[温故知新 TOP]
  [詩経][春秋], [春秋]姉妹編[書經][周易]
春秋左氏傳校本


 春秋《左氏傳》(僖公上、中、下)

春秋左氏傳
(隱公 桓公莊公閔公)(僖公上、中、下 )(文公上、下 )(宣公上、下 )(成公上、下 )
(襄公一、二、三) (四、五、六 )(昭公一、二、三、四) (五、六、七)(定公上、下)(哀公上、下)(序杜預略傳 ・後序)

僖公上、中、下

春秋左氏傳校本第五

僖公 起元年盡十五年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

僖公 名申。莊公之子。閔公之兄。母成風。謚法、小心畏忌曰僖。
【読み】
僖公 名は申。莊公の子。閔公の兄。母は成風。謚法に、小心畏忌するを僖と曰う、と。

〔經〕
元年、春、王正月、齊師・宋師・曹師次于聶北、救邢。齊帥諸侯之師、救邢、次于聶北者、案兵觀釁、以待事也。次例在莊三年。聶北、邢地。○聶、女輒反。
【読み】
〔經〕元年、春、王の正月、齊の師・宋の師・曹の師聶北[しょうほく]に次[やど]りて、邢を救う。齊諸侯の師を帥いて、邢を救い、聶北に次るは、兵を案じて釁[きん]を觀て、以て事を待つなり。次の例は莊三年に在り。聶北は、邢の地。○聶は、女輒反。
*曹師について、頭注に「曹師作伯、誤。此三國皆師多、而大夫將。故名氏不見、竝称師。」とある。


夏、六月、邢遷于夷儀。邢遷如歸。故以自遷爲辭。夷儀、邢地。
【読み】
夏、六月、邢夷儀に遷る。邢の遷ること歸るが如し。故に自ら遷るを以て辭と爲す。夷儀は、邢の地。

齊師・宋師・曹師城邢。傳例曰、救患分災、禮也。一事而再列三國、於文不可言諸侯師故。
【読み】
齊の師・宋の師・曹の師邢に城く。傳例に曰く、患えを救い災いに分かつは、禮なり、と。一事にして再び三國を列ぬるは、文に於て諸侯の師と言う可からざる故なり。

秋、七月、戊辰、夫人姜氏薨于夷。齊人以歸。傳在閔二年。不言齊人殺、諱之。書地者、明在外薨。
【読み】
秋、七月、戊辰[つちのえ・たつ]、夫人姜氏夷に薨ず。齊人以[い]て歸る。傳は閔二年に在り。齊人殺すと言わざるは、之を諱みてなり。地を書すは、外に在りて薨ずることを明かすなり。

楚人伐鄭。荆始改號曰楚。
【読み】
楚人鄭を伐つ。荆始めて號を改めて楚と曰う。

八月、公會齊侯・宋公・鄭伯・曹伯・邾人于檉。檉、宋地。陳國陳縣西北有檉城。公及其會。而不書盟、還不以盟告。○檉、勅呈反。
【読み】
八月、公齊侯・宋公・鄭伯・曹伯・邾人[ちゅひと]に檉[てい]に會す。檉は、宋の地。陳國陳縣の西北に檉城有り。公其の會に及びぬ。而るに盟を書さざるは、還りて盟を以て告げざればなり。○檉は、勅呈反。

九月、公敗邾師于偃。偃、邾地。
【読み】
九月、公邾の師を偃[えん]に敗る。偃は、邾の地。

冬、十月、壬午、公子友帥師敗莒師于酈、獲莒挐。酈、魯地。挐、莒子之弟。不書弟者、非卿。非卿則不應書、嘉季友之功。故特書其所獲。大夫、生死皆曰獲。獲例在昭二十三年。○酈、力知反。挐、女居反。又女加反。
【読み】
冬、十月、壬午[みずのえ・うま]、公子友師を帥いて莒の師を酈に敗り、莒の挐[じょ]を獲。酈は、魯の地。挐は、莒子の弟なり。弟と書さざるは、卿に非ざればなり。卿に非ざれば則ち書す應からざるも、季友の功を嘉す。故に特に其の獲る所を書す。大夫は、生死皆獲と曰う。獲の例は昭二十三年に在り。○酈は、力知反。挐は、女居反。又女加反。

十有二月、丁巳、夫人氏之喪至自齊。僖公請而葬之。故告於廟、而書喪至也。齊侯旣殺哀姜、以其尸歸、絕之於魯、僖公請其喪而還、不稱姜、闕文。
【読み】
十有二月、丁巳[ひのと・み]、夫人氏の喪齊より至る。僖公請いて之を葬る。故に廟に告げて、喪の至るを書すなり。齊侯旣に哀姜を殺して、其の尸を以て歸り、之を魯に絕てども、僖公其の喪を請いて還せるに、姜を稱せざるは、闕文なり。

〔傳〕元年、春、不稱卽位、公出故也。國亂、身出、復入。故卽位之禮有闕。
【読み】
〔傳〕元年、春、卽位を稱せざるは、公出づる故なり。國亂れ、身出でて、復入る。故に卽位の禮闕くること有り。

公出復入。不書、諱之也。諱國惡、禮也。掩惡揚善、義存君親。故通有諱例。皆當時臣子率意而隱。故無深淺常準。聖賢從之、以通人理。有時而聽之可也。
【読み】
公出でて復入る。書さざるは、之を諱みてなり。國惡を諱むは、禮なり。惡を掩い善を揚ぐるは、義君親を存するなり。故に通じて諱の例有り。皆當時の臣子意に率いて隱す。故に深淺の常準無し。聖賢之に從いて、以て人理を通ず。時有りて之を聽[ゆる]して可なり。

諸侯救邢。實大夫。而曰諸侯、總衆國之辭。
【読み】
諸侯邢を救う。實は大夫なり。而るに諸侯と曰うは、衆國を總ぶるの辭なり。

邢人潰、出奔師。奔聶北之師也。邢潰不書、不告也。
【読み】
邢人潰[つい]え、出でて師に奔る。聶北の師に奔るなり。邢潰えること書さざるは、告げざればなり。

師遂逐狄人、具邢器用而遷之、師無私焉。皆撰具還之、無所私取。○撰、仕眷反。
【読み】
師遂に狄人を逐い、邢の器用を具えて之を遷して、師私すること無し。皆撰具して之を還して、私に取る所無し。○撰は、仕眷反。

夏、邢遷于夷儀。諸侯城之、救患也。
【読み】
夏、邢夷儀に遷る。諸侯之に城くは、患えを救うなり。

凡侯伯、救患、分災、討罪、禮也。侯伯、州長也。分穀帛。○分、甫問反。又如字。
【読み】
凡そ侯伯、患えを救い、災いに分かち、罪を討つは、禮なり。侯伯は、州長なり。穀帛を分かつなり。○分は、甫問反。又字の如し。

秋、楚人伐鄭、鄭卽齊故也。
【読み】
秋、楚人鄭を伐つは、鄭齊に卽く故なり。

盟于犖、謀救鄭也。犖、卽檉也。地有二名。○犖、音洛。
【読み】
犖[らく]に盟うは、鄭を救わんことを謀るなり。犖は、卽ち檉なり。地に二名有り。○犖は、音洛。

九月、公敗邾師于偃、虛丘之戍將歸者也。虛丘、邾地。邾人旣送哀姜還、齊人殺之。因戍虛丘、欲以侵魯、公以義求齊、齊送姜氏之喪、邾人懼乃歸。故公要而敗之。○虛、起居反。要、於遙反。
【読み】
九月、公邾の師を偃に敗るは、虛丘の戍の將に歸らんとする者なり。虛丘は、邾の地。邾人旣に哀姜を送りて還して、齊人之を殺す。因りて虛丘を戍り、以て魯を侵さんと欲するに、公義を以て齊に求め、齊姜氏の喪を送れば、邾人懼れて乃ち歸る。故に公要して之を敗る。○虛は、起居反。要は、於遙反。

冬、莒人來求賂。求還慶父之賂。
【読み】
冬、莒人來りて賂を求む。慶父を還すの賂を求む。

公子友敗諸酈、獲莒子之弟挐。非卿也。嘉獲之也。莒旣不能爲魯討慶父、受魯之賂、而又重來、其求無厭。故嘉季友之獲而書之。○重、直用反。
【読み】
公子友諸を酈に敗り、莒子の弟挐を獲。卿に非ず。之を獲るを嘉するなり。莒旣に魯の爲に慶父を討ずること能わずして、魯の賂を受けて、又重ねて來り、其の求め厭くこと無し。故に季友の獲たるを嘉して之を書す。○重は、直用反。

公賜季友汶陽之田及費。汶陽田、汶水北地。汶水、出泰山萊蕪縣、西入濟。○費、音祕。
【読み】
公季友に汶陽[ぶんよう]の田と費とを賜う。汶陽の田は、汶水の北の地。汶水は、泰山萊蕪縣に出でて、西して濟に入る。○費は、音祕。

夫人氏之喪至自齊。
【読み】
夫人氏の喪齊より至る。

君子以齊人之殺哀姜也、爲已甚矣。女子從人者也。言女子有三從之義。在夫家有罪、非父母家所宜討也。
【読み】
君子齊人の哀姜を殺すを以て、已甚[はなは]だしとす。女子は人に從う者なり。言うこころは、女子に三從の義有り。夫の家に在りて罪有るは、父母の家の宜しく討ずべき所に非ざるなり。


〔經〕二年、春、王正月、城楚丘。楚丘、衛邑。不言城衛、衛未遷。
【読み】
〔經〕二年、春、王の正月、楚丘に城く。楚丘は、衛の邑。衛に城くと言わざるは、衛未だ遷らざればなり。

夏、五月、辛巳、葬我小君哀姜。無傳。反哭成喪。故稱小君。例在定十五年。
【読み】
夏、五月、辛巳[かのと・み]、我が小君哀姜を葬る。傳無し。反哭して喪を成す。故に小君と稱す。例は定十五年に在り。

虞師・晉師滅下陽。下陽、虢邑。在河東大陽縣。晉於此始赴見經。滅例在襄十三年。○大、音泰。一如字。
【読み】
虞の師・晉の師下陽を滅ぼす。下陽は、虢の邑。河東大陽縣に在り。晉此に於て始めて赴[つ]げて經に見ゆ。滅の例は襄十三年に在り。○大は、音泰。一に字の如し。

秋、九月、齊侯・宋公・江人・黃人盟于貫。貫、宋地。梁國蒙縣西北有貰城。貰與貫字相似。江國、在汝南安陽縣。○貰、市夜反。又音世。
【読み】
秋、九月、齊侯・宋公・江人・黃人貫に盟う。貫は、宋の地。梁國蒙縣の西北に貰城有り。貰と貫と字相似たり。江國は、汝南安陽縣に在り。○貰は、市夜反。又音世。

冬、十月、不雨。傳在三年。
【読み】
冬、十月、雨ふらず。傳三年に在り。

楚人侵鄭。
【読み】
楚人鄭を侵す。

〔傳〕二年、春、諸侯城楚丘而封衛焉。君死國滅。故傳言封。
【読み】
〔傳〕二年、春、諸侯楚丘に城きて衛を封ず。君死し國滅ぶ。故に傳封ずと言う。

不書所會、後也。諸侯旣罷、而魯後至。諱不及期。故以獨城爲文。
【読み】
會する所を書さざるは、後れたればなり。諸侯旣に罷[かえ]りて、魯後れて至る。期に及ばざるを諱む。故に獨城くを以て文を爲す。

晉荀息請以屈產之乘、與垂棘之璧、假道於虞以伐虢。荀息、荀叔也。屈地生良馬、垂棘出美玉。故以爲名。四馬曰乘。自晉適虢、途出於虞。故借道。○屈、求勿反。又居勿反。乘、繩證反。
【読み】
晉の荀息屈產の乘と、垂棘の璧とを以て、道を虞に假りて以て虢を伐たんことを請う。荀息は、荀叔なり。屈の地良馬を生じ、垂棘美玉を出だす。故に以て名とす。四馬を乘と曰う。晉より虢に適くは、途虞より出づ。故に道を借るなり。○屈は、求勿反。又居勿反。乘は、繩證反。

公曰、是吾寶也。對曰、若得道於虞、猶外府也。公曰、宮之奇存焉。宮之奇、虞忠臣。
【読み】
公曰く、是れ吾が寶なり、と。對えて曰く、若し道を虞に得ば、猶外府のごとけん、と。公曰く、宮之奇存す、と。宮之奇は、虞の忠臣。

對曰、宮之奇之爲人也、懦而不能强諫。懦、弱也。○懦、乃亂反。又乃貨反。强、其良反。又其丈反。
【読み】
對えて曰く、宮之奇の人と爲りや、懦にして强諫すること能わず。懦は、弱きなり。○懦は、乃亂反。又乃貨反。强は、其良反。又其丈反。

且少長於君、君暱之。雖諫、將不聽。親而狎之。必輕其言。○少、詩照反。長、丁丈反。暱、女乙反。
【読み】
且つ少[わか]きより君に長じて、君之を暱[なじ]む。諫むと雖も、將に聽かざらんとす、と。親しんで之に狎る。必ず其の言を輕んぜん。○少は、詩照反。長は、丁丈反。暱は、女乙反。

乃使荀息假道於虞、曰、冀爲不道、入自顚軨、伐鄍三門、前是、冀伐虞至鄍。鄍、虞邑。河東大陽縣東北有顚軨坂。○軨、音零。坂、音反。
【読み】
乃ち荀息をして道を虞に假らしめて、曰く、冀不道を爲して、顚軨[てんれい]より入り、鄍[めい]の三門を伐ち、是より前、冀虞を伐ちて鄍に至れり。鄍は、虞の邑。河東大陽縣の東北に顚軨坂有り。○軨は、音零。坂は、音反。

冀之旣病、則亦唯君故。言虞報伐冀使病。將欲假道。故稱虞彊、以說其心。冀、國名。平陽皮氏縣東北有冀亭。
【読み】
冀の旣に病めるは、則ち亦唯君の故なり。言うこころは、虞冀を報伐して病ましめり。將に道を假らんと欲す。故に虞の彊きを稱して、以て其の心を說ばす。冀は、國の名。平陽皮氏縣の東北に冀亭有り。

今虢爲不道、保於逆旅、逆旅、客舍也。虢稍遣人分依客舍以聚衆、抄晉邊邑。○抄、初敎反。又楚稍反。强取物。
【読み】
今虢不道を爲し、逆旅を保ちて、逆旅は、客舍なり。虢稍[ようや]く人をして客舍に分依して以て衆を聚め、晉の邊邑を抄しめしむ。○抄は、初敎反。又楚稍反。强いて物を取るなり。

以侵敝邑之南鄙。敢請假道以請罪于虢。問虢伐己以何罪。
【読み】
以て敝邑の南鄙を侵せり。敢えて請う、道を假りて以て罪を虢に請わん、と。虢の己を伐つは何の罪を以てなるかを問う。

虞公許之、且請先伐虢。喜於厚賂、而欲求媚。
【読み】
虞公之を許し、且先ず虢を伐たんと請う。厚賂を喜びて、媚を求めんと欲す。

宮之奇諫。不聽。遂起師。
【読み】
宮之奇諫む。聽かず。遂に師を起こす。

夏、晉里克・荀息帥師、會虞師伐虢、滅下陽。晉猶主兵、不信虞。
【読み】
夏、晉の里克・荀息師を帥いて、虞の師に會して虢を伐ち、下陽を滅ぼす。晉猶兵を主るは、虞を信ぜざればなり。

先書虞、賄故也。虞非倡兵之首、而先書之、惡貪賄也。
【読み】
先ず虞を書すは、賄の故なり。虞倡兵の首に非ずして、先ず之を書すは、賄を貪るを惡んでなり。

秋、盟于貫、服江・黃也。江・黃、楚與國也。始來服齊。故爲合諸侯。
【読み】
秋、貫に盟うは、江・黃を服するなり。江・黃は、楚の與國なり。始めて來りて齊に服す。故に爲に諸侯を合わす。

齊寺人貂始漏師于多魚。寺人、内奄官、豎貂也。多魚、地名。闕。齊桓多嬖寵。内則如夫人者六人、外則幸豎貂・易牙之等、終以此亂國。傳言於此始貂擅貴寵、漏洩桓公軍事。爲齊亂張本。○寺、如字。又音侍。
【読み】
齊の寺人貂[ちょう]始めて師を多魚に漏らす。寺人は、内奄官、豎貂なり。多魚は、地の名。闕く。齊桓嬖寵多し。内は則ち夫人の如者六人、外は則ち豎貂・易牙の等を幸して、終に此を以て國を亂れり。傳此に於て始めて貂貴寵を擅[ほしいまま]にし、桓公の軍事を漏洩するを言う。齊亂る爲の張本なり。○寺は、字の如し。又音侍。

虢公敗戎于桑田。桑田、虢地。在弘農陝縣東北。
【読み】
虢公戎を桑田に敗る。桑田は、虢の地。弘農陝縣の東北に在り。

晉卜偃曰、虢必亡矣。亡下陽不懼、而又有功。是天奪之鑒、鑒、所以自照。
【読み】
晉の卜偃曰く、虢は必ず亡びん。下陽を亡いて懼れずして、又功有り。是れ天之が鑒を奪いて、鑒は、自ら照らす所以なり。

而益其疾也。驕則生疾。
【読み】
其の疾を益すなり。驕れば則ち疾を生ず。

必易晉而不撫其民矣。不可以五稔。稔、熟也。爲下五年、晉滅虢張本。○易、以豉反。
【読み】
必ず晉を易[あなど]りて其の民を撫でじ。以て五稔なる可からざらん。稔は、熟すなり。下五年、晉虢を滅ぼす爲の張本なり。○易は、以豉反。

冬、楚人伐鄭。鬭章囚鄭耼伯。經書侵、傳言伐、本以伐興、權行侵掠。爲後年楚伐鄭、鄭伯欲成張本。○耼、乃甘反。掠、音亮。
【読み】
冬、楚人鄭を伐つ。鬭章鄭の耼伯[たんはく]を囚う。經は侵と書し、傳は伐と言うは、本伐を以て興し、權[かり]に侵掠を行うなり。後年楚鄭を伐ち、鄭伯成[たい]らがんと欲する爲の張本なり。○耼は、乃甘反。掠は、音亮。


〔經〕三年、春、王正月、不雨。夏、四月、不雨。一時不雨、則書首月。傳例曰、不曰旱、不爲災。
【読み】
〔經〕三年、春、王の正月、雨ふらず。夏、四月、雨ふらず。一時雨ふらざれば、則ち首月を書す。傳例に曰く、旱すと曰わざるは、災いを爲さざればなり、と。

徐人取舒。無傳。徐國、在下邳僮縣東南。舒國、今廬江舒縣。勝國而不用大師、亦言取。例在襄十三年。
【読み】
徐人舒を取る。傳無し。徐國は、下邳僮縣の東南に在り。舒國は、今の廬江の舒縣。國に勝ちて大師を用いざるも、亦取ると言う。例は襄十三年に在り。

六月、雨。示旱不竟夏。
【読み】
六月、雨ふる。旱の夏を竟[お]えざるを示す。

秋、齊侯・宋公・江人・黃人會于陽穀。陽穀、齊地。在東平須昌縣北。
【読み】
秋、齊侯・宋公・江人・黃人陽穀に會す。陽穀は、齊の地。東平須昌縣の北に在り。

冬、公子友如齊涖盟。涖、臨也。○涖、音利。又音類。
【読み】
冬、公子友齊に如きて涖[のぞ]みて盟う。涖は、臨むなり。○涖は、音利。又音類。

楚人伐鄭。
【読み】
楚人鄭を伐つ。

〔傳〕三年、春、不雨。夏、六月、雨。自十月不雨、至于五月。不曰旱、不爲災也。周六月、夏四月。於播種五稼無損。
【読み】
〔傳〕三年、春、雨ふらず。夏、六月、雨ふる。十月より雨ふらずして、五月に至れり。旱すと曰わざるは、災いを爲さざればなり。周の六月は、夏の四月なり。五稼を播種するに於て損無し。

秋、會于陽穀、謀伐楚也。二年、楚侵鄭故。
【読み】
秋、陽穀に會するは、楚を伐たんことを謀るなり。二年、楚鄭を侵す故なり。

齊侯爲陽穀之會、來尋盟。冬、公子友如齊涖盟。公時不會陽穀。故齊侯自陽穀遣人詣魯求尋盟。魯使上卿詣齊受盟、謙也。
【読み】
齊侯陽穀の會の爲に、來りて盟を尋[かさ]ねんとす。冬、公子友齊に如きて涖みて盟う。公時に陽穀に會せず。故に齊侯陽穀より人をして魯に詣りて尋盟を求めしむ。魯上卿をして齊に詣りて盟を受けしむるは、謙るなり。

楚人伐鄭。鄭伯欲成。孔叔不可、曰、齊方勤我。孔叔、鄭大夫。勤、恤鄭難。
【読み】
楚人鄭を伐つ。鄭伯成[たい]らがんと欲す。孔叔可[き]かず、曰く、齊方に我に勤む。孔叔は、鄭の大夫。勤は、鄭の難を恤うるなり。

弃德不祥。祥、善也。
【読み】
德を弃[す]つるは不祥なり、と。祥は、善なり。

齊侯與蔡姬乘舟于囿。蕩公。蔡姬、齊侯夫人。蕩、搖也。囿、苑也。蓋魚池在苑中。
【読み】
齊侯蔡姬と舟に囿に乘る。公を蕩[うご]かす。蔡姬は、齊侯の夫人。蕩は、搖すなり。囿は、苑なり。蓋し魚池苑中に在るならん。

公懼、變色。禁之。不可。公怒。歸之。未絕之也。蔡人嫁之。爲明年齊侵蔡傳。
【読み】
公懼れ、色を變ず。之を禁ず。可かず。公怒る。之を歸す。未だ之を絕たざるなり。蔡人之を嫁す。明年齊蔡を侵す爲の傳なり。


〔經〕四年、春、王正月、公會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯侵蔡。蔡潰。民逃其上曰潰。例在文三年。
【読み】
〔經〕四年、春、王の正月、公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯に會して蔡を侵す。蔡潰[つい]ゆ。民其の上を逃るるを潰と曰う。例は文三年に在り。

遂伐楚、次于陘。遂、兩事之辭。楚强。齊欲綏之以德。故不速進而次陘。陘、楚地。潁川召陵縣南有陘亭。○陘、音刑。
【読み】
遂に楚を伐ち、陘に次[やど]る。遂は、兩事の辭。楚强し。齊之を綏んずるに德を以てせんと欲す。故に速やかに進まずして陘に次る。陘は、楚の地。潁川召陵縣の南に陘亭有り。○陘は、音刑。

夏、許男新臣卒。未同盟、而赴以名。
【読み】
夏、許男新臣卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。

楚屈完來盟于師。盟于召陵。屈完、楚大夫也。楚子遣完如師以觀齊。屈完覩齊之盛、因而求盟。故不稱使、以完來盟爲文。齊桓退舍以禮楚。故盟召陵。召陵、潁川縣也。
【読み】
楚の屈完來りて師に盟わんとす。召陵に盟う。屈完は、楚の大夫なり。楚子完をして師に如きて以て齊を觀せしむ。屈完齊の盛んなるを覩て、因りて盟を求む。故に使と稱せずして、完の來盟を以て文を爲す。齊桓退舍して以て楚を禮す。故に召陵に盟う。召陵は、潁川縣なり。

齊人執陳轅濤塗。轅濤塗、陳大夫。
【読み】
齊人陳の轅濤塗[えんとうと]を執う。轅濤塗は、陳の大夫。

秋、及江人・黃人伐陳。受齊命討陳之罪。而以與謀爲文者、時齊不行、使魯爲主。與謀例、在宣七年。
【読み】
秋、江人・黃人と陳を伐つ。齊の命を受けて陳の罪を討つ。而るに與謀を以て文を爲すは、時に齊行かず、魯をして主爲らしむればなり。與謀の例は、宣七年に在り。

八月、公至自伐楚。無傳。告于廟。
【読み】
八月、公楚を伐ちてより至る。傳無し。廟に告ぐるなり。

葬許穆公。冬、十有二月、公孫茲帥師、會齊人・宋人・衛人・鄭人・許人・曹人侵陳。公孫茲、叔牙子、叔孫戴伯。
【読み】
許の穆公を葬る。冬、十有二月、公孫茲[こうそんじ]師を帥いて、齊人・宋人・衛人・鄭人・許人・曹人に會して陳を侵す。公孫茲は、叔牙の子、叔孫戴伯。

〔傳〕四年、春、齊侯以諸侯之師侵蔡。蔡潰。遂伐楚。
【読み】
〔傳〕四年、春、齊侯諸侯の師を以[い]て蔡を侵す。蔡潰ゆ。遂に楚を伐つ。

楚子使與師言曰、君處北海、寡人處南海、唯是風馬牛不相及也。楚界猶未至南海。因齊處北海、遂稱所近。牛馬風逸、蓋末界之微事。故以取喩。
【読み】
楚子師と言わしめて曰く、君は北海に處り、寡人は南海に處りて、唯是れ風する馬牛も相及ばず。楚の界猶南海に至らず。齊の北海に處るに因りて、遂に近き所を稱す。牛馬の風逸するは、蓋し末界の微事ならん。故に以て取り喩う。

不虞君之涉吾地也、何故。管仲對曰、昔召康公命我先君大公、召康公、周大保召公奭也。
【読み】
虞[はか]らざりき、君の吾が地に涉[わた]らんとは、何の故ぞ、と。管仲對えて曰く、昔召康公我が先君大公に命じて、召康公は、周の大保召公奭なり。

曰、五侯九伯、女實征之、以夾輔周室。五等諸侯、九州之伯、皆得征討其罪。齊桓因此命以夸楚。○女、音汝。
【読み】
曰く、五侯九伯、女實に之を征して、以て周室を夾輔せよ、と。五等の諸侯、九州の伯、皆其の罪を征討することを得。齊桓此の命に因りて以て楚に夸[ほこ]る。○女は、音汝。

賜我先君履、東至于海、西至于河、南至于穆陵、北至于無棣。穆陵・無棣、皆齊竟也。履、所踐履之界。齊桓又因以自言其盛。○棣、大計反。
【読み】
我が先君に履むことを賜いて、東は海に至り、西は河に至り、南は穆陵に至り、北は無棣[むたい]に至るまでをせり。穆陵・無棣は、皆齊の竟なり。履は、踐履する所の界なり。齊桓又因りて以て自ら其の盛んなるを言う。○棣は、大計反。

爾貢包茅不入、王祭不共、無以縮酒。寡人是徵。包、裹束也。茅、菁茅也。束茅而灌之以酒爲縮酒。尙書、包軌菁茅。茅之爲異、未審。○共、音恭。
【読み】
爾の貢する包茅入れざれば、王の祭共[そな]わらずして、以て酒を縮[したた]らすこと無し。寡人是れ徵す。包は、裹束なり。茅は、菁茅なり。茅を束ねて之に灌ぐに酒を以てするを縮酒と爲す。尙書に、包軌菁茅、と。茅の異爲る、未だ審らかならず。○共は、音恭。

昭王南征而不復。寡人是問。昭王、成王之孫。南巡守涉漢、船壞而溺。周人諱而不赴。諸侯不知其故。故問之。
【読み】
昭王南征して復らず。寡人是れ問う、と。昭王は、成王の孫。南に巡守して漢を涉り、船壞れて溺る。周人諱みて赴げず。諸侯其の故を知らず。故に之を問う。

對曰、貢之不入、寡君之罪也。敢不共給。昭王之不復、君其問諸水濱。昭王時、漢非楚竟。故不受罪。
【読み】
對えて曰く、貢の入れざるは、寡君の罪なり。敢えて共給せざらんや。昭王の復らざるは、君其れ諸を水濱に問え、と。昭王の時、漢は楚の竟に非ず。故に罪を受けず。

師進、次于陘。楚不服罪。故復進師。
【読み】
師進み、陘に次る。楚罪に服せず。故に復師を進む。

夏、楚子使屈完如師。如陘之師、觀强弱。
【読み】
夏、楚子屈完をして師に如かしむ。陘の師に如きて、强弱を觀る。

師退、次于召陵。完請盟故。
【読み】
師退き、召陵に次る。完盟を請う故なり。

齊侯陳諸侯之師、與屈完乘而觀之。乘、共載。○乘、繩證反。
【読み】
齊侯諸侯の師を陳ねて、屈完と乘して之を觀る。乘は、共に載るなり。○乘は、繩證反。

齊侯曰、豈不穀是爲。先君之好是繼。與不穀同好如何。言諸侯之附從、非爲己。乃尋先君之好。謙而自廣、因求與楚同好。孤・寡・不穀、諸侯謙稱。○爲、于僞反。稱、尺證反。
【読み】
齊侯曰く、豈不穀が是れ爲ならんや。先君の好を是れ繼がん。不穀と好を同じくせば如何、と。言うこころは、諸侯の附從するは、己の爲には非ず。乃ち先君の好を尋[かさ]ねんとなり。謙りて自ら廣め、因りて楚と好を同じくせんことを求む。孤・寡・不穀は、諸侯の謙稱。○爲は、于僞反。稱は、尺證反。

對曰、君惠徼福於敝邑之社稷、辱收寡君、寡君之願也。齊侯曰、以此衆戰、誰能禦之。以此攻城、何城不克。對曰、君若以德綏諸侯、誰敢不服。君若以力、楚國、方城以爲城、漢水以爲池、方城山、在南陽葉縣南。以言竟土之遠。漢水、出武都至江夏、南入江。言其險固以當城池。○徼、古堯反。要也。葉、始涉反。當、丁浪反。
【読み】
對えて曰く、君惠みて福を敝邑の社稷に徼[もと]めんとして、辱く寡君を收めば、寡君の願いなり、と。齊侯曰く、此の衆を以て戰わば、誰か能く之を禦がん。此を以て城を攻めば、何れの城か克たざらん、と。對えて曰く、君若し德を以て諸侯を綏んぜば、誰か敢えて服せざらん。君若し力を以てせば、楚國、方城以て城と爲し、漢水以て池と爲せば、方城山は、南陽葉縣の南に在り。以て竟土の遠きを言う。漢水は、武都に出でて江夏に至り、南して江に入る。其の險固以て城池に當たるを言う。○徼は、古堯反。要むるなり。葉は、始涉反。當は、丁浪反。

雖衆、無所用之。
【読み】
衆[おお]しと雖も、之を用ゆる所無からん、と。

屈完及諸侯盟。
【読み】
屈完諸侯と盟う。

陳轅濤塗謂鄭申侯曰、師出於陳・鄭之閒、國必甚病。申侯、鄭大夫。當有共給之費故。
【読み】
陳の轅濤塗鄭の申侯に謂いて曰く、師陳・鄭の閒より出でば、國必ず甚だ病まん。申侯は、鄭の大夫。當に共給の費え有るべき故なり。

若出於東方、觀兵於東夷、循海而歸、其可也。東夷、郯・莒・徐夷也。觀兵、示威。
【読み】
若し東方より出でて、兵を東夷に觀[しめ]し、海に循いて歸らば、其れ可ならん、と。東夷は、郯[たん]・莒・徐夷なり。兵を觀すは、威を示すなり。

申侯曰、善。濤塗以告。齊侯許之。許出東方。
【読み】
申侯曰く、善し、と。濤塗以て告ぐ。齊侯之を許す。東方より出づることを許す。

申侯見曰、師老矣。若出於東方而遇敵、懼不可用也。若出於陳・鄭之閒、共其資糧屝屨、其可也。屝、草屨。○見、賢遍反。屝、符費反。
【読み】
申侯見えて曰く、師老[つか]れたり。若し東方より出でて敵に遇わば、懼れらくは用ゆ可からざらん。若し陳・鄭の閒より出でて、其の資糧屝屨[ひく]を共せば、其れ可ならん、と。屝は、草屨。○見は、賢遍反。屝は、符費反。

齊侯說、與之虎牢、還以鄭邑賜之。
【読み】
齊侯說び、之に虎牢を與え、還りて鄭の邑を以て之を賜う。

執轅濤塗。
【読み】
轅濤塗を執[とら]う。

秋、伐陳、討不忠也。以濤塗爲誤軍道。
【読み】
秋、陳を伐つは、不忠を討ずるなり。濤塗を以て軍道を誤らすとす。

許穆公卒于師。葬之以侯。禮也。男而以侯禮、加一等。
【読み】
許の穆公師に卒す。之を葬るに侯を以てす。禮なり。男にして侯の禮を以てするは、一等を加うるなり。

凡諸侯薨于朝會、加一等、諸侯命有三等。公爲上等、侯伯中等、子男爲下等。
【読み】
凡そ諸侯朝會に薨ずれば、一等を加え、諸侯の命に三等有り。公を上等とし、侯伯は中等、子男を下等とす。

死王事、加二等。謂以死勤事。
【読み】
王事に死すれば、二等を加う。死を以て事を勤むるを謂う。

於是有以袞斂。袞衣、公服也。謂加二等。○斂、力驗反。
【読み】
是に於て袞を以て斂すること有り。袞衣は、公服なり。二等を加うるを謂う。○斂は、力驗反。

冬、叔孫戴伯帥師、會諸侯之師侵陳。陳成。歸轅濤塗。陳服罪。故歸其大夫。戴、謚也。
【読み】
冬、叔孫戴伯師を帥いて、諸侯の師に會して陳を侵す。陳成[たい]らぐ。轅濤塗を歸す。陳罪に服す。故に其の大夫を歸す。戴は、謚なり。

初、晉獻公欲以驪姬爲夫人。卜之。不吉。筮之。吉。公曰、從筮。卜人曰、筮短龜長。不如從長。物生而後有象。象而後有滋。滋而後有數。龜象、筮數。故象長數短。
【読み】
初め、晉の獻公驪姬を以て夫人と爲さんと欲す。之を卜す。不吉なり。之を筮す。吉なり。公曰く、筮に從わん、と。卜人曰く、筮は短く龜は長し。長きに從うに如かず。物生じて而して後に象有り。象ありて而して後に滋ること有り。滋りて而して後に數有り。龜は象、筮は數。故に象は長く數は短し。

且其繇曰、專之渝、攘公之羭。繇、卜兆辭。渝、變也。攘、除也。羭、美也。言變乃除公之美。○繇、直救反。渝、羊朱反。下渝同音。
【読み】
且つ其の繇[ちゅう]に曰く、之を專らにせば渝[か]わり、公の羭[よき]を攘[はら]わん。繇は、卜兆の辭。渝は、變わるなり。攘は、除うなり。羭は、美なり。言うこころは、變ぜば乃ち公の美を除わん。○繇は、直救反。渝は、羊朱反。下の渝も同じ音。

一薰一蕕、十年尙猶有臭。薰、香草。蕕、臭草。十年有臭、言善易消、惡難除。
【読み】
一薰一蕕[ゆう]、十年なれども尙猶臭有り、と。薰は、香草。蕕は、臭草。十年にして臭有りとは、善消え易く、惡除き難きを言う。

必不可。弗聽。立之。生奚齊。其娣生卓子。
【読み】
必ず不可なり、と。聽かず。之を立つ。奚齊を生む。其の娣卓子を生む。

及將立奚齊、旣與中大夫成謀。姬謂大子曰、君夢齊姜。必速祭之。齊姜、大子母。言求食。○卓、吐濁反。
【読み】
將に奚齊を立てんとするに及びて、旣に中大夫と謀を成す。姬大子に謂いて曰く、君齊姜を夢みたり。必ず速やかに之を祭れ、と。齊姜は、大子の母。食を求むるを言う。○卓は、吐濁反。

大子祭于曲沃、歸胙于公。胙、祭之酒肉。
【読み】
大子曲沃に祭り、胙を公に歸[おく]る。胙は、祭の酒肉。

公田。姬寘諸宮。六日、公至。毒而獻之。毒酒經宿輒敗。而經六日、明公之惑。
【読み】
公田[かり]す。姬諸を宮に寘[お]く。六日にして、公至る。毒して之を獻ず。毒酒宿を經れば輒ち敗る。而るに六日を經るは、公の惑えるを明かすなり。

公祭之地。地墳。與犬。犬斃。與小臣。小臣亦斃。姬泣曰、賊由大子。大子奔新城。新城、曲沃。○墳、扶粉反。
【読み】
公之を地に祭る。地墳[うごも]つ。犬に與う。犬斃る。小臣に與う。小臣も亦斃る。姬泣きて曰く、賊大子に由れり、と。大子新城に奔る。新城は、曲沃。○墳は、扶粉反。

公殺其傅杜原款。
【読み】
公其の傅杜原款を殺す。

或謂大子、子辭。君必辯焉。以六日之狀自理。○款、苦管反。辯、兵免反。
【読み】
或ひと大子に謂う、子辭せよ。君必ず辯ぜん、と。六日の狀を以て自ら理す。○款は、苦管反。辯は、兵免反。

大子曰、君非姬氏、居不安、食不飽。我辭、姬必有罪。君老矣。吾又不樂。吾自理則姬死。姬死則君必不樂。不樂爲由吾也。○樂、音洛。
【読み】
大子曰く、君姬氏に非ざれば、居安んぜず、食飽かず。我れ辭せば、姬必ず罪有らん。君老いたり。吾れ又樂しめざるなり、と。吾れ自ら理せば則ち姬死せん。姬死せば則ち君必ず樂まざらん。樂まざるは吾に由るとす。○樂は、音洛。

曰、子其行乎。大子曰、君實不察其罪。被此名也以出、人誰納我。十二月、戊申、縊于新城。姬遂譖二公子曰、皆知之。重耳奔蒲、夷吾奔屈。二子時在朝。爲明年晉殺申生傳。○被、皮寄反。又皮綺反。縊、一賜反。譖、側鴆反。
【読み】
曰く、子其れ行[さ]らんか、と。大子曰く、君實に其の罪を察せず。此の名を被りて以て出でては、人誰か我を納れん、と。十二月、戊申[つちのえ・さる]、新城に縊る。姬遂に二公子を譖して曰く、皆之を知れり、と。重耳蒲に奔り、夷吾屈に奔る。二子時に朝に在り。明年晉申生を殺す爲の傳なり。○被は、皮寄反。又皮綺反。縊は、一賜反。譖は、側鴆反。


〔經〕五年、春、晉侯殺其世子申生。稱晉侯、惡用讒。書春、從告。
【読み】
〔經〕五年、春、晉侯其の世子申生を殺す。晉侯と稱するは、讒を用ゆるを惡んでなり。春を書すは、告ぐるに從うなり。

杞伯姬來。朝其子。無傳。伯姬來寧、寧成風也。朝其子者、時子年在十歲左右、因有諸侯子得行朝義、而卒不成朝禮、故繫於母、而曰朝其子。○杞伯姬來、絕句。來、歸寧。朝其子、猶言其子朝。
【読み】
杞の伯姬來る。其の子を朝せしむ。傳無し。伯姬來寧するは、成風を寧するなり。其の子を朝せしむるとは、時に子の年十歲の左右に在り、諸侯の子朝義を行うことを得ること有るに、而れども卒に朝禮を成さざるに因りて、故に母に繫けて、其の子を朝せしむと曰う。○杞伯姬來は、絕句。來は、歸寧。其の子を朝せしむるとは、猶其の子朝すと言うがごとし。

夏、公孫茲如牟。叔孫戴伯娶於牟。卿非君命不越竟。故奉公命聘於牟、因自爲逆。
【読み】
夏、公孫茲[こうそんじ]牟[ぼう]に如く。叔孫戴伯牟に娶る。卿君命に非ざれば竟を越えず。故に公命を奉じて牟に聘し、因りて自ら爲に逆[むか]うるなり。

公及齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯會王世子于首止。惠王大子鄭也。不名而殊會、尊之也。首止、衛地。陳留襄邑縣東南有首郷。
【読み】
公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯と王の世子に首止に會す。惠王の大子鄭なり。名いわずして殊に會するは、之を尊んでなり。首止は、衛の地。陳留襄邑縣の東南に首郷有り。

秋、八月、諸侯盟于首止。閒無異事、復稱諸侯者、王世子不盟故也。王之世子、尊與王同。齊桓行霸、翼戴天子、尊崇王室。故殊貴世子。
【読み】
秋、八月、諸侯首止に盟う。閒異事無きに、復諸侯と稱するは、王の世子盟わざる故なり。王の世子、尊きこと王と同じ。齊桓霸を行いて、天子を翼戴し、王室を尊崇す。故に殊に世子を貴ぶ。

鄭伯逃歸不盟。逃其師而歸也。逃例、在文三年。
【読み】
鄭伯逃げ歸りて盟わず。其の師を逃げて歸るなり。逃の例は、文三年に在り。

楚人滅弦。弦子奔黃。弦國、在弋陽軑縣東南。
【読み】
楚人弦を滅ぼす。弦子黃に奔る。弦國は、弋陽軑[たい]縣の東南に在り。

九月、戊申、朔、日有食之。無傳。
【読み】
九月、戊申[つちのえ・さる]、朔、日之を食する有り。傳無し。

冬、晉人執虞公。虞公貪璧馬之寶、距絕忠諫。稱人以執、同於無道於其民之例。例在成十五年。所以罪虞、且言易也。晉侯脩虞之祀、而歸其職貢於王。故不以滅同姓爲譏。
【読み】
冬、晉人虞公を執[とら]う。虞公璧馬の寶を貪りて、忠諫を距絕す。人と稱して以て執わるるは、其の民に無道なるの例に同じくするなり。例は成十五年に在り。虞を罪する所以、且易きを言うなり。晉侯虞の祀を脩めて、其の職貢を王に歸す。故に同姓を滅ぼすを以て譏りを爲さず。

〔傳〕五年、春、王正月、辛亥、朔、日南至。周正月、今十一月。冬至之日、日南極。
【読み】
〔傳〕五年、春、王の正月、辛亥[かのと・い]、朔、日南至す。周の正月は、今の十一月なり。冬至の日に、日南極す。

公旣視朔、遂登觀臺、以望而書。禮也。視朔、親告朔也。觀臺、臺上構屋、可以遠觀者也。朔旦冬至、歷數之所始。治歷者因此、則可以明其術數、審別陰陽、敍事訓民。魯君不能常脩此禮。故善公之得禮。○觀、古亂反。
【読み】
公旣に朔を視、遂に觀臺に登りて、以て望みて書す。禮なり。朔を視るは、親ら告朔するなり。觀臺は、臺上に屋を構え、以て遠觀す可き者なり。朔旦冬至は、歷數の始まる所。歷を治むる者此に因るときは、則ち以て其の術數を明らかにし、陰陽を審別し、事を敍で民を訓う可し。魯君常に此の禮を脩むること能わず。故に公の禮を得るを善す。○觀は、古亂反。

凡分・至・啓・閉、必書雲物。分、春秋分也。至、冬夏至也。啓、立春・立夏。閉、立秋・立冬。雲物、氣色災變也。傳重申周典。不言公者、日官掌其職。○重、直用反。
【読み】
凡そ分・至・啓・閉には、必ず雲物を書す。分は、春秋分なり。至は、冬夏至なり。啓は、立春・立夏。閉は、立秋・立冬。雲物は、氣色災變なり。傳周典を重ねて申ぶ。公と言わざるは、日官其の職を掌ればなり。○重は、直用反。

爲備故也。素察妖祥、逆爲之備。
【読み】
備えの爲の故なり。素妖祥を察して、逆[あらかじ]め之が備えを爲す。

晉侯使以殺大子申生之故來告。釋經必須告乃書。
【読み】
晉侯大子申生を殺すの故を以て來りて告げしむ。經は必ず告ぐるを須ちて乃ち書すを釋く。

初、晉侯使士蔿爲二公子築蒲與屈。不愼。寘薪焉。不謹愼。○爲、于僞反。
【読み】
初め、晉侯士蔿[しい]をして二公子の爲に蒲と屈とに築かしむ。愼まず。薪を寘[お]けり。謹愼せず。○爲は、于僞反。

夷吾訴之。公使讓之。譴讓之。
【読み】
夷吾之を訴う。公之を讓[せ]めしむ。之を譴讓す。

士蔿稽首而對曰、臣聞之、無喪而慼、憂必讎焉、讎、猶對也。
【読み】
士蔿稽首して對えて曰く、臣之を聞く、喪無くして慼[いた]めば、憂え必ず讎[むか]い、讎は、猶對うのごとし。

無戎而城、讎必保焉。保而守之。
【読み】
戎無くして城けば、讎必ず保つ、と。保ちて之を守る。

寇讎之保、又何愼焉。守官廢命、不敬。固讎之保、不忠。失忠與敬、何以事君。詩云、懷德惟寧、宗子惟城。詩、大雅。懷德以安、則宗子之固若城。
【読み】
寇讎に之れ保たる、又何ぞ愼まん。官を守りて命を廢するは、不敬なり。讎の保を固むるは、不忠なり。忠と敬とを失わば、何を以てか君に事えん。詩に云う、德を懷[やわ]らげて惟れ寧んずれば、宗子惟れ城なり、と。詩は、大雅。德を懷らげて以て安んずれば、則ち宗子の固きこと城の若し。

君其脩德而固宗子、何城如之。言城不如固宗子。
【読み】
君其れ德を脩めて宗子を固くせば、何の城か之に如かん。城は宗子を固くするに如かざるを言う。

三年將尋師焉。焉用愼。尋、用也。
【読み】
三年ありて將に師を尋[もち]いんとす。焉ぞ愼むことを用いん、と。尋は、用ゆるなり。

退而賦曰、狐裘尨茸。一國三公。吾誰適從。士蔿自作詩也。尨茸、亂貌。公與二公子爲三。言城不堅、則爲公子所訴、爲公所讓。堅之、則爲固讎不忠。無以事君。故不知所從。○尨、莫江反。又音蒙。適、丁歷反。
【読み】
退きて賦して曰く、狐裘尨茸[ぼうじょう]たり。一國に三公あり。吾れ誰にか適從せん、と。士蔿自ら詩を作るなり。尨茸は、亂るる貌。公と二公子と三と爲す。言うこころは、城堅からずんば、則ち公子の爲に訴えられ、公の爲に讓めらる。之を堅くすれば、則ち讎を固くして不忠と爲す。以て君に事うること無し。故に從う所を知らず。○尨は、莫江反。又音蒙。適は、丁歷反。

及難、公使寺人披伐蒲。重耳曰、君父之命不校。乃徇曰、校者吾讎也。踰垣而走。披斬其袪。遂出奔翟。袪、袂也。○難、乃旦反。袪、起魚反。翟、音狄。
【読み】
難に及びて、公寺人披をして蒲を伐たしむ。重耳曰く、君父の命は校[むく]いず、と。乃ち徇[とな]えて曰く、校いん者は吾が讎なり、と。垣を踰えて走る。披其の袪[きょ]を斬る。遂に出でて翟に奔る。袪は、袂なり。○難は、乃旦反。袪は、起魚反。翟は、音狄。

夏、公孫茲如牟。娶焉。因聘而娶。故傳實其事。
【読み】
夏、公孫茲牟に如く。娶れり。聘に因りて娶る。故に傳其の事を實にす。

會于首止、會王大子鄭、謀寧周也。惠王以惠后故、將廢大子鄭、而立王子帶。故齊桓帥諸侯、會王大子、以定其位。
【読み】
首止に會するは、王の大子鄭に會して、周を寧んぜんことを謀るなり。惠王惠后の故を以て、將に大子鄭を廢して、王子帶を立てんとす。故に齊桓諸侯を帥いて、王の大子に會して、以て其の位を定む。

陳轅宣仲怨鄭申侯之反己於召陵。宣仲、轅濤塗。
【読み】
陳の轅宣仲鄭の申侯の己に召陵に反きしを怨む。宣仲は、轅濤塗。

故勸之城其賜邑。齊桓所賜虎牢。
【読み】
故に之に勸めて其の賜邑に城かしむ。齊桓賜う所の虎牢。

曰、美城之。大名也。子孫不忘。吾助子請。
【読み】
曰く、美[うるわ]しく之を城け。大名なり。子孫忘れざらん。吾れ子を助けて請わん、と。

乃爲之請於諸侯而城之。美。樓櫓之備美設。
【読み】
乃ち之が爲に諸侯に請いて之を城く。美し。樓櫓の備え美設す。

遂譖諸鄭伯、曰、美城其賜邑、將以叛也。
【読み】
遂に諸を鄭伯に譖して、曰く、美しく其の賜邑に城くは、將に以て叛かんとするなり、と。

申侯由是得罪。爲七年、鄭殺申侯傳。
【読み】
申侯是に由りて罪を得たり。七年、鄭申侯を殺す爲の傳なり。

秋、諸侯盟。王使周公召鄭伯曰、吾撫女以從楚、輔之以晉。可以少安。周公、宰孔也。王恨齊桓定大子之位。故召鄭伯、使叛齊也。晉・楚不服於齊。故以鎭安鄭。
【読み】
秋、諸侯盟う。王周公をして鄭伯を召さしめて曰く、吾れ女を撫して以て楚に從わしめ、之を輔くるに晉を以てせん。以て少しく安かる可し、と。周公は、宰孔なり。王齊桓が大子の位を定むるを恨む。故に鄭伯を召して、齊に叛かしむるなり。晉・楚齊に服せず。故に以て鄭を鎭安す。

鄭伯喜於王命、而懼其不朝於齊也。故逃歸不盟。
【読み】
鄭伯王命を喜びて、其の齊に朝せざるを懼る。故に逃げ歸りて盟わざらんとす。

孔叔止之曰、國君不可以輕。輕則失親。孔叔、鄭大夫。親、黨援也。○輕、遣政反。
【読み】
孔叔之を止めて曰く、國君は以て輕々しくす可からず。輕々しくれば則ち親を失う。孔叔は、鄭の大夫。親は、黨援なり。○輕は、遣政反。

失親、患必至。病而乞盟、所喪多矣。君必悔之。弗聽。逃其師而歸。○喪、息浪反。
【読み】
親を失えば、患え必ず至る。病みて盟を乞えば、喪う所多し。君必ず之を悔いん、と。聽かず。其の師を逃げて歸る。○喪は、息浪反。

楚鬭穀於菟滅弦。弦子奔黃。
【読み】
楚の鬭穀於菟[とうどうおと]弦を滅ぼす。弦子黃に奔る。

於是江・黃・道・柏方睦於齊。皆弦姻也。姻、外親也。道國、在汝南安陽縣南。柏、國名。汝南西平縣有柏亭。
【読み】
是に於て江・黃・道・柏方に齊に睦まし。皆弦の姻なり。姻は、外親なり。道國は、汝南安陽縣の南に在り。柏は、國の名。汝南西平縣に柏亭有り。

弦子恃之而不事楚。又不設備。故亡。
【読み】
弦子之を恃みて楚に事えず。又備えを設けず。故に亡びたり。

晉侯復假道於虞以伐虢。宮之奇諫曰、虢、虞之表也。虢亡、虞必從之。晉不可啓。寇不可翫。翫、習也。
【読み】
晉侯復道を虞に假りて以て虢を伐つ。宮之奇諫めて曰く、虢は、虞の表なり。虢亡びば、虞必ず之に從わん。晉は啓く可からず。寇は翫[なら]わす可からず。翫[がん]は、習うなり。

一之謂甚。其可再乎。爲二年、假晉道滅下陽。
【読み】
一たびも之れ甚だしと謂う。其れ再びす可けんや。二年、晉に道を假して下陽を滅ぼす爲なり。

諺所謂、輔車相依、脣亡齒寒者、其虞・虢之謂也。輔、頰輔。車、牙車。○車、尺奢反。
【読み】
諺に所謂、輔車相依り、脣亡ぶれば齒寒しとは、其れ虞・虢を之れ謂うなり、と。輔は、頰輔。車は、牙車。○車は、尺奢反。

公曰、晉、吾宗也。豈害我哉。對曰、大伯・虞仲、大王之昭也。大伯不從。是以不嗣。大伯・虞仲、皆大王之子。不從父命、倶讓適吳。仲雍支子、別封西吳。虞公其後也。穆生昭、昭生穆。以世次計。故大伯・虞仲、於周爲昭。○昭、上饒反。後昭・穆放此。
【読み】
公曰く、晉は、吾が宗なり。豈我を害せんや、と。對えて曰く、大伯・虞仲は、大王の昭なり。大伯從わず。是を以て嗣がず。大伯・虞仲は、皆大王の子。父の命に從わず、倶に讓りて吳に適く。仲雍の支子、別に西吳に封ぜらる。虞公は其の後なり。穆昭を生み、昭穆を生む。世次を以て計る。故に大伯・虞仲は、周に於て昭爲り。○昭は、上饒反。後の昭・穆は此に放え。

虢仲・虢叔、王季之穆也。王季者、大伯・虞仲之母弟也。虢仲・虢叔、王季之子、文王之母弟也。仲・叔、皆虢君字。
【読み】
虢仲・虢叔は、王季の穆なり。王季は、大伯・虞仲の母弟なり。虢仲・虢叔は、王季の子、文王の母弟なり。仲・叔は、皆虢君の字。

爲文王卿士。勳在王室、藏於盟府。盟府、司盟之官。
【読み】
文王の卿士爲り。勳王室に在りて、盟府に藏めり。盟府は、司盟の官。

將虢是滅。何愛於虞。且虞能親於桓・莊乎。其愛之也。桓・莊之族何罪、而以爲戮。不唯偪乎。桓叔・莊伯之族、晉獻公之從祖昆弟。獻公患其偪、盡殺之。事在莊二十五年。○偪、彼力反。
【読み】
將に虢をも是れ滅ぼさんとす。何ぞ虞を愛せん。且つ虞能く桓・莊より親しからんや。其れ之を愛せんや。桓・莊の族何の罪ありて、以て戮することをせしや。唯偪るにあらずや。桓叔・莊伯の族は、晉の獻公の從祖昆弟なり。獻公其の偪るを患え、盡く之を殺す。事は莊二十五年に在り。○偪は、彼力反。

親以寵偪、猶尙害之。況以國乎。
【読み】
親しきも寵を以て偪れば、猶尙之を害せり。況んや國を以てするをや、と。

公曰、吾享祀豐絜。神必據我。據、猶安也。
【読み】
公曰く、吾が享祀豐絜なり。神必ず我に據らん、と。據は、猶安んずるがごとし。

對曰、臣聞之、鬼神非人實親。惟德是依。故周書曰、皇天無親。惟德是輔。周書、逸書。
【読み】
對えて曰く、臣之を聞く、鬼神は人を實に親しむに非ず。惟德に是れ依る、と。故に周書に曰く、皇天親無し。惟德を是れ輔く、と。周書は、逸書。

又曰、黍稷非馨。明德惟馨。馨、香之遠聞。○聞、音問。又如字。
【読み】
又曰く、黍稷馨[こう]ばしきに非ず。明德惟れ馨ばし。馨は、香の遠聞なり。○聞は、音問。又字の如し。

又曰、民不易物。惟德繄物。黍稷牲玉、無德則不見饗。有德則見饗。言物一而異用。○繄、烏兮反。
【読み】
又曰く、民物を易えず。惟れ德繄[こ]れ物なり、と。黍稷牲玉、德無ければ則ち饗[う]けられず。德有れば則ち饗けらる。物一にして用を異にするを言う。○繄[えい]は、烏兮反。

如是、則非德民不和、神不享矣。神所馮依、將在德矣。若晉取虞、而明德以薦馨香、神其吐之乎。
【読み】
是の如くならば、則ち德に非ざれば民和せず、神享けず。神の馮依する所は、將に德に在らんとす。若し晉虞を取りて、明德以て馨香を薦めば、神其れ之を吐かんや、と。

弗聽。許晉使。宮之奇以其族行。行、去也。○馮、皮沐反。
【読み】
聽かず。晉の使に許す。宮之奇其の族を以[い]て行[さ]る。行は、去るなり。○馮は、皮沐反。

曰、虞不臘矣。臘、歲終祭衆神之名。
【読み】
曰く、虞は臘せざらん。臘は、歲終に衆神を祭るの名。

在此行也、晉不更舉矣。不更舉兵。
【読み】
此の行に在りてや、晉更に舉げじ、と。更に兵を舉げず。

八月、甲午、晉侯圍上陽。上陽、虢國都。在弘農陝縣東南。
【読み】
八月、甲午[きのえ・うま]、晉侯上陽を圍む。上陽は、虢の國都。弘農陝縣の東南に在り。

問於卜偃曰、吾其濟乎。對曰、克之。公曰、何時。對曰、童謠云、丙之晨、龍尾伏辰。龍尾、尾星也。日月之會曰辰。日在尾。故尾星伏不見。
【読み】
卜偃に問いて曰く、吾れ其れ濟[な]らんか、と。對えて曰く、之に克たん、と。公曰く、何れの時ぞ、と。對えて曰く、童謠に云う、丙[ひのえ]の晨に、龍尾辰に伏す。龍尾は、尾星なり。日月の會を辰と曰う。日尾に在り。故に尾星伏して見えず。

均服振振、取虢之旂。戎事、上下同服。振振、盛貌。旂、軍之旌旗。
【読み】
均服振振として、虢を取るの旂[はた]たつ。戎事は、上下服を同じくす。振振は、盛んなる貌。旂は、軍の旌旗。

鶉之賁賁、天策焞焞、火中成軍。虢公其奔。鶉、鶉火星也。賁賁、鳥星之體也。天策、傅說星。時近日、星微。焞焞、無光輝也。言丙子平旦、鶉火中、軍事有成功也。此已上皆童謠言也。童齔之子、未有念慮之感、而會成嬉戲之言。似若有馮者。其言或中或否。博覽之士、能懼思之人、兼而志之、以爲鑒戒、以爲將來之驗、有益於世敎。○賁、音奔。焞、他門反。齔、初問反。
【読み】
鶉[じゅん]の賁賁[ほんほん]たる、天策の焞焞[とんとん]たる、火の中するとき軍を成さん。虢公其れ奔らん、と。鶉は、鶉火星なり。賁賁は、鳥星の體なり。天策は、傅說星。時に日に近くして、星微なり。焞焞は、光輝無きなり。言うこころは、丙子の平旦、鶉火中するとき、軍事成功有りとなり。此れ已上は皆童謠の言なり。童齔[どうしん]の子、未だ念慮の感有らずして、會[たま]々嬉戲の言を成す。馮ること有る者の若きに似たり。其の言或は中り或は否[しか]らず。博覽の士、能く懼思する人、兼ねて之を志[しる]し、以て鑒戒と爲して、以て將來の驗と爲せば、世敎に益有らん。○賁は、音奔。焞は、他門反。齔は、初問反。

其九月十月之交乎。以星驗推之、知九月十月之交。謂夏之九月十月也。交、晦朔交會。
【読み】
其れ九月十月の交か。星驗を以て之を推し、九月十月の交なるを知る。夏の九月十月を謂うなり。交は、晦朔の交會なり。

丙子旦、日在尾、月在策、是夜日月合朔於尾。月行疾。故至旦而過在策。
【読み】
丙子[ひのえ・ね]の旦に、日尾に在り、月策に在りて、是の夜日月尾に合朔す。月行は疾[はや]し。故に旦に至りて過ぎて策に在り。

鶉火中。必是時也。
【読み】
鶉火中す。必ず是の時ならん、と。

冬、十二月、丙子、朔、晉滅虢。虢公醜奔京師。不書、不告也。周十二月、夏之十月。
【読み】
冬、十二月、丙子、朔、晉虢を滅ぼす。虢公醜京師に奔る。書さざるは、告げざればなり。周の十二月は、夏の十月なり。

師還、館于虞、遂襲虞滅之、執虞公及其大夫井伯、以媵秦穆姬。秦穆姬、晉獻公女。送女曰媵。以屈辱之。
【読み】
師還るとき、虞に館り、遂に虞を襲いて之を滅ぼし、虞公と其の大夫井伯とを執えて、以て秦の穆姬に媵す。秦の穆姬は、晉の獻公の女。女を送るを媵と曰う。以て之を屈辱す。

而脩虞祀、且歸其職貢於王。虞所命祀。
【読み】
而して虞の祀を脩め、且其の職貢を王に歸す。虞の命ぜられたる所の祀なり。

故書曰晉人執虞公、罪虞、且言易也。○易、以豉反。
【読み】
故に書して晉人虞公を執うと曰うは、虞を罪し、且易きを言うなり。○易は、以豉反。


〔經〕六年、春、王正月。夏、公會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・曹伯伐鄭、圍新城。新城、鄭新密。今滎陽密縣。
【読み】
〔經〕六年、春、王の正月。夏、公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・曹伯に會して鄭を伐ち、新城を圍む。新城は、鄭の新密。今の滎陽の密縣。

秋、楚人圍許。楚子不親圍、以圍者告。
【読み】
秋、楚人許を圍む。楚子親ら圍まずして、圍む者を以て告ぐ。

諸侯遂救許。皆伐鄭之諸侯。故不復更敍。
【読み】
諸侯遂に許を救う。皆鄭を伐つの諸侯。故に復更に敍せず。

冬、公至自伐鄭。無傳。
【読み】
冬、公鄭を伐ちてより至る。傳無し。

〔傳〕六年、春、晉侯使賈華伐屈。夷吾不能守、盟而行。賈華、晉大夫。非不欲校、力不能守。言不如重耳之賢。
【読み】
〔傳〕六年、春、晉侯賈華をして屈を伐たしむ。夷吾守ること能わず、盟いて行[さ]る。賈華は、晉の大夫。校[むく]ゆることを欲せざるに非ず、力守ること能わざるなり。重耳の賢に如かざるを言うなり。

將奔狄。郤芮曰、後出同走、罪也。嫌與重耳同謀而相隨。○郤、去逆反。芮、如銳反。
【読み】
將に狄に奔らんとす。郤芮[げきぜい]曰く、後に出でて同じく走るは、罪なり。重耳と同じく謀りて相隨うに嫌あり。○郤は、去逆反。芮は、如銳反。

不如之梁。梁近秦而幸焉。乃之梁。以梁爲秦所親幸、秦旣大國、且穆姬在焉、故欲因以求入。
【読み】
梁に之くに如かず。梁は秦に近くして幸ぜらる、と。乃ち梁に之く。梁、秦の爲に親幸せられ、秦旣に大國にして、且穆姬焉に在るを以て、故に因りて以て入ることを求めんと欲す。

夏、諸侯伐鄭、以其逃首止之盟故也。首止盟、在五年。
【読み】
夏、諸侯鄭を伐つは、其の首止の盟を逃るるを以ての故なり。首止の盟は、五年に在り。

圍新密、鄭所以不時城也。實新密、而經言新城者、鄭以非時興土功、齊桓聲其罪、以告諸侯。
【読み】
新密を圍むは、鄭の時ならずして城く所以なり。實は新密にして、經に新城と言うは、鄭時に非ずして土功を興すを以て、齊桓其の罪を聲[な]らして、以て諸侯に告ぐるなり。

秋、楚子圍許以救鄭。諸侯救許。乃還。
【読み】
秋、楚子許を圍みて以て鄭を救う。諸侯許を救う。乃ち還る。

冬、蔡穆侯將許僖公、以見楚子於武城。楚子退舍武城、猶有忿志。而諸侯各罷兵。故蔡將許君歸楚。武城、楚地。在南陽宛縣北。○宛、於元反。
【読み】
冬、蔡の穆侯許の僖公を將[ひき]いて、以て楚子に武城に見えしむ。楚子退いて武城に舍り、猶忿志有り。而るに諸侯各々兵を罷む。故に蔡、許君を將いて楚に歸す。武城は、楚の地。南陽宛縣の北に在り。○宛は、於元反。

許男面縛銜璧、大夫衰絰、士輿櫬。縛手於後、唯見其面。以璧爲贄、手縛。故銜之。櫬、棺也。將受死。故衰絰。○衰、七雷反。
【読み】
許男面縛して璧を銜[ふく]み、大夫衰絰[さいてつ]し、士櫬[ひつぎ]を輿[にな]う。手を後ろに縛り、唯其の面を見る。璧を以て贄と爲すに、手縛せらる。故に之を銜むなり。櫬[しん]は、棺なり。將に死を受けんとす。故に衰絰す。○衰は、七雷反。

楚子問諸逢伯。逢伯、楚大夫。
【読み】
楚子諸を逢伯に問う。逢伯は、楚の大夫。

對曰、昔武王克殷、微子啓如是、微子啓、紂庶兄。宋之祖也。
【読み】
對えて曰く、昔武王殷に克ちしとき、微子啓是の如くせば、微子啓は、紂の庶兄。宋の祖なり。

武王親釋其縛、受其璧而祓之、祓、除凶之禮。○祓、芳弗反。
【読み】
武王親ら其の縛を釋き、其の璧を受けて之を祓[はらい]し、祓[ふつ]は、凶を除[はら]うの禮。○祓は、芳弗反。

焚其櫬、禮而命之、使復其所。楚子從之。
【読み】
其の櫬を焚き、禮して之に命じ、其の所に復らしめり、と。楚子之に從う。


〔經〕七年、春、齊人伐鄭。夏、小邾子來朝。無傳。郳犂來始得王命、而來朝也。邾之別封。故曰小邾。
【読み】
〔經〕七年、春、齊人鄭を伐つ。夏、小邾子[しょうちゅし]來朝す。傳無し。郳[げい]の犂來[れいらい]始めて王命を得て、來朝するなり。邾の別封なり。故に小邾と曰う。

鄭殺其大夫申侯。申侯、鄭卿。專利而不厭。故稱名以殺。罪之也。例在文六年。○厭、於鹽反。傳同。
【読み】
鄭其の大夫申侯を殺す。申侯は、鄭の卿。利を專らにして厭かず。故に名を稱して以て殺す。之を罪するなり。例は文六年に在り。○厭は、於鹽反。傳も同じ。

秋、七月、公會齊侯・宋公・陳世子款・鄭世子華盟于甯母。高平方與縣東有泥母亭。音如甯。○母、如字。又音無。與、音預。泥、乃麗反。
【読み】
秋、七月、公齊侯・宋公・陳の世子款・鄭の世子華に會して甯母[ねいぼ]に盟う。高平方與縣の東に泥母亭有り。音甯の如し。○母は、字の如し。又音無。與は、音預。泥は、乃麗反。

曹伯班卒。無傳。五年、同盟于首止。
【読み】
曹伯班卒す。傳無し。五年、首止に同盟す。

公子友如齊。無傳。罷盟而聘、謝不敏也。
【読み】
公子友齊に如く。傳無し。盟より罷[かえ]りて聘するは、不敏を謝するなり。

冬、葬曹昭公。無傳。
【読み】
冬、曹の昭公を葬る。傳無し。

〔傳〕七年、春、齊人伐鄭。孔叔言於鄭伯曰、諺有之、曰、心則不競、何憚於病。競、强也。憚、難也。○難、乃旦反。
【読み】
〔傳〕七年、春、齊人鄭を伐つ。孔叔鄭伯に言いて曰く、諺に之れ有り、曰く、心則ち競[こわ]からざれば、何ぞ病[くる]しきを憚らん、と。競は、强きなり。憚は、難きなり。○難は、乃旦反。

旣不能彊、又不能弱、所以斃也。國危矣。請下齊以救國。公曰、吾知其所由來矣。姑少待我。欲以申侯說。
【読み】
旣に彊きこと能わず、又弱きこと能わざるは、斃るる所以なり。國危し。請う、齊に下りて以て國を救わん、と。公曰く、吾れ其の由りて來る所を知れり。姑少[しばら]く我を待て、と。申侯を以て說かんと欲す。

對曰、朝不及夕。何以待君。
【読み】
對えて曰く、朝、夕に及ばず。何を以て君を待たれんや、と。

夏、鄭殺申侯以說于齊。且用陳轅濤塗之譖也。轅濤譖、在五年。
【読み】
夏、鄭申侯を殺して以て齊に說く。且陳の轅濤塗[えんとうと]の譖を用ゆるなり。轅濤の譖は、五年に在り。

初、申侯、申出也。姊妹之子爲出。
【読み】
初め、申侯は、申の出[おい]なり。姊妹の子を出とす。

有寵於楚文王。文王將死、與之璧、使行。曰、唯我知女。女專利而不厭。予取予求、不女疵瑕也。從我取、從我求、我不以女爲罪釁。○女、音汝。
【読み】
楚の文王に寵有り。文王將に死なんとするや、之に璧を與えて、行[さ]らしむ。曰く、唯我れ女を知る。女利を專らにして厭かず。予に取り予に求めしも、女を疵瑕とせざりき。我に從いて取り、我に從いて求めしも、我は女を以て罪釁[ざいきん]とせざりし、と。○女は、音汝。

後之人將求多於女。謂嗣君也。求多、以禮義大望責之。
【読み】
後の人將に多きを女に求めんとす。嗣君を謂うなり。多きを求むとは、禮義を以て大に之を望責するなり。

女必不免。我死、女必速行。無適小國。將不女容焉。政狹、法峻。
【読み】
女必ず免れず。我れ死なば、女必ず速やかに行れ。小國に適くこと無かれ。將に女を容れざらんとす、と。政狹く、法峻[さが]し。

旣葬。出奔鄭。又有寵於厲公。子文聞其死也、曰、古人有言曰、知臣莫若君。弗可改也已。
【読み】
旣に葬る。出でて鄭に奔る。又厲公に寵有り。子文其の死するを聞くや、曰く、古人言えること有り曰く、臣を知るは君に若くは莫し、と。改む可からざるのみ、と。

秋、盟于甯母、謀鄭故也。
【読み】
秋、甯母に盟うは、鄭の故を謀るなり。

管仲言於齊侯曰、臣聞之、招攜以禮、懷遠以德。攜、離也。
【読み】
管仲齊侯に言いて曰く、臣之を聞く、攜[はな]るるを招くには禮を以てし、遠きを懷くるには德を以てす、と。攜は、離るるなり。

德禮不易、無人不懷。
【読み】
德禮易わらざれば、人として懷かざるは無し、と。

齊侯脩禮於諸侯、諸侯官受方物。諸侯官司、各於齊受其方所當貢天子之物。
【読み】
齊侯禮を諸侯に脩め、諸侯の官方物を受く。諸侯の官司、各々齊に於て其の方の當に天子に貢すべき所の物を受く。

鄭伯使大子華聽命於會。
【読み】
鄭伯大子華をして命を會に聽かしむ。

言於齊侯曰、洩氏・孔氏・子人氏三族、實違君命。三族、鄭大夫。○洩、息列反。
【読み】
齊侯に言いて曰く、洩氏[せつし]・孔氏・子人氏の三族、實に君命に違えり。三族は、鄭の大夫。○洩は、息列反。

若君去之以爲成、我以鄭爲内臣。君亦無所不利焉。以鄭事齊、如封内臣。○去、起呂反。
【読み】
若し君之を去[す]てて以て成[たい]らぎを爲さば、我れ鄭を以て内臣と爲らん。君も亦利あらざる所無けん、と。鄭を以て齊に事うること、封内の臣の如し。○去は、起呂反。

齊侯將許之。管仲曰、君以禮與信屬諸侯。而以姦終之、無乃不可乎。子父不奸之謂禮、守命共時之謂信。守君命、共時事。○奸、音干。共、音恭。
【読み】
齊侯將に之を許さんとす。管仲曰く、君禮と信とを以て諸侯を屬けたり。而るを姦を以て之を終わらば、乃ち不可なること無からんや。子父奸さざる、之を禮と謂い、命を守り時に共する、之を信を謂う。君命を守り、時事に共す。○奸は、音干。共は、音恭。

違此二者、姦莫大焉。
【読み】
此の二つの者に違わば、姦焉より大なるは莫し、と。

公曰、諸侯有討於鄭、未捷。今苟有釁。從之、不亦可乎。子華犯父命。是其釁隙。
【読み】
公曰く、諸侯鄭を討ずること有れども、未だ捷[か]たず。今苟に釁有り。之に從わば、亦可ならずや、と。子華父の命を犯す。是れ其の釁隙なり。

對曰、君若綏之以德、加之以訓辭、而帥諸侯以討鄭、鄭將覆亡之不暇。豈敢不懼。若總其罪人以臨之、總、將領也。子華奸父之命、卽罪人。
【読み】
對えて曰く、君若之を綏んずるに德を以てし、之に加うるに訓辭を以てして、諸侯を帥いて以て鄭を討ぜば、鄭將に覆亡にも暇あらざらんとす。豈敢えて懼れざらんや。若し其の罪人を總べて以て之を臨まば、總は、將領なり。子華父の命を奸すは、卽ち罪人なり。

鄭有辭矣。何懼。以大義爲辭。
【読み】
鄭に辭有り。何ぞ懼れん。大義を以て辭を爲す。

且夫合諸侯以崇德也。會而列姦、何以示後嗣。列姦、用子華。
【読み】
且つ夫れ諸侯を合するは以て德を崇ぶなり。會して姦を列ねば、何を以てか後嗣に示さん。姦を列ぬとは、子華を用ゆるなり。

夫諸侯之會、其德刑禮義、無國不記。記姦之位、位、會位也。子華爲姦人。而列在會位、將爲諸侯所記。
【読み】
夫れ諸侯の會は、其の德刑禮義、國として記さざるは無し。姦の位を記さば、位は、會位なり。子華は姦人爲り。而るに列して會位に在らば、將に諸侯の爲に記されんとす。

君盟替矣。替、廢也。
【読み】
君の盟替[すた]れん。替は、廢るなり。

作而不記、非盛德也。君舉必書。雖復齊史隱諱、亦損盛德。
【読み】
作して記さざるは、盛德に非ざるなり。君の舉は必ず書す。復齊史は隱諱すと雖も、亦盛德を損す。

君其勿許。鄭必受盟。
【読み】
君其れ許すこと勿かれ。鄭必ず盟を受けん。

夫子華旣爲大子。而求介於大國、以弱其國。亦必不免。介、因也。
【読み】
夫れ子華旣に大子爲り。而るに大國に介[よ]りて、以て其の國を弱まさんことを求む。亦必ず免れじ。介は、因るなり。

鄭有叔詹・堵叔・師叔、三良爲政。未可閒也。
【読み】
鄭に叔詹[しゅくせん]・堵叔・師叔有り、三良政を爲す。未だ閒す可からざるなり、と。

齊侯辭焉。子華由是得罪於鄭。
【読み】
齊侯辭す。子華是に由りて罪を鄭に得たり。

冬、鄭伯使請盟于齊。以齊侯不聽子華故。
【読み】
冬、鄭伯盟を齊に請わしむ。齊侯子華に聽くにあらざるを以ての故なり。

閏月、惠王崩。襄王惡大叔帶之難、襄王、惠王大子鄭也。大叔帶、襄王弟、惠后之子也。有寵於惠后、惠后欲立之、未及而卒。
【読み】
閏月、惠王崩ず。襄王大叔帶の難を惡み、襄王は、惠王の大子鄭なり。大叔帶は、襄王の弟、惠后の子なり。惠后に寵有り、惠后之を立てんと欲し、未だ及ばずして卒す。

懼不立、不發喪、而告難于齊。爲八年、盟洮傳。○洮、他刀反。
【読み】
立たざらんことを懼れて、喪を發せずして、難を齊に告ぐ。八年、洮[とう]に盟う爲の傳なり。○洮は、他刀反。


〔經〕八年、春、王正月、公會王人・齊侯・宋公・衛侯・許男・曹伯・陳世子款盟于洮。王人與諸侯盟不譏者、王室有難故。洮、曹地。
【読み】
〔經〕八年、春、王の正月、公王人・齊侯・宋公・衛侯・許男・曹伯・陳の世子款に會して洮[とう]に盟う。王人諸侯と盟うに譏らざるは、王室難有る故なり。洮は、曹の地。

鄭伯乞盟。新服未與會。故不序列、別言乞盟。
【読み】
鄭伯盟を乞う。新たに服して未だ會に與らず。故に序列せずして、別に盟を乞うと言う。

夏、狄伐晉。秋、七月、禘于大廟、用致夫人。禘、三年大祭之名。大廟、周公廟。致者、致新死之主於廟、而列之昭穆。夫人淫而與殺、不薨於寢。於禮不應致。故僖公疑其禮、歷三禘、今果行之。嫌異常。故書之。○殺、音試。
【読み】
夏、狄晉を伐つ。秋、七月、大廟に禘し、用[もっ]て夫人を致す。禘は、三年の大祭の名。大廟は、周公の廟。致すとは、新たに死するの主を廟に致して、之を昭穆に列ぬるなり。夫人淫にして殺に與り、寢に薨ぜず。禮に於て應に致すべからず。故に僖公其の禮を疑いて、三禘を歷て、今果たして之を行う。常に異なるに嫌あり。故に之を書す。○殺は、音試。

冬、十有二月、丁未、天王崩。實以前年閏月崩、以今年十二月丁未告。
【読み】
冬、十有二月、丁未[ひのと・ひつじ]、天王崩ず。實は前年の閏月を以て崩じ、今年十二月丁未を以て告ぐ。

〔傳〕八年、春、盟于洮、謀王室也。
【読み】
〔傳〕八年、春、洮に盟うは、王室を謀るなり。

鄭伯乞盟、請服也。
【読み】
鄭伯盟を乞うは、服せんことを請うなり。

襄王定位、而後發喪。王人會洮還、而後王位定。
【読み】
襄王位を定めて、而して後に喪を發せり。王人洮に會して還りて、而して後に王位定まる。

晉里克帥師、梁由靡御、虢射爲右、以敗狄于采桑。傳言前年事也。平陽北屈縣西南有采桑津。○射、食亦反。
【読み】
晉の里克師を帥い、梁由靡御となり、虢射[かくせき]右と爲り、以て狄を采桑に敗る。傳、前年の事を言うなり。平陽北屈縣の西南に采桑津有り。○射は、食亦反。

梁由靡曰、狄無恥。從之必大克。不恥走。故可逐。
【読み】
梁由靡曰く、狄恥無し。之を從[お]わば必ず大いに克たん、と。走[に]ぐるを恥じず。故に逐う可し。

里克曰、懼之而已。無速衆狄。恐怨深而羣黨來報。
【読み】
里克曰く、之を懼さんのみ。衆狄を速[まね]くこと無かれ、と。怨深して羣黨來報せんことを恐る。

虢射曰、期年狄必至。示之弱矣。○期、音基。
【読み】
虢射曰く、期年に狄必ず至らん。之に弱きを示せり、と。○期は、音基。

夏、狄伐晉。報采桑之役也。復期月。明期年之言驗。
【読み】
夏、狄晉を伐つ。采桑の役に報ゆるなり。期月に復びせり。期年の言の驗あるを明かす。

秋、禘而致哀姜焉。非禮也。
【読み】
秋、禘して哀姜を致す。禮に非ざるなり。

凡夫人不薨于寢、不殯于廟、不赴于同、不祔于姑、則弗致也。寢、小寢。同、同盟。將葬、又不以殯過廟。據經哀姜薨葬之文、則爲殯廟赴同祔姑。今當以不薨于寢、不得致也。
【読み】
凡そ夫人寢に薨ぜず、廟に殯せず、同に赴[つ]げず、姑に祔せざれば、則ち致さざるなり。寢は、小寢。同は、同盟。將に葬らんとして、又殯を以て廟に過ぎず。經の哀姜薨葬の文に據れば、則ち廟に殯し同に赴げ姑に祔することを爲せり。今當に寢に薨ぜざるを以て、致すことを得ざるなるべし。

冬、王人來告喪。難故也。是以緩。有大叔帶之難。
【読み】
冬、王人來りて喪を告ぐ。難の故なり。是を以て緩[おく]る。大叔帶の難有り。

宋公疾。大子茲父固請曰、目夷長且仁。君其立之。茲父、襄公也。目夷、茲父庶兄、子魚也。
【読み】
宋公疾む。大子茲父固く請いて曰く、目夷長じて且仁なり。君其れ之を立てよ、と。茲父は、襄公なり。目夷は、茲父の庶兄、子魚なり。

公命子魚。子魚辭曰、能以國讓、仁孰大焉。臣不及也。且又不順。立庶、不順禮。
【読み】
公子魚に命ず。子魚辭して曰く、能く國を以て讓るは、仁孰か焉より大ならん。臣は及ばざるなり。且つ又不順なり、と。庶を立つるは、禮に順わざるなり。

遂走而退。
【読み】
遂に走りて退く。


〔經〕九年、春、王三月、丁丑、宋公御說卒。四同盟。○御、魚呂反。說、音悅。
【読み】
〔經〕九年、春、王の三月、丁丑[ひのと・うし]、宋公御說卒す。四たび同盟す。○御は、魚呂反。說は、音悅。

夏、公會宰周公・齊侯・宋子・衛侯・鄭伯・許男・曹伯于葵丘。周公、宰孔也。宰、官。周、采地。天子三公不字。宋子、襄公也。傳例曰、在喪、公侯曰子。陳留外黃縣東有葵丘。
【読み】
夏、公宰周公・齊侯・宋子・衛侯・鄭伯・許男・曹伯に葵丘[ききゅう]に會す。周公は、宰孔なり。宰は、官。周は、采地。天子の三公は字いわず。宋子は、襄公なり。傳例に曰く、喪に在れば、公侯を子と曰う、と。陳留外黃縣の東に葵丘有り。

秋、七月、乙酉、伯姬卒。無傳。公羊・穀梁曰、未適人。故不稱國。已許嫁、則以成人之禮書、不復殤也。婦人許嫁而筓、猶丈夫之冠。
【読み】
秋、七月、乙酉[きのと・とり]、伯姬卒す。傳無し。公羊・穀梁に曰く、未だ人に適かず。故に國を稱せず、と。已に許嫁すれば、則ち成人の禮を以て書して、復殤[しょう]にせざるなり。婦人許嫁して筓するは、猶丈夫の冠するがごとし。

九月、戊辰、諸侯盟于葵丘。夏會葵丘、次伯姬卒、文不相比。故重言諸侯。宰孔先歸不與盟。
【読み】
九月、戊辰[つちのえ・たつ]、諸侯葵丘に盟う。夏葵丘に會し、次に伯姬卒して、文相比[なら]わず。故に諸侯を重言す。宰孔先ず歸りて盟に與らず。

甲子、晉侯佹諸卒。未同盟、而赴以名。甲子、九月十一日。戊辰、十五日也。書在盟後、從赴。○佹、九委反。
【読み】
甲子[きのえ・ね]、晉侯佹諸卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。甲子は、九月十一日。戊辰は、十五日なり。書して盟の後に在るは、赴ぐるに從うなり。○佹は、九委反。

冬、晉里克殺其君之子奚齊。獻公未葬、奚齊未成君。故稱君之子。奚齊受命繼位、無罪。故里克稱名。伯爵在喪、亦稱子。見竹書紀年。
【読み】
冬、晉の里克其の君の子奚齊を殺す。獻公未だ葬らず、奚齊未だ君と成らず。故に君の子と稱す。奚齊命を受け位を繼いで、罪無し。故に里克名を稱す。伯爵喪に在るも、亦子と稱す。竹書紀年に見ゆ。

〔傳〕九年、春、宋桓公卒。未葬、而襄公會諸侯。故曰子。
【読み】
〔傳〕九年、春、宋の桓公卒す。未だ葬らずして、襄公諸侯に會す。故に子と曰う。

凡在喪、王曰小童、公・侯曰子。在喪、未葬也。小童者、童蒙幼末之稱。子者、繼父之辭。公・侯、位尊。上連王者、下絕伯・子・男。周康王在喪、稱予一人釗、禮稱亦不言小童。或所稱之辭、各有所施。此謂王自稱之辭。非諸下所得書。故經無其事、傳通取舊典之文、以事相接。○之稱、去聲。釗、古堯反。亦音昭。
【読み】
凡そ喪に在るは、王を小童と曰い、公・侯を子と曰う。喪に在るとは、未だ葬らざるなり。小童は、童蒙幼末の稱。子は、父に繼ぐの辭。公・侯は、位尊し。上は王者に連なり、下は伯・子・男に絕つ。周の康王喪に在りて、予一人釗[しょう]と稱して、禮稱にも亦小童と言わず。或は稱する所の辭、各々施す所有るならん。此は王自ら稱するの辭を謂う。諸れ下の書すことを得る所に非ず。故に經に其の事無けれども、傳は通じて舊典の文を取りて、事を以て相接ぐるなり。○之稱は、去聲。釗は、古堯反。亦音昭。

夏、會于葵丘、尋盟、且脩好。禮也。
【読み】
夏、葵丘に會して、盟を尋[かさ]ね、且好を脩む。禮なり。

王使宰孔賜齊侯胙、胙、祭肉。尊之比二王後。
【読み】
王宰孔をして齊侯に胙を賜わしめて、胙は、祭肉。之を尊んで二王の後に比す。

曰、天子有事于文武、有祭事也。
【読み】
曰く、天子文武に事有りて、祭事有るなり。

使孔賜伯舅胙。天子謂異姓諸侯曰伯舅。
【読み】
孔をして伯舅に胙を賜わしむ、と。天子異姓の諸侯を謂いて伯舅と曰う。

齊侯將下拜。孔曰、且有後命。天子使孔曰、以伯舅耋老、加勞賜一級、無下拜。七十曰耋。級、等也。○耋、田節反。一他結反。勞、力報反。
【読み】
齊侯將に下拜せんとす。孔曰く、且後命有り。天子孔をして曰わしむ、伯舅が耋老[てつろう]するを以て、加勞して一級を賜いて、下拜すること無からしむ、と。七十を耋と曰う。級は、等なり。○耋は、田節反。一に他結反。勞は、力報反。

對曰、天威不違顏咫尺。言天鑒察不遠、威嚴常在顏面之前。八寸曰咫。
【読み】
對えて曰く、天威顏を違[さ]らざること咫尺[しせき]。言うこころは、天の鑒察遠からず、威嚴常に顏面の前に在り。八寸を咫と曰う。

小白、余敢貪天子之命、無下拜、小白、齊侯名。余、身也。
【読み】
小白、余敢えて天子の命を貪りて、下拜すること無くば、小白は、齊侯の名。余は、身なり。

恐隕越于下、隕越、顚墜也。據天王居上。故言恐顚墜于下。
【読み】
恐れらくは下に隕越して、隕越は、顚墜なり。天王上に居るに據る。故に下に顚墜せんことを恐ると言う。

以遺天子羞。敢不下拜。下拜登受。拜堂下、受胙於堂上。○遺、于季反。
【読み】
以て天子に羞を遺らんことを。敢えて下拜せざらんや、と。下拜して登りて受く。堂下に拜して、胙を堂上に受く。○遺は、于季反。

秋、齊侯盟諸侯于葵丘、曰、凡我同盟之人、旣盟之後、言歸于好。義取脩好。故傳顯其盟辭。
【読み】
秋、齊侯諸侯に葵丘に盟いて、曰く、凡そ我が同盟の人、旣に盟うの後は、言[ここ]に好に歸せん、と。義好を脩むるに取る。故に傳其の盟辭を顯す。

宰孔先歸。旣會、先諸侯去。○先諸、悉薦反。
【読み】
宰孔先ず歸る。旣に會して、諸侯に先んじて去る。○先諸は、悉薦反。

遇晉侯、曰、可無會也。晉侯欲來會葵丘。
【読み】
晉侯に遇いて、曰く、會すること無かる可し。晉侯來りて葵丘に會せんと欲す。

齊侯不務德而勤遠略。故北伐山戎、在莊三十年。
【読み】
齊侯德を務めずして遠略を勤む。故に北、山戎を伐ち、莊三十年に在り。

南伐楚、在四年。
【読み】
南、楚を伐ち、四年に在り。

西爲此會也。東略之不知。西則否矣。言或向東、必不能復西略。
【読み】
西、此の會を爲せり。東略せんは知らず。西は則ち否[しか]らじ。言うこころは、東に向かうこと或れば、必ず復西略すること能わず。

其在亂乎。君務靖亂。無勤於行。在、存也。微戒獻公、言晉將有亂。
【読み】
其れ亂を在[と]わんか。君亂を靖[しず]むることを務めよ。行くことを勤むること無かれ、と。在は、存[と]うなり。獻公に微戒して、晉將に亂有らんとすと言う。

晉侯乃還。不復會齊。
【読み】
晉侯乃ち還る。復齊に會せず。

九月、晉獻公卒。里克・丕鄭、欲納文公。故以三公子之徒作亂。丕鄭、晉大夫。三公子、申生・重耳・夷吾。○丕、普悲反。
【読み】
九月、晉の獻公卒す。里克・丕鄭[ひてい]、文公を納れんと欲す。故に三公子の徒を以て亂を作す。丕鄭は、晉の大夫。三公子は、申生・重耳・夷吾。○丕は、普悲反。

初、獻公使荀息傅奚齊。公疾。召之曰、以是藐諸孤、言其幼賤、與諸子縣藐。○藐、妙小反。又亡角反。
【読み】
初め、獻公荀息をして奚齊に傅たらしむ。公疾む。之を召して曰く、是の諸孤に藐たるを以て、言うこころは、其の幼賤、諸子と縣藐なり。○藐は、妙小反。又亡角反。

辱在大夫。其若之何。欲屈辱荀息、使保護之。
【読み】
辱く大夫に在り。其れ之を若何、と。荀息を屈辱して、之を保護せしめんと欲す。

稽首而對曰、臣竭其股肱之力、加之以忠貞。其濟、君之靈也。不濟、則以死繼之。公曰、何謂忠貞。對曰、公家之利、知無不爲、忠也。送往事居、耦俱無猜、貞也。往、死者。居、生者。耦、兩也。送死事生、兩無疑恨。所謂正也。
【読み】
稽首して對えて曰く、臣其の股肱の力を竭し、之に加うるに忠貞を以てせん。其の濟[な]るは、君の靈なり。濟らずんば、則ち死を以て之に繼がん、と。公曰く、何をか忠貞と謂うや、と。對えて曰く、公家の利、知れば爲さざること無きは、忠なり。往を送り居に事え、耦[ふた]つながら俱に猜[うたが]い無きは、貞なり、と。往は、死者。居は、生者。耦は、兩つなり。死を送り生に事え、兩つながら疑恨無し。所謂正なり。

及里克將殺奚齊、先告荀息曰、三怨將作。三公子之徒。
【読み】
里克將に奚齊を殺さんとするに及びて、先ず荀息に告げて曰く、三怨將に作らんとす。三公子の徒。

秦・晉輔之。子將何如。荀息曰、將死之。里克曰、無益也。荀叔曰、吾與先君言矣。不可以貳。能欲復言、而愛身乎。荀叔、荀息也。復言、言可復也。
【読み】
秦・晉之を輔く。子將に何如にせんとする、と。荀息曰く、將に之に死なんとす、と。里克曰く、益無し、と。荀叔曰く、吾れ先君と言えり。以て貳[ふたごころ]ある可からず。能く言を復せんことを欲して、身を愛せんや。荀叔は、荀息なり。復言は、言復す可きなり。
*頭注に「一說、復、踐也。是也」とある。

雖無益也、將焉辟之。且人之欲善、誰不如我。我欲無貳、而能謂人已乎。言不能止里克使不忠於申生等。
【読み】
益無しと雖も、將[はた]焉んぞ之を辟けん。且つ人の善を欲する、誰か我に如かざらん。我れ貳無からんことを欲して、能く人に已めよと謂わんや、と。言うこころは、里克を止めて申生等に不忠ならしむること能わず。

冬、十月、里克殺奚齊于次。次、喪寢。
【読み】
冬、十月、里克奚齊を次に殺す。次は、喪寢。

書曰殺其君之子、未葬也。
【読み】
書して其の君の子を殺すと曰うは、未だ葬らざればなり。

荀息將死之。人曰、不如立卓子而輔之。荀息立公子卓、以葬。十一月、里克殺公子卓于朝。荀息死之。
【読み】
荀息將に之に死なんとす。人曰く、卓子を立てて之を輔くるに如かず、と。荀息公子卓を立てて、以て葬る。十一月、里克公子卓を朝に殺す。荀息之に死す。

君子曰、詩所謂白圭之玷、尙可磨也。斯言之玷、不可爲也。詩、大雅。言此言之缺、難治甚於白圭。○玷、丁簟反。又丁念反。
【読み】
君子曰く、詩に所謂白圭の玷[か]けたるは、尙磨く可し。斯の言の玷けたるは、爲[おさ]む可からず、と。詩は、大雅。言うこころは、此れ言の缺[か]けたるは、治め難きこと白圭より甚だし。○玷[てん]は、丁簟反。又丁念反。

荀息有焉。有此詩人重言之義。
【読み】
荀息焉れ有り、と。此の詩人言を重んずるの義有り。

齊侯以諸侯之師伐晉、及高梁而還。討晉亂也。高梁、晉地。在平陽縣西南。
【読み】
齊侯諸侯の師を以[い]て晉を伐ち、高梁に及びて還る。晉の亂を討ずるなり。高梁は、晉の地。平陽縣の西南に在り。

令不及魯。故不書。前已發不書例。今復重發、嫌霸者異於凡諸侯。
【読み】
令魯に及ばず。故に書さず。前已に書さざるの例を發す。今復重ねて發するは、霸者は凡諸侯に異なるに嫌あればなり。

晉郤芮使夷吾重賂秦以求入。郤芮、郤克祖父。從夷吾者。○從、才用反。
【読み】
晉の郤芮[げきぜい]夷吾をして重く秦に賂いて以て入ることを求めしむ。郤芮は、郤克の祖父。夷吾に從う者なり。○從は、才用反。

曰、人實有國。我何愛焉。言國非己之有。何愛而不以賂秦。
【読み】
曰く、人實に國を有つ。我れ何ぞ愛[おし]まん。言うこころは、國は己が有に非ず。何ぞ愛んで以て秦に賂わざらん。

入而能民、土於何有。從之。能得民、不患無土。
【読み】
入りて民を能くせば、土に於て何か有らん、と。之に從う。能く民を得ば、土無きを患えず。

齊隰朋帥師會秦師、納晉惠公。隰朋、齊大夫。惠公、夷吾。
【読み】
齊の隰朋[しゅうほう]師を帥いて秦の師に會して、晉の惠公を納る。隰朋は、齊の大夫。惠公は、夷吾。

秦伯謂郤芮曰、公子誰恃。對曰、臣聞亡人無黨。有黨必有讎。言夷吾無黨。無黨則無讎。易出易入。以微勸秦。
【読み】
秦伯郤芮に謂いて曰く、公子は誰をか恃める、と。對えて曰く、臣聞く、亡人は黨無し。黨有れば必ず讎有り、と。言うこころは、夷吾黨無し。黨無ければ則ち讎無し。出で易く入り易し。以て秦を微勸す。

夷吾弱不好弄。弄、戲也。
【読み】
夷吾は弱にして弄[たわむれ]を好まず。 弄は、戲れなり。

能鬭不過。有節制。
【読み】
能く鬭いて過ぎず。節制有り。

長亦不改、不識其他。
【読み】
長じて亦改めずして、其の他を識らず、と。

公謂公孫枝曰、夷吾其定乎。公孫枝、秦大夫、子桑也。
【読み】
公公孫枝に謂いて曰く、夷吾は其れ定めんか、と。公孫枝は、秦大夫、子桑なり。

對曰、臣聞之、唯則定國。詩曰、不識不知、順帝之則、文王之謂也。詩、大雅。帝、天也。則、法也。言文王闇行、自然合天之法。
【読み】
對えて曰く、臣之を聞く、唯則あれば國を定む、と。詩に曰く、識らず知らず、帝の則に順うとは、文王を謂うなり。詩は、大雅。帝は、天なり。則は、法なり。文王闇行して、自然に天の法に合うを言う。

又曰、不僭不賊、鮮不爲則、僭、過差也。賊、傷害也。皆忌克也。能不然、則可爲人法則。○鮮、息淺反。
【読み】
又曰く、僭[たが]わず賊[そこな]わざれば、則と爲らざること鮮しとは、僭は、過差なり。賊は、傷害なり。皆忌克なり。能く然らざれば、則ち人の法則と爲る可し。○鮮は、息淺反。

無好無惡、不忌不克之謂也。今其言多忌克。旣僭而賊。
【読み】
好み無く惡み無く、忌まず克たざるを謂うなり。今其の言忌克多し。旣に僭にして賊なり。

難哉。言能自定難。
【読み】
難いかな、と。能く自ら定むることの難きを言う。

公曰、忌則多怨。又焉能克。是吾利也。其言雖多忌、適足以自害。不能勝人也。秦伯慮其還害己。故曰、是吾利。
【読み】
公曰く、忌めば則ち怨み多し。又焉ぞ能く克たん。是れ吾が利なり、と。其の言忌むこと多しと雖も、適に以て自ら害するに足れり。人に勝つこと能わず。秦伯其の還って己を害せんことを慮る。故に曰く、是れ吾が利なり、と。

宋襄公卽位、以公子目夷爲仁、使爲左師以聽政。於是宋治。故魚氏世爲左師。
【読み】
宋の襄公位に卽き、公子目夷を以て仁と爲し、左師と爲して以て政を聽かしむ。是に於て宋治まる。故に魚氏世々左師爲り。


〔經〕十年、春、王正月、公如齊。無傳。
【読み】
〔經〕十年、春、王の正月、公齊に如く。傳無し。

狄滅溫。溫子奔衛。蓋中國之狄、滅而居其土地。
【読み】
狄溫を滅ぼす。溫子衛に奔る。蓋し中國の狄、滅ぼして其の土地に居るならん。

晉里克弑其君卓、及其大夫荀息。弑卓在前年。而以今春書者、從赴也。獻公旣葬、卓已免喪。故稱君也。荀息稱名者、雖欲復言、本無遠謀、從君於昏。
【読み】
晉の里克其の君卓を弑して、其の大夫荀息に及ぶ。卓を弑するは前年に在り。而るに今春を以て書すは、赴[つ]ぐるに從うなり。獻公旣に葬り、卓已に喪を免る。故に君と稱するなり。荀息名を稱するは、復言せんことを欲すと雖も、本遠謀無く、君に昏に從えばなり。

夏、齊侯・許男伐北戎。無傳。北戎、山戎。
【読み】
夏、齊侯・許男北戎を伐つ。傳無し。北戎は、山戎。

晉殺其大夫里克。奚齊者、先君所命。卓子又以在國嗣位。罪未爲無道。而里克親爲三怨之主、累弑二君。故稱名以罪之。
【読み】
晉其の大夫里克を殺す。奚齊は、先君の命ずる所。卓子も又國に在るを以て位を嗣ぐ。罪未だ無道を爲さず。而るを里克親ら三怨の主と爲り、累[しき]りに二君を弑す。故に名を稱して以て之を罪す。

秋、七月。冬、大雨雪。無傳。平地尺爲大雪。○雨、于付反。
【読み】
秋、七月。冬、大いに雪雨[ふ]る。傳無し。平地尺を大雪とす。○雨は、于付反。

〔傳〕十年、春、狄滅溫、蘇子無信也。
【読み】
〔傳〕十年、春、狄溫を滅ぼすは、蘇子信無ければなり。

蘇子叛王卽狄。又不能於狄。狄人伐之。王不救。故滅。蘇子奔衛。蘇子、周司寇、蘇公之後也。國於溫。故曰溫子。叛王事在莊十九年。
【読み】
蘇子王に叛きて狄に卽く。又狄に能からず。狄人之を伐つ。王救わず。故に滅びたり。蘇子衛に奔る。蘇子は、周の司寇、蘇公の後なり。溫に國す。故に溫子と曰う。王に叛く事は莊十九年に在り。

夏、四月、周公忌父・王子黨會齊隰朋、立晉侯。周公忌父、周郷士。王子黨、周大夫。
【読み】
夏、四月、周公忌父・王子黨齊の隰朋[しゅほう]に會して、晉侯を立つ。周公忌父は、周の郷士。王子黨は、周の大夫。

晉侯殺里克以說。自解說不簒。
【読み】
晉侯里克を殺して以て說く。自ら簒わざると解說す。

將殺里克、公使謂之曰、微子則不及此。雖然、子弑二君與一大夫。爲子君者、不亦難乎。對曰、不有廢也、君何以興。欲加之罪、其無辭乎。言欲加己罪、不患無辭。
【読み】
將に里克を殺さんとするに、公之に謂わしめて曰く、子微[な]かりせば則ち此に及ばじ。然りと雖も、子二君と一大夫とを弑せり。子の君爲る者、亦難からずや、と。對えて曰く、廢すること有らずんば、君何を以て興らん。之に罪を加えんと欲せば、其れ辭無からんや。言うこころは、己に罪を加えんと欲せば、辭無きを患えず。

臣聞命矣。伏劒而死。於是丕鄭聘于秦、且謝緩賂。故不及。丕鄭、里克黨。以在秦故、不及里克倶死。
【読み】
臣命を聞けり、と。劒に伏して死す。是に於て丕鄭[ひてい]秦に聘し、且緩賂を謝す。故に及ばず。丕鄭は、里克の黨。秦に在るの故を以て、里克と倶に死なず。

晉侯改葬共大子。共大子、申生也。○共、音恭。大、音泰。
【読み】
晉侯共大子を改葬す。共大子は、申生なり。○共は、音恭。大は、音泰。

秋、狐突適下國、下國、曲沃新城。
【読み】
秋、狐突下國に適き、下國は、曲沃の新城。

遇大子。大子使登僕、忽如夢而相見。狐突、本爲申生御。故復使登車爲僕。
【読み】
大子に遇う。大子登りて僕たらしめて、忽として夢の如くにして相見るなり。狐突は、本申生の御爲り。故に復車に登りて僕爲らしむ。

而告之曰、夷吾無禮。余得請於帝矣。請罰夷吾。
【読み】
之に告げて曰く、夷吾禮無し。余帝に請うことを得たり。夷吾を罰せんと請う。

將以晉畀秦。秦將祀余。對曰、臣聞之、神不歆非類、民不祀非族。君祀無乃殄乎。歆、饗也。殄、絕也。
【読み】
將に晉を以て秦に畀[あた]えんとす。秦將に余を祀らんとす、と。對えて曰く、臣之を聞く、神は非類に歆[う]けず、民は非族を祀らず、と。君の祀乃ち殄[た]ゆること無からんや。歆[きん]は、饗[う]くるなり。殄[てん]は、絕つなり。

且民何罪。失刑乏祀。君其圖之。君曰、諾。吾將復請。七日、新城西偏、將有巫者。而見我焉。新城、曲沃也。將因巫而見。
【読み】
且つ民何の罪かある。刑を失い祀に乏しからん。君其れ之を圖れ、と。君曰く、諾。吾れ將に復請わんとす。七日ありて、新城の西偏に、將に巫者有らんとす。而[なんじ]我を見よ、と。新城は、曲沃なり。將に巫に因りて見えんとす。

許之。遂不見。狐突許其言。申生之象亦沒。○見、賢遍反。又如字。
【読み】
之を許す。遂に見えず。狐突其の言を許す。申生の象も亦沒す。○見は、賢遍反。又字の如し。

及期而往。告之曰、帝許我罰有罪矣。敝於韓。敝、敗也。韓、晉地。獨敝惠公。故言罰有罪。明復以晉畀秦。夷吾忌克多怨、終於失國。雖改葬加謚、申生猶忿。傳言鬼神所馮、有時而信。
【読み】
期に及びて往く。之に告げて曰く、帝我に有罪を罰するを許せり。韓に敝[やぶ]れん。敝は、敗るなり。韓は、晉の地。獨惠公を敝る。故に有罪を罰すと言う。復晉を以て秦に畀えざること明らかなり。夷吾忌克にして多怨、國を失うに終わる。改葬して加謚すと雖も、申生猶忿る。傳に鬼神の馮[よ]る所、時有りて信あるを言う。

丕鄭之如秦也、言於秦伯曰、呂甥・郤稱・冀芮實爲不從。若重問以召之、三子、晉大夫。不從、不與秦賂。問、聘問之幣。○稱、尺證反。又如字。
【読み】
丕鄭の秦に如くや、秦伯に言いて曰く、呂甥[りょせい]・郤稱[げきしょう]・冀芮[きぜい]實に從わざることを爲せり。若し問を重くして以て之を召さば、三子は、晉の大夫。從わずとは、秦に賂を與えざるなり。問は、聘問の幣。○稱は、尺證反。又字の如し。

臣出晉君。君納重耳。蔑不濟矣。蔑、無也。
【読み】
臣晉君を出ださん。君重耳を納れよ。濟[な]らざること蔑[な]けん、と。蔑は、無きなり。

冬、秦伯使泠至報問、且召三子。泠至、秦大夫。○泠、力丁反。
【読み】
冬、秦伯泠至[れいし]をして報問せしめ、且三子を召す。泠至は、秦の大夫。○泠は、力丁反。

郤芮曰、幣重而言甘。誘我也。遂殺平鄭・祁舉、祁舉、晉大夫。
【読み】
郤芮曰く、幣重くして言甘し。我を誘[おび]くなり、と。遂に平鄭・祁舉と、祁舉は、晉の大夫。

及七輿大夫、侯・伯七命、副車七乘。
【読み】
七輿大夫の、侯・伯は七命、副車七乘あり。

左行共華・右行賈華・叔堅・騅歂・纍虎・特宮・山祁。皆里・丕之黨也。七子、七輿大夫。○行、戶剛反。共、音恭。騅、音隹。歂、市專反。纍、力追反。
【読み】
左行共華・右行賈華・叔堅・騅歂[すいせん]・纍虎[るいこ]・特宮・山祁とを殺す。皆里・丕の黨なり。七子は、七輿の大夫。○行は、戶剛反。共は、音恭。騅は、音隹。歂は、市專反。纍は、力追反。

丕豹奔秦。丕豹、丕鄭之子。
【読み】
丕豹秦に奔る。丕豹は、丕鄭の子。

言於秦伯曰、晉侯背大主而忌小怨。民弗與也。伐之必出。大主、秦也。小怨、里・丕。
【読み】
秦伯に言いて曰く、晉侯大主に背きて小怨を忌む。民與せず。之を伐たば必ず出でん、と。大主は、秦なり。小怨は、里・丕。

公曰、失衆、焉能殺。謂殺里・丕之黨。
【読み】
公曰く、衆を失わば、焉ぞ能く殺さん。里・丕の黨を殺すを謂う。

違禍。誰能出君。謂豹避禍也。爲明年晉殺丕鄭傳。
【読み】
禍を違[さ]く。誰か能く君を出ださん、と。豹が禍を避くるを謂うなり。明年晉丕鄭を殺す爲の傳なり。


〔經〕十有一年、春、晉殺其大夫丕鄭父。以私怨謀亂國。書名、罪之。書春、從告。
【読み】
〔經〕十有一年、春、晉其の大夫丕鄭父を殺す。私怨を以て國を亂らんことを謀る。名を書すは、之を罪するなり。春に書すは、告ぐるに從うなり。

夏、公及夫人姜氏會齊侯于陽穀。無傳。婦人送迎不出門。見兄弟不踰閾。與公倶會齊侯、非禮。○閾、音域。門限也。
【読み】
夏、公夫人姜氏と齊侯に陽穀に會す。傳無し。婦人は送迎門を出でず。兄弟に見ゆるに閾[しきい]を踰えず。公と倶に齊侯に會するは、非禮なり。○閾[よく]は、音域。門限なり。

秋、八月、大雩。無傳。過時。故書。
【読み】
秋、八月、大いに雩[う]す。傳無し。時を過ぐ。故に書す。

冬、楚人伐黃。
【読み】
冬、楚人黃を伐つ。

〔傳〕十一年、春、晉侯使以丕鄭之亂來告。釋經書在今年。
【読み】
〔傳〕十一年、春、晉侯丕鄭の亂を以て來り告げしむ。經の書して今年に在るを釋く。

天王使召武公・内史過賜晉侯命。天王、周襄王。召武公、周卿士。内史過、周大夫。諸侯卽位、天子賜之命圭爲瑞。○過、古禾反。
【読み】
天王召武公・内史過をして晉侯に命を賜わしむ。天王は、周の襄王。召武公は、周の卿士。内史過は、周の大夫。諸侯位に卽けば、天子之に命圭を賜いて瑞と爲す。○過は、古禾反。

受玉惰。過歸。告王曰、晉侯其無後乎。王賜之命、而惰於受瑞。先自弃也已。其何繼之有。禮、國之幹也。敬、禮之輿也。不敬、則禮不行。禮不行、則上下昏。何以長世。爲惠公不終張本。○長、直良反。又丁丈反。
【読み】
玉を受くること惰れり。過歸る。王に告げて曰く、晉侯は其れ後無からんか。王之に命を賜いて、瑞を受くるに惰る。先ず自ら弃[す]つるのみ。其れ何の繼ぐことか之れ有らん。禮は、國の幹なり。敬は、禮の輿なり。敬せざれば、則ち禮行われず。禮行われざれば、則ち上下昏し。何を以て世を長くせん、と。惠公終わらざる爲の張本なり。○長は、直良反。又丁丈反。

夏、揚・拒・泉・皐・伊・雒之戎、同伐京師、入王城、焚東門。揚・拒・泉・皐、皆戎邑、及諸雜戎居伊水・雒水之閒者。今伊闕北有泉亭。○拒、倶宇反。
【読み】
夏、揚・拒・泉・皐・伊・雒[らく]の戎、同じく京師を伐ち、王城に入りて、東門を焚く。揚・拒・泉・皐は、皆戎邑、諸々の雜戎と伊水・雒水の閒に居る者なり。今伊闕の北に泉亭有り。○拒は、倶宇反。

王子帶召之也。王子帶、甘昭公也。召戎、欲因以簒位。
【読み】
王子帶が之を召[むか]えるなり。王子帶は、甘昭公なり。戎を召すは、因りて以て位を簒わんと欲するなり。

秦・晉伐戎以救周。秋、晉侯平戎于王。爲二十四年、天王出居鄭傳。
【読み】
秦・晉戎を伐ちて以て周を救う。秋、晉侯戎を王に平らぐ。二十四年、天王出でて鄭に居る爲の傳なり。

黃人不歸楚貢。冬、楚人伐黃。黃人恃齊故。
【読み】
黃人楚に貢を歸[おく]らず。冬、楚人黃を伐つ。黃人齊を恃む故なり。


〔經〕十有二年、春、王三月、庚午、日有食之。無傳。不書朔、官失之。
【読み】
〔經〕十有二年、春、王の三月、庚午[かのえ・うま]、日之を食する有り。傳無し。朔を書さざるは、官之を失えり。

夏、楚人滅黃。秋、七月。冬、十有二月、丁丑、陳侯杵臼卒。無傳。遺世子與僖公同盟甯母及洮。○臼、其九反。
【読み】
夏、楚人黃を滅ぼす。秋、七月。冬、十有二月、丁丑[ひのと・うし]、陳侯杵臼[しょきゅう]卒す。傳無し。世子をして僖公と甯母[ねいぼ]と洮[とう]とに同盟せしむ。○臼は、其九反。

〔傳〕十二年、春、諸侯城衛楚丘之郛。懼狄難也。楚丘、衛國都。郛、郭也。爲明年春、狄侵衛傳。○郛、芳夫反。難、乃旦反。
【読み】
〔傳〕十二年、春、諸侯衛の楚丘の郛[ふ]に城く。狄の難を懼れてなり。楚丘は、衛の國都。郛は、郭なり。明年春、狄衛を侵す爲の傳なり。○郛は、芳夫反。難は、乃旦反。

黃人恃諸侯之睦于齊也、不共楚職、曰、自郢及我九百里、焉能害我。夏、楚滅黃。郢、楚都。○共、音恭。
【読み】
黃人諸侯の齊に睦まじきを恃めるや、楚に職を共せずして、曰く、郢[えい]より我に及ぶまで九百里、焉ぞ能く我を害せん、と。夏、楚黃を滅ぼす。郢は、楚の都。○共は、音恭。

王以戎難故、討王子帶。子帶前年召戎伐周。
【読み】
王戎の難を以ての故に、王子帶を討ず。子帶前年戎を召して周を伐たしむ。

秋、王子帶奔齊。
【読み】
秋、王子帶齊に奔る。

冬、齊侯使管夷吾平戎于王、使隰朋平戎于晉。平、和也。前年晉救周伐戎。故戎與周・晉不和。
【読み】
冬、齊侯管夷吾をして戎を王に平らげしめ、隰朋[しゅうほう]をして戎を晉に平らげしむ。平は、和らぐなり。前年晉周を救いて戎を伐つ。故に戎と周・晉と和せず。

王以上卿之禮饗管仲。管仲辭曰、臣、賤有司也。有天子之二守國・高在。國子・高子、天子所命爲齊守臣。皆上卿也。莊二十二年、高傒始見經。僖二十八年、國歸父乃見傳。歸父之父曰懿仲、高傒之子曰莊子。不知今當誰世。○守、手又反。
【読み】
王上卿の禮を以て管仲を饗す。管仲辭して曰く、臣は、賤しき有司なり。天子の二守なる國・高の在る有り。國子・高子は、天子の命じて齊の守臣と爲す所。皆上卿なり。莊二十二年、高傒始めて經に見ゆ。僖二十八年、國歸父乃ち傳に見ゆ。歸父の父を懿仲と曰い、高傒の子を莊子と曰う。知らず、今誰の世に當たることを。○守は、手又反。

若節春秋、來承王命、何以禮焉。節、時也。
【読み】
若し春秋を節にして、來りて王命を承けば、何を以て禮せん。節は、時なり。

陪臣敢辭。諸侯之臣曰陪臣。
【読み】
陪臣敢えて辭す、と。諸侯の臣を陪臣と曰う。

王曰、舅氏、伯舅之使。故曰舅氏。
【読み】
王曰く、舅氏、伯舅の使。故に舅氏と曰う。

余嘉乃勳、應乃懿德。謂督不忘。往踐乃職、無逆朕命。功勳美德、可謂正而不可忘者。不言位而言職者、管仲位卑而執齊政。故欲以職尊之。
【読み】
余乃の勳を嘉し、乃の懿德に應じたり。督[ただ]しくして忘れられずと謂う。往きて乃の職を踐みて、朕が命に逆うこと無し、と。功勳美德、正しくして忘る可からざる者と謂う可し。位と言わずして職と言うは、管仲位卑くして齊の政を執る。故に職を以て之を尊ばんと欲するなり。

管仲受下卿之禮而還。管仲不敢以職自高、卒受本位之禮。
【読み】
管仲下卿の禮を受けて還る。管仲敢えて職を以て自ら高しとせず、卒に本位の禮を受く。

君子曰、管氏之世祀也宜哉。讓不忘其上。詩曰、愷悌君子、神所勞矣。詩、大雅。愷、樂也。悌、易也。言樂易君子、爲神所勞來。故世祀也。管仲之後、於齊沒不復見。亦舉其無驗。○愷、開在反。悌、音弟。勞、力報反。來、力代反。
【読み】
君子曰く、管氏の世々祀らるるや宜なるかな。讓りて其の上を忘れず。詩に曰く、愷悌の君子は、神の勞する所なり、と。詩は、大雅。愷は、樂しむなり。悌は、易きなり。言うこころは、樂易の君子は、神の爲に勞來せらる。故に世々祀らるるなり。管仲の後、齊に於て沒して復見れず。亦其の驗無きを舉ぐ。○愷は、開在反。悌は、音弟。勞は、力報反。來は、力代反。


〔經〕十有三年、春、狄侵衛。傳在前年春。
【読み】
〔經〕十有三年、春、狄衛を侵す。傳は前年の春に在り。

夏、四月、葬陳宣公。無傳。
【読み】
夏、四月、陳の宣公を葬る。傳無し。

公會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯于鹹。鹹、衛地。東郡濮陽縣東南有鹹城。
【読み】
公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯に鹹[かん]に會す。鹹は、衛の地。東郡濮陽縣の東南に鹹城有り。

秋、九月、大雩。無傳。書過。
【読み】
秋、九月、大いに雩[う]す。傳無し。過ぐるを書す。

冬、公子友如齊。無傳。
【読み】
冬、公子友齊に如く。傳無し。

〔傳〕十三年、春、齊侯使仲孫湫聘于周、且言王子帶。前年王子帶奔齊。言欲復之。
【読み】
〔傳〕十三年、春、齊侯仲孫湫[ちゅうそんしょう]をして周に聘し、且王子帶を言わしむ。前年王子帶齊に奔る。言いて之を復さんと欲す。

事畢。不與王言。不言子帶事。
【読み】
事畢る。王と言わず。子帶の事を言わず。

歸、復命曰、未可。王怒未怠。其十年乎。不十年、王弗召也。
【読み】
歸りて、復命して曰く、未だ可ならず。王の怒り未だ怠らず。其れ十年か。十年ならずんば、王召さじ、と。

夏、會于鹹、淮夷病杞故。且謀王室也。
【読み】
夏、鹹に會するは、淮夷杞を病ましむる故なり。且王室を謀るなり。

秋、爲戎難故、諸侯戍周。齊仲孫湫致之。戍、守也。致諸侯戍卒于周。○爲、于僞反。難、乃旦反。
【読み】
秋、戎の難の爲の故に、諸侯周を戍る。齊の仲孫湫之を致す。戍は、守るなり。諸侯の戍卒を周に致す。○爲は、于僞反。難は、乃旦反。

冬、晉荐饑。麥・禾皆不熟。○荐、在薦反。
【読み】
冬、晉荐[しき]りに饑ゆ。麥・禾皆熟せず。○荐[せん]は、在薦反。

使乞糴于秦。秦伯謂子桑、與諸乎。對曰、重施而報、君將何求。言不損秦。○施、式豉反。
【読み】
糴[てき]を秦に乞わしむ。秦伯子桑に謂う、諸を與えんか、と。對えて曰く、重く施して報いば、君將[はた]何をか求めん。言うこころは、秦を損せざるなり。○施は、式豉反。

重施而不報、其民必攜。攜而討焉、無衆必敗。不義故民離。
【読み】
重く施して報いざれば、其の民必ず攜[はな]れん。攜れて討ぜば、衆無くして必ず敗れん、と。不義の故に民離る。

謂百里、與諸乎。百里、秦大夫。
【読み】
百里に謂う、諸を與えんか、と。百里は、秦の大夫。

對曰、天災流行、國家代有。救災恤鄰、道也。行道有福。
【読み】
對えて曰く、天災の流行する、國家代る代る有り。災いを救い鄰を恤[めぐ]むは、道なり。道を行えば福有り、と。

丕鄭之子豹在秦。請伐晉。欲爲父報怨。
【読み】
丕鄭の子豹秦に在り。晉を伐たんと請う。父の爲に怨みを報いんと欲す。

秦伯曰、其君是惡、其民何罪。
【読み】
秦伯曰く、其の君是れ惡しきも、其の民何の罪かある。

秦於是乎輸粟于晉。自雍及絳相繼。雍、秦國都。絳、晉國都。○雍、於用反。
【読み】
秦是に於て粟を晉に輸[いた]す。雍より絳[こう]に及ぶまで相繼ぐ。雍は、秦の國都。絳は、晉の國都。○雍は、於用反。

命之曰汎舟之役。從渭水運入河汾。
【読み】
之を命[な]づけて汎舟の役と曰う。渭水より運びて河汾に入る。


〔經〕十有四年、春、諸侯城緣陵。緣陵、杞邑。辟淮夷、遷都于緣陵。
【読み】
〔經〕十有四年、春、諸侯緣陵に城く。緣陵は、杞の邑。淮夷を辟け、都を緣陵に遷す。

夏、六月、季姬及鄫子遇于防、使鄫子來朝。季姬、魯女。鄫夫人也。鄫子本無朝志。爲季姬所召而來。故言使鄫子來朝。鄫國、今琅邪鄫縣。○鄫、似綾反。
【読み】
夏、六月、季姬鄫子[しょうし]と防に遇い、鄫子をして來朝せしむ。季姬は、魯の女。鄫の夫人なり。鄫子本朝する志無し。季姬の爲に召されて來る。故に鄫子をして來朝せしむと言う。鄫國は、今の琅邪鄫縣。○鄫は、似綾反。

秋、八月、辛卯、沙鹿崩。沙鹿、山名。平陽元城縣東有沙鹿土山、在晉地。災害繫於所災所害。故不繫國。
【読み】
秋、八月、辛卯[かのと・う]、沙鹿崩る。沙鹿は、山の名。平陽元城縣の東に沙鹿土山有り、晉の地に在り。災害は災いある所害ある所に繫る。故に國に繫けず。

狄侵鄭。無傳。
【読み】
狄鄭を侵す。傳無し。

冬、蔡侯肸卒。無傳。未同盟而赴以名。○肸、許乙反。
【読み】
冬、蔡侯肸[きつ]卒す。傳無し。未だ同盟せずして赴[つ]ぐるに名を以てす。○肸は、許乙反。

〔傳〕十四年、春、諸侯城緣陵、而遷杞焉。不書其人、有闕也。闕、謂器用不具、城池未固而去、爲惠不終也。澶淵之會、旣而無歸、大夫不書、而國別稱人。今此揔曰諸侯、君臣之辭。不言城杞、杞未遷也。○澶、市然反。
【読み】
〔傳〕十四年、春、諸侯緣陵に城きて、杞を遷す。其の人を書さざるは、闕くること有ればなり。闕くとは、器用具わらず、城池未だ固からずして去り、惠みを爲して終わらざるを謂うなり。澶淵[せんえん]の會、旣にして歸[おく]ること無ければ、大夫書さずして、國別に人と稱せり。今此に揔[す]べて諸侯と曰うは、君臣の辭なり。杞に城くと言わざるは、杞未だ遷らざればなり。○澶は、市然反。

鄫季姬來寧。公怒止之。以鄫子之不朝也。來寧不書、而後年書歸鄫、更嫁之文也。明公絕鄫昏、旣來朝而還。○還、戶關反。
【読み】
鄫の季姬來寧す。公怒りて之を止む。鄫子の朝せざるを以てなり。來寧は書さずして、後年鄫に歸るを書すは、更めて嫁ぐの文なり。公鄫の昏を絕ち、旣に來朝して還るを明かす。○還は、戶關反。

夏、遇于防、而使來朝。
【読み】
夏、防に遇いて、來朝せしむ。

秋、八月、辛卯、沙鹿崩。晉卜偃曰、期年將有大咎。幾亡國。國主山川。山崩川竭、亡國之徵。○期、音基。咎、其九反。幾、音祈。又音機。
【読み】
秋、八月、辛卯、沙鹿崩る。晉の卜偃曰く、期年にして將に大咎有らんとす。幾ど國を亡ぼさん、と。國は山川を主る。山崩れ川竭くるは、亡國の徵なり。○期は、音基。咎は、其九反。幾は、音祈。又音機。

冬、秦饑。使乞糴于晉。晉人弗與。
【読み】
冬、秦饑ゆ。糴[てき]を晉に乞わしむ。晉人與えず。

慶鄭曰、背施無親、慶鄭、晉大夫。○背、音佩。施、式豉反。
【読み】
慶鄭曰く、施に背けば親無く、慶鄭は、晉の大夫。○背は、音佩。施は、式豉反。

幸災不仁。貪愛不祥。怒鄰不義。四德皆失、何以守國。虢射曰、皮之不存、毛將安傅。虢射、惠公舅也。皮以喩所許秦城、毛以喩糴。言旣背秦施、爲怨以深。雖與之糴、猶無皮而施毛。○傅、音附。
【読み】
災いを幸うは不仁なり。貪りて愛むは不祥なり。鄰を怒らすは不義なり。四德皆失わば、何を以て國を守らん、と。虢射[かくせき]曰く、皮の存せざる、毛將[はた]安くに傅[つ]かん、と。虢射は、惠公の舅なり。皮は以て秦に許す所の城に喩え、毛は以て糴に喩う。言うこころは、旣に秦の施しに背いて、怨みを爲すこと以[すで]に深し。之に糴を與うと雖も、猶皮無くして毛を施すがごとし。○傅は、音附。

慶鄭曰、弃信背鄰、患孰恤之。無信患作、失援必斃。是則然矣。虢射曰、無損於怨、而厚於寇。不如勿與。言與秦粟、不足解怨。適足使秦强。
【読み】
慶鄭曰く、信を弃[す]てて鄰に背かば、患えあるも孰か之を恤れまん。信無ければ患え作り、援けを失えば必ず斃る、と。是れ則ち然り、と。虢射曰く、怨みに損無くして、寇を厚くす。與うること勿からんに如かず、と。言うこころは、秦に粟を與うとも、怨みを解くに足らず。適に秦を强からしむるに足れり。

慶鄭曰、背施幸災、民所弃也。近猶讎之。況怨敵乎。弗聽。退曰、君其悔是哉。
【読み】
慶鄭曰く、施に背き災いを幸うは、民の弃つる所なり。近きも猶之を讎とす。況んや怨敵をや、と。聽かず。退いて曰く、君其れ是を悔いんかな、と。


〔經〕十有五年、春、王正月、公如齊。無傳。諸侯五年再相朝。禮也。例在文十五年。
【読み】
〔經〕十有五年、春、王の正月、公齊に如く。傳無し。諸侯五年に再び相朝す。禮なり。例は文十五年に在り。

楚人伐徐。三月、公會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯盟于牡丘。牡丘、地名。闕。
【読み】
楚人徐を伐つ。三月、公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯に會して牡丘に盟う。牡丘は、地の名。闕く。

遂次于匡。匡、衛地。在陳留長垣縣西南。
【読み】
遂に匡に次[やど]る。匡は、衛の地。陳留長垣縣の西南に在り。

公孫敖帥師、及諸侯之大夫救徐。公孫敖、慶父之子。諸侯旣盟次匡、皆遣大夫將兵救徐。故不復具列國別也。
【読み】
公孫敖師を帥いて、諸侯の大夫と徐を救う。公孫敖は、慶父の子。諸侯旣に盟いて匡に次り、皆大夫をして兵を將[ひき]いて徐を救わしむ。故に復具列して國別せざるなり。

夏、五月、日有食之。秋、七月、齊師・曹師伐厲。厲、楚與國。義陽隨縣北有厲郷。
【読み】
夏、五月、日之を食する有り。秋、七月、齊師・曹師厲を伐つ。厲は、楚の與國。義陽隨縣の北に厲郷有り。

八月、螽。無傳。爲災。
【読み】
八月、螽[しゅう]あり。傳無し。災いを爲す。

九月、公至自會。無傳。
【読み】
九月、公會より至る。傳無し。

季姬歸于鄫。無傳。來寧不書、此書者、以明中絕。○中、丁仲反。又如字。
【読み】
季姬鄫[しょう]に歸る。傳無し。來寧書さずして、此に書すは、以て中絕を明らかにするなり。○中は、丁仲反。又字の如し。

己卯、晦、震夷伯之廟。夷伯、魯大夫。展氏之祖父。夷、謚。伯、字。震者、雷電擊之。大夫旣卒、書字。
【読み】
己卯[つちのと・う]、晦、夷伯の廟に震す。夷伯は、魯の大夫。展氏の祖父。夷は、謚。伯は、字。震は、雷電之を擊つなり。大夫旣に卒すれば、字を書す。

冬、宋人伐曹。楚人敗徐于婁林。婁林、徐地。下邳僮縣東南有婁亭。○婁、力侯反。
【読み】
冬、宋人曹を伐つ。楚人徐を婁林に敗る。婁林は、徐の地。下邳僮縣の東南に婁亭有り。○婁は、力侯反。

十有一月、壬戌、晉侯及秦伯戰于韓。獲晉侯。例得大夫曰獲。晉侯背施無親、愎諫違卜。故貶絕、下從衆臣之例、而不言以歸。不書敗績、晉師不大崩。○愎、皮逼反。
【読み】
十有一月、壬戌[みずのえ・いぬ]、晉侯秦伯と韓に戰う。晉侯を獲たり。例に大夫を得るを獲と曰う。晉侯施に背きて親無く、諫めに愎[もと]り卜に違う。故に貶絕して、下衆臣の例に從いて、以[い]て歸ると言わず。敗績を書さざるは、晉の師大いに崩れざればなり。○愎[ひょく]は、皮逼反。

〔傳〕十五年、春、楚人伐徐、徐卽諸夏故也。
【読み】
〔傳〕十五年、春、楚人徐を伐つは、徐諸夏に卽く故なり。

三月、盟于牡丘、尋葵丘之盟、且救徐也。葵丘之盟、在九年。
【読み】
三月、牡丘に盟うは、葵丘の盟を尋[かさ]ね、且徐を救うなり。葵丘の盟は、九年に在り。

孟穆伯帥師、及諸侯之師救徐。諸侯次于匡以待之。
【読み】
孟穆伯師を帥いて、諸侯の師と徐を救う。諸侯匡に次りて以て之を待つ。

夏、五月、日有食之。不書朔與日、官失之也。
【読み】
夏、五月、日之を食する有り。朔と日とを書さざるは、官之を失うなり。

秋、伐厲、以救徐也。
【読み】
秋、厲を伐つは、以て徐を救うなり。

晉侯之入也、秦穆姬屬賈君焉。晉侯入、在九年。穆姬、申生姊、秦穆夫人。賈君、晉獻公次妃、賈女也。○屬、音燭。
【読み】
晉侯の入るや、秦の穆姬賈君を屬す。晉侯入るは、九年に在り。穆姬は、申生の姊、秦の穆夫人なり。賈君は、晉の獻公の次妃、賈の女なり。○屬は、音燭。

且曰、盡納羣公子。羣公子、晉武・獻之族。宣二年傳曰、驪姬之亂、詛無畜羣公子。○詛、莊據反。
【読み】
且曰く、盡く羣公子を納れよ、と。羣公子は、晉の武・獻の族。宣二年の傳に曰く、驪姬の亂に、羣公子を畜うこと無からんと詛[ちか]えり、と。○詛は、莊據反。

晉侯烝於賈君、又不納羣公子。是以穆姬怨之。晉侯許賂中大夫、中大夫、國内執政、里・丕等。
【読み】
晉侯賈君に烝して、又羣公子を納れず。是を以て穆姬之を怨む。晉侯賂を中大夫に許して、中大夫は、國内の執政、里・丕等。

旣而皆背之。賂秦伯以河外列城五、東盡虢略、南及華山、内及解梁城。旣而不與。河外、河南也。東盡虢略、從河南而東、盡虢界也。解梁城、今河東解縣也。華山、在弘農華陰縣西南。○解、音蟹。
【読み】
旣にして皆之に背く。秦伯に賂うに河外の列城五つ、東は虢略を盡くし、南は華山に及ぶと、内は解梁城に及ぶまでとを以てす。旣にして與えず。河外は、河南なり。東は虢略を盡くすとは、河南よりして東、虢の界を盡くすなり。解梁城は、今の河東の解縣なり。華山は、弘農華陰縣の西南に在り。○解は、音蟹。

晉饑、秦輸之粟、在十三年。
【読み】
晉饑ゆるとき、秦之に粟を輸[いた]し、十三年に在り。

秦饑、晉閉之糴。在十四年。
【読み】
秦饑ゆるとき、晉之が糴[てき]を閉ず。十四年に在り。

故秦伯伐晉。
【読み】
故に秦伯晉を伐つ。

卜徒父筮之。吉。徒父、秦之掌龜卜者。卜人而用筮、不能通三易之占。故據其所見雜占而言之。
【読み】
卜徒父之を筮す。吉なり。徒父は、秦の龜卜を掌る者。卜人にして筮を用ゆれば、三易の占に通ずること能わず。故に其の見る所の雜占に據りて之を言う。

涉河、侯車敗。詰之。秦伯之軍涉河、則晉侯車敗也。秦伯不解。謂敗在己。故詰之。○詰、起吉反。
【読み】
河を涉らば、侯の車敗れん、と。之を詰[なじ]る。秦伯の軍河を涉らば、則ち晉侯の車敗れん。秦伯解せず。敗己に在りと謂[おも]う。故に之を詰る。○詰は、起吉反。

對曰、乃大吉也。三敗、必獲晉君。其卦遇蠱巽下艮上蠱。
【読み】
對えて曰く、乃ち大吉なり。三敗して、必ず晉君を獲ん。其の卦蠱に遇えり。巽下艮上は蠱なり。

曰、千乘三去。三去之餘、獲其雄狐。夫狐蠱、必其君也。於周易、利涉大川。往有事也。亦秦勝晉之卦也。今此所言、蓋卜筮書雜辭。以狐蠱爲君、其義欲以喩晉惠公。其象未聞。○去、起居反。又起據反。一起呂反。
【読み】
曰く、千乘三去す。三去の餘は、其の雄狐を獲ん、と。夫れ狐は蠱なれば、必ず其の君ならん。周易に於ては、大川を涉るに利あり。往きて事有るなり。亦秦晉に勝つの卦なり。今此の言う所は、蓋し卜筮書の雜辭ならん。狐蠱を以て君と爲すは、其の義以て晉の惠公に喩えんと欲するなり。其の象は未だ聞かず。○去は、起居反。又起據反。一に起呂反。

蠱之貞、風也。其悔、山也。内卦爲貞。外卦爲悔。巽爲風。秦象。艮爲山。晉象。
【読み】
蠱の貞は、風なり。其の悔は、山なり。内卦を貞と爲す。外卦を悔と爲す。巽を風と爲す。秦の象なり。艮を山と爲す。晉の象なり。

歲云秋矣。我落其實、而取其材。所以克也。周九月、夏之七月、孟秋也。艮爲山。山有木。今歲已秋。風吹落山木之實、則材爲人所取。
【読み】
歲云[ここ]に秋なり。我れ其の實を落して、其の材を取る。克つ所以なり。周の九月は、夏の七月、孟秋なり。艮を山と爲す。山に木有り。今歲已に秋なり。風山木の實を吹き落せば、則ち材人の爲に取らる。

實落材亡。不敗何待。
【読み】
實落ち材亡ぶ。敗れずして何をか待たん、と。

三敗及韓。晉侯車三壞。
【読み】
三たび敗れて韓に及ぶ。晉侯の車三たび壞る。

晉侯謂慶鄭曰、寇深矣。若之何。對曰、君實深之。可若何。公曰、不孫。卜右。慶鄭吉。弗使。惡其不孫、不以爲車右。此夷吾之多忌。○孫、音遜。
【読み】
晉侯慶鄭に謂いて曰く、寇深し。之を若何にせん、と。對えて曰く、君實に之を深くす。若何にす可けん、と。公曰く、不孫なり、と。右を卜す。慶鄭吉なり。使わず。其の不孫を惡みて、以て車右と爲さず。此れ夷吾の多忌なり。○孫は、音遜。

步揚御戎、家僕徒爲右、步揚、郤犨之父。
【読み】
步揚戎に御となり、家僕徒右と爲り、步揚は、郤犨[げきしゅう]の父。

乘小駟。鄭入也。鄭所獻馬。名小駟。
【読み】
小駟に乘る。鄭の入れしなり。鄭の獻ずる所の馬。小駟と名づく。

慶鄭曰、古者大事、必乘其產。生其水土、而知其人心、安其敎訓、而服習其道。唯所納之、無不如志。今乘異產、以從戎事。及懼而變、將與人易。變易人意。
【読み】
慶鄭曰く、古者[いにしえ]大事には、必ず其の產に乘る。其の水土に生じて、其の人心を知り、其の敎訓に安んじて、其の道に服習す。唯之を納るる所のままにして、志の如くならざること無し。今は異產に乘りて、以て戎事に從わんとす。懼るるに及びて變ぜば、將に人と易わらんとす。人意に變易す。

亂氣狡憤、陰血周作、張脈僨興。外彊中乾。狡、戾也。僨、動也。氣狡憤於外、則血脈必周身而作、隨氣張動。外雖有彊形、而内實乾竭。○憤、扶粉反。張、中亮反。僨、方問反。
【読み】
亂氣狡憤すれば、陰血周作して、張脈僨興す。外彊きも中乾く。狡は、戾[もと]るなり。僨は、動くなり。氣外に狡憤すれば、則ち血脈必ず身を周りて作り、氣に隨いて張動す。外彊形有りと雖も、而れども内實に乾竭す。○憤は、扶粉反。張は、中亮反。僨は、方問反。

進退不可、周旋不能。君必悔之。弗聽。
【読み】
進退可ならず、周旋能わず。君必ず之を悔いん、と。聽かず。

九月、晉侯逆秦師。使韓簡視師。韓簡、晉大夫韓萬之孫。
【読み】
九月、晉侯秦の師を逆[むか]う。韓簡をして師を視せしむ。韓簡は、晉の大夫韓萬の孫。

復曰、師少於我、鬭士倍我。公曰、何故。對曰、出因其資、謂奔梁求秦。
【読み】
復して曰く、師は我より少なくして、鬭士は我に倍せり、と。公曰く、何の故ぞ、と。對えて曰く、出づるとき其の資に因り、梁に奔りて秦に求むるを謂う。

入用其寵、爲秦所納。
【読み】
入るとき其の寵を用い、秦の爲に納れらる。

饑食其粟。三施而無報。是以來也。今又擊之。我怠秦奮。倍猶未也。公曰、一夫不可狃。況國乎。狃、也。言辟秦則使來。○施、式氏反。、時世反。又時設反。
【読み】
饑ゆるとき其の粟を食いぬ。三たび施して報ゆること無し。是を以て來れり。今又之を擊つ。我は怠り秦は奮う。倍すというも猶未だし、と。公曰く、一夫も狃れしむ可からず。況んや國をや、と。狃[じゅう]は、[な]れるなり。言うこころは、秦を辟けば則ちれ來らしめん。○施は、式氏反。[せつ]は、時世反。又時設反。
は、立心偏に犬とある。

遂使請戰、曰、寡人不佞。能合其衆、而不能離也。君若不還、無所逃命。秦伯使公孫枝對曰、君之未入、寡人懼之。入而未定列、猶吾憂也。列、位也。
【読み】
遂に戰を請わしめて、曰く、寡人不佞なり。能く其の衆を合わせて、離つこと能わざるなり。君若し還らずんば、命を逃るる所無し、と。秦伯公孫枝をして對えしめて曰く、君の未だ入らざるや、寡人之を懼れぬ。入りて未だ列を定めざるや、猶吾が憂えなりき。列は、位なり。

苟列定矣。敢不承命。韓簡退曰、吾幸而得囚。得囚爲幸。言必敗。
【読み】
苟も列定りぬ。敢えて命を承けざらんや、と。韓簡退いて曰く、吾れ幸いにして囚わるることを得ん、と。囚わるることを得るを幸いとす。必ず敗るるを言う。

壬戌、戰于韓原。九月十三日。
【読み】
壬戌、韓原に戰う。九月十三日。

晉戎馬還、濘而止。濘、泥也。還、便旋也。小駟不調。故隋泥中。○濘、乃定反。隋、大果反。
【読み】
晉の戎馬還し、濘にして止まる。濘は、泥なり。還は、便旋なり。小駟調わず。故に泥中に隋[お]つ。○濘は、乃定反。隋は、大果反。

公號慶鄭。慶鄭曰、愎諫違卜、愎、戾也。○號、戶刀反。又戶報反。
【読み】
公慶鄭を號[よ]ぶ。慶鄭曰く、諫めに愎[もと]り卜に違い、愎は、戾るなり。○號は、戶刀反。又戶報反。

固敗是求。又何逃焉。遂去之。
【読み】
固より敗を是れ求めり。又何ぞ逃れん、と。遂に之を去る。

梁由靡御韓簡、虢射爲右、輅秦伯、將止之、輅、迎也。止、獲也。○輅、五嫁反。
【読み】
梁由靡韓簡に御となり、虢射右と爲り、秦伯を輅[むか]えて、將に之を止[え]んとするを、輅は、迎うなり。止は、獲るなり。○輅は、五嫁反。

鄭以救公誤之、遂失秦伯。秦獲晉侯以歸。經書十一月壬戌。十四日。經從赴。
【読み】
鄭公を救えというを以て之を誤らせ、遂に秦伯を失う。秦晉侯を獲て以[い]て歸る。經は十一月壬戌に書す。十四日なり。經は赴[つ]ぐるに從うなり。

晉大夫反首拔舍從之。反首、亂頭髮下垂也。拔、草。舍、止。壞形毀服。○拔、蒲末反。
【読み】
晉の大夫反首拔舍して之に從う。反首は、頭髮を亂して下り垂るるなり。拔は、草。舍は、止まる。形を壞り服を毀るなり。○拔は、蒲末反。

秦伯使辭焉、曰、二三子何其慼也。寡人之從君而西也、亦晉之妖夢是踐。豈敢以至。狐突不寐、而與神言。故謂之妖夢。申生言、帝許罰有罪。今將晉君而西、以厭息此語。踐、厭也。○厭、於冉反。又於輒反。
【読み】
秦伯辭せしめて、曰く、二三子何ぞ其れ慼[うれ]うるや。寡人が君に從いて西するや、亦晉の妖夢を是れ踐[お]さんとなり。豈敢えて以て至らんや、と。狐突寐ずして、神と言う。故に之を妖夢と謂う。申生言う、帝有罪を罰するを許す、と。今晉君を將いて西するは、以て此の語を厭息せんとなり。踐は、厭[お]すなり。○厭は、於冉反。又於輒反。

晉大夫三拜稽首曰、君履后土而戴皇天。皇天后土實聞君之言。羣臣敢在下風。
【読み】
晉の大夫三拜稽首して曰く、君后土を履みて皇天を戴く。皇天后土實に君の言を聞けり。羣臣敢えて下風に在り、と。

穆姬聞晉侯將至、以大子罃・弘、與女簡璧、登臺而履薪焉、罃、康公名。弘、其母弟也。簡璧、罃・弘姊妹。古之宮閉者、皆居之臺抗絕之。穆姬欲自罪。故登臺而荐之以薪。左右上下者、皆履柴乃得通。○罃、於耕反。
【読み】
穆姬晉侯の將に至らんとするを聞き、大子罃[おう]・弘と、女簡璧とを以[い]て、臺に登りて薪を履み、罃は、康公の名。弘は、其の母弟なり。簡璧は、罃・弘の姊妹。古の宮閉ずる者は、皆之を臺に居[お]きて之を抗絕す。穆姬自ら罪せんと欲す。故に臺に登りて之を荐[かこ]うに薪を以てす。左右の上下する者、皆柴を履みて乃ち通ずることを得。○罃は、於耕反。

使以免服衰絰逆、且告、免・衰・絰、遭喪之服。令行人服此服迎秦伯、且告將以恥辱自殺。○免、音問。衰、七雷反。絰、大結反。
【読み】
以て免[ぶん]して衰絰[さいてつ]を服して逆[むか]え、且つ告げしめて、免・衰・絰は、喪に遭うの服。行人をして此の服を服して秦伯を迎えしめ、且將に恥辱を以て自殺せんとするを告ぐ。○免は、音問。衰は、七雷反。絰は、大結反。

曰、上天降災、使我兩君、匪以玉帛相見、而以興戎。若晉君朝以入、則婢子夕以死。夕以入、則朝以死。唯君裁之。乃舍諸靈臺。在京兆鄠縣。周之故臺。亦所以抗絕令不得通外内。
【読み】
曰く、上天災いを降して、我が兩君をして、玉帛を以て相見ゆるに匪ずして、以て戎を興さしむ。若し晉君朝に以て入らば、則ち婢子夕に以て死なん。夕に以て入らば、則ち朝に以て死なん。唯君之を裁せよ、と。乃ち諸を靈臺に舍く。京兆鄠縣に在り。周の故臺なり。亦抗絕して外内を通ずることを得ざらしむる所以なり。

大夫請以入。公曰、獲晉侯、以厚歸也。旣而喪歸焉用之。若將晉侯入、則夫人或自殺。
【読み】
大夫以[い]て入らんと請う。公曰く、晉侯を獲るは、厚を以て歸るなり。旣にして喪をもて歸らんこと焉んぞ之を用いん。若し晉侯を將いて入らば、則ち夫人或は自殺せん。

大夫其何有焉。何有、猶何得。
【読み】
大夫其れ何か有らん。何か有らんとは、猶何をか得んというがごとし。

且晉人慼憂以重我、謂反首拔舍。
【読み】
且つ晉人慼憂以て我に重ね、反首拔舍を謂う。

天地以要我。不圖晉憂、重其怒也。我食吾言、背天地也。食、消也。○重、直用反。
【読み】
天地以て我に要す。晉の憂えを圖らざるは、其の怒りを重ぬるなり。我れ吾が言を食[け]すは、天地に背くなり。食は、消すなり。○重は、直用反。

重怒難任、背天不祥。必歸晉君。任、當也。○任、音壬。
【読み】
怒りを重ぬれば任[た]え難く、天に背くは不祥なり。必ず晉君を歸さん、と。任は、當たるなり。○任は、音壬。

公子縶曰、不如殺之。無聚慝焉。公子縶、秦大夫。恐夷吾歸、復相聚爲惡。○縶、張執反。慝、他得反。
【読み】
公子縶[ちゅう]曰く、之を殺すに如かず。聚慝せしむること無かれ、と。公子縶は、秦の大夫。恐らくは、夷吾歸らば、復相聚まりて惡を爲さん。○縶は、張執反。慝は、他得反。

子桑曰、歸之而質其大子、必得大成。晉未可滅。而殺其君、祗以成惡。祗、適也。○質、音置。祗、音支。
【読み】
子桑曰く、之を歸して其の大子を質にせば、必ず大成を得ん。晉は未だ滅ぼす可からず。而るを其の君を殺さば、祗[まさ]に以て惡を成さん。祗は、適になり。○質は、音置。祗は、音支。

且史佚有言曰、無始禍。史佚、周武王時大史。名、佚。
【読み】
且つ史佚[しいつ]言えること有り曰く、禍を始むること無かれ。史佚は、周の武王の時の大史。名は、佚。

無怙亂。恃人亂爲己利。
【読み】
亂を怙[たの]むこと無かれ。人の亂を恃みて己が利とす。

無重怒。重怒難任、陵人不祥。乃許晉平。
【読み】
怒りを重ぬること無かれ、と。怒りを重ぬれば任え難く、人を陵ぐは不祥なり、と。乃ち晉の平らぎを許す。

晉侯使郤乞告瑕呂飴甥、且召之。郤乞、晉大夫也。瑕呂飴甥、卽呂甥也。蓋姓、瑕呂。名、飴甥。字、子金。晉侯聞秦將許之平。故告呂甥、召使迎己。○飴、音怡。
【読み】
晉侯郤乞[げきこつ]をして瑕呂飴甥[かりょいせい]に告げ、且つ之を召さしむ。郤乞は、晉の大夫なり。瑕呂飴甥は、卽ち呂甥なり。蓋し姓は、瑕呂。名は、飴甥。字は、子金ならん。晉侯秦の將に之に平らぎを許さんとするを聞く。故に呂甥に告げて、召して己を迎えしむ。○飴は、音怡。

子金敎之言曰、朝國人、而以君命賞、恐國人不從。故先賞之於朝。
【読み】
子金之に言を敎えて曰く、國人を朝せしめて、君命を以て賞し、國人の從わざるを恐る。故に先ず之を朝に賞す。

且告之曰、孤雖歸、辱社稷矣。其卜貳圉也。貳、代也。圉、惠公大子、懷公。
【読み】
且之に告げて曰く、孤歸ると雖も、社稷を辱めたり。其れ卜して圉を貳[か]わりにせよ、と。貳は、代わるなり。圉は、惠公の大子、懷公。

衆皆哭。哀君不還國。
【読み】
衆皆哭す。君の國に還らざるを哀れむ。

晉於是乎作爰田。分公田之稅、應入公者、爰之於所賞之衆。
【読み】
晉是に於て爰田[えんでん]を作る。公田の稅の、應に公に入るべき者を分かちて、之を賞する所の衆に爰[か]う。

呂甥曰、君亡之不恤、而羣臣是憂。惠之至也。將若君何。衆曰、何爲而可。對曰、征繕以輔孺子。征、賦也。繕、治也。孺子、大子圉。
【読み】
呂甥曰く、君亡を恤えずして、羣臣を是れ憂う。惠の至りなり。將に君を若何にせんとする、と。衆曰く、何を爲して可ならん、と。對えて曰く、征繕して以て孺子を輔けん。征は、賦なり。繕は、治むるなり。孺子は、大子圉。

諸侯聞之、喪君有君、羣臣輯睦、甲兵益多、好我者勸、惡我者懼。庶有益乎。衆說。晉於是乎作州兵。五黨爲州。州、二千五百家也。因此又使州長各繕甲兵。○喪、息浪反。輯、音集。又七入反。
【読み】
諸侯之を聞きしに、君を喪いて君有り、羣臣輯睦して、甲兵益々多くば、我を好する者は勸み、我を惡む者は懼れん。庶わくは益有らんか、と。衆說ぶ。晉是に於て州兵を作る。五黨を州と爲す。州は、二千五百家なり。此に因りて又州長をして各々甲兵を繕[おさ]めしむ。○喪は、息浪反。輯は、音集。又七入反。

初、晉獻公筮嫁伯姬於秦。遇歸妹 兌下震上歸妹。
【読み】
初め、晉の獻公伯姬を秦に嫁せんことを筮す。歸妹 兌下震上は歸妹。

之睽兌下離上睽。歸妹上六變而爲睽。
【読み】
[けい]に之くに遇えり。兌下離上は睽。歸妹の上六變じて睽と爲る。

史蘇占之。曰、不吉。史蘇、晉卜筮之史。
【読み】
史蘇之を占う。曰く、不吉なり。史蘇は、晉の卜筮の史。

其繇曰、士刲羊、亦無衁也、女承筐、亦無貺也。周易歸妹上六爻辭也。衁、血也。貺、賜也。刲羊、士之功。承筐、女之職。上六無應。所求不獲。故下刲無血、上承無實。不吉之象也。離爲中女、震爲長男。故稱士女。○繇、直救反。刲、苦圭反。衁、音荒。中、丁仲反。
【読み】
其の繇[ちゅう]に曰く、士羊を刲[さ]すも、亦衁[こう]無く、女筐を承くるも、亦貺[たまもの]無し、と。周易歸妹上六の爻辭なり。衁は、血なり。貺は、賜なり。羊を刲すは、士の功。筐を承くるは、女の職。上六應無し。求むる所獲ず。故に下刲すに血無く、上承くるに實無し。不吉の象なり。離を中女と爲し、震を長男と爲す。故に士女と稱す。○繇は、直救反。刲は、苦圭反。衁は、音荒。中は、丁仲反。

西鄰責言、不可償也。將嫁女於西、而遇不吉之卦。故知有責讓之言、不可報償。○鄰責、音債。又如字。償、市亮反。又音常。
【読み】
西鄰の責言は、償う可からざるなり。將に女を西に嫁せんとして、不吉の卦に遇う。故に責讓の言有り、報償す可からざるを知る。○鄰責は、音債。又字の如し。償は、市亮反。又音常。

歸妹之睽、猶無相也。歸妹、女嫁之卦。睽、乖離之象。故曰無相。相、助也。○相、息亮反。
【読み】
歸妹の睽に之くも、猶相[たす]け無きなり。歸妹は、女嫁の卦。睽は、乖離の象。故に相け無しと曰う。相は、助けなり。○相は、息亮反。

震之離、亦離之震。二卦變而氣相通。
【読み】
震離に之き、亦離震に之く。二卦變じて氣相通ず。

爲雷爲火、爲嬴敗姬。嬴、秦姓。姬、晉姓。震爲雷、離爲火。火動熾而害其母、女嫁反害其家之象。故曰爲嬴敗姬。
【読み】
雷と爲し火と爲し、嬴[えい]姬を敗ると爲す。嬴は、秦の姓。姬は、晉の姓。震を雷と爲し、離を火と爲す。火動熾して其の母を害するは、女嫁して反って其の家を害するの象なり。故に嬴姬を敗ると爲すと曰う。

車說其輹、火焚其旗。不利行師。敗于宗丘。輹、車下縛也。丘、猶邑也。震爲車、離爲火。上六爻在震則無應。故車脫輹。在離則失位。故火焚旗。言皆失車火之用也。車敗旗焚。故不利行師。火還害母。故敗不出國、近在宗邑。○說、吐活反。輹、音福。又音服。
【読み】
車其の輹を說き、火其の旗を焚く。師を行[や]るに利あらず。宗丘に敗れん。輹は、車下の縛なり。丘は、猶邑のごとし。震を車と爲し、離を火と爲す。上六の爻震に在りて則ち應無し。故に車輹を脫[と]く。離に在りては則ち位を失う。故に火旗を焚く。皆車火の用を失うを言うなり。車敗れ旗焚く。故に師を行るに利あらず。火還って母を害す。故に敗れて國を出でずして、近く宗邑に在り。○說は、吐活反。輹は、音福。又音服。

歸妹睽孤、寇張之弧。此睽上九爻辭也。處睽之極。故曰睽孤。失位孤絕。故遇寇難、而有弓矢之警。皆不吉之象。
【読み】
歸妹の睽孤、寇之が弧[ゆみ]を張る。此れ睽の上九の爻辭なり。睽の極に處る。故に睽孤と曰う。位を失い孤絕す。故に寇難に遇いて、弓矢の警め有り。皆不吉の象なり。

姪其從姑。震爲木、離爲火。火從木生。離爲震妹。於火爲姑。謂我姪者、我謂之姑。謂子圉質秦。○姪、待結反。字林、丈一反。
【読み】
姪其れ姑に從わん。震を木と爲し、離を火と爲す。火は木より生ず。離は震の妹と爲す。火に於ては姑爲り。我を姪と謂う者は、我れ之を姑と謂う。子圉秦に質たるを謂う。○姪は、待結反。字林に、丈一反。

六年其逋、逃歸其國、而弃其家。逋、亡也。家、謂子圉婦懷嬴。○逋、補吾反。
【読み】
六年其れ逋[のが]れ、其の國に逃げ歸りて、其の家を弃[す]てん。逋は、亡[のが]るるなり。家は、子圉の婦懷嬴[かいえい]を謂う。○逋は、補吾反。

明年、其死於高梁之虛。惠公死之明年、文公入殺懷公于高梁。高梁、晉地、在平陽楊氏縣西南。凡筮者用周易、則其象可推。非此而往、則臨時占者或取於象、或取於氣、或取於時日王相、以成其占。若盡附會以爻象、則構虛而不經。故略言其歸趣。他皆放此。○虛、去魚反。王、于況反。相、息亮反。
【読み】
明年、其れ高梁の虛に死せん、と。惠公死するの明年、文公入りて懷公を高梁に殺す。高梁は、晉の地、平陽楊氏縣の西南に在り。凡そ筮者周易を用ゆれば、則ち其の象推す可し。此に非ざるよりは、則ち時に臨みて占者或は象に取り、或は氣に取り、或は時日王相に取りて、以て其の占を成す。若し盡く附會するに爻象を以てせば、則ち虛を構えて不經なり。故に略々其の歸趣を言うのみ。他も皆此に放え。○虛は、去魚反。王は、于況反。相は、息亮反。

及惠公在秦、曰、先君若從史蘇之占、吾不及此夫。韓簡侍曰、龜、象也。筮、數也。物生而後有象。象而後有滋。滋而後有數。先君之敗德及。可數乎。史蘇是占、勿從何益。言龜以象示、筮以數告。象數相因而生、然後有占。占所以知吉凶、不能變吉凶。故先君敗德、非筮數所生。雖復不從史蘇、不能益禍。○夫、音扶。先君之敗德及、絕句。可數乎、一讀、及可數乎。數、色主反。復、扶又反。
【読み】
惠公の秦に在るに及びて、曰く、先君若し史蘇の占に從わば、吾れ此に及ばざらんか、と。韓簡侍して曰く、龜は、象なり。筮は、數なり。物生じて而して後に象有り。象ありて而して後に滋ること有り。滋りて而して後に數有り。先君の敗德にて及べり。數なる可けんや。史蘇の是の占、從うこと勿きも何ぞ益[ま]さん。言うこころは、龜は象を以て示し、筮は數を以て告ぐ。象數相因りて生じて、然して後に占有り。占は吉凶を知る所以にして、吉凶を變ずること能わず。故に先君の敗德は、筮數の生ずる所に非ず。復史蘇に從わずと雖も、禍を益すこと能わず。○夫は、音扶。先君之敗德及は、絕句。可數乎は、一に讀む、及可數乎(數う可きに及ばんや)、と。數は、色主反。復は、扶又反。

詩曰、下民之孼、匪降自天。僔沓背憎、職競由人。詩、小雅。言民之有邪惡、非天所降、僔沓面語、背相憎疾。皆人競所主作。因以諷諫惠公有以召此禍也。○僔、尊本反。
【読み】
詩曰く、下民の孼[わざわい]は、天より降るに匪ず。僔沓[そんとう]して背けば憎み、競うを職[つかさど]るは人に由る、と。詩は、小雅。民の邪惡有るは、天の降す所に非ず、僔沓して面語し、背いて相憎疾す。皆人の競いて主作する所なるを言う。因りて以て惠公以て此の禍を召すこと有るを諷諫す。○僔は、尊本反。

震夷伯之廟、罪之也。於是展氏有隱慝焉。隱惡、非法所得。尊貴、罪所不加。是以聖人因天地之變、自然之妖、以感動之。知達之主、則識先聖之情以自厲、中下之主、亦信妖祥以不妄、神道助敎、唯此爲深。○知、音智。
【読み】
夷伯の廟に震すとは、之を罪するなり。是に於て展氏隱慝有り。隱惡は、法の得る所に非ず。尊貴は、罪の加えざる所なり。是を以て聖人天地の變、自然の妖に因りて、以て之を感動す。知達の主は、則ち先聖の情を識りて以て自ら厲[はげ]み、中下の主も、亦妖祥を信じて以て妄りならず、神道の敎えを助くる、唯此を深しとす。○知は、音智。

冬、宋人伐曹、討舊怨也。莊十四年、曹與諸侯伐宋。
【読み】
冬、宋人曹を伐つは、舊怨を討ずるなり。莊十四年、曹諸侯と宋を伐てり。

楚敗徐于婁林、徐恃救也。恃齊救。
【読み】
楚徐を婁林に敗るは、徐救いを恃めばなり。齊の救いを恃むなり。

十月、晉陰飴甥會秦伯、盟于王城。陰飴甥、卽呂甥也。食采於陰。故曰陰飴甥。王城、秦地。馮翊臨晉縣東有王城。今名武郷。
【読み】
十月、晉の陰飴甥秦伯に會して、王城に盟う。陰飴甥は、卽ち呂甥なり。陰に食采す。故に陰飴甥と曰う。王城は、秦の地。馮翊臨晉縣の東に王城有り。今武郷と名づく。

秦伯曰、晉國和乎。對曰、不和。小人恥失其君、而悼喪其親、痛其親爲秦所殺。
【読み】
秦伯曰く、晉國和するか、と。對えて曰く、和せず。小人は其の君を失うことを恥じて、其の親を喪うことを悼み、其の親秦の爲に殺さるるを痛む。

不憚征繕以立圉也。曰、必報讎。寧事戎狄。君子愛其君而知其罪、不憚征繕以待秦命。曰、必報德。有死無二。以此不和。秦伯曰、國謂君何。對曰、小人慼謂之不免、君子恕、以爲必歸。小人曰、我毒秦。秦豈歸君。毒、謂三施不報。
【読み】
征繕を憚らずして以て圉を立てんとす。曰く、必ず讎を報いん。寧ろ戎狄に事えんや、と。君子は其の君を愛して其の罪を知り、征繕を憚らずして以て秦の命を待つ。曰く、必ず德に報いん。死すること有るとも二無からん、と。此を以て和せず、と。秦伯曰く、國君を何とか謂うや、と。對えて曰く、小人は慼えて之を免れずと謂い、君子は恕[はか]りて、以爲えらく、必ず歸らん、と。小人は曰く、我れ秦に毒せり。秦豈君を歸さんや、と。毒は、三施報いざるを謂う。

君子曰、我知罪矣。秦必歸君。貳而執之、服而舍之、德莫厚焉、刑莫威焉。服者懷德、貳者畏刑、此一役也。言還惠公、使諸侯威服、復可當一事之功。○舍、如字。又音捨。還、音環。
【読み】
君子は曰く、我れ罪を知れり。秦必ず君を歸さん。貳して之を執え、服して之を舍[ゆる]すは、德焉より厚きは莫く、刑焉より威なるは莫し。服する者德に懷き、貳ある者刑を畏れば、此れ一役なり。言うこころは、惠公を還して、諸侯をして威服せしめば、復一事の功に當たる可べし。○舍は、字の如し。又音捨。還は、音環。

秦可以霸。納而不定、廢而不立、以德爲怨、秦不其然。秦伯曰、是吾心也。改館晉侯、饋七牢焉。牛・羊・豕各一爲一牢。
【読み】
秦以て霸たる可し。納れて定めず、廢てて立てず、德を以て怨みと爲すは、秦其れ然らざらん、と。秦伯曰く、是れ吾が心なり、と。改めて晉侯を館して、七牢を饋[おく]りぬ。牛・羊・豕各一を一牢とす。

蛾析謂慶鄭曰、盍行乎。蛾析、晉大夫也。○蛾、魚綺反。一五何反。
【読み】
蛾析[ぎせき]慶鄭に謂いて曰く、盍ぞ行[さ]らざるや、と。蛾析は、晉の大夫なり。○蛾は、魚綺反。一に五何反。

對曰、陷君於敗、謂呼不往、誤晉師、失秦伯。
【読み】
對えて曰く、君を敗に陷れ、呼べども往かず、晉の師を誤らして、秦伯を失わするを謂う。

敗而不死、又使失刑、非人臣也。臣而不臣、行將焉入。十一月、晉侯歸。丁丑、殺慶鄭而後入。丁丑、月二十九日。
【読み】
敗れて死せず、又刑を失わしめば、人臣に非ざるなり。臣にして不臣なるは、行るも將に焉[いずく]に入らんとする、と。十一月、晉侯歸る。丁丑[ひのと・うし]、慶鄭を殺して而して後に入る。丁丑は、月の二十九日。

是歲晉又饑。秦伯又餼之粟。曰、吾怨其君、而矜其民。且吾聞、唐叔之封也、箕子曰、其後必大。晉其庸可冀乎。唐叔、晉始封之君。武王之子。箕子、殷王帝乙之子。紂之庶兄。○餼、許氣反。
【読み】
是の歲晉又饑ゆ。秦伯又之に粟を餼[おく]る。曰く、吾れ其の君を怨みて、其の民を矜れむ。且吾れ聞く、唐叔の封ぜられしや、箕子曰く、其の後必ず大ならん、と。晉其れ庸[もっ]て冀う可けんや。唐叔は、晉の始封の君。武王の子。箕子は、殷王帝乙の子。紂の庶兄。○餼[き]は、許氣反。

姑樹德焉、以待能者。
【読み】
姑く德を樹てて、以て能者を待たん、と。

於是秦始征晉河東、置官司焉。征、賦也。四年傳、驪姬旣與中大夫成謀。此傳、晉許賂中大夫。二中大夫、所指不同。疏無明說。
【読み】
是に於て秦始めて晉の河東を征して、官司を置けり。征は、賦なり。四年の傳に、驪姬旣に中大夫と謀を成す、と。此の傳に、晉賂を中大夫に許す、と。二りの中大夫は、指す所同じからず。疏に明說無し。



經元年。觀釁。許覲反。
傳。復入。扶又反。下文同。常準。之尹反。人潰。戶内反。撰具。一音仕轉反。州長。丁丈反。犖。一音力角反。爲魯。于僞反。無厭。於鹽反。汶陽。音問。萊蕪。音來。
經二年。見經。賢遍反。貫。古亂反。
傳。宮之奇。其宜反。伐鄍。亡丁反。以說。音悅。賄故。呼罪反。惡貪。烏路反。故爲。于僞反。下同。貂。音彫。豎。上主反。擅貴。時戰反。漏洩。息列反。又以制反。
經三年。下邳。皮悲反。僮。音童。廬江。力居反。
傳。爲陽。于僞反。鄭難。乃旦反。囿。音又。
經四年。召陵。上照反。傳皆同。濤塗。音桃。與謀。音預。下同。
傳。所近。附近之近。大公。音泰。注同。公奭。音釋。夾輔。古洽反。舊古協反。夸。苦瓜反。齊竟。音境。下同。不共。本亦作供。下及注同。縮。所六反。裹。音果。菁。子丁反。苞匭。音軌。本或作包軌。○今本亦包軌。守。手又反。溺。乃歷反。水濱。音賓。故復。扶又反。之好。呼報反。下及注同。之費。芳味反。郯。音談。資糧。音良。齊侯說。音悅。袞。古本反。不如。依字読。或一音而據反。攘。如羊反。薰、許云反。蕕。音由。易消。以豉反。歸胙。才故反。姬寘。之豉反。犬斃。婢世反。
經五年。惡用。烏路反。越竟。音境。自爲。于僞反。復稱。扶又反。軑。音大。言易。以豉反。
傳。而書。本或作而書雲物、非也。審別。彼列反。寘薪。之豉反。譴讓。弃戰反。焉用。於虔反。茸。如容反。又音戎。披。普皮反。不校。音敎。乃徇。似俊反。踰垣。音袁。袂。面世反。樓櫓。音魯。秋諸侯盟。本或此下更有于首止三字、非。撫女。音汝。侯復。扶又反。六年經注同。大伯。音泰。下及注同。吾享。興兩反。晉使。所吏反。不臘。力盍反。童謠。音遙。不見。賢遍反。振振。音眞。注同。鶉之。述春反。又常倫反。傅說。音悅。近日。附近之近。已上。時掌反。童齔。一音恥問反。嬉戲。許宜反。或中。丁仲反。
經六年。
傳。以見。賢遍反。各罷。扶罵反。又扶買反。絰。直結反。輿櫬。初覲反。其縛。如字。舊扶臥反。
經七年。方與。音房。泥母。一音甯。王奴兮反。
傳。何憚。徒旦反。請下。戶嫁反。朝不。如字。疵瑕。似斯反。又疾移反。罪釁。許靳反。下文同。政狹。音洽。釁隙。去逆反。覆亡。芳服反。替矣。他計反。雖復。扶又反。介於。音界。堵叔。丁古反。又音者。惡大叔。烏路反。大音泰。叔又作■(叔の俗字)
經八年。未與。音預。下同。大廟。音泰。
傳。不祔。音附。茲父。音甫。目夷長。丁丈反。
經九年。不復。扶又反。殤。式羊反。而筓。古兮反。之冠。古喚反。相比。毗志反。故重。直用反。不與。音預。殺其。如字。又音弑。傳同。公羊音試。
傳。脩好。呼報反。下于好幷注同。侯胙。才素反。一級。音急。咫尺。之氏反。顚隊。直類反。下同。○今本墜。復西。扶又反。下不復會同。縣藐。音玄。猜。七才反。焉辟。於虔反。下文焉能皆同。今復。扶又反。重發。直用反。濕。音習。易出易入。竝以豉反。不好。呼報反。長亦。丁丈反。不僭。子念反。下注同。無好。呼報反。又如字。無惡。烏路反。宋治。直吏反。
經十年。
傳。不簒。初患反。共大子。本亦作恭。故復。扶又反。下文及注同。畀秦。必利反。下注同。不歆。許金反。西偏。匹緜反。所馮。皮冰反。七乘。繩證反。山祁。巨支反。字林、上尸反。背大。音佩。
經十一年。踰閾。一音況域反。
傳。受玉惰。徒臥反。皐。古刀反。
經十二年。杵臼。昌呂反。
傳。始見。賢遍反。下同。陪臣。步回反。之使。所吏反。督。音篤。凱。本又作愷。○今本亦愷。悌。本亦作弟。凱樂。音洛。下同。悌易。以豉反。下同。不復。扶又反。
經十三年。濮。音卜。
傳。戍卒。子忽反。荐。在薦反。饑。音飢。又音機。糴。直歷反。及絳。古巷反。汎舟。芳劒反。河汾。扶云反。
經十四年。
傳。
經十五年。牡丘。茂后反。不復。扶又反。螽。音終。本亦作■(虫偏に衆)己卯晦。音悔。下邳。蒲悲反。
傳。諸夏。戶雅反。下注同。烝於。之承反。遇蠱。音古。千乘。繩證反。惡其。烏路反。小駟。音四。狡。古卯反。脈。音麥。可狃。女九反。厭息。一音於甲反。履。如字。徐本作屨。九具反。抗絕。苦浪反。荐。在薦反。上下。時掌反。絻服。又作免。音同。○今本免。令行。力呈反。下同。鄠縣。音戶。焉用。於虔反。以要。於遙反。縶。丁立反。復相。扶又反。佚。音逸。大史。音泰。怙。音古。爰田。于元反。孺。如喩反。好我。呼報反。惡我。烏路反。衆說。音悅。州長。丁丈反。下長男同。睽。苦圭反。又音圭。刲。刺割也。承筐。曲方反。無貺。音況。本亦作況。無應。應對之應。下無應同。嬴。音盈。輹。按車旁著畐、音福。老子所云、三十輻共一轂、是也。車旁著■(輹の右側)、音服。是車下伏菟。縛。如字。又扶臥反。寇難。乃旦反。警。音景。講虛。本又作構。各依字讀。○今本亦構。孼。魚列反。沓。徒合反。有邪。似嗟反。以風。方鳳反。○今本諷。不憚。徒旦反。饋。其位反。蛾。本或作蟻。晳。本或作析。同。星曆反。○今本亦析。盍行。戶臘反。焉入。於虔反。四年傳、漢以爲池。或作漢水。○今本漢水。

春秋左氏傳校本第六

僖公 起十六年盡二十六年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

〔經〕
十有六年、春、王正月、戊申、朔、隕石于宋、五。隕、落也。聞其隕視之、石。數之五。各隨其聞見先後而記之。莊七年、星隕如雨、見星之隕、而隊於四遠、若山若水、不見在地之驗。此則見在地之驗、而不見始隕之星。史各據事而書。○數、色主反。隊、直類反。
【読み】
〔經〕十有六年、春、王の正月、戊申[つちのえ・さる]、朔、宋に隕つる石あり、五つ。隕は、落つるなり。其の隕つるを聞きて之を視れば、石なり。之を數うれば五つなり。各々其の聞見の先後に隨いて之を記すなり。莊七年に、星隕ちて雨ふるは、星の隕ちて、四遠に隊[お]つるを見るに、若しくは山、若しくは水、地に在るの驗を見ず。此は則ち地に在るの驗を見て、始めて隕つるの星を見ず。史各々事に據りて書すなり。○數は、色主反。隊は、直類反。

是月、六鷁退飛、過宋都。是月、隕石之月。重言是月、嫌同日。鷁、水鳥。高飛遇風而退。宋人以爲災、告於諸侯。故書。○鷁、五歷反。過、古禾反。重、直用反。
【読み】
是の月、六鷁[げき]退飛して、宋の都を過ぐ。是の月とは、隕石の月なり。重ねて是の月と言うは、同日なるに嫌あればなり。鷁は、水鳥。高飛して風に遇いて退く。宋人以て災いと爲して、諸侯に告ぐ。故に書す。○鷁は、五歷反。過は、古禾反。重は、直用反。

三月、壬申、公子季友卒。無傳。稱字者、貴之。公與小斂。故書日。
【読み】
三月、壬申[みずのえ・さる]、公子季友卒す。傳無し。字を稱するは、之を貴ぶなり。公小斂に與る。故に日を書す。

夏、四月、丙申、鄫季姬卒。無傳。○鄫、似陵反。
【読み】
夏、四月、丙申[ひのえ・さる]、鄫[しょう]の季姬卒す。傳無し。○鄫は、似陵反。

秋、七月、甲子、公孫茲卒。無傳。
【読み】
秋、七月、甲子[きのえ・ね]、公孫茲[こうそんじ]卒す。傳無し。

冬、十有二月、公會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・邢侯・曹伯于淮。臨淮郡左右。
【読み】
冬、十有二月、公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・邢侯・曹伯に淮に會す。臨淮郡の左右ならん。

〔傳〕十六年、春、隕石于宋、五、隕星也。但言星、則嫌星使石隕。故重言隕星。
【読み】
〔傳〕十六年、春、宋に隕つる石あり、五つとは、隕星なり。但星と言えば、則ち星石をして隕ちしむるに嫌あり。故に重ねて隕星と言う。

六鷁退飛、過宋都、風也。六鷁遇迅風而退飛。風高不爲物害。故不記風之異。
【読み】
六鷁退飛して、宋の都を過ぐるは、風あればなり。六鷁迅風に遇いて退飛す。風高くして物害を爲さず。故に風の異を記せず。

周内史叔興聘于宋。宋襄公問焉、曰、是何祥也。吉凶焉在。祥、吉凶之先見者。襄公以爲、石隕鷁退、能爲禍福之始。故問其所在。
【読み】
周の内史叔興宋に聘す。宋の襄公問いて、曰く、是れ何の祥ぞや。吉凶焉[いずく]に在るや、と。祥は、吉凶の先ず見る者。襄公以爲えらく、石隕ち鷁退くは、能く禍福の始めを爲す、と。故に其の在る所を問うなり。

對曰、今茲魯多大喪。今茲、此歲。
【読み】
對えて曰く、今茲[ことし]魯に大喪多からん。今茲は、此の歲。

明年齊有亂。君將得諸侯而不終。魯喪、齊亂、宋襄公不終、別以政刑吉凶他占知之。
【読み】
明年齊に亂有らん。君將に諸侯を得て終えざらんとす、と。魯の喪、齊の亂、宋の襄公の終えざるは、別に政刑吉凶の他占を以て之を知るならん。

退而告人曰、君失問。是陰陽之事。非吉凶所生也。言石隕鷁退、陰陽錯逆所爲。非人所生。襄公不知陰陽、而問人事。故曰君失問。叔興自爲、對非其實。恐爲有識所譏。故退而告人。
【読み】
退いて人に告げて曰く、君問を失えり。是れ陰陽の事なり。吉凶の生ずる所に非ざるなり。言うこころは、石隕ち鷁退くは、陰陽錯逆の爲す所。人の生ずる所に非ず。襄公陰陽を知らずして、人事を問う。故に君問を失えりと曰う。叔興自爲[おも]えらく、對其の實に非ず。恐れらくは有識の爲に譏られん、と。故に退いて人に告ぐ。

吉凶由人。吾不敢逆君故也。積善餘慶、積惡餘殃。故曰吉凶由人。君問吉凶。不敢逆之。故假他占以對。
【読み】
吉凶は人に由る。吾れ敢えて君に逆わざる故なり、と。積善は餘慶、積惡は餘殃。故に吉凶は人に由ると曰う。君吉凶を問う。敢えて之に逆わず。故に他占を假りて以て對う。

夏、齊伐厲。不克。救徐而還。十五年、齊伐厲以救徐。
【読み】
夏、齊厲を伐つ。克たず。徐を救いて還る。十五年、齊厲を伐ちて以て徐を救う。

秋、狄侵晉、取狐廚・受鐸、涉汾及昆都。因晉敗也。狐廚・受鐸・昆都、晉三邑。平陽臨汾縣西北有狐谷亭。汾水出大原、南入河。
【読み】
秋、狄晉を侵して、狐廚[こちゅう]・受鐸を取り、汾を涉[わた]りて昆都に及ぶ。晉の敗に因りてなり。狐廚・受鐸・昆都は、晉の三邑。平陽臨汾縣の西北に狐谷亭有り。汾水は大原に出でて、南して河に入る。

王以戎難告于齊。齊徵諸侯而戍周。十一年、戎伐京師以來、遂爲王室難。
【読み】
王戎の難を以て齊に告ぐ。齊諸侯を徵して周を戍らしむ。十一年、戎京師を伐ちしより以來、遂に王室の難を爲す。

冬、十一月、乙卯、鄭殺子華。終管仲之言。事在七年。
【読み】
冬、十一月、乙卯[きのと・う]、鄭子華を殺す。管仲の言を終うる。事は七年に在り。

十二月、會于淮、謀鄫、且東略也。鄫爲淮夷所病故。
【読み】
十二月、淮に會するは、鄫[しょう]を謀り、且東略するなり。鄫淮夷の爲に病ましめらる故なり。

城鄫。役人病。有夜登丘而呼、曰、齊有亂。不果城而還。役人遇厲氣、不堪久駐。故作妖言。○呼、火故反。還、音旋。
【読み】
鄫に城く。役人病む。夜丘に登りて呼ぶもの有りて、曰く、齊に亂有らん、と。城くことを果たさずして還る。役人厲氣に遇いて、久しく駐[とど]まるに堪えず。故に妖言を作す。○呼は、火故反。還は、音旋。


〔經〕十有七年、春、齊人・徐人伐英氏。夏、滅項。項國、今汝陰項縣。公在會、別遣師滅項。不言師、諱之。
【読み】
〔經〕十有七年、春、齊人・徐人英氏を伐つ。夏、項を滅ぼす。項國は、今汝陰の項縣。公會に在りて、別に師を遣りて項を滅ぼす。師と言わざるは、之を諱みてなり。

秋、夫人姜氏會齊侯于卞。卞、今魯國卞縣。○卞、皮彥反。
【読み】
秋、夫人姜氏齊侯に卞[べん]に會す。卞は、今の魯國の卞縣。○卞は、皮彥反。

九月、公至自會。公旣見執于齊。猶以會致者、諱之。
【読み】
九月、公會より至る。公旣に齊に執えらる。猶會を以て致すは、之を諱みてなり。

冬、十有二月、乙亥、齊侯小白卒。與僖公八同盟。赴以名。
【読み】
冬、十有二月、乙亥[きのと・い]、齊侯小白卒す。僖公と八たび同盟す。赴[つ]ぐるに名を以てす。

〔傳〕十七年、春、齊人爲徐伐英氏、以報婁林之役也。英氏、楚與國。婁林役、在十五年。
【読み】
〔傳〕十七年、春、齊人徐の爲に英氏を伐つは、以て婁林の役に報ゆるなり。英氏は、楚の與國。婁林の役は、十五年に在り。

夏、晉大子圉爲質於秦。秦歸河東而妻之。秦征河東置官司、在十五年。
【読み】
夏、晉の大子圉秦に質と爲る。秦河東を歸して之に妻す。秦河東を征して官司を置くは、十五年に在り。

惠公之在梁也、梁伯妻之。梁嬴孕過期。過十月不產。懷子曰孕。○過、古禾反。
【読み】
惠公の梁に在りしや、梁伯之に妻す。梁嬴[りょうえい]孕みて期を過ぐ。十月を過ぎて產せず。子を懷くを孕むと曰う。○過は、古禾反。

卜招父與其子卜之。卜招父、梁大卜。○招、之遙反。
【読み】
卜招父其の子と之を卜す。卜招父は、梁の大卜。○招は、之遙反。

其子曰、將生一男一女。招曰、然。男爲人臣。女爲人妾。故名男曰圉、女曰妾。圉、養馬者。不聘曰妾。
【読み】
其の子曰く、將に一男一女を生まんとす、と。招曰く、然り。男は人の臣と爲らん。女は人の妾と爲らん、と。故に男を名づけて圉と曰い、女を妾と曰う。圉は、馬を養う者。聘せざるを妾と曰う。

及子圉西質、妾爲宦女焉。宦事秦爲妾。
【読み】
子圉が西に質たるに及びて、妾は宦女と爲れり。秦に宦事して妾と爲る。

師滅項。師、魯師。
【読み】
師項を滅ぼす。師は、魯の師。

淮之會、公有諸侯之事、未歸而取項。淮會、在前年冬。諸侯事、會同講禮之事。
【読み】
淮の會に、公諸侯の事有り、未だ歸らずして項を取る。淮の會は、前年の冬に在り。諸侯の事は、會同講禮の事。

齊人以爲討而止公。内諱執皆言止。
【読み】
齊人以て討ずることを爲して公を止む。内執わるるを諱みて皆止むと言う。

秋、聲姜以公故、會齊侯于卞。聲姜、僖公夫人。齊女。
【読み】
秋、聲姜公の故を以て、齊侯に卞に會す。聲姜は、僖公の夫人。齊の女。

九月、公至。
【読み】
九月、公至る。

書曰至自會、猶有諸侯之事焉、且諱之也。恥見執。故託會以告廟。
【読み】
書して會より至ると曰うは、猶諸侯の事有るがごとくし、且之を諱みてなり。執えらるるを恥ず。故に會に託して以て廟に告ぐ。

齊侯之夫人三。王姬・徐嬴・蔡姬、皆無子。
【読み】
齊侯の夫人三たり。王姬・徐嬴[じょえい]・蔡姬、皆子無し。

齊侯好内、多内寵。内嬖如夫人者六人。長衛姬生武孟、武孟、公子無虧。○好、呼報反。
【読み】
齊侯内を好みて、内寵多し。内嬖夫人の如き者六人。長衛姬武孟を生み、武孟は、公子無虧[むき]。○好は、呼報反。

少衛姬生惠公、公子元。
【読み】
少衛姬惠公を生み、公子元。

鄭姬生孝公、公子昭。
【読み】
鄭姬孝公を生み、公子昭。

葛嬴生昭公、公子潘。
【読み】
葛嬴昭公を生み、公子潘。

密姬生懿公、公子商人。
【読み】
密姬懿公を生み、公子商人。

宋華子生公子雍。華氏之女。子姓。○華、戶化反。
【読み】
宋の華子公子雍を生む。華氏の女。子姓。○華は、戶化反。

公與管仲屬孝公於宋襄公、以爲大子。
【読み】
公管仲と孝公を宋の襄公に屬して、以て大子と爲す。

雍巫有寵於衛共姬。因寺人貂以薦羞於公。雍巫、雍人。名巫。卽易牙。○屬、音燭。共、音恭。
【読み】
雍巫衛共姬に寵有り。寺人貂[ちょう]に因りて以て羞を公に薦む。雍巫は、雍人。名は巫。卽ち易牙なり。○屬は、音燭。共は、音恭。

亦有寵。公許之立武孟。易牙旣有寵於公。爲長衛姬請立武孟。
【読み】
亦寵有り。公之に武孟を立つることを許す。易牙旣に公に寵有り。長衛姬の爲に武孟を立てんことを請う。

管仲卒、五公子皆求立。
【読み】
管仲卒して、五公子皆立たんことを求む。

冬、十月、乙亥、齊桓公卒。乙亥、月八日。
【読み】
冬、十月、乙亥、齊桓公卒す。乙亥は、月の八日。

易牙入、與寺人貂因内寵以殺羣吏、内寵、内官之有權寵者。
【読み】
易牙入り、寺人貂と内寵に因りて以て羣吏を殺して、内寵は、内官の權寵有る者。

而立公子無虧。孝公奔宋。十二月、乙亥、赴、辛巳夜、殯。六十七日乃殯。
【読み】
公子無虧を立つ。孝公宋に奔る。十二月、乙亥、赴[つ]げ、辛巳[かのと・み]の夜、殯す。六十七日にして乃ち殯す。


〔經〕十有八年、春、王正月、宋公・曹伯・衛人・邾人伐齊。納孝公。
【読み】
〔經〕十有八年、春、王の正月、宋公・曹伯・衛人・邾人[ちゅひと]齊を伐つ。孝公を納る。

夏、師救齊。無傳。
【読み】
夏、師齊を救う。傳無し。

五月、戊寅、宋師及齊師戰于甗。齊師敗績。無虧旣死、曹・衛・邾先去、魯亦罷歸。故宋師獨與齊戰。不稱宋公、不親戰也。大崩曰敗績。甗、齊地。○甗、魚免反。又音言。一音彥。
【読み】
五月、戊寅[つちのえ・とら]、宋の師齊の師と甗[げん]に戰う。齊の師敗績す。無虧旣に死し、曹・衛・邾先ず去り、魯も亦罷めて歸る。故に宋の師獨り齊と戰う。宋公と稱せざるは、親ら戰わざればなり。大いに崩るるを敗績と曰う。甗は、齊の地。○甗は、魚免反。又音言。一に音彥。

狄救齊。無傳。救四公子之徒。
【読み】
狄齊を救う。傳無し。四公子の徒を救う。

秋、八月、丁亥、葬齊桓公。十一月而葬、亂故。八月無丁亥。日誤。
【読み】
秋、八月、丁亥[ひのと・い]、齊の桓公を葬る。十一月にして葬るは、亂の故なり。八月に丁亥無し。日の誤りならん。

冬、邢人・狄人伐衛。狄稱人者、史異辭。傳無義例。
【読み】
冬、邢人・狄人衛を伐つ。狄人と稱するは、史の異辭なり。傳に義例無し。

〔傳〕十八年、春、宋襄公以諸侯伐齊。三月、齊人殺無虧。以說宋。○說、音悅。又如字。
【読み】
〔傳〕十八年、春、宋の襄公諸侯を以[い]て齊を伐つ。三月、齊人無虧[むき]を殺す。以宋に說く。○說は、音悅。又字の如し。

鄭伯始朝于楚。中國無霸故。
【読み】
鄭伯始めて楚に朝す。中國に霸無き故なり。

楚子賜之金。旣而悔之、與之盟曰、無以鑄兵。楚金利故。
【読み】
楚子之に金を賜う。旣にして之を悔い、之と盟いて曰く、以て兵を鑄ること無かれ、と。楚の金利なる故なり。

故以鑄三鍾。古者以銅爲兵。傳言楚無霸者遠略。
【読み】
故に以て三鍾を鑄れり。古は銅を以て兵と爲す。傳、楚に霸者の遠略無きを言う。

齊人將立孝公、不勝四公子之徒、遂與宋人戰。無虧已死。故曰四公子。○勝、音升。又升證反。
【読み】
齊人將に孝公を立てんとすれども、四公子の徒に勝えずして、遂に宋人と戰う。無虧已に死す。故に四公子と曰う。○勝は、音升。又升證反。

夏、五月、宋敗齊師于甗、立孝公而還。
【読み】
夏、五月、宋齊の師を甗に敗りて、孝公を立てて還る。

秋、八月、葬齊桓公。孝公立而後得葬。
【読み】
秋、八月、齊の桓公を葬る。孝公立ちて而して後に葬ることを得。

冬、邢人・狄人伐衛、圍菟圃。衛侯以國讓父兄子弟及朝衆、曰、苟能治之、燬請從焉。燬、衛文公名。○菟、音徒。
【読み】
冬、邢人・狄人衛を伐ち、菟圃[とほ]を圍む。衛侯國を以て父兄子弟と朝衆とに讓りて、曰く、苟も能く之を治めば、燬[き]請う從わん、と。燬は、衛の文公の名。○菟は、音徒。

衆不可。不聽衛侯讓。
【読み】
衆可[き]かず。衛侯の讓るを聽かず。

而後師于訾婁。陳師訾婁。訾婁、衛邑。○訾、子斯反。婁、郎句反。又郎鈎反。
【読み】
而して後訾婁[しろう]に師す。師を訾婁に陳ぬ。訾婁は、衛の邑。○訾は、子斯反。婁は、郎句反。又郎鈎反。

狄師還。獨言狄還、則邢留距衛。言邢所以終爲衛所滅。
【読み】
狄の師還る。獨狄還ると言うは、則ち邢留まりて衛を距ぐなり。邢終に衛の爲に滅さるる所以を言う。

梁伯益其國而不能實也。多築城邑、而無民以實之。
【読み】
梁伯其の國を益して實つること能わざるなり。多く城邑を築きて、民の以て之に實つること無し。

命曰新里。秦取之。
【読み】
命[な]づけて新里と曰う。秦之を取る。


〔經〕十有九年、春、王三月、宋人執滕子嬰齊。稱人以執、宋以罪及民告。例在成十五年。傳例不以名爲義。書名及不書名、皆從赴。
【読み】
〔經〕十有九年、春、王の三月、宋人滕子嬰齊を執う。人と稱して以て執うるは、宋罪の民に及ぶを以て告ぐればなり。例は成十五年に在り。傳例は名を以て義と爲さず。名を書すと名を書さぜるとは、皆赴[つ]ぐるに從う。

夏、六月、宋公・曹人・邾人盟于曹南。無傳。曹雖與盟、而猶不服、不肯致餼、無地主之禮。故不以國地、而曰曹南。所以及秋而見圍。
【読み】
夏、六月、宋公・曹人・邾人[ちゅひと]曹の南に盟う。傳無し。曹盟に與ると雖も、而れども猶服せず、肯えて餼[き]を致さず、地主の禮無し。故に國を以て地せずして、曹の南と曰う。秋に及びて圍まるる所以なり。

鄫子會盟于邾。不及曹南之盟、諸侯旣罷、鄫乃會之於邾。故不言如會。
【読み】
鄫子[しょうし]邾に會盟す。曹南の盟に及ばずして、諸侯旣に罷めて、鄫乃ち之に邾に會す。故に會に如くと言わず。

己酉、邾人執鄫子用之。稱人以執、宋以罪及民告也。鄫雖失大國會盟之信、然宋用之、爲罰已虐。故直書用之。言若用畜產也。不書社、赴不及也。不書宋使邾、而以邾自用爲文、南面之君、善惡自專、不得託之於他命。○畜、許又反。
【読み】
己酉[つちのと・とり]、邾人鄫子を執えて之を用ゆ。人と稱して以て執うるは、宋罪の民に及ぶを以て告ぐればなり。鄫大國會盟の信を失うと雖も、然れども宋之を用ゆるは、罰を爲すこと已[はなは]だ虐[むご]きなり。故に直に之を用ゆと書す。畜產を用ゆるが若きを言うなり。社を書さざるは、赴ぐること及ばざればなり。宋邾をしてと書せずして、邾自ら用ゆるを以て文を爲すは、南面の君は、善惡自ら專らにすれば、之を他命に託することを得ざればなり。○畜は、許又反。

秋、宋人圍曹。衛人伐邢。伐邢、在圍曹前。經書在後、從赴。
【読み】
秋、宋人曹を圍む。衛人邢を伐つ。邢を伐つは、曹を圍むの前に在り。經に書して後に在るは、赴ぐるに從うなり。

冬、會陳人・蔡人・楚人・鄭人盟于齊。地於齊、齊亦與盟。
【読み】
冬、陳人・蔡人・楚人・鄭人に會して齊に盟う。齊に地するは、齊も亦盟に與るなり。

梁亡。以自亡爲文、非取者之罪。所以惡梁。
【読み】
梁亡ぶ。自ら亡ぶるを以て文を爲すは、取る者の罪に非ず。梁を惡む所以なり。

〔傳〕十九年、春、遂城而居之。承前年傳取新里。故不復言秦也。爲此冬梁亡傳。
【読み】
〔傳〕十九年、春、遂に城きて之に居る。前年の傳の新里を取るを承く。故に復秦と言わざるなり。此の冬梁亡ぶる爲の傳なり。

宋人執滕宣公。
【読み】
宋人滕の宣公を執う。

夏、宋公使邾文公、用鄫子于次睢之社、欲以屬東夷。睢水、受汴、東經陳留・梁・譙・沛彭城縣入泗。此水次有妖神、東夷皆社祠之。蓋殺人而用祭。○睢、音雖。屬、朱欲反。
【読み】
夏、宋公邾の文公をして、鄫子を次睢[じすい]の社に用いしめ、以て東夷を屬しめんと欲す。睢水は、汴[べん]を受け、東して陳留・梁・譙[しょう]・沛彭城縣を經て泗に入る。此の水次に妖神有り、東夷皆之を社祠す。蓋し人を殺して祭に用ゆるならん。○睢は、音雖。屬は、朱欲反。

司馬子魚曰、古者六畜不相爲用。司馬子魚、公子目夷也。六畜不相爲用、謂若祭馬先不用馬。○畜、許又反。
【読み】
司馬子魚曰く、古は六畜も相爲に用いず。司馬子魚は、公子目夷なり。六畜相爲に用いざるは、馬先を祭るに馬を用いざるが若きを謂う。○畜は、許又反。

小事不用大牲。而況敢用人乎。祭祀以爲人也。民、神之主也。用人、其誰饗之。
【読み】
小事に大牲を用いず。而るを況んや敢えて人を用いんや。祭祀は以て人の爲なり。民は、神の主なり。人を用いば、其れ誰か之を饗[う]けん。

齊桓公存三亡國、以屬諸侯、三亡國、魯・衛・邢。
【読み】
齊の桓公三亡國を存して、以て諸侯を屬しめしも、三亡國は、魯・衛・邢。

義士猶曰薄德。謂欲因亂取魯、緩救邢・衛。
【読み】
義士猶薄德と曰えり。亂に因りて魯を取らんと欲し、緩く邢・衛を救いしを謂う。

今一會而虐二國之君、宋公三月、以會召諸侯執滕子、六月而會盟、其月二十二日、執鄫子。故云一會而虐二國之君。
【読み】
今一會にして二國の君を虐げ、宋公三月、會を以て諸侯を召して滕子を執え、六月にして會盟し、其の月二十二日、鄫子を執う。故に一會にして二國の君を虐ぐと云う。

又用諸淫昏之鬼、非周社故。
【読み】
又諸を淫昏の鬼に用いて、周の社に非ざる故なり。

將以求霸、不亦難乎。得死爲幸。恐其亡國。
【読み】
將に以て霸を求めんとするは、亦難からずや。死を得るを幸いとせん、と。其の國を亡ぼさんことを恐る。

秋、衛人伐邢、以報菟圃之役。邢不速退。所以獨見伐。
【読み】
秋、衛人邢を伐つは、以て菟圃の役に報ゆるなり。邢速やかに退かず。獨り伐たるる所以なり。

於是衛大旱。卜有事於山川。不吉。有事、祭。
【読み】
是に於て衛大旱す。山川に事有らんことを卜す。不吉なり。事有りとは、祭なり。

甯莊子曰、昔周饑、克殷而年豐。今邢方無道、諸侯無伯。伯、長也。
【読み】
甯莊子[ねいそうし]曰く、昔周饑えしとき、殷に克ちて年豐なりき。今邢方に無道にして、諸侯伯無し。伯は、長なり。

天其或者欲使衛討邢乎。從之。師興而雨。
【読み】
天其れ或は衛をして邢を討ぜしめんと欲するか、と。之に從う。師興りて雨ふる。

宋人圍曹、討不服也。曹南盟、不脩地主之禮故。
【読み】
宋人曹を圍むは、服せざるを討ずるなり。曹南の盟に、地主の禮を脩めざる故なり。

子魚言於宋公曰、文王聞崇德亂而伐之。軍三旬而不降。崇、崇侯虎。
【読み】
子魚宋公に言いて曰く、文王崇德の亂るを聞きて之を伐つ。軍三旬にして降らず。崇は、崇侯虎。

退脩敎而復伐之、因壘而降。復往攻之、備不改前、而崇自服。○復、扶又反。
【読み】
退きて敎えを脩めて復之を伐てば、壘に因りて降りき。復往きて之を攻め、備え前を改めずして、崇自ら服す。○復は、扶又反。

詩曰、刑于寡妻、至于兄弟、以御于家邦。詩、大雅。言文王之敎、自近及遠。寡妻、嫡妻。謂大姒也。刑、法也。○御、如字。治也。詩五嫁反。迎也。
【読み】
詩に曰く、寡妻に刑[のり]あり、兄弟に至り、以て家邦を御[おさ]む、と。詩は、大雅。言うこころは、文王の敎え、近きより遠きに及ぶなり。寡妻は、嫡妻。大姒を謂うなり。刑は、法なり。○御は、字の如し。治むるなり。詩には五嫁反。迎うなり。

今君德無乃猶有所闕。而以伐人、若之何。盍姑内省德乎。無闕而後動。
【読み】
今君の德乃ち猶闕くる所有ること無からんや。而るを以て人を伐つは、之を若何。盍ぞ姑く内に德を省みざる。闕くること無くして而して後に動け、と。

陳穆公請脩好於諸侯、以無忘齊桓之德。冬、盟于齊、脩桓公之好也。宋襄暴虐。故思齊桓。
【読み】
陳の穆公好を諸侯に脩めて、以て齊桓の德を忘るること無からんことを請う。冬、齊に盟うは、桓公の好を脩むるなり。宋襄暴虐。故に齊桓を思う。

梁亡。不書其主、自取之也。不書取梁者主名。
【読み】
梁亡ぶ。其の主を書さざるは、自ら之を取れるなり。梁を取る者の主名を書せず。

初、梁伯好土功、亟城而弗處。民罷而弗堪、則曰、某寇將至。乃溝公宮、溝、塹。○亟、欺冀反。罷、音皮。
【読み】
初め、梁伯土功を好み、亟[しば]々城きて處らず。民罷[つか]れて堪えざれば、則ち曰く、某の寇將に至らんとす、と。乃ち公宮に溝ほらんとして、溝は、塹。○亟は、欺冀反。罷は、音皮。

曰、秦將襲我。民懼而潰。秦遂取梁。下曰訛言。林似誤。溝宮、見昭廿三年。
【読み】
曰、秦將に我を襲わんとす、と。民懼れて潰[つい]ゆ。秦遂に梁を取る。下の曰は訛言。林誤れるに似たり。溝宮は、昭廿三年に見ゆ。


〔經〕二十年、春、新作南門。魯城南門也。本名稷門。僖公更高大之。今猶不與諸門同、改名高門也。言新、以易舊。言作、以興事。皆更造之文也。
【読み】
〔經〕二十年、春、新たに南門を作る。魯城の南門なり。本稷門と名づく。僖公更めて之を高大にす。今猶諸門と同じからずして、改めて高門と名づくなり。新たと言うは、以て舊に易うるなり。作ると言うは、以て事を興すなり。皆更造の文なり。

夏、郜子來朝。無傳。郜、姬姓國。○郜、古報反。
【読み】
夏、郜子[こうし]來朝す。傳無し。郜は、姬姓の國。○郜は、古報反。

五月、乙巳、西宮災。無傳。西宮、公別宮也。天火曰災。例在宣十六年。
【読み】
五月、乙巳[きのと・み]、西宮災あり。傳無し。西宮は、公の別宮なり。天火を災と曰う。例は宣十六年に在り。

鄭人入滑。入例在襄十三年。○滑、干八反。
【読み】
鄭人滑に入る。入るの例は襄十三年に在り。○滑は、干八反。

秋、齊人・狄人盟于邢。冬、楚人伐隨。
【読み】
秋、齊人・狄人邢に盟う。冬、楚人隨を伐つ。

〔傳〕二十年、春、新作南門、書不時也。失土功之時。
【読み】
〔傳〕二十年、春、新たに南門を作るは、時ならざるを書すなり。土功の時を失う。

凡啓塞從時。門戶道橋謂之啓、城郭牆塹謂之塞。皆官民之開閉、不可一日而闕。故特隨壞時而治之。今僖公修飾城門。非開閉之急。故以土功之制譏之。傳嫌啓塞皆從土功之時。故別起從時之例。
【読み】
凡そ啓塞のみ時に從う。門戶道橋之を啓と謂い、城郭牆塹之を塞と謂う。皆官民の開閉、一日も闕く可からず。故に特に壞るる時に隨いて之を治む。今僖公城門を修飾す。開閉の急に非ず。故に土功の制を以て之を譏る。傳啓塞も皆土功に時に從うに嫌あり。故に別に時に從うの例を起こす。

滑人叛鄭而服於衛。夏、鄭公子士・洩堵寇帥師入滑。公子士、鄭文公子。洩堵寇、鄭大夫。○洩、息列反。
【読み】
滑人鄭に叛きて衛に服す。夏、鄭の公子士・洩堵寇[せつとこう]師を帥いて滑に入る。公子士は、鄭の文公の子。洩堵寇は、鄭の大夫。○洩は、息列反。

秋、齊・狄盟于邢、爲邢謀衛難也。於是衛方病邢。
【読み】
秋、齊・狄邢に盟うは、邢の爲に衛の難を謀るなり。是に於て衛方に邢を病ましむ。

隨以漢東諸侯叛楚。冬、楚鬭穀於菟帥師伐隨、取成而還。
【読み】
隨漢東の諸侯を以[い]て楚に叛く。冬、楚鬭穀於菟[とうどうおと]師を帥いて隨を伐ち、成[たい]らぎを取りて還る。

君子曰、隨之見伐、不量力也。量力而動、其過鮮矣。善敗由己。而由人乎哉。詩曰、豈不夙夜。謂行多露。詩、召南。言豈不欲早暮而行。懼多露之濡己。以喩違禮而行、必有汙辱。是亦量宜相時而動之義。○穀、奴口反。於、音烏。菟、音徒。
【読み】
君子曰、隨の伐たるるは、力を量らざればなり。力を量りて動けば、其の過ち鮮し。善敗は己に由る。人に由らんや。詩に曰く、豈夙夜せざらんや。行[みち]の露多きを謂[おも]いてなり、と。詩は、召南。言うこころは、豈早暮にして行くことを欲せざらんや。多露の己を濡らさんことを懼る。以て禮に違いて行かば、必ず汙辱有るに喩う。是も亦宜を量り時を相[み]て動くの義なり。○穀は、奴口反。於は、音烏。菟は、音徒。

宋襄公欲合諸侯。臧文仲聞之曰、以欲從人則可。屈己之欲、從衆之善。
【読み】
宋の襄公諸侯を合わせんと欲す。臧文仲之を聞きて曰く、欲を以て人に從えば則ち可なり。己が欲を屈して、衆の善に從う。

以人從欲鮮濟。爲明年、鹿上盟傳。
【読み】
人を以て欲に從えんとするは濟[な]ること鮮し、と。明年、鹿上の盟の爲の傳なり。


〔經〕二十有一年、春、狄侵衛。無傳。爲邢故。
【読み】
〔經〕二十有一年、春、狄衛を侵す。傳無し。邢の爲の故なり。

宋人・齊人・楚人盟于鹿上。鹿上、宋地。汝陰有原鹿縣。宋爲盟主。故在齊人上。
【読み】
宋人・齊人・楚人鹿上に盟う。鹿上は、宋の地。汝陰に原鹿縣有り。宋盟主爲り。故に齊人の上に在り。

夏、大旱。雩不獲雨。故書旱。自夏及秋、五稼皆不收。
【読み】
夏、大旱す。雩[う]して雨を獲ず。故に旱を書す。夏より秋に及び、五稼皆收まらず。

秋、宋公・楚子・陳侯・蔡侯・鄭伯・許男・曹伯會于盂。盂、宋地。楚始與中國行會禮。故稱爵。
【読み】
秋、宋公・楚子・陳侯・蔡侯・鄭伯・許男・曹伯盂[う]に會す。盂は、宋の地。楚始めて中國と會禮を行う。故に爵を稱す。

執宋公以伐宋。不言楚執宋公者、宋無德而爭盟、爲諸侯所疾。故總見衆國共執之文。
【読み】
宋公を執えて以て宋を伐つ。楚宋公を執うると言わざるは、宋德無くして盟を爭い、諸侯の爲に疾[にく]まる。故に衆國共に執うるを總べ見すの文なり。

冬、公伐邾。無傳。爲邾滅須句故。○句、其倶反。傳同。
【読み】
冬、公邾[ちゅ]を伐つ。傳無し。邾須句[しゅこう]を滅ぼす爲の故なり。○句は、其倶反。傳同じ。

楚人使宜申來獻捷。無傳。獻宋捷也。不言宋者、秋伐宋、冬來獻捷、事不異年、從可知。不稱楚子、使來不稱君命行禮。
【読み】
楚人宜申をして來りて捷を獻ぜしむ。傳無し。宋の捷を獻ずるなり。宋と言わざるは、秋宋を伐ち、冬來りて捷を獻じて、事年を異にせざれば、從りて知る可ければなり。楚子と稱せざるは、使來りて君命を稱して禮を行わざればなり。

十有二月、癸丑、公會諸侯盟于薄、釋宋公。諸侯旣與楚共伐宋、宋服。故爲薄盟以釋之。公本無會期。聞盟而往。故書公會諸侯。
【読み】
十有二月、癸丑[みずのと・うし]、公諸侯に會して薄に盟い、宋公を釋[ゆる]す。諸侯旣に楚と共に宋を伐ち、宋服す。故に薄の盟を爲して以て之を釋す。公本會期無し。盟を聞ききて往く。故に公諸侯に會すと書す。

〔傳〕二十一年、春、宋人爲鹿上之盟、以求諸侯於楚。楚人許之。公子目夷曰、小國爭盟、禍也。宋其亡乎。幸而後敗。謂軍敗。
【読み】
〔傳〕二十一年、春、宋人鹿上の盟を爲して、以て諸侯を楚に求む。楚人之を許す。公子目夷曰く、小國盟を爭うは、禍なり。宋其れ亡びんか。幸いにして後に敗れん。軍の敗るるを謂う。

夏、大旱。公欲焚巫尪。巫尪、女巫也。主祈禱請雨者。或以爲尪非巫也。瘠病之人、其面上向。俗謂天哀其病、恐雨入其鼻。故爲之旱。是以公欲焚之。○尪、烏黃反。
【読み】
夏、大旱す。公巫尪[ふおう]を焚かんと欲す。巫尪は、女巫なり。祈禱をして雨を請うことを主る者。或は以爲えらく、尪は巫に非ざるなり。瘠病の人、其の面上に向かう。俗に謂う、天其の病を哀れみ、雨の其の鼻に入らんことを恐る。故に之が爲に旱す、と。是を以て公之を焚かんと欲す。○尪は、烏黃反。

臧文仲曰、非旱備也。脩城郭、貶食、省用、務穡、勸分、穡、儉也。勸分、有無相濟。○貶、彼檢反。
【読み】
臧文仲曰く、旱の備えに非ざるなり。城郭を脩め、食を貶[おと]し、用を省き、穡を務め、分を勸むる、穡は、儉なり。分を勸むるは、有無相濟[すく]うなり。○貶は、彼檢反。

此其務也。巫尪何爲。天欲殺之、則如勿生。若能爲旱、焚之滋甚。公從之。是歲也、饑而不害。不傷害民。
【読み】
此れ其の務めなり。巫尪何をかせん。天之を殺さんと欲せば、則ち生ずること勿きに如かんや。若し能く旱を爲さば、之を焚けば滋々甚だしからん、と。公之に從う。是の歲や、饑えて害せざりき。民を傷害せず。

秋、諸侯會宋公于盂。子魚曰、禍其在此乎。君欲已甚。其何以堪之。於是楚執宋公以伐宋。冬、會于薄以釋之。子魚曰、禍猶未也。未足以懲君。爲二十二年、戰泓傳。
【読み】
秋、諸侯宋公に盂に會す。子魚曰く、禍其れ此に在らんか。君の欲已甚[はなは]だし。其れ何を以て之に堪えん、と。是に於て楚宋公を執えて以て宋を伐つ。冬、薄に會して以て之を釋す。子魚曰く、禍猶未だし。未だ以て君を懲らすに足らず、と。二十二年、泓[おう]に戰う爲の傳なり。

任・宿・須句・顓臾、風姓也。實司大暤與有濟之祀、司、主也。大暤、伏羲。四國、伏羲之後。故主其祀。任、今任城縣也。顓臾、在泰山南武陽縣東北。須句、在東平須昌縣西北。四國封近於濟。故世祀之。○任、音壬。暤、胡老反。濟、子禮反。
【読み】
任・宿・須句[しゅこう]・顓臾[せんゆ]は、風姓なり。實に大暤[たいこう]と有濟との祀を司りて、司は、主るなり。大暤は、伏羲。四國は、伏羲の後。故に其の祀を主る。任は、今の任城縣なり。顓臾は、泰山の南武陽縣の東北に在り。須句は、東平須昌縣の西北に在り。四國の封は濟に近し。故に世々之を祀る。○任は、音壬。暤は、胡老反。濟は、子禮反。

以服事諸夏。與諸夏同服王事。
【読み】
以て諸夏に服事せり。諸夏と同じく王事に服す。

邾人滅須句。須句子來奔、因成風也。須句、成風家。
【読み】
邾人須句を滅ぼす。須句子來奔するは、成風に因るなり。須句は、成風の家。

成風爲之言於公曰、崇明祀、保小寡、周禮也。明祀、大暤・有濟之祀。保、安也。○爲、于僞反。
【読み】
成風之が爲に公に言いて曰く、明祀を崇め、小寡を保んずるは、周の禮なり。明祀は、大暤・有濟の祀。保は、安んずるなり。○爲は、于僞反。

蠻夷猾夏、周禍也。此邾滅須句。而曰蠻夷、昭二十三年、叔孫豹曰、邾又夷也。然則邾雖曹姓之國、迫近諸戎、雜用夷禮。故極言之。猾夏、亂諸夏。
【読み】
蠻夷夏を猾[みだ]るは、周の禍なり。此れ邾須句を滅ぼすなり。而るに蠻夷と曰うは、昭二十三年、叔孫豹曰く、邾は又夷なり、と。然らば則ち邾は曹姓の國と雖も、諸戎に迫近して、夷禮を雜え用ゆるならん。故に極めて之を言うなり。夏を猾るとは、諸夏を亂るなり。

若封須句、是崇皞・濟而脩祀、紓禍也。紓、解也。爲明年、伐邾傳。○紓、音舒。
【読み】
若し須句を封ぜば、是れ皞・濟を崇めて祀を脩め、禍を紓[と]くなり。紓は、解くなり。明年、邾を伐つ爲の傳なり。○紓は、音舒。


〔經〕二十有二年、春、公伐邾、取須句。須句雖別國、而削弱不能自通、爲魯私屬、若顓臾之比。魯謂之社稷之臣。故滅奔及反其君、皆略不備書、唯書伐邾取須句。
【読み】
〔經〕二十有二年、春、公邾[ちゅ]を伐ち、須句[しゅこう]を取る。須句別國と雖も、而れども削弱にして自ら通ずること能わず、魯の私屬と爲りて、顓臾の比の若し。魯之を社稷の臣と謂う。故に滅び奔ると其の君を反すと、皆略して備に書せず、唯邾を伐ちて須句を取ると書すのみ。

夏、宋公・衛侯・許男・滕子伐鄭。秋、八月、丁未、及邾人戰于升陘。升陘、魯地。邾人縣公冑于魚門。故深恥之不言公、又不言師敗績。
【読み】
夏、宋公・衛侯・許男・滕子鄭を伐つ。秋、八月、丁未[ひのと・ひつじ]、邾人と升陘に戰う。升陘は、魯の地。邾人公の冑を魚門に縣[か]く。故に深く之を恥じて公と言わず、又師敗績すと言わず。

冬、十有一月、己巳、朔、宋公及楚人戰于泓。宋師敗績。泓、水名。宋伐鄭、楚救之。故戰也。楚告命不以主帥人數。故略稱人。
【読み】
冬、十有一月、己巳[つちのと・み]、朔、宋公楚人と泓[おう]に戰う。宋の師敗績す。泓は、水の名。宋鄭を伐ち、楚之を救う。故に戰うなり。楚の告命主帥人數を以てせず。故に略して人と稱す。

〔傳〕二十二年、春、伐邾、取須句、反其君焉。禮也。得恤寡小之禮。
【読み】
〔傳〕二十二年、春、邾を伐ち、須句を取り、其の君を反す。禮なり。寡小を恤むの禮を得たり。

三月、鄭伯如楚。夏、宋公伐鄭。子魚曰、所謂禍在此矣。怒鄭至楚。故伐之。爲下泓戰起。
【読み】
三月、鄭伯楚に如く。夏、宋公鄭を伐つ。子魚曰く、所謂禍は此に在り、と。鄭の楚に至るを怒る。故に之を伐つ。下の泓の戰の爲の起なり。

初、平王之東遷也、周幽王爲犬戎所滅。平王嗣立。故東遷洛邑。
【読み】
初め、平王の東遷するや、周の幽王犬戎の爲に滅ぼさる。平王嗣ぎ立つ。故に東して洛邑に遷る。

辛有適伊川、見被髮而祭於野者。辛有、周大夫。伊川、周地。伊水也。
【読み】
辛有伊川に適き、被髮して野に祭る者を見る。辛有は、周の大夫。伊川は、周の地。伊水なり。

曰、不及百年、此其戎乎。其禮先亡矣。被髮而祭、有象夷狄。
【読み】
曰く、百年に及ばずして、此れ其れ戎とならんか。其の禮先ず亡びたり、と。被髮して祭るは、夷狄に象ること有り。

秋、秦・晉遷陸渾之戎于伊川。允姓之戎居陸渾、在秦・晉西北、二國誘而徙之伊川。遂從戎號、至今爲陸渾縣也。計此去辛有過百年。而云不及百年、傳舉其事驗。不必其年信。○渾、戶門反。一胡困反。
【読み】
秋、秦・晉陸渾の戎を伊川に遷す。允姓の戎陸渾に居り、秦・晉の西北に在りしを、二國誘いて之を伊川に徙[うつ]す。遂に戎の號に從いて、今に至るまで陸渾縣と爲れり。計るに此れ辛有を去ること百年を過ぐ。而るに百年に及ばずと云うは、傳其の事の驗を舉ぐ。其の年の信を必とせざるなり。○渾は、戶門反。一に胡困反。

晉大子圉爲質於秦。將逃歸、謂嬴氏曰、與子歸乎。嬴氏、秦所妻子圉懷嬴也。○質、音致。妻、七計反。
【読み】
晉大子圉秦に質爲り。將に逃歸せんとし、嬴氏[えいし]に謂いて曰く、子と歸らんか、と。嬴氏は、秦の子圉に妻す所の懷嬴なり。○質は、音致。妻は、七計反。

對曰、子晉大子、而辱於秦。子之欲歸、不亦宜乎。寡君之使婢子侍執巾櫛、婢子、婦人之卑稱也。○櫛、側乙反。稱、尺證反。
【読み】
對えて曰く、子は晉の大子にして、秦に辱めらる。子の歸らんと欲するは、亦宜ならずや。寡君の婢子をして侍りて巾櫛を執らしむるは、婢子は、婦人の卑稱なり。○櫛は、側乙反。稱は、尺證反。

以固子也。從子而歸、棄君命也。不敢從。亦不敢言。
【読み】
以て子を固くせんとなり。子に從いて歸らば、君命を棄つるなり。敢えて從わず。亦敢えて言わじ、と。

遂逃歸。傳終史蘇之占。
【読み】
遂に逃歸す。傳史蘇の占を終うる。

富辰言於王曰、請召大叔。富辰、周大夫。大叔、王子帶。十二年奔齊。
【読み】
富辰王に言いて曰く、請う、大叔を召[よ]べ。富辰は、周の大夫。大叔は、王子帶。十二年齊に奔る。

詩曰、協比其鄰、昏姻孔云。詩、小雅。言王者爲政、先和協近親、則昏姻甚相歸附也。鄰、猶近也。孔、甚也。云、旋也。
【読み】
詩曰く、其の鄰に協比すれば、昏姻孔[はなは]だ云[めぐ]る、と。詩は、小雅。言うこころは、王者の政を爲す、先ず近親を和協すれば、則ち昏姻甚だ相歸附す。鄰は、猶近きがごとし。孔は、甚だなり。云は、旋るなり。

吾兄弟之不協、焉能怨諸侯之不睦。王說。
【読み】
吾が兄弟も協わずして、焉ぞ能く諸侯の睦まじからざるを怨みん、と。王說ぶ。

王子帶自齊復歸于京師、王召之也。傳終仲孫湫之言也。爲二十四年、天王出居于鄭起。○湫、子小反。
【読み】
王子帶齊より京師に復歸するは、王之を召すなり。傳仲孫湫[ちゅうそんしょう]の言を終うるなり。二十四年、天王出でて鄭に居る爲の起なり。○湫は、子小反。

邾人以須句故出師。公卑邾、不設備而禦之。卑、小也。○禦、魚呂反。
【読み】
邾人須句の故を以て師を出だす。公邾を卑しみ、備えを設けずして之を禦ぐ。卑は、小なり。○禦は、魚呂反。

臧文仲曰、國無小。不可易也。無備、雖衆不可恃也。詩曰、戰戰兢兢、如臨深淵、如履薄冰。詩、小雅。言常戒懼。
【読み】
臧文仲曰く、國に小無し。易[あなど]る可からざるなり。備え無くば、衆と雖も恃む可からざるなり。詩に曰く、戰戰兢兢として、深淵に臨むが如く、薄冰を履むが如し、と。詩は、小雅。常に戒懼するを言う。

又曰、敬之敬之。天惟顯思。顯、明也。思、猶辭也。
【読み】
又曰く、之を敬せよ之を敬せよ。天惟れ顯らかなり。顯は、明らかなり。思は、猶辭のごとし。

命不易哉。周頌。言有國宜敬戒。天明臨下。奉承其命甚難。
【読み】
命易からざるかな、と。周頌。言うこころは、國を有つは宜しく敬戒すべし。天下に明臨す。其の命を奉承すること甚だ難し。

先王之明德、猶無不難也、無不懼也。況我小國乎。君其無謂邾小。蠭蠆有毒。而況國乎。弗聽。
【読み】
先王の明德も、猶難しとせざること無く、懼れざること無し。況んや我が小國をや。君其れ邾を小なりと謂うこと無かれ。蠭蠆[ほうたい]も毒有り。而るを況んや國をや、と。聽かず。

八月、丁未、公及邾師戰于升陘。我師敗績。邾人獲公冑、縣諸魚門。冑、兜鍪。魚門、邾城門。
【読み】
八月、丁未、公邾の師と升陘に戰う。我が師敗績す。邾人公の冑を獲、諸を魚門に縣く。冑は、兜鍪[とうぼう]。魚門は、邾の城門。

楚人伐宋以救鄭。宋公將戰。大司馬固諫曰、天之棄商久矣。君將興之、弗可。赦也已。大司馬固、莊公之孫、公孫固也。言君興天所棄。必不可也。不如赦楚勿與戰。
【読み】
楚人宋を伐ちて以て鄭を救う。宋公將に戰わんとす。大司馬固諫めて曰く、天の商を棄つること久し。君將に之を興こさんとするは、可ならず。赦さんのみ、と。大司馬固は、莊公の孫、公孫固なり。言うこころは、君天の棄つる所を興さんとす。必ず不可なり。楚を赦して與に戰うこと勿きに如かず。

弗聽。
【読み】
聽かず。

冬、十一月、己巳、朔、宋公及楚人戰于泓。宋人旣成列。楚人未旣濟。未盡渡泓水。
【読み】
冬、十一月、己巳、朔、宋公楚人と泓に戰わんとす。宋人旣に列を成す。楚人未だ旣[ことごと]く濟[わた]らず。未だ盡く泓水を渡らず。

司馬曰、子魚也。
【読み】
司馬曰く、子魚なり。

彼衆我寡。及其未旣濟也、請擊之。公曰、不可。旣濟而未成列。又以告。公曰、未可。旣陳而後擊之。宋師敗績。公傷股、門官殲焉。門官、守門者。師行則在君左右。殲、盡也。○陳、直覲反。殲、將廉反。
【読み】
彼は衆く我は寡し。其の未だ旣く濟らざるに及びて、請う之を擊たん、と。公曰く、不可なり、と。旣く濟りて未だ列を成さず。又以て告ぐ。公曰く、未だ可ならず、と。旣に陳して而して後に之を擊つ。宋の師敗績す。公股を傷つき、門官殲[つ]きたり。門官は、門を守る者。師行けば則ち君の左右に在り。殲は、盡くなり。○陳は、直覲反。殲は、將廉反。

國人皆咎公。公曰、君子不重傷、不禽二毛。二毛、頭白有二色。
【読み】
國人皆公を咎む。公曰く、君子は傷を重ねず、二毛を禽にせず。二毛は、頭白くして二色有るなり。

古之爲軍也、不以阻隘也。不因阻隘以求勝。
【読み】
古の軍を爲すや、阻隘を以てせず。阻隘に因りて以て勝を求めず。

寡人雖亡國之餘、宋、商紂之後。
【読み】
寡人亡國の餘と雖も、宋は、商紂の後。

不鼓不成列。恥以詐勝。
【読み】
列を成さざるに鼓うたず、と。詐[いつわ]りを以て勝つを恥ず。

子魚曰、君未知戰。勍敵之人、隘而不列、天贊我也。勍、强也。言楚在險隘、不得陳列、天所以佐宋。
【読み】
子魚曰く、君未だ戰を知らず。勍敵[けいてき]の人、隘にして列せざるは、天の我を贊くるなり。勍は、强きなり。言うこころは、楚險隘に在りて、陳列を得ざるは、天宋を佐くる所以なり。

阻而鼓之、不亦可乎。猶有懼焉。雖因阻擊之、猶恐不勝。
【読み】
阻にして之を鼓うたば、亦可ならざらんや。猶懼れ有り。阻に因りて之を擊つと雖も、猶勝たざるを恐る。

且今之勍者、皆吾敵也。雖及胡耇、獲則取之。何有於二毛。今勍者、謂與吾競者。胡耇、元老之稱。
【読み】
且つ今の勍[つよ]き者は、皆吾が敵なり。胡耇[ここう]に及ぶと雖も、獲ば則ち之を取らん。二毛に何か有らん。今の勍き者とは、吾と競う者を謂う。胡耇は、元老の稱。

明恥敎戰、求殺敵也。明設刑戮、以恥不果。
【読み】
恥を明らかにし戰を敎ゆるは、敵を殺すことを求むるなり。明らかに刑戮を設けて、以て不果を恥ず。

傷未及死、如何勿重。言尙能害己。
【読み】
傷つくも未だ死に及ばざれば、如何ぞ重ぬること勿けんや。言うこころは、尙能く己を害す。

若愛重傷、則如勿傷。愛其二毛、則如服焉。言苟不欲傷殺敵人、則本可不須鬭。
【読み】
若し傷を重ぬるを愛せば、則ち傷つくること勿きに如かんや。其の二毛を愛せば、則ち服するに如かんや。言うこころは、苟も敵人を傷殺することを欲せずんば、則ち本より鬭を須いざる可し。

三軍以利用也、爲利興。
【読み】
三軍は利を以て用い、利の爲に興す。

金鼓以聲氣也。鼓以佐士衆之聲氣。
【読み】
金鼓は聲を以て氣をす。鼓以て士衆の聲氣を佐く。

利而用之、阻隘可也。聲盛致志、鼓儳可也。儳、巖未整陳。○儳、仕銜反。
【読み】
利にして之を用いば、阻隘も可なり。聲盛んにして志を致さば、儳[ざん]に鼓うつも可なり、と。儳は、巖にして未だ陳を整えず。○儳は、仕銜反。

丙子晨、鄭文夫人羋氏・姜氏勞楚子於柯澤。楚子還、過鄭。鄭文公夫人羋氏、楚女。姜氏、齊女也。柯澤、鄭地。○羋、彌爾反。勞、力報反。
【読み】
丙子[ひのえ・ね]の晨、鄭文の夫人羋氏[びし]・姜氏楚子を柯澤に勞う。楚子還りて、鄭を過ぐ。鄭の文公の夫人羋氏は、楚の女。姜氏は、齊の女なり。柯澤は、鄭の地。○羋は、彌爾反。勞は、力報反。

楚子使師縉示之俘馘。師縉、楚樂師也。俘、所得囚。馘、所截耳。
【読み】
楚子師縉[ししん]をして之に俘馘[ふかく]を示さしむ。師縉は、楚の樂師なり。俘は、得る所の囚。馘は、截る所の耳。

君子曰、非禮也。婦人送迎不出門。見兄弟不踰閾。閾、門限。○閾、音域。又況域反。
【読み】
君子曰く、禮に非ざるなり。婦人は送迎門を出でず。兄弟に見ゆるに閾[しきい]を踰えず。閾[よく]は、門限。○閾は、音域。又況域反。

戎事不邇女器。邇、近也。器、物也。言俘馘非近婦人之物。
【読み】
戎事は女に邇づくる器ならず、と。邇は、近きなり。器は、物なり。俘馘は婦人に近づくる物に非ざるを言う。

丁丑、楚子入饗于鄭。爲鄭所饗。
【読み】
丁丑[ひのと・うし]、楚子入りて鄭に饗せらる。鄭の爲に饗せらる。

九獻、用上公之禮、九獻酒而禮畢。
【読み】
九獻、上公の禮を用い、九たび酒を獻じて禮畢るなり。

庭實旅百、庭中所陳品數百也。
【読み】
庭實旅百、庭中陳ぬる所の品數百なり。

加籩豆六品。食物六品、加於籩豆。籩豆、禮食器。
【読み】
加籩豆六品あり。食物六品、籩豆に加う。籩豆は、禮食の器。

饗畢、夜出。文羋送于軍。取鄭二姬以歸。二姬、文羋女也。
【読み】
饗畢りて、夜出づ。文羋軍に送る。鄭の二姬を取りて以[い]て歸る。二姬は、文羋の女なり。

叔詹曰、楚王其不沒乎。不以壽終。
【読み】
叔詹[しゅくせん]曰く、楚王其れ沒[おわ]らざらんか。壽を以て終わらず。

爲禮卒於無別。無別、不可謂禮。將何以沒。
【読み】
禮を爲して別無きに卒る。別無きは、禮と謂う可からず。將[はた]何を以て沒らん、と。

諸侯是以知其不遂霸也。言楚子所以師敗城濮、終爲商臣所弑。○別、彼列反。
【読み】
諸侯是を以て其の霸を遂げざるを知れり。楚子、師城濮に敗れ、終に商臣の爲に弑せらるる所以を言う。○別は、彼列反。


〔經〕二十有三年、春、齊侯伐宋、圍緡。緡、宋邑。高平昌邑縣東南有東緡城。○緡、亡巾反。
【読み】
〔經〕二十有三年、春、齊侯宋を伐ち、緡[びん]を圍む。緡は、宋の邑。高平昌邑縣の東南に東緡城有り。○緡は、亡巾反。

夏、五月、庚寅、宋公茲父卒。三同盟。
【読み】
夏、五月、庚寅[かのえ・とら]、宋公茲父[じほ]卒す。三たび同盟す。

秋、楚人伐陳。冬、十有一月、杞子卒。傳例曰、不書名、未同盟也。杞入春秋稱侯。莊二十七年、絀稱伯。至此用夷禮、貶稱子。○絀、勑律反。
【読み】
秋、楚人陳を伐つ。冬、十有一月、杞子卒す。傳例に曰く、名を書さざるは、未だ同盟せざればなり、と。杞春秋に入りて侯と稱す。莊二十七年、絀[しりぞ]けられて伯と稱す。此に至りて夷の禮を用ゆれば、貶[おと]して子と稱す。○絀[ちゅつ]は、勑律反。

〔傳〕二十三年、春、齊侯伐宋、圍緡、以討其不與盟于齊也。十九年、盟于齊、以無忘桓公之德。而宋獨不會、復召齊人、共盟鹿上。故今討之。○與、音預。
【読み】
〔傳〕二十三年、春、齊侯宋を伐ち、緡を圍むは、以て其の齊に盟いしに與らざるを討ずるなり。十九年、齊に盟い、以て桓公の德を忘るること無けん、と。而るに宋獨り會せず、復齊人を召して、共に鹿上に盟う。故に今之を討ず。○與は、音預。

夏、五月、宋襄公卒。傷於泓故也。終子魚之言得死爲幸。
【読み】
夏、五月、宋の襄公卒す。泓[おう]に傷つくが故なり。子魚の死を得るを幸いとすと言うを終うる。

秋、楚成得臣帥師伐陳、討其貳於宋也。成得臣、子玉也。
【読み】
秋、楚の成得臣師を帥いて陳を伐つは、其の宋に貳あるを討ずるなり。成得臣は、子玉なり。

遂取焦・夷、城頓而還。焦、今譙縣也。夷、一名城父。今譙郡城父縣。二地皆陳邑。頓國、今汝陰南頓縣。
【読み】
遂に焦・夷を取り、頓に城きて還る。焦は、今の譙[しょう]縣なり。夷、一名は城父。今の譙郡城父縣。二地は皆陳の邑。頓國は、今の汝陰南頓縣。

子文以爲之功、使爲令尹。叔伯曰、子若國何。叔伯、楚大夫、薳呂臣也。以爲子玉不任令尹。○薳、爲彼反。任、音壬。
【読み】
子文以て之が功と爲し、令尹爲らしむ。叔伯曰く、子國を若何、と。叔伯は、楚の大夫、薳呂臣[いりょしん]なり。以爲えらく、子玉令尹に任えず、と。○薳は、爲彼反。任は、音壬。

對曰、吾以靖國也。夫有大功而無貴仕、貴仕、貴位。
【読み】
對えて曰く、吾は以て國を靖んぜんとなり。夫れ大功有りて貴仕無くして、貴仕は、貴位。

其人能靖者與。有幾。言必矜功爲亂。不可不賞。○與、音餘。幾、居豈反。
【読み】
其の人能く靖んずる者あらんや。幾ばく有らんや、と。言うこころは、必ず功に矜[ほこ]りて亂を爲さん。賞せざる可からず。○與は、音餘。幾は、居豈反。

九月、晉惠公卒。經在明年、從赴。
【読み】
九月、晉の惠公卒す。經明年に在るは、赴[つ]ぐるに從うなり。

懷公命無從亡人。懷公、子圉。亡人、重耳。
【読み】
懷公命ずらく、亡人に從うこと無かれ。懷公は、子圉。亡人は、重耳。

期期而不至、無赦。狐突之子毛及偃、從重耳在秦。弗召。偃、子犯也。○期期、上如字。下音基。從、才用反。
【読み】
期を期して至らずんば、赦すこと無からん、と。狐突の子毛と偃と、重耳に從いて秦に在り。召さず。偃は、子犯なり。○期期は、上は字の如し。下は音基。從は、才用反。

冬、懷公執狐突曰、子來則免。未期而執突、以不召子故。
【読み】
冬、懷公狐突を執えて曰く、子來らば則ち免[ゆる]さん、と。未だ期ならずして突を執うるは、子を召さざるの故を以てなり。

對曰、子之能仕、父敎之忠。古之制也。策名委質、貳乃辟也。名書於所臣之策、屈膝而君事之、則不可以貳。辟、罪也。○質、如字。辟、婢亦反。
【読み】
對えて曰く、子の能く仕うるは、父之に忠を敎ゆればなり。古の制なり。名を策し質を委[ま]げて、貳あるは乃ち辟[つみ]なり。名臣たる所の策に書して、膝を屈めて之に君とし事うるときは、則ち以て貳ある可からず。辟は、罪なり。○質は、字の如し。辟は、婢亦反。

今臣之子、名在重耳、有年數矣。若又召之、敎之貳也。父敎子貳、何以事君。刑之不濫、君之明也。臣之願也。淫刑以逞、誰則無罪。臣聞命矣。乃殺之。
【読み】
今臣の子、名重耳に在ること、年數有り。若し又之を召さば、之に貳を敎ゆるなり。父子に貳を敎えば、何を以て君に事えん。刑の濫りならざるは、君の明なり。臣の願いなり。淫刑して以て逞しくせんとせば、誰か則ち罪無からん。臣命を聞けり、と。乃ち之を殺す。

卜偃稱疾不出。曰、周書有之、乃大明服。周書、康誥。言君能大明則民服。
【読み】
卜偃疾と稱して出でず。曰く、周書に之れ有り、乃ち大いに明らかなれば服す、と。周書は、康誥。言うこころは、君能く大いに明らかなれば則ち民服す。

己則不明、而殺人以逞。不亦難乎。民不見德、而唯戮是聞。其何後之有。言懷公必無後於晉。爲二十四年、殺懷公張本。
【読み】
己則ち不明にして、人を殺して以て逞しくす。亦難からずや。民德を見ずして、唯戮を是れ聞く。其れ何ぞ後の有らんや、と。言うこころは、懷公必ず晉に後無からん。二十四年、懷公を殺す爲の張本なり。

十一月、杞成公卒。書曰子、杞夷也。成公始行夷禮、以終其身。故於卒貶之。杞實稱伯。仲尼以文貶稱子。故傳言書曰子、以明之。
【読み】
十一月、杞の成公卒す。書して子と曰うは、杞、夷すればなり。成公始めて夷禮を行いて、以て其の身を終うる。故に卒するに於て之を貶す。杞實は伯と稱す。仲尼文を以て貶して子と稱す。故に傳書して子と曰うと言いて、以て之を明らかにす。

不書名、未同盟也。凡諸侯同盟、死則赴以名。禮也。隱七年已見。今重發不書名者、疑降爵故也。此凡、又爲國史承告而書例。
【読み】
名を書さざるは、未だ同盟せざればなり。凡そ諸侯同盟すれば、死すれば則ち赴[つ]ぐるに名を以てす。禮なり。隱七年に已に見ゆ。今重ねて名を書さざるを發するは、爵を降すに疑いある故なり。此の凡は、又國史告ぐるを承けて書す爲の例なり。

赴以名、則亦書之。謂未同盟。
【読み】
赴ぐるに名を以てすれば、則ち亦之を書す。未だ同盟せざるを謂う。

不然則否。謂同盟而不以名告。
【読み】
然らざれば則ち否[しか]せず。同盟して名を以て告げざるを謂う。

辟不敏也。敏、猶審也。同盟然後告名、赴者之禮也。承赴然後書策、史官之制也。内外之宜不同。故傳重詳其義。
【読み】
不敏を辟[さ]くるなり。敏は、猶審らかのごとし。同盟して然して後に名を告ぐるは、赴者の禮なり。赴を承けて然して後に策に書すは、史官の制なり。内外の宜同じからず。故に傳重ねて其の義を詳らかにす。

晉公子重耳之及於難也、晉人伐諸蒲城。事在五年。
【読み】
晉の公子重耳の難に及べるや、晉人諸を蒲城に伐つ。事五年に在り。

蒲城人欲戰。重耳不可。曰、保君父之命、而享其生祿、享、受也。保、猶恃也。
【読み】
蒲城の人戰わんことを欲す。重耳可[き]かず。曰く、君父の命を保[たの]みて、其の生祿を享け、享は、受くるなり。保は、猶恃むのごとし。

於是乎得人、以祿致衆。
【読み】
是に於て人を得、祿を以て衆を致す。

有人而校、罪莫大焉。校、報也。
【読み】
人有りて校[むく]いば、罪焉より大なるは莫し。校は、報ゆるなり。

吾其奔也。遂奔狄。
【読み】
吾れ其れ奔らん、と。遂に狄に奔る。

從者狐偃・趙衰・ 衰、趙夙弟。
【読み】
從者は狐偃・趙衰[ちょうし]・ 衰は、趙夙の弟。

顚頡・魏武子・ 武子、魏犫。○頡、戶結反。犫、尺由反。
【読み】
顚頡[てんけつ]・魏武子・ 武子は、魏犫[ぎしゅう]。○頡は、戶結反。犫は、尺由反。

司空季子。胥臣臼季也。時狐毛・賈佗皆從。而獨舉此五人、賢而有大功。○臼、其九反。
【読み】
司空季子なり。胥臣臼季なり。時に狐毛・賈佗皆從う。而るに獨此の五人を舉ぐるは、賢にして大功有ればなり。○臼は、其九反。

狄人伐廧咎如、廧咎如、赤狄之別種也。隗姓。○廧、在良反。咎、古刀反。隗、五罪反。下同。
【読み】
狄人廧咎如[しょうこうじょ]を伐ち、廧咎如は、赤狄の別種なり。隗[かい]姓なり。○廧は、在良反。咎は、古刀反。隗は、五罪反。下も同じ。

獲其二女叔隗・季隗、納諸公子。公子取季隗、生伯鯈・叔劉。以叔隗妻趙衰。生盾。盾、趙宣子。○鯈、直由反。妻、七計反。盾、徒本反。
【読み】
其の二女叔隗[しゅくかい]・季隗を獲て、諸を公子に納る。公子季隗を取[めと]りて、伯鯈[はくちゅう]・叔劉を生む。叔隗を以て趙衰に妻す。盾[とん]を生む。盾は、趙宣子。○鯈は、直由反。妻は、七計反。盾は、徒本反。

將適齊、謂季隗曰、待我二十五年。不來而後嫁。對曰、我二十五年矣。又如是而嫁、則就木焉。言將死入木。不復成嫁。
【読み】
將に齊に適かんとして、季隗に謂いて曰く、我を待つこと二十五年なれ。來らずして而して後に嫁せよ、と。對えて曰く、我は二十五年なり。又是の如くにして嫁せんとせば、則ち木に就かん。言うこころは、將に死して木に入らんとす。復嫁を成さじ。

請待子。處狄十二年而行。以五年奔狄、至十六年而去。
【読み】
請う、子を待たん、と。狄に處ること十二年にして行[さ]る。五年を以て狄に奔り、十六年に至りて去る。

過衛。衛文公不禮焉。出於五鹿。五鹿、衛地。今衛縣西北有地、名五鹿。陽平元城縣東亦有五鹿。
【読み】
衛を過ぐ。衛の文公禮せず。五鹿に出づ。五鹿は、衛の地。今の衛縣の西北に地有り、五鹿と名づく。陽平元城縣の東にも亦五鹿有り。

乞食於野人。野人與之塊。公子怒。欲鞭之。子犯曰、天賜也。得土、有國之祥。故以爲天賜。○塊、苦對反。又苦怪反。
【読み】
食を野人に乞う。野人之に塊を與う。公子怒る。之を鞭たんと欲す。子犯曰く、天の賜なり、と。土を得るは、國を有つの祥なり。故に以て天賜と爲す。○塊は、苦對反。又苦怪反。

稽首受而載之。
【読み】
稽首して受けて之を載す。

及齊。齊桓公妻之。有馬二十乘。四馬爲乘。八十匹也。
【読み】
齊に及ぶ。齊の桓公之に妻す。馬二十乘有り。四馬を乘とす。八十匹なり。

公子安之。從者以爲不可、將行、謀於桑下。齊桓旣卒、知孝公不可恃故。
【読み】
公子之に安んず。從者以て不可なりと爲し、將に行らんとして、桑下に謀る。齊桓旣に卒し、孝公の恃む可からざるを知る故なり。

蠶妾在其上、以告姜氏。姜氏殺之。姜氏、重耳妻。恐孝公怒其去。故殺妾以滅口。
【読み】
蠶妾[さんしょう]其の上[ほとり]に在り、以て姜氏に告ぐ。姜氏之を殺す。姜氏は、重耳の妻。孝公の其の去るを怒らんことを恐る。故に妾を殺して以て口を滅[け]す。

而謂公子曰、子有四方之志。其聞之者、吾殺之矣。公子曰、無之。姜曰、行也。懷與安實敗名。公子不可。姜與子犯謀、醉而遣之。醒以戈逐子犯。無去志。故怒。○敗、必邁反。醒、星頂反。
【読み】
而して公子に謂いて曰く、子四方の志有り。其の之を聞く者は、吾れ之を殺せり、と。公子曰く、之れ無し、と。姜曰く、行れ。懷と安とは實に名を敗る、と。公子可[き]かず。姜子犯と謀り、醉わせて之を遣る。醒めて戈を以て子犯を逐う。去る志無し。故に怒る。○敗は、必邁反。醒は、星頂反。

及曹。曹共公聞其騈脅、欲觀其裸、浴、薄而觀之。薄、迫也。騈脅、合幹。○脅、許業反。騈、脅幷也。脅幹、謂之肋。裸、力果反。
【読み】
曹に及ぶ。曹の共公其の騈脅[へんきょう]なるを聞きて、其の裸を觀んと欲し、浴するとき、薄[せま]りて之を觀る。薄は、迫るなり。騈脅は、合幹。○脅は、許業反。騈は、脅幷なり。脅幹、之を肋と謂う。裸は、力果反。

僖負羈之妻曰、吾觀晉公子之從者、皆足以相國。若以相 若遂以爲傅相。○羈、紀宜反。相、息亮反。夫子必反其國反其國、必得志於諸侯。得志於諸侯、而誅無禮、曹其首也。子盍蚤自貳焉。自貳、自別異於曹。
【読み】
僖負羈[きふき]の妻曰く、吾れ晉の公子の從者を觀るに、皆以て國に相たるに足れり。若し以て夫子を相けて其の國に反らば、必ず志を諸侯に得ん。志を諸侯に得て、無禮を誅[せ]めば、曹は其れ首[はじ]めならん。子盍ぞ蚤[はや]く自ら貳せざるや、と。自貳は、自ら曹に別異にするなり。
*「若遂以爲傅相。○羈、紀宜反。相、息亮反。」の読みは、「若し遂に以て傅相と爲らば。○羈は、紀宜反。相は、息亮反。」
*「必反其國」について、頭注に「陸氏引晉語云、當在夫子絶句。註疑有誤。晉史乘取此文、無必反其國四字。淮南子亦然。今从之。」とある。よって、省く。因みに原文の通りに読めば、「若し以て相たらば、夫子必ず其の國に反らん。其の國に反らば、」となる。从は從の簡化字。

乃饋盤飧寘璧焉。臣無竟外交。故用盤藏璧飧中。不欲令人見。○飧、音孫。
【読み】
乃ち盤飧[はんそん]を饋[おく]り璧を寘[お]く。臣竟外の交わり無し。故に盤を用いて璧を飧中に藏む。人をして見せしめんことを欲せず。○飧は、音孫。

公子受飧反璧。
【読み】
公子飧を受けて璧を反す。

及宋。宋襄公贈之以馬二十乘。贈、送也。
【読み】
宋に及ぶ。宋の襄公之に贈るに馬二十乘を以てす。贈は、送るなり。

及鄭。鄭文公亦不禮焉。叔詹諫曰、臣聞天之所啓、人弗及也。啓、開也。
【読み】
鄭に及ぶ。鄭の文公も亦禮せず。叔詹[しゅくせん]諫めて曰く、臣聞く、天の啓く所は、人及ばず、と。啓は、開くなり。

晉公子有三焉。天其或者將建諸。君其禮焉。男女同姓、其生不蕃。蕃、息也。○蕃、音煩。
【読み】
晉の公子三有り。天其れ或は將に諸を建てんとするか。君其れ禮せよ。男女姓を同じくすれば、其の生蕃[しげ]らず。蕃は、息なり。○蕃は、音煩。

晉公子、姬出也。而至于今。一也。大戎狐姬之子。故曰姬出。
【読み】
晉の公子は、姬の出なり。而れども今に至る。一なり。大戎狐姬の子。故に姬の出と曰う。

離外之患、出奔在外。
【読み】
外の患えに離[かか]りて、出奔して外に在り。

而天下不靖晉國、殆將啓之。二也。
【読み】
天下晉國を靖んぜず、殆ど將に之を啓かんとす。二なり。

有三士足以上人、而從之。三也。國語、狐偃・趙衰・賈佗、三人、皆卿才。○從、如字。一才用反。
【読み】
三士の以て人に上たるに足る有りて、之に從う。三なり。國語に、狐偃・趙衰・賈佗、三人は、皆卿才なり、と。○從は、字の如し。一に才用反。

晉・鄭同儕。儕、等也。○儕、士皆反。
【読み】
晉・鄭は同儕[どうさい]なり。儕は、等しきなり。○儕は、士皆反。

其過子弟、固將禮焉。況天之所啓乎。弗聽。
【読み】
其の過ぐる子弟も、固より將に禮せんとす。況んや天の啓く所をや、と。聽かず。

及楚。楚子饗之。曰、公子若反晉國、則何以報不穀。對曰、子女玉帛、則君有之。羽毛齒革、則君地生焉。其波及晉國者、君之餘也。其何以報君。曰、雖然、何以報我。對曰、若以君之靈、得反晉國、晉・楚治兵、遇於中原、其辟君三舍。若不獲命、三退不得楚止命也。○過、古禾反。
【読み】
楚に及ぶ。楚子之を饗す。曰く、公子若し晉國に反らば、則ち何を以て不穀に報いん、と。對えて曰く、子女玉帛は、則ち君之れ有り。羽毛齒革は、則ち君の地に生ず。其の晉國に波及する者は、君の餘なり。其れ何を以てか君に報いん、と。曰く、然りと雖も、何を以て我に報いん、と。對えて曰く、若し君の靈を以て、晉國に反ることを得て、晉・楚兵を治めて、中原に遇わば、其れ君を辟くること三舍せん。若し命を獲ずんば、三退して楚の止命を得ざるなり。○過は、古禾反。

其左執鞭弭、右屬櫜鞬、以與君周旋。弭、弓末無緣者。櫜以受箭、鞬以受弓。屬、著也。周旋、相追逐也。○弭、莫爾反。屬、音燭。櫜、古刀反。鞬、九言反。緣、悅絹反。
【読み】
其れ左に鞭弭[べんび]を執り、右に櫜鞬[こうけん]を屬[つ]けて、以て君と周旋せん、と。弭は、弓末の緣無き者。櫜以て箭を受け、鞬以て弓を受く。屬は、著くなり。周旋は、相追逐するなり。○弭は、莫爾反。屬は、音燭。櫜は、古刀反。鞬は、九言反。緣は、悅絹反。

子玉請殺之。畏其志大。
【読み】
子玉之を殺さんと請う。其の志の大いなるを畏る。

楚子曰、晉公子廣而儉、志廣而體儉。
【読み】
楚子曰く、晉の公子は廣にして儉、志廣くして體儉なり。

文而有禮。其從者肅而寬、肅、敬也。
【読み】
文にして禮有り。其の從者は肅にして寬、肅は、敬なり。

忠而能力。晉侯無親、外内惡之。晉侯、惠公。○惡、去聲。
【読み】
忠にして能く力む。晉侯親無く、外内之を惡む。晉侯は、惠公。○惡は、去聲。

吾聞姬姓、唐叔之後、其後衰者也。其將由晉公子乎。天將興之。誰能廢之。違天必有大咎。乃送諸秦。
【読み】
吾れ聞く、姬姓は、唐叔の後、其れ後に衰えん者なり、と。其れ將に晉の公子に由らんとするか。天將に之を興さんとす。誰か能く之を廢せん。天に違わば必ず大咎有り、と。乃ち諸を秦に送る。

秦伯納女五人。懷嬴與焉。懷嬴、子圉妻。子圉、謚懷公。故號爲懷嬴。
【読み】
秦伯女五人を納る。懷嬴[かいえい]與る。懷嬴は、子圉の妻。子圉、謚は懷公。故に號して懷嬴とす。

奉匜沃盥。旣而揮之。匜、沃盥器也。揮、湔也。○奉、芳勇反。匜、以支反。一以紙反。盥、古緩反。
【読み】
匜[い]を奉げて盥に沃ぐ。旣にして之を揮う。匜は、盥に沃ぐ器なり。揮は、湔[そそ]ぐなり。○奉は、芳勇反。匜は、以支反。一に以紙反。盥は、古緩反。

怒曰、秦・晉匹也。何以卑我。匹、敵也。
【読み】
怒りて曰く、秦・晉は匹なり。何を以て我を卑しむる、と。匹は、敵なり。

公子懼、降服而囚。去上服、自拘囚以謝之。○去、起呂反。
【読み】
公子懼れ、降服して囚わる。上服を去り、自ら拘囚して以て之を謝す。○去は、起呂反。

他日、公享之。子犯曰、吾不如衰之文也。有文辭也。○衰、初危反。
【読み】
他日、公之を享す。子犯曰く、吾れ衰の文なるに如かず。文辭有るなり。○衰は、初危反。

請使衰從。公子賦河水。河水、逸詩。義取河水朝宗于海。海喩秦。
【読み】
請う、衰をして從わしめよ、と。公子河水を賦す。河水は、逸詩。義、河水の海に朝宗するに取る。海は秦に喩う。

公賦六月。六月、詩小雅。道尹吉甫佐宣王征伐。喩公子還晉、必能匡王國。古者禮會、因古詩以見意。故言賦詩、斷章也。其全稱詩篇者、多取首章之義。他皆放此。○見、賢遍反。斷、丁緩反。
【読み】
公六月を賦す。六月は、詩の小雅。尹吉甫宣王を佐けて征伐するを道う。公子晉に還りて、必ず能く王國を匡さんに喩う。古は禮會、古詩に因りて以て意を見す。故に詩を賦すと言うは、章を斷つなり。其の全く詩篇を稱する者は、多く首章の義を取るなり。他も皆此に放え。○見は、賢遍反。斷は、丁緩反。

趙衰曰、重耳拜賜。公子降拜稽首。公降一級而辭焉。下階一級。辭公子稽首。
【読み】
趙衰曰く、重耳賜を拜せよ、と。公子降りて拜し稽首す。公一級を降りて辭す。階一級を下るなり。公子の稽首するを辭す。

衰曰、君稱所以佐天子者命重耳。重耳敢不拜。詩首章言匡王國、次章言佐天子。故趙衰因通言之。爲明年、秦伯納之張本。按賦詩斷章、見襄廿八年。謂若賦載馳之四章、賦綠衣之卒章、是也。河水、疑作沔水。
【読み】
衰曰く、君天子を佐くる所以の者を稱して重耳に命ず。重耳敢えて拜せざらんや、と。詩の首章は王國を匡すを言い、次章は天子を佐くるを言う。故に趙衰因りて通じて之を言う。明年、秦伯之を納るる爲の張本なり。按ずるに賦詩斷章は、襄廿八年に見ゆ。載馳の四章を賦し、綠衣の卒章を賦すが若しと謂う、是れなり。河水は、疑うらくは沔水と作さん。


〔經〕二十有四年、春、王正月。夏、狄伐鄭。秋、七月。冬、天王出居于鄭。襄王也。天子以天下爲家。故所在稱居。天子無外。而書出者、譏王蔽於匹夫之孝、不顧天下之重、因其辟母弟之難出。言其自絕於周。
【読み】
〔經〕二十有四年、春、王の正月。夏、狄鄭を伐つ。秋、七月。冬、天王出でて鄭に居る。襄王なり。天子は天下を以て家と爲す。故に在る所を居と稱す。天子は外無し。而るに出づると書すは、王の匹夫の孝に蔽われ、天下の重きを顧みずして、其の母弟の難を辟くるに因りて出づるを譏るなり。其の自ら周に絕つを言うなり。
*「難書出」の「書」について、頭注に「傳曰、凡自周無出。按難書出之書、疑而字之誤。附見云、書曰出居。譏辟母弟之難也。可見。」とある。よって、省く。

晉侯夷吾卒。文公定位而後告。未同盟、而赴以名。
【読み】
晉侯夷吾卒す。文公位を定めて而して後に告ぐ。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。

〔傳〕二十四年、春、王正月、秦伯納之。不書、不告入也。納重耳也。
【読み】
〔傳〕二十四年、春、王の正月、秦伯之を納る。書さざるは、入ることを告げざればなり。重耳を納るるなり。

及河。子犯以璧授公子曰、臣負羈絏、從君巡於天下、羈、馬羈。絏、馬繮。○羈、紀宜反。馬絡頭也。絏、息列反。繫也。從、才用反。又如字。
【読み】
河に及ぶ。子犯璧を以て公子に授けて曰く、臣羈絏[きせつ]を負いて、君に從いて天下を巡り、羈は、馬羈。絏は、馬繮[ばきょう]。○羈は、紀宜反。馬絡頭なり。絏は、息列反。繫なり。從は、才用反。又字の如し。

臣之罪甚多矣。臣猶知之。而況君乎。請由此亡。公子曰、所不與舅氏同心者、有如白水。子犯、重耳舅也。言與舅氏同心之明、如此白水。猶詩言謂予不信、有如皦日。
【読み】
臣の罪甚だ多し。臣も猶之を知る。而るを況んや君をや。請う、此れ由り亡[に]げん、と。公子曰く、舅氏と心を同じくせざる所の者あらば、白水の如きこと有らん、と。子犯は、重耳の舅なり。言うこころは、舅氏と心を同じくするの明なること、此の白水の如けん。猶詩に予を不信と謂わば、皦日[きょうじつ]の如きこと有らんと言うがごとし。

投其璧于河。質言於河。○質、音致。
【読み】
其の璧を河に投ず。河に質言す。○質は、音致。

濟河、圍令狐、入桑泉、取臼衰。桑泉、在河東解縣西。解縣東南有臼城。○衰、初危反。解、戶買反。
【読み】
河を濟[わた]り、令狐を圍み、桑泉に入り、臼衰[きゅうし]を取る。桑泉は、河東の解縣の西に在り。解縣の東南に臼城有り。○衰は、初危反。解は、戶買反。

二月、甲午、晉師軍于廬柳。懷公遣軍距重耳。
【読み】
二月、甲午[きのえ・うま]、晉の師廬柳に軍す。懷公軍を遣わして重耳を距ぐ。

秦伯使公子縶如晉師。師退、軍于郇。解縣西北有郇城。
【読み】
秦伯公子縶[ちゅう]をして晉の師に如かしむ。師退いて、郇[しゅん]に軍す。解縣の西北に郇城有り。

辛丑、狐偃及秦・晉之大夫盟于郇。壬寅、公子入于晉師。丙午、入于曲沃。丁未、朝于武宮。文公之祖武公廟。
【読み】
辛丑[かのと・うし]、狐偃秦・晉の大夫と郇に盟う。壬寅[みずのえ・とら]、公子晉の師に入る。丙午[ひのえ・うま]、曲沃に入る。丁未[ひのと・ひつじ]、武宮に朝す。文公の祖の武公の廟。

戊申、使殺懷公于高梁。不書、亦不告也。懷公奔高梁。高梁、在平陽楊縣西南。再發不告者、言外諸侯入及見殺、亦皆須告乃書于策。
【読み】
戊申[つちのえ・さる]、懷公を高梁に殺さしむ。書さざるは、亦告げざればなり。懷公高梁に奔る。高梁は、平陽の楊縣の西南に在り。再び告げざることを發するは、外諸侯の入ると殺さるると、亦皆告ぐるを須ちて乃ち策に書すを言う。

呂・郤畏偪、呂甥・郤芮、惠公舊臣。故畏爲文公所偪害。
【読み】
呂・郤偪られんことを畏れ、呂甥・郤芮[げきぜい]は、惠公の舊臣。故に文公の爲に偪害せられんことを畏る。

將焚公宮、而弑晉侯。寺人披請見。公使讓之、且辭焉、辭不見。○請見、賢遍反。
【読み】
將に公宮を焚きて、晉侯を弑せんとす。寺人披見えんことを請う。公之を讓[せ]めしめて、且つ辭して、辭して見ず。○請見は、賢遍反。

曰、蒲城之役、在五年。
【読み】
曰く、蒲城の役に、五年に在り。

君命一宿、女卽至。卽日至。
【読み】
君一宿を命ぜしに、女卽ち至れり。卽日に至る。

其後余從狄君以田渭濱、田、獵。
【読み】
其の後余狄君に從いて以て渭濱に田[かり]せしに、田は、獵なり。

女爲惠公來求殺余。命女三宿、女中宿至。雖有君命、何其速也。夫袪猶在。披所斬文公衣袂也。○爲、于僞反。中、丁仲反。下注同。袪、起魚反。
【読み】
女惠公の爲に來りて余を殺さんことを求む。女に三宿を命ぜしに、女中宿にして至れり。君命有りと雖も、何ぞ其れ速やかなるや。夫の袪[きょ]猶在り。披が斬る所の文公の衣袂なり。○爲は、于僞反。中は、丁仲反。下の注も同じ。袪は、起魚反。

女其行乎。對曰、臣謂君之入也、其知之矣。知君人之道。
【読み】
女其れ行[さ]らんか、と。對えて曰く、臣謂[おも]えらく、君の入るや、其れ之を知れり、と。人に君たるの道を知る。

若猶未也、又將及難。君命無二、古之制也。除君之惡、唯力是視。蒲人・狄人、余何有焉。當二君世、君爲蒲・狄之人。於我有何義。
【読み】
若し猶未だしならば、又將に難に及ばんとす。君命二無きは、古の制なり。君の惡を除くは、唯力是れ視る。蒲人・狄人なれば、余何か有らん。二君の世に當たりて、君は蒲・狄の人爲り。我に於て何の義か有らん。

今君卽位。其無蒲狄乎。齊桓公置射鉤而、使管仲相。乾時之役、管仲射桓公中帶鉤。○射、食亦反。
【読み】
今君位に卽けり。其れ蒲狄無からんや。齊の桓公は鉤[こう]を射るを置きて、管仲をして相たらしめり。乾時の役に、管仲桓公を射て帶鉤に中つ。○射は、食亦反。

君若易之、何辱命焉。言君反齊桓、己將自去。不須辱君命。
【読み】
君若し之を易えば、何ぞ命を辱くせん。言うこころは、君齊桓に反せば、己將に自ら去らんとす。君命を辱くすることを須いず。

行者甚衆。豈唯刑臣。披、奄人。故稱刑臣。
【読み】
行る者甚だ衆[おお]からん。豈唯刑臣のみならんや、と。披は、奄人。故に刑臣と稱す。

公見之。以難告。告呂・郤欲焚公宮。
【読み】
公之を見る。難を以て告ぐ。呂・郤公宮を焚かんと欲するを告ぐ。

三月、晉侯潛會秦伯于王城。己丑、晦、公宮火。瑕甥・郤芮不獲公。乃如河上。秦伯誘而殺之。晉侯逆夫人嬴氏以歸。秦穆公女、文嬴也。
【読み】
三月、晉侯潛[ひそ]かに秦伯に王城に會す。己丑[つちのと・うし]、晦、公宮火あり。瑕甥・郤芮公を獲ず。乃ち河上に如く。秦伯誘[あざむ]きて之を殺す。晉侯夫人嬴氏[えいし]を逆[むか]えて以[い]て歸る。秦の穆公の女、文嬴なり。

秦伯送衛於晉三千人、實紀綱之僕。新有呂郤之難、國未輯睦。故以兵衛文公。諸門戶僕隷之事、皆秦卒共之、爲之紀綱。
【読み】
秦伯衛を晉に送ること三千人、實に紀綱の僕なり。新たに呂郤の難有り、國未だ輯睦せず。故に兵を以て文公を衛る。諸々の門戶僕隷の事は、皆秦の卒之に共し、之が紀綱と爲るなり。

初、晉侯之豎頭須、守藏者也。頭須、一曰里鳬須。豎、左右小吏。○豎、上注反。藏、才浪反。下同。里鳬須、房孚反。韓詩外傳云、晉文公亡過曹。里鳬須從。因盜重耳資而亡。重耳無糧、餒不能行。介子推割股以食重耳、然後能行。
【読み】
初め、晉侯の豎頭須[とうしゅ]は、藏を守る者なり。頭須は、一に里鳬須[りふしゅ]と曰う。豎は、左右の小吏。○豎は、上注反。藏は、才浪反。下も同じ。里鳬須は、房孚反。韓詩外傳に云う、晉の文公亡[に]げて曹を過ぐ。里鳬須從う。因りて重耳の資を盜みて亡ぐ。重耳糧無く、餒[う]えて行くこと能わず。介子推股を割きて以て重耳に食わし、然して後に能く行く、と。

其出也、竊藏以逃、文公出時。
【読み】
其の出づるとき、藏を竊みて以て逃げ、文公出づる時。

盡用以求納之。求納文公。
【読み】
盡く用いて以て之を納れんことを求めぬ。文公を納れんことを求む。

及入、求見。公辭焉以沐。謂僕人曰、沐則心覆。心覆則圖反。宜吾不得見也。居者爲社稷之守。行者爲羈絏之僕。其亦可也。何必罪居者。國君而讎匹夫、懼者甚衆矣。僕人以告。公遽見之。言棄小怨、所以能安衆。○見、賢遍反。下得見同。
【読み】
入るに及びて、見えんことを求む。公辭するに沐を以てす。僕人に謂いて曰く、沐するときは則ち心覆る。心覆れば則ち圖[はかりごと]反す。宜なり吾が見ゆることを得ざること。居る者は社稷の守爲り。行く者は羈絏の僕爲り。其れ亦可なり。何ぞ必ずしも居る者を罪せん。國君にして匹夫を讎とせば、懼るる者甚だ衆からん、と。僕人以て告[もう]す。公遽に之を見る。言うこころは、小怨を棄つるは、能く衆を安んずる所以なり。○見は、賢遍反。下の得見も同じ。

狄人歸季隗于晉、而請其二子。二子、伯鯈・叔劉。
【読み】
狄人季隗を晉に歸[おく]りて、其の二子を請う。二子は、伯鯈[はくちゅう]・叔劉。

文公妻趙衰。生原同・屛括・樓嬰。原・屛・樓、三子之邑。○妻、七計反。屛、步丁反。
【読み】
文公趙衰に妻す。原同・屛括・樓嬰を生む。原・屛・樓は、三子の邑。○妻は、七計反。屛は、步丁反。

趙姬請逆盾與其母。趙姬、文公女也。盾、狄女叔隗之子。
【読み】
趙姬盾[とん]と其の母とを逆えんことを請う。趙姬は、文公の女なり。盾は、狄の女の叔隗の子。

子餘辭。子餘、趙衰字。
【読み】
子餘辭す。子餘は、趙衰の字。

姬曰、得寵而忘舊、何以使人。必逆之。固請。許之。來。以盾爲才、固請于公以爲嫡子、而使其三子下之、以叔隗爲内子、而己下之。卿之嫡妻爲内子。皆非此年事。蓋因狄人歸季隗、遂終言叔隗。
【読み】
姬曰く、寵を得て舊を忘れば、何を以てか人を使わん。必ず之を逆えよ、と。固く請う。之を許す。來る。盾を以て才ありと爲し、固く公に請いて以て嫡子と爲して、其の三子をして之に下らしめ、叔隗を以て内子と爲して、己之に下れり。卿の嫡妻を内子とす。皆此の年の事に非ず。蓋し狄人季隗を歸るに因りて、遂に叔隗を終え言うならん。

晉侯賞從亡者。介之推不言祿。祿亦弗及。介推、文公微臣。之、語助。○從、才用反。推、昌誰反。
【読み】
晉侯亡に從う者を賞す。介之推祿を言わず。祿も亦及ばず。介推は、文公の微臣。之は、語助。○從は、才用反。推は、昌誰反。

推曰、獻公之子九人、唯君在矣。惠・懷無親、外内棄之。天未絕晉、必將有主。主晉祀者、非君而誰。天實置之。而二三子以爲己力。不亦誣乎。竊人之財、猶謂之盜。況貪天之功、以爲己力乎。下義其罪、上賞其姦、上下相蒙。蒙、欺也。
【読み】
推曰く、獻公の子九人、唯君のみ在り。惠・懷は親無く、外内之を棄つ。天未だ晉を絕たざれば、必ず將に主有らんとす。晉の祀を主らん者は、君に非ずして誰ぞ。天實に之を置けり。而るを二三子以て己が力と爲す。亦誣いざらんや。人の財を竊むをも、猶之を盜と謂う。況んや天の功を貪りて、以て己が力とするをや。下は其の罪を義とし、上は其の姦を賞して、上下相蒙[あざむ]く。蒙は、欺くなり。

難與處矣。其母曰、盍亦求之。以死誰懟。對曰、尤而效之、罪又甚焉。且出怨言。不食其食。怨言、謂上下相蒙、難與處。○懟、直類反。
【読み】
與に處り難し、と。其の母曰く、盍ぞ亦之を求めざる。以て死せば誰をか懟[うら]みん、と。對えて曰く、尤めて之に效[なら]うは、罪又甚だし。且つ怨言を出だせり。其の食を食わじ、と。怨言とは、上下相蒙く、與に處り難しというを謂う。○懟[つい]は、直類反。

其母曰、亦使知之、若何。旣不求之。且欲令推達言於文公。
【読み】
其の母曰く、亦之を知らしめば、若何、と。旣に之を求めず。且く推をして言を文公に達せしめんことを欲す。

對曰、言、身之文也。身將隱。焉用文之。是求顯也。其母曰、能如是乎、與女偕隱。偕、倶也。○女、音汝。
【読み】
對えて曰く、言は、身の文[かざり]なり。身將に隱れんとす。焉ぞ之を文ることを用いん。是れ顯を求むるなり、と。其の母曰く、能く是の如くならば、女と偕に隱れん、と。偕は、倶なり。○女は、音汝。

遂隱而死。
【読み】
遂に隱れて死す。

晉侯求之不獲。以緜上爲之田、曰、以志吾過、且旌善人。旌、表也。西河界休縣南有地、名緜上。
【読み】
晉侯之を求むれども獲ず。緜上を以て之が田と爲して、曰く、以て吾が過ちを志[しる]し、且善人を旌[あらわ]さん、と。旌は、表すなり。西河界休縣の南に地有り、緜上と名づく。

鄭之入滑也、滑人聽命。入滑、在二十年。
【読み】
鄭の滑に入りしや、滑人命を聽く。滑に入るは、二十年に在り。

師還。又卽衛。鄭公子士洩・堵兪彌帥師伐滑。堵兪彌、鄭大夫。
【読み】
師還る。又衛に卽く。鄭の公子士洩[しせつ]・堵兪彌[とゆび]師を帥いて滑を伐つ。堵兪彌は、鄭の大夫。

王使伯服・游孫伯如鄭請滑。二子、周大夫。
【読み】
王伯服・游孫伯をして鄭に如きて滑を請わしむ。二子は、周の大夫。

鄭伯怨惠王之入、而不與厲公爵也、事在莊二十一年。
【読み】
鄭伯惠王の入りて、厲公に爵を與えざりしを怨み、事は莊二十一年に在り。

又怨襄王之與衛・滑也。怨王助衛爲滑請。
【読み】
又襄王の衛・滑に與するを怨む。王の衛を助け滑の爲に請うを怨む。

故不聽王命、而執二子。王怒。將以狄伐鄭。
【読み】
故に王命を聽かずして、二子を執う。王怒る。將に狄を以て鄭を伐たんとす。

富辰諫曰、不可。臣聞之、大上以德撫民、無親也。
【読み】
富辰諫めて曰く、不可なり。臣之を聞く、大上は德を以て民を撫で、無し。
*「疎」は、漢籍國字解全書では「疏」。

其次親親、以相及也。先親以及疏、推恩以成義。
【読み】
其の次は親を親しみて、以て相及ぼす、と。親を先にして以て疏に及び、恩を推して以て義を成す。

昔周公弔二叔之不咸。故封建親戚、以蕃屛周。弔、傷也。咸、同也。周公傷夏・殷之叔世、疏其親戚、以至滅亡。故廣封其兄弟。
【読み】
昔周公二叔の咸[おな]じからざるを弔[いた]む。故に親戚を封建して、以て周に蕃屛とす。弔は、傷むなり。咸は、同じなり。周公夏・殷の叔世、其の親戚を疏みて、以て滅亡に至りしを傷む。故に廣く其の兄弟を封ず。

管・蔡・郕・霍・魯・衛・毛・耼・郜・雍・曹・滕・畢・原・酆・郇、文之昭也。十六國、皆文王子也。管國、在滎陽京縣東北。雍國、在河内山陽縣西。畢國、在長安縣西北。酆國、在始平鄠縣東。○耼、乃甘反。雍、於用反。郇、音荀。
【読み】
管・蔡・郕[せい]・霍・魯・衛・毛・耼[たん]・郜[こう]・雍・曹・滕・畢・原・酆[ほう]・郇[しゅん]は、文の昭なり。十六國は、皆文王の子なり。管國は、滎陽京縣の東北に在り。雍國は、河内山陽縣の西に在り。畢國は、長安縣の西北に在り。酆國は、始平鄠[こ]縣の東に在り。○耼は、乃甘反。雍は、於用反。郇は、音荀。

邗・晉・應・韓、武之穆也。四國、皆武王子。應國、在襄陽城父縣西南。韓國、在河東郡界。河内野王縣西北有邗城。○邗、音于。
【読み】
邗[う]・晉・應・韓は、武の穆なり。四國は、皆武王の子。應國は、襄陽城父縣の西南に在り。韓國は、河東郡の界に在り。河内野王縣の西北に邗城有り。○邗は、音于。

凡・蔣・邢・茅・胙・祭、周公之胤也。胤、嗣也。蔣、在弋陽期思縣。高平昌邑縣西有茅郷。東郡燕縣西南有胙亭。○祭、側界反。
【読み】
凡・蔣・邢・茅[ぼう]・胙・祭は、周公の胤なり。胤は、嗣なり。蔣は、弋陽[よくよう]期思縣に在り。高平昌邑縣の西に茅郷有り。東郡燕縣の西南に胙亭有り。○祭は、側界反。

召穆公思周德之不類。故糾合宗族于成周、而作詩、類、善也。糾、收也。召穆公、周卿士。名虎。召、采地。扶風雍縣東南有召亭。周厲王之時、周德衰微、兄弟道缺。召穆公于東都、收會宗族、特作此周公之樂歌。常棣詩屬小雅。
【読み】
召穆公周德の類[よ]からざるを思う。故に宗族を成周に糾合して、詩を作りて、類は、善きなり。糾は、收むるなり。召穆公は、周の卿士。名は虎。召は、采地。扶風雍縣の東南に召亭有り。周の厲王の時、周德衰微して、兄弟道缺く。召穆公東都に于きて、宗族を收會して、特に此の周公の樂歌を作れり。常棣[じょうてい]の詩は小雅に屬す。

曰、常棣之華、鄂不韡韡。常棣、棣也。鄂、鄂然華外發。不韡韡、言韡韡。以喩兄弟和睦、則强盛而有光輝、韡韡然。○不、方九反。韡、韋鬼反。
【読み】
曰く、常棣[じょうてい]の華、鄂[がく]として韡韡[いい]たらざらんや。常棣は、棣なり。鄂は、鄂然として華外に發す。韡韡たらざらんやとは、韡韡たるを言う。以て兄弟和睦するときは、則ち强盛にして光輝有りて、韡韡然たるに喩う。○不は、方九反。韡は、韋鬼反。

凡今之人、莫如兄弟。言致韡韡之盛、莫如親兄弟。
【読み】
凡そ今の人、兄弟に如くは莫し、と。言うこころは、韡韡の盛んを致すは、兄弟を親しむに如くは莫し。

其四章曰、兄弟鬩于牆、外禦其侮。鬩、訟爭貌。言内雖不和、猶宜外扞異族之侵侮。○鬩、呼歷反。
【読み】
其の四章に曰く、兄弟牆に鬩[せめ]ぐとも、外其の侮りを禦ぐ、と。鬩は、訟爭の貌。言うこころは、内和せずと雖も、猶宜しく外異族の侵侮を扞ぐべし。○鬩は、呼歷反。

如是、則兄弟雖有小忿、不廢懿親。懿、美也。
【読み】
是の如きは、則ち兄弟は小忿有りと雖も、懿親を廢てずとなり。懿は、美なり。

今天子不忍小忿、以棄鄭親。其若之何。
【読み】
今天子小忿に忍ばずして、以て鄭の親を棄てんとす。其れ之を若何。

庸勳、親親、暱近、尊賢、德之大者也。庸、用也。暱、親也。○暱、女乙反。
【読み】
勳を庸[もち]い、親を親しみ、近を暱[した]しみ、賢を尊ぶは、德の大なる者なり。庸は、用ゆるなり。暱[じつ]は、親しむなり。○暱は、女乙反。

卽聾、從昧、與頑、用嚚、姦之大者也。棄德、崇姦、禍之大者也。崇、聚也。
【読み】
聾に卽き、昧に從い、頑に與し、嚚[ぎん]を用ゆるは、姦の大なる者なり。德を棄て、姦を崇[あつ]むるは、禍の大なる者なり。崇は、聚むるなり。

鄭有平・惠之勳、平王東遷、晉・鄭是依。惠王出奔、虢・鄭納之。是其勳也。
【読み】
鄭に平・惠の勳有り、平王東遷するとき、晉・鄭に是れ依れり。惠王出奔せしとき、虢・鄭之を納る。是れ其の勳なり。

又有厲・宣之親。鄭始封之祖桓公友、周厲王之子、宣王之母弟。
【読み】
又厲・宣の親有り。鄭の始封の祖桓公友は、周の厲王の子、宣王の母弟。

棄嬖寵而用三良、七年、殺嬖臣申侯、十六年、殺寵子子華也。三良、叔詹・堵叔・師叔。所謂尊賢。
【読み】
嬖寵を棄てて三良を用い、七年、嬖臣申侯を殺し、十六年、寵子子華を殺すなり。三良は、叔詹[しゅくせん]・堵叔・師叔。所謂賢を尊ぶなり。

於諸姬爲近。道近。當暱之。
【読み】
諸姬に於て近しとす。道近し。當に之を暱しむべし。

四德具矣。
【読み】
四德具われり。

耳不聽五聲之和爲聾、目不別五色之章爲昧、心不則德義之經爲頑、口不道忠信之言爲嚚。狄皆則之。四姦具矣。
【読み】
耳五聲の和を聽かざるを聾と爲し、目五色の章を別たざるを昧と爲し、心德義の經に則らざるを頑と爲し、口忠信の言を道わざるを嚚と爲す。狄皆之に則る。四姦具われり。

周之有懿德也、猶曰莫如兄弟。故封建之。當周公時。故言周之有懿德。
【読み】
周の懿德有りしも、猶兄弟に如くは莫しと曰う。故に之を封建す。周公の時に當たる。故に周の懿德有ると言う。

其懷柔天下也、猶懼有外侮。扞禦侮者、莫如親親。故以親屛周。召穆公亦云。周公作詩、召公歌之。故言亦云。
【読み】
其の天下を懷柔せしも、猶外侮有らんことを懼る。侮りを扞禦する者は、親を親しむに如くは莫し。故に親を以て周に屛とす。召穆公も亦云えり。周公詩を作り、召公之を歌う。故に亦云えりと言う。

今周德旣衰、於是乎又渝周・召以從諸姦、無乃不可乎。變周・召親兄弟之道。
【読み】
今周德旣に衰うるに、是に於て又周・召を渝[か]えて以て諸姦に從わば、乃ち不可なること無からんや。周・召兄弟を親しむの道を變ず。

民未忘禍、王又興之。前有子頹之亂、中有叔帶召狄。故曰民未忘禍。
【読み】
民未だ禍を忘れずして、王又之を興す。前に子頹の亂有り、中ごろ叔帶狄を召ぶこと有り。故に民未だ禍を忘れずと曰う。

其若文・武何。言將廢文・武之功業。
【読み】
其れ文・武を若何、と。言うこころは、將に文・武の功業を廢せんとす。

王弗聽。使頹叔・桃子出狄師。二子、周大夫。
【読み】
王聽かず。頹叔・桃子をして狄の師を出ださしむ。二子は、周の大夫。

夏、狄伐鄭、取櫟。王德狄人、將以其女爲后。
【読み】
夏、狄鄭を伐ち、櫟[れき]を取る。王狄人を德として、將に其の女を以て后とせんとす。

富辰諫曰、不可。臣聞之、曰、報者倦矣、施者未厭。施、功勞也。有勞則望報過甚。○櫟、力狄反。施、如字。厭、於豔反。又於鹽反。
【読み】
富辰諫めて曰く、不可なり。臣之を聞く、曰く、報ゆる者は倦み、施す者は未だ厭かず、と。施は、功勞なり。勞有れば則ち報いを望むこと過甚なり。○櫟は、力狄反。施は、字の如し。厭は、於豔反。又於鹽反。

狄固貪惏。王又啓之。女德無極、婦怨無終。婦女之志、近之則不知止足、遠之則忿怨無已。終、猶已也。○惏、力南反。方言云、殺人而取其財曰惏。
【読み】
狄は固より貪惏[たんらん]なり。王又之を啓く。女德極まり無く、婦怨終わり無し。婦女の志、之を近づくれば則ち止足を知らず、之を遠ざくれば則ち忿怨已むこと無し。終は、猶已むがごとし。○惏は、力南反。方言に云う、人を殺して其の財を取るを惏と曰う。

狄必爲患。王又弗聽。
【読み】
狄必ず患えを爲さん、と。王又聽かず。

初、甘昭公有寵於惠后。甘昭公、王子帶也。食邑於甘。河南縣西南有甘水。
【読み】
初め、甘の昭公惠后に寵有り。甘の昭公は、王子帶なり。甘に食邑す。河南縣の西南に甘水有り。

惠后將立之、未及而卒。昭公奔齊。奔齊、在十二年。
【読み】
惠后將に之を立てんとして、未だ及ばずして卒す。昭公齊に奔る。齊に奔るは、十二年に在り。

王復之。在二十二年。
【読み】
王之を復す。二十二年に在り。

又通於隗氏。隗氏、王所立狄后。
【読み】
又隗氏に通ず。隗氏は、王立つる所の狄后。

王替隗氏。替、廢也。
【読み】
王隗氏を替[す]つ。替は、廢つるなり。

頹叔・桃子曰、我實使狄。狄其怨我。遂奉大叔、以狄師攻王。王御士將禦之。周禮、王之御士十二人。
【読み】
頹叔・桃子曰く、我れ實に狄を使いぬ。狄其れ我を怨みん、と。遂に大叔を奉じて、狄の師を以[い]て王を攻む。王の御士將に之を禦がんとす。周禮に、王の御士十二人、と。

王曰、先后其謂我何。先后、惠后也。誅大叔、恐違先后志。
【読み】
王曰く、先后其れ我を何とか謂わん。先后は、惠后なり。大叔を誅せば、恐らくは先后の志に違わん。

寧使諸侯圖之。王遂出。及坎欿。國人納之。坎欿、周地。在河南鞏縣東。○欿、大感反。
【読み】
寧ろ諸侯をして之を圖らしめん、と。王遂に出づ。坎欿[かんかん]に及ぶ。國人之を納る。坎欿は、周の地。河南鞏[きょう]縣の東に在り。○欿は、大感反。

秋、頹叔・桃子奉大叔、以狄師伐周、大敗周師、獲周公忌父・原伯・毛伯・富辰。原・毛、皆采邑。
【読み】
秋、頹叔・桃子大叔を奉じて、狄の師を以て周を伐ち、大いに周の師を敗り、周公忌父・原伯・毛伯・富辰を獲たり。原・毛は、皆采邑。

王出適鄭、處于氾。鄭南氾也。在襄城縣南。○氾、音凡。後皆同。
【読み】
王出でて鄭に適き、氾に處る。鄭の南氾なり。襄城縣の南に在り。○氾は、音凡。後も皆同じ。

大叔以隗氏居于溫。
【読み】
大叔隗氏を以て溫に居る。

鄭子華之弟子臧出奔宋。十六年、殺子華故。
【読み】
鄭の子華の弟子臧出でて宋に奔る。十六年、子華を殺す故なり。

好聚鷸冠。鷸、鳥名。聚鷸羽以爲冠。非法之服。○鷸、尹橘反。翠鳥也。
【読み】
聚鷸冠[しゅういつかん]を好む。鷸は、鳥の名。鷸羽を聚めて以て冠とす。非法の服なり。○鷸は、尹橘反。翠鳥なり。

鄭伯聞而惡之、惡其服非法。
【読み】
鄭伯聞きて之を惡み、其の服の法に非ざるを惡む。

使盜誘之。八月、盜殺之于陳・宋之閒。
【読み】
盜をして之を誘[あざむ]かしむ。八月、盜之を陳・宋の閒に殺す。

君子曰、服之不衷、身之災也。衷、猶適也。○衷、音忠。一丁仲反。
【読み】
君子曰く、服の衷ならざるは、身の災いなり。衷は、猶適うのごとし。○衷は、音忠。一に丁仲反。

詩曰、彼己之子、不稱其服。詩、曹風。刺小人在位。言彼人之德、不稱其服。○己、音記。稱、尺證反。
【読み】
詩に曰く、彼の己[そ]の子、其の服に稱わず、と。詩は、曹風。小人位に在るを刺[そし]る。彼の人の德、其の服に稱わざるを言う。○己は、音記。稱は、尺證反。

子臧之服、不稱也夫。詩曰、自詒伊慼、其子臧之謂矣。詩、小雅。詒、遺也。慼、憂也。取其自遺憂。○遺、唯季反。
【読み】
子臧の服、稱わざればなり。詩に曰く、自ら伊[こ]の慼[うれ]えを詒[のこ]すとは、其れ子臧を謂うなり。詩は、小雅。詒[い]は、遺すなり。慼は、憂えなり。其の自ら憂えを遺すに取る。○遺は、唯季反。

夏書曰、地平天成、稱也。夏書、逸書。地平其化、天成其施。上下相稱爲宜。
【読み】
夏書に曰く、地平らかにし天成すとは、稱うなり、と。夏書は、逸書。地其の化を平らかにし、天其の施しを成す。上下相稱うを宜と爲す。

宋及楚平。宋成公如楚、還、入於鄭。鄭伯將享之、問禮於皇武子。皇武子、鄭卿。
【読み】
宋楚と平らぐ。宋の成公楚に如き、還るとき、鄭に入る。鄭伯將に之を享せんとし、禮を皇武子に問う。皇武子は、鄭の卿。

對曰、宋、先代之後也。於周爲客。天子有事膰焉、有事、祭宗廟也。膰祭肉、尊之。故賜以祭胙。
【読み】
對えて曰く、宋は、先代の後なり。周に於て客爲り。天子事有れば膰[はん]し、事有りとは、宗廟を祭るなり。膰の祭肉、之を尊ぶ。故に賜うに祭胙を以てす。

有喪拜焉。宋弔周喪、王特拜謝之。
【読み】
喪有れば拜す。宋周の喪を弔えば、王特に拜して之を謝す。

豐厚可也。鄭伯從之、享宋公有加。禮也。禮物事事加厚。善鄭能尊先代。
【読み】
豐厚にせんこと可なり、と。鄭伯之に從い、宋公を享するに加うること有り。禮なり。禮物事事厚を加う。鄭能く先代を尊ぶを善す。

冬、王使來告難曰、不穀不德、得罪于母弟之寵子帶、鄙在鄭地氾。鄙、野也。
【読み】
冬、王來りて難を告げしめて曰く、不穀不德にして、罪を母弟の寵子帶に得て、鄭の地の氾に鄙在す。鄙は、野なり。

敢告叔父。天子謂同姓諸侯曰叔父。
【読み】
敢えて叔父に告ぐ、と。天子同姓の諸侯を謂いて叔父と曰う。

臧文仲對曰、天子蒙塵于外。敢不奔問官守。官守、王之羣臣。○守、手又反。下同。
【読み】
臧文仲對えて曰く、天子外に蒙塵す。敢えて奔りて官守に問わざらんや、と。官守は、王の羣臣。○守は、手又反。下も同じ。

王使簡師父告于晉、使左鄢父告于秦。二子、周大夫。○鄢、於晩反。
【読み】
王簡師父をして晉に告げしめ、左鄢父[さえんほ]をして秦に告げしむ。二子は、周の大夫。○鄢は、於晩反。

天子無出。書曰天王出居于鄭、辟母弟之難也。叔帶、襄王同母弟。
【読み】
天子は出づること無し。書して天王出でて鄭に居ると曰うは、母弟の難を辟くるなり。叔帶は、襄王の同母弟。

天子凶服降名、禮也。凶服、素服。降名、稱不穀。
【読み】
天子凶服して名を降すは、禮なり。凶服は、素服。名を降すは、不穀と稱するなり。

鄭伯與孔將鉏・石甲父・侯宣多、省視官具于氾、三子、鄭大夫。省官司、具器用。○鉏、仕居反。
【読み】
鄭伯孔將鉏[こうしょうしょ]・石甲父・侯宣多と、官を省視し氾に具えて、三子は、鄭の大夫。官司を省、器用を具う。○鉏は、仕居反。
*「省視官具于氾」について、頭注に「省視當國官司、令具其器用、送之於氾。傳氏云、官、官司。具、器具。以官司對器具、而以省視貫之也。六字句、亦通。」とある。

而後聽其私政。禮也。得先君後己之禮。
【読み】
而して後に其の私政を聽く。禮なり。君を先にし己を後にするの禮を得たり。

衛人將伐邢。禮至曰、不得其守、國不可得也。禮至、衛大夫。守、謂邢正卿國子。
【読み】
衛人將に邢を伐たんとす。禮至曰く、其の守を得ざれば、國得可からず。禮至は、衛の大夫。守は、邢の正卿國子を謂う。

我請昆弟仕焉。乃往得仕。爲明年、滅邢傳。
【読み】
我れ請う、昆弟仕えん、と。乃ち往きて仕うることを得たり。明年、邢を滅ぼす爲の傳なり。


〔經〕二十有五年、春、王正月、丙午、衛侯燬滅邢。衛・邢同姬姓。惡其親親相滅。故稱名罪之。
【読み】
〔經〕二十有五年、春、王の正月、丙午[ひのえ・うま]、衛侯燬[き]邢を滅ぼす。衛・邢は同姬姓。其の親親相滅ぼすを惡む。故に名を稱して之を罪す。

夏、四月、癸酉、衛侯燬卒。無傳。五同盟。
【読み】
夏、四月、癸酉[みずのと・とり]、衛侯燬卒す。傳無し。五たび同盟す。

宋蕩伯姬來逆婦。無傳。伯姬、魯女。爲宋大夫蕩氏妻也。自爲其子來逆。稱婦、姑存之辭。婦人越竟迎婦、非禮。故書。○自爲、于僞反。
【読み】
宋の蕩伯姬來りて婦を逆[むか]う。傳無し。伯姬は、魯の女。宋の大夫蕩氏の妻と爲るなり。自ら其の子の爲に來り逆うるなり。婦と稱するは、姑存するの辭。婦人竟を越えて婦を迎うるは、禮に非ず。故に書す。○自爲は、于僞反。

宋殺其大夫。無傳。其事則未聞。於例爲大夫無罪、故不稱名。
【読み】
宋其の大夫を殺す。傳無し。其の事は則ち未だ聞かず。例に於て大夫罪無し、故に名を稱せずと爲す。

秋、楚人圍陳、納頓子于頓。頓迫於陳、而出奔楚。故楚圍陳以納頓子。不言遂、明一事也。子玉稱人、從告。頓子不言歸、興師見納故。
【読み】
秋、楚人陳を圍みて、頓子を頓に納る。頓陳に迫られて、楚に出奔す。故に楚陳を圍みて以て頓子を納る。遂にと言わざるは、一事なるを明かすなり。子玉人と稱するは、告ぐるに從うなり。頓子歸ると言わざるは、師を興して納れらるる故なり。

葬衛文公。無傳。
【読み】
衛の文公を葬る。傳無し。

冬、十有二月、癸亥、公會衛子・莒慶盟于洮。洮、魯地。衛文公旣葬、成公不稱爵者、述父之志、降名從未成君。故書子以善之。莒慶不稱氏、未賜族。
【読み】
冬、十有二月、癸亥[みずのと・い]、公衛子・莒の慶に會して洮[とう]に盟う。洮は、魯の地。衛の文公旣に葬るに、成公爵を稱せざるは、父の志を述べ、名を降して未成君に從う。故に子と書して以て之を善するなり。莒の慶氏を稱せざるは、未だ族を賜わざればなり。

〔傳〕二十五年、春、衛人伐邢。二禮從國子巡城、掖以赴外、殺之。
【読み】
〔傳〕二十五年、春、衛人邢を伐つ。二禮國子に從いて城を巡り、掖して以て外に赴き、之を殺す。

正月、丙午、衛侯燬滅邢。同姓也。故名。
【読み】
正月、丙午、衛侯燬邢を滅ぼす。同姓なり。故に名いう。

禮至爲銘曰、余掖殺國子、莫余敢止。惡其不知恥、詐以滅同姓、而反銘功於器。
【読み】
禮至銘を爲りて曰く、余掖して國子を殺すに、余を敢えて止むること莫し、と。其の恥を知らずして、詐りて以て同姓を滅ぼして、反って功を器に銘するを惡む。

秦伯師于河上、將納王。狐偃言於晉侯曰、求諸侯莫如勤王。勤納王也。
【読み】
秦伯河上に師して、將に王を納れんとす。狐偃晉侯に言いて曰く、諸侯を求むるは王を勤むるに如くは莫し。王を納るるを勤むるなり。

諸侯信之。且大義也。繼文之業、而信宣於諸侯、今爲可矣。晉文侯仇、爲平王侯伯、匡輔周室。
【読み】
諸侯之を信ず。且大義なり。文の業を繼ぎて、信を諸侯に宣ぶるは、今を可なりとす、と。晉の文侯仇、平王の侯伯と爲り、周室を匡輔す。

使卜偃卜之。曰、吉。遇黃帝戰于阪泉之兆。黃帝與神農之後姜氏、戰于阪泉之野勝之。今得其兆。故以爲吉。
【読み】
卜偃をして之を卜せしむ。曰く、吉なり。黃帝阪泉に戰うの兆に遇えり、と。黃帝神農の後姜氏と、阪泉の野に戰いて之に勝つ。今其の兆を得。故に以て吉とす。

公曰、吾不堪也。文公自以爲己當此兆。故曰不堪。
【読み】
公曰く、吾れ堪えざるなり、と。文公自ら以爲えらく、己此の兆に當たる、と。故に堪えずと曰う。

對曰、周禮未改。今之王、古之帝也。言周德雖衰、其命未改。今之周王、自當帝兆。不謂晉。
【読み】
對えて曰く、周の禮未だ改まらず。今の王は、古の帝なり、と。言うこころは、周の德衰うと雖も、其の命未だ改まらず。今の周王、自ら帝兆に當たる。晉を謂うにはあらず。

公曰、筮之。筮之。遇大有 乾下離上大有。
【読み】
公曰く、之を筮せよ、と。之を筮す。大有[たいゆう] 乾下離上は大有。

之睽兌下離上睽。大有九三變而爲睽。
【読み】
睽[けい]に之くに遇う。兌下離上は睽。大有の九三變じて睽と爲る。

曰、吉。遇公用享于天子之卦也。大有九三爻辭也。三爲三公、而得位、變而爲兌。兌爲說。得位而說。故能爲王所宴饗也。
【読み】
曰く、吉なり。公用[もっ]て天子に享せらるるの卦に遇う。大有の九三の爻の辭なり。三を三公と爲して、位を得て、變じて兌と爲る。兌を說と爲す。位を得て說ぶ。故に能く王の爲に宴饗せらるるなり。

戰克而王饗。吉孰大焉。言卜筮協吉。
【読み】
戰克ちて王饗す。吉孰れか焉より大ならん。卜筮吉を協わすを言う。

且是卦也、方更總言二卦之義、不繫於一爻。
【読み】
且つ是の卦や、方に更に二卦の義を總べ言いて、一爻に繫けず。

天爲澤以當日、天子降心以逆公。不亦可乎。乾爲天、兌爲澤。乾變爲兌、而上當離。離爲日。日之在天、垂曜在澤。天子在上、說心在下。是降心逆公之象。
【読み】
天澤と爲りて以て日に當たり、天子心を降して以て公を逆う。亦可ならずや。乾を天と爲し、兌を澤と爲す。乾變じて兌と爲りて、上離に當たる。離を日と爲す。日の天に在るや、曜を垂れて澤に在り。天子上に在して、說ぶ心下に在り。是れ心を降して公を逆うるの象なり。

大有去睽而復、亦其所也。言去睽卦、還論大有、亦有天子降心之象。乾尊離卑。降尊下卑、亦其義也。
【読み】
大有睽を去りて復りしも、亦其の所なり、と。言うこころは、睽卦を去りて、還りて大有を論ずるも、亦天子心を降すの象有り。乾は尊く離は卑し。尊きを降して卑きに下る、亦其の義なり。

晉侯辭秦師而下。辭讓秦師使還。順流。故曰下。
【読み】
晉侯秦の師を辭して下る。秦の師を辭讓して還らしむ。流れに順う。故に下ると曰う。

三月、甲辰、次于陽樊、右師圍溫、大叔在溫故。
【読み】
三月、甲辰[きのえ・たつ]、陽樊[ようはん]に次[やど]り、右師溫を圍み、大叔溫に在る故なり。

左師逆王。
【読み】
左師王を逆う。

夏、四月、丁巳、王入于王城。取大叔于溫、殺之于隰城。戊午、晉侯朝王。王饗醴。命之宥。旣行饗禮、而設醴酒、又加之以幣帛、以助歡也。宥、助也。
【読み】
夏、四月、丁巳[ひのと・み]、王王城に入る。大叔を溫に取えて、之を隰城[しゅうじょう]に殺す。戊午[つちのえ・うま]、晉侯王に朝す。王饗して醴あり。之に宥を命ず。旣に饗禮を行いて、醴酒を設け、又之に加うるに幣帛を以てして、以て歡を助くるなり。宥は、助くるなり。

請隧。弗許。闕地通路曰隧。王之葬禮也。諸侯皆縣柩而下。
【読み】
隧[すい]を請う。許さず。地を闕[ほ]りて路を通すを隧と曰う。王の葬禮なり。諸侯は皆柩を縣けて下す。

曰、王章也。章顯王者與諸侯異。
【読み】
曰く、王の章なり。王者と諸侯と異なるを章顯す。

未有代德、而有二王、亦叔父之所惡也。
【読み】
未だ代德有らずして、二王有るは、亦叔父の惡む所なり、と。

與之陽樊・溫・原・欑茅之田。晉於是始啓南陽。在晉山南河北。故曰南陽。○欑、才官反。
【読み】
之に陽樊・溫・原・欑茅[さんぼう]の田を與う。晉是に於て始めて南陽を啓く。晉の山南河北に在り。故に南陽と曰う。○欑は、才官反。

陽樊不服。圍之。蒼葛呼曰、蒼葛、陽樊人。○呼、火故反。
【読み】
陽樊服せず。之を圍む。蒼葛呼びて曰く、蒼葛は、陽樊の人。○呼は、火故反。

德以柔中國。刑以威四夷。宜吾不敢服也。此誰非王之親姻。其俘之也。
【読み】
德は以て中國を柔らぐ。刑は以て四夷を威す。宜なり吾が敢えて服せざること。此れ誰か王の親姻に非ざらん。其れ之を俘にせんや、と。

乃出其民。取其土而已。
【読み】
乃ち其の民を出だす。其の土を取るのみ。

秋、秦・晉伐鄀。鄀、本在商密。秦・楚界上小國。其後遷於南郡鄀縣。○鄀、音若。
【読み】
秋、秦・晉鄀[じゃく]を伐つ。鄀は、本商密に在り。秦・楚界上の小國なり。其の後南郡の鄀縣に遷る。○鄀は、音若。

楚鬭克・屈禦寇以申息之師戍商密。鬭克、申公子儀。屈禦寇、息公子邊。商密、鄀別邑。今南郷丹水縣。戍、守也。二子屯兵於析、以爲商密援。
【読み】
楚の鬭克・屈禦寇申息の師を以[い]て商密を戍る。鬭克は、申公子儀。屈禦寇は、息公子邊。商密は、鄀の別邑。今の南郷丹水縣なり。戍は、守るなり。二子兵を析に屯して、以て商密の援と爲る。

秦人過析、隈入而係輿人、以圍商密、昏而傅焉、析、楚邑。一名白羽。今南郷析縣。隈、隱蔽之處。係縛輿人、詐爲克析得其囚俘者。昏而傅城、不欲令商密知囚非析人。○隈、烏囘反。係、音計。傅、音附。
【読み】
秦人析を過ぎ、隈に入りて輿人を係[しば]りて、以て商密を圍み、昏にして傅[つ]き、析は、楚の邑。一名は白羽。今の南郷の析縣なり。隈は、隱蔽の處。輿人を係縛して、詐りて析に克ちて其の囚俘を得る者の爲[まね]す。昏にして城に傅くは、商密をして囚の析人に非ざるを知らしむることを欲せざるなり。○隈は、烏囘反。係は、音計。傅は、音附。

宵坎血加書、僞與子儀・子邊盟者。掘地爲坎、以埋盟之餘血、加盟書其上。
【読み】
宵血を坎[あな]にし書を加え、子儀・子邊と盟う者の僞[まね]す。地を掘りて坎を爲り、以て盟の餘血を埋め、盟書を其の上に加う。

商密人懼曰、秦取析矣。戍人反矣。乃降秦師。秦師囚申公子儀・息公子邊以歸。商密旣降、析戍亦敗。故得囚二子。
【読み】
商密の人懼れて曰く、秦析を取れり。戍人反す、と。乃ち秦の師に降る。秦の師申公子儀・息公子邊を囚えて以て歸る。商密旣に降り、析の戍も亦敗れぬ。故に二子を囚うることを得たり。

楚令尹子玉追秦師。弗及。不復言晉者、秦爲兵主。
【読み】
楚の令尹子玉秦の師を追う。及ばず。復晉を言わざるは、秦兵主爲ればなり。

遂圍陳、納頓子于頓。爲頓圍陳。
【読み】
遂に陳を圍みて、頓子を頓に納る。頓の爲に陳を圍む。

冬、晉侯圍原、命三日之糧。原不降。命去之。諜出、諜、閒也。
【読み】
冬、晉侯原を圍み、三日の糧を命ず。原降らず。命じて之を去らしむ。諜出でて、諜は、閒なり。

曰、原將降矣。軍吏曰、請待之。公曰、信、國之寶也。民之所庇也。得原失信、何以庇之。所亡滋多。退一舍而原降。遷原伯貫于冀。伯貫、周守原大夫也。
【読み】
曰く、原將に降らんとす、と。軍吏曰く、請う、之を待たん、と。公曰く、信は、國の寶なり。民の庇[おお]わるる所なり。原を得るも信を失わば、何を以て之を庇わん。亡[うしな]う所滋々多けん、と。一舍を退けて原降る。原の伯貫を冀に遷す。伯貫は、周の原を守る大夫なり。

趙衰爲原大夫、狐溱爲溫大夫。狐溱、狐毛之子。
【読み】
趙衰[ちょうし]を原の大夫と爲し、狐溱を溫の大夫と爲す。狐溱は、狐毛の子。

衛人平莒于我。十二月、盟于洮、脩衛文公之好、且及莒平也。莒以元年酈之役怨魯。衛文公將平之、未及而卒。成公追成父志、降名以行事。故曰脩文公之好。○酈、力知反。
【読み】
衛人莒を我に平らぐ。十二月、洮に盟うは、衛の文公の好を脩め、且莒と平らぐなり。莒元年酈の役を以て魯を怨む。衛の文公將に之を平らげんとして、未だ及ばずして卒す。成公父の志を追い成し、名を降して以て事を行う。故に文公の好を脩むと曰う。○酈は、力知反。

晉侯問原守於寺人勃鞮。勃鞮、披也。○守、手又反。鞮、丁兮反。
【読み】
晉侯原の守を寺人勃鞮[ぼってい]に問う。勃鞮は、披なり。○守は、手又反。鞮は、丁兮反。

對曰、昔趙衰以壺飧從徑、餒而弗食。言其廉且仁、不忘君也。徑、猶行也。○飧、音孫。從、才用反。
【読み】
對えて曰く、昔趙衰壺飧[こそん]を以て徑に從い、餒[う]えて食わざりし、と。其の廉にして且仁、君を忘れざるを言うなり。徑は、猶行のごとし。○飧は、音孫。從は、才用反。

故使處原。從披言也。衰雖有大功、猶簡小善以進之、示不遺勞。此段當在衛人平莒上。蓋傳文倒置也。問原與上文爲原連、平莒與下經會莒連、文徽云。
【読み】
故に原に處らしむ。披の言に從うなり。衰大功有りと雖も、猶小善を簡して以て之を進むるは、勞を遺さざるを示すなり。此の段當に衛人平莒の上に在るべし。蓋し傳文倒置するなり。問原と上の文の爲原と連なり、平莒と下の經の會莒と連なれりと、文徽云う。


〔經〕二十有六年、春、王正月、己未、公會莒子・衛甯速盟于向。向、莒地。甯速、衛大夫莊子也。○向、舒亮反。
【読み】
〔經〕二十有六年、春、王の正月、己未[つちのと・み]、公莒子・衛の甯速[ねいそく]に會して向[しょう]に盟う。向は、莒の地。甯速は、衛の大夫莊子なり。○向は、舒亮反。

齊人侵我西鄙。公追齊師至酅。不及。公逐齊師、遠至齊地。故書之。濟北穀城縣西有地、名酅下。○酅、戶圭反。
【読み】
齊人我が西鄙を侵す。公齊の師を追い酅[けい]に至る。及ばず。公齊の師を逐いて、遠く齊の地に至る。故に之を書す。濟北穀城縣の西に地有り、酅下と名づく。○酅は、戶圭反。

夏、齊人伐我北鄙。孝公未入魯竟、先使微者伐之。
【読み】
夏、齊人我が北鄙を伐つ。孝公未だ魯の竟に入らず、先ず微者をして之を伐たしむ。

衛人伐齊。公子遂如楚乞師。公子遂、魯卿也。乞、不保得之辭。
【読み】
衛人齊を伐つ。公子遂[すい]楚に如きて師を乞う。公子遂は、魯の卿なり。乞うとは、得ることを保たざるの辭。

秋、楚人滅夔、以夔子歸。夔、楚同姓國。今建平秭歸縣。夔有不祀之罪。故不譏楚滅同姓。
【読み】
秋、楚人夔[き]を滅ぼし、夔子を以[い]て歸る。夔は、楚の同姓の國。今の建平秭歸縣なり。夔に祀らざるの罪有り。故に楚の同姓を滅ぼすを譏らず。

冬、楚人伐宋、圍緡。公以楚師伐齊、取穀。傳例曰、師能左右之曰以。
【読み】
冬、楚人宋を伐ち、緡[びん]を圍む。公楚の師を以て齊を伐ち、穀を取る。傳例に曰く、師能く之を左右するを以ると曰う。

公至自伐齊。無傳。
【読み】
公齊を伐ちてより至る。傳無し。

〔傳〕二十六年、春、王正月、公會莒茲丕公・ 茲丕、時君之號。莒、夷無謚。以號爲稱。
【読み】
〔傳〕二十六年、春、王の正月、公莒の茲丕公・ 茲丕は、時君の號。莒は、夷にして謚無し。號を以て稱とす。

甯莊子盟于向、尋洮之盟也。洮盟在前年。
【読み】
甯莊子に會して向に盟うは、洮の盟を尋[かさ]ぬるなり。洮の盟は前年に在り。

齊師侵我西鄙、討是二盟也。
【読み】
齊の師我が西鄙を侵すは、是の二盟を討ずるなり。

夏、齊孝公伐我北鄙。衛人伐齊、洮之盟故也。
【読み】
夏、齊の孝公我が北鄙を伐つ。衛人齊を伐つは、洮の盟の故なり。

公使展喜犒師、勞齊師。
【読み】
公展喜をして師を犒[ねぎら]わしめんとして、齊の師を勞う。

使受命于展禽。柳下惠。
【読み】
命を展禽に受けしむ。柳下惠なり。

齊侯未入竟。展喜從之、曰、寡君聞君親舉玉趾、將辱於敝邑、使下臣犒執事。言執事、不敢斥尊。
【読み】
齊侯未だ竟に入らず。展喜之に從いて、曰く、寡君君の親ら玉趾を舉げて、將に敝邑に辱くせんとすと聞き、下臣をして執事を犒わしむ、と。執事と言うは、敢えて尊を斥[さ]さず。

齊侯曰、魯人恐乎。對曰、小人恐矣。君子則否。齊侯曰、室如縣罄、野無靑草。何恃而不恐。如、而也。時夏四月、今之二月。野物未成。故言居室而資糧縣盡、在野則無疏食之物。所以當恐。
【読み】
齊侯曰く、魯人恐るるか、と。對えて曰く、小人は恐る。君子は則ち否らず、と。齊侯曰く、室にしては縣罄[けんけい]し、野には靑草無し。何を恃みて恐れざる、と。如は、而なり。時に夏の四月にして、今の二月なり。野物未だ成らず。故に言う、室に居りては資糧縣盡し、野に在らば則ち疏食の物無し、と。當に恐るべき所以なり。

對曰、恃先王之命。昔周公・大公股肱周室、夾輔成王、成王勞之、而賜之盟曰、世世子孫、無相害也。載在盟府、載、載書也。
【読み】
對えて曰く、先王の命を恃めり。昔周公・大公周室に股肱として、成王を夾輔せば、成王之を勞して、之に盟を賜いて曰く、世世子孫、相害すること無かれ、と。載盟府に在りて、載は、載書なり。

大師職之。職、主也。大公爲大師、兼主司盟之官。
【読み】
大師之を職[つかさど]れり。職は、主るなり。大公大師と爲り、兼ねて司盟の官を主る。

桓公是以糾合諸侯、而謀其不協、彌縫其闕、而匡救其災、昭舊職也。及君卽位、諸侯之望曰、其率桓之功。率、循也。○縫、扶容反。
【読み】
桓公是を以て諸侯を糾合して、其の不協を謀り、其の闕けたるを彌縫して、其の災いを匡救せしは、舊職を昭らかにするなり。君の位に卽くに及びて、諸侯の望みに曰く、其れ桓の功に率わんか、と。率は、循うなり。○縫は、扶容反。

我敝邑用不敢保聚、用此舊盟。故不聚衆保守。
【読み】
我が敝邑用[もっ]て敢えて保聚せずして、此の舊盟を用ゆ。故に衆を聚めて保守せず。

曰、豈其嗣世九年、而棄命廢職。其若先君何。君必不然。恃此以不恐。
【読み】
曰く、豈其れ世を嗣ぐこと九年にして、命を棄てて職を廢てんや。其れ先君を若何。君は必ず然らじ、と。此を恃みて以て恐れず、と。

齊侯乃還。
【読み】
齊侯乃ち還る。

東門襄仲・臧文仲如楚乞師。襄仲居東門。故以爲氏。臧文仲、爲襄仲副使。故不書。
【読み】
東門襄仲・臧文仲楚に如きて師を乞う。襄仲東門に居る。故に以て氏と爲す。臧文仲は、襄仲の副使と爲る。故に書さず。

臧孫見子玉、而道之伐齊・宋、以其不臣也。言其不臣事周室、可以此罪責而伐之。
【読み】
臧孫子玉を見て、之を道[みちび]きて齊・宋を伐たしむるに、其の不臣なるを以てす。其の周室に臣事せず、此の罪を以て責めて之を伐つ可きを言う。

夔子不祀祝融與鬻熊。祝融、高辛氏之火正、楚之遠祖也。鬻熊、祝融之十二世孫。夔、楚之別封。故亦世紹其祀。
【読み】
夔子祝融と鬻熊[いくゆう]とを祀らず。祝融は、高辛氏の火正、楚の遠祖なり。鬻熊は、祝融の十二世の孫。夔は、楚の別封なり。故に亦世々其の祀を紹[つ]ぐ。

楚人讓之。對曰、我先王熊摯有疾、鬼神弗赦、而自竄于夔。熊摯、楚嫡子。有疾不得嗣位。故別封爲夔子。
【読み】
楚人之を讓[せ]む。對えて曰く、我が先王熊摯[ゆうし]疾有りて、鬼神赦さずして、自ら夔に竄[のが]れたり。熊摯は、楚の嫡子。疾有りて位を嗣ぐことを得ず。故に別封せられて夔子と爲る。

吾是以失楚。又何祀焉。廢其常祀、而飾辭文過。
【読み】
吾れ是を以て楚を失えり。又何ぞ祀らん、と。其の常祀を廢して、辭を飾り過ちを文[かざ]る。

秋、楚成得臣・鬭宜申帥師滅夔、以夔子歸。成得臣、令尹子玉也。鬭宜申、司馬子西也。
【読み】
秋、楚の成得臣・鬭宜申師を帥いて夔を滅ぼし、夔子を以て歸る。成得臣は、令尹子玉なり。鬭宜申は、司馬子西なり。

宋以其善於晉侯也、重耳之出也、宋襄公贈馬二十乘。
【読み】
宋其の晉侯に善きを以てや、重耳の出づるや、宋の襄公馬二十乘を贈れり。

叛楚卽晉。冬、楚令尹子玉・司馬子西帥師伐宋、圍緡。
【読み】
楚に叛きて晉に卽く。冬、楚の令尹子玉・司馬子西師を帥いて宋を伐ち、緡を圍む。

公以楚師伐齊、取穀。
【読み】
公楚の師を以て齊を伐ち、穀を取る。

凡師、能左右之、曰以。左右、謂進退在己。○左右、竝如字。
【読み】
凡そ師、能く之を左右するを、以ると曰う。左右とは、進退己に在るを謂う。○左右は、竝字の如し。

寘桓公子雍於穀、易牙奉之、以爲魯援。雍本與孝公爭立。故使居穀以偪齊。
【読み】
桓公の子雍を穀に寘[お]き、易牙之に奉じて、以て魯の援と爲る。雍本孝公と立たんことを爭う。故に穀に居りて以て齊に偪らしむ。

楚申公叔侯戍之。爲二十八年、楚子使申叔去穀張本。
【読み】
楚の申公叔侯之を戍る。二十八年、楚子申叔をして穀を去らしむる爲の張本なり。

桓公之子七人、爲七大夫於楚。言孝公不能撫公族。
【読み】
桓公の子七人、楚に七大夫と爲れり。孝公公族を撫づること能わざるを言う。



經十六年。隕石。于敏反。是月。本或作是日。六鷁。六其數也。公與。音預。斂。力驗反。本又作公與小斂。○今本亦同。邢。音刑。于淮。音懷。
傳。迅風。音信。又音峻。疾也。焉在。於虔反。先見。賢遍反。又如字。錯逆。七各反。餘殃。於良反。取狐。音胡。廚。直誅反。受鐸。徒各反。涉汾。扶云反。大原。音泰。戎難。乃旦反。注同。鄫爲。于僞反。
經十七年。英氏。於京反。滅項。胡講反。魯滅之也。二傳以爲齊滅。
傳。爲徐。于僞反。子圉。魚呂反。爲質。音致。下同。而妻。七計反。下同。梁嬴。音盈。下同。孕。以證反。大卜。音泰。宦女。音患。内嬖。必計反。長衛。丁丈反。下注同。少衛。詩照反。公子潘。判丹反。共姬。本亦作恭。寺人貂。音彫。爲長。于僞反。易牙。音亦。夜殯。必刃反。
經十八年。于甗。一音魚偃反。
傳。鑄兵。之樹反。圃。布古反。又音布。燬。吁委反。
經十九年。嬰齊。於盈反。雖與。音預。下亦與同。致餼。許氣反。以惡。烏路反。
傳。不復。扶又反。東徑。音經。○今本經。譙。在消反。沛。音貝。入泗。音四。社祠。音辭。或音祀。爲用。于僞反。下爲人同。又如字。注放此。伯長。丁丈反。不降。戶江反。下同。因壘。力軌反。適妻。丁歷反。本或作嫡。○今本亦嫡。大姒。音泰。下音似。盍姑。胡臘反。脩好。呼報反。下同。民罷。音皮。溝塹。七豔反。而潰。戶内反。
經二十年。郜子。字林、工竺反。
傳。啓塞。素則反。堵寇。丁古反。王又音者。爲邢。于僞反。衛難也。乃旦反。鮮矣。息淺反。下同。召南。上照反。早莫。音暮。本亦作暮。○今本亦暮。汙辱。汙穢之汙。一音烏路反。相時。息亮反。
經二十一年。爲邢。于僞反。下爲邾同。于盂。音于。總見。賢遍反。獻。軒建反。捷。在接反。于薄。如字。
傳。祈禱。丁老反。或丁報反。瘠病。在亦反。上嚮。許亮反。本亦作向。○今本亦向。故爲。于僞反。省用。所景反。以懲。直升反。戰泓。烏宏反。顓。音專。臾。羊朱反。風姓也。本或作皆風姓。大暤。音泰。伏戲。許宜反。本或作犠。又作羲。○今本亦羲。封近。附近之近。諸夏。戶雅反。注及下同。猾夏。干八反。叔孫豹。百敎反。
經二十二年。之比。必二反。升陘。音刑。邾人縣。音玄。公冑。直救反。主帥。所類反。
傳。被髮。皮寄反。下注同。大叔。音泰。注同。協比。毗志反。焉能。於虔反。王說。音悅。而御。本亦作禦。○今本亦禦。可易。以豉反。下同。兢兢。居陵反。本或作矜。登陘。本亦作升陘。○今本亦升陘。縣諸。音玄。兜。丁侯反。鍪。莫侯反。皆咎。其九反。不重。直用反。下同。隘。於賣反。勍。其京反。胡耇。音苟。爲利。于僞反。儳。一音仕減反。整陳。直覲反。一音如字。羋。彌爾反。柯。音哥。縉。音晉。俘。芳扶反。馘。古獲反。戰所獲。爾近。如字。又附近之近。下同。○今本爾作邇。爲鄭。于僞反。叔詹。章廉反。不歿。門忽反。○今本沒。卒於。子恤反。城濮。音卜。所殺。音試。○今本弑。
經二十三年。
傳。復召。扶又反。下不復同。焦。子消反。靖。音靜。其人能靖者與。絕句。重耳。直龍反。期期。下亦作朞。下注未期亦音基。膝。辛七反。濫。力暫反。以呈。勑景反。本或作逞。○今本亦逞。已見。賢遍反。重發。直用反。下重詳同。又爲。于僞反。又如字。於難。乃旦反。而校。音敎。趙衰。初危反。賈佗。徒何反。伯儵。本又作鯈。音同。○今本亦鯈。請待子。絶句。二十乘。繩證反。注及下皆同。共公。音恭。騈。蒲賢反。欲觀。如字。裸。一音戶化反。浴。音欲。薄而。如字。合幹。古旦反。子盍。戶臘反。自別。彼別反。乃饋。其貴反。遺也。寘璧。之豉反。竟外。音境。令人。力呈反。鞭弭。爾雅云、弓有緣者謂之弓、無緣者謂之弭。無緣。悅絹反。大咎。其九反。與焉。音預。揮之。許委反。湔。音薦。王音贊。一音箭。又音牋。自拘。音倶。一級。音急。
經二十四年。蔽於。必世反。之難。乃旦反。
傳。繮。居良反。皦。古了反。令狐。力丁反。廬柳。力居反。下力九反。公子縶。張立反。于郇。音荀。畏偪。彼力反。而殺。音試。又如字。○今本弑。寺人披。普皮反。本又作侍人披。女卽。音汝。下皆同。田渭。音謂。水名。濱。音賓。女中宿。一本作女中宿至。○今本亦同。衣袂。滅制反。及難。乃旦反。下及注同。仲相。息亮反。未輯。音集。又七入反。本亦作集。秦卒。子忽反。共之。音恭。本亦作供。盡用。津忍反。心覆。芳服反。下同。之守。手又反。又如字。其衆矣。本或作甚衆矣。○今本亦甚。公遽。其據反。括。古活反。下之。遐嫁反。下同。介。音界。盍亦。戶臘反。懟。怨也。欲令。力呈反。焉用。於虔反。兪彌。羊朱反。下亡皮反。爲滑。于僞反。不聽。吐定反。而執二子。本或作而執其二子。其衍字也。大上。音泰。以蕃。方元反。郕。音成。酆。音風。凡蔣。將丈反。邢茅。亡交反。胙。才故反。下注祭胙同。召穆。上照反。注同。糾合。居黝反。常棣。大計反。字林、大内反。鄂。五各反。外禦。魚呂反。下同。其侮。亡甫反。詩作務。訟爭。爭鬭之爭。本又作諍。外扞。戶旦反。卽聾。鹿工反。從昧。音妹。用嚚。魚巾反。堵叔。丁古反。又音者。不別。彼列反。又渝。羊朱反。頹叔。徒回反。近之。附近之近。遠之。于万反。王替。他計反。坎欿。上苦感反。鞏。九勇反。好聚。呼報反。惡之。烏路反。注同。刺小人。七賜反。子臧之及。一本作之服。○今本亦服。也夫。音扶。詒。以支反。夏書。戶雅反。後夏書皆放此。其施。始豉反。有加。絕句。禮也。一本無也字。讀則總爲一句。告難。乃旦反。下同。後聽。吐定反。
經二十五年。侯燬。況委反。惡其。烏路反。傳同。越竟。音境。洮。吐刀反。
傳。仇。音求。下卑。遐嫁反。隰城。音習。享醴。音禮。之宥。音又。請隧。音遂。闕地。其月反。皆縣。音玄。柩。其救反。所惡。烏路反。其俘。芳夫反。鄀。字林云、楚邑。楮斫反。禦寇。魚呂反。屯兵。徒門反。援。于眷反。秦人過。古臥反。王音戈。析。星歷反。俗作■(木偏に片)輿人。音餘。之處。昌慮反。欲令。力呈反。掘地。其勿反。又其月反。本又作闕。其月反。乃降。戶江反。後除注降名皆同。不復。扶又反。爲頓。于僞反。諜出。音牒。諜閒。閒厠之閒。所庇。必利反。又音祕。伯貫。古亂反。狐溱。側巾反。之好。呼報反。注同。勃鞮。步忽反。從。舊如字。餒而。奴罪反。餓也。披。普皮反。
經二十六年。至雟。本又作酅。一音似轉反。○今本又酅。魯竟。音境。傳同。夔。求龜反。秭歸。音姊。圍緡。亡巾反。
傳。茲丕。普悲反。爲稱。尺證反。犒。苦報反。勞齊。力報反。下文同。玉趾。音止。足也。恐乎。壬勇反。下及注皆同。縣罄。音玄。注同。大公。音泰。下及注同。夾輔。古洽反。舊古協反。副使。所吏反。而道。音導。祝融。余忠反。鬻熊。音育。熊摯。音至。自竄。七亂反。字林、又千外反。適子。丁歷反。○今本嫡。二十乘。繩證反。寘桓。之豉反。魯援。于眷反。

春秋左氏傳校本第七

僖公 起二十七年盡三十三年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

〔經〕
二十有七年、春、杞子來朝。夏、六月、庚寅、齊侯昭卒。十九年、與魯大夫盟于齊。
【読み】
〔經〕二十有七年、春、杞子來朝す。夏、六月、庚寅[かのえ・とら]、齊侯昭卒す。十九年、魯の大夫と齊に盟う。

秋、八月、乙未、葬齊孝公。無傳。三月而葬、速。
【読み】
秋、八月、乙未[きのと・ひつじ]、齊の孝公を葬る。傳無し。三月にして葬る、速[はや]きなり。

乙巳、公子遂帥師入杞。弗地曰入。八月無乙巳。乙巳、九月六日。
【読み】
乙巳[きのと・み]、公子遂[すい]師を帥いて杞に入る。地もたざるを入ると曰う。八月に乙巳無し。乙巳は、九月六日なり。

冬、楚人・陳侯・蔡侯・鄭伯・許男圍宋。傳言楚子使子玉去宋、經書人者、恥不得志、以微者告。猶序諸侯之上、楚主兵故。
【読み】
冬、楚人・陳侯・蔡侯・鄭伯・許男宋を圍む。傳には楚子子玉をして宋を去らしむと言い、經には人と書すは、志を得ざるを恥じ、微者を以て告ぐればなり。猶諸侯の上に序ずるは、楚兵を主る故なり。

十有二月、甲戌、公會諸侯盟于宋。無傳。諸侯伐宋。公與楚有好而往會之。非後期。宋方見圍。無嫌於與盟。故直以宋地。
【読み】
十有二月、甲戌[きのえ・いぬ]、公諸侯に會して宋に盟う。傳無し。諸侯宋を伐つ。公楚と好有りて往きて之に會す。期に後るるに非ず。宋方に圍まる。盟に與るに嫌い無し。故に直に宋を以て地す。

〔傳〕二十七年、春、杞桓公來朝。用夷禮。故曰子。杞、先代之後。而迫於東夷、風俗雜壞、言語衣服有時而夷。故杞子卒、傳言杞夷也。今稱朝者、始於朝禮、終而不全。異於介葛盧。故唯貶其爵。
【読み】
〔傳〕二十七年、春、杞の桓公來朝す。夷の禮を用ゆ。故に子と曰う。杞は、先代の後。而れども東夷に迫り、風俗雜壞にして、言語衣服時有りて夷なり。故に杞子の卒するとき、傳に杞夷すればなりと言う。今朝を稱するは、朝禮に始まり、終にして全からず。介の葛盧に異なるなり。故に唯其の爵を貶するのみ。

公卑杞。杞不共也。杞用夷禮。故賤之。○共、音恭。
【読み】
公杞を卑しむ。杞不共なればなり。杞夷禮を用ゆ。故に之を賤しむ。○共は、音恭。

夏、齊孝公卒。有齊怨、前年齊再伐魯。
【読み】
夏、齊の孝公卒す。齊の怨み有るも、前年齊再び魯を伐つ。

不廢喪紀。禮也。弔贈之數、不廢。
【読み】
喪紀を廢せず。禮なり。弔贈の數、廢す可からず。
*「不可廢」について、頭注に「不可、一作不有。」とある。

秋、入杞、責無禮也。責不共也。
【読み】
秋、杞に入るは、無禮を責むるなり。不共を責むるなり。

楚子將圍宋。使子文治兵於睽。子文時不爲令尹。故云使。治兵、習號令也。睽、楚邑。
【読み】
楚子將に宋を圍まんとす。子文をして睽[けい]に治兵せしむ。子文時に令尹爲らず。故に使むと云う。治兵は、號令を習わすなり。睽は、楚の邑。

終朝而畢。不戮一人。終朝、自旦及食時也。子文欲委重於子玉。故略其事。
【読み】
終朝にして畢る。一人を戮せず。終朝は、旦より食時に及ぶまでなり。子文重きを子玉に委ねんことを欲す。故に其の事を略す。

子玉復治兵於蔿。子玉爲令尹故。蔿、楚邑。○蔿、于委反。
【読み】
子玉復蔿[い]に治兵す。子玉令尹と爲る故なり。蔿は、楚の邑。○蔿は、于委反。

終日而畢。鞭七人、貫三人耳。國老皆賀子文。子文飮之酒。賀子玉堪其事。○貫、音官。又古亂反。飮、於鴆反。
【読み】
終日にして畢る。七人を鞭ち、三人の耳を貫く。國老皆子文を賀す。子文之に酒を飮ましむ。子玉が其の事に堪えたるを賀す。○貫は、音官。又古亂反。飮は、於鴆反。

蔿賈尙幼。後至。不賀。蔿賈、伯嬴、孫叔敖之父。幼、少也。
【読み】
蔿賈[いか]尙幼し。後れて至る。賀せず。蔿賈は、伯嬴[はくえい]、孫叔敖の父。幼は、少[わか]きなり。

子文問之。對曰、不知所賀。子之傳政於子玉、曰以靖國也。靖諸内、而敗諸外、所獲幾何。
【読み】
子文之を問う。對えて曰く、賀せん所を知らず。子の政を子玉に傳えしは、以て國を靖んぜんと曰えり。諸を内に靖んずるも、諸を外に敗らば、獲る所幾何ぞ。

子玉之敗、子之舉也。舉以敗國、將何賀焉。
【読み】
子玉の敗らんは、子の舉げたるなり。舉げて以て國を敗らんをば、將[はた]何ぞ賀せん。

子玉剛而無禮。不可以治民。過三百乘、其不能以入矣。苟入而賀、何後之有。三百乘、二萬二千五百人。
【読み】
子玉剛にして禮無し。以て民を治めしむ可からず。三百乘に過ぎば、其れ以て入ること能わじ。苟も入りて賀せんに、何の後るることか之れ有らん、と。三百乘は、二萬二千五百人。

冬、楚子及諸侯圍宋。宋公孫固如晉告急。公孫固、宋莊公孫。
【読み】
冬、楚子諸侯と宋を圍む。宋の公孫固晉に如きて急を告ぐ。公孫固は、宋の莊公の孫。

先軫曰、報施救患、取威定霸、於是乎在矣。先軫、晉下軍之佐、原軫也。報宋贈馬之施。
【読み】
先軫[せんしん]曰く、施に報い患を救い、威を取り霸を定めんこと、是に於て在り、と。先軫は、晉の下軍の佐、原軫なり。宋の馬を贈るの施に報ゆるなり。

狐偃曰、楚始得曹、而新昏於衛。若伐曹・衛、楚必救之。則齊・宋免矣。前年、楚使申叔侯戍穀以偪齊。
【読み】
狐偃曰く、楚始めて曹を得て、新たに衛に昏す。若し曹・衛を伐たば、楚必ず之を救わん。則ち齊・宋免れん、と。前年、楚申叔侯をして穀を戍りて以て齊に偪らしむ。

於是乎蒐于被廬、晉常以春蒐禮改政令、敬其始也。被廬、晉地。
【読み】
是に於て被廬に蒐[しゅう]し、晉常に春蒐の禮を以て政令を改むるは、其の始めを敬するなり。被廬は、晉の地。

作三軍。閔元年、晉獻公作二軍。今復大國之禮。
【読み】
三軍を作る。閔元年、晉の獻公二軍を作る。今大國の禮に復す。

謀元帥。中軍帥。
【読み】
元帥を謀る。中軍の帥。

趙衰曰、郤縠可。臣亟聞其言矣。說禮樂而敦詩書。詩書、義之府也。禮樂、德之則也。德義、利之本也。夏書曰、賦納以言、明試以功、車服以庸。尙書虞夏書也。賦納以言、觀其志也。明試以功、考其事也。車服以庸、報其勞也。賦、猶取也。庸、功也。○穀、胡木反。亟、欺冀反。數也。說、音悅。
【読み】
趙衰[ちょうし]曰く、郤縠可なり。臣亟[しば]々其の言を聞けり。禮樂を說びて詩書に敦し。詩書は、義の府なり。禮樂は、德の則なり。德義は、利の本なり。夏書に曰く、賦納するに言を以てし、明試するに功を以てし、車服は庸を以てす、と。尙書の虞夏の書なり。賦納するに言を以てするは、其の志を觀るなり。明試するに功を以てするは、其の事を考うるなり。車服庸を以てするは、其の勞に報ゆるなり。賦は、猶取るのごとし。庸は、功なり。○穀は、胡木反。亟は、欺冀反。數々なり。說は、音悅。

君其試之。乃使郤縠將中軍。郤溱佐之。使狐偃將上軍。讓於狐毛而佐之。狐毛、偃之兄。
【読み】
君其れ之を試みよ、と。乃ち郤縠をして中軍に將たらしむ。郤溱之を佐たり。狐偃をして上軍に將たらしむ。狐毛に讓りて之に佐たり。狐毛は、偃の兄。

命趙衰爲卿。讓於欒枝・先軫。欒枝、貞子也。欒賓之孫。
【読み】
趙衰に命じて卿とす。欒枝[らんし]・先軫に讓る。欒枝は、貞子なり。欒賓の孫。

使欒枝將下軍。先軫佐之。荀林父御戎。魏犫爲右。荀林父、中行桓子。○行、戶剛反。
【読み】
欒枝をして下軍に將たらしむ。先軫之に佐たり。荀林父戎に御たり。魏犫[ぎしゅう]右爲り。荀林父は、中行桓子。○行は、戶剛反。

晉侯始入而敎其民、二年、欲用之。二十四年入。
【読み】
晉侯始めて入りて其の民を敎え、二年にして、之を用いんことを欲す。二十四年に入る。

子犯曰、民未知義、未安其居。無義則苟生。
【読み】
子犯曰く、民未だ義を知らず、未だ其の居に安んぜず、と。義無ければ則ち苟生[こうせい]す。

於是乎出定襄王、二十五年、定襄王、以示事君之義。
【読み】
是に於て出でて襄王を定め、二十五年、襄王を定め、以て君に事うるの義を示す。

入務利民。民懷生矣。將用之。
【読み】
入りて民を利することを務む。民生を懷[やす]んず。將に之を用いんとす。

子犯曰、民未知信、未宣其用。宣、明也。未明於見用之信。
【読み】
子犯曰く、民未だ信を知らず、未だ其の用に宣[あき]らかならず、と。宣は、明らかなり。未だ之の信を用ゆることを見るに明らかならず。

於是乎伐原、以示之信。伐原、在二十五年。
【読み】
是に於て原を伐ちて、以て之に信を示す。原を伐つは、二十五年に在り。

民易資者、不求豐焉、不詐以求多。
【読み】
民の資を易うる者、豐を求めずして、詐りて以て多きを求めず。

明徵其辭。重言信。
【読み】
其の辭を明徵にす。言信を重んず。

公曰、可矣乎。子犯曰、民未知禮、未生其共。於是乎大蒐以示之禮、蒐、順少長、明貴賤。
【読み】
公曰く、可なりや、と。子犯曰く、民未だ禮を知らず、未だ其の共を生ぜず、と。是に於て大いに蒐して以て之に禮を示し、蒐して、少長を順にし、貴賤を明らかにす。

作執秩以正其官。執秩、主爵秩之官。
【読み】
執秩を作りて以て其の官を正しくす。執秩は、爵秩を主るの官。

民聽不惑、而後用之、出穀戍、釋宋圍、楚子使申叔去穀、子玉去宋。
【読み】
民の聽惑わずして、而して後に之を用い、穀の戍を出だし、宋の圍みを釋き、楚子申叔をして穀を去り、子玉をして宋を去らしむ。

一戰而霸、文之敎也。謂明年、戰城濮。
【読み】
一戰にして霸たるは、文の敎えなり。明年、城濮に戰うを謂う。


〔經〕二十有八年、春、晉侯侵曹。晉侯伐衛。再舉晉侯者、曹・衛兩來告。
【読み】
〔經〕二十有八年、春、晉侯曹を侵す。晉侯衛を伐つ。再び晉侯を舉ぐるは、曹・衛兩つながら來り告ぐるなり。

公子買戍衛。不卒戍。刺之。公子買、魯大夫子叢也。内殺大夫、皆書刺、言用周禮三刺之法、示不枉濫也。公實畏晉殺子叢、而誣叢以廢戍之罪。恐不爲遠近所信。故顯書其罪。
【読み】
公子買衛を戍る。戍を卒えず。之を刺す。公子買は、魯の大夫子叢[しそう]なり。内大夫を殺すは、皆刺と書すは、周禮の三刺の法を用ゆるを言い、枉濫ならざるを示すなり。公實は晉を畏れて子叢を殺して、而して叢を誣うるに戍を廢するの罪を以てす。恐れらくは遠近の爲に信ぜられざらんことを。故に其の罪を顯書す。

楚人救衛。三月、丙午、晉侯入曹、執曹伯、畀宋人。畀、與也。執諸侯、當以歸京師。晉欲怒楚使戰。故以與宋。所謂譎而不正。
【読み】
楚人衛を救う。三月、丙午[ひのえ・うま]、晉侯曹に入り、曹伯を執えて、宋人に畀[あた]う。畀[ひ]は、與うるなり。諸侯を執えば、當に以[い]て京師に歸[おく]るべし。晉楚を怒らして戰わしめんと欲す。故に以て宋に與う。所謂譎[いつわ]りて正しからざるなり。

夏、四月、己巳、晉侯・齊師・宋師・秦師及楚人戰于城濮。楚師敗績。宋公、齊國歸父、秦小子憗、旣次城濮、以師屬晉、不與戰也。子玉及陳・蔡之師不書、楚人恥敗、告文略也。大崩曰敗績。○憗、魚覲反。不與、音預。
【読み】
夏、四月、己巳[つちのと・み]、晉侯・齊の師・宋の師・秦の師楚人と城濮に戰う。楚の師敗績す。宋公、齊の國歸父、秦の小子憗[ぎん]、旣に城濮に次[やど]り、師を以て晉に屬して、戰に與らざるなり。子玉と陳・蔡の師と書さざるは、楚人敗を恥じ、告文略すればなり。大崩を敗績と曰う。○憗は、魚覲反。不與は、音預。

楚殺其大夫得臣。子玉違其君命以取敗。稱名以殺、罪之。
【読み】
楚其の大夫得臣を殺す。子玉其の君命に違いて以て敗を取る。名を稱して以て殺すは、之を罪するなり。

衛侯出奔楚。五月、癸丑、公會晉侯・齊侯・宋公・蔡侯・鄭伯・衛子・莒子盟于踐土。踐土、鄭地。王子虎臨盟、不同歃。故不書。衛侯出奔、其弟叔武攝位受盟、非王命所加、從未成君之禮。故稱子而序鄭伯之下。經書癸丑、月十八日也。傳書癸亥、月二十八日。經・傳必有誤。○踐、似淺反。土、如字。一音杜。
【読み】
衛侯出でて楚に奔る。五月、癸丑[みずのと・うし]、公晉侯・齊侯・宋公・蔡侯・鄭伯・衛子・莒子に會して踐土に盟う。踐土は、鄭の地。王子虎盟に臨みて、同じく歃[すす]らず。故に書さず。衛侯出奔し、其の弟叔武位を攝して盟を受くるも、王命加うる所に非ざれば、未成君の禮に從う。故に子と稱して鄭伯の下に序ず。經に癸丑と書すは、月の十八日なり。傳に癸亥[みずのと・い]と書すは、月の二十八日なり。經・傳に必ず誤り有らん。○踐は、似淺反。土は、字の如し。一に音杜。

陳侯如會。無傳。陳本與楚。楚敗、懼而屬晉。來不及盟。故曰如會。
【読み】
陳侯會に如く。傳無し。陳本楚に與す。楚敗れ、懼れて晉に屬す。來りて盟に及ばず。故に會に如くと曰う。

公朝于王所。無傳。王在踐土、非京師。故曰王所。
【読み】
公王の所に朝す。傳無し。王踐土に在り、京師に非ず。故に王の所と曰う。

六月、衛侯鄭自楚復歸于衛。復其位曰復歸。晉人感叔武之賢、而復衛侯。衛侯之入、由于叔武。故以國逆爲文。例在成十八年。
【読み】
六月、衛侯鄭楚より衛に復歸す。其の位に復るを復歸と曰う。晉人叔武の賢に感じて、衛侯を復す。衛侯の入るは、叔武に由る。故に國逆を以て文を爲す。例は成十八年に在り。

衛元咺出奔晉。元咺、衛大夫。雖爲叔武訟訴、失君臣之節。故無賢文。奔例在宣十年。○咺、況晩反。
【読み】
衛の元咺[げんけん]出でて晉に奔る。元咺は、衛の大夫。叔武の爲に訟訴すと雖も、君臣の節を失う。故に賢とする文無し。奔るの例は宣十年に在り。○咺は、況晩反。

陳侯款卒。無傳。凡四同盟。
【読み】
陳侯款卒す。傳無し。凡そ四たび同盟す。

秋、杞伯姬來。無傳。莊公女。歸寧曰來。
【読み】
秋、杞の伯姬來る。傳無し。莊公の女。歸寧を來ると曰う。

公子遂如齊。無傳。聘也。
【読み】
公子遂齊に如く。傳無し。聘するなり。

冬、公會晉侯・齊侯・宋公・蔡侯・鄭伯・陳子・莒子・邾人・秦人于溫。陳共公稱子、先君未葬。例在九年。宋襄公稱子、自在本班。陳共公稱子、降在鄭下、陳懷公稱子而在鄭上。傳無義例。蓋主會所次、非襃貶也。
【読み】
冬、公晉侯・齊侯・宋公・蔡侯・鄭伯・陳子・莒子・邾人[ちゅひと]・秦人に溫に會す。陳の共公子と稱するは、先君未だ葬らざればなり。例は九年に在り。宋の襄公子と稱するは、自ら本班に在り。陳の共公の子と稱するは、降りて鄭の下に在り、陳の懷公は子と稱して鄭の上に在り。傳に義例無し。蓋し主會の次[つい]ずる所にして、襃貶に非ざるならん。

天王狩于河陽。晉地。今河内有河陽縣。晉實召王、爲其辭逆而意順、故經以王狩爲辭。
【読み】
天王河陽に狩す。晉の地。今河内に河陽縣有り。晉實は王を召すも、其の辭逆にして意順なるが爲に、故に經王狩すを以て辭を爲すなり。

壬申、公朝于王所。壬申、十月十日。有日而無月。史闕文。
【読み】
壬申[みずのえ・さる]、公王の所に朝す。壬申は、十月十日。日有りて月無し。史の闕文なり。

晉人執衛侯、歸之于京師。稱人以執、罪及民也。例在成十五年。諸侯不得相治。故歸之京師。
【読み】
晉人衛侯を執えて、之を京師に歸[おく]る。人と稱して以て執うるは、罪民に及ぶなり。例は成十五年に在り。諸侯相治むることを得ず。故に之を京師に歸る。

衛元咺自晉復歸于衛。元咺與衛侯訟、得勝而歸。從國逆例者、明衛侯無道於民、國人與元咺。
【読み】
衛の元咺晉より衛に復歸す。元咺衛侯と訟え、勝を得て歸る。國逆の例に從うは、衛侯民に無道にして、國人元咺に與するを明かすなり。

諸侯遂圍許。會溫諸侯也。許比再會不至。故因會共伐之。
【読み】
諸侯遂に許を圍む。溫に會するの諸侯なり。許比[しき]りに再會して至らず。故に會に因りて共に之を伐つ。

曹伯襄復歸于曹、晉感侯獳之言、而復曹伯。故從國逆例。○獳、乃侯反。
【読み】
曹伯襄曹に復歸し、晉侯獳[こうどう]の言に感じて、曹伯を復す。故に國逆の例に從う。○獳は、乃侯反。

遂會諸侯圍許。言遂、得復而行、不歸國也。
【読み】
遂に諸侯許を圍むに會す。遂にと言うは、復ることを得て行き、國に歸らざるなり。

〔傳〕二十八年、春、晉侯將伐曹、假道于衛。曹在衛東故。
【読み】
〔傳〕二十八年、春、晉侯將に曹を伐たんとして、道を衛に假る。曹衛の東に在る故なり。

衛人弗許。還。自河南濟。從汲郡南渡、出衛南而東。
【読み】
衛人許さず。還る。河南より濟[わた]る。汲郡より南渡して、衛の南に出でて東す。

侵曹、伐衛。正月、戊申、取五鹿。五鹿、衛地。
【読み】
曹を侵し、衛を伐つ。正月、戊申[つちのえ・さる]、五鹿を取る。五鹿は、衛の地。

二月、晉郤縠卒。原軫將中軍。胥臣佐下軍。上德也。先軫以下軍佐、超將中軍。故曰上德。胥臣、司空季子。
【読み】
二月、晉の郤縠[げきこく]卒す。原軫中軍に將たり。胥臣下軍に佐たり。德を上[たっと]ぶなり。先軫下軍の佐を以て、超えて中軍に將たり。故に德を上ぶと曰う。胥臣は、司空季子。

晉侯・齊侯盟于斂盂。斂盂、衛地。○斂、音廉。又力檢反。
【読み】
晉侯・齊侯斂盂[れんう]に盟う。斂盂は、衛の地。○斂は、音廉。又力檢反。

衛侯請盟。晉人弗許。衛侯欲與楚。國人不欲。故出其君以說于晉。衛侯出居于襄牛。襄牛、衛地。○說、音悅。
【読み】
衛侯盟わんと請う。晉人許さず。衛侯楚に與せんと欲す。國人欲せず。故に其の君を出だして以て晉に說く。衛侯出でて襄牛に居る。襄牛は、衛の地。○說は、音悅。

公子買戍衛。晉伐衛。衛、楚之昏姻。魯欲與楚。故戍衛。
【読み】
公子買衛を戍る。晉衛を伐つ。衛は、楚の昏姻なり。魯楚に與せんと欲す。故に衛を戍る。

楚人救衛。不克。公懼於晉、殺子叢以說焉。召子叢而殺之、以謝晉。
【読み】
楚人衛を救う。克たず。公晉に懼れ、子叢[しそう]を殺して以て說く。子叢を召して之を殺して、以て晉に謝す。

謂楚人曰、不卒戍也。詐告楚人言、子叢不終戍事而歸。故殺之。殺子叢、在楚救衛下、經在上者、救衛赴晩至。
【読み】
楚人に謂いて曰く、戍を卒えず、と。詐りて楚人に告げて言う、子叢戍事を終えずして歸る。故に之を殺す、と。子叢を殺すは、楚衛を救う下に在り、經上に在るは、衛を救うの赴晩[おく]れて至ればなり。

晉侯圍曹、門焉。多死。攻曹城門。
【読み】
晉侯曹を圍み、門[せ]む。多く死す。曹の城門を攻む。

曹人尸諸城上。磔晉死人於城上。○磔、張宅反。
【読み】
曹人諸を城上に尸[さら]す。晉の死人を城上に磔にす。○磔は、張宅反。

晉侯患之。聽輿人之謀、曰、稱舍於墓。輿、衆也。舍墓、爲將發冢。
【読み】
晉侯之を患う。輿人の謀を聽くに、曰く、墓に舍らんと稱せよ、と。輿は、衆なり。墓に舍るとは、將に冢を發せんとするが爲なり。

師遷焉。曹人兇懼、遷至曹人墓。兇兇、恐懼聲。○兇、凶勇反。
【読み】
師遷る。曹人兇[きょう]として懼れ、遷りて曹人の墓に至る。兇兇は、恐懼の聲。○兇は、凶勇反。

爲其所得者棺而出之。因其兇也而攻之。三月、丙午、入曹、數之以其不用僖負羈、而乘軒者三百人也。且曰、獻狀。軒、大夫車。言其無德居位者多。故責其功狀。○棺、古患反。一音官。
【読み】
其の得る所の者の棺を爲して之を出だす。其の兇するに因りて之を攻む。三月、丙午、曹に入り、之を數[せ]むるに其の僖負羈を用いずして、軒に乘る者三百人なるを以てす。且曰く、狀を獻ぜよ、と。軒は、大夫の車。言うこころは、其の德無くして位に居る者多し。故に其の功狀を責む。○棺は、古患反。一に音官。

令無入僖負羈之宮、而免其族。報施也。報飧璧之施。○施、始豉反。
【読み】
令して僖負羈の宮に入ること無からしめて、其の族を免[ゆる]す。施に報ゆるなり。飧璧の施に報ゆ。○施は、始豉反。

魏犫・顚頡怒曰、勞之不圖、報於何有。二子各有從亡之勞。○頡、戶結反。從、才用反。
【読み】
魏犫[ぎしゅう]・顚頡[てんけつ]怒りて曰く、勞を之れ圖らずして、報ゆるに於て何か有らん、と。二子各々亡に從うの勞有り。○頡は、戶結反。從は、才用反。

爇僖負羈氏。爇、燒也。
【読み】
僖負羈氏を爇[や]く。爇は、燒くなり。

魏犫傷於胷。公欲殺之、而愛其材。材力。
【読み】
魏犫胷に傷つく。公之を殺さんと欲して、其の材を愛す。材力。

使問、且視之。病將殺之。魏犫束胸見使者曰、以君之靈、不有寧也。言不以病故自安寧。○見、賢遍反。
【読み】
問わしめ、且つ之を視せしむ。病まば將に之を殺さんとす。魏犫胸を束ねて使者に見えて曰く、君の靈を以て、寧んずること有らず、と。言うこころは、病の故を以て自ら安寧せず。○見は、賢遍反。

距躍三百、曲踊三百。距躍、超越也。曲踊、跳踊也。百、猶勵也。○三、如字。又息暫反。百、音陌。下放此。勵、音邁。
【読み】
距躍して三たび百[はげ]み、曲踊して三たび百む。距躍は、超越なり。曲踊は、跳踊なり。百は、猶勵むのごとし。○三は、字の如し。又息暫反。百は、音陌。下も此に放え。勵は、音邁。

乃舍之。殺顚頡以徇于師、立舟之僑以爲戎右。舟之僑、故虢臣。閔二年、奔晉。以代魏犫。爲先歸張本。○舍、如字。又音捨。
【読み】
乃ち之を舍[ゆる]す。顚頡を殺して以て師に徇[とな]え、舟之僑を立てて以て戎右と爲す。舟之僑は、故の虢の臣。閔二年、晉に奔る。以て魏犫に代わる。先ず歸る爲の張本なり。○舍は、字の如し。又音捨。

宋人使門尹般如晉師告急。門尹般、宋大夫。○般、音班。
【読み】
宋人門尹般をして晉の師に如きて急を告げしむ。門尹般は、宋の大夫。○般は、音班。

公曰、宋人告急。舍之則絕。與晉絕。
【読み】
公曰く、宋人急を告ぐ。之を舍てば則ち絕えん。晉と絕ゆ。

告楚不許。我欲戰矣、齊・秦未可。若之何。未肯戰。
【読み】
楚に告ぐるも許さじ。我れ戰わんと欲するも、齊・秦可[き]かず。之を若何、と。未だ肯えて戰わず。

先軫曰、使宋舍我而賂齊秦、求救於齊・秦。○舍、音捨。
【読み】
先軫曰く、宋をして我を舍てて齊・秦に賂い、救いを齊・秦に求む。○舍は、音捨。

藉之告楚、假借齊・秦、使爲宋請。○藉、在亦反。借也。
【読み】
之を藉[か]りて楚に告げ、齊・秦を假借して、宋の爲に請わしむ。○藉は、在亦反。借りるなり。

我執曹君、而分曹・衛之田、以賜宋人、楚愛曹・衛、必不許也。不許齊・秦之請。
【読み】
我れ曹君を執えて、曹・衛の田を分かちて、以て宋人に賜わば、楚曹・衛を愛すれば、必ず許さじ。齊・秦の請を許さじ。

喜賂怒頑、能無戰乎。言齊・秦喜得宋賂、而怒楚之頑、必自戰也。不可告請。故曰頑。
【読み】
賂を喜び頑を怒らば、能く戰うこと無からんや、と。言うこころは、齊・秦宋の賂を得るを喜びて、楚の頑を怒り、必ず自ら戰わん。告げ請う可からず。故に頑と曰う。

公說。執曹伯、分曹・衛之田、以畀宋人。
【読み】
公說ぶ。曹伯を執え、曹・衛の田を分かちて、以て宋人に畀[あた]う。

楚人入居于申、申、在方城内。故曰入。
【読み】
楚人入りて申に居り、申は、方城の内に在り。故に入ると曰う。

使申叔去穀、二十六年、申叔戍穀。
【読み】
申叔をして穀を去らしめ、二十六年、申叔穀を戍る。

使子玉去宋。曰、無從晉師。晉侯在外十九年矣。而果得晉國。晉侯生十七年而亡、亡十九年而反。凡三十六年、至此四十矣。
【読み】
子玉をして宋を去らしむ。曰く、晉の師を從[お]うこと無かれ。晉侯外に在ること十九年なり。而して果たして晉國を得たり。晉侯生まれて十七年にして亡[に]げ、亡げて十九年にして反る。凡そ三十六年、此に至りて四十なり。

險阻艱難、備嘗之矣。民之情僞、盡知之矣。天假之年、獻公之子九人、唯文公在。故曰天假之年。
【読み】
險阻艱難、備に之を嘗めり。民の情僞、盡く之を知れり。天之に年を假して、獻公の子九人、唯文公のみ在り。故に天之に年を假すと曰う。

而除其害。除惠・懷・呂・郤。
【読み】
其の害を除けり。惠・懷・呂・郤を除く。

天之所置。其可廢乎。軍志曰、允當則歸。無求過分。軍志、兵書。
【読み】
天の置く所なり。其れ廢す可けんや。軍志に曰く、允當[いんとう]すれば則ち歸る、と。過分を求むること無し。軍志は、兵書。

又曰、知難而退。又曰、有德不可敵。此三志者、晉之謂矣。謂今與晉遇、當用此三志。
【読み】
又曰く、難きを知りて退く、と。又曰く、有德には敵す可からず、と。此の三志は、晉を謂うなり。今晉と遇うに、當に此の三志を用ゆべきを謂う。

子玉使伯棼請戰、伯棼、子越椒也。鬭伯比之孫。○棼、扶云反。又扶粉反。
【読み】
子玉伯棼[はくふん]をして戰を請わしめて、伯棼は、子越椒なり。鬭伯比の孫。○棼は、扶云反。又扶粉反。

曰、非敢必有功也。願以閒執讒慝之口。閒執、猶塞也。讒慝、若蔿賈之言、謂子玉不能以三百乘入。○慝、吐得反。
【読み】
曰く、敢えて必ずしも功有らんとに非ず。願わくは以て讒慝の口を閒執せん、と。閒執は、猶塞ぐのごとし。讒慝は、蔿賈[いか]の言に、子玉三百乘を以て入ること能わずと謂いせしが若きなり。○慝は、吐得反。

王怒。少與之師。唯西廣東宮與若敖之六卒實從之。楚子還申、遣此兵以就前圍宋之衆。楚有左右廣、又大子有宮甲、分取以給之。若敖、楚武王之祖父。葬若敖者。子玉之祖也。六卒、子玉宗人之兵六百人。言不悉師以益之。○廣、古曠反。
【読み】
王怒る。少しく之に師を與う。唯西廣東宮と若敖の六卒とのみ實に之に從う。楚子申に還り、此の兵をして以て前に宋を圍むの衆に就かしむ。楚に左右廣有り、又大子に宮甲有り、分け取りて以て之に給す。若敖は、楚の武王の祖父。若敖に葬る者。子玉の祖なり。六卒は、子玉が宗人の兵六百人なり。師を悉[つ]くして以て之を益[ま]さざるを言う。○廣は、古曠反。

子玉使宛春告於晉師、曰、請復衛侯而封曹。臣亦釋宋之圍。衛侯未出竟、曹伯見執在宋、已失位。故言復衛封曹。○宛、於元反。又於阮反。
【読み】
子玉宛春をして晉の師に告げしめて、曰く、請う、衛侯を復しめて曹を封ぜよ。臣も亦宋の圍みを釋かん、と。衛侯は未だ竟を出でず、曹伯は執えられて宋に在り、已に位を失う。故に衛を復して曹を封ずと言う。○宛は、於元反。又於阮反。

子犯曰、子玉無禮哉。君取一、臣取二。君取一、以釋宋圍惠晉侯、臣取二、復曹・衛爲己功。
【読み】
子犯曰く、子玉禮無きかな。君に一を取らせ、臣にして二を取らんとす。君に一を取らすとは、宋の圍みを釋くを以て晉侯に惠み、臣にして二を取るとは、曹・衛を復して己が功とするなり。

不可失矣。言可伐。
【読み】
失う可からず、と。言うこころは、伐つ可し。

先軫曰、子與之。定人之謂禮。楚一言而定三國、我一言而亡之、我則無禮。何以戰乎。不許楚言、是棄宋也。救而棄之、謂諸侯何。言將爲諸侯所怪。
【読み】
先軫曰く、子之を與[ゆる]せ。人を定むる、之を禮と謂う。楚は一言にして三國を定め、我は一言にして之を亡ぼさんとは、我れ則ち禮無きなり。何を以て戰わん。楚の言を許さざるは、是れ宋を棄つるなり。救いて之を棄てば、諸侯に何とか謂われん。言うこころは、將に諸侯の爲に怪しまれん。

楚有三施、我有三怨。怨讎已多。將何以戰。不如私許復曹・衛以攜之、私許二國、使告絕于楚、而後復之。攜、離也。○施、始豉反。
【読み】
楚は三施有り、我は三怨有り。怨讎已に多し。將[はた]何を以て戰わん。如かじ、私[ひそ]かに曹・衛を復することを許して以て之を攜[はな]ち、私かに二國に許して、絕つことを楚に告げしめて、而して後に之を復するなり。攜は、離すなり。○施は、始豉反。

執宛春以怒楚、旣戰而後圖之。須勝負決乃定計。
【読み】
宛春を執えて以て楚を怒らし、旣に戰いて後に之を圖らんには、と。勝負決するを須ちて乃ち計を定む。

公說。乃拘宛春於衛、且私許復曹・衛。曹・衛告絕於楚。
【読み】
公說ぶ。乃ち宛春を衛に拘え、且私かに曹・衛を復することを許す。曹・衛絕つことを楚に告ぐ。

子玉怒、從晉師。晉師退。軍吏曰、以君辟臣、辱也。且楚師老矣。何故退。子犯曰、師直爲壯、曲爲老。豈在久乎。微楚之惠、不及此。重耳過楚。楚成王有贈送之恵。
【読み】
子玉怒り、晉の師を從う。晉の師退く。軍吏曰く、君を以て臣を辟くるは、辱なり。且つ楚の師老[つか]れたり。何の故に退ける、と。子犯曰く、師は直を壯と爲し、曲を老と爲す。豈久しきに在らんや。楚の惠微かりせば、此に及ばじ。重耳楚を過ぐ。楚の成王贈送の恵有り。

退三舍辟之、所以報也。一舍、三十里。初楚子云、若反國、何以報我。故以退三舍爲報。
【読み】
三舍を退きて之を辟くるは、報ゆる所以なり。一舍は、三十里。初め楚子云う、若し國に反らば、何を以て我に報いん、と。故に三舍を退くを以て報と爲すなり。

背惠食言、以亢其讎、亢、猶當也。讎、謂楚也。○亢、苦浪反。
【読み】
惠に背き言を食みて、以て其の讎に亢[あた]らば、亢は、猶當たるのごとし。讎は、楚を謂うなり。○亢は、苦浪反。

我曲楚直、其衆素飽。不可謂老。直氣盈飽。
【読み】
我は曲り楚は直く、其の衆素飽せん。老れたりと謂う可からず。直氣盈飽す。

我退而楚還、我將何求。若其不還、君退臣犯。曲在彼矣。退三舍。楚衆欲止。子玉不可。
【読み】
我れ退きて楚還らば、我れ將何をか求めん。若し其れ還らずんば、君退きて臣犯すなり。曲れること彼に在り、と。三舍を退く。楚の衆止まらんと欲す。子玉可かず。

夏、四月、戊辰、晉侯・宋公・齊國歸父・崔夭・秦小子憖次于城濮。國歸父・崔夭、齊大夫也。小子憖、秦穆公子也。城濮、衛地。
【読み】
夏、四月、戊辰[つちのえ・たつ]、晉侯・宋公・齊の國歸父・崔夭・秦の小子憖[しょうしぎん]城濮に次[やど]る。國歸父・崔夭は、齊の大夫なり。小子憖は、秦の穆公の子なり。城濮は、衛の地。

楚師背酅而舍。酅、丘陵險阻名。○酅、胡圭反。
【読み】
楚の師酅[けい]を背にして舍る。酅は、丘陵險阻の名。○酅は、胡圭反。

晉侯患之。聽輿人之誦、恐衆畏險。故聽其歌誦。
【読み】
晉侯之を患う。輿人の誦を聽くに、衆の險を畏れんことを恐る。故に其の歌誦を聽く。

曰、原田每每。舍其舊而新是謀。高平曰原。喩晉軍美盛、若原田之草每每然。可以謀立新功。不足念舊惠。○每、亡回反。又梅對反。舍、音捨。
【読み】
曰く、原田每每たり。其の舊を舍てて新を是れ謀れ、と。高平を原と曰う。晉軍美盛、原田の草の每每然たるが若し。以て新功を立つることを謀る可し。舊惠を念うに足らざるに喩う。○每は、亡回反。又梅對反。舍は、音捨。

公疑焉。疑衆謂己背舊謀新。
【読み】
公疑う。衆の己が舊に背き新を謀ると謂うかと疑う。

子犯曰、戰也。戰而捷、必得諸侯。若其不捷、表裏山河、必無害也。晉國外河而内山。
【読み】
子犯曰く、戰え。戰いて捷[か]たば、必ず諸侯を得ん。若し其れ捷たざるも、山河を表裏にすれば、必ず害無からん、と。晉國は河を外にして山を内にす。

公曰、若楚惠何。欒貞子曰、漢陽諸姬、楚實盡之。貞子、欒子也。水北曰陽。姬之國在漢北者、楚盡滅之。
【読み】
公曰く、楚の惠を若何、と。欒貞子[らんていし]曰く、漢陽の諸姬を、楚實に之を盡くせり。貞子は、欒子なり。水北を陽と曰う。姬の國の漢北に在る者を、楚盡く之を滅ぼせり。

思小惠而忘大恥。不如戰也。
【読み】
小惠を思いて大恥を忘れんや。戰うに如かず、と。

晉侯夢與楚子搏、搏、手搏。
【読み】
晉侯夢みらく、楚子と搏[う]ち、搏は、手搏なり。

楚子伏己而盬其腦。盬、啑也。○盬、音古。啑、子荅反。又所荅反。
【読み】
楚子己に伏して其の腦を盬[す]う、と。盬[こ]は、啑[すす]るなり。○盬は、音古。啑[そう]は、子荅反。又所荅反。

是以懼。子犯曰、吉。我得天、楚伏其罪。吾且柔之矣。晉侯上向。故得天。楚子下向地。故伏其罪。腦、所以柔物。子犯審見事宜。故權言以答夢。
【読み】
是を以て懼る。子犯曰く、吉なり。我は天を得て、楚は其の罪に伏すなり。吾れ且之を柔にせり、と。晉侯は上に向かう。故に天を得るとす。楚子は下に地に向かう。故に其の罪に伏すとす。腦は、物を柔にする所以なり。子犯事の宜を審見す。故に權言して以て夢に答うるなり。

子玉使鬭勃請戰、鬭勃、楚大夫。
【読み】
子玉鬭勃をして戰を請わしめて、鬭勃は、楚の大夫。

曰、請與君之士戲。君馮軾而觀之。得臣與寓目焉。寓、寄也。
【読み】
曰く、請う、君の士と戲れん。君軾に馮りて之を觀よ。得臣も目を與り寓[よ]せん、と。寓は、寄るなり。

晉侯使欒枝對曰、寡君聞命矣。楚君之惠、未之敢忘。是以在此。爲大夫退。其敢當君乎。旣不獲命矣。不獲止命。
【読み】
晉侯欒枝をして對えせしめて曰く、寡君命を聞けり。楚君の惠は、未だ之を敢えて忘れず。是を以て此に在り。大夫の爲にも退きぬ。其れ敢えて君に當たらんや。旣に命を獲ず。止むる命を獲ず。

敢煩大夫、謂二三子。煩鬭勃令戒勑子玉・子西之屬。
【読み】
敢えて大夫を煩わして、二三子に謂わしむ。鬭勃を煩わして子玉・子西の屬に戒勑せしむ。

戒爾車乘、敬爾君事。詰朝見。詰朝、平旦。
【読み】
爾の車乘を戒め、爾の君事を敬せよ。詰朝に見えん、と。詰朝は、平旦。
*頭注に「說文長箋、詰朝、本作喆朝。喆、古哲字。哲、明也。按平旦、明旦也。相或作將。」とある。

晉車七百乘、韅靷鞅靽。五萬二千五百人、在背曰韅、在胷曰靷、在腹曰鞅、在後曰靽。言駕乘脩備。○韅、許見反。又去見反。靷、以刃反。鞅、於杖反。靽、音半。
【読み】
晉の車七百乘、韅靷鞅靽[けんいんようはん]せり。五萬二千五百人、背に在るを韅と曰い、胷に在るを靷と曰い、腹に在るを鞅と曰い、後に在るを靽と曰う。駕乘の脩備するを言う。○韅は、許見反。又去見反。靷は、以刃反。鞅は、於杖反。靽は、音半。

晉侯登有莘之虛以觀師、曰、少長有禮、其可用也。有莘、故國名。少長、猶言大小。○莘、所巾反。虛、丘魚反。
【読み】
晉侯有莘[ゆうしん]の虛に登りて以て師を觀て、曰く、少長禮有り、其れ用ゆ可し、と。有莘は、故の國の名。少長は、猶大小と言うがごとし。○莘は、所巾反。虛は、丘魚反。

遂伐其木以益其兵。伐木以益攻戰之具。輿曵柴、亦是也。
【読み】
遂に其の木を伐りて以て其の兵を益す。木を伐りて以て攻戰の具を益す。輿をして柴を曵くも、亦是れなり。

己巳、晉師陳于莘北。胥臣以下軍之佐當陳・蔡。子玉以若敖之六卒將中軍。曰、今日必無晉矣。子西將左。子上將右。子西、鬭宜申。子上、鬭勃。○陳、直覲反。
【読み】
己巳、晉の師莘の北に陳す。胥臣下軍の佐を以[い]て陳・蔡に當たる。子玉若敖の六卒を以て中軍に將たり。曰く、今日必ず晉を無くせん、と。子西左に將り。子上右に將たり。子西は、鬭宜申。子上は、鬭勃。○陳は、直覲反。

胥臣蒙馬以虎皮、先犯陳・蔡。陳・蔡奔。楚右師潰。陳・蔡屬楚右師。
【読み】
胥臣馬に蒙らすに虎皮を以てして、先ず陳・蔡を犯す。陳・蔡奔る。楚の右師潰[つい]ゆ。陳・蔡は楚の右師に屬す。

狐毛設二旆而退之。旆、大旗也。又建二旆而退。使若大將稍却。
【読み】
狐毛二旆[はい]を設けて之を退く。旆は、大旗なり。又二旆を建てて退く。大將の稍[やや]却くが若くならしむ。

欒枝使輿曳柴而僞遁。曳柴起塵、詐爲衆走。
【読み】
欒枝輿をして柴を曳きて僞りて遁げしむ。柴を曳きて塵を起こし、詐りて衆の走る爲[まね]す。

楚師馳之。原軫・郤溱以中軍公族橫擊之。公族、公所率之軍。
【読み】
楚の師之に馳す。原軫・郤溱中軍の公族を以て橫ざまに之を擊つ。公族は、公の率いる所の軍なり。

狐毛・狐偃以上軍夾攻子西。楚左師潰。楚師敗績。子玉收其卒而止。故不敗。三軍唯中軍完。是大崩。
【読み】
狐毛・狐偃上軍を以て子西を夾み攻む。楚の左師潰ゆ。楚の師敗績す。子玉其の卒を收めて止まる。故に敗れず。三軍唯中軍のみ完し。是れ大崩なり。

晉師三日館穀、館、舍也。食楚軍穀三日。
【読み】
晉の師三日館[やど]り穀し、館は、舍るなり。楚軍の穀を食うこと三日。

及癸酉而還。
【読み】
癸酉[みずのと・とり]に及びて還る。

甲午、至于衡雍。作王宮于踐土。衡雍、鄭地。今滎陽卷縣。襄王聞晉戰勝、自往勞之。故爲作宮。○雍、於用反。卷、音權。
【読み】
甲午[きのえ・うま]、衡雍に至る。王宮を踐土に作る。衡雍は、鄭の地。今の滎陽卷縣。襄王晉の戰勝を聞きて、自ら往きて之を勞う。故に爲に宮を作る。○雍は、於用反。卷は、音權。

郷役之三月、郷、猶屬也。城濮役之前三月。○郷、許亮反。屬、音燭。
【読み】
役に郷[む]かうの三月、郷は、猶屬くのごとし。城濮の役の前の三月。○郷は、許亮反。屬は、音燭。

鄭伯如楚、致其師。爲楚師旣敗而懼。使子人九行成于晉。子人、氏。九、名。
【読み】
鄭伯楚に如きて、其の師を致す。楚の師旣に敗るるが爲にして懼る。子人九をして成[たい]らぎを晉に行わしむ。子人は、氏。九は、名。

晉欒枝入盟鄭伯。五月、丙午、晉侯及鄭伯盟于衡雍。
【読み】
晉の欒枝入りて鄭伯に盟う。五月、丙午、晉侯鄭伯と衡雍に盟う。

丁未、獻楚俘于王。駟介百乘、徒兵千。駟介、四馬被甲。徒兵、步卒。
【読み】
丁未[ひのと・ひつじ]、楚の俘を王に獻ず。駟介百乘、徒兵千。駟介は、四馬甲を被るなり。徒兵は、步卒。

鄭伯傅王。用平禮也。傅、相也。以周平王享晉文侯仇之禮、享晉侯。
【読み】
鄭伯王を傅[たす]く。平の禮を用ゆるなり。傅は、相[たす]くるなり。周の平王晉の文侯仇を享するの禮を以て、晉侯を享す。

己酉、王享醴。命晉侯宥。旣饗、又命晉侯、助以束帛、以將厚意。
【読み】
己酉[つちのと・とり]、王享して醴あり。晉侯に命じて宥あり。旣に饗し、又晉侯に命じて、助くるに束帛を以てして、以て厚意を將[おこな]う。

王命尹氏及王子虎・内史叔興父、策命晉侯爲侯伯。以策書命晉侯爲伯也。周禮、九命作伯。尹氏・王子虎、皆王卿士也。叔興父、大夫也。三官命之、以寵晉。
【読み】
王尹氏と王子虎・内史叔興父とに命じて、晉侯に策命して侯伯と爲す。策書を以て晉侯に命じて伯と爲すなり。周禮に、九命して伯と作る、と。尹氏・王子虎は、皆王の卿士なり。叔興父は、大夫なり。三官之に命じて、以て晉を寵す。

賜之大輅之服、戎輅之服、大輅、金輅。戎輅、戎車。二輅各有服。
【読み】
之に大輅の服、戎輅の服、大輅は、金輅。戎輅は、戎車。二輅各々服有り。

彤弓一、彤矢百、玈弓矢千、彤、赤弓。玈、黑弓。弓一矢百、則矢千弓十矣。諸侯賜弓矢、然後專征伐。○玈、音廬。
【読み】
彤弓[とうきゅう]一、彤矢百、玈弓[ろきゅう]矢千、彤は、赤弓。玈は、黑弓。弓一に矢百なれば、則ち矢千なれば弓は十なり。諸侯弓矢を賜わりて、然して後に征伐を專らにす。○玈は、音廬。

秬鬯一卣、秬、黑黍。鬯、香酒。所以降神。卣、器名。○卣、音酉。
【読み】
秬鬯[きょちょう]一卣[ゆう]、秬は、黑黍。鬯は、香酒。神を降す所以なり。卣は、器の名。○卣は、音酉。

虎賁三百人。曰、王謂叔父。敬服王命、以綏四國、糾逖王慝。逖、遠也。有惡於王者、糾而遠之。○賁、音奔。逖、勑歷反。慝、他得反。
【読み】
虎賁[こほん]三百人を賜う。曰く、王叔父に謂う。敬みて王命を服して、以て四國を綏んじ、王の慝を糾し逖[とおざ]けよ、と。逖は、遠ざくなり。王に惡しき有る者は、糾して之を遠ざく。○賁は、音奔。逖は、勑歷反。慝は、他得反。

晉侯三辭、從命。曰、重耳敢再拜稽首、奉揚天子之丕顯休命。稽首、首至地。丕、大也。休、美也。○三、息暫反。又如字。
【読み】
晉侯三たび辭して、命に從う。曰く、重耳敢えて再拜稽首して、天子の丕顯の休命を奉揚せん、と。稽首は、首地に至るなり。丕は、大いなり。休は、美きなり。○三は、息暫反。又字の如し。

受策以出。出入三覲。出入、猶去來也。從來至去、凡三見王。
【読み】
策を受けて以て出づ。出入に三たび覲[まみ]ゆ。出入は、猶去來のごとし。來るより去るに至るまで、凡そ三たび王に見ゆ。

衛侯聞楚師敗、懼、出奔楚、遂適陳、自襄牛出。
【読み】
衛侯楚の師敗るると聞き、懼れ、出でて楚に奔り、遂に陳に適き、襄牛により出づ。

使元咺奉叔武以受盟。奉使攝君事。
【読み】
元咺をして叔武を奉じて以て盟を受けしむ。奉じて君の事を攝せしむ。

癸亥、王子虎盟諸侯于王庭。踐土宮之庭。書踐土、別於京師。
【読み】
癸亥[みずのと・い]、王子虎諸侯に王庭に盟う。踐土の宮の庭なり。踐土と書すは、京師に別つなり。

要言曰、皆獎王室、無相害也。有渝此盟、明神殛之、俾隊其師、無克祚國、獎、助也。渝、變也。殛、誅也。俾、使也。隊、隕也。克、能也。○隊、直類反。
【読み】
要言して曰く、皆王室を獎[たす]け、相害うこと無かれ。此の盟を渝[か]うること有らば、明神之を殛し、其の師を隊[おと]し、克く國に祚[さいわい]すること無く、獎は、助くるなり。渝は、變わるなり。殛は、誅するなり。俾は、使むなり。隊は、隕つるなり。克は、能くなり。○隊は、直類反。

及而玄孫、無有老幼。
【読み】
而の玄孫に及ぶまで、老幼有ること無からしめん、と。

君子謂是盟也信。合義信。
【読み】
君子謂う、是の盟や信なり、と。義信に合う。

謂晉於是役也、能以德攻。以文德敎民、而後用之。
【読み】
晉を謂う、是の役に於るや、能く德を以てして攻めたり、と。文德を以て民を敎えて、而して後に之を用ゆ。

初、楚子玉自爲瓊弁玉纓、未之服也。弁、以鹿子皮爲之。瓊、玉之別名。次之以飾弁及纓。詩云、會弁如星。
【読み】
初め、楚の子玉自ら瓊弁玉纓を爲り、未だ之を服せず。弁は、鹿子皮を以て之を爲る。瓊は、玉の別名。之を次で以て弁と纓とを飾る。詩に云う、會弁星の如し、と。

先戰、夢河神謂己曰、畀余。余賜女孟諸之麋。孟諸、宋藪澤。水草之交曰麋。○先、如字。又悉薦反。
【読み】
戰に先だちて、夢みらく、河神己に謂いて曰く、余に畀[あた]えよ。余女に孟諸の麋[ほとり]を賜わん、と。孟諸は、宋の藪澤。水草の交わるを麋[び]と曰う。○先は、字の如し。又悉薦反。

弗致也。大心與子西使榮黃諫。大心、子玉之子。子西、子玉之族。子玉剛愎。故因榮黃。榮黃、榮季也。○愎、皮逼反。
【読み】
致さざるなり。大心と子西と榮黃をして諫めしむ。大心は、子玉の子。子西は、子玉の族。子玉剛愎。故に榮黃に因る。榮黃は、榮季なり。○愎は、皮逼反。

弗聽。榮季曰、死而利國、猶或爲之。況瓊玉乎。是糞土也。而可以濟師。將何愛焉。因神之欲以附百姓之願、濟師之理。○糞、弗問反。
【読み】
聽かず。榮季曰く、死しても國に利あれば、猶或は之を爲す。況んや瓊玉をや。是れ糞土なり。而るに以て師を濟[な]す可し。將[はた]何を愛[おし]まん、と。神の欲するに因りて以て百姓の願いに附くは、師を濟すの理なり。○糞は、弗問反。

弗聽。出告二子曰、非神敗令尹。令尹其不勤民、實自敗也。盡心盡力、無所愛惜爲勤。
【読み】
聽かず。出でて二子に告げて曰く、神の令尹を敗るに非ず。令尹其れ民に勤めずして、實に自ら敗るなり、と。心を盡くし力を盡くして、愛惜する所無きを勤と爲す。

旣敗。王使謂之曰、大夫若入、其若申・息之老何。申・息二邑子弟皆從子玉而死。言何以見其父老。
【読み】
旣に敗れぬ。王之に謂わしめて曰く、大夫若し入らば、其れ申・息の老を若何にせん、と。申・息二邑の子弟皆子玉に從いて死す。言うこころは、何を以て其の父老を見ん。

子西・孫伯曰、得臣將死、二臣止之曰、君其將以爲戮。孫伯、卽大心、子玉子也。二子以此答王使。言欲令子玉往就君戮。
【読み】
子西・孫伯曰く、得臣將に死せんとするを、二臣之を止めて曰く、君其れ將に以て戮することを爲さんとす、と。孫伯は、卽ち大心、子玉の子なり。二子此を以て王の使に答うるなり。言うこころは、子玉をして往きて君の戮に就かしめんと欲す。

及連穀而死。至連穀、王無赦命。故自殺也。文十年傳曰、城濮之役、王使止子玉曰、無死。不及。子西亦自殺、縊而縣絕。故得不死。王時別遣追前使。連穀、楚地。殺得臣、經在踐土盟上、傳在下者、說晉事畢、而次及楚。屬文之宜。○屬、音燭。
【読み】
連穀に及びて死す。連穀に至れども、王赦命無し。故に自殺す。文十年の傳に曰く、城濮の役に、王子玉を止めしめて曰く、死すること無かれ、と。及ばず。子西も亦自殺せんとし、縊れて縣絕ゆ。故に死せざることを得る、と。王時に別に遣りて前使を追うならん。連穀は、楚の地。得臣を殺すこと、經は踐土の盟の上に在り、傳は下に在るは、晉の事を說き畢りて、次で楚に及ぶ。屬文の宜なり。○屬は、音燭。

晉侯聞之、而後喜可知也。喜見於顏色。○見、賢遍反。
【読み】
晉侯之を聞きて、而して後に喜び知る可し。喜び顏色に見る。○見は、賢遍反。

曰、莫余毒也已。蔿呂臣實爲令尹、奉己而已。不在民矣。言其自守無大志。
【読み】
曰く、余を毒すること莫からんのみ。蔿呂臣[いりょしん]實に令尹と爲らんも、己を奉ぜんのみ。民に在らじ、と。其の自守して大志無きを言う。

或訴元咺於衛侯曰、立叔武矣。其子角從公。公使殺之。角、元咺子。○從、才用反。又如字。
【読み】
或ひと元咺を衛侯に訴えて曰く、叔武を立つ、と。其の子角公に從う。公之を殺さしむ。角は、元咺の子。○從は、才用反。又字の如し。

咺不廢命、奉夷叔以入守。夷、謚。○守、手又反。
【読み】
咺命を廢せず、夷叔を奉じて以て入りて守れり。夷は、謚。○守は、手又反。

六月、晉人復衛侯。以叔武受盟於踐土故、聽衛侯歸。○聽、吐丁反。
【読み】
六月、晉人衛侯を復す。叔武踐土に盟を受くるの故を以て、衛侯を聽[ゆる]して歸らすなり。○聽は、吐丁反。

甯武子與衛人盟于宛濮。武子、甯兪也。陳留長垣縣西南有宛亭。近濮水。
【読み】
甯武子[ねいぶし]衛人と宛濮に盟う。武子は、甯兪なり。陳留長垣縣の西南に宛亭有り。濮水に近し。

曰、天禍衛國、君臣不協、以及此憂也。衛侯欲與楚、國人不欲。故不和也。
【読み】
曰く、天衛國に禍して、君臣協わずして、以て此の憂えに及べり。衛侯楚に與せんと欲すれども、國人欲せず。故に和せず。

今天誘其衷、衷、中也。
【読み】
今天其の衷を誘きて、衷は、中なり。

使皆降心以相從也。不有居者、誰守社稷。不有行者、誰扞牧圉。牛曰牧、馬曰圉。
【読み】
皆心を降して以て相從わしめり。居る者有らずんば、誰か社稷を守らん。行く者有らずんば、誰か牧圉を扞[まも]らん。牛に牧と曰い、馬に圉と曰う。

不協之故、用昭乞盟于爾大神、以誘天衷。自今日以往、旣盟之後、行者無保其力。居者無懼其罪。有渝此盟、以相及也、以惡相及。
【読み】
不協の故に、用て昭らかに盟を爾の大神に乞いて、以て天衷を誘く。今日より以往、旣に盟うの後、行く者は其の力を保つこと無かれ。居る者は其の罪を懼るること無かれ。此の盟を渝うること有らば、以て相及ぼし、惡を以て相及ぼす。

明神・先君、是糾是殛。國人聞此盟也、而後不貳。傳言叔武之賢、甯兪之忠、衛侯所以書復歸。
【読み】
明神・先君、是れ糾し是れ殛せん、と。國人此の盟を聞きて、而して後に貳あらず。傳叔武の賢、甯兪の忠にして、衛侯復歸を書す所以を言う。

衛侯先期入。不信叔武。○先、悉薦反。
【読み】
衛侯期に先だちて入る。叔武を信ぜず。○先は、悉薦反。

甯子先。長牂守門。以爲使也。與之乘而入。長牂、衛大夫。甯子患公之欲速。故先入、欲安喩國人。○牂、子郎反。
【読み】
甯子先だつ。長牂[ちょうそう]門を守る。使なりと以爲えり。之と乘りて入る。長牂は、衛の大夫。甯子公の速やかならんことを欲するを患う。故に先ず入り、國人を安喩せんと欲するなり。○牂は、子郎反。

公子歂犬・華仲前驅。衛侯遂驅、奄甯子未備。二子、衛大夫。○歂、市專反。華、戶化反。又如字。
【読み】
公子歂犬[せんけん]・華仲前驅す。衛侯遂に驅り、甯子の未だ備えざるを奄う。二子は、衛の大夫。○歂は、市專反。華は、戶化反。又字の如し。

叔武將沐。聞君至、喜、捉髮走出。前驅射而殺之。公知其無罪也、枕之股而哭之。公以叔武尸枕其股。○射、食亦反。
【読み】
叔武將に沐せんとす。君至ると聞きて、喜び、髮を捉りて走り出づ。前驅射て之を殺す。公其の罪無きを知りて、之を股に枕させて之を哭す。公叔武の尸を以て其の股に枕さす。○射は、食亦反。

歂犬走出。手射殺叔武故。
【読み】
歂犬走り出づ。手ずから叔武を射殺する故なり。

公使殺之。元咺出奔晉。元咺以衛侯驅入殺叔武故、至晉愬之。
【読み】
公之を殺さしむ。元咺出でて晉に奔る。元咺衛侯の驅り入りて叔武を殺すを以ての故に、晉に至りて之を愬[うった]う。

城濮之戰、晉中軍風于澤、牛馬因風而走、皆失之。
【読み】
城濮の戰に、晉の中軍澤に風し、牛馬風に因りて走り、皆之を失う。

亡大旆之左旃、大旆、旗名。繫旐曰旆、通帛曰旃。○旃、章然反。
【読み】
大旆の左旃[させん]を亡いしは、大旆は、旗の名。旐[ちょう]に繫くるを旆と曰い、通帛を旃と曰う。○旃は、章然反。

祁瞞奸命。掌此二事而不脩。爲奸軍令。○瞞、莫干反。奸、音干。
【読み】
祁瞞[きまん]が命を奸せるなり。此の二事を掌りて脩めず。軍令を奸すとす。○瞞は、莫干反。奸は、音干。

司馬殺之、以徇于諸侯、使茅茷代之。師還。壬午、濟河。舟之僑先歸。士會攝右。權代舟之僑也。士會、隨武子、士蔿之孫。○茷、扶廢反。
【読み】
司馬之を殺して、以て諸侯に徇[とな]え、茅茷[ぼうはい]をして之に代わらしむ。師還る。壬午[みずのえ・うま]、河を濟[わた]る。舟之僑先ず歸る。士會右を攝す。權[かり]に舟之僑に代わるなり。士會は、隨武子、士蔿の孫。○茷は、扶廢反。

秋、七月、丙申、振旅、愷以入于晉。愷、樂也。○樂、音洛。
【読み】
秋、七月、丙申[ひのえ・さる]、振旅し、愷して以て晉に入る。愷は、樂なり。○樂は、音洛。

獻俘授馘、飮至大賞。授、數也。獻楚俘於廟。○數、色主反。
【読み】
俘を獻じ馘[かく]を授[かぞ]え、飮至し大いに賞す。授は、數うるなり。楚の俘を廟に獻ず。○數は、色主反。

徵會討貳。徵召諸侯、將冬會于溫。
【読み】
徵し會して貳を討ぜんとす。諸侯を徵召するは、將に冬溫に會せんとするなり。

殺舟之僑以徇于國。民於是大服。
【読み】
舟之僑を殺して以て國に徇う。民是に於て大いに服す。

君子謂、文公其能刑矣。三罪而民服。三罪、顚頡・祁瞞・舟之僑。
【読み】
君子謂えらく、文公其れ能く刑せり。三罪して民服す。三罪は、顚頡・祁瞞・舟之僑。

詩云、惠此中國、以綏四方。不失賞刑之謂也。詩、大雅。言賞刑不失、則中國受惠、四方安靖。
【読み】
詩に云う、此の中國を惠み、以て四方を綏んず、と。賞刑を失わざるを謂なり、と。詩は、大雅。賞刑失わざれば、則ち中國惠みを受け、四方安靖するを言う。

冬、會于溫、討不服也。討衛・許。
【読み】
冬、溫に會するは、不服を討ずるなり。衛・許を討ず。

衛侯與元咺訟。爭殺叔武事。
【読み】
衛侯元咺と訟[あらそ]う。叔武を殺す事を爭う。

甯武子爲輔、鍼莊子爲坐、士榮爲大士。大士、治獄官也。周禮、命夫命婦、不躬坐獄訟。元咺又不宜與其君對坐。故使鍼莊子爲主、又使衛之忠臣及其獄官、質正元咺。傳曰、王叔之宰與伯輿之大夫、坐獄於王庭。各不身親。蓋今長吏有罪、先驗吏卒之義也。○鍼、其廉反。
【読み】
甯武子輔と爲り、鍼莊子[けんそうし]坐することを爲し、士榮大士爲り。大士は、治獄官なり。周禮に、命夫命婦は、躬ら獄訟に坐せず、と。元咺も又宜しく其の君と對坐すべからず。故に鍼莊子をして主爲らしめ、又衛の忠臣と其の獄官とをして、元咺を質正せしむ。傳に曰く、王叔の宰と伯輿の大夫と、王庭に坐獄す、と。各々身親らせず。蓋し今の長吏罪有れば、先ず吏卒を驗するの義ならん。○鍼は、其廉反。

衛侯不勝。三子辭屈。
【読み】
衛侯勝たず。三子辭屈す。

殺士榮、刖鍼莊子。謂甯兪忠而免之。執衛侯、歸之于京師、寘諸深室。深室、別爲囚室。
【読み】
士榮を殺し、鍼莊子を刖[あしき]る。甯兪を忠なりと謂いて之を免[ゆる]す。衛侯を執え、之を京師に歸[おく]り、諸を深室に寘[お]く。深室は、別に囚室を爲るなり。

甯子職納橐饘焉。甯兪以君在幽隘、故親以衣食爲己職。橐、衣囊。饘、糜也。言其忠至所慮者深。○饘、之然反。
【読み】
甯子橐饘[たくせん]を納るることを職[つかさど]れり。甯兪君幽隘に在るを以て、故に親ら衣食を以て己が職とす。橐は、衣囊。饘は、糜[かゆ]なり。其の忠の至り慮る所の者深きを言う。○饘は、之然反。

元咺歸于衛、立公子瑕。瑕、衛公子適也。
【読み】
元咺衛に歸りて、公子瑕を立つ。瑕は、衛の公子適なり。

是會也、晉侯召王、以諸侯見。且使王狩。晉侯大合諸侯、而欲尊事天子、以爲名義、自嫌强大、不敢朝周、諭王出狩、因得盡君臣之禮。皆譎而不正之事。
【読み】
是の會や、晉侯王を召び、諸侯を以[い]て見ゆ。且王をして狩せしむ。晉侯大いに諸侯を合わせて、天子を尊事して、以て名義を爲さんことを欲すれども、自ら强大なるを嫌い、敢えて周に朝せずして、王を諭して出狩せしめ、因りて君臣の禮を盡くすことを得。皆譎りて正しからざるの事なり。

仲尼曰、以臣召君、不可以訓。故書曰天王狩于河陽、言非其地也。使若天王自狩、以失地故書。河陽、實以屬晉非王狩地。
【読み】
仲尼曰く、臣を以て君を召ぶは、以て訓えとす可からず、と。故に書して天王河陽に狩すと曰うは、其の地に非ざるを言うなり。天王自ら狩し、地を失うを以ての故に書すが若くならしむ。河陽は、實は晉に屬して王の狩地に非ざるを以てなり。

且明德也。隱其召君之闕、欲以明晉之功德。河陽之狩、趙盾之弑、泄冶之罪、皆違凡變例以起大義。危疑之理。故特稱仲尼以明之。
【読み】
且德を明らかにせんとなり。其の君を召ぶの闕を隱して、以て晉の功德を明らかにせんと欲す。河陽の狩、趙盾の弑、泄冶の罪、皆凡に違いて例を變じて以て大義を起こす。危疑の理なり。故に特に仲尼と稱して以て之を明らかにす。

壬申、公朝于王所。執衛侯、經在朝王下、傳在上者、告執晩。
【読み】
壬申、公王の所に朝す。衛侯を執うること、經は王に朝す下に在り、傳は上に在るは、執うるを告ぐること晩[おそ]ければなり。

丁丑、諸侯圍許。十月十五日。有日無月。
【読み】
丁丑[ひのと・うし]、諸侯許を圍む。十月十五日なり。日有りて月無し。

晉侯有疾。曹伯之豎侯獳貨筮史、豎、掌通内外者。史、晉史。
【読み】
晉侯疾有り。曹伯の豎侯獳筮史に貨[まいな]いて、豎は、内外を通ずることを掌る者。史は、晉の史。

使曰、以曹爲解。以滅曹爲解故。○解、戶買反。又古買反。
【読み】
曰わしむらく、曹を以て解くことをせよ。曹を滅ぼすを以て解故とせよ、と。○解は、戶買反。又古買反。

齊桓公爲會而封異姓、封邢・衛。
【読み】
齊の桓公は會を爲して異姓を封じ、邢・衛を封ず。

今君爲會而滅同姓。曹叔振鐸、文之昭也。叔振鐸、曹始封君、文王之子。
【読み】
今君は會を爲して同姓を滅ぼす。曹の叔振鐸は、文の昭なり。叔振鐸は、曹の始封の君、文王の子。

先君唐叔、武之穆也。且合諸侯而滅兄弟、非禮也。與衛偕命、私許復曹・衛。
【読み】
先君唐叔は、武の穆なり。且つ諸侯を合わせて兄弟を滅ぼすは、禮に非ざるなり。衛と偕[とも]に命じて、私かに曹・衛を復することを許す。

而不與偕復、非信也。同罪異罰、非刑也。衛已復故。
【読み】
與に偕に復せざるは、信に非ざるなり。罪を同じくして罰を異にするは、刑に非ざるなり。衛は已に復する故なり。

禮以行義、信以守禮、刑以正邪。舍此三者、君將若之何。
【読み】
禮は以て義を行い、信は以て禮を守り、刑は以て邪を正す。此の三つの者を舍てば、君將[はた]之を若何、と。

公說、復曹伯。遂會諸侯圍許。
【読み】
公說び、曹伯を復す。遂に諸侯の許を圍むに會す。

晉侯作三行以禦狄。荀林父將中行。屠擊將右行。先蔑將左行。晉置上中下三軍。今復增置三行、以辟天子六軍之名。三行無佐。疑大夫帥。○舍、音捨。行、戶郎反。
【読み】
晉侯三行を作りて以て狄を禦ぐ。荀林父中行に將たり。屠擊右行に將たり。先蔑左行に將たり。晉上中下三軍を置く。今復三行を增置するは、以て天子六軍の名を辟くるなり。三行は佐無し。疑うらくは大夫帥ゆるならん。○舍は、音捨。行は、戶郎反。


〔經〕二十有九年、春、介葛盧來。介、東夷國也。在城陽黔陬縣。葛盧、介君名也。不稱朝、不見公、且不能行朝禮。雖不見公、國賓禮之。故書。
【読み】
〔經〕二十有九年、春、介の葛盧來る。介は、東夷の國なり。城陽の黔陬[けんしゅう]縣に在り。葛盧は、介君の名なり。朝を稱せざるは、公を見ず、且朝禮を行うこと能わざればなり。公を見ずと雖も、國之を賓禮す。故に書す。

公至自圍許。無傳。
【読み】
公許を圍みてより至る。傳無し。

夏、六月、會王人・晉人・宋人・齊人・陳人・蔡人・秦人盟于翟泉。翟泉、今洛陽城内大倉西南池水也。魯侯諱盟天子大夫。諸侯大夫又違禮盟公侯。王子虎違禮下盟。故不言公會、又皆稱人。○翟、直歷反。
【読み】
夏、六月、王人・晉人・宋人・齊人・陳人・蔡人・秦人に會して翟泉に盟う。翟泉は、今の洛陽城内の大倉の西南の池水なり。魯侯天子の大夫に盟うことを諱む。諸侯の大夫も又禮に違いて公侯に盟う。王子虎禮に違いて下りて盟いす。故に公會すと言わず、又皆人と稱す。○翟は、直歷反。

秋、大雨雹。○雨、于付反。雹、蒲學反。
【読み】
秋、大いに雹雨[ふ]る。○雨は、于付反。雹は、蒲學反。

冬、介葛盧來。
【読み】
冬、介の葛盧來る。

〔傳〕二十九年、春、葛盧來朝、舍于昌衍之上。魯縣東南有昌平城。○衍、以善反。
【読み】
〔傳〕二十九年、春、葛盧來朝し、昌衍の上[ほとり]に舍る。魯縣の東南に昌平城有り。○衍は、以善反。

公在會、饋之芻米。禮也。嫌公行不當致饋。故曰禮也。
【読み】
公會に在るも、之に芻米[すうべい]を饋[おく]る。禮なり。公の行くは當に饋を致すべからざるに嫌あり。故に禮なりと曰う。

夏、公會王子虎・晉孤偃・宋公孫固・齊國歸父・陳轅濤塗・秦小子憖盟于翟泉、尋踐土之盟、且謀伐鄭也。經書蔡人、而傳無名氏、卽微者。秦小子憖在蔡下者、若宋向戍之後會。○憖、魚覲反。
【読み】
夏、公王子虎・晉の孤偃・宋の公孫固・齊の國歸父・陳の轅濤塗[えんとうと]・秦の小子憖[しょうしぎん]に會して翟泉に盟うは、踐土の盟を尋[かさ]ね、且鄭を伐たんことを謀るなり。經に蔡人と書して、傳に名氏無きは、卽ち微者なればなり。秦の小子憖蔡の下に在るは、宋の向戍の會に後れたるが若し。○憖は、魚覲反。

卿不書、罪之也。晉侯始霸、翼戴天子、諸侯輯睦、王室無虞。而王子虎下盟列國、以瀆大典、諸侯大夫上敵公侯、虧禮傷敎。故貶諸大夫、諱公與盟。
【読み】
卿書さざるは、之を罪してなり。晉侯始めて霸となり、天子を翼戴し、諸侯輯睦して、王室虞[おそれ]無し。而るに王子虎下りて列國に盟いて、以て大典を瀆し、諸侯の大夫は上公侯に敵して、禮を虧き敎えを傷る。故に諸大夫を貶して、公の盟に與るを諱む。

在禮、卿不會公侯。會伯子男、可也。大國之卿、當小國之君。故可以會伯子男。諸卿之見貶、亦兼有此闕。故傳重發之。
【読み】
禮に在りて、卿は公侯に會せず。伯子男に會するは、可なり。大國の卿は、小國の君に當たれる。故に以て伯子男に會す可し。諸卿の貶せらるも、亦兼ねて此の闕有り。故に傳重ねて之を發す。

秋、大雨雹、爲災也。
【読み】
秋、大いに雹雨るは、災いを爲すなり。

冬、介葛盧來、以未見公故復來朝。禮之加燕好。燕、燕禮也。好、好貨也。一歲再來。故加之。
【読み】
冬、介の葛盧來るは、未だ公に見えざるを以ての故に復來朝す。之を禮するに燕好を加う。燕は、燕禮なり。好は、好貨なり。一歲に再び來る。故に之を加う。

介葛盧聞牛鳴、曰、是生三犧、皆用之矣。其音云。問之而信。傳言人聽或通鳥獸之情。
【読み】
介の葛盧牛鳴を聞きて、曰く、是れ三犧を生み、皆之を用いたり。其の音に云う、と。之を問えば信なり。傳人の聽き或は鳥獸の情に通ずるを言う。


〔經〕三十年、春、王正月、夏、狄侵齊。秋、衛殺其大夫元咺及公子瑕。咺見殺稱名者、訟君求直、又先歸立公子瑕。非國人所與。罪之也。瑕立經年未會諸侯。故不稱君。
【読み】
〔經〕三十年、春、王の正月、夏、狄齊を侵す。秋、衛其の大夫元咺[げんけん]と公子瑕とを殺す。咺殺さるに名を稱するは、君を訟えて直を求め、又先ず歸りて公子瑕を立つ。國人の與する所に非ず。之を罪するなり。瑕立ちて年を經るも未だ諸侯に會せず。故に君と稱せず。

衛侯鄭歸于衛。魯爲之請。故從諸侯納之例。例在成十八年。
【読み】
衛侯鄭衛に歸る。魯之が爲に請う。故に諸侯納るるの例に從うなり。例は成十八年に在り。

晉人・秦人圍鄭。晉軍函陵、秦軍氾南、各使微者圍鄭。故稱人。○氾、音凡。
【読み】
晉人・秦人鄭を圍む。晉函陵に軍し、秦氾南に軍して、各々微者をして鄭を圍ましむ。故に人と稱す。○氾は、音凡。

介人侵蕭。無傳。
【読み】
介人蕭[しょう]を侵す。傳無し。

冬、天王使宰周公來聘。周公、天子三公、兼冢宰也。○兼、如字。又經念反。
【読み】
冬、天王宰周公をして來聘せしむ。周公は、天子の三公、冢宰を兼ぬるなり。○兼は、字の如し。又經念反。

公子遂如京師。遂如晉。如京師、報宰周公。
【読み】
公子遂京師に如く。遂に晉に如く。京師に如くは、宰周公に報ゆるなり。

〔傳〕三十年、春、晉人侵鄭、以觀其可攻與否。
【読み】
〔傳〕三十年、春、晉人鄭を侵して、以て其の攻む可きや否やとを觀る。

狄閒晉之有鄭虞也、夏、狄侵齊。齊、晉與國。
【読み】
狄晉の鄭の虞[おそれ]有るを閒するや、夏、狄齊を侵す。齊は、晉の與國。

晉侯使醫衍酖衛侯。衍、醫名。晉侯實怨衛侯。欲殺而罪不及死。故使醫因治疾而加酖毒。
【読み】
晉侯醫衍をして衛侯を酖せしむ。衍は、醫の名。晉侯實に衛侯を怨む。殺さんと欲して罪死に及ばず。故に醫をして疾を治むるに因りて酖毒を加えしむ。

甯兪貨醫、使薄其酖。不死。甯兪視衛侯衣食。故得知之。
【読み】
甯兪[ねいゆ]醫に貨[まいな]いて、其の酖を薄くせしむ。死なず。甯兪衛侯の衣食を視る。故に之を知ることを得。

公爲之請、納玉於王與晉侯。皆十瑴。王許之。雙玉曰瑴。公本與衛同好。故爲之請。○瑴、音角。
【読み】
公之が爲に請い、玉を王と晉侯とに納る。皆十瑴[かく]。王之を許す。雙玉を瑴と曰う。公本衛と好を同じくす。故に之が爲に請う。○瑴は、音角。

秋、乃釋衛侯。
【読み】
秋、乃ち衛侯を釋[ゆる]す。

衛侯使賂周歂・冶廑、曰、苟能納我、吾使爾爲卿。恐元咺距己。故賂周・冶。○歂、市專反。廑、音覲。又音謹。
【読み】
衛侯周歂[しゅうせん]・冶廑[やきん]に賂わしめて、曰く、苟も能く我を納るれば、吾れ爾をして卿爲らしめん、と。元咺が己を距[ふせ]がんことを恐る。故に周・冶に賂う。○歂は、市專反。廑は、音覲。又音謹。

周・冶殺元咺及子適・子儀。子儀、瑕母弟。不書殺、賤也。○適、丁歷反。
【読み】
周・冶元咺と子適・子儀とを殺す。子儀は、瑕の母弟。殺すを書さざるは、賤しければなり。○適は、丁歷反。

公入、祀先君。周・冶旣服、將命。服卿服、將入廟受命。
【読み】
公入り、先君を祀る。周・冶旣に服して、將に命ぜられんとす。卿服を服して、將に廟に入りて命を受けんとす。

周歂先入。及門、遇疾而死。冶廑辭卿。見周歂死而懼。
【読み】
周歂先ず入る。門に及び、疾に遇いて死す。冶廑卿を辭す。周歂が死するを見て懼る。

九月、甲午、晉侯・秦伯圍鄭、以其無禮於晉、文公亡過鄭、鄭不禮之。
【読み】
九月、甲午[きのえ・うま]、晉侯・秦伯鄭を圍むは、其の晉に禮無く、文公亡[に]げて鄭を過ぐるとき、鄭之を禮せず。

且貳於楚也。晉軍函陵、秦軍氾南。此東氾也。在滎陽中牟縣南。
【読み】
且楚に貳あるを以てなり。晉函陵に軍し、秦氾南に軍す。此れ東氾なり。滎陽中牟縣の南に在り。

佚之狐言於鄭伯曰、國危矣。若使燭之武見秦君、師必退。佚之狐・燭之武、皆鄭大夫。
【読み】
佚之狐鄭伯に言いて曰く、國危うし。若し燭之武をして秦君に見えしめば、師必ず退かん、と。佚之狐・燭之武は、皆鄭の大夫。

公從之。辭曰、臣之壯也、猶不如人。今老矣。無能爲也已。公曰、吾不能早用子、今急而求子、是寡人之過也。然鄭亡、子亦有不利焉。許之。夜縋而出。縋、縣城而下。○縋、丈僞反。
【読み】
公之に從う。辭して曰く、臣の壯なるや、猶人に如かざりき。今老いたり。能く爲すこと無きのみ、と。公曰く、吾れ早く子を用ゆること能わずして、今急ありて子を求むるは、是れ寡人の過ちなり。然れども鄭亡びば、子も亦不利有らん、と。之を許す。夜縋[か]けりて出づ。縋[つい]は、城に縣けて下るなり。○縋は、丈僞反。

見秦伯曰、秦・晉圍鄭。鄭旣知亡矣。若亡鄭而有益於君、敢以煩執事。執事亦謂秦。
【読み】
秦伯に見えて曰く、秦・晉鄭を圍む。鄭旣に亡びんことを知れり。若し鄭を亡ぼして君に益有らば、敢えて以て執事を煩わさん。執事も亦秦を謂う。

越國以鄙遠、君知其難也。設得鄭以爲秦邊邑、則越晉而難保。
【読み】
國を越えて以て遠を鄙にするは、君も其の難きを知らん。設[も]し鄭を得て以て秦の邊邑とすれば、則ち晉を越えて保ち難からん。

焉用亡鄭以陪鄰。陪、益也。
【読み】
焉ぞ鄭を亡ぼして以て鄰を陪[ま]すことを用いん。陪は、益すなり。

鄰之厚、君之薄也。若舍鄭以爲東道主、行李之往來、共其乏困、行李、使人。○舍、音捨。又如字。共、音恭。
【読み】
鄰の厚きは、君の薄きなり。若し鄭を舍てて以て東道の主と爲し、行李の往來に、其の乏困に共せしめば、行李は、使人。○舍は、音捨。又字の如し。共は、音恭。

君亦無所害。且君嘗爲晉君賜矣。許君焦瑕、朝濟而夕設版焉、君之所知也。晉君、謂惠公也。焦瑕、晉河外五城之二邑。朝濟河而夕設版築以距秦、言背秦之速。
【読み】
君も亦害ある所無けん。且つ君嘗て晉君に賜を爲せり。君に焦瑕を許して、朝に濟[わた]りて夕に版を設けしは、君の知る所なり。晉君は、惠公を謂うなり。焦瑕は、晉の河外の五城の二邑。朝に河を濟りて夕に版築を設けて以て秦を距ぐとは、秦に背くことを速やかなるを言うなり。

夫晉何厭之有。旣東封鄭、又欲肆其西封。封、疆也。肆、申也。○厭、於鹽反。
【読み】
夫れ晉は何の厭くことか之れ有らん。旣に東鄭を封ぜば、又其の西封を肆[の]べんことを欲せん。封は、疆なり。肆は、申ぶるなり。○厭は、於鹽反。

若不闕秦、將焉取之。闕秦以利晉、唯君圖之。
【読み】
若し秦を闕かずんば、將[はた]焉にか之を取らん。秦を闕きて以て晉を利せんこと、唯君之を圖れ、と。

秦伯說。與鄭人盟、使杞子・逢孫・楊孫戍之、乃還。三子、秦大夫。反爲鄭守。
【読み】
秦伯說ぶ。鄭人と盟い、杞子・逢孫・楊孫をして之を戍らしめ、乃ち還る。三子は、秦の大夫。反って鄭の爲に守る。

子犯請擊之。公曰、不可。微夫人力、不及此。請擊秦也。夫人、謂秦穆公。○夫、音扶。
【読み】
子犯之を擊たんと請う。公曰く、不可なり。夫の人の微[な]かりせば、此に及ばじ。秦を擊たんと請うなり。夫の人は、秦の穆公を謂う。○夫は、音扶。

因人之力而敝之、不仁。失其所與、不知。以亂易整、不武。秦・晉和整。而還相攻、更爲亂也。○知、音智。
【読み】
人の力に因りて之を敝[やぶ]るは、不仁なり。其の與する所を失うは、不知なり。亂を以て整に易うるは、不武なり。秦・晉和整す。而るに還って相攻せめば、更に亂を爲すなり。○知は、音智。

吾其還也。亦去之。
【読み】
吾れ其れ還らん、と。亦之を去る。

初、鄭公子蘭出奔晉、蘭、鄭穆公。
【読み】
初め、鄭の公子蘭出でて晉に奔り、蘭は、鄭の穆公。

從於晉侯伐鄭、請無與圍鄭。許之、使待命于東。晉東界。○與、音預。
【読み】
晉侯の鄭を伐つに從い、鄭を圍むに與ること無からんと請う。之を許し、命を東に待たしむ。晉の東界。○與は、音預。

鄭石甲父・侯宣多逆以爲大子、以求成于晉。晉人許之。二子、鄭大夫。言穆公所以立。
【読み】
鄭の石甲父・侯宣多逆えて以て大子と爲して、以て成[たい]らぎを晉に求む。晉人之を許す。二子は、鄭の大夫。穆公の立つ所以を言う。

冬、王使周公閱來聘。饗有昌歜・白黑・形鹽。昌歜、昌蒲葅。白、熬稻。黑、熬黍。形鹽、鹽形象虎。○歜、在感反。葅、莊居反。
【読み】
冬、王周公閱をして來聘せしむ。饗するに昌歜[しょうさん]・白黑・形鹽有り。昌歜は、昌蒲の葅[しょ]。白は、熬[い]れる稻。黑は、熬れる黍。形鹽は、鹽の形の虎に象るなり。○歜は、在感反。葅は、莊居反。

辭曰、國君文足昭也、武可畏也、則有備物之饗、以象其德、薦五味、羞嘉穀、鹽虎形、嘉穀、熬稻黍也。以象其文也。鹽虎形、以象武也。
【読み】
辭して曰く、國君文昭らかにするに足り、武畏る可きときは、則ち備物の饗有りて、以て其の德に象り、五味を薦め、嘉穀を羞[すす]め、鹽虎形ありて、嘉穀は、熬れる稻黍なり。以て其の文に象るなり。鹽虎形は、以て武に象るなり。

以獻其功。吾何以堪之。
【読み】
以て其の功を獻[あらわ]すなり。吾は何を以て之に堪えん、と。

東門襄仲將聘于周、遂初聘于晉。公旣命襄仲聘周、未行。故曰將。又命自周聘晉。故曰遂。自入春秋、魯始聘晉。故曰初。
【読み】
東門の襄仲將に周に聘せんとして、遂に初めて晉に聘せしむ。公旣に襄仲に命じて周に聘せしめんとして、未だ行かず。故に將にと曰う。又命じて周より晉に聘せしむ。故に遂にと曰う。春秋に入りてより、魯始めて晉に聘す。故に初めてと曰う。


〔經〕三十有一年、春、取濟西田。晉分曹田以賜魯。故不繫曹。不用師徒。故曰取。
【読み】
〔經〕三十有一年、春、濟西の田を取る。晉曹の田を分けて以て魯に賜う。故に曹に繫けず。師徒を用いず。故に取ると曰う。

公子遂如晉。夏、四月、四卜郊。不從。乃免牲。龜曰卜。不從、不吉也。卜郊不吉。故免牲。免、猶縱也。
【読み】
公子遂晉に如く。夏、四月、四たび郊を卜す。從わず。乃ち牲を免[はな]つ。龜に卜と曰う。從わずは、不吉なり。郊を卜して不吉なり。故に牲を免つ。免は、猶縱[はな]つのごとし。

猶三望。三望、分野之星、國中山川。皆因郊祀望而祭之。魯廢郊天、而修其小祀。故曰猶。猶者、可止之辭。
【読み】
猶三望す。三望は、分野の星、國中の山川なり。皆郊祀に因りて望みて之を祭る。魯郊天を廢して、其の小祀を修む。故に猶と曰う。猶は、止む可きの辭。

秋、七月。冬、杞伯姬來求婦。無傳。自爲其子成昏。
【読み】
秋、七月。冬、杞の伯姬來りて婦を求む。無傳し。自ら其の子の爲に昏を成す。

狄圍衛。十有二月、衛遷于帝丘。辟狄難也。帝丘、今東郡濮陽縣。故帝顓頊之虗。故曰帝丘。○虗、起魚反。
【読み】
狄衛を圍む。十有二月、衛帝丘に遷る。狄の難を辟くるなり。帝丘は、今の東郡濮陽縣。故の帝顓頊の虗[きょ]。故に帝丘と曰う。○虗は、起魚反。

〔傳〕三十一年、春、取濟西田、分曹地也。二十八年、晉文討曹分其地。竟界未定。至是乃以賜諸侯。
【読み】
〔傳〕三十一年、春、濟西の田を取るは、曹の地を分かつなり。二十八年、晉文曹を討じて其の地を分かつ。竟界未だ定まらず。是に至りて乃ち以て諸侯に賜う。

使臧文仲往。宿於重館。高平方與縣西北有重郷城。○重、直龍反。方、音房。與、音預。
【読み】
臧文仲をして往かしむ。重の館に宿る。高平方與縣の西北に重郷城有り。○重は、直龍反。方は、音房。與は、音預。

重館人告曰、晉新得諸侯。必親其共。不速行、將無及也。從之。
【読み】
重の館人告げて曰く、晉新たに諸侯を得たり。必ず其の共を親しまん。速やかに行かずんば、將に及ぶこと無からんとす、と。之に從う。

分曹地、自洮以南、東傅于濟。盡曹地也。文仲不書、請田而已。非聘享會同也。濟水、自滎陽東過魯之西、至樂安入海。○傅、音附。
【読み】
曹の地を分かつこと、洮より以南、東濟に傅[つ]くまでをす。曹の地を盡くせり。文仲書さざるは、田を請うのみ。聘享會同に非ざればなり。濟水は、滎陽の東より魯の西を過ぎ、樂安に至りて海に入る。○傅は、音附。

襄仲如晉、拜曹田也。
【読み】
襄仲晉に如くは、曹の田を拜するなり。

夏、四月、四卜郊。不從。乃免牲。非禮也。諸侯不得郊天。魯以周公故、得用天子禮樂。故郊爲魯常祀。
【読み】
夏、四月、四たび郊を卜す。從わず。乃ち牲を免つ。禮に非ざるなり。諸侯は天を郊することを得ず。魯周公の故を以て、天子の禮樂を用ゆることを得たり。故に郊は魯の常祀爲り。

猶三望。亦非禮也。
【読み】
猶三望す。亦禮に非ざるなり。

禮不卜常祀、必其時。
【読み】
禮常祀を卜せずして、必ず其の時にす。

而卜其牲日。卜牲與日知吉凶。
【読み】
其の牲日を卜す。牲と日とを卜して吉凶を知る。

牛卜日曰牲。旣得吉日、則牛改名曰牲。
【読み】
牛日を卜するを牲と曰う。旣に吉日を得れば、則ち牛名を改めて牲と曰う。

牲成而卜郊、上怠慢也。怠於古典、慢瀆龜策。
【読み】
牲成りて郊を卜するは、上の怠慢なり。古典に怠りて、龜策を慢瀆す。

望、郊之細也。不郊、亦無望可也。
【読み】
望は、郊の細なり。郊せざれば、亦望すること無くして可なり。

秋、晉蒐于淸原、作五軍以禦狄。二十八年、晉作三行。今罷之、更爲上下新軍。河東聞喜縣北有淸原。○行、戶郎反。
【読み】
秋、晉淸原に蒐して、五軍を作りて以て狄を禦ぐ。二十八年、晉三行を作る。今之を罷め、更に上下の新軍を爲る。河東聞喜縣の北に淸原有り。○行は、戶郎反。

趙衰爲卿。二十七年、命趙衰爲卿。讓於欒枝。今始從原大夫、爲新軍帥。
【読み】
趙衰[ちょうし]卿と爲る。二十七年、趙衰に命じて卿とす。欒枝[らんし]に讓る。今始めて原の大夫より、新軍の帥と爲る。

冬、狄圍衛。衛遷于帝丘。卜曰、三百年。
【読み】
冬、狄衛を圍む。衛帝丘に遷る。卜するに曰く、三百年、と。

衛成公夢、康叔曰、相奪予享。相、夏后啓之孫。居帝丘。享、祭也。○相、息亮反。
【読み】
衛の成公夢みらく、康叔曰く、相予が享[まつり]を奪う、と。相は、夏后啓の孫。帝丘に居れり。享は、祭なり。○相は、息亮反。

公命祀相。甯武子不可、曰、鬼神、非其族類、不歆其祀。歆、猶饗也。○歆、許金反。
【読み】
公命じて相を祀らしむ。甯武子可[き]かずして、曰く、鬼神は、其の族類に非ざれば、其の祀を歆[う]けず。歆[きん]は、猶饗[う]くのごとし。○歆は、許金反。

杞・鄫何事。言杞・鄫夏後。自當祀相。
【読み】
杞・鄫[しょう]何をか事とせん。言うこころは、杞・鄫は夏の後。自ら當に相を祀るべし。

相之不享於此久矣。非衛之罪也。言帝丘久不祀相、非衛所絕。
【読み】
相の此に享られざること久し。衛の罪に非ざるなり。言うこころは、帝丘久しく相を祀らざるは、衛の絕つ所に非ず。

不可以閒成王・周公之命祀。諸侯受命、各有常祀。
【読み】
以て成王・周公の命祀を閒[おか]す可からず。諸侯命を受く、各々常祀有り。

請改祀命。改祀相之命。
【読み】
請う、祀命を改めん、と。相を祀るの命を改む。

鄭洩駕惡公子瑕。鄭伯亦惡之。故公子瑕出奔楚。瑕、文公子。傳爲納瑕張本。洩駕亦鄭大夫。隱五年洩駕、距此九十年。疑非一人。
【読み】
鄭の洩駕[せつが]公子瑕を惡む。鄭伯も亦之を惡む。故に公子瑕出でて楚に奔る。瑕は、文公の子。傳瑕を納るる爲の張本なり。洩駕も亦鄭の大夫。隱五年の洩駕は、此を距つること九十年なり。疑うらくは一人に非ざらん。


〔經〕三十有二年、春、王正月。夏、四月、己丑、鄭伯捷卒。無傳。文公也。三同盟。
【読み】
〔經〕三十有二年、春、王の正月。夏、四月、己丑[つちのと・うし]、鄭伯捷卒す。傳無し。文公なり。三たび同盟す。

衛人侵狄。報前年狄圍衛。
【読み】
衛人狄を侵す。前年狄衛を圍むに報ず。

秋、衛人及狄盟。不地者、就狄廬帳盟。
【読み】
秋、衛人狄と盟う。地いわざるは、狄の廬帳に就いて盟えばなり。

冬、十有二月、己卯、晉侯重耳卒。同盟踐土・翟泉。
【読み】
冬、十有二月、己卯[つちのと・う]、晉侯重耳卒す。踐土・翟泉に同盟す。

〔傳〕三十二年、春、楚鬭章請平于晉。晉陽處父報之。晉・楚始通。陽處父、晉大夫。晉・楚自春秋以來、始交使命、爲和同。
【読み】
〔傳〕三十二年、春、楚の鬭章平らぎを晉に請う。晉の陽處父之に報ゆ。晉・楚始めて通ず。陽處父は、晉の大夫。晉・楚春秋より以來、始めて使命を交え、和同を爲す。

夏、狄有亂。衛人侵狄。狄請平焉。秋、衛人及狄盟。
【読み】
夏、狄亂有り。衛人狄を侵す。狄平らぎを請う。秋、衛人狄と盟う。

冬、晉文公卒。庚辰、將殯于曲沃。殯、窆棺也。曲沃有舊宮焉。○窆、彼驗反。
【読み】
冬、晉の文公卒す。庚辰[かのえ・たつ]、將に曲沃に殯せんとす。殯は、窆棺[へんかん]なり。曲沃に舊宮有り。○窆は、彼驗反。

出絳、柩有聲如牛。如牛呴聲。○呴、呼口反。
【読み】
絳[こう]を出づるとき、柩に聲有り牛の如し。牛の呴[ほ]える聲の如し。○呴[こう]は、呼口反。

卜偃使大夫拜、曰、君命大事。將有西師過軼我。擊之必大捷焉。聲自柩出。故曰君命。大事、戎事也。卜偃聞秦密謀。故因柩聲以正衆心。○過、古禾反。又古臥反。軼、直結反。又音逸。
【読み】
卜偃大夫をして拜せしめて、曰く、君大事を命ずるなり。將に西師の我を過軼[かいつ]する有らんとす。之を擊たば必ず大いに捷[か]たん、と。聲柩より出づ。故に君命ずと曰う。大事は、戎事なり。卜偃秦の密謀を聞く。故に柩の聲に因りて以て衆心を正す。○過は、古禾反。又古臥反。軼は、直結反。又音逸。

杞子自鄭使告于秦、三十年、秦使大夫杞子戍鄭。
【読み】
杞子鄭より秦に告げしめて、三十年、秦大夫杞子をして鄭を戍らしむ。

曰、鄭人使我掌其北門之管。管、籥也。
【読み】
曰く、鄭人我をして其の北門の管を掌らしめり。管は、籥[やく]なり。

若潛師以來、國可得也。穆公訪諸蹇叔。蹇叔曰、勞師以襲遠、非所聞也。蹇叔、秦大夫。
【読み】
若し師を潛めて以て來らば、國得可し、と。穆公諸を蹇叔に訪[と]う。蹇叔曰く、師を勞[つか]れしめて以て遠きを襲うは、聞く所に非ざるなり。蹇叔は、秦の大夫。

師勞力竭、遠主備之、無乃不可乎。師知所爲、鄭必知之。勤而無所、必有悖心。將害良善。○悖、必内反。
【読み】
師勞れ力竭き、遠主之に備えば、乃ち不可なること無からんや。師爲す所を知らば、鄭も必ず之を知らん。勤めて所無くば、必ず悖心[はいしん]有らん。將に良善を害せんとす。○悖は、必内反。

且行千里、其誰不知。公辭焉。辭不受其言。
【読み】
且つ行くこと千里、其れ誰か知らざらんや、と。公辭す。辭して其の言を受けず。

召孟明・西乞・白乙、使出師於東門之外。孟明、百里孟明視。西乞、西乞術。白乙、白乙丙。
【読み】
孟明・西乞・白乙を召して、師を東門の外に出ださしむ。孟明は、百里孟明視。西乞は、西乞術。白乙は、白乙丙。

蹇叔哭之曰、孟子、吾見師之出、而不見其入也。公使謂之曰、爾何知。中壽、爾墓之木拱矣。合手曰拱。言其過老、悖不可用。
【読み】
蹇叔之を哭して曰く、孟子、吾れ師の出づるを見て、其の入るを見じ、と。公之に謂わしめて曰く、爾何をか知らん。中壽ならば、爾が墓の木は拱ならん、と。合手を拱と曰う。其の過老にして、悖りて用ゆ可からざるを言う。

蹇叔之子與師。哭而送之曰、晉人禦師必於殽。殽、在弘農澠池縣西。○殽、戶交反。澠、緜善反。又緜忍反。與、音預。
【読み】
蹇叔の子師に與る。哭して之を送りて曰く、晉人師を禦がば必ず殽[こう]に於てせん。殽は、弘農澠池[めんち]縣の西に在り。○殽は、戶交反。澠は、緜善反。又緜忍反。與は、音預。

殽有二陵焉。大阜曰陵。
【読み】
殽に二陵有り。大阜を陵と曰う。

其南陵、夏后皐之墓也。皐、夏桀之祖父。
【読み】
其の南陵は、夏后皐の墓なり。皐は、夏桀の祖父。

其北陵、文王之所辟風雨也。此道在二殽之閒南谷中。谷深委曲、兩山相嶔。故可以辟風雨。古道由此。魏武帝西討巴漢、惡其險而更開北山高道。○辟、音避。嶔、許金反。
【読み】
其の北陵は、文王の風雨を辟けし所なり。此の道は二殽の閒の南谷中に在り。谷深くして委曲、兩山相嶔[きん]たり。故に以て風雨を辟く可し。古道は此に由る。魏の武帝西巴漢を討じて、其の險を惡みて更に北山の高道を開く。○辟は、音避。嶔は、許金反。

必死是閒。以其深險故。
【読み】
必ず是の閒に死せん。其の深險を以ての故なり。

余收爾骨焉。
【読み】
余爾の骨を收めん、と。

秦師遂東。爲明年、晉敗秦於殽傳。
【読み】
秦の師遂に東す。明年、晉秦を殽に敗る爲の傳なり。


〔經〕三十有三年、春、王二月、秦人入滑。滅而書入、不能有其地。
【読み】
〔經〕三十有三年、春、王の二月、秦人滑に入る。滅ぼして入るを書すは、其の地を有つこと能わざればなり。

齊侯使國歸父來聘。夏、四月、辛巳、晉人及姜戎敗秦師于殽。晉侯諱背喪用兵。故通以賤者告。姜戎、姜姓之戎。居晉南鄙。戎子駒支之先也。晉人角之、諸戎掎之、不同陳。故言及。○掎、居綺反。
【読み】
齊侯國歸父をして來聘せしむ。夏、四月、辛巳[かのと・み]、晉人姜戎と秦の師を殽[こう]に敗る。晉侯喪に背きて兵を用ゆるを諱む。故に通じて賤者を以て告ぐ。姜戎は、姜姓の戎。晉の南鄙に居る。戎子駒支の先なり。晉人之を角とり、諸戎之を掎[き]とりて、同じく陳せず。故に及と言う。○掎は、居綺反。

癸巳、葬晉文公。狄侵齊。公伐邾、取訾婁。秋、公子遂帥師伐邾。晉人敗狄于箕。大原陽邑縣南有箕城。郤缺稱人者、未爲卿。○訾、子斯反。
【読み】
癸巳[みずのと・み]、晉の文公を葬る。狄齊を侵す。公邾[ちゅ]を伐ち、訾婁[しろう]を取る。秋、公子遂師を帥いて邾[ちゅ]を伐つ。晉人狄を箕に敗る。大原陽邑縣の南に箕城有り。郤缺[げきけつ]人と稱するは、未だ卿爲らざればなり。○訾は、子斯反。

冬、十月、公如齊。十有二月、公至自齊。乙巳、公薨于小寢。小寢、内寢也。乙巳、十一月十二日。經書十二月誤。
【読み】
冬、十月、公齊に如く。十有二月、公齊より至る。乙巳[きのと・み]、公小寢に薨ず。小寢は、内寢なり。乙巳は、十一月十二日。經十二月と書すは誤りなり。

隕霜不殺草、李梅實。無傳。書時失也。周十一月、今九月。霜當微而重、重而不能殺草。所以爲災。
【読み】
隕霜草を殺[か]らさず、李梅實る。傳無し。時の失を書すなり。周の十一月は、今の九月。霜當に微かるべくして重く、重くして草を殺らすこと能わず。災いと爲る所以なり。

晉人・陳人・鄭人伐許。
【読み】
晉人・陳人・鄭人許を伐つ。

〔傳〕三十三年、春、秦師過周北門。左右免冑而下。王城之北門。冑、兜鍪。兵車、非大將御者在中。故左右下、御不下。
【読み】
〔傳〕三十三年、春、秦の師周の北門を過ぐ。左右冑を免[ぬ]いで下る。王城の北門なり。冑は、兜鍪[とぼう]。兵車は、大將に非ざれば御者中に在り。故に左右下りて、御下らず。

超乘者三百乘。王孫滿尙幼。觀之。言於王曰、秦師輕而無禮。必敗。謂過天子門、不卷甲束兵、超乘示勇。○輕、遣政反。
【読み】
超乘する者三百乘。王孫滿尙幼し。之を觀る。王に言いて曰く、秦の師輕々しくして禮無し。必ず敗れん。天子の門を過ぐるに、甲を卷き兵を束ねずして、超乘して勇を示すを謂う。○輕は、遣政反。

輕則寡謀。無禮則脫。脫、易也。○脫、他活反。
【読み】
輕々しければ則ち謀寡し。禮無ければ則ち脫す。脫は、易きなり。○脫は、他活反。

入險而脫、又不能謀、能無敗乎。
【読み】
險に入りて脫し、又謀ること能わざれば、能く敗るること無からんや、と。

及滑。鄭商人弦高將市於周、遇之、以乘韋先、牛十二犒師、商、行賈也。乘、四韋。先韋、乃入牛。古者將獻遺於人、必有以先之。○先、悉薦反。
【読み】
滑に及ぶ。鄭の商人弦高將に周に市[あきな]わんとして、之に遇い、乘韋を以て先だてて、牛十二にて師を犒[ねぎら]いて、商は、行賈なり。乘は、四韋。韋を先だてて、乃ち牛を入る。古は將に人に獻遺せんとすれば、必ず以て之に先だつること有り。○先は、悉薦反。

曰、寡君聞吾子將步師出於敝邑、敢犒從者。不腆敝邑、爲從者之淹、居則具一日之積、腆、厚也。淹、久也。積、芻米菜薪。○從、才用反。積、子賜反。
【読み】
曰く、寡君吾子將に師を步ませて敝邑に出でんとすと聞き、敢えて從者を犒わしむ。不腆なる敝邑、從者の淹[ひさ]しきが爲にも、居らば則ち一日の積[し]を具え、腆は、厚きなり。淹は、久しきなり。積は、芻米菜薪。○從は、才用反。積は、子賜反。

行則備一夕之衛。
【読み】
行かば則ち一夕の衛を備えん。

且使遽告于鄭。遽、傳車。○遽、其據反。傳、張戀反。
【読み】
且つ遽をして鄭に告げしむ。遽は、傳車。○遽は、其據反。傳は、張戀反。

鄭穆公使視客館、視秦三大夫之舍。
【読み】
鄭の穆公客館を視せしむれば、秦の三大夫の舍を視せしむ。

則束載厲兵秣馬矣。嚴兵待秦師。
【読み】
則ち束載して兵を厲[と]ぎ馬に秣[まぐさか]えり。兵を嚴にして秦の師を待つ。

使皇武子辭焉、曰、吾子淹久於敝邑、唯是脯資・餼牽竭矣。資、糧也。生曰餼。牽、謂牛・羊・豕。○餼、許氣反。
【読み】
皇武子をして辭せしめて、曰く、吾子敝邑に淹久にして、唯是の脯資・餼牽竭きたり。資は、糧なり。生を餼と曰う。牽は、牛・羊・豕を謂う。○餼は、許氣反。

爲吾子之將行也、示知其情。
【読み】
吾子の將に行[さ]らんとするが爲に、其の情を知るを示す。

鄭之有原圃、猶秦之有具囿也。原圃・具囿、皆囿名。
【読み】
鄭の原圃有るは、猶秦の具囿有るがごとし。原圃・具囿は、皆囿の名。

吾子取其麋鹿、以閒敝邑、若何。使秦戍自取麋鹿以爲行資、令敝邑得閒暇。若何、猶如何。滎陽中牟縣西有圃田澤。○閒、音閑。
【読み】
吾子其の麋鹿を取りて、以て敝邑に閒あらせば、若何、と。秦の戍をして自ら麋鹿を取りて以て行資と爲さしめ、敝邑をして閒暇を得せしめよ、と。若何は、猶如何のごとし。滎陽の中牟縣の西に圃田澤有り。○閒は、音閑。

杞子奔齊、逢孫・楊孫奔宋。
【読み】
杞子齊に奔り、逢孫・楊孫宋に奔る。

孟明曰、鄭有備矣。不可冀也。攻之不克。圍之不繼。吾其還也。滅滑而還。
【読み】
孟明曰く、鄭に備え有り。冀う可からず。之を攻むるとも克たじ。之を圍むとも繼がじ。吾れ其れ還らん、と。滑を滅ぼして還る。

齊國莊子來聘。自郊勞至于贈賄、禮成而加之以敏。迎來曰郊勞、送去曰贈賄。敏、審當於事。○勞、力報反。
【読み】
齊の國莊子來聘す。郊勞より贈賄に至るまで、禮成りて之に加うるに敏を以てす。來るを迎うるを郊勞と曰い、去るを送るを贈賄と曰う。敏は、事に審當なるなり。○勞は、力報反。

臧文仲言於公曰、國子爲政、齊猶有禮。君其朝焉。臣聞之、服於有禮、社稷之衛也。爲公如齊傳。
【読み】
臧文仲公に言いて曰く、國子政を爲し、齊猶禮有り。君其れ朝せよ。臣之を聞く、有禮に服するは、社稷の衛りなり、と。公齊に如く爲の傳なり。

晉原軫曰、秦違蹇叔、而以貪勤民。天奉我也。奉、與也。
【読み】
晉の原軫曰く、秦蹇叔に違いて、貪を以て民を勤めしむ。天我に奉[あた]うるなり。奉は、與うるなり。

奉不可失。敵不可縱。縱敵患生、違天不祥。必伐秦師。欒枝曰、未報秦施、而伐其師、其爲死君乎。言以君死故、忘秦施。○施、始豉反。
【読み】
奉うるは失う可からず。敵は縱[ゆる]す可からず。敵を縱せば患え生じ、天に違うは不祥なり。必ず秦の師を伐たん、と。欒枝[らんし]曰く、未だ秦の施に報いずして、其の師を伐たば、其れ君を死したりとせんや、と。君の死するが以ての故に、秦の施を忘ると言う。○施は、始豉反。

先軫曰、秦不哀吾喪、而伐吾同姓、秦則無禮。何施之爲。言秦以無禮加己。施不足顧。
【読み】
先軫曰く、秦吾が喪を哀しまずして、吾が同姓を伐つは、秦則ち禮無きなり。何の施をか之れせん。言うこころは、秦無禮を以て己に加う。施顧みるに足らず。

吾聞之、一日縱敵、數世之患也。謀及子孫。可謂死君乎。言不可謂背君。○數、所主反。
【読み】
吾れ之を聞く、一日敵を縱せば、數世の患えなり、と。謀子孫に及ぶ。君死したりとすと謂う可けんや、と。言うこころは、君に背くと謂う可からず。○數は、所主反。

遂發命、遽興姜戎。子、墨衰絰。晉文公未葬。故襄公稱子。以凶服從戎。故墨之。
【読み】
遂に命を發し、遽をもて姜戎を興す。子、墨衰絰[さいてつ]す。晉の文公未だ葬らず。故に襄公子と稱す。凶服を以て戎に從う。故に之を墨にす。

梁弘御戎。萊駒爲右。夏、四月、辛巳、敗秦師于殽、獲百里孟明視・西乞術・白乙丙以歸。遂墨以葬文公。晉於是始墨。後遂常以爲俗。記禮所由變。
【読み】
梁弘戎に御たり。萊駒右爲り。夏、四月、辛巳、秦の師を殽に敗り、百里孟明視・西乞術・白乙丙を獲て以[い]て歸る。遂に墨して以て文公を葬る。晉是に於て始めて墨せり。後遂に常に以て俗と爲す。禮の由り變ずる所を記す。

文嬴請三帥、文嬴、晉文公始適秦、秦穆公所妻夫人、襄公嫡母也。三帥、孟明等。
【読み】
文嬴[ぶんえい]三帥を請いて、文嬴は、晉の文公始めて秦に適きしとき、秦の穆公妻す所の夫人、襄公の嫡母なり。三帥は、孟明等。

曰、彼實構吾二君。寡君若得而食之、不厭。君何辱討焉。使歸就戮于秦、以逞寡君之志、若何。公許之。先軫朝、問秦囚。公曰、夫人請之、吾舍之矣。先軫怒曰、武夫力而拘諸原、婦人暫而免諸國。暫、猶卒也。○厭、於豔反。又於鹽反。
【読み】
曰く、彼實に吾が二君を構えり。寡君若し得て之を食うとも、厭かじ。君何ぞ討ずることを辱くせん。歸して戮に秦に就かしめて、以て寡君の志を逞しくせば、若何、と。公之を許す。先軫朝して、秦の囚を問う。公曰く、夫人之を請いて、吾れ之を舍[ゆる]せり、と。先軫怒りて曰く、武夫力めて諸を原に拘え、婦人暫にして諸を國に免す。暫は、猶卒のごとし。○厭は、於豔反。又於鹽反。

墮軍實而長寇讎。亡無日矣。墮、毀也。○墮、許規反。
【読み】
軍實を墮[やぶ]りて寇讎を長ず。亡びんこと日無けん、と。墮は、毀るなり。○墮は、許規反。

不顧而唾。公使陽處父追之。及諸河、則在舟中矣。釋左驂、以公命贈孟明。欲使還拜謝因而執之。
【読み】
顧みずして唾はく。公陽處父をして之を追わしむ。諸に河に及べば、則ち舟中に在り。左驂[ささん]を釋きて、公命を以て孟明に贈る。還りて拜謝せしめて因りて之を執えんことを欲す。

孟明稽首曰、君之惠、不以纍臣釁鼓、纍、囚繫也。殺人以血塗鼓、謂之釁鼓。
【読み】
孟明稽首して曰く、君の惠み、纍臣[るいしん]を以て鼓に釁[ちぬ]らずして、纍は、囚繫なり。人を殺して血を以て鼓に塗る、之を釁鼓[きんこ]と謂う。

使歸就戮于秦。寡君之以爲戮、死且不朽。若從君惠而免之、三年將拜君賜。意欲報伐晉。
【読み】
歸して戮に秦に就かしむ。寡君の以て戮することを爲せば、死すとも且に朽ちざらんとす。若し君の惠みによりて之を免[ゆる]されば、三年ありて將に君の賜を拜せんとす、と。意晉を報伐せんことを欲す。

秦伯素服郊次、待之於郊。
【読み】
秦伯素服して郊に次[やど]り、之を郊に待つ。

郷師而哭曰、孤違蹇叔以辱二三子。孤之罪也。不替孟明、孤之過也。大夫何罪。且吾不以一眚掩大德。眚、過也。○郷、許亮反。眚、所景反。
【読み】
師に郷[む]かいて哭して曰く、孤蹇叔に違いて以て二三子を辱めり。孤の罪なり。孟明を替[や]めざりしは、孤の過ちなり。大夫何の罪かある。且つ吾れ一眚[いっせい]を以て大德を掩わざらん、と。眚は、過ちなり。○郷は、許亮反。眚は、所景反。

狄侵齊、因晉喪也。
【読み】
狄齊を侵すは、晉の喪に因りてなり。

公伐邾、取訾婁、以報升陘之役。在二十二年。
【読み】
公邾を伐ち、訾婁を取りて、以て升陘の役に報ゆ。二十二年に在り。

邾人不設備。秋、襄仲復伐邾。魯亦因晉喪以陵小國。
【読み】
邾人備えを設けず。秋、襄仲復邾を伐つ。魯も亦晉の喪に因りて以て小國を陵ぐ。

狄伐晉、及箕。八月、戊子、晉侯敗狄于箕。郤缺獲白狄子。白狄、狄別種也。故西河郡有白部胡。
【読み】
狄晉を伐ち、箕に及ぶ。八月、戊子[つちのえ・ね]、晉侯狄を箕に敗る。郤缺[げきけつ]白狄子を獲たり。白狄は、狄の別種なり。故の西河郡に白部胡有り。

先軫曰、匹夫逞志於君、謂不顧而唾。
【読み】
先軫曰く、匹夫志を君に逞しくして、顧みずして唾はくを謂う。

而無討。敢不自討乎。免冑入狄師、死焉。狄人歸其元。元、首。
【読み】
討ぜらるること無し。敢えて自ら討ぜざらんや、と。冑を免[ぬ]ぎて狄の師に入りて、死す。狄人其の元[こうべ]を歸す。元は、首。

面如生。言其有異於人。
【読み】
面生けるが如し。其の人に異なること有るを言う。

初、臼季使過冀、見冀缺耨、其妻饁之。臼季、胥臣也。冀、晉邑。耨、鋤也。野饋曰饁。○耨、乃豆反。饁、于輒反。
【読み】
初め、臼季使いして冀を過ぎ、冀缺が耨[くさぎ]りて、其の妻之に饁[かれいいおく]るを見る。臼季は、胥臣なり。冀は、晉の邑。耨[どう]は、鋤くなり。野饋[やき]を饁[よう]と曰う。○耨は、乃豆反。饁は、于輒反。

敬相待如賓。與之歸。言諸文公曰、敬、德之聚也。能敬必有德。德以治民。君請用之。臣聞之、出門如賓、如見大賓。
【読み】
敬して相待つこと賓の如し。之と歸る。諸を文公に言いて曰く、敬は、德の聚まりなり。能く敬するは必ず德有り。德は以て民を治む。君請う之を用いよ。臣之を聞く、門を出でては賓の如くし、大賓を見るが如くす。

承事如祭、常謹敬也。
【読み】
事を承くること祭の如くするは、常に謹敬するなり。

仁之則也。公曰、其父有罪。可乎。缺父冀芮、欲殺文公。在二十四年。○殺、音試。或如字。
【読み】
仁の則なり、と。公曰く、其の父罪有り。可ならんや、と。缺の父冀芮、文公を殺さんと欲す。二十四年に在り。○殺は、音試。或は字の如し。

對曰、舜之罪也殛鯀、其舉也興禹。禹、鯀子。
【読み】
對えて曰く、舜の罪するや鯀を殛[きょく]し、其の舉ぐるや禹を興せり。禹は、鯀の子。

管敬仲、桓之賊也、實相以濟。康誥曰、父不慈、子不祗、兄不友、弟不共、不相及也。康誥、周書。祗、敬也。○相、息亮反。
【読み】
管敬仲は、桓の賊なりしも、實に相けて以て濟[な]せり。康誥に曰く、父慈ならず、子祗まず、兄友ならず、弟共ならざるも、相及ぼさざれ、と。康誥は、周書。祗は、敬むなり。○相は、息亮反。

詩曰、采葑采菲。無以下體。君取節焉可也。詩、國風也。葑菲之菜、上善下惡。食之者、不以其惡而棄其善。言可取其善節。
【読み】
詩に曰く、葑[ほう]を采り菲[ひ]を采る。下體を以てすること無かれ、と。君節を取りて可なり、と。詩は、國風なり。葑菲の菜、上は善く下は惡し。之を食う者、其の惡しきを以てして其の善きを棄てず。其の善き節を取る可きを言う。

文公以爲下軍大夫。
【読み】
文公以て下軍の大夫と爲す。

反自箕。襄公以三命命先且居將中軍。且居、先軫之子。其父死敵。故進之。○且、于余反。
【読み】
箕より反る。襄公三命を以て先且居に命じて中軍に將たらしむ。且居は、先軫の子。其の父敵に死す。故に之を進む。○且は、于余反。

以再命命先茅之縣賞胥臣曰、舉郤缺、子之功也。先茅絕後。故取其縣、以賞胥臣。
【読み】
再命を以て先茅が縣を命じて胥臣を賞して曰く、郤缺を舉げしは、子の功なり、と。先茅後を絕つ。故に其の縣を取りて、以て胥臣を賞す。

以一命命郤缺爲卿、復與之冀。還其父故邑。
【読み】
一命を以て郤缺に命じて卿と爲し、復之に冀を與う。其の父の故邑を還す。

亦未有軍行。雖登卿位、未有軍列。○行、戶剛反。
【読み】
亦未だ軍行有らず。卿位に登ると雖も、未だ軍列有らず。○行、戶剛反。

冬、公如齊、朝、且弔有狄師也。反。薨于小寢、卽安也。小寢、夫人寢也。譏公就所安、不終于路寢。
【読み】
冬、公齊に如くは、朝し、且狄の師有るを弔するなり。反る。小寢に薨ずるは、安に卽くなり。小寢は、夫人の寢なり。公安んずる所に就きて、路寢に終わらざるを譏るなり。

晉・陳・鄭伐許、討其貳於楚也。
【読み】
晉・陳・鄭許を伐つは、其の楚に貳あるを討ずるなり。

楚令尹子上侵陳・蔡。陳・蔡成。遂伐鄭。
【読み】
楚の令尹子上陳・蔡を侵す。陳・蔡成[たい]らぐ。遂に鄭を伐つ。

將納公子瑕。三十一年、瑕奔楚。
【読み】
將に公子瑕を納れんとす。三十一年、瑕楚に奔る。

門于桔柣之門。瑕覆于周氏之汪。車傾覆池水中。○桔、戶結反。柣、大結反。汪、烏黃反。
【読み】
桔柣[けつてつ]の門を門[せ]む。瑕周氏の汪に覆る。車池水の中に傾覆す。○桔は、戶結反。柣は、大結反。汪は、烏黃反。

外僕髡屯禽之以獻。殺瑕以獻鄭伯。
【読み】
外僕髡屯[こんとん]之を禽にして以て獻ず。瑕を殺して以て鄭伯に獻ず。

文夫人斂而葬之鄶城之下。鄭文公夫人也。鄶城、故鄶國。在滎陽密縣東北。傳言穆公所以遂有國。○斂、力豔反。鄶、古外反。
【読み】
文夫人斂して之を鄶城[かいじょう]の下に葬りぬ。鄭の文公の夫人なり。鄶城は、故の鄶國。滎陽の密縣の東北に在り。傳穆公遂に國を有つ所以を言う。○斂は、力豔反。鄶は、古外反。

晉陽處父侵蔡。楚子上救之、與晉師夾泜而軍。泜水、出魯陽縣東、經襄城定陵入汝。○泜、音雉。又直里反。
【読み】
晉の陽處父蔡を侵す。楚の子上之を救い、晉の師と泜[ち]を夾みて軍す。泜水は、魯陽縣の東より出でて、襄城定陵を經て汝に入る。○泜は、音雉。又直里反。

陽子患之、使謂子上曰、吾聞之、文不犯順、武不違敵。子若欲戰、則吾退舍。子濟而陳。欲避楚使渡成陳而後戰。
【読み】
陽子之を患え、子上に謂わしめて曰く、吾れ之を聞く、文は順を犯さず、武は敵を違[さ]らず、と。子若し戰わんことを欲せば、則ち吾れ退き舍らん。子濟りて陳せよ。楚を避けて渡りて陳を成さしめて後に戰わんと欲す。

遲速唯命。不然紓我。紓、緩也。○紓、音舒。一直呂反。
【読み】
遲速は唯命のままなり。然らずんば我を紓[ゆる]くせよ。紓は、緩きなり。○紓は、音舒。一に直呂反。

老師費財、亦無益也。師久爲老。
【読み】
師を老[つか]らし財を費すも、亦益無し、と。師久しきを老と爲す。

乃駕以待。子上欲涉。大孫伯曰、不可。晉人無信。半涉而薄我、悔敗何及。不如紓之。乃退舍。楚退。欲使晉渡。
【読み】
乃ち駕して以て待つ。子上涉らんと欲す。大孫伯曰く、不可なり。晉人信無し。半ば涉らんときにして我に薄[せま]らば、敗れを悔ゆるとも何ぞ及ばん。之を紓くせんには如かじ、と。乃ち退きて舍る。楚退く。晉をして渡らしめんと欲す。

陽子宣言曰、楚師遁矣。遂歸。楚師亦歸。
【読み】
陽子宣言して曰く、楚の師遁げたり、と。遂に歸る。楚の師も亦歸る。

大子商臣譖子上曰、受晉賂而辟之。楚之恥也。罪莫大焉。王殺子上。商臣怨子上止王立己。故譖之。
【読み】
大子商臣子上を譖[しん]して曰く、晉の賂を受けて之を辟けたり。楚の恥なり。罪焉より大なるは莫し、と。王子上を殺す。商臣子上が王の己を立つるを止めんことを怨む。故に之を譖す。

葬僖公。緩。文公元年、經書四月葬僖公。僖公實以今年十一月薨。幷閏七月乃葬。故傳云緩。自此以下、遂因說作主祭祀之事、文相次也。皆當次在經葬僖公下。今在此、簡編倒錯。
【読み】
僖公を葬る。緩[おそ]きなり。文公の元年に、經四月僖公を葬ると書す。僖公實は今年十一月を以て薨ず。閏を幷せて七月にして乃ち葬る。故に傳に緩きなりと云う。此より以下、遂に因りて主を作り祭祀するの事を說き、文相次ず。皆當に次で經の僖公を葬るの下に在るべし。今此に在るは、簡編の倒錯なり。

作主。非禮也。文二年乃作主。遂因葬文通譏之。
【読み】
主を作る。禮に非ざるなり。文二年にして乃ち主を作れり。遂に葬るの文に因りて通じて之を譏るなり。

凡君薨、卒哭而祔。祔而作主、特祀於主。旣葬反虞、則免喪。故曰卒哭。哭、止也。以新死者之神祔之於祖、尸柩已遠、孝子思慕。故造木主、立几筵焉。特用喪禮、祭祀於寢、不同之於宗廟。言凡君者、謂諸侯以上。不通於卿大夫。
【読み】
凡そ君薨ずれば、卒哭して祔す。祔して主を作り、特に主を祀る。旣に葬りて反虞すれば、則ち喪を免[ぬ]ぐ。故に卒哭と曰う。哭は、止むなり。新死者の神を以て之を祖に祔するは、尸柩已に遠く、孝子思慕す。故に木主を造り、几筵を立つるなり。特に喪禮を用いて、寢に祭祀して、之を宗廟に同じくせざるなり。凡そ君と言うは、諸侯以上を謂う。卿大夫に通ぜず。

烝・嘗・禘於廟。冬祭曰烝、秋祭曰嘗。新主旣特祀於寢、則宗廟四時常祀自如舊也。三年禮畢、又大禘、乃皆同於吉。
【読み】
廟に烝・嘗・禘す。冬祭を烝と曰い、秋祭を嘗と曰う。新主旣に特に寢に祀るときは、則ち宗廟四時の常祀自ずから舊の如し。三年禮畢りて、又大禘するは、乃ち皆吉に同じ。



經二十七年。有好。呼報反。與盟。音預。
傳。不共。本亦作恭。下注同。責禮也。本或作責無禮者、非。○今本亦作責無禮。於睽。苦圭反。亦音圭。終朝。如字。注同。不戮。音六。復治。扶又反。伯嬴。音盈。幼少。詩照反。下同。傳政。直專反。幾何。居豈反。三百乘。繩證反。下同。先軫。之忍反。報施。式豉反。注同。蒐于。所求反。被廬。皮義反。下力呂反。元帥。所類反。注同。郤穀。本又作縠、同。○今本亦縠。將中。子匠反。下將上將下皆同。郤溱。側巾反。欒枝。魯官反。少長。丁丈反。執秩。直乙反。
經二十八年。刺之。七賜反。殺也。子叢。似東反。不枉。紆往反。畀宋。必利反。譎而。古穴反。城濮。音卜。同歃。所洽反。本又作喢。雖爲。于僞反。下爲其同。訟訴。本又作愬。蘇路反。陳共。音恭。下共公同。狩于。本又作守。音同。比再。如字。王俾利反。
傳。汲郡。音急。將中。子匠反。注同。胥臣。思徐反。盂。音于。以說焉。如字。王音悅。輿人。音餘。爲將。如字。又于僞反。恐懼。丘勇反。乘軒者。許言反。報飧。音孫。爇。如悅反。使者。所吏反。距。音巨。躍。羊畧反。跳踊。徒彫反。以徇。似俊反。使爲。于僞反。公說。音悅。以畀。必利反。允當。丁浪反。過分。扶問反。以閒。閒厠之閒。注同。乘入。繩證反。六卒。子忽反。注同。出畢。音境。公說。音悅。乃拘。音倶。過楚。古禾反。背惠。音佩。下及注同。崔夭。於表反。子搏。音博。其腦。乃老反。啑。一音子甲反。上嚮。許亮反。下同。或作向。○今本亦向。君馮。皮冰反。軾。音式。得臣與。音預。寓目。音遇。爲大夫。于僞反。令戒。力呈反。車乘。繩證反。下及注同。詰。起吉反。朝。如字。注同。將見。如字。又賢遍反。○今本相見。韅。說文作■(上が顯、下が革)云。著掖反。靷。說文云、引軸也。鞅。說文云、頸皮也。靽。一云、縶也。在背。如字。少。詩照反。注同。長。丁丈反。注同。攻。如字。又音貢。六卒。子忽反。下同。將中軍。子匠反。下及注同。師潰。戶内反。二旆。薄貝反。僞遁。徒困反。夾攻。古洽反。又音頰。卷縣。一音丘權反。往勞。力報反。故爲。于僞反。下文同。郷役。本又作曏。同。駟。音四。介。音界。被甲。皮義反。步卒。子忽反。傅相。息亮反。輅。音路。彤弓。徒冬反。玈弓。本或作旅字、非也。矢千。本或作玈弓十玈矢千、後人專輒加也。秬。音巨。鬯。勑亮反。卣。一音由。爾雅云、卣、中尊也。丕顯。普然反。休命。許虯反。三見。賢遍反。使攝君事。竝如字。或讀連上奉字爲句、使音所吏反、非也。別於。彼列反。有渝。羊朱反。殛之。紀力反。本又作極。下是糾是殛同。卑。必爾反。本亦作俾。○今本亦俾。祚國。才故反。隕隊。于敏反。瓊。求營反。會弁。本又作璯。古外反。又戶外反。畀余。必利反。與也。賜女。音汝。麋。亡皮反。藪。素口反。盡心盡力。竝津忍反。皆從。如字。又才用反。王使。所吏反。下前使同。欲令。力呈反。穀。胡木反。縊。一賜反。一音於計反。縣絕。音玄。宛。於阮反。甯兪。羊朱反。其衷。音忠。或丁仲反。下同。誰扞。戶旦反。牧。音目。使也。所吏反。枕之。支鴆反。注同。旃。爾雅云、因章曰旃。之僑。其驕反。凱。開在反。○今本愷。馘。古獲反。爲坐。如字。或一音才臥反。長吏。丁丈反。吏卒。子忽反。刖。音月。又五割反。寘。之豉反。橐。音託。隘。於賣反。囊。乃卽反。麋。亡皮反。子適。丁歷反。諸侯見。賢遍反。之殺。音試。○今本弑。危疑。如字。一本危作佹。音九委反。鐸。待洛反。正邪。似嗟反。公說。音悅。屠。音徒。擊。古狄反。又音計。先蔑。亡結反。今復。扶又反。
經二十九年。介。音戒。黔。丘廉反。又音琴。陬。千侯反。又側留反。大倉。音泰。
傳。饋之。其媿反。芻米。初倶反。轅。音袁。濤塗。音桃。向戍。式亮反。輯。音集。又七入反。瀆。徒木反。公與。音預。重發。直用反。復來。扶又反。燕好。呼報反。注同。犧。許宜反。
經三十年。魯爲。于僞反。函。音咸。
傳。狄閒。閒厠之閒。醫衍。以善反。酖。音鴆。公爲。于僞反。注同。同好。呼報反。冶。音也。過鄭。古禾反。佚。音逸。縣城。音玄。焉用。於虔反。下焉取之同。倍鄰。蒲回反。○今本陪。共其。本亦作供。使人。所吏反。朝濟。上如字。注同。版。音板。背。音佩。封疆。居良反。伯說。音悅。反爲。于僞反。閱。音悅。熬稻。五刀反。
經三十一年。分野。扶問反。自爲。于僞反。狄難。乃旦反。顓。音專。頊。許玉反。
傳。竟界。音境。洮。吐刀反。盡曹。津忍反。樂安。音洛。軍帥。所類反。卜曰三百年。曰音越。或人實反、非也。夏后。戶雅反。下同。以閒。閒厠之閒。惡。烏路反。
經三十二年。捷。在接反。廬。力於反。帳。張亮反。
傳。交使。所吏反。窆棺。一本作塗。柩。其救反。籥。餘若反。蹇。紀輦反。孟子。本或作孟兮。壽。音授。又如字。拱。九勇反。殽。本又作崤。劉昌宗音豪。夏后。戶雅反。注同。皐。古刀反。南谷。古木反。又音欲。嶔。一音欽。本或作嵐。力含反。惡其。烏路反。爲明。于僞反。
經三十三年。同陳。直覲反。隕霜。于敏反。
傳。免冑。直救反。兜。丁侯反。鍪。亡侯反。大將。子匠反。超乘。繩證反。下及注皆同。脫易。以豉反。犒師。苦報反。行賈。音古。獻遺。唯季反。步師。步猶行也。不腆。他典反。爲從。于僞反。下爲吾子同。秣馬。音末。 穀馬也。說文作■(食偏に末)云。食馬穀也。餼牽。牲腥曰餼。牲生曰牽。原圃。布古反。其麋。亡悲反。令敝。力呈反。賄。呼罪反。審當。丁浪反。又如字。天奉。扶用反。注及下同。縱。子用反。下同。墨衰。七雷反。絰。直結反。萊。音來。嬴。音盈。三帥。所類反。注同。所妻。七計反。就戮。音六。以逞。勑領反。拘。音倶。猶卒。寸忽反。而長。丁丈反。唾。他臥反。驂。七南反。櫐。律追反。釁鼓。許覲反。不替。他計反。掩。於檢反。復伐。扶又反。箕。音基。別種。章勇反。臼季。其九反。使。所吏反。過冀。古禾反。又古臥反。饁之。字林、于劫反。鉏也。本又作鋤。仕居反。○今本亦鋤。饋。其位反。餉也。冀芮。如銳反。殛。紀力反。誅也。鯀。古本反。不共。音恭。葑。芳逢反。菲。芳匪反。將中。子匠反。覆于。芳服反。注同。髡。苦門反。屯。徒門反。夾。古洽反。一音古協反。泜。王一音徒死反。徑。音經。陳。直覲反。注同。費。芳味反。遁。徒困反。編。必連反。又布千反。倒。丁老反。祔。音附。以上。時掌反。烝。之承反。禘。大計反。


TOP

(引用文献)


江守孝三(Emori Kozo)