秩者。
【読み】
閔馬父曰く、子朝は必ず克たじ。其の與する所の者は、天の廢する所なり。閔馬父は、閔子馬。魯の大夫。天の廢する所とは、群の職秩を喪う者を謂う。

單子欲告急於晉、秋、七月、戊寅、以王如平畤。遂如圃車、次于皇。出次以示急。戊寅、七月三日。經書六月誤也。
【読み】
單子急を晉に告げんと欲し、秋、七月、戊寅[つちのえ・とら]、王を以て平畤に如く。遂に圃車に如き、皇に次[やど]る。出でて次りて以て急を示す。戊寅は、七月三日。經六月に書すは誤りなり。

劉子如劉。單子使王子處守于王城、王子處、子猛黨。守王城、距子朝。
【読み】
劉子劉に如く。單子王子處をして王城を守らしめ、王子處は、子猛の黨。王城を守るは、子朝を距ぐなり。

盟百工于平宮。平宮、平王廟。
【読み】
百工に平宮に盟う。平宮は、平王の廟。

辛卯、鄩肸伐皇、鄩肸、子朝黨。○鄩、音尋。肸、許乙反。
【読み】
辛卯[かのと・う]、鄩肸[じんきつ]皇を伐ち、鄩肸は、子朝の黨。○鄩は、音尋。肸は、許乙反。

大敗。獲鄩肸。壬辰、焚諸王城之市。焚鄩肸。
【読み】
大いに敗れぬ。鄩肸を獲たり。壬辰[みずのえ・たつ]、諸を王城の市に焚く。鄩肸を焚く。

八月、辛酉、司徒醜以王師敗績于前城。醜、悼王司徒。前城、子朝所得邑。
【読み】
八月、辛酉[かのと・とり]、司徒醜王の師を以て前城に敗績す。醜は、悼王の司徒。前城は、子朝が得る所の邑。

百工叛、司徒醜敗故。
【読み】
百工叛き、司徒醜敗るる故なり。

己巳、伐單氏之宮、敗焉。百工伐單氏、爲單氏所敗。
【読み】
己巳、單氏の宮を伐ち、敗らる。百工單氏を伐ち、單氏の爲に敗らる。

庚午、反伐之、單氏反伐百工。
【読み】
庚午[かのえ・うま]、反って之を伐ち、單氏反って百工を伐つ。

辛未、伐東圉。百工所在。洛陽東南有圉郷。
【読み】
辛未、東圉を伐つ。百工の在る所。洛陽の東南に圉郷有り。

冬、十月、丁巳、晉籍談・荀躒帥九州之戎、九州戎、陸渾戎。十七年、滅屬晉。州、郷屬也。五州爲郷。○躒、力狄反。
【読み】
冬、十月、丁巳、晉の籍談・荀躒九州の戎と、九州の戎は、陸渾の戎。十七年、滅ぼして晉に屬す。州は、郷の屬なり。五州を郷と爲す。○躒は、力狄反。

及焦・瑕・溫・原之帥、焦・瑕・溫・原、晉四邑。
【読み】
焦・瑕・溫・原の帥とを帥いて、焦・瑕・溫・原は、晉の四邑。

以納王于王城。丁巳、在十月。經書秋誤。
【読み】
以て王を王城に納る。丁巳は、十月に在り。經秋に書すは誤りなり。

庚申、單子・劉蚡以王師敗績于郊。爲子朝之黨所敗。
【読み】
庚申[かのえ・さる]、單子・劉蚡王の師を以て郊に敗績す。子朝の黨の爲に敗らる。

前城人敗陸渾于社。前城、子朝衆。社、周地。
【読み】
前城の人陸渾を社に敗る。前城は、子朝の衆。社は、周の地。

十一月、乙酉、王子猛卒、乙酉、在十一月。經書十月誤。雖未卽位、周人謚曰悼王。
【読み】
十一月、乙酉[きのと・とり]、王子猛卒すとは、乙酉は、十一月に在り。經十月に書すは誤りなり。未だ位に卽かざると雖も、周人謚して悼王と曰う。

不成喪也。釋所以不稱王崩。
【読み】
喪を成さざればなり。王崩ずと稱せざる所以を釋く。

己丑、敬王卽位、敬王、王子猛母弟、王子匃。
【読み】
己丑[つちのと・うし]、敬王位に卽き、敬王は、王子猛の母弟、王子匃[かい]。

館于子旅氏。子旅、周大夫。
【読み】
子旅氏に館る。子旅は、周の大夫。

十二月、庚戌、晉籍談・荀躒・賈辛・司馬督、司馬烏。
【読み】
十二月、庚戌[かのえ・いぬ]、晉の籍談・荀躒・賈辛[かしん]・司馬督、司馬烏。

帥師軍于陰、籍談所軍。
【読み】
師を帥いて陰に、籍談が軍する所。

于侯氏、荀躒所軍。
【読み】
侯氏に、荀躒が軍する所。

于谿泉、賈辛所軍。鞏縣西南有明谿泉。
【読み】
谿泉に軍し、賈辛が軍する所。鞏縣の西南に明谿泉有り。

次于社。司馬督所次。
【読み】
社に次る。司馬督が次る所。

王師軍于氾于解、次于任人。王師分在三邑。洛陽西南有大解・小解。○氾、音凡。解、音蟹。任、音壬。
【読み】
王の師氾に解に軍し、任人に次る。王の師分かれて三邑に在り。洛陽の西南に大解・小解有り。○氾は、音凡。解は、音蟹。任は、音壬。

閏月、晉箕遺・樂徵・右行詭濟師取前城、三子、晉大夫。濟師、渡伊洛。○行、戶郎反。詭、九委反。
【読み】
閏月、晉の箕遺・樂徵・右行詭師を濟[わた]して前城を取りて、三子は、晉の大夫。師を濟すとは、伊洛を渡るなり。○行は、戶郎反。詭は、九委反。

軍其東南、王師軍于京楚。辛丑、伐京、毀其西南。京楚、子朝所在。
【読み】
其の東南に軍し、王の師京楚に軍す。辛丑[かのと・うし]、京を伐ちて、其の西南を毀つ。京楚は、子朝が在る所。



經十八年。琅邪。音郎。本或朔郎。
傳。萇弘。直良反。稔之。而審反。侈故。昌氏反。又尸氏反。夏伯。戶雅反。壬午大甚。本或作火甚。其處。昌慮反。下祭處同。故登以望氣。本或朔以望氛氣。禳火。如羊反。今復。扶又反。下同。竈焉。於虔反。有中。丁仲反。里析。星歷反。將有大祥。本或作火祥、非也。身泯。面忍反。以知。音智。使輿。音餘。其柩。巨久反。爲其。于僞反。欲令。力呈反。巡行。下孟反。下文行火、注履行同。石函。音咸。易救。以豉反。各儆。音景。寘諸。之豉反。玄冥。亡丁反。賦稅。始銳反。盡俘。芳夫反。歸以語。魚據反。上替。他計反。生長。丁丈反。祓禳。除音廢。蒐場。直良反。而郷。本亦作向。注同。及衝。昌容反。使從。才用反。登陴。婢支反。忘守。手又反。一音如字。勁忿。古政反。恐懼。丘勇反。讒慝。他得反。荐爲。在遍反。荐重。直用反。下文同。他竟。音境。注同。楚喪。息浪反。君盍。戶臘反。許先。悉薦反。而復。扶又反。蔽障。章亮反。子說。音悅。於析。星歷反。
經十九年。爲鄅。于僞反。加殺。音試。○今本弑。
傳。城郟。古洽反。其僅。音覲。以持。如字。本或作恃怙之恃、非也。少師。詩照反。王爲之。于僞反。注同。悼公瘧。病也。伐濮。音卜。諸夏。戶雅反。城父。音甫。而寘。之豉反。王說。音悅。贛楡。古弄反。如淳音耿弇反。下音兪。釐婦。依字作嫠。○今本嫠。而去之。起呂反。藏也。裴松之注魏志云、古人謂藏爲去。案今關中猶有此音。紡纑。力吳反。麻縷也。夜縋。直僞反。鼓譟。素報反。上之人亦譟。一本作城上之人亦譟。○今本亦同。共公。音恭。幼少。詩照反。駟氏聳。息勇反。札。側八反。 一音截。大死也。字林、作■(左が歹で右が小)。壯列反。云、夭死也。瘥。才河反。字林、作■(左が歹で右が差)夭。於表反。昏。如字。小疫。音役。又喪。息浪反。懼隊。直類反。立長。丁丈反。注同。實剝。邦角反。諺曰。音彥。無過。一音古臥反。猶憚。待旦反。子旗。音其。民樂。音洛。勞罷。本或作疲。我覿。大歷反。見也。賢遍反。之知。音智。舍前。音捨。又音赦。
經二十年。自鄸。字林、音夢。案夢字、字林、亡忠反。之使。所吏反。君爭。爭鬭之爭。惡之。烏路反。侯盧。本又作廬。今本亦廬。
傳。望氛。芳云反。幾亡。音祈。又音機。後弭。彌耳反。汏侈。音泰。奮揚。方問反。大子冤。於元反。遣令。力呈反。再奸。音干。使還。音環。下還豹同。盍以。戶臘反。之長。丁丈反。不逮。音代。一音大計反。愈差。初賣反。僚也。力彫反。○今本無也字。吳殺。申志反。○今本弑。公孫援。于眷反。拘向勝。九于反。其廩。力甚反。大子欒。力官反。無慼。千歷反。狎齊豹。戶甲反。圃。布五反。欲去。起呂反。適母。丁歷反。本亦作嫡。○今本亦嫡。爲驂。七南反。乘焉。繩證反。注及下驂乘・與乘・一乘・駟乘・就公乘皆同。借我。子夜反。親近。附近之近。是僭。子念反。寘戈。之豉反。要其。一遙反。及閎。音宏。斷肱。古弘反。乘驅。如字。又繩證反。閱門。音悅。魋。徒回反。復就。扶又反。之衢。其倶反。肉袒。徒旱反。氏爭。爭鬭之爭。之處。昌慮反。欲令。力呈反。析朱。星歷反。鉏。仕居反。草莽。莫蕩反。之好。呼報反。宗祧。他彫反。致使。所吏反。注同。從者。才用反。牧圉。魚呂反。執鐸。待洛反。終夕與燎。一本作終夕與於燎。○今本亦同。徧賜。音遍。名牢。力刀反。疚於。居又反。回邪。似嗟反。下同。費遂。扶味反。其訽。本或作詬。同。少司。詩照反。下注少皞同。公遽。其據反。而女。音汝。齊侯疥。舊音戒。梁元帝音該。依字則當作痎。說文云、兩日一發之瘧也。痎又音皆。後學之徒僉以疥字爲誤。案傳例因事曰遂。若痎已是瘧疾、何爲復言遂痁乎。不瘳。勑留反。裔款。以制反。齊嬖。必計反。君盍。戶臘反。事治。直吏反。不媿。九位反。本又作愧。今本亦愧。無猜。七才反。以蕃。音煩。祉。音恥。爲信。于僞反。又如字。下爲暴君使同。邪。似嗟反。撞鍾。直江反。○今本鐘。斬艾。本又作刈。魚廢反。○今本刈。其聚。才住反。又如字。謗讟。徒木反。無悛。七全反。矯誣。居表反。求媚。眉記反。其言僭。子念反。下僭令同。嫚。武諫反。舟鮫。音交。藪。素口反。薪蒸。之烝反。麤曰薪、細曰蒸。偪介。彼力反。下音界。迫近。附近之近。其賄。呼罪反。則應。應對之應。注同。養長。丁丈反。皆詛。莊慮反。億兆。於力反。公說。音悅。旃以。之然反。韙之。于鬼反。至自佃。音田。本亦作田。○今本亦田。焉得。於虔反。如羮。音庚。舊音衡。醯。呼兮反。醢。音海。以亨。普庚反。煮也。○今本烹。炊也。昌垂反。以泄。息列反。○今本洩。無爭。爭鬭之爭。總也。音揔。五聲。宮爲君、商爲臣、角爲民、徵爲事、羽爲物。角徵。張里反。大蔟。音泰。七音。宮・商・角・徵・羽・變宮・變徵也。八風。易緯通卦驗云、東北曰條風、東方曰明庶風、東南曰淸明風、南方曰景風、西南曰涼風、西方曰閶闔風、西北曰不周風、北方曰廣莫風。條風又名融風、景風一名凱風。哀樂。音洛。下及注皆同。周流。傳本皆作流。然此五句皆相對。不應獨作周流。古本有作疏者。案注訓周爲密、則與疏相對。宜爲疏耳。○今本亦疏。豳風。彼貧反。專壹。如字。董遇本作摶。音同。虞夏。戶雅反。大公。音泰。爽鳩氏樂之。一本作之樂。○今本亦同。鮮死。息淺反。水懦。乃亂反。又乃臥反。一音儒。民狎。戶甲反。而翫。五亂反。以治。直吏反。數月。所主反。盡之。本或作盡殺之。殺衍字。○今本亦盡殺之。糾之。居黝反。苛政。音何。無從。本又作毋。○今本亦毋。詭隨。九委反。式遏。於葛反。慘不。七感反。
經二十一年。頃公。音傾。
傳。將鑄。之樹反。律中。丁仲反。泠州鳩。字或作伶、或作冷、非。心億。於力反。則樂。音洛。適子。丁歷反。以長。丁丈反。人恐。丘勇反。下注同。少司。詩照反。張匃。古害反。本亦作丐。而訊。音信。將見。賢遍反。鄭翩。音篇。豐愆。起虔反。本或作衍。睢陽。音雖。舊鄘。音容。本或作墉。廚人。直誅反。濮。音卜。盍反。戶臘反。二帥。色類反。注同。死難。乃旦反。待復。扶又反。下文復卽之同。乃徇。似俊反。揚徽。許歸反。說文作幑。徽識。本又作幟。一音式。裹首。音果。不訾。本又作呰。○今本亦呰。赭丘。丘又作皆陳。直覲反。莊重。本或作莊菫父。則關。本又作彎。同。下同。相余。息亮反。殪。一計反。君焉。於虔反。迋恐。丘勇反。乃復。扶又反。朱愬。音素。懼泄。息列反。又以制反。
經二十二年。大蒐。所求反。鞏縣。九勇反。子朝難。乃旦反。郟。古洽反。鄏。音辱。
傳。牧之。州牧之牧。齊帥。所類反。能復。扶又反。下復欲同。省臧。子郎反。祁犂。力私反。又力兮反。後弭。彌氏反。之長。丁丈反。王語。魚據反。劉摯。音至。下同。有欲位之言。一本位作立。○今本亦同。自憚。徒旦反。其犧也。許宜反。遽歸。其據反。弗應。應對之應。注同。北芒。音亡。錡澗。古晏反。守之。手又反。又如字。伯奐。音喚。單旗。音其。不捷。才接反。樊頃子。頃、本或作須字。令單。力呈反。奔平畤。一本作于平畤。下同。本或作平壽、誤。○今本亦于平畤。鬷。子工反。稠。直由反。鞏簡。九勇反。圃車。音補。東圉。魚呂反。于社。市者反。本或作杜。下音同。王子匃。古害反。司馬督。音篤。

春秋左氏傳校本第二十五

昭公 起二十三年盡二十六年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

〔經〕
二十有三年、春、王正月、叔孫婼如晉。謝取邾師。○婼、勑畧反。
【読み】
〔經〕二十有三年、春、王の正月、叔孫婼[しゅくそんちゃく]晉に如く。邾[ちゅ]の師を取ることを謝す。○婼は、勑畧反。

癸丑、叔鞅卒。無傳。
【読み】
癸丑[みずのと・うし]、叔鞅卒す。傳無し。

晉人執我行人叔孫婼。稱行人、譏晉執使人。
【読み】
晉人我が行人叔孫婼を執う。行人と稱するは、晉使人を執うるを譏るなり。

晉人圍郊。討子朝也。郊、周邑。圍郊、在叔鞅卒前。經書後、從赴。
【読み】
晉人郊を圍む。子朝を討ずるなり。郊は、周の邑。郊を圍むは、叔鞅卒する前に在り。經後に書すは、赴[つ]ぐるに從うなり。

夏、六月、蔡侯東國卒于楚。無傳。未同盟、而赴以名。
【読み】
夏、六月、蔡侯東國楚に卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴ぐるに名を以てす。

秋、七月、莒子庚輿來奔。戊辰、吳敗頓・胡・沈・蔡・陳・許之師于雞父。不書楚、楚不戰也。雞父、楚地。安豐縣南有雞備亭。
【読み】
秋、七月、莒子庚輿來奔す。戊辰[つちのえ・たつ]、吳頓・胡・沈[しん]・蔡・陳・許の師を雞父に敗る。楚を書さざるは、楚戰わざればなり。雞父は、楚の地。安豐縣の南に雞備亭有り。

胡子髡・沈子逞滅。國雖存君死曰滅。○髡、苦門反。逞、勑幷反。
【読み】
胡子髡[こしこん]・沈子逞[しんしてい]滅ぶ。國存すと雖も君の死するを滅ぶと曰う。○髡は、苦門反。逞は、勑幷反。

獲陳夏齧。大夫、死生通曰獲。夏齧、徵舒玄孫。○齧、五結反。
【読み】
陳の夏齧[かけつ]を獲。大夫は、死生通じて獲と曰う。夏齧は、徵舒の玄孫。○齧は、五結反。

天王居于狄泉。敬王。辟子朝也。狄泉、今洛陽城内大倉西南池水也。時在城内。○大、音泰。
【読み】
天王狄泉に居る。敬王なり。子朝を辟くるなり。狄泉は、今の洛陽城内の大倉の西南の池水なり。時に城内に在り。○大は、音泰。

尹氏立王子朝。尹氏、周世卿也。書尹氏立子朝、明非周人所欲立。
【読み】
尹氏王子朝を立つ。尹氏は、周の世卿なり。尹氏子朝を立つと書すは、周人の立てんと欲する所に非ざるを明らかにするなり。

八月、乙未、地震。冬、公如晉。至河有疾、乃復。
【読み】
八月、乙未[きのと・ひつじ]、地震す。冬、公晉に如く。河に至りて疾有り、乃ち復る。

〔傳〕二十三年、春、王正月、壬寅、朔、二師圍郊。二師、王師・晉師也。王師不書、不以告。
【読み】
〔傳〕二十三年、春、王の正月、壬寅[みずのえ・とら]、朔、二師郊を圍む。二師は、王の師・晉の師なり。王の師書さざるは、以て告げざればなり。

癸卯、郊・鄩潰。河南鞏縣西南有地、名鄩中。郊・鄩二邑、皆子朝所得。○鄩、音尋。
【読み】
癸卯[みずのと・う]、郊・鄩[じん]潰ゆ。河南鞏縣の西南に地有り、鄩中と名づく。郊・鄩の二邑は、皆子朝が得る所。○鄩は、音尋。

丁未、晉師在平陰、王師在澤邑。平陰、今河陰縣。
【読み】
丁未[ひのと・ひつじ]、晉の師平陰に在り、王の師澤邑に在り。平陰は、今の河陰縣。

王使告閒。子朝敗故。○閒、音閑。
【読み】
王閒を告げしむ。子朝敗るる故なり。○閒は、音閑。

庚戌、還。晉師還。
【読み】
庚戌[かのえ・いぬ]、還る。晉の師還る。

邾人城翼、翼、邾邑。
【読み】
邾人[ちゅひと]翼に城き、翼は、邾の邑。

還、將自離姑。離姑、邾邑。從離姑、則道徑魯之武城。○徑、音經。
【読み】
還るに、將に離姑よりせんとす。離姑は、邾の邑。離姑よりするときは、則ち道魯の武城を徑[わた]る。○徑は、音經。

公孫鉏曰、魯將御我。鉏、邾大夫。○御、魚呂反。
【読み】
公孫鉏曰く、魯將に我を御[ふせ]がんとす、と。鉏は、邾の大夫。○御は、魚呂反。

欲自武城還、循山而南。至武城而還、依山南行、不欲過武城。○過、古禾反。
【読み】
武城より還り、山に循いて南せんと欲す。武城に至りて還り、山に依りて南行して、武城を過ることを欲せず。○過は、古禾反。

徐鉏・丘弱・茅地、三子、邾大夫。
【読み】
徐鉏・丘弱・茅地、三子は、邾の大夫。

曰、道下。遇雨、將不出。是不歸也。謂此山道下濕。
【読み】
曰く、道下[ひく]し。雨に遇わば、將に出でられざらんとす。是れ歸られざらん、と。此の山道下濕なるを謂う。

遂自離姑。遂過武城。
【読み】
遂に離姑よりす。遂に武城を過ぐ。

武城人塞其前、以兵塞其前道。
【読み】
武城の人其の前を塞ぎ、兵を以て其の前道を塞ぐ。

斷其後之木而弗殊。邾師過之。乃推而蹙之、遂取邾師、獲鉏・弱・地。取邾師不書、非公命。○斷、丁管反。蹙、其月反。又音厥。又居衛反。
【読み】
其の後の木を斷りて殊[た]たず。邾の師之を過ぐ。乃ち推して之を蹙[たお]し、遂に邾の師を取り、鉏・弱・地を獲たり。邾の師を取ること書さざるは、公命に非ざればなり。○斷は、丁管反。蹙は、其月反。又音厥。又居衛反。

邾人愬于晉。晉人來討。叔孫婼如晉。晉人執之。
【読み】
邾人晉に愬[うった]う。晉人來り討ず。叔孫婼晉に如く。晉人之を執う。

書曰晉人執我行人叔孫婼、言使人也。嫌内外異。故重發傳。○重、直用反。
【読み】
書して晉人我が行人叔孫婼を執うと曰うは、使人なるを言うなり。内外異なるに嫌あり。故に重ねて傳を發す。○重は、直用反。

晉人使與邾大夫坐。坐、訟曲直。
【読み】
晉人邾の大夫と坐せしめんとす。坐は、曲直を訟うなり。

叔孫曰、列國之卿、當小國之君、固周制也。在禮、卿得會伯・子・男。故曰當小國之君。
【読み】
叔孫曰く、列國の卿は、小國の君に當たるは、固より周の制なり。禮に在りて、卿は伯・子・男に會することを得。故に小國の君に當たると曰う。

邾又夷也。邾、雜有東夷之風。
【読み】
邾は又夷なり。邾は、東夷の風を雜有す。

寡君之命介子服回在。子服回、魯大夫。爲叔孫之介副。
【読み】
寡君の命介子服回在り。子服回は、魯の大夫。叔孫の介副爲り。

請使當之。不敢廢周制故也。乃不果坐。
【読み】
請う之に當たらしめん。敢えて周の制を廢せざる故なり、と。乃ち坐することを果たざず。

韓宣子使邾人聚其衆。將以叔孫與之。與邾使執之。
【読み】
韓宣子邾人をして其の衆を聚めしむ。將に叔孫を以て之に與えんとす。邾に與えて之を執えしむ。

叔孫聞之、去衆與兵而朝。示欲以身死。○去、起呂反。
【読み】
叔孫之を聞き、衆と兵とを去りて朝す。身を以て死せんと欲するを示す。○去は、起呂反。

士彌牟謂韓宣子、彌牟、士景伯。
【読み】
士彌牟韓宣子に謂いて、彌牟は、士景伯。

曰、子弗良圖、而以叔孫與其讎、叔孫必死之。魯亡叔孫、必亡邾。邾君亡國、將焉歸。時邾君在晉。若亡國、無所歸。將益晉憂。
【読み】
曰く、子良圖せずして、叔孫を以て其の讎に與えば、叔孫必ず之に死せん。魯叔孫を亡わば、必ず邾を亡ぼさん。邾の君國を亡わば、將に焉[いずく]に歸せんとする。時に邾の君晉に在り。若し國を亡わば、歸する所無けん。將に晉の憂えを益さんとす。

子雖悔之何及。所謂盟主、討違命也。若皆相執、焉用盟主。聽邾衆取叔孫、是爲諸侯得皆輒相執。
【読み】
子之を悔ゆと雖も何ぞ及ばん。所謂盟主とは、命に違えるを討ずればなり。若し皆相執えば、焉ぞ盟主を用いん、と。邾の衆叔孫を取るを聽[ゆる]すは、是れ諸侯皆輒[たやす]く相執うることを得ると爲す。

乃弗與。使各居一館。分別叔孫・子服回。
【読み】
乃ち與えず。各々一館に居らしむ。叔孫と子服回とを分別す。

士伯聽其辭、而愬諸宣子。乃皆執之。二子辭不屈。故士伯愬而執之。
【読み】
士伯其の辭を聽きて、諸を宣子に愬う。乃ち皆之を執う。二子の辭屈せず。故に士伯愬えて之を執う。

士伯御叔孫、從者四人、過邾館以如吏。欲使邾人見叔孫之屈辱。
【読み】
士伯叔孫を御[すす]め、從者四人にて、邾の館を過ぎて以て吏に如く。邾人をして叔孫の屈辱を見せしめんと欲す。

先歸邾子。
【読み】
先ず邾子を歸す。

士伯曰、以芻蕘之難、從者之病、將館子於都。都、別都。謂箕也。
【読み】
士伯曰く、芻蕘[すうじょう]の難くして、從者の病めるを以て、將に子を都に館せんとす、と。都は、別都。箕を謂うなり。

叔孫旦而立、期焉。立、待命也。從旦至旦爲期。○期、居其反。
【読み】
叔孫旦よりして立ち、期まです。立つは、命を待つなり。旦より旦に至るまでを期と爲す。○期は、居其反。

乃館諸箕、舍子服昭伯於他邑。別囚之。
【読み】
乃ち諸を箕に館し、子服昭伯を他邑に舍く。別に之を囚う。

范獻子求貨於叔孫、使請冠焉。以求冠爲辭。
【読み】
范獻子貨を叔孫に求めんとして、冠を請わしむ。冠を求むるを以て辭と爲す。

取其冠法而與之兩冠、曰、盡矣。旣送作冠模法、又進二冠以與之、僞若不解其意。
【読み】
其の冠法を取りて之に兩冠を與えて、曰く、盡きたり、と。旣に冠を作る模法を送り、又二冠を進めて以て之に與うるは、僞りて其の意を解せざるが若くするなり。

爲叔孫故、申豐以貨如晉。欲行貨以免叔孫。
【読み】
叔孫が爲の故に、申豐貨を以て晉に如く。貨を行いて以て叔孫を免されんと欲す。

叔孫曰、見我。吾告女所行貨。見而不出。留申豐不使得出。不欲以貨免。○女、音汝。
【読み】
叔孫曰く、我を見よ。吾れ女に貨を行う所を告げん、と。見て出ださず。申豐を留めて出づることを得せしめず。貨を以て免されんことを欲せざるなり。○女は、音汝。

吏人之與叔孫居於箕者、請其吠狗。弗與。及將歸、殺而與之食之。示不愛。
【読み】
吏人の叔孫と箕に居る者、其の吠狗[はいこう]を請う。與えず。將に歸らんとするに及びて、殺して之に與えて之を食らわしたり。愛しまざるを示す。

叔孫所館者、雖一日必葺其牆屋。葺、補治也。
【読み】
叔孫が館る所の者は、一日と雖も必ず其の牆屋を葺く。葺くとは、補治するなり。

去之如始至。不以當去而有所毀壞。
【読み】
之を去るとき始めて至るが如し。當に去るべきを以て毀壞する所有らず。

夏、四月、乙酉、單子取訾、劉子取牆人・直人。三邑、屬子朝者。訾、在河南鞏縣西南。○訾、子斯反。
【読み】
夏、四月、乙酉[きのと・とり]、單子訾[し]を取り、劉子牆人・直人を取る。三邑は、子朝に屬する者。訾は、河南鞏縣の西南に在り。○訾は、子斯反。

六月、壬午、王子朝入于尹。自京入尹氏之邑。
【読み】
六月、壬午[みずのえ・うま]、王子朝尹に入る。京より尹氏の邑に入る。

癸未、尹圉誘劉佗殺之。尹圉、尹文公也。劉佗、劉蚠族、敬王黨。
【読み】
癸未[みずのと・ひつじ]、尹圉劉佗を誘きて之を殺す。尹圉は、尹文公なり。劉佗は、劉蚠[りゅうふん]の族、敬王の黨。

丙戌、單子從阪道、劉子從尹道、伐尹。單子先至而敗。劉子還。單子敗故。
【読み】
丙戌[ひのえ・いぬ]、單子は阪道よりし、劉子は尹道よりして、尹を伐つ。單子先ず至りて敗らる。劉子還る。單子敗るる故なり。

己丑、召伯奐・南宮極以成周人戍尹。三子、周卿士、子朝黨。奐、召莊公。
【読み】
己丑[つちのと・うし]、召伯奐・南宮極成周の人を以[い]て尹を戍る。三子は、周の卿士、子朝の黨。奐は、召莊公。
*「三子」は、漢籍國字解全書では「二子」。「二子」が正しいだろう。

庚寅、單子・劉子・樊齊以王如劉。辟子朝出、居劉子邑。
【読み】
庚寅[かのえ・とら]、單子・劉子・樊齊王を以て劉に如く。子朝を辟けて出でて、劉子の邑に居る。

甲午、王子朝入于王城、次于左巷。近東城。
【読み】
甲午[きのえ・うま]、王子朝王城に入り、左巷に次[やど]る。東城に近し。

秋、七月、戊申、鄩羅納諸莊宮。鄩羅、周大夫。鄩肸之子。
【読み】
秋、七月、戊申[つちのえ・さる]、鄩羅諸を莊宮に納れぬ。鄩羅は、周の大夫。鄩肸[じんきつ]の子。

尹辛敗劉師于唐。尹辛、尹氏族。唐、周地。
【読み】
尹辛劉の師を唐に敗る。尹辛は、尹氏の族。唐は、周の地。

丙辰、又敗諸鄩。甲子、尹辛取西闈、西闈、周地。
【読み】
丙辰[ひのえ・たつ]、又諸を鄩に敗る。甲子[きのえ・ね]、尹辛西闈[せいい]を取り、西闈は、周の地。

丙寅、攻蒯。蒯潰。河南縣西南蒯郷是也。於是敬王居狄泉、尹氏立子朝。○蒯、苦怪反。
【読み】
丙寅[ひのえ・とら]、蒯[かい]を攻む。蒯潰ゆ。河南縣の西南の蒯郷是れなり。是に於て敬王狄泉に居り、尹氏子朝を立つ。○蒯は、苦怪反。

莒子庚輿虐而好劒。苟鑄劒、必試諸人。國人患之。又將叛齊。烏存帥國人以逐之。烏存、莒大夫。
【読み】
莒子庚輿虐にして劒を好む。苟も劒を鑄れば、必ず諸を人に試む。國人之を患う。又將に齊に叛かんとす。烏存國人を帥いて以て之を逐う。烏存は、莒の大夫。

庚輿將出。聞烏存執殳而立於道左、懼、將止死。殳、長丈二而無刃。○殳、音殊。
【読み】
庚輿將に出でんとす。烏存が殳[ほこ]を執りて道左に立つと聞き、懼れ、將に止まり死せんとす。殳[しゅ]は、長[たけ]丈二にして刃無し。○殳は、音殊。

苑羊牧之曰、君過之。牧之、亦莒大夫。
【読み】
苑羊牧之曰く、君之を過ぎよ。牧之も、亦莒の大夫。

烏存以力聞、可矣。何必以弑君成名。遂來奔。
【読み】
烏存力を以て聞えて、可なり。何ぞ必ずしも君を弑するを以て名を成さん、と。遂に來奔す。

齊人納郊公。郊公、著丘公之子。十四年、奔齊。○著、直除反。又直慮反。
【読み】
齊人郊公を納れぬ。郊公は、著丘公の子。十四年、齊に奔る。○著は、直除反。又直慮反。

吳人伐州來。楚薳越帥師、令尹以疾從戎。故薳越攝其事。○薳、于委反。
【読み】
吳人州來を伐つ。楚の薳越[いえつ]師を帥いて、令尹疾を以て戎に從う。故に薳越其の事を攝す。○薳は、于委反。

及諸侯之師奔命救州來。吳人禦諸鍾離。子瑕卒、楚師熸。子瑕、卽令尹。不起所疾也。呉・楚之閒、謂火滅爲熸。軍之重主喪亡。故其軍人無復氣勢。○熸、子潛反。
【読み】
諸侯の師と奔命して州來を救う。吳人諸を鍾離に禦ぐ。子瑕卒し、楚の師熸[き]えぬ。子瑕は、卽ち令尹なり。疾む所を起たざるなり。呉・楚の閒、火の滅ゆるを謂いて熸[せん]と爲す。軍の重主喪亡す。故に其の軍人復氣勢無し。○熸は、子潛反。

吳公子光曰、諸侯從於楚者衆、而皆小國也。畏楚而不獲已。是以來。吾聞之、曰、作事威克其愛、雖小必濟。克、勝也。軍事尙威。
【読み】
吳の公子光曰く、諸侯の楚に從う者衆きも、而れども皆小國なり。楚を畏れて已むことを獲ず。是を以て來れるなり。吾れ之を聞く、曰く、事を作すに威其の愛に克てば、小と雖も必ず濟る、と。克は、勝つなり。軍事は威を尙ぶ。

胡・沈之君幼而狂。狂、無常。
【読み】
胡・沈の君は幼にして狂なり。狂は、常無きなり。

陳大夫齧壯而頑。頓與許・蔡疾楚政。楚令尹死、其師熸、帥賤多寵、政令不壹。帥賤、薳越非正卿也。軍多寵人政令不壹於越。○帥、所類反。下同。
【読み】
陳の大夫齧は壯にして頑なり。頓と許・蔡とは楚の政を疾[にく]む。楚の令尹死して、其の師熸え、帥賤しく寵多くして、政令壹ならず。帥賤しとは、薳越正卿に非ざればなり。軍寵人政令多くして越に壹ならず。○帥は、所類反。下も同じ。

七國同役而不同心。七國、楚・頓・胡・沈・蔡・陳・許。
【読み】
七國役を同じくして心を同じくせず。七國は、楚・頓・胡・沈・蔡・陳・許。

帥賤而不能整、無大威命。楚可敗也。若分師、先以犯胡・沈與陳、必先奔。三國敗、諸侯之師乃搖心矣。諸侯乖亂、楚必大奔。請先者去備薄威、示之以不整、以誘之。○去、起呂反。
【読み】
帥賤しくして整うること能わずして、大威命無し。楚をば敗る可し。若し師を分けて、先ず以て胡・沈と陳とを犯さば、必ず先ず奔らん。三國敗れば、諸侯の師乃ち心を搖[うご]かさん。諸侯乖亂せば、楚必ず大いに奔らん。請う、先なる者は備えを去りて威を薄くし、之に示すに整わざるを以てして、以て之を誘く。○去は、起呂反。

後者敦陳整旅。敦、厚也。○陳、直覲反。
【読み】
後なる者は陳を敦くし旅を整えん、と。敦は、厚きなり。○陳は、直覲反。

吳子從之。
【読み】
吳子之に從う。

戊辰、晦、戰于雞父。七月二十九日。違兵忌晦戰、擊楚所不意。
【読み】
戊辰、晦、雞父に戰う。七月二十九日。兵忌に違いて晦に戰うは、楚の不意なる所を擊つなり。

吳子以罪人三千、先犯胡・沈與陳。囚徒不習戰。以示不整。
【読み】
吳子罪人三千を以て、先ず胡・沈と陳とを犯す。囚徒は戰を習わず。以て整わざるを示す。

三國爭之。吳爲三軍以繫於後、中軍從王、從吳王。
【読み】
三國之を爭う。吳三軍を爲して以て後に繫げて、中軍は王に從い、吳王に從う。

光帥右、掩餘帥左。掩餘、吳王壽夢子。
【読み】
光は右を帥い、掩餘は左を帥いぬ。掩餘は、吳王壽夢[じゅぼう]の子。

吳之罪人或奔或止。三國亂。吳師擊之。三國敗。獲胡・沈之君及陳大夫。舍胡・沈之囚、使奔許與蔡・頓、曰吾君死矣、師譟而從之。三國奔。三國、許・蔡・頓。○譟、素報反。
【読み】
吳の罪人或は奔り或は止まる。三國亂る。吳の師之を擊つ。三國敗れぬ。胡・沈の君と陳の大夫とを獲たり。胡・沈の囚を舍[ゆる]して、許と蔡・頓とに奔りて、吾が君死したりと曰わしめて、師譟[さわ]ぎて之に從う。三國奔る。三國は、許・蔡・頓。○譟は、素報反。

楚師大奔。
【読み】
楚の師大いに奔る。

書曰胡子髡・沈子逞滅、獲陳夏齧、君臣之辭也。國君、社稷之主。與宗廟共其存亡者。故稱滅。大夫輕。故曰獲。獲、得也。
【読み】
書して胡子髡・沈子逞滅びて、陳の夏齧を獲ると曰うは、君臣の辭なり。國君は、社稷の主。宗廟と其の存亡を共にする者なり。故に滅ぶと稱す。大夫は輕し。故に獲と曰う。獲は、得るなり。

不言戰、楚未陳也。嫌與陳例相涉。故重發之。
【読み】
戰と言わざるは、楚未だ陳せざればなり。陳の例と相涉るに嫌あり。故に重ねて之を發す。

八月、丁酉、南宮極震。經書乙未地動、魯地也。丁酉南宮極震、周地亦震也。爲屋所壓而死。
【読み】
八月、丁酉[ひのと・とり]、南宮極震せらる。經乙未に地動すと書すは、魯の地なり。丁酉に南宮極震せらるとは、周の地に亦震するなり。屋の爲に壓[お]されて死するなり。

萇弘謂劉文公曰、君其勉之。先君之力可濟也。文公、劉蚠也。先君、謂蚠之父獻公也。獻公亦欲立子猛、未及而卒。
【読み】
萇弘劉文公に謂いて曰く、君其れ之を勉めよ。先君の力濟す可きなり。文公は、劉蚠なり。先君は、蚠の父獻公を謂うなり。獻公も亦子猛を立てんと欲し、未だ及ばずして卒せり。

周之亡也、其三川震。謂幽王時也。三川、涇・渭・洛水也。地動、川岸崩。
【読み】
周の亡びしや、其の三川震せり。幽王の時を謂うなり。三川は、涇・渭・洛水なり。地動すとは、川岸崩るるなり。

今西王之大臣亦震。天棄之矣。子朝在王城。故謂西王。
【読み】
今西王の大臣も亦震せらる。天の之を棄つるなり。子朝王城に在り。故に西王と謂う。

東王必大克。敬王居狄泉、在王城之東。故曰東王。
【読み】
東王必ず大いに克たん、と。敬王狄泉に居りて、王城の東に在り。故に東王と曰う。

楚大子建之母在郹。郹、郹陽也。平王娶秦女、廢大子建。故母歸其家。○郹、古闃反。
【読み】
楚の大子建の母郹[げき]に在り。郹は、郹陽なり。平王秦の女を娶りて、大子建を廢す。故に母其の家に歸る。○郹は、古闃反。

召吳人而啓之。冬、十月、甲申、吳大子諸樊入郹、諸樊、吳王僚之大子。
【読み】
吳人を召して之を啓[みちび]く。冬、十月、甲申[きのえ・さる]、吳の大子諸樊郹に入り、諸樊は、吳王僚の大子。

取楚夫人與其寶器以歸。楚司馬薳越追之。不及。將死。衆曰、請遂伐吳以徼之。徼、要其勝負。○徼、古堯反。
【読み】
楚の夫人と其の寶器とを取りて以て歸る。楚の司馬薳越之を追う。及ばず。將に死なんとす。衆曰く、請う、遂に吳を伐ちて以て之を徼[もと]めよ、と。徼は、其の勝負を要むるなり。○徼は、古堯反。

薳越曰、再敗君師、死且有罪。此年秋、敗於雞父。設往復敗、爲再敗。
【読み】
薳越曰く、再び君の師を敗らば、死も且[まさ]に罪有らんとす。此の年の秋、雞父に敗れぬ。設[も]し往きて復敗れば、再敗と爲す。

亡君夫人。不可以莫之死也。乃縊於薳澨。薳澨、楚地。○縊、音翳。
【読み】
君夫人を亡えり。以て之に死すること莫かる可からず、と。乃ち薳澨[いぜい]に縊れぬ。薳澨は、楚の地。○縊は、音翳。

公爲叔孫故、如晉。及河、有疾而復。此年春、晉爲邾人執叔孫。故公如晉謝之。○爲、去聲。
【読み】
公叔孫の爲の故に、晉に如く。河に及び、疾有りて復る。此の年の春、晉邾人の爲に叔孫を執う。故に公晉に如きて之を謝せんとす。○爲は、去聲。

楚囊瓦爲令尹。囊瓦、子囊之孫、子常也。代陽匃。
【読み】
楚の囊瓦令尹と爲る。囊瓦は、子囊の孫、子常なり。陽匃[ようかい]に代わる。

城郢。楚用子囊遺言、已築郢城矣。今畏吳、復增脩以自固。○郢、以井反。
【読み】
郢[えい]に城く。楚子囊の遺言を用て、已に郢城を築けり。今吳を畏れ、復增脩して以て自ら固む。○郢は、以井反。

沈尹戌曰、子常必亡郢。苟不能衛、城無益也。古者天子守在四夷。德及遠。○守、除下守其皆去聲。
【読み】
沈尹戌曰く、子常必ず郢を亡わん。苟も衛ること能わざれば、城くも益無し。古は天子は守り四夷に在り。德遠くに及ぶ。○守は、下の守其を除きて皆去聲。

天子卑、守在諸侯。政卑損。
【読み】
天子卑しくして、守り諸侯に在り。政卑損す。

諸侯守在四鄰。鄰國爲之守。
【読み】
諸侯は守り四鄰に在り。鄰國之が守りと爲る。

諸侯卑、守在四竟。裁自完。
【読み】
諸侯卑しくして、守り四竟に在り。[はじ]めて自ら完くす。

愼其四竟、結其四援、結四鄰之國爲援助。
【読み】
其の四竟を愼み、其の四援を結び、四鄰の國を結びて援助と爲す。

民狎其野、狎、安習也。
【読み】
民其の野に狎れ、狎は、安習なり。

三務成功、春夏秋三時之務。
【読み】
三務功を成し、春夏秋三時の務め。

民無内憂、而又無外懼、國焉用城。今吳是懼、而城於郢、守已小矣。卑之不獲。能無亡乎。不獲守四竟。
【読み】
民内憂無くして、又外懼無くば、國焉ぞ城くことを用いん。今吳を是れ懼れて、郢に城くは、守り已に小なり。卑しきだも獲ず。能く亡うこと無からんや。四竟を守ることを獲ず。

昔梁伯溝其公宮而民潰。在僖十八年。
【読み】
昔梁伯其の公宮に溝して民潰えたり。僖十八年に在り。

民棄其上、不亡何待。夫正其疆埸、脩其土田、險其走集、走集、邊竟之壘壁。
【読み】
民其の上を棄てば、亡わずして何をか待たん。夫れ其の疆埸[きょうえき]を正し、其の土田を脩め、其の走集を險にし、走集は、邊竟の壘壁。

親其民人、明其伍候、使民有部伍、相爲候望。
【読み】
其の民人を親しみ、其の伍候を明らかにし、民をして部伍有り、相爲に候望せしむ。

信其鄰國、愼其官守、守其交禮、交接之禮。
【読み】
其の鄰國に信をし、其の官守を愼み、其の交禮を守りて、交接の禮。

不僭不貪、不懦不耆、懦、弱也。耆、强也。○懦、乃亂反。又乃臥反。耆、巨之反。一巨支反。
【読み】
僭[たが]わず貪らず、懦[よわ]からず耆[つよ]からず、懦は、弱きなり。耆は、强きなり。○懦は、乃亂反。又乃臥反。耆は、巨之反。一に巨支反。

完其守備、以待不虞、又何畏矣。詩曰、無念爾祖、聿脩厥德。詩、大雅。無念、念也。聿、述也。義取念祖考、則述治其德以顯之。
【読み】
其の守備を完くして、以て不虞を待たば、又何をか畏れん。詩に曰く、爾の祖を念うこと無からんや、厥の德を聿[の]べ脩めよ、と。詩は、大雅。無念は、念うなり。聿は、述ぶるなり。義祖考を念わば、則ち其の德を述べ治めて以て之を顯らかにすべきに取る。

無亦監乎若敖・蚡冒至于武・文。四君、皆楚先君之賢者。○蚡、扶粉反。
【読み】
亦若敖・蚡冒より武・文に至るまでを監みること無からんや。四君は、皆楚の先君の賢者。○蚡は、扶粉反。

土不過同、方百里爲一同。言未滿一圻。
【読み】
土同に過ぎざりしも、方百里を一同と爲す。未だ一圻[いっき]に滿たざるを言う。

愼其四竟、猶不城郢。今土數圻、方千里爲圻。
【読み】
其の四竟を愼みしかば、猶郢に城かざりき。今土數圻[すうき]にして、方千里を圻と爲す。

而郢是城。不亦難乎。言守若是、難以爲安也。爲定四年、吳入楚傳。
【読み】
郢に是れ城く。亦難からずや、と。言うこころは、守り是の若きは、以て安きを爲し難し。定四年、吳楚に入る爲の傳なり。


〔經〕二十有四年、春、王二月、丙戌、仲孫貜卒。無傳。孟僖子也。○貜、倶縛反。
【読み】
〔經〕二十有四年、春、王の二月、丙戌[ひのえ・いぬ]、仲孫貜卒す。傳無し。孟僖子なり。○貜は、倶縛反。

婼至自晉。喜得赦歸。故書至。
【読み】
婼[ちゃく]晉より至る。赦されて歸ることを得るを喜ぶ。故に至るを書す。

夏、五月、乙未、朔、日有食之。秋、八月、大雩。丁酉、杞伯郁釐卒。無傳。未同盟、而赴以名。丁酉、九月五日。有日無月。○釐、力之反。又音來。
【読み】
夏、五月、乙未[きのと・ひつじ]、朔、日之を食する有り。秋、八月、大いに雩[う]す。丁酉[ひのと・とり]、杞伯郁釐卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。丁酉は、九月五日。日有れども月無し。○釐は、力之反。又音來。

冬、吳滅巢。楚邑也。書滅、用大師。
【読み】
冬、吳巢を滅ぼす。楚の邑なり。滅ぼすと書すは、大師を用ゆるなり。

葬杞平公。無傳。
【読み】
杞の平公を葬る。傳無し。

〔傳〕二十四年、春、王正月、辛丑、召簡公・南宮嚚以甘桓公見王子朝。簡公、召莊公之子、召伯盈也。嚚、南宮極之子。桓公、甘平公之子。
【読み】
〔傳〕二十四年、春、王の正月、辛丑[かのと・うし]、召簡公・南宮嚚[なんきゅうぎん]甘桓公を以[い]て王子朝に見ゆ。簡公は、召莊公の子、召伯盈なり。嚚は、南宮極の子。桓公は、甘平公の子。

劉子謂萇弘曰、甘氏又往矣。對曰、何害。同德度義。度、謀也。言唯同心同德、則能謀義。子朝不能。於我無害。○度、待洛反。
【読み】
劉子萇弘に謂いて曰く、甘氏又往けり、と。對えて曰く、何の害あらん。德を同じくすれば義を度る。度は、謀るなり。言うこころは、唯心を同じくし德を同くすれば、則ち能く義を謀る。子朝能わず。我に於て害無けん。○度は、待洛反。

大誓曰、紂有億兆夷人、亦有離德。言紂衆億兆、兼有四夷、不能同德、終敗亡。
【読み】
大誓に曰く、紂億兆と夷人と有るも、亦離德有り。言うこころは、紂が衆億兆にして、四夷を兼ね有つも、德を同じくすること能わずして、終に敗亡す。

余有亂臣十人、同心同德。武王言、我有治臣十人。雖少同心也。今大誓無此語。
【読み】
余亂臣十人有るも、心を同じくし德を同じくせり、と。武王言う、我に治臣十人有り。少なしと雖も同心なり、と。今の大誓に此の語無し。

此周所以興也。君其務德。無患無人。
【読み】
此れ周の興る所以なり。君其れ德を務めよ。人無きを患うること無かれ、と。

戊午、王子朝入于鄔。緱氏西南有鄔聚。言子朝稍强。○鄔、烏戶反。緱、古侯反。聚、才住反。
【読み】
戊午[つちのえ・うま]、王子朝鄔[お]に入る。緱氏の西南に鄔聚有り。子朝稍强きを言う。○鄔は、烏戶反。緱は、古侯反。聚は、才住反。

晉士彌牟逆叔孫于箕。將禮而歸之。
【読み】
晉の士彌牟叔孫を箕に逆う。將に禮して之を歸さんとす。

叔孫使梁其踁待于門内、踁、叔孫家臣。○踁、戶定反。
【読み】
叔孫梁其踁[りょうきけい]をして門内に待たしめて、踁は、叔孫の家臣。○踁は、戶定反。

曰、余左顧而欬、乃殺之。疑士伯來殺己。故謀殺之。○欬、苦代反。
【読み】
曰く、余左顧して欬[しわぶ]かば、乃ち之を殺せ、と。士伯の來りて己を殺すかと疑う。故に之を殺さんことを謀る。○欬[がい]は、苦代反。

右顧而笑。乃止。叔孫見士伯。士伯曰、寡君以爲盟主之故、是以久子。久執子以謝邾。
【読み】
右顧して笑う。乃ち止む。叔孫士伯を見る。士伯曰く、寡君盟主爲るの故を以て、是を以て子を久しくせり。久しく子を執えて以て邾に謝す。
*頭注に、「林注、我若顧于右而發笑、汝則勿殺。或云、右顧而笑、乃止、此記者之辭也。不連上句讀。按此說、語勢有力。」とある。

不腆敝邑之禮、將致諸從者、使彌牟逆吾子。叔孫受禮而歸。
【読み】
不腆なる敝邑の禮、將に諸を從者に致さんとし、彌牟をして吾子を逆えしむ、と。叔孫禮を受けて歸る。

二月、婼至自晉、尊晉也。貶婼族、所以尊晉。婼、行人。故不言罪己。
【読み】
二月、婼晉より至るとは、晉を尊びてなり。婼が族を貶するは、晉を尊ぶ所以なり。婼は、行人。故に己を罪すと言わず。

三月、庚戌、晉侯使士景伯涖問周故。涖、臨也。就問子朝・敬王、知誰曲直。
【読み】
三月、庚戌[かのえ・いぬ]、晉侯士景伯をして涖[のぞ]みて周の故[こと]を問わしむ。涖は、臨むなり。就きて子朝・敬王を問いて、誰か曲直なるを知らんとす。

士伯立于乾祭、而問於介衆。乾祭、王城北門。介、大也。○乾、音干。祭、側界反。
【読み】
士伯乾祭に立ちて、介衆に問う。乾祭は、王城の北門。介は、大なり。○乾は、音干。祭は、側界反。

晉人乃辭王子朝、不納其使。衆言子朝曲故。
【読み】
晉人乃ち王子朝を辭して、其の使いを納れず。衆子朝が曲を言う故なり。

夏、五月、乙未、朔、日有食之。梓愼曰、將水。陰勝陽。故曰、將水。
【読み】
夏、五月、乙未、朔、日之を食する有り。梓愼曰く、將に水あらんとす、と。陰陽に勝つ。故に曰く、將に水あらんとす、と。

昭子曰、旱也。日過分、而陽猶不克。克必甚。能無旱乎。過春分、陽氣盛時、而不勝陰。陽將猥出。故爲旱。○猥、烏罪反。
【読み】
昭子曰く、旱なり。日分を過ぎて、陽猶克たず。克たば必ず甚だしからん。能く旱すること無からんや。春分を過ぎ、陽氣の盛んなる時にして、陰に勝たず。陽將に猥[みだ]りに出でんとす。故に旱を爲す。○猥は、烏罪反。

陽不克莫。將積聚也。陽氣莫然不動。乃將積聚。○陽不克莫、絕句。
【読み】
陽克たずして莫たり。將に積聚せんとするなり、と。陽氣莫然として動かず。乃ち將に積聚せんとす。○陽不克莫は、絕句。

六月、壬申、王子朝之師攻瑕及杏。皆潰。瑕・杏、敬王邑。
【読み】
六月、壬申[みずのえ・さる]、王子朝の師瑕と杏とを攻む。皆潰ゆ。瑕・杏は、敬王の邑。

鄭伯如晉。子大叔相、見范獻子。獻子曰、若王室何。對曰、老夫其國家不能恤。敢及王室。抑人亦有言、曰、嫠不恤其緯、嫠、寡婦也。織者常苦緯少。寡婦所宜憂。
【読み】
鄭伯晉に如く。子大叔相け、范獻子に見ゆ。獻子曰く、王室を若何、と。對えて曰く、老夫は其の國家をだも恤うること能わず。敢えて王室に及ばんや。抑々人亦言えること有り、曰く、嫠[り]其の緯を恤えずして、嫠は、寡婦なり。織る者常に緯の少なきを苦しむ。寡婦の宜しく憂うべき所なり。

而憂宗周之隕、爲將及焉。恐禍及己。
【読み】
宗周の隕ちんことを憂うとは、將に及ばんとする爲なり。禍の己に及ばんことを恐る。

今王室實蠢蠢焉。蠢蠢、動擾貌。○蠢、昌允反。
【読み】
今王室實に蠢蠢たり。蠢蠢は、動擾の貌。○蠢は、昌允反。

吾小國懼矣。然大國之憂也。吾儕何知焉。吾子其早圖之。詩曰、缾之罄矣、惟罍之恥。詩、小雅。罍、大器。缾、小器。常稟於罍者。而所受罄盡、則罍爲無餘。故恥之。
【読み】
吾が小國だも懼る。然れども大國の憂えなり。吾儕何をか知らん。吾子其れ早く之を圖れ。詩に曰く、缾[かめ]の罄[つ]くるは、惟れ罍[もたい]の恥なり、と。詩は、小雅。罍[らい]は、大器。缾[へい]は、小器。常に罍に稟る者なり。而れども受くる所罄盡するは、則ち罍餘り無きが爲なり。故に之を恥ず。

王室之不寧、晉之恥也。
【読み】
王室の寧からざるは、晉の恥なり、と。

獻子懼、而與宣子圖之。宣子、韓起。
【読み】
獻子懼れて、宣子と之を圖る。宣子は、韓起。

乃徵會於諸侯、期以明年。爲明年、會黃父傳。
【読み】
乃ち會を諸侯に徵して、期するに明年を以てす。明年、黃父に會する爲の傳なり。

秋、八月、大雩、旱也。終如叔孫之言。
【読み】
秋、八月、大いに雩するは、旱するなり。終に叔孫の言の如し。

冬、十月、癸酉、王子朝用成周之寶珪于河、禱河求福。
【読み】
冬、十月、癸酉[みずのと・とり]、王子朝成周の寶珪を河に用いしに、河に禱りて福を求む。

甲戌、津人得諸河上。珪自出水。
【読み】
甲戌[きのえ・いぬ]に、津人諸を河上に得たり。珪自ら水より出づ。

陰不佞以溫人南侵、不佞、敬王大夫。晉以溫人助敬王、南侵子朝。
【読み】
陰不佞溫人を以て南侵し、不佞は、敬王の大夫。晉溫人を以て敬王を助けて、南して子朝を侵す。

拘得玉者取其玉、將賣之、則爲石。王定而獻之。不佞獻王。
【読み】
玉を得たる者を拘えて其の玉を取り、將に之を賣らんとすれば、則ち石と爲る。王定まりて之を獻ず。不佞王に獻ず。

與之東訾。喜得玉。故與之邑。鞏縣西南訾城是也。○訾、子斯反。
【読み】
之に東訾[とうし]を與う。玉を得るを喜ぶ。故に之に邑を與う。鞏縣の西南の訾城是れなり。○訾は、子斯反。

楚子爲舟師、以略吳疆。略、行也。行吳界、將侵之。
【読み】
楚子舟師を爲して、以て吳の疆を略[めぐ]る。略は、行[めぐ]るなり。吳の界を行りて、將に之を侵さんとす。

沈尹戌曰、此行也、楚必亡邑。不撫民而勞之、吳不動而速之。速、召也。
【読み】
沈尹戌曰く、此の行や、楚必ず邑を亡わん。民を撫でずして之を勞せしめ、吳は動かずして之を速[まね]く。速は、召くなり。

吳踵楚、躡楚踵跡。
【読み】
吳楚を踵[ふ]みて、楚の踵跡を躡[ふ]むなり。

而疆埸無備、邑能無亡乎。
【読み】
疆埸[きょうえき]備え無くば、邑能く亡うこと無からんや、と。

越大夫胥犴勞王於豫章之汭、汭、水曲。○犴、音岸。勞、力報反。
【読み】
越の大夫胥犴王を豫章の汭に勞い、汭は、水曲。○犴は、音岸。勞は、力報反。

越公子倉歸王乘舟、歸、遺也。○歸、如字。又其媿反。乘、繩證反。又如字。
【読み】
越の公子倉王に乘舟を歸[おく]り、歸は、遺るなり。○歸は、字の如し。又其媿反。乘は、繩證反。又字の如し。

倉及壽夢帥師從王。壽夢、越大夫。○夢、莫公反。
【読み】
倉と壽夢[じゅぼう]と師を帥いて王に從う。壽夢は、越の大夫。○夢は、莫公反。

王及圉陽而還。圉陽、楚地。
【読み】
王圉陽に及びて還る。圉陽は、楚の地。

吳人踵楚、而邊人不備、遂滅巢及鍾離而還。鍾離不書、告敗略。
【読み】
吳人楚を踵みて、邊人備えず、遂に巢と鍾離とを滅ぼして還る。鍾離書さざるは、敗を告ぐることを略するなり。

沈尹戌曰、亡郢之始、於此在矣。王壹動而亡二姓之帥。二姓之帥、守巢・鍾離大夫。
【読み】
沈尹戌曰く、郢[えい]を亡うの始め、此に於て在り。王壹たび動きて二姓の帥を亡えり。二姓の帥とは、巢と鍾離を守る大夫。

幾如是而不及郢。詩曰、誰生厲階、至今爲梗、詩、大雅。厲、惡。階、道。梗、病也。○幾、居豈反。又音機。
【読み】
幾たびか是の如くにして郢に及ばざらんや。詩に曰く、誰か厲の階を生せる、今に至りて梗を爲せりとは、詩は、大雅。厲は、惡。階は、道。梗は、病なり。○幾は、居豈反。又音機。

其王之謂乎。爲定四年、吳入郢傳。
【読み】
其れ王を謂うか、と。定四年、吳郢に入る爲の傳なり。


〔經〕二十有五年、春、叔孫婼如宋。夏、叔詣會晉趙鞅・宋樂大心・衛北宮喜・鄭游吉・曹人・邾人・滕人・薛人・小邾人于黃父。有鸜鵒來巢。此鳥穴居、不在魯界。故曰來巢。非常。故書。○鸜、其倶反。鵒、音欲。
【読み】
〔經〕二十有五年、春、叔孫婼[しゅくそんちゃく]宋に如く。夏、叔詣晉の趙鞅・宋の樂大心・衛の北宮喜・鄭の游吉・曹人・邾人[ちゅひと]・滕人・薛人・小邾人に黃父に會す。鸜鵒[くよく]の來り巢[すく]う有り。此の鳥は穴居して、魯の界に在らず。故に來り巢うと曰う。常に非ず。故に書す。○鸜は、其倶反。鵒は、音欲。

秋、七月、上辛、大雩。季辛、又雩。季辛、下旬之辛也。言又、重上事。○重、直龍反。又直用反。
【読み】
秋、七月、上辛、大いに雩[う]す。季辛に、又雩す。季辛は、下旬の辛なり。又と言うは、上の事を重ぬるなり。○重は、直龍反。又直用反。

九月、己亥、公孫于齊、次于陽州。諱奔。故曰孫。若自孫讓而去位者。陽州、齊・魯竟上邑。未敢直前。故次于竟。○孫、音遜。
【読み】
九月、己亥[つちのと・い]、公齊に孫[のが]れ、陽州に次[やど]る。奔るを諱む。故に孫ると曰う。自ら孫讓して位を去る者の若し。陽州は、齊・魯竟上の邑。未だ敢えて直ちに前[すす]まず。故に竟に次る。○孫は、音遜。

齊侯唁公于野井。濟南祝阿縣東有野井亭。齊侯來唁公。公不敢遠勞。故逆之、往至野井。○唁、音彥。
【読み】
齊侯公を野井に唁[とむら]う。濟南祝阿縣の東に野井亭有り。齊侯來りて公を唁う。公敢えて遠く勞せしめず。故に之を逆えて、往きて野井に至るなり。○唁は、音彥。

冬、十月、戊辰、叔孫婼卒。公不與小斂而書日者、公在外、非無恩。○與、音預。
【読み】
冬、十月、戊辰[つちのえ・たつ]、叔孫婼卒す。公小斂に與らずして日を書すは、公外に在りて、恩無きに非ざればなり。○與は、音預。

十有一月、己亥、宋公佐卒于曲棘。陳留外黃縣城中有曲棘里。宋地。未同盟、而赴以名。
【読み】
十有一月、己亥、宋公佐曲棘に卒す。陳留外黃縣の城中に曲棘里有り。宋の地なり。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。

十有二月、齊侯取鄆。取鄆以居公也。○鄆、音運。
【読み】
十有二月、齊侯鄆[うん]を取る。鄆を取りて以て公を居くなり。○鄆は、音運。

〔傳〕二十五年、春、叔孫婼聘于宋。桐門右師見之。右師、樂大心。居桐門。
【読み】
〔傳〕二十五年、春、叔孫婼宋に聘す。桐門右師之を見る。右師は、樂大心。桐門に居る。

語卑宋大夫、而賤司城氏。司城、樂氏之大宗也。卑・賤、謂其才德薄。
【読み】
語るとき宋の大夫を卑しみて、司城氏を賤しむ。司城は、樂氏の大宗なり。卑・賤とは、其の才德の薄きを謂うなり。

昭子告其人曰、右師其亡乎。君子貴其身、而後能及人。是以有禮。唯禮可以貴身。貴身。故尙禮。
【読み】
昭子其の人に告げて曰く、右師は其れ亡びんか。君子は其の身を貴くして、而して後に能く人に及ぼす。是を以て禮有り。唯禮以て身を貴くす可し。身を貴くせんとす。故に禮を尙ぶ。

今夫子卑其大夫、而賤其宗。是賤其身也。賤人、人亦賤己。
【読み】
今夫子其の大夫を卑しみて、其の宗を賤しむ。是れ其の身を賤しむなり。人を賤しめば、人も亦己を賤しむ。

能有禮乎。無禮必亡。爲定十年、樂大心出奔傳。
【読み】
能く禮有らんや。禮無ければ必ず亡ぶ、と。定十年、樂大心出奔する爲の傳なり。

宋公享昭子、賦新宮。逸詩。
【読み】
宋公昭子を享して、新宮を賦す。逸詩。

昭子賦車轄。詩、小雅。周人思得賢女以配君子。昭子將爲季孫迎宋公女。故賦之。
【読み】
昭子車轄を賦す。詩は、小雅。周人賢女を得て以て君子に配せんことを思う。昭子將に季孫が爲に宋公の女を迎えんとす。故に之を賦す。

明日宴。飮酒樂。宋公使昭子右坐、坐宋公右以相近。言改禮坐。○樂、除樂姓外、皆音洛。
【読み】
明日宴す。酒を飮みて樂しむ。宋公昭子をして右に坐せしめ、宋公の右に坐せしめて以て相近づく。禮坐を改むるを言うなり。○樂は、樂姓を除きて外は、皆音洛。

語相泣也。樂祁佐。助宴禮。
【読み】
語りて相泣く。樂祁佐く。宴禮を助く。

退而告人曰、今玆君與叔孫其皆死乎。吾聞之、哀樂、可樂而哀。
【読み】
退きて人に告げて曰く、今玆[ことし]君と叔孫と其れ皆死せんか。吾れ之を聞く、樂しきを哀しみて、樂しむ可くして哀しむ。

而樂哀、可哀而樂。
【読み】
哀しきを樂しむは、哀しむ可くして樂しむ。

皆喪心也。心之精爽、是謂魂魄。魂魄去之。何以能久。爲此冬、叔孫・宋公卒傳。○喪、息浪反。
【読み】
皆心を喪えるなり、と。心の精爽、是を魂魄と謂う。魂魄之を去る。何を以て能く久しからん、と。此の冬、叔孫・宋公卒する爲の傳なり。○喪は、息浪反。

季公若之姊爲小邾夫人、平子庶姑。與公若同母。故曰公若姊。
【読み】
季公若の姊小邾の夫人と爲り、平子が庶姑。公若と同母なり。故に公若の姊と曰う。

生宋元夫人。宋元夫人、平子之外姊。
【読み】
宋の元夫人を生む。宋の元夫人は、平子の外姊。

生子。以妻季平子。昭子如宋聘、且逆之。平子人臣、而因卿逆、季氏强橫。
【読み】
子を生む。以て季平子に妻せんとす。昭子宋に如きて聘し、且つ之を逆う。平子人臣にして、卿に因りて逆うるは、季氏の强橫なり。

公若從。從昭子。○從、去聲。又如字。
【読み】
公若從う。昭子に從う。○從は、去聲。又字の如し。

謂曹氏、勿與。魯將逐之。曹氏、宋元夫人。
【読み】
曹氏に謂えらく、與うること勿かれ。魯將に之を逐わんとす、と。曹氏は、宋の元夫人。

曹氏告公。公告樂祁。樂祁曰、與之。如是、魯君必出。政在季氏三世矣。文子・武子・平子。
【読み】
曹氏公に告ぐ。公樂祁に告ぐ。樂祁曰く、之に與えよ。如し是ならば、魯君必ず出でん。政季氏に在ること三世なり。文子・武子・平子。

魯君喪政四公矣。宣・成・襄・昭。
【読み】
魯君政を喪うこと四公なり。宣・成・襄・昭。

無民而能逞其志者、未之有也。國君是以鎭撫其民。詩曰、人之云亡、心之憂矣。詩、大雅。言無人則憂患至。
【読み】
民無くして能く其の志を逞しくする者は、未だ之れ有らざるなり。國君は是を以て其の民を鎭撫するなり。詩に曰く、人を云[ここ]に亡えば、心の憂えなり、と。詩は、大雅。言うこころは、人無ければ則ち憂患至る。

魯君失民焉。焉得逞其志。靖以待命猶可。動必憂。爲下公孫傳。
【読み】
魯君民を失えり。焉ぞ其の志を逞しくすることを得ん。靖んじて以て命を待たば猶可ならん。動かば必ず憂えん、と。下の公孫るる爲の傳なり。

夏、會于黃父、謀王室也。王室有子朝亂。謀定之。
【読み】
夏、黃父に會するは、王室を謀るなり。王室に子朝の亂有り。之を定めんことを謀る。

趙簡子令諸侯之大夫、簡子、趙鞅。
【読み】
趙簡子諸侯の大夫をして、簡子は、趙鞅。

輸王粟、具戌人。曰、明年將納王。納王於王城。
【読み】
王に粟を輸[いた]し、戌人を具えしむ。曰く、明年將に王を納れんとす、と。王を王城に納る。

子大叔見趙簡子。簡子問揖讓周旋之禮焉。對曰、是儀也。非禮也。簡子曰、敢問何謂禮。對曰、吉也聞諸先大夫子產。曰、夫禮、天之經也。經者、道之常。
【読み】
子大叔趙簡子に見ゆ。簡子揖讓周旋の禮を問う。對えて曰く、是れ儀なり。禮に非ざるなり、と。簡子曰く、敢えて問う、何をか禮と謂うや、と。對えて曰く、吉や諸を先大夫子產に聞けり。曰く、夫れ禮は、天の經なり。經とは、道の常なり。

地之義也。義者、利之宜。
【読み】
地の義なり。義とは、利の宜しきなり。

民之行也。行者、人所履。○行、下孟反。
【読み】
民の行なり。行とは、人の履む所なり。○行は、下孟反。

天地之經、而民實則之。則天之明、日・月・星・辰、天之明也。
【読み】
天地の經にして、民實に之に則る。天の明に則り、日・月・星・辰は、天の明なり。

因地之性、高・下・剛・柔、地之性也。
【読み】
地の性に因り、高・下・剛・柔は、地の性なり。

生其六氣、謂陰・陽・風・雨・晦・明。
【読み】
其の六氣を生じ、陰・陽・風・雨・晦・明を謂う。

用其五行、金・木・水・火・土。
【読み】
其の五行を用い、金・木・水・火・土。

氣爲五味、酸・鹹・辛・苦・甘。
【読み】
氣五味と爲り、酸・鹹・辛・苦・甘。

發爲五色、靑・黃・赤・白・黑。發、見也。
【読み】
發して五色と爲り、靑・黃・赤・白・黑。發は、見るなり。

章爲五聲。宮・商・角・徵・羽。
【読み】
章れて五聲と爲る。宮・商・角・徵・羽。

淫則昏亂、民失其性。滋味聲色、過則傷性。
【読み】
淫[す]ぐれば則ち昏亂して、民其の性を失う。滋味聲色、過ぐれば則ち性を傷る。

是故爲禮以奉之。制禮以奉其性。
【読み】
是の故に禮を爲して以て之を奉ずるなり。禮を制して以て其の性を奉ずるなり。

爲六畜・ 馬・牛・羊・雞・犬・豕。○畜、許又反。又音蓄。
【読み】
六畜・ 馬・牛・羊・雞・犬・豕。○畜は、許又反。又音蓄。

五牲・ 麋・鹿・麏・狼・兔。
【読み】
五牲・ 麋[び]・鹿・麏[きん]・狼・兔。

三犧、祭天・地・宗廟三者、謂之犧。
【読み】
三犧を爲して、天・地・宗廟の三つの者を祭る、之を犧と謂う。

以奉五味、爲九文・ 謂山・龍・華・蟲・藻・火・粉米・黼・黻也。華、若草華。藻、水草。火、畫火。粉米、若白米。黼、若斧。黻、若兩己相戾。傳曰、火・龍・黼・黻、昭其文也。
【読み】
以て五味を奉じ、九文・ 山・龍・華・蟲・藻・火・粉米・黼[ほ]・黻[ふつ]を謂うなり。華は、草華の若し。藻は、水草。火は、火を畫く。粉米は、白米の若し。黼は、斧の若し。黻は、兩己相戾るが若し。傳に曰く、火・龍・黼・黻は、其の文を昭らかにするなり、と。

六采・ 畫繢之事、雜用天地四方之色。靑與白、赤與黑、玄與黃、皆相次、謂之六色。○繢、戶對反。
【読み】
六采・ 畫繢[がかい]の事、天地四方の色を雜え用ゆ。靑と白と、赤と黑と、玄と黃と、皆相次づる、之を六色と謂う。○繢は、戶對反。

五章、以奉五色、靑與赤、謂之文、赤與白、謂之章、白與黑、謂之黼、黑與靑、謂之黻、五色備、謂之繡。集此五章、以奉成五色之用。
【読み】
五章を爲して、以て五色を奉じ、靑と赤と、之を文と謂い、赤と白と、之を章と謂い、白と黑と、之を黼と謂い、黑と靑と、之を黻と謂い、五色備わる、之を繡と謂う。此の五章を集めて、以て五色の用を奉成す。

爲九歌・八風・七音・六律、以奉五聲、解見二十年。
【読み】
九歌・八風・七音・六律を爲して、以て五聲を奉じ、解二十年に見ゆ。

爲君臣上下、以則地義、君臣有尊卑、法地有高下。
【読み】
君臣上下を爲して、以て地の義に則り、君臣に尊卑有るは、地の高下有るに法るなり。

爲夫婦外内、以經二物、夫治外、婦治内、各治其物。
【読み】
夫婦外内を爲して、以て二物を經[おさ]め、夫外を治め、婦内を治めて、各々其の物を治む。

爲父子・兄弟・姑姊・甥舅・昏媾・姻亞、以象天明、六親和睦、以事嚴父、若衆星之共辰極也。妻父曰昏、重昏曰媾、壻父曰姻、兩壻相謂曰亞。
【読み】
父子・兄弟・姑姊[こし]・甥舅[せいきゅう]・昏媾[こんこう]・姻亞[いんあ]を爲して、以て天明に象り、六親和睦して、以て嚴父に事うるは、衆星の辰極に共するが若し。妻の父を昏と曰い、重昏を媾と曰い、壻の父を姻と曰い、兩壻相謂いて亞と曰う。

爲政事・庸力・行務、以從四時、在君爲政、在臣爲事。民功曰庸、治功曰力。行其德敎、務其時要、禮之本也。
【読み】
政事・庸力・行務を爲して、以て四時に從い、君に在るを政と爲し、臣に在るを事と爲す。民功を庸と曰い、治功を力と曰う。其の德敎を行い、其の時要を務むるは、禮の本なり。

爲刑罰・威獄、使民畏忌、以類其震曜殺戮、雷震電曜、天之威也。聖人作刑戮、以象類之。
【読み】
刑罰・威獄を爲して、民をして畏忌せしめて、以て其の震曜殺戮に類[かたど]り、雷震電曜は、天の威なり。聖人刑戮を作して、以て之に象類す。

爲溫・慈・惠・和、以效天之生殖長育。
【読み】
溫・慈・惠・和を爲して、以て天の生殖長育に效[なら]う。

民有好・惡・喜・怒・哀・樂、生于六氣。此六者、皆稟陰・陽・風・雨・晦・明之氣。○長、上聲。好惡、竝去聲。
【読み】
民に好・惡・喜・怒・哀・樂有り、六氣に生ず。此の六つの者は、皆陰・陽・風・雨・晦・明の氣を稟く。○長は、上聲。好惡は、竝去聲。

是故審則宜類、以制六志。爲禮以制好・惡・喜・怒・哀・樂六志、使不過節。
【読み】
是の故に宜類を審らかにし則りて、以て六志を制す。禮を爲して以て好・惡・喜・怒・哀・樂の六志を制して、節に過ぎざらしむ。
*「是故審則宜類」は、漢籍國字解全書では「是の故に則を審らかにし類を宜しくし」である。

哀有哭泣、樂有歌舞、喜有施舍、怒有戰鬭、喜生於好、怒生於惡。是故審行信令、禍福賞罰、以制死生。生、好物也。死、惡物也。好物樂也。惡物哀也。哀樂不失、乃能協于天地之性。是以長久。協、和也。
【読み】
哀に哭泣有り、樂に歌舞有り、喜に施舍有り、怒に戰鬭有り、喜は好に生じ、怒は惡に生ず。是の故に信令を審らかにし行い、禍福賞罰して、以て死生を制す。生は、好物なり。死は、惡物なり。好物は樂なり。惡物は哀なり。哀樂失わざれば、乃ち能く天地の性に協う。是を以て長久なり、と。協は、和なり。
*「是故審行信令」は、漢籍國字解全書では「是の故に行いを審らかにし令を信にし」である。

簡子曰、甚哉禮之大也。對曰、禮、上下之紀、天地之經緯也。經緯、錯居以相成者。
【読み】
簡子曰く、甚だしいかな禮の大なるや、と。對えて曰く、禮は、上下の紀、天地の經緯なり。經緯は、錯居して以て相成る者。

民之所以生也。是以先王尙之。故人之能自曲直以赴禮者、謂之成人。大不亦宜乎。曲直以弼其性。
【読み】
民の生ずる所以なり。是を以て先王之を尙ぶ。故に人の能く自ら曲直して以て禮に赴く者、之を成人と謂う。大なること亦宜ならずや、と。曲直して以て其の性を弼く。

簡子曰、鞅也、請終身守此言也。鞅能守此言。故終免於晉陽之難。
【読み】
簡子曰く、鞅や、請う、身を終うるまで此の言を守らん、と。鞅能く此の言を守る。故に終に晉陽の難に免れたり。

宋樂大心曰、我不輸粟。我於周爲客。二王後爲賓客。
【読み】
宋の樂大心曰く、我れ粟を輸さじ。我は周に於て客爲り。二王の後を賓客と爲す。

若之何使客。晉士伯曰、自踐土以來、踐土、在僖二十八年。
【読み】
之を若何ぞ客を使わん、と。晉の士伯曰く、踐土より以來、踐土は、僖二十八年に在り。

宋何役之不會、而何盟之不同。曰同恤王室、子焉得辟之。子奉君命以會大事。而宋背盟、無乃不可乎。右師不敢對、受牒而退。右師、樂大心。
【読み】
宋何れの役にか會せずして、何れの盟にか同じくせざらん。同じく王室を恤えんと曰うに、子焉ぞ之を辟くることを得ん。子君命を奉じて以て大事に會せり。而るに宋盟に背かば、乃ち不可なること無からんや、と。右師敢えて對えず、牒を受けて退く。右師は、樂大心。

士伯告簡子曰、宋右師必亡。奉君命以使、而欲背盟以干盟主。無不祥大焉。言不善無大此者。爲定十年、宋樂大心出奔傳。○使、所吏反。
【読み】
士伯簡子に告げて曰く、宋の右師は必ず亡びん。君命を奉じて以て使いして、盟に背きて以て盟主を干さんと欲す。不祥焉より大なるは無し、と。言うこころは、不善此より大なる者無し。定十年、宋の樂大心出奔する爲の傳なり。○使は、所吏反。

有鸜鵒來巢、書所無也。
【読み】
鸜鵒有り來り巢うとは、無き所を書すなり。

師己曰、異哉。吾聞文・之世、童謠有之、師己、魯大夫。○己、音紀。一音祀。
【読み】
師己曰く、異なるかな。吾れ聞く、文・の世に、童謠に之れ有り、師己は、魯の大夫。○己は、音紀。一に音祀。
*頭注に、「林注、文・武、周文王・武王也。按王本・張本・魯世家及五行志等作文・成。魯二公也。爲是。」とある。

曰、鸜之鵒之、公出辱之。言鸜鵒來則公出辱也。
【読み】
曰く、鸜や鵒や、公出でて辱めらる。鸜鵒來れば則ち公出でて辱めらるを言う。

鸜鵒之羽、公在外野、往饋之馬。饋、遺也。
【読み】
鸜鵒の羽、公外野に在り、往きて之に馬を饋[おく]る。饋は、遺るなり。

鸜鵒跦跦、公在乾侯。跦跦、跳行貌。○跦、張于反。又張留反。跳、直彫反。
【読み】
鸜鵒跦跦[ちゅちゅ]たり、公乾侯に在り。跦跦は、跳行の貌。○跦は、張于反。又張留反。跳は、直彫反。

徵褰與襦。褰、袴。
【読み】
褰[けん]と襦とを徵[もと]む。褰は、袴なり。

鸜鵒之巢、遠哉遙遙。稠父喪勞、宋父以驕。稠父、昭公。死外。故喪勞。宋父、定公。代立。故以驕。○稠、直留反。喪、息浪反。
【読み】
鸜鵒の巢、遠いかな遙遙たり。稠父[ちゅうほ]は喪勞して、宋父は以て驕る。稠父は、昭公。外に死す。故に喪勞す。宋父は、定公。代わり立つ。故に以て驕る。○稠は、直留反。喪は、息浪反。

鸜鵒鸜鵒、往歌來哭。昭公生出歌、死還哭。
【読み】
鸜鵒鸜鵒、往くとき歌い來るとき哭す、と。昭公生きて出でて歌い、死して還りて哭す。

童謠有是。今鸜鵒來巢。其將及乎。將及禍也。
【読み】
童謠に是れ有り。今鸜鵒來り巢えり。其れ將に及ばんとするか、と。將に禍に及ばんとするなり。

秋、書再雩、旱甚也。
【読み】
秋、再雩を書すは、旱甚だしければなり。

初、季公鳥娶妻於齊鮑文子、生公鳥、季公亥之兄、平子庶叔父。
【読み】
初め、季公鳥妻を齊の鮑文子に娶りて、を生む。公鳥は、季公亥の兄、平子の庶叔父。
*「申」を「甲」とする本もある。

公鳥死。季公亥與公思展與公鳥之臣申夜姑相其室。公亥、卽公若也。展、季氏族。相、治也。○夜、本作射。又音亦。相、息亮反。
【読み】
公鳥死す。季公亥と公思展と公鳥の臣申夜姑[しんえきこ]と其の室を相[おさ]む。公亥は、卽ち公若なり。展は、季氏の族。相は、治むるなり。○夜は、本射に作る。又音亦。相は、息亮反。

及季姒與饔人檀通、季姒、公鳥妻、鮑文子女。饔人、食官。
【読み】
季姒が饔人檀と通ずるに及びて、季姒は、公鳥の妻、鮑文子の女。饔人は、食官。

而懼。乃使其妾抶己、以示秦遄之妻、秦遄、魯大夫。妻、公鳥妹、秦姬也。○抶、勑乙反。遄、音船。
【読み】
懼る。乃ち其の妾をして己を抶[う]たしめて、以て秦遄の妻に示して、秦遄は、魯の大夫。妻は、公鳥の妹、秦姬なり。○抶は、勑乙反。遄は、音船。

曰、公若欲使余、余不可、而抶余。又訴於公甫、公甫、平子弟。
【読み】
曰く、公若余を使わんと欲すれども、余可[き]かずして、余を抶てり、と。又公甫に訴えて、公甫は、平子の弟。

曰、展與夜姑將要余。要劫我以非禮。○要、平聲。
【読み】
曰く、展と夜姑と將に余を要せんとす、と。我を要劫するに非禮を以てす。○要は、平聲。

秦姬以告公之。公之、亦平子弟。
【読み】
秦姬以て公之に告ぐ。公之も、亦平子の弟。

公之與公甫告平子。平子拘展於卞、而執夜姑、將殺之。公若泣而哀之曰、殺是、是殺余也。將爲之請。平子使豎勿内。日中不得請。有司逆命。執夜姑之有司、欲迎受殺生之命。○爲、去聲。
【読み】
公之と公甫と平子に告ぐ。平子展を卞に拘え、而して夜姑を執えて、將に之を殺さんとす。公若泣きて之を哀しみて曰く、是を殺すは、是れ余を殺すなり、と。將に之が爲に請わんとす。平子豎をして内るること勿からしむ。日中まで請うことを得ず。有司命を逆[むか]う。夜姑を執うる有司、殺生の命を迎え受けんと欲す。○爲は、去聲。

公之使速殺之。故公若怨平子。
【読み】
公之速やかに之を殺さしむ。故に公若平子を怨む。

季・郈之雞鬭。季平子・郈昭伯、二家相近。故雞鬭。○郈、音后。
【読み】
季・郈[こう]の雞鬭う。季平子・郈昭伯、二家相近し。故に雞鬭う。○郈は、音后。

季氏介其雞、擣芥子、播其羽也。或曰、以膠沙播之爲介雞。
【読み】
季氏は其の雞に介し、芥子を擣[つ]きて、其の羽に播[ほどこ]すなり。或ひと曰く、膠沙を以て之に播すを介雞と爲す、と。

郈氏爲之金距。平子怒。怒其不下己。
【読み】
郈氏は之が金距を爲る。平子怒る。其の己に下らざるを怒る。

益宮於郈氏、侵郈氏室以自益。
【読み】
宮を郈氏に益し、郈氏の室を侵して以て自ら益す。

且讓之。讓、責也。
【読み】
且つ之を讓[せ]む。讓は、責むるなり。

故郈昭伯亦怨平子。
【読み】
故に郈昭伯も亦平子を怨む。

臧昭伯之從弟會、昭伯、臧爲子。○從、去聲。後從者皆同。
【読み】
臧昭伯の從弟會、昭伯は、臧爲の子。○從は、去聲。後の從は皆同じ。

爲讒於臧氏、而逃於季氏。臧氏執旃。平子怒、拘臧氏老。
【読み】
讒を臧氏に爲して、季氏に逃る。臧氏旃[これ]を執う。平子怒りて、臧氏の老を拘う。

將禘於襄公、萬者二人。其衆萬於季氏。禘、祭也。萬、舞也。於禮、公當三十六人。
【読み】
將に襄公に禘せんとするに、萬者二人のみあり。其の衆は季氏に萬す。禘は、祭なり。萬は、舞うなり。禮に於て、公は當に三十六人なるべし。

臧孫曰、此之謂不能庸先君之廟。不能用禮也。蓋襄公別立廟。
【読み】
臧孫曰く、此を之れ先君の廟を庸[もち]ゆること能わずと謂う、と。禮を用ゆること能わざるなり。蓋し襄公別に廟を立つるならん。

大夫遂怨平子。
【読み】
大夫遂に平子を怨む。

公若獻弓於公爲、公爲、昭公子、務人。
【読み】
公若弓を公爲に獻じて、公爲は、昭公の子、務人。

且與之出射於外、而謀去季氏。公爲告公果・公賁。果・賁、皆公爲弟。○去、上聲。賁、音奔。又音焚。
【読み】
且之と出で外に射て、季氏を去らんことを謀る。公爲公果・公賁に告ぐ。果・賁は、皆公爲の弟。○去は、上聲。賁は、音奔。又音焚。

公果・公賁使侍人僚柤告公。公寢。將以戈擊之。乃走。公曰、執之。亦無命也。獨言執之、無勑命。○柤、側加反。
【読み】
公果・公賁侍人僚柤[りょうさ]をして公に告げしむ。公寢ぬ。將に戈を以て之を擊たんとす。乃ち走る。公曰く、之を執えよ、と。亦命無し。獨之を執えよと言うのみにして、勑命無し。○柤は、側加反。

懼而不出、數月不見。公不怒。又使言。公執戈以懼之。乃走。又使言。公曰、非小人之所及也。謂僚柤爲小人。
【読み】
懼れて出でず、數月見えず。公怒らず。又言わしむ。公戈を執りて以て之を懼[おど]す。乃ち走る。又言わしむ。公曰く、小人の及ぶ所に非ず、と。僚柤を謂いて小人と爲す。

公果自言。公以告臧孫。臧孫以難。言難逐。
【読み】
公果自ら言う。公以て臧孫に告ぐ。臧孫以て難しとす。逐い難しと言う。

告郈孫。郈孫以可。勸。告子家懿伯。子家羈。莊公之玄孫。○勸、勸公逐季氏。
【読み】
郈孫に告ぐ。郈孫以て可なりとす。勸む。子家懿伯に告ぐ。子家羈[しかき]。莊公の玄孫。○勸は、公季氏を逐うことを勸む。

懿伯曰、讒人以君徼幸。事若不克、君受其名。受惡名。
【読み】
懿伯曰く、讒人君を以て幸いを徼[もと]めんとす。事若し克たずんば、君其の名を受けん。惡名を受けん。

不可爲也。舍民數世、以求克事、不可必也。且政在焉、其難圖也。公退之。退、使去。○舍、音捨。
【読み】
爲す可からず。民を舍つること數世にして、以て事に克たんことを求むるは、必とす可からず。且つ政在り、其れ圖り難しという、と。公之を退く。退くとは、去らしむるなり。○舍は、音捨。

辭曰、臣與聞命矣。言若洩、臣不獲死。乃館於公。恐受洩命之罪。故留公宮以自明。○與、音預。
【読み】
辭して曰く、臣命を與り聞けり。言若し洩れば、臣死を獲じ、と。乃ち公に館る。命を洩らすの罪を受くるを恐る。故に公宮に留まりて以て自ら明らかにす。○與は、音預。

叔孫昭子如闞。闞、魯邑。
【読み】
叔孫昭子闞[かん]に如く。闞は、魯の邑。

公居於長府。官府名。
【読み】
公長府に居る。官府の名。

九月、戊戌、伐季氏、殺公之于門、遂入之。平子登臺而請曰、君不察臣之罪、使有司討臣以干戈。臣請待於沂上以察罪。弗許。魯城南自有沂水。平子欲出城待罪也。大沂水、出蓋縣、南至下邳、入泗。
【読み】
九月、戊戌[つちのえ・いぬ]、季氏を伐ちて、公之を門に殺し、遂に之に入る。平子臺に登りて請いて曰く、君臣の罪を察せずして、有司をして臣を討ずるに干戈を以てせしむ。臣請う、沂上[きじょう]に待ちて以て罪を察せられん、と。許さず。魯城の南に自ら沂水有り。平子城を出でて罪を待たんと欲す。大沂水は、蓋縣より出でて、南して下邳に至り、泗に入る。

請囚于費。弗許。請以五乘亡。弗許。子家子曰、君其許之。政自之出久矣。隱民多取食焉。隱約窮困。
【読み】
費に囚われんと請う。許さず。五乘を以て亡げんと請う。許さず。子家子曰く、君其れ之を許せ。政之より出づること久し。隱民多く食を取れり。隱約窮困。

爲之徒者衆矣。日入慝作、弗可知也。慝、姦惡也。日冥、姦人將起叛君助季氏、不可知。○冥、亡定反。
【読み】
之が徒爲る者衆し。日入りて慝作らんも、知る可からざるなり。慝は、姦惡なり。日冥[く]れれば、姦人將に起こりて君に叛き季氏を助けんとするも、知る可からず。○冥は、亡定反。

衆怒不可蓄也。季氏衆。
【読み】
衆の怒りは蓄う可からず。季氏の衆。

蓄而弗治、將薀。薀、積也。
【読み】
蓄えて治めずんば、將に薀まんとす。薀[うん]は、積むなり。

薀蓄、民將生心。生心、同求將合。與季氏同求叛君者。
【読み】
蓄を薀めば、民將に心を生せんとす。心を生ずれば、同求將に合わんとす。季氏と同じく君に叛かんことを求むる者。

君必悔之。弗聽。郈孫曰、必殺之。
【読み】
君必ず之を悔いん、と。聽かず。郈孫曰く、必ず之を殺せ、と。

公使郈孫逆孟懿子。懿子、仲孫何忌。
【読み】
公郈孫をして孟懿子を逆えしむ。懿子は、仲孫何忌。

叔孫氏之司馬鬷戾言於其衆曰、若之何。莫對。衆疑所助。
【読み】
叔孫氏の司馬鬷戾[そうれい]其の衆に言いて曰く、之を若何にせん、と。對うるもの莫し。衆助けん所を疑う。

又曰、我家臣也。不敢知國。凡有季氏與無、於我孰利。皆曰、無季氏、是無叔孫氏也。鬷戾曰、然則救諸。帥徒以往、陷西北隅以入。陷公圍也。
【読み】
又曰く、我は家臣なり。敢えて國を知らず。凡そ季氏有ると無きと、我に於て孰れか利なる、と。皆曰く、季氏無くば、是れ叔孫氏無からん、と。鬷戾曰く、然らば則ち諸を救わん、と。徒を帥いて以て往き、西北の隅を陷れて以て入る。公の圍を陷るなり。

公徒釋甲執冰而踞。言無戰心也。冰、櫝丸蓋。或云、櫝丸、是箭筩。其蓋可以取飮。
【読み】
公の徒甲を釋き冰を執りて踞す。言うこころは、戰心無きなり。冰は、櫝丸[とくがん]の蓋。或ひと云う、櫝丸は、是れ箭筩[せんとう]。其の蓋以て飮を取る可し、と。

遂逐之。逐公徒。
【読み】
遂に之を逐う。公の徒を逐う。

孟氏使登西北隅以望季氏。見叔孫氏之旌以告。孟氏執郈昭伯、殺之于南門之西、遂伐公徒。
【読み】
孟氏西北の隅に登りて以て季氏を望ましむ。叔孫氏の旌を見て以て告ぐ。孟氏郈昭伯を執えて、之を南門の西に殺し、遂に公の徒を伐つ。

子家子曰、諸臣僞劫君者、而負罪以出。君止。使若非君本意者、君自可止不出。
【読み】
子家子曰く、諸臣は君を劫かす者の僞[まね]して、罪を負いて以て出でよ。君は止まれ。君の本意に非ざる者の若くならしめ、君は自ら止まりて出でざる可し。

意如之事君也、不敢不改。意如、季平子名。
【読み】
意如の君に事うること、敢えて改めずんばあらず、と。意如は、季平子の名。

公曰、余不忍也。與臧孫如墓謀、辭先君、且謀所奔。
【読み】
公曰く、余忍びざるなり、と。臧孫と墓に如きて謀り、先君に辭し、且つ奔る所を謀る。

遂行。
【読み】
遂に行[さ]る。

己亥、公孫于齊、次于陽州。
【読み】
己亥、公齊に孫れ、陽州に次る。

齊侯將唁公于平陰。公先至于野井。齊侯曰、寡人之罪也。使有司待於平陰、爲近故也。齊侯自咎、本不勑有司遠詣陽州、而欲近會于平陰。故令魯侯過共、先至野井、遠見迎逆。自咎以謝公。
【読み】
齊侯將に公を平陰に唁わんとす。公先ず野井に至る。齊侯曰く、寡人の罪なり。有司をして平陰に待たしめしは、近きが爲の故なり、と。齊侯自ら咎むらく、本有司に勑して遠く陽州に詣[いた]らせずして、近く平陰に會せんことを欲せり。故に魯侯をして共を過ぎて、先ず野井に至らしめて、遠く迎逆せらる、と。自ら咎めて以て公に謝するなり。

書曰公孫于齊、次于陽州、齊侯唁公于野井、禮也。將求於人、則先下之、禮之善物也。物、事也。謂先往至野井。
【読み】
書して公齊に孫れ、陽州に次る、齊侯公を野井に唁うと曰うは、禮なり。將に人に求めんとすれば、則ち先ず之に下るは、禮の善物なり。物は、事なり。先ず往きて野井に至るを謂う。

齊侯曰、自莒疆以西、請致千社、二十五家爲社。千社、二萬五千家。欲以給公。
【読み】
齊侯曰く、莒の疆より以西、請う、千社を致して、二十五家を社と爲す。千社は、二萬五千家。以て公に給せんと欲するなり。

以待君命。待君伐季氏之命。
【読み】
以て君の命を待たん。君の季氏を伐つの命を待つ。

寡人將帥敝賦以從執事、唯命是聽。君之憂、寡人之憂也。公喜。子家子曰、天祿不再。天若胙君、不過周公。以魯足矣。失魯而以千社爲臣、誰與之立。爲齊臣。
【読み】
寡人將に敝賦を帥いて以て執事に從いて、唯命是れ聽かんとす。君の憂えは、寡人の憂えなり、と。公喜ぶ。子家子曰く、天祿は再びせず。天若し君に胙[さいわい]すとも、周公に過ぎじ。魯を以てして足れり。魯を失いて千社を以て臣と爲らば、誰か之と立たん。齊の臣と爲る。

且齊君無信。不如早之晉。弗從。
【読み】
且つ齊君信無し。早く晉に之かんには如かず、と。從わず。

臧昭伯率從者將盟。載書曰、戮力壹心、好惡同之、信罪之有無、信、明也。處者有罪。從者無罪。
【読み】
臧昭伯從者を率いて將に盟わんとす。載書に曰く、力を戮[あ]わせ心を壹にし、好惡之を同じくし、罪の有無を信にし、信は、明なり。處る者は罪有り。從う者は罪無し。

繾綣從公、無通外内。繾綣、不離散。○繾、音遣。綣、音犬。
【読み】
繾綣[けんけん]として公に從い、外内を通ずること無かれ、と。繾綣は、離散せざるなり。○繾は、音遣。綣は、音犬。

以公命示子家子。子家子曰、如此吾不可以盟。羈也、不佞。不能與二三子同心、而以爲皆有罪。從者陷君、留者逐君。皆有罪也。
【読み】
公の命というを以て子家子に示す。子家子曰く、此の如くば吾は以て盟う可からず。羈や、不佞なり。二三子と心を同じくすること能わずして、皆罪有りと以爲えり。從う者は君を陷れ、留むる者は君を逐う。皆罪有るなり。

或欲通外内、且欲去君。去君、僞負罪出奔。不必繾綣從公。
【読み】
或は外内を通ぜんと欲し、且君を去らんと欲せり。君を去るとは、僞りて罪を負いて出奔するなり。必ずしも繾綣として公に從わざるなり。

二三子好亡而惡定。焉可同也。陷君於難、罪孰大焉。通外内而去君、君將速入。弗通何爲。而何守焉。乃不與盟。何必守公。○好・惡・難、竝去聲。與、音預。
【読み】
二三子は亡を好みて定を惡む。焉ぞ同じくす可けんや。君を難に陷れしは、罪孰れか焉より大ならん。外内を通じて君を去らば、君將に速やかに入らんとす。通ぜずして何をかせん。而るを何を守らん、と。乃ち盟に與らず。何ぞ必ずしも公を守らん。○好・惡・難は、竝去聲。與は、音預。

昭子自闞歸、見平子。平子稽顙曰、子若我何。昭子曰、人誰不死。子以逐君成名、子孫不忘。不亦傷乎。將若子何。平子曰、苟使意如得改事君、所謂生死而肉骨也。
【読み】
昭子闞より歸り、平子を見る。平子稽顙[けいそう]して曰く、子我を若何にせん、と。昭子曰く、人誰か死せざらん。子君を逐うを以て名を成さば、子孫忘れじ。亦傷ましからずや。將に子を若何にせんとする、と。平子曰く、苟も意如をして改めて君に事うることを得せしめば、所謂死せるを生かして骨に肉するなり、と。

昭子從公于齊、與公言。子家子命適公館者執之。恐從者知叔孫謀。
【読み】
昭子公に齊に從いて、公と言う。子家子命じて公の館に適く者は之を執えしむ。從者の叔孫が謀を知らんことを恐る。

公與昭子言於幄内。曰、將安衆而納公。昭子請歸安衆。
【読み】
公昭子と幄内に言う。曰く、將に衆を安んじて公を納れんとす、と。昭子歸りて衆を安んぜんと請う。

公徒將殺昭子、伏諸道。伏兵。
【読み】
公の徒將に昭子を殺さんとして、諸を道に伏す。伏兵。

左師展告公。公使昭子自鑄歸。辟伏兵。
【読み】
左師展公に告ぐ。公昭子をして鑄より歸らしむ。伏兵を辟く。

平子有異志。不欲復納公。
【読み】
平子異志有り。復公を納れんことを欲せず。

冬、十月、辛酉、昭子齊於其寢、使祝宗祈死。戊辰、卒。恥爲平子所欺。因祈而自殺。○齊、側皆反。
【読み】
冬、十月、辛酉[かのと・とり]、昭子其の寢に齊し、祝宗をして死を祈らしむ。戊辰に、卒す。平子の爲に欺かるることを恥ず。祈るに因りて自殺す。○齊は、側皆反。

左師展將以公乘馬而歸。公徒執之。展、魯大夫。欲與公倶輕歸。○輕、去聲。
【読み】
左師展將に公と馬に乘りて歸らんとす。公の徒之を執う。展は、魯の大夫。公と倶に輕歸せんと欲す。○輕は、去聲。

壬申、尹文公涉于鞏、焚東訾。弗克。文子、子朝黨。於鞏縣涉洛水也。東訾、敬王邑。○訾、音資。
【読み】
壬申[みずのえ・さる]、尹文公鞏より涉り、東訾[とうし]を焚く。克たず。文子は、子朝の黨。鞏縣より洛水を涉るなり。東訾は、敬王の邑。○訾は、音資。

十一月、宋元公將爲公故如晉。請納公。
【読み】
十一月、宋の元公將に公の爲の故に晉に如かんとす。公を納れんことを請う。

夢大子欒卽位於廟、己與平公服而相之。平公、元公父。○相、去聲。熊相同。
【読み】
夢みらく、大子欒位に廟に卽き、己と平公と服して之を相く、と。平公は、元公の父。○相は、去聲。熊相も同じ。

旦召六卿。公曰、寡人不佞、不能事父兄、父兄、謂華向。
【読み】
旦に六卿を召す。公曰く、寡人不佞にして、父兄に事うること能わずして、父兄は、華向を謂う。

以爲二三子憂。寡人之罪也。若以羣子之靈、獲保首領以歿、唯是楄柎所以藉幹者、楄柎、棺中笭牀也。幹、骸骨也。○楄、音騈。柎、音蔀。又音附。藉、在夜反。笭、音靈。
【読み】
以て二三子の憂えを爲せり。寡人の罪なり。若し羣子の靈を以て、首領を保ちて以て歿することを獲ば、唯是の楄柎[へんふ]の幹に藉く所以の者、楄柎は、棺中の笭牀[れいしょう]なり。幹は、骸骨なり。○楄は、音騈。柎は、音蔀。又音附。藉は、在夜反。笭は、音靈。

請無及先君。欲自貶損。
【読み】
請う、先君に及ぶこと無かれ、と。自ら貶損せんと欲す。

仲幾對曰、君若以社稷之故、私降昵宴、羣臣弗敢知。昵、近也。降昵宴、謂損親近聲樂飮食之事。
【読み】
仲幾對えて曰く、君若し社稷の故を以て、私に昵宴[じつえん]を降さんことは、羣臣敢えて知らず。昵は、近きなり。昵宴を降すとは、親近の聲樂飮食の事を損するを謂う。

若夫宋國之法、死生之度、先君有命矣。羣臣以死守之、弗敢失隊。臣之失職、常刑不赦。臣不忍其死。君命祗辱。言君命必不行。祗、適也。○隊、音墜。祗、音支。
【読み】
若し夫れ宋國の法、死生の度は、先君命有り。羣臣死を以て之を守り、敢えて失隊せず。臣が職を失えば、常刑ありて赦されず。臣其の死に忍びず。君命祗[まさ]に辱められん、と。言うこころは、君命必ず行われじ。祗は、適になり。○隊は、音墜。祗は、音支。

宋公遂行、己亥、卒于曲棘。爲明年、梁丘據語起本。
【読み】
宋公遂に行き、己亥、曲棘に卒す。明年、梁丘據が語の爲の起本なり。

十二月、庚辰、齊侯圍鄆。欲取以居公。不書圍、鄆人自服不成圍。
【読み】
十二月、庚辰[かのえ・たつ]、齊侯鄆を圍む。取りて以て公を居かんと欲す。圍を書さざるは、鄆人自ら服して圍を成さざればなり。

初、臧昭伯如晉。臧會竊其寶龜僂句、僂句、龜所出地名。○僂、音旅。又音屢。句、居具反。
【読み】
初め、臧昭伯晉に如く。臧會其の寶龜僂句[るく]を竊[ぬす]みて、僂句は、龜の出ずる所の地名。○僂は、音旅。又音屢。句は、居具反。

以卜爲信與僭。僭吉。僭、不信也。
【読み】
以て信と僭とを爲さんことを卜す。僭吉なり。僭は、不信なり。

臧氏老將如晉問。問昭伯起居。
【読み】
臧氏の老將に晉に如きて問わんとす。昭伯が起居を問う。

會請往。代家老行。
【読み】
會請いて往く。家老に代わりて行く。

昭伯問家故。盡對。故、事也。
【読み】
昭伯家の故を問う。盡く對う。故は、事なり。

及内子與母弟叔孫、則不對。内子、昭伯妻。不對、若有他故。
【読み】
内子と母弟叔孫とに及べば、則ち對えず。内子は、昭伯の妻。對えざるは、他の故有るが若くするなり。

再三問。不對。歸。及郊。會逆。問、又如初。又不對。
【読み】
再三問う。對えず。歸る。郊に及ぶ。會逆う。問えば、又初めの如し。又對えず。

至、次於外而察之。皆無之。執而戮之。逸奔郈。郈魴假使爲賈正焉。郈、在東平無鹽縣東南。魴假、郈邑大夫。賈正、掌貨物使有常價。若市吏。○魴、音房。賈、音嫁。
【読み】
至り、外に次りて之を察す。皆之れ無し。執えて之を戮せんとす。逸げて郈に奔る。郈の魴假賈正爲らしむ。郈は、東平無鹽縣の東南に在り。魴假は、郈邑の大夫。賈正は、貨物を掌りて常價有らしむるもの。市吏の若し。○魴は、音房。賈は、音嫁。

計於季氏。送計簿於季氏。
【読み】
季氏に計す。計簿を季氏に送る。

臧氏使五人以戈楯伏諸桐汝之閭。桐汝、里名。○楯、食準反。又音允。
【読み】
臧氏五人をして戈楯を以て諸を桐汝の閭に伏せしむ。桐汝は、里の名。○楯は、食準反。又音允。

會出。逐之。反奔。執諸季氏中門之外。平子怒曰、何故以兵入吾門。拘臧氏老。季・臧有惡。相怨惡。
【読み】
會出づ。之を逐う。反り奔る。諸を季氏が中門の外に執う。平子怒りて曰く、何の故に兵を以て吾が門に入る、と。臧氏の老を拘えぬ。季・臧惡しみ有り。相怨惡す。

及昭伯從公、平子立臧會。立以爲臧氏後。
【読み】
昭伯が公に從うに及びて、平子臧會を立つ。立てて以て臧氏の後と爲す。

會曰、僂句不余欺也。傳言卜筮之驗、善惡由人。
【読み】
會曰く、僂句余を欺かず、と。傳卜筮の驗の、善惡人に由るを言う。

楚子使薳射城州屈、復茄人焉、還復茄人於州屈。○屈、居勿反。一其勿反。茄、音加。
【読み】
楚子薳射[いえき]をして州屈に城きて、茄人を復し、茄人を州屈に還し復すなり。○屈は、居勿反。一に其勿反。茄は、音加。

城丘皇、遷訾人焉、移訾人於丘皇。
【読み】
丘皇に城きて、訾人を遷さしめ、訾人を丘皇に移す。

使熊相禖郭巢、季然郭卷。使二大夫爲巢・卷築郭也。卷城、在南陽葉縣南。○禖、音梅。卷、音權。又音捲。
【読み】
熊相禖[ゆうしょうばい]をして巢に郭し、季然をして卷に郭せしむ。二大夫をして巢・卷の爲に郭を築かしむるなり。卷城は、南陽葉縣の南に在り。○禖は、音梅。卷は、音權。又音捲。

子大叔聞之曰、楚王將死矣。使民不安其土。民必憂。憂將及王。弗能久矣。爲明年、楚子居卒傳。
【読み】
子大叔之を聞きて曰く、楚王將に死せんとす。民をして其の土に安んぜざらしむ。民必ず憂えん。憂えば將に王に及ばんとす。久しきこと能わじ、と。明年、楚子居卒する爲の傳なり。


〔經〕二十有六年、春、王正月、葬宋元公。三月而葬。速。
【読み】
〔經〕二十有六年、春、王の正月、宋の元公を葬る。三月にして葬る。速きなり。

三月、公至自齊、居于鄆。夏、公圍成。成、孟氏邑。不書齊師、帥賤衆少、重在公。
【読み】
三月、公齊より至り、鄆[うん]に居る。夏、公成を圍む。成は、孟氏の邑。齊の師を書さざるは、帥賤しく衆少なくして、重きこと公に在ればなり。

秋、公會齊侯・莒子・邾子・杞伯盟于鄟陵。鄟陵、地闕。○鄟、音專。又市轉反。一徒丸反。
【読み】
秋、公齊侯・莒子・邾子[ちゅし]・杞伯に會して鄟陵[せんりょう]に盟う。鄟陵は、地闕く。○鄟は、音專。又市轉反。一に徒丸反。

公至自會、居于鄆。無傳。
【読み】
公會より至り、鄆に居る。傳無し。

九月、庚申、楚子居卒。未同盟、而赴以名。
【読み】
九月、庚申[かのえ・さる]、楚子居卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。

冬、十月、天王入于成周。傳言王入、在子朝奔後、經在前者、子朝來告晩。
【読み】
冬、十月、天王成周に入る。傳には王の入るを言うこと、子朝奔る後に在り、經には前に在るは、子朝來り告ぐること晩ければなり。

尹氏・召伯・毛伯以王子朝奔楚。召伯當言召氏。經誤也。尹・召族奔非一人。故言氏。書奔在王入下者、王入、乃告諸侯。
【読み】
尹氏・召伯・毛伯王子朝を以[い]て楚に奔る。召伯は當に召氏と言うべし。經の誤りなり。尹・召の族奔ること一人に非ず。故に氏と言う。奔るを書すこと王の入る下に在るは、王入りて、乃ち諸侯に告ぐればなり。

〔傳〕二十六年、春、王正月、庚申、齊侯取鄆。前年、已取鄆。至是乃發傳者、爲公處鄆起。
【読み】
〔傳〕二十六年、春、王の正月、庚申、齊侯鄆を取る。前年、已に鄆を取る。是に至りて乃ち傳を發するは、公鄆に處る爲の起なり。

葬宋元公如先君。禮也。善宋人違命以合禮。
【読み】
宋の元公を葬ること先君の如くす。禮なり。宋人の命に違いて以て禮に合うを善す。

三月、公至自齊、處于鄆、言魯地也。入魯竟。故書至。猶在外。故書地。
【読み】
三月、公齊より至り、鄆に處るとは、魯の地なるを言うなり。魯の竟に入る。故に至ると書す。猶外に在り。故に地を書す。

夏、齊侯將納公、命無受魯貨。申豐從女賈、豐・賈二人、皆季氏家臣。○女、音汝。
【読み】
夏、齊侯將に公を納れんとし、命ずらく、魯の貨を受くること無かれ、と。申豐女賈に從い、豐・賈二人は、皆季氏の家臣。○女は、音汝。

以幣錦二兩、二丈爲一端。二端爲一兩。所謂匹也。二兩、二匹。
【読み】
幣錦二兩を以て、二丈を一端と爲す。二端を一兩と爲す。所謂匹なり。二兩は、二匹なり。

縳一如瑱。瑱、充耳。縳、卷也。急卷使如充耳。易懷藏。○縳、勑轉反。瑱、宅殿反。
【読み】
一に縳[たば]ねて瑱[てん]の如くす。瑱は、充耳。縳[てん]は、卷くなり。急に卷きて充耳の如くならしむ。懷藏し易し。○縳は、勑轉反。瑱は、宅殿反。

適齊師、謂子猶之人高齮、齮、子猶家臣。子猶、梁丘據。○齮、魚綺反。
【読み】
齊の師に適き、子猶の人高齮[こうき]に謂えらく、齮は、子猶の家臣。子猶は、梁丘據。○齮は、魚綺反。

能貨子猶、爲高氏後、粟五千庾。言若能爲我行貨於子猶、當爲請使得爲高氏後。又當致粟五千庾。庾、十六斗。凡八千斛。○能爲、于僞反。下當爲・爲魯同。
【読み】
能く子猶に貨[まいない]せば、高氏の後と爲し、粟五千庾[ゆ]をせん、と。言うこころは、若し能く我が爲に貨を子猶に行わば、當に爲に請いて高氏の後爲ることを得せしむ。又當に粟五千庾を致すべし。庾は、十六斗。凡そ八千斛[こく]なり。○能爲は、于僞反。下の當爲・爲魯も同じ。

高齮以錦示子猶。子猶欲之。齮曰、魯人買之、百兩一布。以道之不通、先入幣財。言魯人買此甚多。布陳之以百兩爲數。
【読み】
高齮錦を以て子猶に示す。子猶之を欲す。齮曰く、魯人之を買いて、百兩を一布とせり。道の通ぜざるを以て、先ず幣財を入るるのみ、と。言うこころは、魯人此を買うこと甚だ多し。之を布陳するに百兩を以て數と爲す。

子猶受之、言於齊侯曰、羣臣不盡力于魯君者、非不能事君也。欲行其說。故先示欲盡力納魯君。
【読み】
子猶之を受け、齊侯に言いて曰く、羣臣力を魯君に盡くさざる者は、君に事うること能わざるには非ざるなり。其の說を行わんと欲す。故に先ず力を盡くして魯の君を納れんと欲するを示す。

然據有異焉。異、猶怪也。
【読み】
然れども據異[あや]しむこと有り。異は、猶怪しむのごとし。

宋元公爲魯君如晉、卒於曲棘、叔孫昭子求納其君、無疾而死。不知天之棄魯耶、抑魯君有罪於鬼神、故及此也。君若待于曲棘、使羣臣從魯君以卜焉。卜、知可伐否。
【読み】
宋の元公魯の君の爲に晉に如かんとして、曲棘に卒し、叔孫昭子其の君を納れんことを求めて、疾無くして死せり。知らず、天の魯を棄つるか、抑々魯の君鬼神に罪有り、故に此に及べるか。君若しくは曲棘に待ち、羣臣をして魯の君に從いて以て卜せしめよ。卜とは、伐つ可きや否やを知るなり。

若可、師有濟也。君而繼之。玆無敵矣。若其無成、君無辱焉。齊侯從之、使公子鉏帥師從公。鉏、齊大夫。
【読み】
若し可ならば、師濟[な]ること有らん。君而して之に繼け。玆れ敵無けん。若し其れ成ること無くば、君辱あること無けん、と。齊侯之に從い、公子鉏[しょ]をして師を帥いて公に從わしむ。鉏は、齊の大夫。

成大夫公孫朝謂平子曰、有都以衛國也。請我受師。許之。以成邑禦齊師。
【読み】
成の大夫公孫朝平子に謂いて曰く、都有るは以て國を衛らんとなり。請う、我れ師を受けん、と。之を許す。成邑を以て齊の師を禦ぐなり。

請納質。恐見疑。○質、音致。
【読み】
質を納れんと請う。疑われんことを恐る。○質は、音致。

弗許。曰、信女足矣。告於齊師曰、孟氏、魯之敝室也。敝、壞也。○女、音汝。
【読み】
許さず。曰く、女を信じて足れり、と。齊の師に告げて曰く、孟氏は、魯の敝室なり。敝は、壞るなり。○女は、音汝。

用成已甚。弗能忍也。請息肩于齊。公孫朝詐齊師、言欲降、使來取成。○降、戶江反。
【読み】
成を用ゆること已甚だし。忍ぶこと能わず。請う、肩を齊に息えん、と。公孫朝齊の師に詐り、降らんと欲すと言いて、來りて成を取らしむるなり。○降は、戶江反。

齊師圍成。成人伐齊師之飮馬于淄者、曰、將以厭衆。以厭衆心、不欲使知己降也。淄水、出泰山梁父縣西、北入汶。○飮、於鴆反。淄、側其反。厭、於冉反。又於葉反。
【読み】
齊の師成を圍む。成人齊の師の馬に淄[し]に飮ます者を伐ちて、曰く、將に以て衆を厭かさんとす、と。以て衆心を厭かして、己が降るを知らしめんことを欲せざるなり。淄水は、泰山梁父縣の西に出でて、北して汶に入る。○飮は、於鴆反。淄は、側其反。厭は、於冉反。又於葉反。

魯成備而後告曰、不勝衆。告齊言、衆不欲降、己不能勝。○勝、音升。又始證反。
【読み】
魯備えを成して而して後に告げて曰く、衆に勝えず、と。齊に告げて言う、衆降ることを欲せず、己勝うること能わず、と。○勝は、音升。又始證反。

師及齊師戰于炊鼻。季氏師距公。非公命則不書。炊鼻、魯地。
【読み】
師齊の師と炊鼻に戰う。季氏の師公を距ぐなり。公命に非ざれば則ち書さず。炊鼻は、魯の地。

齊子淵捷從洩聲子。聲子、魯大夫。○洩、息列反。
【読み】
齊の子淵捷洩聲子を從[お]う。聲子は、魯の大夫。○洩は、息列反。

射之中楯瓦。瓦、楯脊。○射、食亦反。楯、常允反。又音允。
【読み】
之を射て楯瓦に中つ。瓦は、楯の脊。○射は、食亦反。楯は、常允反。又音允。

繇朐汏輈、匕入者三寸。入楯瓦也。朐、車軛。輈、車轅。繇、過也。汏、矢激。匕、矢鏃也。○繇、音由。朐、其倶反。汏、他達反。輈、陟留反。軛、於革反。鏃、子木反。或七木反。
【読み】
朐[くびき]を繇[す]ぎ輈[ながえ]を汏[す]ぎて、匕[やじり]の入る者三寸。楯瓦に入るなり。朐[く]は、車軛。輈[ちゅう]は、車轅。繇[ゆう]は、過ぎるなり。汏は、矢の激するなり。匕は、矢鏃なり。○繇は、音由。朐は、其倶反。汏は、他達反。輈は、陟留反。軛[あく]は、於革反。鏃は、子木反。或は七木反。

聲子射其馬斬鞅。殪。殪、死也。○鞅、於丈反。殪、於計反。
【読み】
聲子其の馬を射て鞅[むながい]を斬る。殪る。殪[えい]は、死ぬなり。○鞅は、於丈反。殪は、於計反。

改駕。人以爲鬷戾也而助之。人、魯人也。鬷戾、叔孫氏司馬。
【読み】
改め駕す。人鬷戾[そうれい]なりと以爲いて之を助く。人は、魯人なり。鬷戾は、叔孫氏の司馬。

子車曰、齊人也。子車、卽淵捷。
【読み】
子車曰く、齊人なり、と。子車は、卽ち淵捷。

將擊子車。子車射之。殪。其御曰、又之。又欲使射餘人。
【読み】
將に子車を擊たんとす。子車之を射る。殪る。其の御曰く、之を又せよ、と。又餘人を射さしめんと欲す。

子車曰、衆可懼也、而不可怒也。
【読み】
子車曰く、衆は懼[おど]す可くして、怒らす可からざるなり。

子囊帶從野洩、叱之。囊帶、齊大夫。野洩、卽聲子。○叱、昌實反。
【読み】
子囊帶野洩を從いて、之を叱[いさ]う。囊帶は、齊の大夫。野洩は、卽ち聲子。○叱は、昌實反。

洩曰、軍無私怒。報乃私也。將亢子。欲以公戰禦之。不欲私報其叱。
【読み】
洩曰く、軍には私怒無し。報いば乃ち私なり。將に子を亢がんとす。公戰を以て之を禦がんと欲す。其の叱に私報することを欲せず。

又叱之。子囊復叱之。
【読み】
又之を叱う。子囊復之を叱う。

亦叱之。野洩亦叱也。言齊無戰心。但相叱。
【読み】
亦之を叱う。野洩も亦叱うなり。言うこころは、齊戰心無し。但相叱うのみ。

冉豎射陳武子、中手。冉豎、季氏臣。
【読み】
冉豎陳武子を射て、手に中つ。冉豎は、季氏の臣。

失弓而罵。武子罵。
【読み】
弓を失いて罵る。武子罵るなり。

以告平子曰、有君子、白皙、鬒鬚眉、甚口。平子曰、必子也。無乃亢諸。、武子字。○鬒、之忍反。黑也。
【読み】
以て平子に告げて曰く、君子有り、白皙、鬒鬚眉[しんしゅび]、甚口なり、と。平子曰く、必ず子ならん。乃ち諸を亢ぐこと無かりしや、と。は、武子の字。○鬒は、之忍反。黑きなり。
*「疆」は、漢籍國字解全書では「彊」。

對曰、謂之君子、何敢亢之。僞言不敢違季氏。
【読み】
對えて曰く、之を君子と謂いて、何ぞ敢えて之を亢がん、と。僞言して敢えて季氏に違わざるなり。

林雍羞爲顏鳴右下。皆魯人。羞爲右。故下車戰。
【読み】
林雍顏鳴が右爲ることを羞じて下る。皆魯人なり。右爲ることを羞ず。故に車を下りて戰う。

苑何忌取其耳。何忌、齊大夫。不欲殺雍、但截其耳以辱之。○苑、於阮反。
【読み】
苑何忌其の耳を取る。何忌は、齊の大夫。雍を殺さんことを欲せず、但其の耳を截りて以て之を辱めしむ。○苑は、於阮反。

顏鳴去之。其右見獲。懼而去之。
【読み】
顏鳴之を去る。其の右獲らる。懼れて之を去る。

苑子之御曰、視下顧。復欲使苑子擊其足。
【読み】
苑子が御曰く、下を視て顧みよ、と。復苑子をして其の足を擊たしめんと欲す。

苑子刜林雍、斷其足。鑋而乘於他車以歸。鑋、一足行。○刜、芳弗反。又殳勿反。斷、丁管反。鑋、遣政反。
【読み】
苑子林雍を刜[う]ち、其の足を斷つ。鑋[けい]して他車に乘りて以て歸る。鑋は、一足にして行くなり。○刜[ふつ]は、芳弗反。又父勿反。斷は、丁管反。鑋は、遣政反。

顏鳴三入齊師、呼曰、林雍乘。言魯人皆致力於季氏、不以私怨而相棄。○呼、火故反。乘、繩證反。
【読み】
顏鳴三たび齊の師に入り、呼びて曰く、林雍乘れ、と。言うこころは、魯人皆力を季氏に致して、私怨を以て相棄てず。○呼は、火故反。乘は、繩證反。

四月、單子如晉告急。五月、戊午、劉人敗王城之師于尸氏。劉人、劉蚠之屬。王城、子朝之徒。尸氏、在鞏縣西南偃師城。
【読み】
四月、單子晉に如きて急を告ぐ。五月、戊午[つちのえ・うま]、劉人王城の師を尸氏に敗る。劉人は、劉蚠の屬。王城は、子朝の徒。尸氏は、鞏縣の西南偃師城に在り。

戊辰、王城人・劉人戰于施谷。劉師敗績。施谷、周地。
【読み】
戊辰[つちのえ・たつ]、王城の人と劉人と施谷に戰う。劉の師敗績す。施谷は、周の地。

秋、盟于鄟陵、謀納公也。齊侯謀。
【読み】
秋、鄟陵に盟うは、公を納れんことを謀るなり。齊侯謀るなり。

七月、己巳、劉子以王出。師敗、懼而出。
【読み】
七月、己巳[つちのと・み]、劉子王を以て出づ。師敗れ、懼れて出づるなり。

庚午、次于渠。渠、周地。
【読み】
庚午[かのえ・うま]、渠に次る。渠は、周の地。

王城人焚劉。燒劉子邑。
【読み】
王城の人劉を焚く。劉子の邑を燒く。

丙子、王宿于褚氏。洛陽縣南有褚氏亭。○褚、音貯。
【読み】
丙子[ひのえ・ね]、王褚氏に宿る。洛陽縣の南に褚氏亭有り。○褚は、音貯。

丁丑、王次于萑谷。庚辰、王入于胥靡。辛巳、王次于滑。萑谷・胥靡・滑、皆周地。胥靡・滑、本鄭邑。○萑、音丸。
【読み】
丁丑[ひのと・うし]、王萑谷[かんこく]に次る。庚辰[かのえ・たつ]、王胥靡に入る。辛巳[かのと・み]、王滑に次る。萑谷・胥靡・滑は、皆周の地。胥靡・滑は、本鄭の邑。○萑は、音丸。

晉知躒・趙鞅帥師納王。使汝寬守闕塞。汝寬、晉大夫。闕塞、洛陽西南伊闕口也。守之備子朝。○知、音智。躒、音歷。女、音汝。塞、素代反。
【読み】
晉の知躒・趙鞅師を帥いて王を納れんとす。汝寬をして闕塞を守らしむ。汝寬は、晉の大夫。闕塞は、洛陽の西南の伊闕口なり。之を守りて子朝に備う。○知は、音智。躒は、音歷。女は、音汝。塞は、素代反。

九月、楚平王卒。令尹子常欲立子西。子西、平王之長庶。
【読み】
九月、楚の平王卒す。令尹子常子西を立てんと欲す。子西は、平王の長庶。

曰、大子壬弱、其母非適也。壬、昭王也。○適、音的。下同。
【読み】
曰く、大子壬は弱く、其の母は適に非ざるなり。壬は、昭王なり。○適は、音的。下も同じ。

王子建實聘之。子西長而好善。立長則順、建善則治。王順國治、可不務乎。子西怒曰、是亂國而惡君王也。言王子建聘之、是章君王之惡。○長、上聲。好、去聲。
【読み】
王子建實に之を聘せるなり。子西は長にして善を好む。長を立つれば則ち順、善を建つれば則ち治まる。王順に國治まらんこと、務めざる可けんや、と。子西怒りて曰く、是れ國を亂して君王を惡しくするなり。王子建之を聘すと言うは、是れ君王の惡を章らかにするなり。○長は、上聲。好は、去聲。

國有外援、不可瀆也。外援、秦也。瀆、慢也。
【読み】
國に外援有り、瀆[あなど]る可からず。外援は、秦なり。瀆は、慢るなり。

王有適嗣、不可亂也。敗親速讎、不立壬、秦將來討。是速讎也。
【読み】
王に適嗣有り、亂る可からず。親を敗れば讎を速[まね]き、壬を立てざれば、秦將に來り討ぜんとす。是れ讎を速くなり。

亂嗣不祥。我受其名。受惡名。
【読み】
嗣を亂るは不祥なり。我れ其の名を受けん。惡名を受くるなり。

賂吾以天下、吾滋不從也。滋、益也。
【読み】
吾に賂うに天下を以てすとも、吾れ滋[ます]々從わじ。滋は、益々なり。

楚國何爲。必殺令尹。令尹懼。乃立昭王。
【読み】
楚國何をかせん。必ず令尹を殺さん、と。令尹懼る。乃ち昭王を立つ。

冬、十月、丙申、王起師于滑。起、發也。
【読み】
冬、十月、丙申[ひのえ・さる]、王師を滑に起こす。起は、發すなり。

辛丑、在郊。郊、子朝邑。
【読み】
辛丑[かのと・うし]、郊に在り。郊は、子朝の邑。

遂次于尸。十一月、辛酉、晉師克鞏。知躒・趙鞅之師。
【読み】
遂に尸に次る。十一月、辛酉[かのと・とり]、晉の師鞏に克つ。知躒・趙鞅の師。

召伯盈逐王子朝。伯盈、本黨子朝。晉師克鞏。知子朝不成、更逐之、而逆敬王。
【読み】
召伯盈王子朝を逐う。伯盈は、本子朝に黨す。晉の師鞏に克つ。子朝が成らざるを知り、更に之を逐いて、敬王を逆う。

王子朝及召氏之族・毛氏得・尹氏固・南宮嚚、奉周之典籍以奔楚。尹・召二族皆奔。故稱氏。重見尹固名者、爲後還見殺。○見、音現。爲、去聲。且爲同。
【読み】
王子朝召氏の族と毛氏得・尹氏固・南宮嚚と、周の典籍を奉じて以て楚に奔る。尹・召二族皆奔る。故に氏を稱す。重ねて尹固が名を見すは、後還りて殺さるるが爲なり。○見は、音現。爲は、去聲。且爲も同じ。

陰忌奔莒以叛。陰忌、子朝黨。莒、周邑。
【読み】
陰忌莒に奔りて以て叛く。陰忌は、子朝の黨。莒は、周の邑。

召伯逆王于尸、及劉子・單子盟。召伯新還。故盟。
【読み】
召伯王を尸より逆え、劉子・單子と盟う。召伯新たに還る。故に盟う。

遂軍圉澤、次于隄上。圉澤・隄上、皆周地。○隄、音低。或音啼。
【読み】
遂に圉澤に軍し、隄上に次る。圉澤・隄上は、皆周の地。○隄は、音低。或は音啼。

癸酉、王入于成周、成周、今洛陽。
【読み】
癸酉[みずのと・とり]、王成周に入り、成周は、今の洛陽。

甲戌、盟于襄宮。襄王之廟。
【読み】
甲戌[きのえ・いぬ]、襄宮に盟う。襄王の廟。

晉師使成公般戍周而還。般、晉大夫。○般、音班。
【読み】
晉の師成公般をして周を戍らしめて還る。般は、晉の大夫。○般は、音班。

十二月、癸未、王入于莊宮。莊宮、在王城。
【読み】
十二月、癸未[みずのと・ひつじ]、王莊宮に入れり。莊宮は、王城に在り。

王子朝使告于諸侯曰、昔武王克殷、成王靖四方、康王息民、竝建母弟以蕃屛周。亦曰、吾無專享文・武之功。不敢專。故建母弟。
【読み】
王子朝諸侯に告げしめて曰く、昔武王殷に克ち、成王四方を靖んじ、康王民を息えて、竝びに母弟を建てて以て周に蕃屛とす。亦曰く、吾れ專ら文・武の功を享くること無からん、と。敢えて專らにせず。故に母弟を建つ。

且爲後人之迷敗傾覆、而溺入于難、則振救之。
【読み】
且後人の迷敗傾覆して、難に溺入せば、則ち之を振救せんが爲なり。

至于夷王、王愆于厥身。夷王、厲王父也。愆、惡疾也。○覆、音福。難、乃旦反。
【読み】
夷王に至りて、王厥の身に愆[やまい]あり。夷王は、厲王の父なり。愆は、惡疾なり。○覆は、音福。難は、乃旦反。

諸侯莫不竝走其望以祈王身。至于厲王、王心戾虐、萬民弗忍、居王于彘、不忍害王也。厲王之末、周人流王于彘。○彘、直例反。
【読み】
諸侯竝びに其の望に走りて以て王の身を祈らざること莫し。厲王に至りて、王の心戾虐なりしも、萬民忍びずして、王を彘[てい]に居き、王を害するに忍びざるなり。厲王の末、周人王を彘に流す。○彘は、直例反。

諸侯釋位、以閒王政、閒、猶與也。去其位、與治王之政事。○閒、去聲。一如字。
【読み】
諸侯位を釋てて、以て王政に閒[あずか]り、閒は、猶與るのごとし。其の位を去りて、王の政事を與り治む。○閒は、去聲。一に字の如し。

宣王有志而後效官。宣王、厲王子。彘之亂、宣王尙少。召公虎取而長之。效、授也。
【読み】
宣王志有りて而して後に官を效[さず]けり。宣王は、厲王の子。彘の亂に、宣王尙少[わか]し。召公虎取りて之を長とす。效は、授くなり。

至于幽王、天不弔周、王昏不若、用愆厥位、幽王、宣王子。若、順也。愆、失也。
【読み】
幽王に至りて、天周を弔[めぐ]まず、王昏くして若[したが]わずして、用て厥の位を愆[うしな]い、幽王は、宣王の子。若は、順うなり。愆は、失うなり。

攜王奸命、諸侯替之、而建王嗣、用遷郟鄏、攜王、幽王少子、伯服也。王嗣、宣臼也。幽王后申姜生大子宣臼。王幸襃姒、生伯服、欲立之、而殺大子。大子奔申。申伯與鄫及西戎伐周、戰于戲。幽王死。諸侯廢伯服、而立宣臼。是爲平王、東遷郟鄏。○攜、戶圭反。奸、音干。鄏、音辱。戲、音希。
【読み】
攜王命を奸せしかば、諸侯之を替えて、王嗣を建てて、用て郟鄏[こうじょく]に遷せしは、攜王は、幽王の少子、伯服なり。王嗣は、宣臼なり。幽王の后申姜大子宣臼を生む。王襃姒を幸して、伯服を生み、之を立てて、大子を殺さんと欲す。大子申に奔る。申伯鄫[しょう]と西戎と周を伐ち、戲に戰う。幽王死す。諸侯伯服を廢して、宣臼を立つ。是を平王と爲し、東のかた郟鄏に遷る。○攜は、戶圭反。奸は、音干。鄏は、音辱。戲は、音希。

則是兄弟之能用力於王室也。
【読み】
則ち是れ兄弟の能く力を王室に用いたるなり。

至于惠王、天不靖周、生頹禍心、施于叔帶、惠・襄辟難、越去王都、惠王、平王六世孫。頹、惠王庶叔也。莊十九年、作亂、惠王適鄭。襄王、惠王子。叔帶、襄王弟。僖二十四年、叔帶作難、襄王居氾。○施、音異。辟、音避。難、去聲。氾、音凡。
【読み】
惠王に至りて、天周を靖んぜず、頹が禍心を生じて、叔帶に施[かたむ]き、惠・襄難を辟け、王都を越去せしかば、惠王は、平王六世の孫。頹は、惠王の庶叔なり。莊十九年、亂を作し、惠王鄭に適く。襄王は、惠王の子。叔帶は、襄王の弟。僖二十四年、叔帶難を作し、襄王氾に居る。○施は、音異。辟は、音避。難は、去聲。氾は、音凡。

則有晉・鄭、咸黜不端、黜、去也。晉文殺叔帶、鄭厲殺子頹、爲王室去不端直之人。○去、上聲。
【読み】
則ち晉・鄭有りて、咸[ことごと]く不端を黜けて、黜は、去るなり。晉文叔帶を殺し、鄭厲子頹を殺して、王室の爲に端直ならざるの人を去れり。○去は、上聲。

以綏定王家、則是兄弟之能率先王之命也。
【読み】
以て王家を綏定[すいてい]せしは、則ち是れ兄弟の能く先王の命に率えるなり。

在定王六年、秦人降妖、定王、襄王孫。定王六年、魯宣八年。
【読み】
定王六年に在りて、秦人妖を降して、定王は、襄王の孫。定王六年は、魯宣の八年なり。

曰、周其有頿王。亦克能脩其職、諸侯服享、二世共職。二世、謂靈・景。○頿、子斯反。共、音恭。
【読み】
曰く、周其れ頿王[しおう]有らん。亦克く能く其の職を脩め、諸侯服享し、二世職に共せん。二世は、靈・景を謂う。○頿は、子斯反。共は、音恭。

王室其有閒王位。諸侯不圖、而受其亂災。閒王位、謂子朝也。今子朝以爲王猛。受亂災、謂楚也。今子朝以爲晉。○閒、去聲。下閒先王同。
【読み】
王室其れ王位を閒すること有らん。諸侯圖らずんば、而して其の亂災を受けん、と。王位を閒するとは、子朝を謂うなり。今子朝以て王猛と爲す。亂災を受くるとは、楚を謂うなり。今子朝以て晉と爲す。○閒は、去聲。下の閒先王も同じ。

至于靈王、生而有頿。靈王、定王孫。
【読み】
靈王に至り、生まれて頿[ひげ]有り。靈王は、定王の孫。

王甚神聖、無惡於諸侯、靈王・景王克終其世。景王、靈王子。
【読み】
王甚だ神聖にして、諸侯に惡しきこと無く、靈王・景王克く其の世を終えり。景王は、靈王の子。

今王室亂、單旗・劉狄剝亂天下、壹行不若、單旗、穆公也。劉狄、劉蚠也。壹、專也。
【読み】
今王室亂れ、單旗・劉狄天下を剝亂し、壹[もっぱ]ら不若を行いて、單旗は、穆公なり。劉狄は、劉蚠なり。壹は、專らなり。

謂先王何常之有。言先王無常法。
【読み】
謂えらく、先王は何の常か之れ有らん。言うこころは、先王常法無し。

唯余心所命、其誰敢討之。帥羣不弔之人、弔、至也。○弔、如字。舊丁歷反。
【読み】
唯余が心の命ずる所、其れ誰か敢えて之を討ぜん、と。羣不弔の人を帥いて、弔は、至るなり。○弔は、字の如し。舊丁歷反。

以行亂于王室、侵欲無厭、規求無度、貫瀆鬼神、貫、習也。瀆、易也。○厭、於鹽反。貫、古患反。易、以豉反。
【読み】
以て亂を王室に行い、侵欲厭くこと無く、規求度無く、鬼神を貫瀆し、貫は、習れるなり。瀆は、易[あなど]るなり。○厭は、於鹽反。貫は、古患反。易は、以豉反。

慢棄刑法、倍奸齊盟、傲很威儀、矯誣先王、晉爲不道、是攝是贊、攝、持也。贊、佐也。先王、謂景王。○倍、音佩。很、戶懇反。
【読み】
刑法を慢棄し、齊盟に倍奸し、威儀を傲很[ごうこん]し、先王を矯誣するを、晉不道を爲して、是れ攝[も]ち是れ贊けて、攝は、持つなり。贊は、佐くなり。先王は、景王を謂う。○倍は、音佩。很は、戶懇反。

思肆其罔極。肆、放也。
【読み】
其の極まり罔きを肆[ほしいまま]にせんと思えり。肆は、放なり。

玆不穀震盪播越、竄在荆蠻、玆、此也。此不穀、子朝自謂。○盪、徒黨反。
【読み】
玆に不穀震盪[しんとう]播越[はえつ]して、荆蠻に竄在[ざんざい]して、玆は、此なり。此に不穀とは、子朝自ら謂うなり。○盪は、徒黨反。

未有攸厎。厎、至也。攸、所也。
【読み】
未だ厎[いた]る攸有らず。厎は、至るなり。攸は、所なり。

若我一二兄弟甥舅、獎順天法、無助狡猾、以從先王之命、毋速天罰、赦圖不穀、赦其憂而圖其難。
【読み】
若し我が一二の兄弟甥舅、天法を獎順して、狡猾を助くること無くして、以て先王の命に從い、天罰を速くこと毋く、不穀を赦し圖らば、其の憂えを赦して其の難を圖るなり。

則所願也。敢盡布其腹心、及先王之經。而諸侯實深圖之。
【読み】
則ち願う所なり。敢えて盡く其の腹心を布きて、先王の經に及べり。而して諸侯實に深く之を圖れ。

昔先王之命曰、王后無適、則擇立長。年鈞以德、德鈞以卜。此所謂先王之經。
【読み】
昔先王の命に曰く、王后適無ければ、則ち擇びて長を立つ。年鈞しければ德を以てし、德鈞しければ卜を以てす、と。此れ所謂先王の經なり。

王不立愛、公卿無私、古之制也。穆后及大子壽早夭卽世、在十五年。
【読み】
王は愛を立てず、公卿は私無きは、古の制なり。穆后と大子壽と早夭卽世せしかば、十五年に在り。

單・劉贊私立少、以閒先王。閒錯先王之制。
【読み】
單・劉私を贊け少を立てて、以て先王を閒せり。先王の制を閒錯す。

亦唯伯・仲・叔・季圖之。伯・仲・叔・季、揔謂諸侯。
【読み】
亦唯伯・仲・叔・季之を圖れ、と。伯・仲・叔・季は、揔べて諸侯を謂う。

閔馬父聞子朝之辭曰、文辭以行禮也。子朝干景之命、遠晉之大、以專其志。無禮甚矣。文辭何爲。傳終王室亂。○遠、于萬反。
【読み】
閔馬父子朝の辭を聞きて曰く、文辭は以て禮を行わんとなり。子朝景の命を干し、晉の大を遠ざけて、以て其の志を專らにせんとす。無禮甚だし。文辭何をかせん、と。傳王室の亂を終わる。○遠は、于萬反。

齊有彗星。出齊之分野。不書、魯不見。○彗、似歲反。
【読み】
齊に彗星有り。齊の分野に出づ。書さざるは、魯は見えざればなり。○彗は、似歲反。

齊侯使禳之。祭以禳除之。
【読み】
齊侯之を禳わしめんとす。祭りて以て之を禳除す。

晏子曰、無益也。祗取誣焉。誣、欺也。
【読み】
晏子曰く、益無きなり。祗[ただ]に誣を取らん。誣は、欺くなり。

天道不、疑也。
【読み】
天道[うたが]わず、は、疑うなり。
*「謟」は、漢籍國字解全書では「諂」。

不貳其命。若之何禳之。且天之有彗也、以除穢也。君無穢德、又何禳焉。若德之穢、禳之何損。詩曰、惟此文王、小心翼翼。昭事上帝、聿懷多福。厥德不回、以受方國。詩、大雅。翼翼、共也。聿、惟也。回、違也。言文王德不違天人。故四方之國歸往之。
【読み】
其の命を貳にせず。之を若何ぞ之を禳わん。且つ天の彗有るや、以て穢れを除わんとなり。君穢德無くば、又何ぞ禳わん。若し德が穢れば、之を禳うとも何ぞ損せん。詩に曰く、惟れ此の文王、小心翼翼たり。昭らかに上帝に事え、聿[ここ]に多福を懷[きた]す。厥の德回[たが]わず、以て方國を受く、と。詩は、大雅。翼翼は、共なり。聿は、惟なり。回は、違うなり。言うこころは、文王德天人に違わず。故に四方の國之に歸往す。

君無違德、方國將至。何患於彗。詩曰、我無所監。夏后及商、用亂之故、民卒流亡。逸詩也。言追監夏・商之亡、皆以亂故。
【読み】
君違德無くば、方國將に至らんとす。何ぞ彗を患えん。詩に曰く、我れ監みる所無し。夏后と商と、亂を用ての故に、民卒に流亡せり、と。逸詩なり。言うこころは、夏・商の亡びしを追監するに、皆亂を以ての故なり。

若德回亂、民將流亡。祝史之爲、無能補也。公說。乃止。
【読み】
若し德回亂ならば、民將に流亡せんとす。祝史の爲[しわざ]も、能く補うこと無し、と。公說ぶ。乃ち止む。

齊侯與晏子坐于路寢。公歎曰、美哉室、其誰有此乎。景公自知德不能久有國。故歎也。○說、音悅。
【読み】
齊侯晏子と路寢に坐す。公歎じて曰く、美なるかな室、其れ誰か此を有たんや、と。景公自ら德の久しく國を有つこと能わざるを知る。故に歎ずるなり。○說は、音悅。

晏子曰、敢問何謂也。公曰、吾以爲在德。對曰、如君之言、其陳氏乎。陳氏雖無大德、而有施於民。豆・區・釜・鍾之數、其取之公也薄、謂以公量收。○施、音翅。下出者同。區、音甌。
【読み】
晏子曰く、敢えて問う、何の謂ぞや、と。公曰く、吾れ以爲えらく、德に在り、と。對えて曰く、君の言の如くば、其れ陳氏か。陳氏大德無しと雖も、而れども民に施し有り。豆・區[おう]・釜・鍾の數、其の之を公に取るや薄く、公量を以て收むるを謂う。○施は、音翅。下に出づる者も同じ。區は、音甌。

其施之民也厚。謂以私量貸。○施、如字。又音翅。
【読み】
其の之を民に施すや厚し。私量を以て貸すを謂う。○施は、字の如し。又音翅。

公厚斂焉、陳氏厚施焉。民歸之矣。詩曰、雖無德與女、式歌且舞。詩、小雅。義取雖無大德、要有喜說之心、欲歌舞之。式、用也。○斂、力驗反。女、音汝。
【読み】
公は厚斂し、陳氏は厚施す。民之に歸せり。詩に曰く、德の女に與[およ]ぶ無しと雖も、式[もっ]て歌い且つ舞わん、と。詩は、小雅。義大德無しと雖も、要喜說の心有り、之に歌舞せんと欲するに取る。式は、用てなり。○斂は、力驗反。女は、音汝。

陳氏之施、民歌舞之矣。後世若少惰、陳氏而不亡、則國其國也已。
【読み】
陳氏の施しを、民之を歌舞せり。後世若し少しく惰り、陳氏にして亡びずんば、則ち國は其の國ならんのみ、と。

公曰、善哉。是可若何。對曰、唯禮可以已之。在禮、家施不及國、民不遷、農不移、工賈不變、守常業。○賈、音古。
【読み】
公曰く、善いかな。是れ若何にす可けん、と。對えて曰く、唯禮以て之を已む可し。禮に在りて、家の施しは國に及ばず、民は遷らず、農は移らず、工賈は變ぜず、常業を守る。○賈は、音古。

士不濫、不失職。
【読み】
士は濫ならず、職を失わず。

官不滔、滔、慢也。○滔、吐刀反。
【読み】
官は滔[とう]ならず、滔は、慢るなり。○滔は、吐刀反。

大夫不收公利。不作福。
【読み】
大夫は公利を收めず。福を作さず。

公曰、善哉。我不能矣。吾今而後知禮之可以爲國也。對曰、禮之可以爲國也久矣。與天地竝。有天地則禮義興。
【読み】
公曰く、善いかな。我は能わず。吾れ今にして後に禮の以て國を爲む可きことを知れり、と。對えて曰く、禮の以て國を爲む可きや久し。天地と竝べり。天地有れば則ち禮義興る。

君令臣共、父慈子孝、兄愛弟敬、夫和妻柔、姑慈婦聽、禮也。君令而不違、臣共而不貳、父慈而敎、子孝而箴、箴、諫也。○共、音恭。下同。
【読み】
君令し臣共し、父慈に子孝に、兄愛し弟敬し、夫和し妻柔に、姑慈に婦聽くは、禮なり。君令して違わず、臣共して貳せず、父慈にして敎え、子孝にして箴[いさ]め、箴は、諫むなり。○共は、音恭。下も同じ。

兄愛而友、弟敬而順、夫和而義、妻柔而正、姑慈而從、從、不自專。
【読み】
兄愛して友、弟敬して順、夫和して義、妻柔にして正、姑慈にして從い、從は、自ら專らにせざるなり。

婦聽而婉、婉、順也。
【読み】
婦聽きて婉[したが]うは、婉は、順うなり。

禮之善物也。公曰、善哉。寡人今而後聞此禮之上也。對曰、先王所稟於天地、以爲其民也。是以先王上之。稟、受也。
【読み】
禮の善物なり。公曰く、善いかな。寡人今にして後に此の禮の上なるを聞けり、と。對えて曰く、先王の天地に稟けて、以て其の民を爲むる所なり。是を以て先王之を上とせり、と。稟は、受くるなり。



經二十三年。
執使。所吏反。庚輿。音餘。雞父。音甫。夏齧。徒雅反。
傳。潰。戶内反。公孫鉏。仕居反。下同。茅地。亡交反。弗殊。如字。說文云、死也。一曰、斷也。人愬。息路反。言使。所吏反。命介。音界。注同。士彌。亡支反。牟。亡侯反。將焉。於虔反。下同。分別。彼列反。從者。才用反。下同。以芻。初倶反。蕘。而昭反。期焉。本又作朞。同。從旦至暮爲朞。模法。莫胡反。字從木。不解。音蟹。爲叔孫。于僞反。吠狗。扶廢反。必葺。七入反。毀壞。音怪。尹圉。魚呂反。劉佗。徒河反。阪道。音反。又扶板反。近東。附近之近。西闈。音韋。一音暉。而好。呼報反。苟鑄。之樹反。師熸。字林、子兼反。無復。扶又反。下注往復敗・復增脩同。而狂。求匡反。所厭。於甲反。本又作壓。同。○今本亦壓。吳大子諸樊。案吳子遏號諸樊。王僚是遏之弟子。千儒又以爲遏弟何容僚子乃取遏號爲名。恐傳寫誤耳。未詳。要其。一遙反。乃縊。一賜反。薳澨。市制反。囊瓦。乃郎反。城郢。一音餘政反。四竟。音境。下及注同。四援。于眷反。民狎。戶甲反。國焉。於虔反。其疆。居良反。埸。音亦。之壘。力軌反。辟。音壁。○今本壁。不僭。子念反。冒。莫報反。一圻。音祈。土數。所主反。
經二十四年。仲孫貜。除倶碧反。郁。於六反。斄。本又作釐。○今本亦釐。
傳。南宮嚚。魚巾反。見王。賢遍反。紂有。直九反。億兆。於力反。有治。直吏反。緱氏。一音苦侯反。不腆。他典反。從者。才用反。莅問。音利。○今本涖。介衆。音界。注同。其使。所吏反。攻瑕。戶加反。及杏。戶孟反。皆潰。戶内反。大叔相。息亮反。釐不。本又作嫠。力之反。○今本亦嫠。其緯。有貴反。之隕。于敏反。動擾。而小反。本又作動攝。吾儕。仕皆反。甁之。本又作缾。步丁反。○今本亦缾。惟罍。音靁。黃父。音甫。用成周之寶珪于河。本或作沈于河。沈音直蔭反。又如字。拘得。音倶。王定而獻之。本或作王定之。吳疆。居良反。略行。下孟反。下同。吳踵。章勇反。躡楚。女輒反。疆埸。音亦。胥犴。五旦反。之汭。如銳反。歸遺。唯季反。圉陽。魚呂反。之帥。所類反。注同。爲梗。更猛反。
經二十五年。叔詣。五計反。鸜。嵆康音權。本又作鴝。音劬。公羊傳作鸛。音權。郭璞注山海經云、鸜鵒、鴝鵒也。公孫。本亦作遜。注及傳同。魯竟。音境。下同。唁公。弔失國曰唁。小斂。力驗反。
傳。車轄。本又作舝。胡瞎反。將爲。于僞反。相近。附近之近。禮坐。如字。又才臥反。以妻。七計反。强橫。華孟反。逞其志。勑景反。焉得。於虔反。發見。賢遍反。下解見同。角徵。張里反。六畜。一音楮六反。麋。亡悲反。麏。九倫反。本亦作麇。黼黻。上音甫。下音弗。昏媾。古豆反。姻。音因。亞。於嫁反。本亦作婭。同。重昏。直龍反。治功。直吏反。以效。戶孝反。哀樂。音洛。下及注皆同。以赴禮者。赴或作從。之難。乃旦反。子焉。於虔反。宋背。音佩。下同。童謠。音遙。往饋。求位反。遺也。唯季反。徵褰。起虔反。字林、己偃反。又音愆。與襦。本或作。而朱反。袴也。袴也。苦故反。說文、作絝。裯父。音甫。下同。季姒。音似。人檀。直丹反。人名也。或市戰反。秦遄。市專反。又愬。音素。又作訴。○今本亦訴。展與夜姑。竝如字。公思展及申夜姑也。與、及也。讀或作餘音者非也。季郈。字林、下遘反。相近。附近之近。又如字。介其。又作芥。音界。不下。遐嫁反。禘。大計反。賁。一音扶云反。又皮義反。侍人。本亦作寺人。數月。所主反。下數世同。不見。賢遍反。臧孫以難。如字。注同。儌幸。古堯反。若泄。息列反。又以制反。注同。漏泄也。○今本洩。如闞。口暫反。於沂。魚依反。五乘。繩證反。慝作。他得反。可畜。勑六反。本亦作蓄。下皆同。○今本亦蓄。將薀。本亦作蘊。紆粉反。○今本亦蘊。鬷戾。子公反。下力計反。陷西。陷沒之陷。北隅。本或作堣。音同。而踞。音據。櫝丸。音獨。下胡官反。箭筩。音童。又音動。一音勇。爲近。于僞反。自咎。其九反。下同。令魯。力呈反。下之。遐嫁反。莒疆。居良反。若胙。才路反。勠力。音六。又力彫反。綣。起阮反。焉可。於虔反。稽。音啓。顙。息黨反。幄内。於角反。自鑄。之樹反。復納。扶又反。齊於。本又作齋。乘馬。如字。騎馬也。將爲。于僞反。以歿。音沒。楄。蒲田反。柎。步口反。苓牀。力丁反。○今本笭。骸。古皆反。昵。女乙反。失隊。直類反。僂。力主反。又力具反。與僭。子念反。注同。計簿。步戶反。卷。一音眷勉反。爲巢。于僞反。
經二十六年。帥賤。所類反。召伯。依注當言召氏。
傳。魯竟。音境。易懷。以豉反。五千廋。羊主反。其說。如字。又始銳反。公子鉏。仕居反。公孫朝。如字。入汶。音問。炊鼻。昌垂反。泄聲。○今本洩。中。丁仲反。下中手同。脊。子亦反。朐。本又作軥。同。匕入。必履反。矢激。古狄反。將亢。苦浪反。下同。復叱。扶又反。下復欲同。馬嫁反。白皙。星曆反。須眉。本又作鬚。脩于反。○今本亦鬚。刜。一音忿勿反。鑋。一音罄。又苦頂反。字林、丘貞反。褚氏。張呂反。一音勑呂反。谷。一音古亂反。女寬。本亦作汝。之長。丁丈反。下文同。非適。丁歷反。則治。直吏反。下同。瀆嫚。武諫反。○今本慢。賂吾。音路。于滑。于八反。重見。直用反。下賢遍反。圉澤。魚呂反。以藩。方元反。亦作蕃。○今本亦蕃。傾覆。芳服反。而溺。乃歷反。王愆。起虔反。效官。戶敎反。尙少。詩照反。下文同。而長。丁丈反。下文同。替之。他計反。郟。古洽反。與鄫。才陵反。于戲。許宜反。生頹。徒回反。施于。以豉反。爲王。于僞反。降妖。本又作訞。於驕反。說文云、衣服謌謠草木之怪謂之妖。剝亂。布角反。無猒。本又作厭。○今本亦厭。傲。五報反。矯。居表反。盪。本又作蕩。竄。七亂反。字林、七外反。攸厎。音旨。奬順。將丈反。狡滑。古卯反。滑又作猾。于八反。○今本亦猾。毋速。音無。其難。乃旦反。無適。丁歷反。彗。一音息遂反。分野。扶問反。禳。如羊反。祗取。音支。謟。本又作慆。他刀反。聿懷。戶橘反。夏后。戶雅反。注同。有施。式豉反。區。烏侯反。量。音亮。下同。其施。一音始豉反。少惰。徒臥反。本亦作憜。同。工賈。本亦作商賈。慢也。武諫反。本又作漫。武半反。而箴。之林反。而婉。於阮反。

春秋左氏傳校本第二十六

昭公 起二十七年盡三十二年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

〔經〕
二十有七年、春、公如齊。自鄆行。○鄆、音運。
【読み】
〔經〕二十有七年、春、公齊に如く。鄆[うん]より行く。○鄆は、音運。

公至自齊、居于鄆。夏、四月、吳弑其君僚。僚亟戰民罷、又伐楚喪。故光乘閒而動。稱國以弑、罪在僚。○罷、音皮。
【読み】
公齊より至り、鄆に居る。夏、四月、吳其の君僚を弑す。僚亟[しば]々戰いて民罷[つか]れ、又楚の喪を伐つ。故に光閒に乘じて動けり。國を稱して以て弑するは、罪僚に在るなり。○罷は、音皮。

楚殺其大夫郤宛。無極、楚之讒人。宛所明知、而信近之、以取敗亡。故書名罪宛。○郤、去逆反。宛、於阮反。又於元反。
【読み】
楚其の大夫郤宛を殺す。無極は、楚の讒人。宛が明らかに知る所にして、之を信近して、以て敗亡を取れり。故に名を書して宛を罪す。○郤は、去逆反。宛は、於阮反。又於元反。

秋、晉士鞅・宋樂祁犂・衛北宮喜・曹人・邾人・滕人會于扈。冬、十月、曹伯午卒。無傳。未同盟、而赴以名。
【読み】
秋、晉の士鞅・宋の樂祁犂[がくきれい]・衛の北宮喜・曹人・邾人[ちゅひと]・滕人扈[こ]に會す。冬、十月、曹伯午卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。

邾快來奔。無傳。快、邾命卿也。故書。
【読み】
邾の快來奔す。傳無し。快は、邾の命卿なり。故に書す。

公如齊。自鄆行。
【読み】
公齊に如く。鄆より行く。

公至自齊、居于鄆。無傳。
【読み】
公齊より至り、鄆に居る。傳無し。

〔傳〕二十七年、春、公如齊、公至自齊、處于鄆、言在外也。在外邑。故書地。
【読み】
〔傳〕二十七年、春、公齊に如く、公齊より至り、鄆に處るとは、外に在るを言うなり。外邑に在り。故に地を書す。

吳子欲因楚喪、而伐之。前年、楚平王卒。
【読み】
吳子楚の喪に因りて、之を伐たんことを欲す。前年、楚の平王卒す。

使公子掩餘・公子燭庸帥師圍潛、二子、皆王僚母弟。潛、楚邑。在廬江六縣西南。
【読み】
公子掩餘・公子燭庸をして師を帥いて潛を圍ましめ、二子は、皆王僚の母弟。潛は、楚の邑。廬江六縣の西南に在り。

使延州來季子聘于上國、季子本封延陵。後復封州來。故曰延州來。
【読み】
延州來の季子をして上國に聘せしめ、季子本延陵に封ぜらる。後復州來に封ぜらる。故に延州來と曰う。

遂聘于晉、以觀諸侯。觀彊弱。
【読み】
遂に晉に聘して、以て諸侯を觀せしむ。彊弱を觀る。

楚莠尹然・工尹麇帥師救潛、二尹、楚官。然・麇、其名。○麇、九倫反。
【読み】
楚の莠尹然[ゆういんぜん]・工尹麇[こういんきん]は師を帥いて潛を救い、二尹は、楚の官。然・麇は、其の名。○麇は、九倫反。

左司馬沈尹戌帥都君子與王馬之屬以濟師、都君子、在都邑之士、有復除者。王馬之屬、王之養馬官屬。校人也。濟、益也。○復、音福。
【読み】
左司馬沈尹戌[しんいんじゅつ]は都君子と王馬の屬とを帥いて以て師を濟[ま]して、都君子は、都邑に在るの士、復除有る者なり。王馬の屬とは、王の馬を養う官屬。校人なり。濟は、益すなり。○復は、音福。

與吳師遇于窮、令尹子常以舟師及沙汭而還、沙、水名。
【読み】
吳の師と窮に遇い、令尹子常は舟師を以て沙汭に及びて還り、沙は、水の名。

左尹郤宛・工尹壽帥師至于潛。吳師不能退。楚師彊。故吳不得退却。
【読み】
左尹郤宛・工尹壽は師を帥いて潛に至る。吳の師退くこと能わず。楚の師彊し。故に吳退却することを得ず。

吳公子光曰、此時也。弗可失也。欲因其師徒在外、國不堪役、以弑王。
【読み】
吳の公子光曰く、此れ時なり。失う可からず、と。其の師徒の外に在りて、國役に堪えざるに因りて、以て王を弑せんと欲す。

告鱄設諸曰、上國有言、曰、不索何獲。我王嗣也。吾欲求之。光、吳王諸樊子也。故曰我王嗣。○鱄、音專。
【読み】
鱄設諸[せんせつしょ]に告げて曰く、上國に言有り、曰く、索[もと]めずんば何ぞ獲ん、と。我は王の嗣なり。吾れ之を求めんと欲す。光は、吳王諸樊の子なり。故に我は王の嗣なりと曰う。○鱄は、音專。

事若克、季子雖至、不吾廢也。至、言聘還。
【読み】
事若し克たば、季子至ると雖も、吾を廢せじ、と。至るとは、聘して還るを言う。

鱄設諸曰、王可弑也。母老子弱。是無若我何。猶言我無若是何。欲以老弱託光。
【読み】
鱄設諸曰く、王をば弑す可し。母老い子弱[わか]し。是れ我を若何ともすること無し、と。猶我れ是を若何ともすること無しと言うがごとし。老弱を以て光に託せんと欲す。

光曰、我爾身也。言我身猶爾身。
【読み】
光曰く、我は爾の身なり、と。言うこころは、我が身は猶爾の身のごとし。

夏、四月、光伏甲於堀室而享王。掘地爲室。○堀、苦忽反。
【読み】
夏、四月、光甲を堀室に伏せて王を享す。地を掘りて室を爲す。○堀は、苦忽反。

王使甲坐於道及其門。坐道邊至光門。
【読み】
王甲をして道に坐せしめて其の門に及ぶ。道邊に坐せしめて光の門に至る。

門階戶席、皆王親也。夾之以鈹、羞者獻體、改服於門外。羞、進食也。獻體、解衣。○鈹、普皮反。劒也。
【読み】
門階戶席、皆王の親なり。之を夾むに鈹[ひ]を以てし、羞者體を獻じて、服を門外に改む。羞は、食を進むるなり。體を獻ずとは、衣を解くなり。○鈹は、普皮反。劒なり。

執羞者坐行而入、坐行、膝行。
【読み】
羞を執る者坐行して入れば、坐行は、膝行。

執鈹者夾承之、承執羞者。
【読み】
鈹を執る者夾みて之を承け、羞を執る者を承く。

及體以相授也。鈹及進羞者體、以所食授王。
【読み】
體に及びて以て相授く。鈹進羞する者の體に及び、食する所を以て王に授く。

光僞足疾、入于堀室。恐難作王黨殺己、素辟之。
【読み】
光足疾ありと僞りて、堀室に入る。難作りて王の黨己を殺さんことを恐れ、素[あらかじ]め之を辟く。

鱄設諸寘劒於魚中以進、全魚炙。
【読み】
鱄設諸劒を魚中に寘きて以て進め、全魚の炙り。

抽劒刺王。鈹交於胷、交鱄諸胷。
【読み】
劒を抽きて王を刺す。鈹胷に交われども、鱄諸が胷に交わる。

遂弑王。闔廬以其子爲卿。闔廬、光也。以鱄諸子爲卿。
【読み】
遂に王を弑しぬ。闔廬[こうりょ]其の子を以て卿と爲す。闔廬は、光なり。鱄諸が子を以て卿と爲す。

季子至。曰、苟先君無廢祀、民人無廢主、社稷有奉、國家無傾、乃吾君也。吾誰敢怨。哀死事生、以待天命。非我生亂。立者從之。先人之道也。吳自諸樊以下、兄弟相傳而不立適。是亂由先人起也。季子自知力不能討光。故云爾。
【読み】
季子至る。曰く、苟も先君祀を廢すること無く、民人主を廢すること無く、社稷奉ずること有り、國家傾くこと無くば、乃ち吾が君なり。吾れ誰をか敢えて怨みん。死を哀しみ生に事えて、以て天命を待たん。我れ亂を生ずるに非ず。立つ者に之に從わん。先人の道なり、と。吳諸樊より以下、兄弟相傳えて適を立てず。是れ亂先人より起これるなり。季子自ら力の光を討ずること能わざるを知る。故に爾か云う。

復命哭墓、復使命於僚墓。
【読み】
復命して墓に哭し、使命を僚が墓に復す。

復位而待。復本位、待光命。
【読み】
位に復りて待ちぬ。本位に復りて、光が命を待つ。

吳公子掩餘奔徐、公子燭庸奔鍾吾。鍾吾、小國。
【読み】
吳の公子掩餘徐に奔り、公子燭庸鍾吾に奔る。鍾吾は、小國。

楚師聞吳亂而還。言聞吳亂、明郤宛不取賂而還。
【読み】
楚の師吳の亂を聞きて還る。吳の亂を聞くと言うは、郤宛が賂を取らずして還ることを明らかにするなり。

郤宛直而和。國人說之。以直事君、以和接類。
【読み】
郤宛直にして和なり。國人之を說ぶ。直を以て君に事え、和を以て類に接す。

鄢將師爲右領、右領、官名。○鄢、於晩樊。又烏戶反。
【読み】
鄢將師右領と爲り、右領は、官の名。○鄢は、於晩反。又烏戶反。

與費無極比而惡之。惡郤宛。○費、扶味反。比、毗志反。惡、烏路反。
【読み】
費無極と比して之を惡む。郤宛を惡む。○費は、扶味反。比は、毗志反。惡は、烏路反。

令尹子常賄而信讒。無極譖郤宛焉、謂子常曰、子惡欲飮子酒。子惡、郤宛。○飮、於鴆反。
【読み】
令尹子常賄にして讒を信ず。無極郤宛を譖せんとして、子常に謂いて曰く、子惡子に酒を飮ませんと欲す、と。子惡は、郤宛。○飮は、於鴆反。

又謂子惡、令尹欲飮酒於子氏。子惡曰、我賤人也。不足以辱令尹。令尹將必來辱、爲惠已甚。吾無以酬之。若何。酬、報獻。
【読み】
又子惡に謂えらく、令尹酒を子氏に飮まんと欲す、と。子惡曰く、我は賤人なり。以て令尹を辱くするに足らず。令尹將[も]し必ず來辱せば、惠み爲ること已甚だし。吾れ以て之に酬ゆること無し。若何にせん、と。酬は、報獻。

無極曰、令尹好甲兵。子出之。吾擇焉。擇取以進子常。
【読み】
無極曰く、令尹甲兵を好む。子之を出だせ。吾れ擇ばん、と。擇び取りて以て子常に進めん。

取五甲五兵、曰、寘諸門。令尹至、必觀之。而從以酬之。曰、無極辭。
【読み】
五甲五兵を取りて、曰く、諸を門に寘け。令尹至らば、必ず之を觀ん。而[なんじ]從いて以て之に酬えという。曰くは、無極が辭。

及饗日、帷諸門左。張帷陳甲兵其中。
【読み】
饗日に及びて、諸を門左に帷せしむ。帷を張りて甲兵を其の中に陳ぬ。

無極謂令尹曰、吾幾禍子。子惡將爲子不利。甲在門矣。子必無往。且此役也、此春、救潛之役。○幾、音祁。
【読み】
無極令尹に謂いて曰く、吾れ幾ど子に禍せんとせり。子惡將に子が不利を爲さんとす。甲門に在り。子必ず往くこと無かれ。且つ此の役や、此の春、潛を救うの役。○幾は、音祁。

吳可以得志、子惡取賂焉而還、又誤羣帥使退其師、曰、乘亂不祥。吳乘我喪。我乘其亂、不亦可乎。令尹使視郤氏、則有甲焉。不往。召鄢將師而告之。告子惡門有甲兵、將害己。
【読み】
吳に以て志を得可きに、子惡賂を取りて還り、又羣帥を誤らせて其の師を退かしめて、曰く、亂に乘ずるは不祥なり、と。吳我が喪に乘ぜり。我れ其の亂に乘ずるも、亦可ならずやという。令尹郤氏を視せしむれば、則ち甲有り。往かず。鄢將師を召して之に告ぐ。子惡が門に甲兵有り、將に己を害せんとするを告ぐ。

將師退、遂令攻郤氏、且爇之。爇、燒也。○爇、如悅反。
【読み】
將師退き、遂に郤氏を攻めしめ、且に之を爇[や]かんとす。爇[ぜつ]は、燒くなり。○爇は、如悅反。

子惡聞之、遂自殺也。國人弗爇。令曰、不爇郤氏、與之同罪。或取一編菅焉、或取一秉秆焉、編菅、苫也。秉、把也。秆、稾也。○菅、古顏反。秆、古但反。禾莖也。
【読み】
子惡之を聞きて、遂に自殺す。國人爇かず。令して曰く、郤氏を爇かずんば、之と罪を同じくせん、と。或は一編菅を取り、或は一秉秆[へいかん]を取るも、編菅は、苫なり。秉は、把なり。秆は、稾なり。○菅は、古顏反。秆は、古但反。禾莖なり。

國人投之、遂弗爇也。令尹炮之、炮燔郤宛。
【読み】
國人之を投げて、遂に爇かざるなり。令尹之を炮[や]かしむといいて、郤宛を炮燔す。

盡滅郤氏之族黨、殺陽令終與其弟完及佗、令終、陽匃子。
【読み】
盡く郤氏の族黨を滅ぼし、陽令終と其の弟完及び佗と、令終は、陽匃[ようかい]の子。

與晉陳及其子弟。晉陳、楚大夫。皆郤氏之黨。
【読み】
晉陳及び其の子弟とを殺す。晉陳は、楚の大夫。皆郤氏の黨。

晉陳之族呼於國曰、鄢氏・費氏自以爲王、專禍楚國、弱寡王室、蒙王與令尹以自利也。蒙、欺也。○呼、火故反。
【読み】
晉陳の族國に呼ばいて曰く、鄢氏・費氏自ら以て王と爲り、專ら楚國に禍し、王室を弱寡なりとし、王と令尹とを蒙[あざむ]きて以て自ら利す。蒙は、欺くなり。○呼は、火故反。

令尹盡信之矣。國將如何。令尹病之。爲下殺無極張本。
【読み】
令尹盡く之を信ぜり。國將に如何にせんとする、と。令尹之を病む。下の無極を殺す爲の張本なり。

秋、會于扈、令戍周、且謀納公也。
【読み】
秋、扈に會するは、周を戍らしめ、且つ公を納れんことを謀るなり。

宋・衛皆利納公、固請之。范獻子取貨於季孫、謂司城子梁與北宮貞子、子梁、宋樂祁也。貞子、衛北宮喜。
【読み】
宋・衛皆公を納るることを利とし、固く之を請う。范獻子貨を季孫に取り、司城子梁と北宮貞子とに謂いて、子梁は、宋の樂祁なり。貞子は、衛の北宮喜なり。

曰、季孫未知其罪、而君伐之、請囚請亡、於是乎不獲。君又弗克、而自出也。夫豈無備而能出君乎。季氏之復、天救之也。復、猶安也。
【読み】
曰く、季孫未だ其の罪を知らずして、君之を伐ち、囚われんと請い亡げんと請えども、是に於て獲ず。君又克たずして、自ら出でたり。夫れ豈備え無くして能く君を出ださんや。季氏の復りしは、天の之を救えるなり。復は、猶安んずるのごとし。

休公徒之怒、休、息也。
【読み】
公徒の怒りを休めて、休は、息むなり。

而啓叔孫氏之心。不然、豈其伐人而說甲執冰以游。叔孫氏懼禍之濫、而自同於季氏、天之道也。
【読み】
叔孫氏の心を啓[ひら]きたり。然らずんば、豈其れ人を伐ちて甲を說[ぬ]ぎ冰を執りて以て游ばんや。叔孫氏禍の濫せんことを懼れて、自ら季氏に同じくせしは、天の道[みちび]けるなり。

魯君守齊、三年而無成、季氏甚得其民、淮夷與之。淮夷、魯東夷。○說、他活反。
【読み】
魯君は齊を守ること、三年にして成ること無く、季氏は甚だ其の民を得て、淮夷之に與せり。淮夷は、魯の東夷。○說は、他活反。

有十年之備、有齊・楚之援、公雖在齊、言齊不致力。
【読み】
十年の備え有り、齊・楚の援け有り、公齊に在りと雖も、齊の力を致さざるを言う。

有天之贊、有民之助、有堅守之心、有列國之權。而弗敢宣也、宣、用也。
【読み】
天の贊け有り、民の助け有り、堅守の心有り、列國の權有り。而れども敢えて宣[もち]いずして、宣は、用ゆるなり。

事君如在國。書公行、告公至。是也。
【読み】
君に事うること國に在すが如くす。公の行るを書し、公の至るを告ぐ。是れなり。

故鞅以爲難。
【読み】
故に鞅は難しと以爲えり。

二子皆圖國者也。而欲納魯君。鞅之願也。請從二子以圍魯。無成、死之。
【読み】
二子は皆國を圖る者なり。而して魯君を納れんことを欲す。鞅の願いなり。請う、二子に從いて以て魯を圍まん。成ること無くば、之に死なん、と。

二子懼、皆辭。乃辭小國、而以難復。以難納白晉君。
【読み】
二子懼れ、皆辭す。乃ち小國に辭して、難きを以て復[もう]す。納れ難きを以て晉君に白[もう]す。

孟懿子・陽虎伐鄆。陽虎、季氏家臣。伐鄆、欲奪公。
【読み】
孟懿子・陽虎鄆を伐つ。陽虎は、季氏の家臣。鄆を伐つは、公を奪わんと欲してなり。

鄆人將戰。子家子曰、天命不慆久矣。慆、疑也。言棄君不疑。○慆、他刀反。
【読み】
鄆人將に戰わんとす。子家子曰く、天命慆[うたが]わざること久し。慆[とう]は、疑うなり。言うこころは、君を棄てて疑わず。○慆は、他刀反。

使君亡者、必此衆也。言君據鄆衆以與魯戰、必敗亡。
【読み】
君をして亡せしむる者は、必ず此の衆ならん。言うこころは、君鄆の衆に據りて以て魯と戰わば、必ず敗亡せん。

天旣禍之。而自福也。不亦難乎。猶有鬼神、此必敗也。嗚呼、爲無望也夫。其死於此乎。
【読み】
天旣に之に禍せり。而るを自ら福せんとす。亦難からずや。猶鬼神有るも、此れ必ず敗れん。嗚呼、望み無しとするかな。其れ此に死なんか、と。

公使子家子如晉。公徒敗于且知。且知、近鄆地也。○夫、音扶。且、子餘反。
【読み】
公子家子をして晉に如かしむ。公の徒且知に敗れぬ。且知は、鄆に近き地なり。○夫は、音扶。且は、子餘反。

楚郤宛之難、國言未已。進胙者莫不謗令尹。進胙、國中祭祀也。謗、詛也。
【読み】
楚の郤宛の難に、國言未だ已まず。胙を進むる者令尹を謗[のろ]わざること莫し。胙を進むるは、國中の祭祀なり。謗は、詛うなり。

沈尹戌言於子常曰、夫左尹與中廐尹、莫知其罪。而子殺之、以興謗讟、至于今不已。左尹、郤宛也。中廐尹、陽令終。
【読み】
沈尹戌子常に言いて曰く、夫の左尹と中廐尹とは、其の罪を知ること莫し。而るを子之を殺して、以て謗讟[ぼうとく]を興して、今に至るまで已まず。左尹は、郤宛なり。中廐尹は、陽令終。

戌也惑之。仁者殺人以掩謗、猶弗爲也。今吾子殺人以興謗、而弗圖。不亦異乎。
【読み】
戌や之に惑いぬ。仁者は人を殺して以て謗りを掩うも、猶爲さざるなり。今吾子は人を殺して以て謗りを興して、圖らず。亦異ならずや。

夫無極、楚之讒人也。民莫不知。去朝吳、在十五年。○去、起呂反。朝、如字。
【読み】
夫れ無極は、楚の讒人なり。民知らざること莫し。朝吳を去り、十五年に在り。○去は、起呂反。朝は、字の如し。

出蔡侯朱、在二十一年。
【読み】
蔡侯朱を出だし、二十一年に在り。

喪大子建、殺連尹奢、在二十年。○喪、息浪反。
【読み】
大子建を喪い、連尹奢を殺し、二十年に在り。○喪は、息浪反。

屛王之耳目、使不聰明。不然、平王之溫惠共儉、有過成・莊、無不及焉。所以不獲諸侯、邇無極也。邇、近也。
【読み】
王の耳目を屛[おお]いて、聰明ならざらしめり。然らずんば、平王の溫惠共儉なる、成・莊に過ぐること有るも、及ばざること無し。諸侯を獲ざりし所以は、無極を邇づくればなり。邇は、近づくなり。

今又殺三不辜、以興大謗。三不辜、郤氏・陽氏・晉陳氏。
【読み】
今又三不辜を殺して、以て大謗を興せり。三不辜は、郤氏・陽氏・晉陳氏。

幾及子矣。子而不圖、將焉用之。
【読み】
幾ど子に及ばん。子にして圖らずんば、將に焉[いずく]にか之を用いんとする。

夫鄢將師矯子之命、以滅三族。國之良也、而不愆位。在位無愆過。○幾、音祁。又音機。
【読み】
夫れ鄢將師子の命を矯[あ]げて、以て三族を滅ぼせり。國の良にして、位に愆[あやま]らざりき。位に在りて愆過無し。○幾は、音祁。又音機。

吳新有君、光新立也。
【読み】
吳新たに君有りて、光新たに立つなり。

疆埸日駭。楚國若有大事、子其危哉。知者除讒以自安也。今子愛讒以自危也。甚矣其惑也。
【読み】
疆埸[きょうえき]日々に駭[おどろ]く。楚國若し大事有らば、子其れ危ういかな。知者は讒を除きて以て自ら安んず。今子は讒を愛して以て自ら危うくす。甚だしいかな其の惑えるや、と。

子常曰、是瓦之罪。敢不良圖。九月、己未、子常殺費無極與鄢將師、盡滅其族、以說于國。謗言乃止。
【読み】
子常曰く、是れ瓦が罪なり。敢えて良圖せざらんや、と。九月、己未[つちのと・ひつじ]、子常費無極と鄢將師とを殺し、盡く其の族を滅ぼして、以て國に說く。謗言乃ち止む。

冬、公如齊。齊侯請饗之。設饗禮。○知、音智。
【読み】
冬、公齊に如く。齊侯之を饗せんと請う。饗禮を設く。○知は、音智。

子家子曰、朝夕立於其朝、又何饗焉。其飮酒也。乃飮酒、使宰獻而請安。比公於大夫也。禮、君不敵臣、宴大夫、使宰爲主。獻、獻爵也。請安、齊侯請自安、不在坐也。
【読み】
子家子曰く、朝夕其の朝に立つに、又何ぞ饗せん。其れ酒を飮まんのみ、と。乃ち酒を飮み、宰をして獻ぜしめて安を請えり。公を大夫に比するなり。禮に、君は臣に敵せず、大夫を宴すれば、宰をして主爲らしむ、と。獻は、爵を獻ずるなり。安を請うとは、齊侯自ら安を請いて、坐に在らざるなり。

子仲之子曰重。爲齊侯夫人。曰、請使重見。子仲、魯公子憖也。十二年、謀逐季氏、不能而奔齊。今行飮酒禮、而欲使重見、從宴媟也。○重、直勇反。又直恭反。見、賢遍反。憖、魚覲反。媟、息列反。
【読み】
子仲の子[むすめ]を重と曰う。齊侯の夫人爲り。曰く、請う、重をして見えしめん、と。子仲は、魯の公子憖[ぎん]なり。十二年、季氏を逐わんことを謀り、能わずして齊に奔る。今飮酒の禮を行いて、重をして見えしめんと欲するは、宴媟[えんせつ]に從わすなり。○重は、直勇反。又直恭反。見は、賢遍反。憖は、魚覲反。媟は、息列反。

子家子乃以君出。辟齊夫人。
【読み】
子家子乃ち君を以[い]て出づ。齊の夫人を辟く。

十二月、晉籍秦致諸侯之戍于周。魯人辭以難。經所以不書戍周。籍秦、籍談子。
【読み】
十二月、晉の籍秦諸侯の戍を周に致す。魯人は辭するに難を以てす。經に周を戍ることを書さざる所以なり。籍秦は、籍談の子。


〔經〕二十有八年、春、王三月、葬曹悼公。無傳。六月而葬。緩。
【読み】
〔經〕二十有八年、春、王の三月、曹の悼公を葬る。傳無し。六月にして葬る。緩[おそ]きなり。

公如晉、次于乾侯。乾侯、在魏郡斥丘縣。晉竟内邑。
【読み】
公晉に如き、乾侯に次[やど]る。乾侯は、魏郡斥丘縣に在り。晉の竟内の邑。

夏、四月、丙戌、鄭伯寧卒。無傳。未同盟、而赴以名。
【読み】
夏、四月、丙戌[ひのえ・いぬ]、鄭伯寧卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。

六月、葬鄭定公。無傳。三月而葬。速。
【読み】
六月、鄭の定公を葬る。傳無し。三月にして葬る。速きなり。

秋、七月、癸巳、滕子寧卒。無傳。未同盟、而赴以名。
【読み】
秋、七月、癸巳[みずのと・み]、滕子寧卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴ぐるに名を以てす。

冬、葬滕悼公。無傳。
【読み】
冬、滕の悼公を葬る。傳無し。

〔傳〕二十八年、春、公如晉。將如乾侯。齊侯卑公。故適晉。
【読み】
〔傳〕二十八年、春、公晉に如く。將に乾侯に如かんとす。齊侯公を卑しむ。故に晉に適く。

子家子曰、有求於人、而卽其安、人孰矜之。其造於竟。欲使次於竟以待命。○造、七報反。
【読み】
子家子曰く、人に求むること有りて、其の安きに卽かば、人孰か之を矜[あわ]れまん。其れ竟に造[いた]れ、と。竟に次りて以て命を待たしめんと欲す。○造は、七報反。

弗聽。使請逆於晉。晉人曰、天禍魯國、君淹恤在外。君亦不使一个辱在寡人、一个、單使。○个、音箇。
【読み】
聽かず。逆[むか]えんことを晉に請わしむ。晉人曰く、天魯國に禍し、君淹恤して外に在り。君も亦一个[いっか]をして寡人に辱在せしめずして、一个は、單使。○个は、音箇。

而卽安於甥舅。其亦使逆君。言自使齊逆君。
【読み】
安きに甥舅に卽けり。其れ亦君を逆えしめよ、と。言うこころは、自ら齊をして君を逆えしめよ。

使公復于竟而後逆之。逆著乾侯也。言公不能用子家、所以見辱。○著、中略反。
【読み】
公をして竟に復らしめて而して後に之を逆えり。逆えて乾侯に著くるなり。公子家を用ゆること能わずして、辱めらるる所以を言う。○著は、中略反。

晉祁勝與鄔臧通室。二子、祁盈家臣也。通室、易妻。○鄔、舊音烏戶反、誤。當作於庶反。
【読み】
晉の祁勝鄔臧[よぞう]と室を通ず。二子は、祁盈の家臣なり。室を通ずるは、妻を易うるなり。○鄔は、舊音烏戶反は、誤りなり。當に於庶反に作るべし。

祁盈將執之。盈、祁午之子。
【読み】
祁盈將に之を執えんとす。盈は、祁午の子。

訪於司馬叔游。叔游、司馬叔侯之子。
【読み】
司馬叔游に訪う。叔游は、司馬叔侯の子。

叔游曰、鄭書有之、惡直醜正、實蕃有徒。鄭書、古書名也。言害正直者、實多徒衆。○惡、如字。又去聲。
【読み】
叔游曰く、鄭書に之れ有り、直を惡とし正を醜とするは、實に蕃[おお]く徒有りといえり。鄭書は、古書の名なり。言うこころは、正直を害する者、實に徒衆多し。○惡は、字の如し。又去聲。

無道立矣。子懼不免。言世亂讒勝。
【読み】
無道立てり。子懼らくは免れざらん。言うこころは、世亂れて讒勝つ。

詩曰、民之多辟、無自立辟。詩、大雅。○多辟、匹亦反。立辟、婢亦反。
【読み】
詩に曰く、民の辟[よこしま]多き、自ら立てて辟[のり]とすること無かれ、と。詩は、大雅。○多辟は、匹亦反。立辟は、婢亦反。
*「無自立辟」は、漢籍國字解全書では「自ら辟を立つること無かれ」である。

姑已。若何。姑、且也。已、止也。
【読み】
姑く已めよ。若何、と。姑は、且くなり。已は、止むなり。

盈曰、祁氏私有討。國何有焉。言討家臣、無與國事。
【読み】
盈曰く、祁氏私に討ずること有り。國に何か有らん、と。言うこころは、家臣を討ずるは、國事に與ること無し。

遂執之。祁勝賂荀躒。荀躒爲之言於晉侯。晉侯執祁盈。以其專戮。
【読み】
遂に之を執う。祁勝荀躒に賂う。荀躒之が爲に晉侯に言う。晉侯祁盈を執う。其の戮を專らにするを以てなり。

祁盈之臣曰、鈞將皆死。鈞、同也。
【読み】
祁盈の臣曰く、鈞しく將に皆死せんとす。鈞は、同じなり。

憖使吾君聞勝與臧之死也以爲快。憖、發語之音。○憖、魚覲反。
【読み】
憖[ああ]吾れ君をして勝と臧との死するを聞きて以て快を爲さしめん、と。憖は、發語の音。○憖は、魚覲反。

乃殺之。夏、六月、晉殺祁盈及楊食我。楊、叔向邑。食我、叔向子、伯石也。○食、音嗣。
【読み】
乃ち之を殺す。夏、六月、晉祁盈と楊食我とを殺す。楊は、叔向の邑。食我は、叔向の子、伯石なり。○食は、音嗣。

食我、祁盈之黨也、而助亂。故殺之。遂滅祁氏・羊舌氏。
【読み】
食我は、祁盈の黨にして、亂を助く。故に之を殺せり。遂に祁氏・羊舌氏を滅ぼす。

初、叔向欲娶於申公巫臣氏。夏姬女也。
【読み】
初め、叔向[しゅくきょう]申公巫臣氏に娶らんと欲す。夏姬の女なり。

其母欲娶其黨。叔向曰、吾母多而庶鮮。吾懲舅氏矣。言父多妾媵、而庶子鮮少。嫌母氏性不曠。
【読み】
其の母は其の黨に娶らんと欲す。叔向曰く、吾が母多くして庶鮮し。吾れ舅氏に懲りたり、と。言うこころは、父妾媵多くして、庶子鮮少なり。母氏の性曠からざるを嫌う。

其母曰、子靈之妻、殺三夫・ 子靈、巫臣。妻、夏姬也。三夫、陳御叔・楚襄老、及巫臣也。時巫臣已死。
【読み】
其の母曰く、子靈の妻は、三夫・ 子靈は、巫臣。妻は、夏姬なり。三夫は、陳の御叔・楚の襄老、及び巫臣なり。時に巫臣已に死す。

一君・ 陳靈公。
【読み】
一君・ 陳の靈公。

一子、夏徵舒。
【読み】
一子を殺して、夏徵舒。

而亡一國・ 陳也。
【読み】
一國・ 陳なり。

兩卿矣。孔寧・儀行父。
【読み】
兩卿を亡ぼせり。孔寧・儀行父。

可無懲乎。吾聞之、甚美必有甚惡。是鄭穆少妃姚子之子、子貉之妹也。子貉、鄭靈公夷。○貉、亡白反。
【読み】
懲ること無かる可けんや。吾れ之を聞く、甚だ美なるは必ず甚だ惡しきこと有り、と。是れ鄭穆の少妃姚子[ようし]の子にして、子貉[しばく]の妹なり。子貉は、鄭の靈公夷。○貉は、亡白反。

子貉早死無後、而天鍾美於是。是、夏姬也。鍾、聚也。子貉死、在宣四年。
【読み】
子貉早く死して後無くして、天美を是に鍾[あつ]めり。是とは、夏姬なり。鍾は、聚むるなり。子貉の死は、宣四年に在り。

將必以是大有敗也。
【読み】
將に必ず是を以て大いに敗るること有らんとす。

昔有仍氏生女。黰黑、有仍、古諸侯也。美髮爲黰。○黰、之忍反。
【読み】
昔有仍氏[ゆうじょうし]女を生む。黰黑[しんこく]にして、有仍は、古の諸侯なり。美髮を黰と爲す。○黰は、之忍反。

而甚美。光可以鑑。髮膚光色、可以照人。
【読み】
甚だ美なり。光以て鑑とす可し。髮膚の光色、以て人を照らす可し。

名曰玄妻。以髮黑故。
【読み】
名づけて玄妻と曰う。髮の黑きを以ての故なり。

樂正后夔取之、夔、舜典樂之君長。○取、如字。又七住反。
【読み】
樂正后夔[こうき]之を取[めと]り、夔は、舜の典樂の君長。○取は、字の如し。又七住反。

生伯封。實有豕心、貪惏無饜、忿纇無期、謂之封豕、纇、戾也。封、大也。○惏、力耽反。饜、於鹽反。纇、立對反。
【読み】
伯封を生む。實に豕心有り、貪惏[たんらん]にして饜くこと無く、忿纇[ふんらい]にして期無かりしかば、之を封豕と謂い、纇は、戾[もと]るなり。封は、大なり。○惏は、力耽反。饜は、於鹽反。纇は、立對反。

有窮后羿滅之。夔是以不祀。羿、簒夏后者。○羿、音詣。
【読み】
有窮の后羿之を滅ぼせり。夔是を以て祀られず。羿は、夏后を簒[うばいと]る者。○羿は、音詣。

且三代之亡、共子之廢、皆是物也。夏以妹喜、殷以妲己、周以襃姒。三代所由亡也。共子、晉申生。以驪姬廢。○共、音恭。喜、音嬉。
【読み】
且つ三代の亡ぶる、共子の廢せる、皆是の物なり。夏は妹喜を以てし、殷は妲己を以てし、周は襃姒を以てす。三代由りて亡びし所なり。共子は、晉の申生。驪姬を以て廢せらる。○共は、音恭。喜は、音嬉。

女何以爲哉。夫有尤物足以移人、苟非德義、則必有禍。尤、異也。○女、音汝。
【読み】
女何を以てせんや。夫れ尤物[ゆうぶつ]の以て人を移すに足ること有るは、苟に德義に非ざれば、則ち必ず禍有り、と。尤は、異なり。○女は、音汝。

叔向懼、不敢取。平公强使取之。生伯石。伯石始生、子容之母走謁諸姑、子容母、叔向嫂、伯華妻也。姑、叔向母。○取、七住反。又如字。强、其丈反。
【読み】
叔向懼れ、敢えて取らず。平公强いて之を取らしむ。伯石を生む。伯石始めて生まるるとき、子容の母走りて諸を姑に謁[つ]げて、子容の母は、叔向の嫂、伯華の妻なり。姑は、叔向の母。○取は、七住反。又字の如し。强は、其丈反。

曰、長叔姒生男。兄弟之妻相謂姒。○長、丁丈反。
【読み】
曰く、長叔姒男を生めり、と。兄弟の妻は姒と相謂う。○長は、丁丈反。

姑視之、及堂、聞其聲而還。曰、是豺狼之聲也。狼子野心。非是、莫喪羊舌氏矣。遂弗視。
【読み】
姑之を視んとして、堂に及び、其の聲を聞きて還る。曰く、是れ豺狼の聲なり。狼子は野心なり。是に非ざれば、羊舌氏を喪ぼすこと莫し、と。遂に視ざりき。

秋、晉韓宣子卒。魏獻子爲政、獻子、魏舒。
【読み】
秋、晉の韓宣子卒す。魏獻子政を爲し、獻子は、魏舒。

分祁氏之田以爲七縣、七縣、鄔・祁・平陵・梗陽・塗水・馬首・盂也。
【読み】
祁氏の田を分かちて以て七縣と爲し、七縣は、鄔・祁・平陵・梗陽・塗水・馬首・盂[う]なり。

分羊舌氏之田以爲三縣。銅鞮・平陽・楊氏。○鞮、丁兮反。
【読み】
羊舌氏の田を分かちて以て三縣と爲す。銅鞮・平陽・楊氏。○鞮は、丁兮反。

司馬彌牟爲鄔大夫、大原鄔縣。
【読み】
司馬彌牟を鄔の大夫と爲し、大原の鄔縣。

賈辛爲祁大夫、大原祁縣。
【読み】
賈辛を祁の大夫と爲し、大原の祁縣。

司馬烏爲平陵大夫、魏戊爲梗陽大夫、戊、魏舒庶子。梗陽、在大原晉陽縣南。
【読み】
司馬烏を平陵の大夫と爲し、魏戊[ぎぼう]を梗陽の大夫と爲し、戊は、魏舒の庶子。梗陽は、大原晉陽縣の南に在り。

知徐吾爲塗水大夫、徐吾、知盈孫。塗水、大原楡次縣。
【読み】
知徐吾を塗水の大夫と爲し、徐吾は、知盈の孫。塗水は、大原の楡次縣。

韓固爲馬首大夫、固、韓起孫。
【読み】
韓固を馬首の大夫と爲し、固は、韓起の孫。

孟丙爲盂大夫、大原盂縣。
【読み】
孟丙を盂の大夫と爲し、大原の盂縣。
*頭注に、「孟丙、舊作盂丙、非。漢書地理志云、盂、晉大夫孟丙邑。」とある。

樂霄爲銅鞮大夫、上黨銅鞮縣。
【読み】
樂霄[がくしょう]を銅鞮の大夫と爲し、上黨の銅鞮縣。

趙朝爲平陽大夫、朝、趙勝曾孫。平陽平陽縣。○朝、如字。
【読み】
趙朝を平陽の大夫と爲し、朝は、趙勝の曾孫。平陽の平陽縣。○朝は、字の如し。

僚安爲楊氏大夫。平陽楊氏縣。
【読み】
僚安を楊氏の大夫と爲す。平陽の楊氏縣。

謂賈辛・司馬烏、爲有力於王室。二十二年、辛・烏帥師納敬王。
【読み】
賈辛・司馬烏を謂えらく、王室に力め有りと爲す。二十二年、辛・烏師を帥いて敬王を納る。

故舉之。謂知徐吾・趙朝・韓固・魏戊、餘子之不失職、能守業者也。卿之庶子爲餘子。
【読み】
故に之を舉ぐ、と。知徐吾・趙朝・韓固・魏戊を謂えらく、餘子の職を失わずして、能く業を守れる者なり、と。卿の庶子を餘子と爲す。

其四人者、皆受縣而後見於魏子。以賢舉也。四人、司馬彌牟・孟丙・樂霄・僚安也。受縣而後見、言采衆而舉、不以私也。○見、賢遍反。
【読み】
其の四人の者も、皆縣を受けて而して後に魏子に見えぬ。賢を以て舉げたるなり。四人は、司馬彌牟・孟丙・樂霄・僚安なり。縣を受けて而して後に見ゆるは、衆に采りて舉げて、私を以てせざるを言うなり。○見は、賢遍反。

魏子謂成鱄、鱄、晉大夫。○鱄、音鄟。又市轉反。又音附。
【読み】
魏子成鱄[せいせん]に謂えらく、鱄は、晉の大夫。○鱄は、音鄟。又市轉反。又音附。

吾與戊也縣。人其以我爲黨乎。對曰、何也。戊之爲人也、遠不忘君、遠、疎遠也。
【読み】
吾れ戊に縣を與う。人其れ我を以て黨せりと爲さんか、と。對えて曰く、何ぞや。戊が人と爲りや、遠きも君を忘れず、遠は、疎遠なり。

近不偪同、不偪同位。
【読み】
近きも同に偪らず、同位に偪らず。

居利思義、不苟得。
【読み】
利に居りて義を思い、苟も得ず。

在約思純。無濫心。
【読み】
約に在りて純を思う。濫心無し。

有守心而無淫行。雖與之縣、不亦可乎。昔武王克商、光有天下、光、大也。○行、下孟反。
【読み】
守心有りて淫行無し。之に縣を與うと雖も、亦可ならずや。昔武王商に克ち、天下を光有して、光は、大なり。○行は、下孟反。

其兄弟之國者十有五人、姬姓之國者四十人、皆舉親也。夫舉無他。唯善所在、親疏一也。詩曰、唯此文王、帝度其心。莫其德音、其德克明。克明克類。克長克君。王此大國、克順克比、比于文王、其德靡悔。旣受帝祉、施于孫子。詩、大雅。美文王能王大國、受天福、施及子孫。○度、待洛反。莫、亡白反。又如字。王此、于況反。施、以豉反。
【読み】
其の兄弟の國する者十有五人、姬姓の國する者四十人、皆親を舉げたり。夫れ舉ぐるは他無し。唯善の在る所のままにして、親疏一なり。詩に曰く、唯此の文王、帝其の心に度らしむ。其の德音を莫にして、其の德克く明らかなり。克く明らかに克類あり。克く長たり克く君たり。此の大國に王として、克く順い克く比し、文王に比して、其の德悔ゆること靡し。旣に帝の祉を受けて、孫子に施く、と。詩は、大雅。文王能く大國に王として、天の福を受け、子孫に施及するを美む。○度は、待洛反。莫は、亡白反。又字の如し。王此は、于況反。施は、以豉反。

心能制義曰度、帝度其心。
【読み】
心能く義を制するを度と曰い、帝其の心に度らしむ。

德正應和曰莫、莫然淸靜。
【読み】
德正しくして應和するを莫と曰い、莫然として淸靜。

照臨四方曰明、勤施無私曰類、施而無私、物得其所、無失類也。○施、式豉反。
【読み】
四方に照臨するを明と曰い、勤め施して私無きを類と曰い、施して私無く、物其の所を得て、類を失うこと無きなり。○施は、式豉反。

敎誨不倦曰長、敎誨、長人之道。
【読み】
敎誨して倦まざるを長と曰い、敎誨は、人に長たるの道。

賞慶刑威曰君、作威作福、君之職也。
【読み】
賞慶刑威するを君と曰い、威を作し福を作すは、君の職なり。

慈和徧服曰順、唯順。故天下徧服。
【読み】
慈和にして徧服するを順と曰い、唯順なり。故に天下徧く服す。

擇善而從之曰比、比方善事、使相從也。
【読み】
善を擇びて之に從わすを比と曰い、善事を比方して、相從わしむ。

經緯天地曰文。經緯相錯。故織成文。
【読み】
天地を經緯するを文と曰う。經緯相錯わる。故に織りて文を成す。

九德不愆、作事無悔。九德、上九曰也。皆無愆過、則動無悔吝。
【読み】
九德愆[あやま]らざれば、事を作して悔ゆること無し。九德は、上の九つの曰なり。皆愆過無ければ、則ち動きて悔吝無し。

故襲天祿、子孫賴之。襲、受也。
【読み】
故に天祿を襲[う]けて、子孫之に賴る。襲は、受くるなり。

主之舉也、近文德矣。所及其遠哉。舉魏戊等、勤施無私也。其四人者、擇善而從。故曰近文德、所及遠也。
【読み】
主の舉や、文の德に近し。及ぶ所其れ遠からんかな、と。魏戊等を舉ぐるは、勤め施して私無きなり。其の四人の者、善を擇びて從わす。故に文の德に近く、及ぶ所遠からんと曰うなり。

賈辛將適其縣。見於魏子。魏子曰、辛來。昔叔向適鄭。鬷蔑惡。惡、貌醜。○鬷、子工反。
【読み】
賈辛將に其の縣に適かんとす。魏子に見ゆ。魏子曰く、辛來れ。昔叔向鄭に適く。鬷蔑[そうべつ]惡[みにく]し。惡は、貌の醜きなり。○鬷は、子工反。

欲觀叔向、從使之收器者、從、隨也。隨使人應斂俎豆者。
【読み】
叔向を觀んと欲し、使いの器を收むる者に從いて、從は、隨うなり。使人の應に俎豆を斂むべき者に隨う。

而往立於堂下、一言而善。叔向將飮酒、聞之曰、必鬷明也。素聞其賢。故聞其言而知之。
【読み】
往きて堂下に立ち、一言して善し。叔向將に酒を飮まんとし、之を聞きて曰く、必ず鬷明ならん、と。素より其の賢を聞く。故に其の言を聞きて之を知る。

下執其手以上、曰、昔賈大夫惡。賈國大夫。惡亦醜也。
【読み】
下りて其の手を執りて以て上りて、曰く、昔賈の大夫惡し。賈國の大夫。惡も亦醜きなり。

娶妻而美。三年不言不笑。御以如皐、爲妻御之皐澤。
【読み】
妻を娶りて美なり。三年まで言わず笑わず。御して以て皐に如き、妻の爲に御して皐澤に之く。

射雉獲之。其妻始笑而言。賈大夫曰、才之不可以已。我不能射、女遂不言不笑夫。今子少不颺。顏貌不揚顯。○射雉、音石。女、音汝。
【読み】
雉を射て之を獲たり。其の妻始めて笑いて言う。賈の大夫曰く、才の以て已む可からざるなり。我れ射ること能わずば、女遂に言わず笑わざらんか、と。今子少しく不颺[ふよう]なり。顏貌揚顯せず。○射雉は、音石。女は、音汝。

子若無言、吾幾失子矣。言之不可以已也如是。遂如故知。
【読み】
子若し言無くば、吾れ幾ど子を失わん。言の以て已む可からざるや是の如し、と。遂に故知の如くなりき。

今女有力於王室。吾是以舉女。因賈辛有功、而後舉之。言人不可無能。○幾、音祁。
【読み】
今女王室に力め有り。吾れ是を以て女を舉げたり。賈辛が功有るに因りて、而して後に之を舉ぐ。人能無かる可からざるを言う。○幾は、音祁。

行乎、敬之哉。毋墮乃力。墮、損也。○墮、許規反。
【読み】
行けや、之を敬めや。乃の力を墮すこと毋かれ、と。墮は、損するなり。○墮は、許規反。

仲尼聞魏子之舉也、以爲義、曰、近不失親、謂舉魏戊。
【読み】
仲尼魏子の舉ぐるを聞きて、以て義と爲して、曰く、近きは親を失わず、魏戊を舉ぐるを謂う。

遠不失舉、以賢舉。
【読み】
遠きは舉を失わず、賢を以て舉ぐ。

可謂義矣。又聞其命賈辛也、以爲忠。先賞王室之功。故爲忠。
【読み】
義と謂う可し、と。又其の賈辛に命ずるを聞きて、以て忠と爲す。先ず王室の功を賞す。故に忠と爲す。

詩曰、永言配命、自求多福、忠也。詩、大雅。永、長也。言能長配天命、致多福者、唯忠。
【読み】
詩に曰く、永く命に配すと言うは、自ら多福を求むるなりとは、忠なり。詩は、大雅。永は、長きなり。言うこころは、能く長く天命に配して、多福を致す者は、唯忠なり。
*「永言配命」は、漢籍國字解全書では「永く言[われ]命に配す」と読む。また、「言」を「ここ(に)」と読むものもある。

魏子之舉也義。其命也、忠。其長有後於晉國乎。
【読み】
魏子の舉ぐるや義なり。其の命ずるや、忠なり。其れ長く晉國に後有らんか、と。

冬、梗陽人有獄。魏戊不能斷。以獄上。上魏子。○斷、丁亂反。
【読み】
冬、梗陽人獄有り。魏戊斷ずること能わず。獄を以て上ぐ。魏子に上ぐ。○斷は、丁亂反。

其大宗賂以女樂。訟者之大宗。
【読み】
其の大宗賂うに女樂を以てす。訟者の大宗。

魏子將受之。魏戊謂閻沒・女寬、二人、魏子之屬大夫。
【読み】
魏子將に之を受けんとす。魏戊閻沒・女寬に謂いて、二人は、魏子の屬大夫。

曰、主以不賄聞於諸侯。若受梗陽人、賄莫甚焉。吾子必諫。皆許諾。退朝、待於庭。魏子朝君退。而待於魏子之庭。○聞、如字。又音問。
【読み】
曰く、主は賄せざるを以て諸侯に聞こえたり。若し梗陽の人に受けば、賄焉より甚だしきは莫し。吾子必ず諫めよ、と。皆許諾す。朝より退くとき、庭に待つ。魏子君に朝して退く。而して魏子の庭に待つ。○聞は、字の如し。又音問。

饋入、召之。召二大夫食。
【読み】
饋入るとき、之を召す。二大夫を召して食らわしむ。

比置、三歎。旣食、使坐。更命之令坐。
【読み】
置く比[ころおい]まで、三たび歎ず。旣に食して、坐せしむ。更に之に命じて坐せしむ。

魏子曰、吾聞諸伯叔。諺曰、唯食忘憂。吾子置食之閒、三歎何也。同辭而對曰、或賜二小人酒、不夕食。或、他人也。言饑甚。
【読み】
魏子曰く、吾れ諸を伯叔に聞く。諺に曰く、唯食憂れを忘る、と。吾子は食を置くの閒にして、三たび歎ぜしは何ぞや、と。辭を同じくして對えて曰く、或ひと二小人に酒を賜いて、夕食せざりき。或は、他人なり。饑えの甚だしきを言う。

饋之始至、恐其不足。是以歎。中置、自咎曰、豈將軍食之、而有不足。是以再歎。魏子、中軍帥。故謂之將軍。○食、音嗣。
【読み】
饋の始めて至るとき、其の足らざらんことを恐れぬ。是を以て歎ぜり。中ごろ置くとき、自ら咎めて曰く、豈將軍之を食らわせて、足らざること有らんや、と。是を以て再び歎ぜり。魏子は、中軍の帥。故に之を將軍と謂う。○食は、音嗣。

及饋之畢、願以小人之腹、爲君子之心。屬厭而已。屬、足也。言小人之腹飽、猶知厭足。君子之心亦宜然。○屬、之玉反。厭、於鹽反。又於豔反。
【読み】
饋の畢わるに及びて、小人の腹を以て、君子の心と爲さんことを願う。屬厭せんのみ、と。屬は、足るなり。言うこころは、小人の腹飽くも、猶厭足を知る。君子の心も亦宜しく然るべし。○屬は、之玉反。厭は、於鹽反。又於豔反。

獻子辭梗陽人。傳言魏氏所以興也。韋注、屬、適也。
【読み】
獻子梗陽の人を辭す。傳魏氏の興る所以を言うなり。韋注、屬は、適なり。


〔經〕二十有九年、春、公至自乾侯、居于鄆。以乾侯致、不得見晉侯故。
【読み】
〔經〕二十有九年、春、公乾侯より至り、鄆[うん]に居る。乾侯を以て致すとは、晉侯を見ることを得ざる故なり。

齊侯使高張來唁公。唁公至晉不見受。高張、高偃子。
【読み】
齊侯高張をして來りて公を唁[とむら]わしむ。公晉に至りて受けられざるを唁うなり。高張は、高偃の子。

公如晉、次于乾侯。復不見受、往乾侯。
【読み】
公晉に如き、乾侯に次[やど]る。復受けられず、乾侯に往く。

夏、四月、庚子、叔詣卒。無傳。
【読み】
夏、四月、庚子[かのえ・ね]、叔詣卒す。傳無し。

秋、七月。冬、十月、鄆潰。無傳。民逃其上曰潰。潰散叛公。○潰、戶對反。
【読み】
秋、七月。冬、十月、鄆潰ゆ。傳無し。民其の上を逃るを潰と曰う。潰散して公に叛くなり。○潰は、戶對反。

〔傳〕二十九年、春、公至自乾侯、處于鄆。齊侯使高張來唁公。稱主君。比公於大夫。
【読み】
〔傳〕二十九年、春、公乾侯より至り、鄆に處る。齊侯高張をして來りて公を唁わしむ。主君と稱す。公を大夫に比す。

子家子曰、齊卑君矣。君祗辱焉。言往事齊、適取辱。○祗、音支。
【読み】
子家子曰く、齊君を卑しめり。君祗[まさ]に辱められん、と。言うこころは、往きて齊に事えば、適に辱を取らん。○祗は、音支。

公如乾侯。爲齊所卑。故復適晉、冀見恤。
【読み】
公乾侯に如く。齊の爲に卑しめらる。故に復晉に適き、恤れまれんことを冀う。

三月、己卯、京師殺召伯盈・尹氏固及原伯魯之子。皆子朝黨也。稱伯魯子、終不說學。○說、音悅。
【読み】
三月、己卯[つちのと・う]、京師召伯盈・尹氏固と原伯魯の子とを殺す。皆子朝が黨なり。伯魯の子と稱するは、學を說びざるを終わるなり。○說は、音悅。

尹固之復也、二十六年、尹固與子朝倶奔楚而道還。
【読み】
尹固の復るや、二十六年、尹固子朝と倶に楚に奔りて道より還る。

有婦人遇之周郊、尤之曰、處則勸人爲禍、行則數日而反。是夫也、其過三歲乎。
【読み】
婦人有りて之に周の郊に遇い、之を尤[とが]めて曰く、處れば則ち人を勸めて禍を爲し、行[さ]れば則ち日を數えて反る。是の夫や、其れ三歲を過ぎんや、と。

夏、五月、庚寅、王子趙車入于鄻以叛。陰不佞敗之。趙車、子朝之餘也。見王殺伯盈等。故叛。鄻、周邑。○數、所主反。鄻、列勉反。
【読み】
夏、五月、庚寅[かのえ・とら]、王子趙車鄻[れん]に入りて以て叛く。陰不佞之を敗りぬ。趙車は、子朝の餘なり。王の伯盈等を殺すを見る。故に叛く。鄻は、周の邑。○數は、所主反。鄻は、列勉反。

平子每歲賈馬、賈、買也。○賈、音古。
【読み】
平子每歲馬を賈い、賈は、買うなり。○賈は、音古。

具從者之衣屨、而歸之于乾侯、公執歸馬者賣之、賣其馬。
【読み】
從者の衣屨を具えて、之を乾侯に歸[おく]りしに、公馬を歸る者を執えて之を賣りしかば、其の馬を賣る。

乃不歸馬。
【読み】
乃ち馬を歸らず。

衛侯來獻其乘馬。曰啓服。啓服、馬名。○乘、如字。又繩證反。
【読み】
衛侯來りて其の乘馬を獻ず。啓服と曰う。啓服は、馬の名。○乘は、字の如し。又繩證反。

塹而死。隋塹死也。
【読み】
塹[せん]にして死す。塹に隋[お]ちて死す。

公將爲之櫝。爲作棺也。
【読み】
公將に之が櫝[とく]を爲らんとす。爲に棺を作るなり。

子家子曰、從者病矣。請以食之。乃以帷裹之。禮曰、敝帷不棄、爲埋馬也。○從、去聲。食、音嗣。
【読み】
子家子曰く、從者病めり。請う、以て之を食らわせん、と。乃ち帷を以て之を裹[つつ]む。禮に曰く、敝帷棄てざるは、馬を埋めんが爲、と。○從は、去聲。食は、音嗣。

公賜公衍羔裘、使獻龍輔於齊侯。龍輔、玉名。
【読み】
公公衍に羔裘を賜い、龍輔を齊侯に獻ぜしむ。龍輔は、玉の名。

遂入羔裘。齊侯喜、與之陽穀。陽穀、齊邑。
【読み】
遂に羔裘を入れぬ。齊侯喜びて、之に陽穀を與う。陽穀は、齊の邑。

公衍・公爲之生也、其母偕出。出之産舍。
【読み】
公衍・公爲の生まるるや、其の母偕に出づ。出でて産舍に之く。

公衍先生。公爲之母曰、相與偕出。請相與偕告。留公衍母、使待己共白公。
【読み】
公衍先ず生まる。公爲の母曰く、相與に偕に出でたり。請う、相與に偕に告げん、と。公衍が母を留めて、己を待たせて共に公に白[もう]さしむ。

三日、公爲生。其母先以告。公爲爲兄。公私喜於陽穀、而思於魯、曰、務人爲此禍也。務人、公爲也。始與公若謀逐季氏。
【読み】
三日ありて、公爲生まる。其の母先ず以て告ぐ。公爲を兄とせり。公私[ひそ]かに陽穀に喜びて、魯を思いて、曰く、務人[ぼうじん]此の禍を爲せり。務人は、公爲なり。始め公若と季氏を逐わんことを謀れり。

且後生而爲兄、其誣也久矣。乃黜之、而以公衍爲大子。
【読み】
且つ後に生まれて兄と爲るは、其の誣うるや久し、と。乃ち之を黜けて、公衍を以て大子と爲す。

秋、龍見于絳郊。絳、晉國都。○見、賢遍反。下同。
【読み】
秋、龍絳の郊に見ゆ。絳は、晉の國都。○見は、賢遍反。下も同じ。

魏獻子問於蔡墨、蔡墨、晉大史。
【読み】
魏獻子蔡墨に問いて、蔡墨は、晉の大史。

曰、吾聞之、蟲莫知於龍。以其不生得也、謂之知。信乎。對曰、人實不知。非龍實知。言龍無知。乃人不知之耳。○莫知、音智。下謂之知・實知・注無知同。
【読み】
曰く、吾れ之を聞く、蟲は龍より知なるは莫し。其の生きながら得られざるを以てや、之を知と謂う、と。信なるか、と。對えて曰く、人實に知らざるなり。龍實に知なるに非ず。言うこころは、龍は無知。乃ち人之を知らざるのみ。○莫知は、音智。下の謂之知・實知・注無知も同じ。

古者畜龍。故國有豢龍氏、有御龍氏。豢・御、養也。○豢、音患。
【読み】
古は龍を畜える。故に國に豢龍氏[かんりゅうし]有り、御龍氏有り、と。豢・御は、養うなり。○豢は、音患。

獻子曰、是二氏者、吾亦聞之。而不知其故。是何謂也。
【読み】
獻子曰く、是の二氏なる者は、吾も亦之を聞けり。而れども其の故を知らず。是れ何の謂ぞや、と。

對曰、昔有飂叔安、飂、古國也。叔安、其君名。○飂、力謬反。
【読み】
對えて曰く、昔有飂[ゆうりゅう]の叔安、飂は、古の國なり。叔安は、其の君の名。○飂は、力謬反。

有裔子、曰董父。裔、遠也。玄孫之後爲裔。
【読み】
裔子有り、董父と曰う。裔は、遠きなり。玄孫の後を裔と爲す。

實甚好龍、能求其耆欲以飮食之、龍多歸之。乃擾畜龍、以服事帝舜。帝賜之姓曰董、擾、順也。○好、呼報反。耆、時志反。飮、於鴆反。食、音嗣。下同。擾、而小反。
【読み】
實に甚だ龍を好み、能く其の耆欲を求めて以て之に飮食せしめ、龍多く之に歸せり。乃ち龍を擾畜して、以て帝舜に服事す。帝之に姓を賜いて董と曰い、擾は、順うなり。○好は、呼報反。耆は、時志反。飮は、於鴆反。食は、音嗣。下も同じ。擾は、而小反。

氏曰豢龍、豢龍、官名。官有世功、則以官氏。
【読み】
氏を豢龍と曰い、豢龍は、官の名。官世功有れば、則ち官を以て氏とす。

封諸鬷川。鬷夷氏其後也。鬷水上夷、皆董姓。○鬷、子工反。
【読み】
諸を鬷川[そうせん]に封ぜり。鬷夷氏は其の後なり。鬷水上の夷、皆董姓。○鬷は、子工反。

故帝舜氏世有畜龍。
【読み】
故に帝舜氏世々畜龍有り。

及有夏孔甲擾于有帝、孔甲、少康之後。九世君也。其德能順於天。
【読み】
有夏の孔甲が有帝に擾[したが]うに及びて、孔甲は、少康の後。九世の君なり。其の德能く天に順えり。

帝賜之乘龍。河漢各二。合爲四。○乘、繩證反。
【読み】
帝之に乘龍を賜えり。河漢各々二つ。合わせて四つ爲り。○乘は、繩證反。

各有雌雄。孔甲不能食、而未獲豢龍氏。有陶唐氏旣衰、其後有劉累、陶唐、堯所治地。
【読み】
各々雌雄有り。孔甲食[やしな]うこと能わずして、未だ豢龍氏を獲ず。有陶唐氏旣に衰えて、其の後に劉累という有り、陶唐は、堯の治むる所の地。

學擾龍于豢龍氏、以事孔甲、能飮食之、夏后嘉之、賜氏曰御龍、夏后、孔甲。
【読み】
龍を擾うことを豢龍氏に學びて、以て孔甲に事えて、能く之に飮食せしかば、夏后之を嘉して、氏を賜いて御龍と曰い、夏后は、孔甲。

以更豕韋之後。更、代也。以劉累代彭姓之豕韋。累尋遷魯縣、豕韋復國、至商而滅。累之後世、復承其國爲豕韋氏。在襄二十四年。○更、音庚。
【読み】
以て豕韋の後に更わらしむ。更は、代わるなり。劉累を以て彭姓の豕韋に代う。累尋[つ]いで魯縣に遷り、豕韋國に復して、商に至りて滅ぶ。累の後世、復其の國を承けて豕韋氏と爲れり。襄二十四年に在り。○更は、音庚。

龍一雌死、潛醢以食夏后。潛、藏也。藏以爲醢、明龍不知。○醢、音海。知、音智。
【読み】
龍の一雌死せしを、潛[ひそ]めて醢にして以て夏后に食らはしむ。潛は、藏すなり。藏めて以て醢と爲すは、龍の不知を明らかにす。○醢は、音海。知は、音智。

夏后饗之、旣而使求之、求致龍也。
【読み】
夏后之を饗け、旣にして之を求めしむれば、龍を致さんことを求む。

懼而遷于魯縣。不能致龍。故懼遷魯縣、自貶退也。魯縣、今魯陽也。
【読み】
懼れて魯縣に遷れり。龍を致すこと能わず。故に懼れて魯縣に遷りて、自ら貶退す。魯縣は、今の魯陽なり。

范氏其後也。晉范氏也。
【読み】
范氏は其の後なり、と。晉の范氏なり。

獻子曰、今何故無之。對曰、夫物物有其官。官脩其方、方、法術。
【読み】
獻子曰く、今何の故に之れ無き、と。對えて曰く、夫れ物物にして其の官有り。官其の方を脩めて、方は、法術。

朝夕思之。一日失職、則死及之。失職有罪。
【読み】
朝夕に之を思う。一日職を失えば、則ち死之に及ぶ。職を失えば罪有り。

失官不食。不食祿。
【読み】
官を失えば食まず。祿を食まず。

官宿其業、宿、猶安也。
【読み】
官其の業を宿[やす]んずれば、宿は、猶安んずるのごとし。

其物乃至。設水官脩則龍至。
【読み】
其の物乃ち至る。設[も]し水官脩むれば則ち龍至る。

若泯棄之、物乃坻伏、泯、滅也。坻、止也。○泯、彌忍反。坻、音旨。又丁禮反。
【読み】
若し之を泯棄[びんき]すれば、物乃ち坻伏[ていふく]し、泯は、滅ぶなり。坻は、止むなり。○泯は、彌忍反。坻は、音旨。又丁禮反。

鬱湮不育。鬱、滯也。湮、塞也。育、生也。○湮、音因。
【読み】
鬱湮[うついん]して育たず。鬱は、滯るなり。湮は、塞がるなり。育は、生きるなり。○湮は、音因。

故有五行之官、是謂五官。實列受氏姓、封爲上公、爵、上公。
【読み】
故に五行の官有り、是を五官と謂う。實に列もて氏姓を受け、封ぜられて上公と爲り、爵は、上公。

祀爲貴神、社稷五祀、是尊是奉。五官之君長、能脩其業者死、皆配食於五行之神、爲王者所尊奉。
【読み】
祀られて貴神と爲り、社稷五祀として、是れ尊ばれ是れ奉ぜらる。五官の君長、能く其の業を脩むる者死すれば、皆五行の神に配食して、王者の爲に尊奉せらる。

木正曰句芒、正、官長也。取木生句曲而有芒角也。其祀重焉。○句、古侯反。下同。重、直龍反。下同。
【読み】
木正を句芒[こうぼう]と曰い、正は、官長なり。木の生ずるとき句曲して芒角有るに取るなり。其の祀は重なり。○句は、古侯反。下も同じ。重は、直龍反。下も同じ。

火正曰祝融、祝融、明貌。其祀犂焉。
【読み】
火正を祝融と曰い、祝融は、明らかなる貌。其の祀は犂なり。

金正曰蓐收、秋物摧蓐而可收也。其祀該焉。○蓐、音辱。摧、徂回反。
【読み】
金正を蓐收[じょくしゅう]と曰い、秋は物摧蓐して收む可し。其の祀は該なり。○蓐は、音辱。摧は、徂回反。

水正曰玄冥、水陰而幽冥。其祀脩及熙焉。
【読み】
水正を玄冥と曰い、水は陰にして幽冥。其の祀は脩と熙となり。

土正曰后土。土爲群物主。故稱后也。其祀句龍焉。在家則祀中霤、在野則爲社。○霤、力救反。
【読み】
土正を后土と曰う。土は群物の主爲り。故に后と稱するなり。其の祀は句龍なり。家に在れば則ち中霤[ちゅうりゅう]に祀られ、野に在れば則ち社と爲す。○霤は、力救反。

龍、水物也。水官棄矣。故龍不生得。棄、廃也。
【読み】
龍は、水物なり。水官棄[すた]る。故に龍生得せられず。棄は、廃るなり。

不然、周易有之。言若不爾、周易無緣有龍。
【読み】
然らずんば、周易に之れ有り。言うこころは、若し爾からずんば、周易に龍有るに緣[よし]無し。

在乾 乾下乾上、乾。
【読み】
乾下乾上は、乾。

之姤巽下乾上、姤。乾初九變。○姤、古豆反。
【読み】
姤[こう]に之くに在り、巽下乾上は、姤。乾の初九變ず。○姤は、古豆反。

曰、潛龍勿用。乾初九爻辭。
【読み】
曰く、潛龍用ゆること勿かれ、と。乾の初九の爻の辭。

其同人離下乾上、同人。乾九二變。
【読み】
其の同人に、離下乾上は、同人。乾の九二變ず。

曰、見龍在田。乾九二爻辭。
【読み】
曰く、見龍田に在り、と。乾の九二の爻の辭。

其大有乾下離上、大有。乾九五變。
【読み】
其の大有に、乾下離上は、大有。乾の九五の變ず。

曰、飛龍在天。乾九五爻辭。
【読み】
曰く、飛龍天に在り、と。乾の九五の爻の辭。

其夬乾下兌上、夬。乾上九變。○夬、古快反。
【読み】
其の夬[かい]に、乾下兌上は、夬。乾の上九變ず。○夬は、古快反。

曰、亢龍有悔。乾上九爻辭。
【読み】
曰く、亢龍悔有り、と。乾の上九の爻の辭。

其坤坤下坤上、坤。乾六爻皆變。
【読み】
其の坤に、坤下坤上は、坤。乾の六爻皆變ず。

曰、見群龍無首、吉。乾用九爻辭。
【読み】
曰く、群龍を見るに首たること無ければ、吉なり、と。乾の用九の爻の辭。

坤之剝坤下艮上、剝。坤上六變。
【読み】
坤の剝に之くに、坤下艮上は、剝。坤の上六變ず。

曰、龍戰于野。坤上六爻辭。
【読み】
曰く、龍野に戰う、と。坤の上六の爻の辭。

若不朝夕見、誰能物之。物、謂上六卦所稱龍各不同也。今說易者、皆以龍喩陽氣。如史墨之言、則爲皆是眞龍。
【読み】
若し朝夕に見れずんば、誰か能く之を物とせん、と。物とは、上の六卦稱する所の龍各々同じからざるを謂うなり。今易を說く者は、皆龍を以て陽氣に喩う。史墨の言の如きは、則ち皆是れ眞龍とするなり。

獻子曰、社稷五祀、誰氏之五官也。問五官之長、皆是誰。
【読み】
獻子曰く、社稷五祀は、誰氏の五官ぞや、と。問う、五官の長は、皆是れ誰ぞ、と。

對曰、少皞氏有四叔。少皞、金天氏。○皞、戶老反。
【読み】
對えて曰く、少皞氏四叔有り。少皞は、金天氏。○皞は、戶老反。

曰重、曰該、曰脩、曰熙。實能金木及水。能治其官。○重、直龍反。
【読み】
重と曰い、該と曰い、脩と曰い、熙と曰う。實に金木と水とを能くせり。能く其の官を治む。○重は、直龍反。

使重爲句芒、木正。
【読み】
重をして句芒と爲し、木正。

該爲蓐收、金正。
【読み】
該を蓐收と爲し、金正。

脩及熙爲玄冥、二子相代爲水正。
【読み】
脩と熙とを玄冥爲らしめ、二子相代わりて水正と爲る。

世不失職、遂濟窮桑。此其三祀也。窮桑、少皞之號也。四子能治其官、使不失職、濟成少皞之功。死皆爲民所祀。窮桑地、在魯北。
【読み】
世々職を失わず、遂に窮桑を濟[な]せり。此れ其の三祀なり。窮桑は、少皞の號なり。四子能く其の官を治めて、職を失わざらしめて、少皞の功を濟し成せり。死して皆民の爲に祀らる。窮桑の地は、魯の北に在り。

顓頊氏有子、曰犂。爲祝融。犂爲火正。
【読み】
顓頊氏[せんぎょくし]子有り、犂と曰う。祝融と爲る。犂火正と爲る。

共工氏有子、曰句龍。爲后土。共工、在大皞後神農前。以水名官者。其子句龍能平水土。故死而見祀。
【読み】
共工氏子有り、句龍と曰う。后土と爲る。共工は、大皞の後神農の前に在り。水を以て官に名づくる者なり。其の子句龍能く水土を平らぐ。故に死して祀らる。

此其二祀也。后土爲社。方答社稷。故明言爲社。
【読み】
此れ其の二祀なり。后土を社と爲す。方に社稷に答う。故に社と爲るを明言す。

稷、田正也。掌播殖也。
【読み】
稷は、田正なり。播殖を掌るなり。

有烈山氏之子曰柱。爲稷。烈山氏、神農世諸侯。
【読み】
有烈山氏の子を柱と曰う。稷と爲る。烈山氏は、神農の世の諸侯。

自夏以上祀之。祀柱。
【読み】
夏より以上之を祀れり。柱を祀る。

周棄亦爲稷。棄、周之始祖。能播百穀。湯旣勝夏、廢柱而以棄代之。
【読み】
周棄も亦稷と爲る。棄は、周の始祖。能く百穀を播けり。湯旣に夏に勝ち、柱を廢して棄を以て之に代う。

自商以來祀之。傳言蔡墨之博物。
【読み】
商より以來之を祀りぬ、と。傳蔡墨の博物を言う。

冬、晉趙鞅・荀寅帥師城汝濱。趙鞅、趙武孫也。荀寅、中行荀吳之子。汝濱、晉所取陸渾地。
【読み】
冬、晉の趙鞅・荀寅師を帥いて汝濱に城く。趙鞅は、趙武の孫なり。荀寅は、中行荀吳の子。汝濱は、晉の取る所の陸渾の地。

遂賦晉國一鼓鐵、以鑄刑鼎、令晉國各出功力、共鼓石爲鐵、計令一鼓而足。因軍役而爲之。故言遂。
【読み】
遂に晉國に賦して鐵を一鼓せしめて、以て刑鼎を鑄、晉國をして各々功力を出だして、共に石を鼓して鐵と爲さしめ、計りて一鼓にして足らしむるなり。軍役に因りて之を爲す。故に遂にと言う。

著范宣子所爲刑書焉。
【読み】
范宣子が爲りし所の刑書を著す。

仲尼曰、晉其亡乎。失其度矣。夫晉國將守唐叔之所受法度、以經緯其民、卿大夫以序守之。序、位次也。
【読み】
仲尼曰く、晉は其れ亡びんか。其の度を失えり。夫れ晉國は將に唐叔の受くる所の法度を守り、以て其の民を經緯して、卿大夫序を以て之を守らんとす。序は、位次なり。

民是以能尊其貴、貴是以能守其業、貴賤不愆。所謂度也。文公是以作執秩之官、爲被廬之法、僖二十七年、文公蒐被廬、脩唐叔之法。○被、皮義反。
【読み】
民是を以て能く其の貴を尊び、貴是を以て能く其の業を守り、貴賤愆[あやま]らず。所謂度なり。文公是を以て執秩の官を作り、被廬の法を爲して、僖二十七年、文公被廬に蒐して、唐叔の法を脩む。○被は、皮義反。

以爲盟主。今棄是度也、而爲刑鼎。民在鼎矣。何以尊貴。棄禮徵書。故不尊貴。
【読み】
以て盟主爲り。今是の度を棄てて、刑鼎を爲る。民鼎に在り。何を以て貴を尊ばん。禮を棄て書に徵す。故に貴を尊ばず。

貴何業之守。民不奉上、則上失業。
【読み】
貴何の業をか之れ守らん。民上を奉ぜざれば、則ち上業を失う。

貴賤無序、何以爲國。
【読み】
貴賤序無ければ、何を以て國を爲めん。

且夫宣子之刑、夷之蒐也。晉國之亂制也。范宣子所用刑、乃夷蒐之法也。夷蒐、在文六年。一蒐而三易中軍帥、賈季・箕鄭之徒遂作亂。故曰亂制。
【読み】
且つ夫れ宣子の刑は、夷の蒐なり。晉國の亂制なり。范宣子用ゆる所の刑は、乃ち夷蒐の法なり。夷の蒐は、文六年に在り。一蒐して三たび中軍の帥を易え、賈季・箕鄭の徒遂に亂を作せり。故に亂制と曰う。

若之何以爲法。
【読み】
之を若何ぞ以て法と爲さん、と。

蔡史墨曰、范氏・中行氏其亡乎。蔡史墨、卽蔡墨。
【読み】
蔡史墨曰く、范氏・中行氏は其れ亡びんか。蔡史墨は、卽ち蔡墨。

中行寅爲下卿、而干上令、擅作刑器、以爲國法。是法姦也。又加范氏焉、易之亡也。范宣子刑書、中旣廢矣。今復興之、是成其咎。
【読み】
中行寅下卿として、上の令を干し、擅[ほしいまま]に刑器を作りて、以て國法と爲す。是れ姦を法とするなり。又范氏に加えて、之を易えて亡びしめんとす。范宣子が刑書は、中ごろ旣に廢す。今復之を興すは、是れ其の咎を成すなり。

其及趙氏。趙孟與焉。然不得已。若德可以免。鑄刑鼎、本非趙鞅意。不得已而從之。若能脩德、可以免禍。爲定十三年、荀寅・士吉射入朝歌以叛傳。○與、音預。朝、如字。
【読み】
其れ趙氏に及ばん。趙孟も與ればなり。然れども已むことを得ざるなり。若し德あらば以て免る可し。刑鼎を鑄るは、本趙鞅の意に非ず。已むことを得ずして之に從う。若し能く德を脩めば、以て禍を免る可し。定十三年、荀寅・士吉射朝歌に入りて以て叛く爲の傳なり。○與は、音預。朝は、字の如し。


〔經〕三十年、春、王正月、公在乾侯。釋不朝正于廟。
【読み】
〔經〕三十年、春、王の正月、公乾侯に在り。廟に朝正せざるを釋く。

夏、六月、庚辰、晉侯去疾卒。未同盟、而赴以名。
【読み】
夏、六月、庚辰[かのえ・たつ]、晉侯去疾卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。

秋、八月、葬晉頃公。三月而葬。速。○頃、音傾。
【読み】
秋、八月、晉の頃公を葬る。三月にして葬る。速きなり。○頃は、音傾。

冬、十有二月、吳滅徐。徐子章羽奔楚。徐子稱名、以名告也。
【読み】
冬、十有二月、吳徐を滅ぼす。徐子章羽楚に奔る。徐子名を稱するは、名を以て告ぐればなり。

〔傳〕三十年、春、王正月、公在乾侯。
【読み】
〔傳〕三十年、春、王の正月、公乾侯に在り。

不先書鄆與乾侯、非公、且徵過也。徵、明也。二十七年・二十八年、公在鄆、二十九年、公在乾侯。而經不釋朝正之禮者、所以非責公之妄、且明過謬猶可掩。故不顯書其所在、使若在國然。自是鄆人潰叛、齊・晉卑公、子家忠謀終不能用、内外棄之。非復過誤所當掩塞。故每歲書公所在。○徵、直升反。
【読み】
先に鄆[うん]と乾侯とを書さざりしは、公を非[そし]り、且つ過ちなるを徵[あ]かさんとなり。徵は、明かすなり。二十七年・二十八年、公鄆に在り、二十九年、公乾侯に在り。而るを經に朝正の禮を釋かざりし者は、公の妄を非責して、且つ過謬にして猶掩う可きを明かす所以なり。故に其の在る所を顯書せずして、國に在るが若く然らしむ。是より鄆人潰叛し、齊・晉公を卑しめ、子家が忠謀終に用ゆること能わず、内外之を棄つ。復過誤の當に掩塞すべき所に非ず。故に每歲公の在る所を書す。○徵は、直升反。

夏、六月、晉頃公卒。秋、八月、葬。
【読み】
夏、六月、晉の頃公卒す。秋、八月、葬る。

鄭游吉弔、且送葬。魏獻子使士景伯詰之、曰、悼公之喪、子西弔、子蟜送葬。在襄十五年。○詰、起吉反。蟜、居表反。
【読み】
鄭の游吉弔し、且つ葬を送る。魏獻子士景伯をして之を詰[なじ]らしめて、曰く、悼公の喪に、子西弔し、子蟜[しきょう]葬を送れり。襄十五年に在り。○詰は、起吉反。蟜は、居表反。

今吾子無貳。何故。弔葬共使。○使、所吏反。
【読み】
今吾子貳無し。何の故ぞ、と。弔葬使いを共にす。○使は、所吏反。

對曰、諸侯所以歸晉君、禮也。禮也者、小事大、大字小之謂。事大、在共其時命。隨時共所求。○共、音恭。
【読み】
對えて曰く、諸侯の晉君に歸する所以は、禮なり。禮とは、小大に事え、大小を字[めぐ]むを謂うなり。大に事うるは、其の時命に共するに在り。時に隨いて求むる所に共す。○共は、音恭。

字小、在恤其所無。以敝邑居大國之閒、共其職貢、與其備御不虞之患。豈忘共命。言不敢忘共命、以所備御者多、不及辨之。○御、魚呂反。辨、皮莧反。
【読み】
小を字むは、其の無き所を恤うるに在り。敝邑の大國の閒に居りて、其の職貢に共すると、其の不虞の患えに備御するとを以てなり。豈命を共することを忘れんや。言うこころは、敢えて命に共することを忘れざるも、備御する所の者多きを以て、之を辨ずるに及ばず。○御は、魚呂反。辨は、皮莧反。

先王之制、諸侯之喪、士弔、大夫送葬。唯嘉好・聘享・三軍之事、於是乎使卿。晉之喪事、敝邑之閒、先君有所助執紼矣。紼、輓索也。禮、送葬必執紼。○閒、音閑。紼、音弗。輓、音晩。
【読み】
先王の制、諸侯の喪には、士弔し、大夫葬を送れり。唯嘉好・聘享・三軍の事には、是に於て卿をせしむ。晉の喪事に、敝邑の閒あれば、先君も助けて紼[ふつ]を執りし所有り。紼は、輓索[ばんさく]なり。禮に、葬を送れば必ず紼を執る、と。○閒は、音閑。紼は、音弗。輓は、音晩。

若其不閒、雖士大夫、有所不獲數矣。不得如先王禮數。
【読み】
若し其れ閒あらざれば、士大夫と雖も、數を獲ざりし所有りき。先王の禮數の如くなることを得ず。

大國之惠、亦慶其加、慶、善也。謂善其君自行。
【読み】
大國の惠ある、亦其の加を慶[よみ]して、慶は、善するなり。其の君の自ら行くを善するを謂う。

而不討其乏、明其情、、致也。○底、音旨。
【読み】
其の乏を討[とが]めず、其の情を[いた]すを明らかにして、は、致すなり。○底は、音旨。
*「底」は、本来は「厎」。

取備而已、以爲禮也。
【読み】
備わるを取れるのみにして、以て禮と爲せり。

靈王之喪、在襄二十九年。
【読み】
靈王の喪に、襄二十九年に在り。

我先君簡公在楚、我先大夫印段實往。敝邑之少卿也、少、年少也。
【読み】
我が先君簡公楚に在りしかば、我が先大夫印段實に往きぬ。敝邑の少卿なりしも、少は、年少なり。

王吏不討、恤所無也。
【読み】
王の吏討めざりしは、無き所を恤れむなり。

今大夫曰、女盍從舊。盍、何不也。○女、音汝。
【読み】
今大夫曰く、女盍ぞ舊に從わざる、と。盍は、何ぞせざるなり。○女は、音汝。

舊有豐有省、不知所從。從其豐、則寡君幼弱。是以不共。從其省、則吉在此矣。唯大夫圖之。晉人不能詰。傳言大叔之敏。
【読み】
舊に豐有り省有り、從わん所を知らず。其の豐に從わんとすれば、則ち寡君幼弱なり。是を以て共せず。其の省に從わんとすれば、則ち吉此に在り。唯大夫之を圖れ、と。晉人詰ること能わず。傳大叔の敏を言う。

吳子使徐人執掩餘、使鍾吾人執燭庸。二十七年、奔故。
【読み】
吳子徐人をして掩餘を執えしめ、鍾吾人をして燭庸を執えしめんとす。二十七年に、奔る故なり。

二公子奔楚。楚子大封而定其徙、大封與其田、定其所徙之居。
【読み】
二公子楚に奔る。楚子大いに封じて其の徙[し]を定め、大いに封じて其れに田を與え、其の徙る所の居を定む。

使監馬尹大心逆吳公子、使居養、二子奔楚、楚使逆之於竟也。養、卽所封之邑。○監、古銜反。
【読み】
監馬尹大心をして吳の公子を逆[むか]えしめて、養に居らしめ、二子楚に奔り、楚之を竟に逆えしむるなり。養は、卽ち封ずる所の邑。○監は、古銜反。

莠尹然・左司馬沈尹戌城之、城養。
【読み】
莠尹然[ゆういんぜん]・左司馬沈尹戌[しんいんじゅつ]之に城き、養に城く。

取於城父與胡田以與之、胡田、故胡子之地。
【読み】
城父と胡の田とを取りて以て之に與え、胡の田は、故の胡子の地。

將以害吳也。
【読み】
將に以て吳を害せんとす。

子西諫曰、吳光新得國而親其民、視民如子、辛苦同之。將用之也。若好吾邊疆、使柔服焉、猶懼其至。柔服、謂不與吳構怨。○好、呼報反。
【読み】
子西諫めて曰く、吳光新たに國を得て其の民を親しみ、民を視ること子の如くし、辛苦之を同じくす。將に之を用いんとするなり。若し吾が邊疆に好させ、柔服せしむるも、猶其の至らんことを懼る。柔服は、吳と怨みを構えざるを謂う。○好は、呼報反。
*頭注に、「吾、或作吳、非也。」とある。

吾又彊其讎、以重怒之、無乃不可乎。讎、謂三公子。
【読み】
吾れ又其の讎を彊くして、以て重ねて之を怒らさば、乃ち不可なること無からんや。讎は、三公子を謂う。

吳、周之冑裔也。而棄在海濱、不與姬通、今而始大、比于諸華。光又甚文、將自同於先王。先王、謂大王王季。亦自西戎始比諸華。
【読み】
吳は、周の冑裔なり。而れども海濱に棄在せられて、姬と通ぜざりしに、今にして始めて大にして、諸華に比せり。光又甚だ文にして、將に自ら先王に同じからんとす。先王は、大王王季を謂う。亦西戎より始めて諸華に比せり。

不知天將以爲虐乎。使翦喪吳國、而封大異姓乎。其抑亦將卒以祚吳乎。其終不遠矣。言其事行可知不久。
【読み】
知らず、天將に以て虐を爲させんとするか。吳國を翦喪して、異姓を封大せしめんか。其れ抑々亦將に卒に以て吳に祚[さいわい]せんとするか。其の終わり遠からじ。言うこころは、其の事行の知る可きこと久しからじ。

我盍姑億吾鬼神、億、安也。
【読み】
我れ盍ぞ姑く吾が鬼神を億[やす]んじて、億は、安んずるなり。

而寧吾族姓、以待其歸。善惡之歸。
【読み】
吾が族姓を寧んじて、以て其の歸を待たざる。善惡の歸。

將焉用自播揚焉。播揚、猶勞動也。○將焉、於虔反。播、彼我反。又波賀反。
【読み】
將[はた]焉ぞ自ら播揚することを用いん、と。播揚は、猶勞動のごとし。○將焉は、於虔反。播は、彼我反。又波賀反。

王弗聽。吳子怒。冬、十二月、吳子執鍾吾子、遂伐徐、防山以水之。防塞山水以灌徐。
【読み】
王聽かず。吳子怒る。冬、十二月、吳子鍾吾子を執え、遂に徐を伐ち、山を防[さ]えて以て之を水ぜめす。山水を防塞して以て徐に灌ぐ。

己卯、滅徐。徐子章禹斷其髮、斷髮自刑示懼。○斷、丁緩反。
【読み】
己卯[つちのと・う]、徐を滅ぼす。徐子章禹其の髮を斷ち、髮を斷ちて自ら刑して懼れを示す。○斷は、丁緩反。

攜其夫人以逆吳子。吳子唁而送之、使其邇臣從之。遂奔楚。邇、近也。
【読み】
其の夫人を攜えて以て吳子を逆う。吳子唁[とむら]いて之を送り、其の邇臣をして之に從わしむ。遂に楚に奔る。邇は、近きなり。

楚沈尹戌帥師救徐。弗及。遂城夷、使徐子處之。夷、城父也。
【読み】
楚の沈尹戌師を帥いて徐を救う。及ばず。遂に夷に城き、徐子をして之に處らしむ。夷は、城父なり。

吳子問於伍員曰、初而言伐楚。在二十年。○員、音云。
【読み】
吳子伍員[ごうん]に問いて曰く、初め而[なんじ]楚を伐てと言えり。二十年に在り。○員は、音云。

余知其可也、而恐其使余往也、又惡人之有余之功也。今余將自有之矣。伐楚何如。對曰、楚執政衆而乖、莫適任患。若爲三師以肄焉。肄、猶勞也。○惡、去聲。適、音的。任、音壬。肄、以制反。
【読み】
余其の可なるを知るも、而れども其の余をして往かしめんことを恐れ、又人の余の功を有たんことを惡めり。今余將に自ら之を有たんとす。楚を伐たんこと何如、と。對えて曰く、楚の執政衆くして乖き、適として患えに任ずるもの莫し。若し三師を爲して以て焉を肄[つか]らさん。肄[い]は、猶勞るるのごとし。○惡は、去聲。適は、音的。任は、音壬。肄は、以制反。
*頭注に、「若、疑請誤。」とある。

一師至、彼必皆出。彼出則歸、彼歸則出、楚必道敝。罷敝於道。○罷、音皮。
【読み】
一師至らば、彼れ必ず皆出でん。彼れ出でば則ち歸り、彼れ歸らば則ち出でば、楚必ず道に敝[つか]れん。道に罷敝す。○罷は、音皮。

亟肄以罷之、亟、數也。○亟、欺冀反。
【読み】
亟[しば]々肄らせて以て之を罷[つか]らせ、亟は、數々なり。○亟は、欺冀反。

多方以誤之、旣罷而後以三軍繼之、必大克之。
【読み】
多方以て之を誤らせ、旣に罷れて後に三軍を以て之に繼がば、必ず大いに之に克たん、と。

闔廬從之。楚於是乎始病。爲定四年、吳入楚傳。
【読み】
闔廬[こうりょ]之に從う。楚是に於て始めて病めり。定四年、吳楚に入る爲の傳なり。


〔經〕三十有一年、春、王正月、公在乾侯。季孫意如會晉荀躒於適歷。適歷、晉地。○躒、音歷。適、音的。
【読み】
〔經〕三十有一年、春、王の正月、公乾侯に在り。季孫意如晉の荀躒に適歷に會す。適歷は、晉の地。○躒は、音歷。適は、音的。

夏、四月、丁巳、薛伯穀卒。襄二十五年、盟重丘。○重、平聲。
【読み】
夏、四月、丁巳[ひのと・み]、薛伯穀卒す。襄二十五年、重丘に盟う。○重は、平聲。

晉侯使荀躒唁公于乾侯。將使意如迎公。故荀躒來唁。
【読み】
晉侯荀躒をして公を乾侯に唁[とむら]わしむ。將に意如をして公を迎えしめんとす。故に荀躒來り唁う。

秋、葬薛獻公。無傳。
【読み】
秋、薛の獻公葬る。傳無し。

冬、黑肱以濫來奔。黑肱、邾大夫。濫、東海昌慮縣。不書邾、史闕文。○濫、力甘反。或力暫反。慮、音閭。又如字。
【読み】
冬、黑肱濫を以て來奔す。黑肱は、邾[ちゅ]の大夫。濫は、東海昌慮縣。邾を書さざるは、史の闕文なり。○濫は、力甘反。或は力暫反。慮は、音閭。又字の如し。

十有二月、辛亥、朔、日有食之。
【読み】
十有二月、辛亥[かのと・い]、朔、日之を食する有り。

〔傳〕三十一年、春、王正月、公在乾侯、言不能外内也。公内不容於臣子、外不容於齊・晉。所以久在乾侯。
【読み】
〔傳〕三十一年、春、王の正月、公乾侯に在りとは、外内に能からざるを言うなり。公内は臣子に容れられず、外は齊・晉に容れられず。久しく乾侯に在る所以なり。

晉侯將以師納公。范獻子曰、若召季孫而不來、則信不臣矣。然後伐之、若何。晉人召季孫。獻子使私焉、曰、子必來。我受其無咎。言我爲子受無咎之任。
【読み】
晉侯將に師を以て公を納れんとす。范獻子曰く、若し季孫を召して來らずんば、則ち信に不臣なり。然して後に之を伐たば、若何、と。晉人季孫を召す。獻子私せしめて、曰く、子必ず來れ。我れ其の咎無きを受けん、と。言うこころは、我れ子の爲に咎無きの任を受けん。

季孫意如會晉荀躒于適歷。荀躒曰、寡君使躒謂吾子。何故出君。有君不事、周有常刑。子其圖之。季孫練冠麻衣跣行、示憂慼。○跣、素典反。
【読み】
季孫意如晉の荀躒に適歷に會す。荀躒曰く、寡君躒をして吾子に謂わしむ。何の故に君を出だせる。君有りて事えざるは、周に常刑有り。子其れ之を圖れ、と。季孫練冠麻衣して跣行し、憂慼を示す。○跣は、素典反。

伏而對曰、事君、臣之所不得也。敢逃刑命。言願事君、君不肯還。不敢辟罪。
【読み】
伏して對えて曰く、君に事えんとするも、臣の得ざる所なり。敢えて刑命を逃れんや。言うこころは、君を事えんことを願うとも、君肯えて還らず。敢えて罪を辟けず。

君若以臣爲有罪、請囚于費、以待君之察也。亦唯君。若以先臣之故、不絕季氏而賜之死。雖賜以死、不絕其後。○費、音祕。
【読み】
君若し臣を以て罪有りと爲さば、請う、費に囚われて、以て君の察するを待たん。亦唯君のままなり。若し先臣の故を以てせば、季氏を絕たずして之に死を賜え。賜うに死を以てすと雖も、其の後を絕たず。○費は、音祕。

若弗殺弗亡、君之惠也。死且不朽。若得從君而歸、則固臣之願也。敢有異心。君、皆謂魯侯也。蓋季孫探言罪己輕重、以荅荀躒。○探、他南反。
【読み】
若し殺さず亡ぼさざれば、君の惠みなり。死すとも且に朽ちざらんとす。若し君に從いて歸ることを得ば、則ち固より臣の願いなり。敢えて異心有らんや、と。君とは、皆魯侯を謂うなり。蓋し季孫己を罪する輕重を探り言いて、以て荀躒に荅うるなり。○探は、他南反。

夏、四月、季孫從知伯如乾侯。知伯、荀躒。○知、音智。
【読み】
夏、四月、季孫知伯に從いて乾侯に如く。知伯は、荀躒。○知は、音智。

子家子曰、君與之歸。一慙之不忍、而終身慙乎。公曰、諾。衆曰、在一言矣。君必逐之。言晉旣憂君。君一言使晉、晉必逐之。
【読み】
子家子曰く、君之と歸れ。一慙を忍びずして、終身慙じんや、と。公曰く、諾、と。衆曰く、一言に在り。君必ず之を逐え、と。言うこころは、晉旣に君を憂う。君一言して晉に使わしめば、晉必ず之を逐わん。

荀躒以晉侯之命唁公、且曰、寡君使躒以君命討於意如。意如不敢逃死。君其入也。公曰、君惠顧先君之好、施及亡人、將使歸糞除宗祧以事君、則不能見夫人。已所能見夫人者、有如河。夫人、謂季孫也。言若見季孫、己當受禍。明如河。以自誓。
【読み】
荀躒晉侯の命を以て公を唁い、且つ曰く、寡君躒をして君の命を以て意如を討ぜしむ。意如敢えて死を逃れず。君其れ入れ、と。公曰く、君惠みありて先君の好を顧み、施きて亡人に及ぼし、將に歸りて宗祧[そうちょう]を糞除して以て君に事えしめんとするも、則ち夫の人を見ること能わじ。已能く夫の人を見る所の者あらば、河の如きこと有らん、と。夫の人とは、季孫を謂うなり。言うこころは、若し季孫を見ば、己當に禍を受くべし。明らかなること河の如し。以て自ら誓うなり。

荀躒掩耳而走。怪公所言、示不忍聽。
【読み】
荀躒耳を掩いて走る。公の言う所を怪しみ、聽くに忍びざることを示す。

曰、寡君其罪之恐。敢與知魯國之難。言恐獲不納君之罪。今納而不入。何敢復知耶。○與、音預。難、乃旦反。
【読み】
曰く、寡君は其の罪を恐れてなり。敢えて魯國の難を與り知らんや。言うこころは、君を納れざるの罪を獲んことを恐る。今納れて入らず。何ぞ敢えて復知らんや。○與は、音預。難は、乃旦反。

臣請復於寡君。退而謂季孫、君怒未怠。子姑歸祭。歸攝君事。
【読み】
臣請う、寡君に復[もう]さん、と。退きて季孫に謂えらく、君の怒り未だ怠らず。子姑く歸りて祭れ、と。歸りて君の事を攝す。

子家子曰、君以一乘入于魯師。季孫必與君歸。公欲從之。衆從者脅公不得歸。傳言君弱不得復自在。○乘、繩證反。從、才用反。
【読み】
子家子曰く、君一乘を以て魯の師に入れ。季孫必ず君と歸らん、と。公之に從わんと欲す。衆從者公を脅かして歸ることを得ず。傳君弱くして復自ら在るを得ざるを言う。○乘は、繩證反。從は、才用反。

薛伯穀卒。同盟故書。謂書名也。入春秋來、薛始書名。故發傳。經在荀躒唁公上、傳在下者、欲魯事相次。
【読み】
薛伯穀卒す。同盟の故に書す。名を書すを謂うなり。春秋に入りてより來[このかた]、薛始めて名を書す。故に傳を發す。經は荀躒公を唁うの上に在り、傳は下に在るは、魯の事の相次がんことを欲してなり。

秋、吳人侵楚、伐夷、侵潛・六。皆楚邑。
【読み】
秋、吳人楚を侵して、夷を伐ち、潛・六を侵す。皆楚の邑。

楚沈尹戌帥師救潛。吳師還。楚師遷潛於南岡而還。吳師圍弦。左司馬戌・右司馬稽帥師救弦。及豫章。左司馬、沈尹戌。○稽、音啓。又古兮反。
【読み】
楚の沈尹戌師を帥いて潛を救う。吳の師還る。楚の師潛を南岡に遷して還る。吳の師弦を圍む。左司馬戌・右司馬稽師を帥いて弦を救う。豫章に及ぶ。左司馬は、沈尹戌。○稽は、音啓。又古兮反。

吳師還。始用子胥之謀也。謀在前年。
【読み】
吳の師還る。始めて子胥の謀を用ゆるなり。謀は前年に在り。

冬、邾黑肱以濫來奔。賤而書名、重地故也。黑肱、非命卿。故曰賤。
【読み】
冬、邾[ちゅ]の黑肱濫を以て來奔す。賤しくして名を書すは、地を重んずる故なり。黑肱は、命卿に非ず。故に賤と曰う。

君子曰、名之不可不愼也如是。是、黑肱也。
【読み】
君子曰く、名の愼まざる可からざるや是の如し。是は、黑肱なり。

夫有所有名、而不如其已。有所、謂有地也。言雖有名、不如無名。已、止也。
【読み】
夫れ所有りて名有るは、其の已むに如かず。所有りとは、地有るを謂うなり。言うこころは、名有りと雖も、名無きに如かず。已は、止むなり。

以地叛、雖賤、必書地以名其人。終爲不義、弗可滅已。是故君子動則思禮、行則思義。不爲利回、回正心也。○不爲、于僞反。下同。
【読み】
地を以て叛けば、賤しと雖も、必ず地を書して以て其の人に名をす。終に不義と爲り、滅[け]す可からざるのみ。是の故に君子動けば則ち禮を思い、行えば則ち義を思う。利の爲に回らず、正心を回すなり。○不爲は、于僞反。下も同じ。

不爲義疚。疚、病也。見義則爲之。
【読み】
義の爲に疚しからず。疚は、病むなり。義を見れば則ち之を爲す。

或求名而不得、或欲蓋而名章、懲不義也。齊豹爲衛司寇、守嗣大夫。守先人嗣、言其尊。
【読み】
或は名を求めんとして得ず、或は蓋わんと欲して名章るは、不義を懲らすなり。齊豹衛の司寇として、守嗣大夫なり。先人の嗣を守るとは、其の尊きを言うなり。

作而不義、其書爲盜、求名而不得也。二十年、豹殺衛侯兄、欲求不畏疆禦之名。
【読み】
作して不義なれば、其れ書されて盜と爲り、名を求めて得ざるなり。二十年、豹衛侯の兄を殺すは、疆禦を畏れざるの名を求めんと欲するなり。

邾庶其・ 在襄二十一年。
【読み】
邾の庶其・ 襄二十一年に在り。

莒牟夷・ 在五年。
【読み】
莒の牟夷・ 五年に在り。

邾黑肱以土地出、求食而已。不求其名、賤而必書。春秋叛者多。唯取三人、來適魯者。三人、皆小國大夫。故曰賤。
【読み】
邾の黑肱土地を以て出づるは、食を求めんとするのみ。其の名を求めざるも、賤しくして必ず書す。春秋に叛く者多し。唯三人を取るは、來りて魯に適く者なればなり。三人は、皆小國の大夫。故に賤と曰う。

此二物者、所以懲肆而去貪也。物、事也。肆、放也。齊豹書盜、懲肆也。三叛人名、去貪也。○去、上聲。
【読み】
此の二物は、肆を懲らして貪を去る所以なり。物は、事なり。肆は、放なり。齊豹を盜と書すは、肆を懲らすなり。三叛人に名いうは、貪を去るなり。○去は、上聲。

若艱難其身、身爲艱難。
【読み】
若し其の身に艱難をして、身艱難を爲す。

以險危大人、大人、在位者。
【読み】
以て大人を險危して、大人は、位に在る者。

而有名章徹、謂得勇名。
【読み】
名の章徹する有らば、勇名を得るを謂う。

攻難之士、將奔走之。攻、猶作也。奔走、猶赴趣也。○難、去聲。
【読み】
攻難の士、將に之に奔走せんとす。攻は、猶作すのごとし。奔走は、猶赴趣のごとし。○難は、去聲。

若竊邑叛君、以徼大利而無名、謂不書其人名。○徼、音澆。
【読み】
若し邑を竊み君に叛きて、以て大利を徼[もと]めて名無くば、其の人の名を書さざるを謂う。○徼は、音澆。

貪冒之民、將寘力焉。盡力爲之、不顧於見書。○冒、亡北反。又亡報反。
【読み】
貪冒の民、將に力を寘かんとす。力を盡くして之を爲して、書さるるを顧みず。○冒は、亡北反。又亡報反。

是以春秋書齊豹曰盜、三叛人名、以懲不義、數惡無禮。其善志也。無禮惡逆、皆數而不忘。記事之善者也。○數、所主反。
【読み】
是を以て春秋に齊豹を書して盜と曰い、三叛人に名いうは、以て不義を懲らして、惡無禮を數うるなり。其れ善志なり。無禮惡逆、皆數えて忘れず。事を記すの善き者なり。○數は、所主反。

故曰、春秋之稱、微而顯、文微而義著。○稱、尺證反。
【読み】
故に曰く、春秋の稱は、微にして顯、文微にして義著る。○稱は、尺證反。

婉而辨。辭婉而旨別。○別、彼列反。
【読み】
婉にして辨。辭婉にして旨別る。○別は、彼列反。

上之人能使昭明、上之人、謂在位者。在位者能行其法。非賤人所能。
【読み】
上の人能く昭明ならしめば、上の人とは、在位の者を謂う。在位の者にして能く其の法を行う。賤人の能くする所に非ず。

善人勸焉、淫人懼焉。是以君子貴之。
【読み】
善人は勸み、淫人は懼れん。是を以て君子之を貴ぶ、と。

十二月、辛亥、朔、日有食之。是夜也、趙簡子夢童子臝而轉以歌。轉、宛轉也。○臝、力果反。
【読み】
十二月、辛亥、朔、日之を食する有り。是の夜や、趙簡子夢みらく、童子臝[ら]にして轉じて以て歌う、と。轉は、宛轉なり。○臝は、力果反。

旦占諸史墨曰、吾夢如是、今而日食。何也。簡子夢適與日食會。謂咎在己。故問之。
【読み】
旦に諸を史墨に占いて曰く、吾が夢是の如くにして、今にして日食す。何ぞや、と。簡子の夢適々日食と會す。咎己に在りと謂えり。故に之を問う。

對曰、六年、及此月也、吳其入郢乎。終亦弗克。史墨知夢非日食之應。故釋日食之咎、而不釋其夢。○郢、以井反。又羊政反。
【読み】
對えて曰く、六年にして、此の月に及びて、吳其れ郢[えい]に入らんか。終に亦克たざらん。史墨夢は日食の應に非ざるを知る。故に日食の咎を釋きて、其の夢を釋かず。○郢は、以井反。又羊政反。

入郢必以庚辰。庚日有變。日在辰尾。故曰以庚辰。定四年十一月庚辰、吳入郢。
【読み】
郢に入るは必ず庚辰[かのえ・たつ]を以てせん。庚の日に變有り。日辰尾に在り。故に庚辰を以てせんと曰う。定四年十一月庚辰、吳郢に入れり。

日月在辰尾。辰尾、龍尾也。周十二月、今之十月。日月合朔於辰尾而食。
【読み】
日月辰尾に在り。辰尾は、龍尾なり。周の十二月は、今の十月。日月辰尾に合朔して食す。

庚午之日、日始有謫。火勝金。故弗克。謫、變氣也。庚午、十月十九日。去辛亥朔四十一日。雖食在辛亥、更以始變爲占也。午、南方。楚之位也。午、火。庚、金也。日以庚午有變。故災在楚。楚之仇敵唯吳。故知入郢必吳。火勝金者、金爲火妃。食在辛亥。亥、水也。水數六。故六年也。○謫、直革反。
【読み】
庚午[かのえ・うま]の日に、日始めて謫[たく]有り。火は金に勝つ。故に克たじ、と。謫は、變氣なり。庚午は、十月十九日。辛亥朔を去ること四十一日。食辛亥に在りと雖も、更に始變を以て占を爲すなり。午は、南方。楚の位なり。午は、火。庚は、金なり。日庚午を以て變有り。故に災楚に在り。楚の仇敵は唯吳のみなり。故に郢に入るは必ず吳ならんことを知る。火金に勝つとは、金は火の妃爲り。食辛亥に在り。亥は、水なり。水數は六。故に六年というなり。○謫は、直革反。


〔經〕三十有二年、春、王正月、公在乾侯。取闞。無傳。公別居乾侯、遣人誘闞而取之、不用師徒。○闞、口暫反。
【読み】
〔經〕三十有二年、春、王の正月、公乾侯に在り。闞[かん]を取る。傳無し。公別に乾侯に居り、人をして闞を誘きて之を取らしめて、師徒を用いざるなり。○闞は、口暫反。

夏、吳伐越。秋、七月。冬、仲孫何忌會晉韓不信・齊高張・宋仲幾・衛世叔申・鄭國參・曹人・莒人・薛人・杞人・小邾人城成周。世叔申、世叔儀孫也。國參、子產之子。不書盟、時公在外、未及告公、公已薨。○參、七南反。
【読み】
夏、吳越を伐つ。秋、七月。冬、仲孫何忌晉の韓不信・齊の高張・宋の仲幾・衛の世叔申・鄭の國參・曹人・莒人・薛人・杞人・小邾人[しょうちゅひと]に會して成周に城く。世叔申は、世叔儀の孫なり。國參は、子產の子。盟を書さざるは、時に公外に在りて、未だ公に告ぐるに及ばずして、公已に薨ずればなり。○參は、七南反。

十有二月、己未、公薨于乾侯。十五日。
【読み】
十有二月、己未[つちのと・ひつじ]、公乾侯に薨ず。十五日。

〔傳〕三十二年、春、王正月、公在乾侯、言不能外内、又不能用其人也。其人、謂子家羈也。言公不能用其人。故於今猶在乾侯。
【読み】
〔傳〕三十二年、春、王の正月、公乾侯に在りとは、外内に能からず、又其の人を用ゆること能わざるを言うなり。其の人とは、子家羈を謂うなり。言うこころは、公其の人を用ゆること能わず。故に今に於て猶乾侯に在り。

夏、吳伐越、始用師於越也。自此之前、雖疆事小爭、未嘗用大兵。
【読み】
夏、吳越を伐つは、始めて師を越に用ゆるなり。此より前は、疆事小爭すと雖も、未だ嘗て大兵を用いず。

史墨曰、不及四十年、越其有吳乎。存亡之數、不過三紀。歲星三周、三十六歲。故曰不及四十年。哀二十二年、越滅吳。至此三十八歲。
【読み】
史墨曰く、四十年に及ばずして、越其れ吳を有たんか。存亡の數、三紀に過ぎず。歲星三周すれば、三十六歲なり。故に四十年に及ばずと曰う。哀二十二年に、越吳を滅ぼす。此に至りて三十八歲なり。

越得歲而吳伐之。必受其凶。此年、歲在星紀。星紀、吳・越之分也。歲星所在、其國有福。吳先用兵。故反受其殃。
【読み】
越歲を得て吳之を伐つ。必ず其の凶を受けん、と。此の年、歲星紀に在り。星紀は、吳・越の分なり。歲星の在る所は、其の國福有り。吳先ず兵を用ゆ。故に反って其の殃を受くるなり。

秋、八月、王使富辛與石張如晉、請城成周。子朝之亂、其餘黨多在王城。敬王畏之、徙都成周。成周、狹小。故請城之。
【読み】
秋、八月、王富辛と石張とをして晉に如きて、成周に城かんことを請わしむ。子朝の亂に、其の餘黨多く王城に在り。敬王之を畏れ、都を成周に徙す。成周は、狹小。故に之に城かんことを請う。

天子曰、天降禍于周、俾我兄弟、竝有亂心、以爲伯父憂、俾、使也。兄弟、謂子朝也。伯父、謂晉侯。
【読み】
天子曰く、天禍を周に降して、我が兄弟をして、竝に亂心有りて、以て伯父の憂えを爲さしめ、俾は、使なり。兄弟は、子朝を謂うなり。伯父は、晉侯を謂うなり。

我一二親昵甥舅、不皇啓處、於今十年、謂二十三年、二師圍郊至于今。○昵、女乙反。
【読み】
我が一二の親昵[しんじつ]甥舅[せいきゅう]、啓處するに皇[いとま]あらざりしより、今に於て十年、二十三年、二師郊を圍みてより今に至るまでを謂う。○昵は、女乙反。

勤戍五年。謂二十八年、晉籍秦致諸侯之戍至于今。
【読み】
戍を勤むること五年。二十八年、晉の籍秦諸侯の戍を致してより今に至るまでを謂う。

余一人無日忘之、念諸侯勞。
【読み】
余一人日として之を忘れんこと無く、諸侯の勞を念う。

閔閔焉如農夫之望歲、懼以待時。閔閔、憂貌。王憂亂、常閔閔冀望安定、如農夫之憂饑、冀望來歲之將熟。
【読み】
閔閔焉として農夫の歲を望むが如くにして、懼れて以て時を待てり。閔閔は、憂うる貌。王亂を憂え、常に閔閔として安定を冀望すること、農夫の饑を憂え、來歲の將に熟せんとするを冀望するが如し。

伯父若肆大惠、復二文之業、弛周室之憂、肆、展放也。二文、謂文侯仇・文侯重耳。弛、猶解也。
【読み】
伯父若し大惠を肆[の]べ、二文の業を復し、周室の憂えを弛め、肆は、展放なり。二文は、文侯仇・文侯重耳を謂う。弛は、猶解くがごとし。

徼文・武之福、以固盟主、宣昭令名、則余一人有大願矣。昔成王合諸侯城成周、以爲東都、崇文德焉。作成周、遷殷民、以爲京師之東都、所以崇文王之德。○徼、古堯反。
【読み】
文・武の福を徼めて、以て盟主を固くし、令名を宣昭せんとならば、則ち余一人大願有り。昔成王諸侯を合わせて成周に城き、以て東都と爲して、文德を崇くせり。成周を作り、殷民を遷して、以て京師の東都と爲すは、文王の德を崇くする所以なり。○徼は、古堯反。

今我欲徼福假靈于成王、脩成周之城、俾戍人無勤。諸侯用寧、蝥賊遠屛、晉之力也。蝥賊、喩災害。○蝥、亡侯反。
【読み】
今我れ福を徼め成王に靈を假り、成周の城を脩め、戍人をして勤むること無からしめんことを欲す。諸侯用て寧く、蝥賊[ぼうぞく]遠く屛[しりぞ]かば、晉の力なり。蝥賊は、災害に喩う。○蝥は、亡侯反。

其委諸伯父、使伯父實重圖之。俾我一人無徵怨于百姓、徵、召也。○徵、張升反。
【読み】
其れ諸を伯父に委ねて、伯父をして實に之を重圖せしむ。我れ一人をして怨みを百姓に徵[め]すこと無からしめて、徵は、召すなり。○徵は、張升反。

而伯父有榮施、先王庸之。庸、功也。先王之靈、以爲大功。○施、式豉反。
【読み】
伯父榮施有らば、先王之を庸[いさおし]とせん、と。庸は、功なり。先王の靈、以て大功と爲さん。○施は、式豉反。

范獻子謂魏獻子曰、與其戍周、不如城之。天子實云。云欲罷戍而城。
【読み】
范獻子魏獻子に謂いて曰く、其の周を戍らんよりは、之に城くに如かず。天子實に云えり。戍を罷めて城かんと欲すと云えり。

雖有後事、晉勿與知、可也。從王命以紓諸侯、晉國無憂。是之不務、而又焉從事。魏獻子曰、善。
【読み】
後事有りと雖も、晉與り知ること勿からんも、可なり。王命に從いて以て諸侯を紓[ゆる]べば、晉國も憂え無からん。是を之れ務めずして、又焉[いずく]に事に從わん、と。魏獻子曰く、善し、と。

使伯音對、伯音、韓不信。○與、音預。紓、音舒。
【読み】
伯音をして對えしめて、伯音は、韓不信。○與は、音預。紓は、音舒。

曰、天子有命。敢不奉承、以奔告於諸侯。遲速衰序、衰、差也。序、次也。○衰、初危反。
【読み】
曰く、天子命有り。敢えて奉承して、以て奔りて諸侯に告げざらんや。遲速衰序は、衰は、差なり。序は、次なり。○衰は、初危反。

於是焉在。在周所命。
【読み】
是に於て在り、と。周の命ずる所に在り。

冬、十一月、晉魏舒・韓不信如京師、合諸侯之大夫于狄泉、尋盟、且令城成周。尋平丘盟。
【読み】
冬、十一月、晉の魏舒・韓不信京師に如き、諸侯の大夫を狄泉に合わせて、盟を尋[かさ]ね、且つ成周に城くことを令す。平丘の盟を尋ぬ。

魏子南面。居君位。
【読み】
魏子南面す。君位に居る。

衛彪徯曰、魏子必有大咎。干位以令大事、非其任也。彪徯、衛大夫。○彪、彼虯反。徯、音兮。
【読み】
衛の彪徯曰く、魏子必ず大咎有らん。位を干して以て大事を令するは、其の任に非ざるなり。彪徯は、衛の大夫。○彪は、彼虯反。徯は、音兮。

詩曰、敬天之怒、不敢戲豫。敬天之渝、不敢馳驅。詩、大雅。戒王者。言當敬畏天之譴怒、不可遊戲・逸豫・馳驅自恣。渝、變也。
【読み】
詩に曰く、天の怒りを敬して、敢えて戲豫せざれ。天の渝[か]わるを敬して、敢えて馳驅せざれ、と。詩は、大雅。王者を戒むるなり。言うこころは、當に天の譴怒を敬畏して、遊戲・逸豫・馳驅自ら恣にす可からざるべし。渝は、變わるなり。

況敢干位以作大事乎。
【読み】
況んや敢えて位を干して以て大事を作さんや、と。

己丑、士彌牟營成周。計丈數、計所當城之丈數也。
【読み】
己丑[つちのと・うし]、士彌牟成周を營む。丈數を計り、當に城くべき所の丈數を計るなり。

揣高卑、度高曰揣。○揣、丁果反。又初委反。
【読み】
高卑を揣[はか]り、高さを度るを揣[し]と曰う。○揣は、丁果反。又初委反。

度厚薄、仞溝洫、度深曰仞。
【読み】
厚薄を度り、溝洫を仞[はか]り、深さを度るを仞と曰う。

物土方、議遠邇、物、相也。相取土之方面、遠近之宜。○相、息亮反。
【読み】
土方を物[み]、遠邇を議り、物は、相[み]るなり。土を取るの方面、遠近の宜しきを相る。○相は、息亮反。

量事期、知事幾時畢。○幾、居豈反。下同。
【読み】
事期を量り、事の幾時にして畢わらんとを知る。○幾は、居豈反。下も同じ。

計徒庸、知用幾人功。
【読み】
徒庸を計り、幾人功を用ゆることを知る。

慮財用、知費幾材用。○費、芳貴反。
【読み】
財用を慮り、幾材用を費すことを知る。○費は、芳貴反。

書餱糧、知用幾量食。
【読み】
餱糧を書して、幾量食を用ゆることを知る。

以令役於諸侯、屬役賦丈、付所當城尺丈。○屬、之欲反。
【読み】
以て役を諸侯に令し、役を屬し丈を賦[くば]り、當に城くべき所の尺丈を付す。○屬は、之欲反。

書以授帥、帥、諸侯之大夫。○帥、所類反。
【読み】
書して以て帥に授けて、帥は、諸侯の大夫。○帥は、所類反。

而效諸劉子。效、致也。
【読み】
諸を劉子に效[いた]す。效は、致すなり。

韓簡子臨之、以爲成命。臨履其事、以命諸侯。經所以不書魏舒。
【読み】
韓簡子之に臨みて、以て命を成すことを爲せり。其の事に臨履して、以て諸侯に命ず。經に魏舒を書さざる所以なり。

十二月、公疾。徧賜大夫。從公者。○從、才用反。下同。
【読み】
十二月、公疾む。徧く大夫に賜う。公に從う者。○從は、才用反。下も同じ。

大夫不受。賜子家子雙琥・ 琥、玉器。
【読み】
大夫受けず。子家子に雙琥[そうこ]・ 琥は、玉器。

一環・一璧・輕服。細好之服。
【読み】
一環・一璧・輕服を賜う。細好の服。

受之。大夫皆受其賜。己未、公薨。子家子反賜於府人曰、吾不敢逆君命也。大夫皆反其賜。書曰公薨于乾侯、言失其所也。不薨路寢爲失所。
【読み】
之を受く。大夫皆其の賜を受く。己未、公薨ず。子家子賜を府人に反して曰く、吾は敢えて君命に逆わざらんとなり、と。大夫皆其の賜を反す。書して公乾侯に薨ずと曰うは、其の所を失えるを言うなり。路寢に薨ぜざるを所を失うと爲す。

趙簡子問於史墨曰、季氏出其君、而民服焉、諸侯與之、君死於外、而莫之或罪也。對曰、物生、有兩、有三、有五、有陪貳。故天有三辰。謂有三。
【読み】
趙簡子史墨に問いて曰く、季氏其の君を出だして、民服し、諸侯之に與し、君外に死して、之を罪すること或ること莫し、と。對えて曰く、物生ずれば、兩有り、三有り、五有り、陪貳有り。故に天に三辰有り。三有るを謂う。

地有五行。謂有五。
【読み】
地に五行有り。五有るを謂う。

體有左右。謂有兩。
【読み】
體に左右有り。兩有るを謂う。

各有妃耦。謂陪貳。○妃、音配。
【読み】
各々妃耦有り。陪貳を謂う。○妃は、音配。

王有公。諸侯有卿。皆有貳也。
【読み】
王に公有り。諸侯に卿有り。皆貳有るなり。

天生季氏以貳魯侯。爲日久矣。民之服焉、不亦宜乎。魯君世從其失、季氏世脩其勤。民忘君矣。雖死於外、其誰矜之。社稷無常奉、
【読み】
天季氏を生じて以て魯侯に貳とす。日爲ること久し。民の服する、亦宜ならずや。魯の君は世々其の失を從[ほしいまま]にし、季氏は世々其の勤めを脩む。民君を忘れたり。外に死すと雖も、其れ誰か之を矜[あわ]れまん。社稷は常奉無く、
*頭注に、「從、本作縱。」とある。

君臣無常位。自古以然。史墨跡古今以實言。
【読み】
君臣は常位無し。古より以[すで]に然り。史墨古今を跡[たず]ねて以て言を實にす。

故詩曰、高岸爲谷、深谷爲陵。詩、小雅。言高下有變易。
【読み】
故に詩に曰く、高岸は谷と爲り、深谷は陵に爲る、と。詩は、小雅。言うこころは、高下變易有り。

三后之姓、於今爲庶。主所知也。三后、虞・夏・商。
【読み】
三后の姓も、今に於て庶と爲るあり。主の知れる所なり。三后は、虞・夏・商。

在易卦、雷乘乾曰大壯乾下震上、大壯。震在乾上。故曰雷乘乾。
【読み】
易卦に在り、雷乾に乘るを大壯と曰う。乾下震上は、大壯。震乾の上に在り。故に雷乾に乘ると曰う。

天之道也。乾爲天子、震爲諸侯。而在乾上、君臣易位。猶臣大强壯、若天上有雷。
【読み】
天の道なり。乾を天子と爲し、震を諸侯と爲す。而るに乾の上に在りて、君臣位を易う。猶臣の大强壯、天上に雷有るが若し。

昔成季友、桓之季也。文姜之愛子也。始震而卜。卜人謁之曰、生有嘉聞。嘉名聞於世。○震、如字。一音身。聞、音問。
【読み】
昔成季友は、桓の季なり。文姜の愛子なり。始めて震[はら]みて卜す。卜人之を謁[つ]げて曰く、生まれて嘉聞有らん。嘉名世に聞こゆ。○震は、字の如し。一音身。聞は、音問。

其名曰友、爲公室輔。及生如卜人之言。有文在其手曰友。遂以名之。旣而有大功於魯、立僖公。○名之、武政反。
【読み】
其の名を友と曰い、公室の輔と爲らん、と。生まるるに及びて卜人の言の如し。文の其の手に在る有りて友と曰いぬ。遂に以て之に名づけり。旣にして魯に大功有りて、僖公を立つ。○名之は、武政反。

受費以爲上卿。至於文子・武子、文子、行父。武子、宿。○費、音祕。
【読み】
費を受けて以て上卿と爲れり。文子・武子に至るまで、文子は、行父。武子は、宿。○費は、音祕。

世增其業、不廢舊績。魯文公薨、而東門遂殺適立庶、魯君於是乎失國。失國權。
【読み】
世々其の業を增し、舊績を廢てず。魯の文公薨じて、東門遂適を殺し庶を立て、魯の君是に於て國を失えり。國權を失う。

政在季氏、於此君也四公矣。民不知君。何以得國。是以爲君、愼器與名。不可以假人。器、車服。名、爵號。
【読み】
政季氏に在ること、此の君に於て四公なり。民君を知らず。何を以て國を得ん。是を以て君と爲りては、器と名とを愼む。以て人に假す可からず、と。器は、車服。名は、爵號。



經二十七年。吳弑。申志反。注同。君僚。力彫反。亟。欺冀反。殺。始察反。信近。附近之近。祁犂。力兮反。又力之反。扈。音戶。曹伯午。音五。邾快。苦夬反。
傳。掩餘。於檢反。後復。扶又反。莠尹。由九反。沈尹戌。音恤。校人。胡孝反。沙汭。如銳反。以殺。申志反。下文同。○今本弑。上國有言。賈云、上國與中國同。服云、上古國也。不索。所白反。堀室。本又作窟。同。掘。其勿反。又其月反。夾之。古洽反。又古協反。下同。恐難。乃旦反。寘劒。之豉反。炙。章夜反。抽劒。勑留反。刺王。七亦反。闔廬。戶臘反。相傳。直專反。立適。丁歷反。使命。所吏反。說之。音悅。賄而。呼罪反。譖郤。側鴆反。好甲。呼報反。羣帥。所類反。一編。必然反。又必干反。秉秆。一音古旦反。苫也。式占反。李巡云、編菅茅以覆屋曰苫。把。必馬反。稾。古老反。炮之。陟交反。又彭交反。燔。音煩。及佗。徒河反。匃。古害反。堅守。手又反。近鄆。附近之近。之難。之旦反。年末同。進胙。才故反。詛也。側慮反。中廐。九又反。謗讟。音獨。邇近。附近之近。將焉。於虔反。矯子。居表反。不愆。起虔反。疆埸。居良反。下音亦。在坐。才臥反。
經二十八年。斥丘。音尺。一音昌夜反。竟。音境。傳同。
傳。一个。古賀反。注同。單使。所吏反。逆著。一音直略反。祁勝。巨支反。字林云、大原縣。上尸反。鄔臧。舊烏戶反。又音偃。案地名在周者烏戶反。隱十一年、王取鄔留是也。在鄭者音偃。成十六年、戰于鄢陵是也。在楚者音於建反。又音偃。昭十三年、王沿夏將入鄢是也。在晉者音於庶反。字林、乙袪反。郭璞三倉解詁、音瘀。於庶反。闞駰、音厭飫之飫。重言之大原有鄔縣。唯周地者從烏。餘皆從焉。字林、亦作■(左が阝で右が焉)。音同。傳云、分祁氏之田以爲七縣、司馬彌牟爲鄔大夫、卽大原縣也。鄔臧宜以邑爲氏。音於庶反。舊音誤。實蕃。音煩。多僻。本又作辟。○今本亦辟。無與。音預。爲之。于僞反。叔向。許丈反。欲娶。七住反。夏姬。戶雅反。下皆同。庶鮮。息淺反。注同。吾懲。直升反。妾媵。繩證反。又時證反。少妃。詩照反。黰黑。說文作■(診の右側)。又作鬒。云、稠髮也。以鑑。古暫反。鏡也。后夔。求龜反。君長。丁丈反。無饜。本又作厭。忿纇。本又作類。服作類。簒夏。初患反。共子。本亦作恭。末喜。本或作嬉。音同。國語云、桀伐有施。有施氏以末喜女焉。韋昭注漢書云、嬉、姓也。○今本末作妹。妲己。丁達反。下音几。國語云、有蘇氏之女也。韋昭云、己、姓也。襃姒。音似。龍漦所生、襃人所養者也。毛詩云、姒、姓也。鄭箋云、姒、字也。孋姬。本又作麗。亦作驪。同。力知反。獻公伐驪戎所得、而以爲夫人。穀梁傳云、滅虢所得。莊子云、艾封人之子。○今本亦驪。叔向嫂。素早反。兄妻也。依字宜如此。豺。本又作犲。同。仕皆反。莫喪。息浪反。梗陽。古沓反。盂。音于。下文同。魏戊。音茂。知徐。音智。楡次。資利反。又如字。樂霄。音消。僚安。力彫反。不偪。彼力反。唯此文王。詩作唯此王季。克長。丁丈反。下及注同。帝祉。音恥。應和。應對之應。下如字。又胡臥反。徧服。音遍。注同。悔吝。力刃反。近文。附近之近。以上。時掌反。下幷注同。娶妻。七住反。爲妻。于僞反。射雉。食亦反。夫。音扶。颺。餘常反。毋墮。音無。閻沒。以占反。饋入。求位反。比置。必利反。令坐。力呈反。自咎。其九反。軍帥。所類反。本又作率。同。
經二十九年。唁。音彥。復不。扶又反。
傳。故復。扶又反。召伯。上照反。具從。才用反。衣屨。九具反。塹而。七豔反。隋塹。徒火反。將爲。如字。一音于僞反。櫝。徒木反。爲作。于僞反。下同。帷裹。古火反。有裔。以制反。有夏。戶雅反。下皆同。少康。詩照反。下少皞同。河漢各二。服云、河漢各二乘。所治。直吏反。復承。扶又反。朝夕。如字。下朝夕見同。鬱堙。○今本湮。君長。丁丈反。下皆同。祀犂。力兮反。蓐收。本又作辱。玄冥。亡丁反。在乾。其連反。本亦作巽下。音遜。爻辭。戶交反。兌上。徒外反。亢龍。苦浪反。其巛。本又作坤。空門反。○今本亦坤。之剝。邦角反。艮上。古恨反。曰該。古咳反。顓。音專。頊。許玉反。共工。音恭。大皞。音泰。烈山。如字。禮記、作厲山。以上。時掌反。汝濱。音賓。中行。戶郎反。以鑄。之樹反。計令。力呈反。被廬。力居反。文公搜。本又作蒐。所求反。○今本亦蒐。中軍帥。所類反。擅作。市戰反。今復。扶又反。其咎。其九反。
經三十年。去疾。起呂反。
傳。且徵。本或作懲、誤。非復。扶又反。嘉好。呼報反。輓索。本又作挽。下悉各反。印段。一刃反。少卿。詩照反。注同。女盍。胡臘反。下同。有省。所景反。下同。於竟。音境。莠尹。音誘。吾好。本作若好吾。○今本亦同。邊疆。居良反。以重。直用反。之冑。直又反。大王。音泰。翦喪。息浪反。以祚。才故反。姑億。於力反。防壅。於勇反。以灌。古亂反。莫適。丁歷反。以肄。本又作肆。數也。所角反。
經三十一年。荀躒。力狄反。適歷。丁歷反。
傳。無咎。其九反。下注放此。爲子。于僞反。出君。如字。又勑律反。之好。呼報反。施及。以豉反。宗祧。他彫反。夫人。音扶。下及注同。敢復。扶又反。義疚。久又反。懲不義。直升反。下同。以徼。古堯反。將寘。之豉反。婉而。於阮反。臝而。本又作裸。之應。應對之應。
經三十二年。
傳。疆事。居良反。小爭。爭鬭之爭。之分。扶問反。其殃。於良反。狹小。音洽。俾我。本又作卑。同。必爾反。注同。弛周。式氏反。注同。重耳。直龍反。又焉。於虔反。大咎。其九反。之渝。羊朱反。譴怒。弃戰反。度高。待洛反。下文及注同。仞溝。本又作刃。而愼反。洫。況域反。糇。音侯。本又作餱。○今本亦餱。糧。音良。而效。戶孝反。致也。徧賜。音遍。雙琥。音虎。陪貳。蒲回反。世從。本又作縱。殺適。丁歷反。


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(引用文献)


江守孝三(Emori Kozo)